不動遊星の初体験を奪いたい   作:うおのめちゃん

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23話 vsラグナロク トリックスター同士の闘い

 チーム5D’sとチーム太陽との一戦は、不可能を可能にしようとするチャレンジスピリッツを宿した太陽達が《眠れる巨人ズシン》を召喚したことで大いに盛り上がった。仲間たちの思いを引き継いだ《シューティング・スター・ドラゴン》に敗北を喫した後も観客は拍手で讃えた。その心意気が、皆の心を太陽のように照らしたのだった。

 

「感動的だったな。おれ達が三幻神出した時より盛り上がったかもだ」

「余韻に浸るのもいいけど、明日会うラグナロクは本物の神の遣い手よ。神を話題に出すとめんどくさくなるわ。ぜっったい秘密結社K製の神を「我ら星界の三極神に到底及ばない紛い物のカード!」とか宣うのにブルーアイズマウンテン1杯賭けてもいいわ」

「それ、賭けになんねえからパス」

『当然、我も侮るだろうなあの傲慢な連中は!目に物見せてやれ!』

 

 テイルと綴、アスピッピはWRGPの中継を『大嵐』で視聴しながら駄弁っていた。

会場での直接観戦を避けたのは、予選で大きく目立った手前、注目を集めて面倒なことになると踏んだからだ。

 予選終了後にナスカにすぐに向かったのも、WRGP再開まで戻ってこなかったのも、全てはマスメディアの話題が自分達からチームニューワールドやラグナロクへ向かう時を狙っていたのだ。

 

「けど、目に物見せるというけれど、ただ闘うだけなら相性悪いわよアスピッピ。三極神は破壊されても復活し続けるんだもの。特に《トール》は天敵ね」

「こっからは負けたら実質詰みなんだよな。遊星達と同じ立場って考えりゃ少しは気が楽なんだが」

『ふん、そこは貴様らの腕の見せ所だろう。うまく使いこなしてみろ!』

「はいはい。じゃあ、今日の夕飯兼貢物。僕手作りのコロッケとキャベツよ」

『ありがたくいただいてやる。もぐ』

 

 狐色に揚がったカリカリの衣と、ほくほくのジャガイモと人参。とんかつソースというエッセンスを加えたそれを口に運ぶと、味の旨味が爆発した。ジャガイモの甘味にスパイシーなソースが見事にシンクロしていた。油分のくどさを軽減し、甘味を引き立てる。

 くどくなりつつある口を新鮮な野菜がさっぱりさせる。幾らでも食べられてしまいそうな美味さだ。ごちそうさま、と2人が手を合わせる。

 

『認めてやる。今日も美味だった!』

「お口にあったようで何より。それじゃ、明日の夕方に備えて今日は早めに寝ましょう」

「りょうかーい」

『何かあればつついて叩き起こしてやるから安心しろ』

 

 星々が瞬き始めたころには、万屋『大嵐』の電気は全て消えていた。

綴がベッドにもぐりこんだのを確認すると、それよりも一回り大きい身体のテイルもまたベッドに入り、彼を抱きしめるように腕を回す。

 

「……瞳を閉じな」

 

 ひそり、と甘やかすように囁かれて、言われるがままに眼を閉じた。

 テイルは綴の背に手を回すと、一定のリズムでぽん、ぽん、と触れる。母親が子供を寝かせるためのそれは、子宮の中で聞こえるリズムに似ているために安心をもたらすという。汚い物が全て身体の外に流れ出して浄化されるような感覚が、綴を穏やかな気持ちにさせていく。

 

「大丈夫さ」

 

 それはとても淡々とした響きだった。湖に広がる波紋のような密やかさで囁き、苦痛を受け止める。

 

「アリアがやらかしたせいで不安だろうが、綴は独りじゃない。おれだって、遊星達だっている」

 

 テイルは変わらず、静かな声で言葉を紡ぐ。傷を潤し、快い眠りに誘っていく。

 

「心配ねえよ。I2社に依頼してたリメイクや強化カードも届いただろ?」

「ばか。ありがとう」

 

 抗えない。綴は静かに息を吐き、目をきつく瞑ってテイルの方にゆっくりと倒れる。武骨で優しい指先に抱える痛みが吸いとられてゆくようだ。そのまま綴は眠りに落ちた。

 

 

 そして次の日。一日の終わりを知らせる赤い夕暮れと、空に浮かぶ黒々とした巨大な城アーククレイドルが奇妙なコントラストを作り出していた。それらを背にするはWRGP優勝候補でありチーム5D’sの準決勝の相手、チームラグナロクのハラルド、ドラガン、ブレイブ。対するは遊星、ジャック、クロウ。注目の対戦カードとなるチーム同士がシティの高台の公園にて相対していた。

 チーム5D’sは右腕にシグナーの証である痣を輝かせ、チームラグナロクは左目のルーン文字を宿した瞳を輝かせる。

 イリアステル打倒を掲げる者同士、力を合わせる選択も出来ただろう。だが、ドラガンは過去の八百長からジャックに対して敵愾心を抱き、ハラルドは三極神が3人を味方だと信頼していない理由として、ゼロ・リバースを引き起こしたモーメントの開発者である不動博士の息子である遊星には破滅の運命が纏わりついているから、と協力を拒否した。

 

「明日が!WRGP事実上の決勝戦だ!それに勝った者がイリアステルと闘う権利を得る!」

「俺達も負けるわけにはいかない!決着を着けよう!」

「―――待ちなさい!」

 

 シュッ、と風を切って向かい合う6人の間に投擲されるは《煌々たる逆転の女神》。

投擲された地点に中空で一回転するは3つのシルエット。

 

「新たな時代に導かれ!己の心に従い、湯上綴、華麗に登場!」

「同じく!破滅の運命を覆すため、己の欲望に従い、テイル・バウンサー、優雅に登場!」

「そして同じく!人々の可能性を示すため、己の使命に従い、謎のD・ホイーラー、洒脱に登場!」

 

 綺麗に着地すると、さらなる口上を述べる。

 

「僕達は夢見るように目覚めて、未来に手を伸ばす!」

「ヴィランのようなダークヒーロー!」

「この世に悪が蔓延る道理などない!」

 

 ヴィランだったじゃねえか、とかなんで謎のD・ホイーラーまで参加しているんだ、という突っ込みを入れる間もなく、茶番は進む。

 

「きおく、きずな、きぼうを重ねていけば!」

「ドリームイズカムトゥルー!どんないろのみらいだって描けるぜ!」

「透明めいた心に憧れるならば!」

『ツギハギの願いだろうと精々足掻いて見せろ!』

 

 アスピッピが締めると、ソリッドビジョンによる小規模な爆発が3人と1羽の背後で起きた。チーム5D’sはなにをやっているんだ……と呆れ半分、口上の意味についての興味が半分。ハラルドは興味深げに笑みを浮かべ、ブレイブは面白がっていたが、ドラガンは仏頂面のままだった。

 

「オレ達に大道芸を見せて何がしたい?悪いが、お前達のような輩の相手をしている暇はないんだ」

「待てよドラガン。こいつら、伝承用の神のカードを使ってたチームエイチクロスだぜ?なんか紅一点の代わりに青い奴とちっこい鳥がいるけどな」

『ちっこい鳥とはなんだ!我は神ぞ!』

「……力を失った地縛神を連れている理由はわからないが、君達の目的もイリアステルとの決戦か。前世の記憶を持つ湯上綴、クリアマインドの境地に達している謎のD・ホイーラー、そしてテイル―――」

 

 ハラルドがルーンの瞳によって綴を見据え目的を見透かす。だが、テイルにその瞳を向けた瞬間。余裕を湛えていたその表情に驚愕が混じる。

 

「“神”が言っている!……この男は世界を揺るがす可能性を持っている、と。だが、彼は自らの魂に封印を施している。それを暴き、正体を明らかにしなければならない」

「え?ちょっとちょっと!僕達、あなた達とデュエルしにきただけなんだけど!テイルに何があるっていうの!?」

 

 綴は困惑した。元々の目的は三極神が自分とテイルをビフレストに乗せることを拒否する可能性を無くすため、自分達に勝てないようではイリアステルに勝つことなど到底できないと挑発し、デュエルに持ち込む算段であったというのに。

 

「んん?ガキの頃からシティで暮らし始めるまでの間の記憶がすっぽ抜けてるのはそうなんだが、世界を揺るがすってのは初耳だ。しかも自分の魂に封印だあ?おいおい、よほど厄ネタが眠っているらしいな。……だが、おれは綴も謎Dもアスピッピも、チーム5D’sのみんなも仲間だと思っているぜ?」

「そうだ!テイルが何者であろうと俺達の仲間であることに変わりはない!」

「人をおちょくる時もあるけどな、デュエルしたらわかる。悪い奴じゃねえんだよ!」

「裏で動く悪癖もあるが、その目的は仲間のため!断じて世界を揺るがせるような男ではないわ!」

「彼は私の友人だ!共に運命に立ち向かうと誓った仲間だ!」

『我の使い手としては充分な素質がある。だが、強大な魂を持っているならば我が見通せぬはずがない!』

「みんな……そうよ!テイルはなにがあっても僕の味方だって約束してくれたんだから!」

 

 テイルに対する評価に反発する5人と1羽。だが、ハラルドはただ不敵に笑うのみだった。

 

「ならば真実を明らかにしよう。イリアステルも十分脅威だが、彼はそれに匹敵する。……ブレイブ、頼めるかな?」

「オレ?いいぜ、相手もトリックスターを気取ってるみたいだしな。このブレイブ様が相手になってやるぜ!」

「あんたか。ま、若干キャラ被ってるし、どっちが上か白黒つけようじゃねえか。ところでハラルドさんよ。お互いに神出すとここじゃ目立っちまうし、なんか他人に認識されない空間とか作れねえ?」

「構わないとも」

 

 ハラルドのルーンの瞳から眩い光が放たれると、高台の公園は極彩色に囲まれた広い異空間へと変化する。その中央には、天にまで伸びる巨大な樹が聳え立っていた。さまざまな木が組み合わさってできたような、一見して歪なオブジェクト。

 

「なんだこりゃあ?」

「……北欧神話に由来するユグドラシルは三つの根が幹を支える世界樹だ。だが、これはまったくの別物。しかしなんらかの機能を持ち合わせている……」

(これ、《ナチュルの神聖樹》?……バックストーリーがあった気がするけど、僕、《端末世界》で【クリフォート】や【インフェルノイド】に関係していたことしか知らないのよね。けど、この世界にあれらのカードは確認されていない。一体何なの?)

 

 ハラルドと綴が思考を巡らせる中、遊星が問いかける。

 

「大丈夫なのか?」

「この樹からは危険性は感じられない。そして、三極神が作り出した光の空間でどんな闘いをしようと、外部に影響を及ぼすことはない。存分に闘うといい」

「んじゃ、やろうじゃねえか。勝利を頂戴するのはこのオレだけどな!」

「適当に暴けるとこまで暴いてくれ。が、その後はおれが勝つけどな!」

 

 それぞれがデュエルディスクを構え、適切な距離を取る。高まる緊張感。

 

「「デュエル!!」」

 

 互いの信念を賭けた決闘が始まった。

 

「先攻は頂戴するぜ!オレのターン、ドロー!早速行かせてもらうとするか!チューナーモンスター《極星霊スヴァルトアールヴ》を召喚!」

 

 邪悪な笑みを浮かべた黒い精霊。眠っているものに悪戯を行い悪夢を見せる、質の悪い伝承を持つ。

 

「こいつをシンクロ素材とする場合、残りのシンクロ素材は手札の「極星」モンスター2体を使用する!手札のレベル4《極星霊リョースアールヴ》2体に、レベル2の《極星霊スヴァルトアールヴ》をチューニング!」

 

 黒い精霊が2つの円環へと変わると、手札から飛び出した2体の光の精霊がそこに融けこみ、8つの星となる。それを束ねるはブレイブの祝詞。

 

「星海より生まれし気まぐれなる神よ、絶対なる力を我らに示し、世界を笑え!―――シンクロ召喚!光臨せよ!《極神皇ロキ》!!」

 

 ブレイブの瞳にルーン文字が浮かび上がる。すると、空間を裂いて1体の巨人が現れる。並みのビルよりも、機皇帝よりも巨大。魔導士のような姿をした細身。蓄えた長髪と顎鬚を揺らして挑発するようにテイル達を見下ろしている。悪知恵を働かせながらも最も仲の良い《トール》を窮地から逃れさせたと逸話を持つ、北欧神話におけるトリックスター。

 

《極神皇ロキ》ATK3300

 

「でっか。けどな、いきなり3枚も使って大丈夫か?よほど残り3枚の手札に自信があるのか?永続罠でロックするか、カウンター罠で妨害するのか……」

「おっと!奇術のタネを明かそうなんてのは無粋だぜ?3枚カードを伏せて、ターンエンド!」

「そんじゃ、おれのターン、ドロー!《ロキ》を対象に《精神操作》発動。そのコントロールをもらおうか」

 

 マインドを揺らす干渉がトリックスターに及ぶ。しかし、単純な行動に引っかからないからこそトリックスターなのだ。

 

「チェーンして《デストラクト・ポーション》を発動!《ロキ》を破壊し、その攻撃力分オレのライフを回復する!」

 

 きしし、と《ロキ》が笑うと、その身を緑の粒子に変え、ブレイブにエネルギーを譲渡する。干渉は対象を失い不発となった。

 

ブレイブ:LP4000→7300

 

「ま、躱されるよなあ。そんじゃ、《カードガンナー》召喚!」

 

《カードガンナー》ATK400

 

 綴とテイルが愛用する戦車型ロボットが登場。勿論、布石を打つためのものだ。

 

「デッキトップから3枚を墓地に送って効果発動。墓地に送った枚数分攻撃力を500ポイントアップする。3枚だから1500アップだ!」

 

《カードガンナー》ATK400→1900

 

 エネルギーチャージ完了。2つの砲台に光が収束する。

 

「バトルだ!《カードガンナー》でダイレクトアタック!」

 

 小型キャタピラから放たれたレーザーがブレイブの身体を貫く。

 

ブレイブ:LP7300→5700

 

「くっ……なんてな!かすり傷だぜ!」

「ほいほい、わかってるぜ。メインフェイズ2、ライフを500払い墓地の《ヴォルカニック・バレット》の効果発動。同名カード1枚を手札に加える」

 

テイル:LP4000→3500

 

 弾丸補充。狙いは手札コスト用か、それとも……

 

「カードを2枚伏せて、《光の護封剣》発動。あんたはあんたのターンで数えて3ターンの間攻撃できない。で、エンドフェイズなんだが……」

「そう!このエンドフェイズ!破壊された《ロキ》が復活し、墓地の罠カード《デストラクト・ポーション》を手札に加えるぜ!」

 

 ぬるり、とブレイブの背後の影が大きく広がると、影の底からひょい、と顔を出して

軽やかに跳躍。再びテイルを見下ろす。ギャラリーがにわかに盛り上がる。

 

「なるほど。彼は除去を躱しつつ回復できる《デストラクト・ポーション》を繰り返し使用できるのか」

「単なる絡め手は通用せんということか」

「ブレイブは相手の裏をかくことに長けている。あのテイルという輩も不意打ちが得意なようだが、技量ではあいつの方が上だ!」

 

 賞賛の声ににっ、と笑うブレイブ。彼は上機嫌だった。

 

「3ターン攻撃できないのは面倒だが、逆に言えば守りしか固められないってことだよな!オレのターン、ドロー!……ちぇっ、《光の護封剣》をどかすカードを引けなかったぜ。カードを2枚伏せ、ターンエン―――」

「そこだぜ?《ロキ》を対象に《強制脱出装置》を発動。EXデッキにお帰り願おうか!」

「うお!そんな!《デストラクト・ポーション》は伏せたターンに使えねえ!このままじゃ折角召喚した《ロキ》があ!……ってそんなことで慌てるオレじゃないぜ!ライフを1000支払い《盗賊の七つ道具》を発動!発動された罠を解体する!」

 

ブレイブ:LP5700→4700

 

 EXITと書かれた脱出口はバラバラに分解された。《ロキ》は相変わらず笑っている。

 

「流石トレジャーハンター。罠の匂いには敏感ってワケだな」

「オレのこと調べてたのかよ。抜け目がない奴だな」

「事前調査は万屋の基本ってな。イリアステルの歴史改竄によって起きた紛争の孤児を10人くらい養っているんだろ?本当に立派だと思うぜ?あんたらの持つ使命は自分の信じる大切なものだ。決して神を従える己に酔いしれているわけじゃあないことはカードの応酬でよくわかった」

「そりゃどうも。で、そういうあんたはどうなんだ?何のために戦ってる?」

「綴や仲間、あいつらが幸せな未来を迎えるためだ。……けど、おれ自身のためってなると微妙だな。そこらへんが、魂に封印を施した理由になるんだろうな」

「なら、とっとと暴いて楽にしてやるぜ。悪い奴には見えないしな。ターンエンド!」

 

《光の護封剣》:継続残り2ターン

 

「そうしてもらえると助かる。だが、易々と負けるつもりもないんだよな!おれのターン、ドロー!ライフを500支払い、《ヴォルカニック・バレット》の効果発動。最後の同名カードを手札に加える」

 

テイル:LP3500→3000

 

 弾丸の補充後、フィールドを俯瞰する。

 

ブレイブ

LP:4700

Hand:0

Monster:《極神皇ロキ》

FieldMagic:

Magic&Trap:Set2(1枚は《デストラクト・ポーション》)

 

テイル

LP:3500

Hand:4(2枚は《ヴォルカニック・バレット》

Monster:《カードガンナー》

FieldMagic:

Magic&Trap:Set1+《光の護封剣》

 

(《デストラクト・ポーション》がめんどくさいどころじゃねえな。延々と復活される上にライフまで回復されちゃ、勝ち筋が遠のく。残りのセットが温存された《神の宣告》……の可能性もあるから賭けになるか)

 

 この間、思考は2秒。慣れたカード捌きで場に2枚出す。

 

「モンスターとカードをセットして、《カードガンナー》を守備表示に変更。攻撃力上昇効果の発動の為にデッキからカードを3枚墓地へ送って、エンドフェイズ……《デストラクト・ポーション》使うか?」

「なんか企んでるようだが、いいぜ、乗ってやる!《デストラクト・ポーション》で《ロキ》を破壊!その数値分ライフを回復し、エンドフェイズのため《ロキ》は復活!《デストラクト・ポーション》を回収するぜ!」

 

ブレイブ:LP4700→8000

 

 くくっ、と笑いながら地上と地下を移動するトリックスター。やはり、さも愉快そうに笑うことを止めない。

 

「オレのターン、ドロー!」

「ここだ!あんたの手札が2枚になったこの瞬間、速攻魔法《手札断殺》をリバース!お互いに手札を2枚墓地に送り、2枚ドローする!」

「なるほどな。狙いは《デストラクト・ポーション》を捨てさせることと、手札で腐っている《ヴォルカニック・バレット》を墓地に送ることか、チェーンはないさ。そのまま手札交換と行こうか!」

 

 互いにカードを引き抜く。ブレイブは笑った。テイルは表情を変えない。

 

「カードを2枚伏せ、ターンエンドだ!」

 

《光の護封剣》:継続残り1ターン

 

「おれのターン、ドロー!デッキからカードを3枚墓地に送り《カードガンナー》の効果発動。攻撃力が1500アップする。んで、今墓地に送られた《ダンディライオン》の効果発動!「綿毛トークン」2体を特殊召喚」

 

 しかめっ面と笑顔の2体の綿毛が風に揺れる。

 

「「綿毛トークン」2体と墓地の《ダンディライオン》を除外!《The アトモスフィア》を特殊召喚!」

 

現れ出でるは鎧を纏った、空間を司る鳥。美しい羽根を広げ、神聖な声で嘶いた。

 

「《The アトモスフィア》の効果発動!相手フィールドの表側表示モンスター1体を対象にして吸収!そして、そのモンスターの攻撃力を自身の攻撃力に加算する!もちろん、吸収するのは《ロキ》だ!」

「オレ達が「機皇帝」のような吸収効果を持つモンスターの対策をしていないわけがないだろ!永続罠《極星宝スヴァリン》発動!」

 

 金色に縁どられた黒い盾。その中央に埋め込まれた赤い宝石が妖しく輝くと、空間鳥の輝きが失われる。

 

「ん?おれの知識にはねえぞ、そんなカード。エフェクト的に効果の無効化なんだろうが……」

「こいつはとっておきさ!最近になって三極神が賜ってくれたカードでな。このカードは自分フィールドに「極神」が存在する時に、1ターンに1度、相手フィールドの全ての表側表示カードの効果をターン終了時まで無効にする!」

「うえ、やりづらいな……だったら《The アトモスフィア》をリリースして《アドバンスドロー》発動。カードを2枚ドローだ」

 

 カードを引き当てた瞬間、テイルは嗤った。今までよりも獰猛に。

 

「墓地の《D-HERO ディアボリックガイ》の効果発動。このカードを除外し、同名カードをデッキから特殊召喚。そしておれは、《カードガンナー》、《ディアボリックガイ》、セットモンスターである《クリッター》を“生贄”に捧げる!」

「生贄……まさか!」

 

 時は満ちた。テイルが天に向かってカードを翳せば、異空間の天井が開いてさらなる光が差した。溢れんばかりの闘志を滾らせて、正体不明のテイル・バウンサーが“神”を喚ぶ。

 

「あんたらの神に敬意を表して、おれの空を贈ろうか。無限の空より現れ出でよ!おれの神、《オシリスの天空竜》!」

 

 すべての視線が大いなる力によって天に注がれる。鮮烈なる“赤”がそこにいた。降臨するは天そのもの。地上を這いずるいかなる生物よりも荒々しく、それでいて気高くもある存在の暴力。深紅の神龍が無限の空を支配する。

 

「ほう、伝説の三幻神の登場か」

「だが、所詮名前と姿を写し取っただけの偽物!三極神には及ばん!」

「そうだなあ。《オベリスク》以外は耐性ねえし、使い手を試しすぎる神様だ。秘密結社Kは何に恨みがあるんだか。それはそれとしてここからサプライズだ。まずは《クリッター》の効果発動。デッキから攻撃力1500以下のモンスターを手札に加える。おれが手札に加えるのは……攻撃力1000の《封印されしエクゾディア》!」

「なっ!《エクゾディア》だと!?」

「馬鹿な!《オシリス》を召喚するデッキで《エクゾディア》まで投入するなど、正気の沙汰ではない!」

「一体何を考えているんだ……!」

 

 【エクゾディア】はデュエルモンスターズ初期から存在しているデッキテーマの一つだ。手札に《封印されしエクゾディア》、《封印されし者の右足》、《封印されし者の左足》、《封印されし者の右腕》、《封印されし者の左腕》の五枚が揃った時、デュエルに勝利する効果を持つ。

 どれほど強力なモンスターが立ち塞がっていようと、問答無用で勝利する。魅力的な力を持つ反面、使用者は少ない。相手のライフを削るのではなく、ドローや墓地回収にリソースを割く都合上、尖った構築を求められる。使いこなせるものは少ない。

 だというのに、テイルは普段使いしているデッキに迷いなく【エクゾディア】を投入している。尖鋭化されていない構築では、手札事故の可能性は高まるというのに。

 

「ここに来る前にデッキを確認したときには入っていなかったんだが、《カードガンナー》で墓地に落とした時いつの間にかパーツが落ちたんだよな。これにはおれも普段の調子を保つことに必死だった。ただ、こうも考えた。魂になんか封印してるんだったら、【エクゾディア】は確かに相応しいかもな、って」

 

 テイルは考え込むように首を傾げた。驚愕するギャラリーの視線を気にせずにさらに言葉を紡ぐ。

 

「勝利を齎す効果を持っているこいつなら、おれが特別な力をちょっと持っているのもわからなくはない。《アバター》の神化とかくらいしか出来ないけど。しかしだな、こいつが世界を揺るがすってのは納得できねえ。綴から又聞きだけど、歴代の【エクゾディア】使った悪役連中って、結局大したことやれてねえんだよな。ぎりぎりアモンが危なかったくらいで。だからなんかの間違いで敵に回ったとしても杞憂に終わるんじゃねえか?」

「三極神が間違えたとでも?ありえないな」

「んー。あんたらが正しいなら、やっぱデュエルで答えを見つけねえと。さて、おれの手札は《封印されしエクゾディア》と他2枚の3枚。よって《オシリス》の攻撃力は―――」

 

《オシリスの天空竜》ATK3000

 

 攻撃力は《ロキ》に及んでいない。だが、テイル・バウンサーはそれで終わるようなデュエリストではない。ブレイブはなぜか悪寒を感じた。

 

(なんだ?なにがはじまるってんだ?)

「リバース・カード・オープン!《補充要員》!こいつは墓地に5体以上モンスターが存在する時に発動可能なカード。《カードガンナー》で散々墓地に送ったから条件は揃ってるぜ。墓地から効果モンスター以外の攻撃力1500以下のモンスターを3体まで手札に加える。おれが対象に選ぶのは、《封印されし者の右足》、《封印されし者の左足》、《封印されし者の右腕》!」

 

 テイルのデュエルディスクの墓地スペースが光り、3枚のカードが吐き出されようとする。瞬間、ブレイブは反射的に動いた。

 

「罠発動!《マインドクラッシュ》!《封印されしエクゾディア》を宣言して発動だ!宣言されたカードが相手の手札に存在する場合、相手はそれを捨てなければならない!」

「さっき《クリッター》で手札に加えたばっかだから、当然ある。仕方ねえな」

 

 墓地スペースに渋々と本体を送るテイル。ふう、とブレイブは安堵した。

 

「チェーン終了。あぶないところだったぜ」

「《補充要員》の効果でパーツを3枚手札に加える。なんか安心しているところ悪いけどな、もう1回くらいは焦ってもらおうか。墓地の《The アトモスフィア》《カードガンナー》《ヴォルカニック・バレット》2枚……そして《封印されしエクゾディア》の計5枚を対象に《貪欲な壺》発動!対象カードをデッキに戻して、新たにカードを2枚ドローする!」

「んなっ!」

「このドローで【エクゾディア】が完成するかもだ。祈ってみな」

「……生憎とあんたと違ってオレは天に祈らないのさ」

「それでもあんた達とはお友達になりたいと思ってんだけどな。いくぜ、ドロー!」

 

 運命の瞬間。ブレイブも観戦者達も固唾を飲んだ。

 テイルは勢いよく引き抜かれたカードを横目で確認する。ふ、と彼は穏やかに“笑った”。

 獰猛さのないそれに、緊張を孕んだ視線が集まる。

 

「わるいな。引けなかった」

 

 ほっ、と胸を撫でおろしたかのような心地が異空間に広がった。

 

「これで手札はエクゾディアパーツ3枚……じゃなくて実は《左腕》もあるから4枚で、他2枚を加えた6枚。で、ライフを500払って《ヴォルカニック・バレット》の効果発動。同名カードを手札に加えて7枚」

 

テイル:LP3000→2500

 

 それも束の間。テイルは行動を止めない。徐々に緊迫した空気が戻ってくる。

 

「《サンダー・ドラゴン》の効果で自身を捨て、新たに同名カードを2枚手札に加える。これで8枚。こっからは賭けだな。《手札抹殺》を発動!おれは手札を7枚捨て、7枚ドローする!」

「あの男、【エクゾディア】での勝ちを捨てる気か!?」

「ドラガン、それはどうかしらね。【エクゾディア】がテイルを選んでいるのなら、まだ道筋は残っているかもしれないわ」

 

 一気に7枚もの手札交換を行ったテイル。残りデッキ枚数は半分以下になっていた。

 

「2枚目の《ヴォルカニック・バレット》の効果で最後の《ヴォルカニック・バレット》を手札に。これでまた8枚だなあ。《闇の量産工場》を2枚発動。墓地の通常モンスターを2体墓地から手札に加える。エクゾディアパーツを4枚回収。これで10枚になった」

 

テイル:LP2500→2000

 

「……さっきから手札枚数を気にしてどうしたんだよ?《オシリス》の攻撃力は10000になったが、オレのライフを削り切るにはまだ足りないぜ?」

 

 エクゾディアパーツを回収されて敗北するかと思いきや、本体は手札に来ていない。まだ自分の勝ちの可能性はあると信じているブレイブ。否、信じたかった。

 

「いや?これで終わりだぜ?《進化する人類》を《オシリス》に装備。おれのライフがあんたより少ないから、《オシリス》の元々の攻撃力は2400になる。で、自身の能力でおれの手札9枚分攻撃力が上がるから、攻撃力は―――」

 

《オシリスの天空竜》ATK11400

 

「おいおい、マジかよ!」

「あんたのライフは8000。《ロキ》の攻撃力は3300。足りちまってるなあ?」

「テイル・バウンサー……彼は世界を揺るがす力ではなく自身の力で我々を超えようというのか!」

 

 ハラルドがテイルに対する評価を改めんとする中で、その渦中のテイルは悩んでいた。

 

(手札は《ヴォルカニック・バレット》、エクゾディアパーツ4枚、《死者蘇生》、《ダーク・バースト》、《蘇りし天空神》と“これ”で9枚。フィールドには《オシリス》と《進化する人類》、《光の護封剣》。……召喚条件揃っちまってるけど、出すとブレイブのライフ削れねえし放置でいいかこれ?後で綴に聞くのもいいが、アリアのこともあんのにまた負担かけちまう。……とりあえず勝ってからだな)

 

 空の赤に深みが増した。天の権化たる《オシリス》は雷を支配する。《ハモン》よりも、《トール》よりも!

 深紅の神龍が顎を開き、第一の口に充填される雷が抗う者を焼き尽くさんとする。

 神話のトリックスターもまた、右手の人差し指と親指を立て拳銃のように構える。

 

「バトルだ!《オシリスの天空竜》の攻撃!『超電導波サンダーフォース』ッ!!」

「くっ……迎え撃て《極神皇ロキ》!『ヴァニティ・バレット』ッ!!」

 

 三幻神vs三極神。熾烈なる決戦が始まった。だが、いまや異空間の空全てを赤く染めうる龍の雷に、銃弾が敵うはずもない。轟雷が、全てを、焼き尽くす!

 

「うわぁああああッ!!」

 

ブレイブ:LP8000→0

 

 黒煙が晴れた後、ブレイブは大の字になって寝そべっていた。気絶しているわけではない。傷がついているわけでもない。ただ、敗北の悔しさが身体を起こす気にさせなかった。

 ドラガンが駆け寄り、ハラルドが優雅な足取りで近づく。

 

「大丈夫か!?」

「外傷はない。だが、純粋な闘いで負けたことがたまらないのだろう」

「ああ、そうさ。あいつに勝利を頂戴されちまったことがすげえ悔しい。どうするんだ、これから?」

「それについてなんだけどさ」

 

 テイルがいつの間にかブレイブのそばにいた。そして彼に手を差し伸べた。

 

「まずはいいデュエルが出来たことに感謝するぜ。あんたはどうだった?」

「ああ、オレともあろうものが、すっかりあんたのペースにはまっちまったぜ。いい勉強になったよ。ありがとな」

 

 がっちりと握手を交わす。絆が芽生えた瞬間だった。

 

「とりあえず、おれに世界を害する意思はない。三極神の皆様につきましてはどうお考えで?」

「……ふむ。君が最後に《手札抹殺》で引き当てたカードを見せてくれないか」

「あ、やっぱバレてる?どれどれ、と……いねえ。逃げやがったあいつ!」

 

 デッキ全てを広げ、ポケットや袖、ジャケットの表裏に至るまで開けっぴろげにしたものの、“アレ”はいなかった。

 

「下着の中に隠してるとかはねえからな。そんくらいはルーンの瞳でわかるだろ?」

「なるほど。再び君の中に封じ込められたというわけか。もし、最後にあのカードを出していれば、三極神は君を許しはしなかっただろう」

「おいハラルド、一体何の話をしている?」

「そうだぜ。【エクゾディア】がテイルの秘密じゃなかったのかよ?」

「「「「「どういうこと/だ?」」」」」

 

 チーム5D’s、綴、謎のD・ホイーラーも話に加わってきた。賑やかになってきたな。

 

「彼が封じているものは、【エクゾディア】を隠れ蓑にして潜んでいたというわけだ。そして、我々を利用して自分を認識させようとしていた。本来ならば、この歴史、この時間に存在しなかったがゆえに」

「ますます意味がわかんねえぞ……」

「……つまりこういうこと?そのカードは場に出ることによって世界になんらかの悪影響を及ぼす。だけど、存在することが何らかの法則により禁じられているから、特殊な力を持ったテイルとあなた達を利用して無理矢理認識させることで、この世界に存在できるよう法則を書き換えようとした……?」

「理解が早くて助かるよ。流石は“外の世界”からの観測者。前世も男性だったことには驚いたがね」

 

 え?と固まるハラルドとテイル以外の7人。羞恥で顔を赤くする綴。

 

「あなた、ちょっとどころじゃなくデリカシーないわよ!折角かわいく生まれたんだから可愛さとサディズムを探求したっていいじゃない!」

「本命の遊星には奥手な癖に何言ってんだよ。おれとはくっついて寝てるのに」

 

 さらなる暴露。いたたまれない気分だったが、逃げるわけにはいかなかった。

 

「テイル!もう!とにかく大丈夫なんでしょうね!?そのカードとやらは!」

「なんか専用構築必要っぽいし、出す理由がねえなあ」

「と、まあテイル・バウンサーの問題についてはまだ様子見できる状態ではあるが……湯上綴、そして謎のD・ホイーラー。我々にまだ用事があるのだろう?」

「ええ。ドラガン、そしてジャック!僕達とタッグデュエルしなさい!」

『我の舞台に躍り出る栄誉を与えてやろう!』

「なに!?」

「なんだと!?」

 

 再びの波乱の予感。黄昏はまだ沈まない。




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※“アレ”
《■■■ ■■■■■■》

危険物どころではない存在。“この世界”におけるキーカード。
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