WRGP準決勝にて、凄まじい接戦の末にチームラグナロクに勝利したチーム5D’sは明日の決勝戦に備え、ポッポタイムで朝から忙しなく動いていた。
遊星とブルーノは作業デスクでDホイールのエンジン出力調整のためのプログラミング、ジャックとクロウはテーブルでチームニューワールドの使用カードへの対策をデッキに投入しては初期手札5枚を確認し、枚数の調整を。アキと龍亞、龍可は各々で備品の確認やタイムキーパーとしてマネジメントを行なっている。
そんな中、換気のために開けていたガレージの扉からのぞき込む影が二つ。勿論綴とテイルだ。綴の手提げ袋にはカップ麺を複数詰め込まれており、テイルはどうやって持ってきたのかホワイトボードを端から引っ張ってきている。
「忙しい中ごめんなさいね。おしるこヌードル差し入れに来たわ」
「それと今日が決戦前最後の夜になるかもしんねえから作戦会議な。優勝してもすぐにアーククレイドルが落ちてくるのは聞いただろ?だから長話できるのはこのタイミングしかねえし」
「……話を聞いてやろう。入れ」
「カーリーさんいないわよね?アスピッピも出番来たら出すけど平気?」
「構わん。あいつは仕事中だ。ここに来るなら夜だろう」
「おーけー。そんじゃ、失礼します、っと」
ジャックに促されガレージに入り込む二人。遊星が首を傾げた。
「あの男はいないのか?」
「謎D?別の予定があるから今日は来れないの」
こっそりブルーノに後ろ手でVサインを送ると、同じくこっそりVサインで返してくれた。仲間意識が芽生えている。
「ま、話した内容は共有するから安心してくれ。そんじゃ、早速本題に移るぜ?」
がらがら、とガレージの中心にホワイトボードを動かし固定すると、ボードマーカーで枠の上部に太く『知っ得!敵情報!アクセルシンクロとバーニングソウル以外の力をつけよう!』と書き記した。
「……あれ?敵の情報は潜入捜査……じゃなくてなんだっけ?」
「先入観よ、龍亞。前もって知っている情報に囚われて、考え方が固まってしまうことよ」
「あなた達はその先入観を入れないために敵の情報を口にしなかったって聞いたわ」
「なのに、この忙しい時に伝えてくるってのはどういうつもりだよ?」
4人が一斉に疑問を呈する。綴は俯いて沈黙し、テイルはあっけらかんと重要な事実を伝えた。
「だって、おれも敵に回る可能性がでてきちまったから」
「……は?」
「……え?」
それを口にしたのは誰だったか。困惑が広がる中テイルはさらに説明を始める。
「おれの魂の中によくないものが封印されているのは知っているな?ブレイブとデュエルした時に手札に来て効果を知ったんだが、場と手札の10種類のカードをデッキに戻すことで特殊召喚可能であり、特殊召喚成功時にお互いの場と手札、墓地のカードを問答無用で全てデッキに戻す……要するにリセットだ。まあろくでもないバックストーリーがあるんだろって綴に話した」
「テイルの中にいるのは《創星神 tierra》。僕もあまり詳しくはないんだけど……《端末世界》っていうシミュレート世界における神で、英語名を訳すると「破壊の根源」なのよ」
「「破壊の根源」……だって?」
「遊星とブルーノは「tierra」って単語に詳しいんじゃねえかな。コンピュータ上で動く人工生命プログラムなんだが……」
会話のバトンが投げられる。遊星とブルーノは丁寧にそれを受け取った。
「ああ、確か限られた資源の中で生物が繁殖と淘汰を繰り返し進化する様子をコンピュータ上で再現し、製作者の予想だにしなかった「生物」を次々と生み出したんだったな」
「それに、古い生物の強制排除を行う『死神』の役割を果たすプログラムが内包されるって……待って、まさか!」
「イリアステルは僕達に可能性があると言った。僕は未来の知識を有するからだと思うけど、テイルに関しては人間を犠牲にする方向での可能性って意味かもしれないの……」
「古い生物ってのが、未来人から見た過去の人間……って可能性もあるし、そも、「創星神」なんて名乗ってんだから、“この世界”という箱庭を管理する機構として利用する気もあるのかもしれねえな?なにせ、綴を輪廻転生させたのがその《tierra》なんだ。なんでもできるだろうよ」
綴は顔を曇らせているのに、テイルはいつも通りの、余裕を湛えた笑顔だった。
スケールの大きい話を並べたてられた困惑よりも、不気味さに悪寒を感じる方が先だった。
「ね、ねえ!その《tierra》って悪い奴をテイルから追い出すことは出来ないの?」
「その件に関して、ハラルドと話したんだけどね……【エクゾディア】とかで無茶苦茶に封印を施されているうえ、融合された魂を無理矢理分割している状態だから難しいって……しかも、テイルを殺したとしても逃亡して新しい依り代を見つけて、活動する可能性があるから下手に刺激は出来ないのよ」
「け、けどテイルさんはわたし達の敵になるつもりはないでしょ?」
「龍可ちゃん、ここでいやな情報だ。イリアステルは記憶をプログラムデータに変換することができる。んでもって、おれはガキの頃に母親が亡くなった時から、この街で万屋を始めた時までの記憶がない。この記憶喪失がイリアステルによるものか、はたまた《tierra》によるものかはまだわかんねえが、その記憶を取り戻した時、おれが“テイル・バウンサー”であることを選択できるかは、その時になるまでやっぱりわかんねえ」
記憶喪失。自分に関連するワードにブルーノがたまらず言及する。
「じゃあ、ボクの記憶喪失も……」
「あなたは、なにがあっても自分の選択を尊重しなさい。《tierra》なんて爆弾を抱えていないし、自由に選択できる余地はあるんだから」
「ああ、先に言っておくとおれが最終決戦にいかない選択はねえぞ。街に残っても記憶を取り戻したおれが《tierra》を使ってなにするか予想もつかないだろ?アーククレイドルの降下で混乱した街にさらなる混沌を齎さないとも限らない。なにせ、《tierra》はプログラムが元ネタなんで、治安維持局のシステムを荒らすのも容易いはずだ。ラグナロクがいるから安心かというと、おれはブレイブを倒した実績があるからそんなことはない。んなことになるくらいなら、あんたらの元にいた方が安全だよな?と言っても……」
テイルがチーム5D’sを見渡す。
「アキさん、クロウは二人がかりで綴に負けてるし、龍亞くん、龍可ちゃんはアリアにこっぴどくやられた。ここらでテコ入れしないと最終決戦で敗北濃厚だ。てなわけで……アスピッピ!」
『くくっ!まずは貴様らを我の領域に招待してやろう!』
突如ガレージの中央に立ち上った紫の炎が輪となって、綴とテイル、アキとクロウ、ホワイトボードを囲む。
「これは、ダークシグナーの……どういうつもり!」
「何考えてんだ!?」
「……またネタバレするけど、僕が観測した未来ではアキさんとクロウはシェリーと闘うことになっているわ」
「だが、アリアがシェリーと組む可能性が高い以上、勝率はダダ下がりになる。シェリーは間違いなくやっばい《バロネス》出すし」
「それはどのような効果を持つモンスターなんだ?」
「正式名称は《フルール・ド・バロネス》。1ターンに1度、フィールドのカード1枚を破壊する効果に加えて、フィールドに存在する限り1度だけ、カードの発動を無効にし、破壊する効果を持っているシンクロモンスターよ。さらに、自身をEXデッキに戻して自分の墓地のモンスターを復活させる能力もある」
綴がホワイトボードに《フルール・ド・バロネス》のイラストを描く。どや顔をした馬に騎乗した高潔な女騎士。効果とステータスも赤いマーカーで記述されていく。
そして、一旦用が済んだとばかりに炎の輪の外へ押し出されるホワイトボード。
「そんなインチキカードで妨害してきて、豪快なアリアの戦術を通してくるってのがおれ達の予想。さあて赤き竜さんよ、相手が本来の歴史にはなかったカードを使ってくるんだ。あんたの大切なシグナーもそれ相応のカードを持っておかないと……死ぬぜ?」
『こやつらの命が惜しければ、強化させるのだな!』
アスピッピが挑発すると、クオーン、と赤き竜の声が聞こえ、シグナーと龍亞のデッキが光る。
「こいつは……?」
「《エンシェント・フェアリー》が言ってる……これは覚醒の為の種。芽生えさせるには相応の実力者と闘う必要があるって」
「……よし、なら遠慮なくやらせてもらうわ!」
「おーう、どっからでもかかってこい。フィールドはいつもと同じように全員で1個ずつ。最初のターンは全員攻撃できない。ただし今回はライフは別個で4000だ。一人脱落すれば巻き返しが難しいルール。あいつならそうする。おーけー?」
「いいぜ!この勝負受けてやる!」
「……ごめんね。ありがとう。さあ、はじめるわよ!」
4人がデュエルディスクを構える。余計な言葉はいらなかった。
「「「「デュエルッ!!」」
ターンランプがついたのは綴。先攻は彼だ。
「僕のターン、ドロー!まずは《闇の誘惑》を発動。デッキからカードを2枚ドローし、闇属性カードを1枚除外する。僕が除外するのは《地縛神 Chacu Challhua》!」
「狙いは地縛神の帰還ね……!!」
「さらに僕はフィールド魔法《神縛りの塚》を発動!このカードが存在する限り、フィールドのレベル10以上のモンスターは効果で破壊されず、対象にならない!」
土を小高く盛った墓の巨大な柱が3本せり上がる。柱の先には鎖が装着されていた。
「そして、手札を1枚捨て、《D・D・R》を発動!除外されている自分のモンスターを攻撃表示で特殊召喚する!おいで、《地縛神 Chacu Challhua》!」
次元の裂け目より小さなシルエットが這い上がり、本来であれば超弩級の鯱がちまっ、と場の中心に浮上する。アスピッピに合わせたのか、その身体は掌サイズだった。だが、小鯱が浮上した瞬間、ガレージ一帯を覆いつくすほどの波紋が広がった。
《地縛神 Chacu Challhua》ATK2900/DEF2400
「か、かわいい……?」
「見た目に騙されんな!来るぞ!」
「《地縛神 Chacu Challhua》の効果発動!1ターンに1度、相手ライフにこのカードの守備力の半分のダメージを与える!僕がダメージを与えるのはクロウ!『ダーク・ダイブ・アタック』ッ!」
小鯱がガレージの石畳を透過し地中へ潜る。
背ビレ一つを地表に突き出し、大地を泳ぐ。小さな体がそれだけで大波のような衝撃波が巻き起こす。防御不能。回避不可。黒い衝撃波がクロウを襲う。
「くうぅぅううッ!」
クロウ:LP4000→2800
一瞬、膝をつくクロウ。チーム5D’sに動揺が走る。
「ダメージが現実のものとなっているというのか!?」
「安心しろよ。軽く痛むだけで済むぜ。赤き竜がにらみをきかせてんのに、アスピッピが大したこと出来るわけないだろ。ま、緊張感を持たせるもんだと思えばいい」
「へっ、その通りだぜみんな。ちょっと驚いたが、こんなもん蚊に刺された程度だぜ!」
「このくらいで驚いちゃだめよ。最終決戦はもっと過酷なんだから。《ライオウ》を通常召喚!」
近代化された土偶と言っていいだろうか。焼土の代わりに鉄鋼を、呪力の代わりに電力を使った祭具。変わらぬ鉄仮面で加速するデュエルを咎める。
「このカードが表側表示で存在する限り、ドロー以外の方法でカードを手札に加えることは出来ない。《フィールドバリア》を発動し、カードを1枚伏せてターンエンド!」
「クロウ、今回も私が先に行くわ。《ライオウ》を処理しないとあなたの持ち味が生かせないもの。私のターン、ドロー!《ローンファイア・ブロッサム》を召喚!」
突然、地面から黄土色のツタが伸びてくる。そしてその先端に現れたツタよりも色の薄い実は丸く膨らみ、その頂点からは火花が迸っている。それはまさしく爆弾のような実であった。
「《ローンファイア・ブロッサム》の効果発動。植物族モンスターである自身をリリースしてデッキから植物族モンスターを1体特殊召喚する!来て、《ギガプラント》!」
爆弾状の実が弾け爆発し灰が地面に飛び散る。すると、地面から蔓の触手を複数生やした巨大な植物が生えてきた。赤い蕾状の頭部には2対の眼が備わっており、鋭い牙の生えた口からは涎が出ている。
「デュアルモンスターである《ギガプラント》に《スーペルヴィス》を装備!これにより、《ギガプラント》は再度召喚した状態となり、効果を得る!私は墓地の植物族モンスター《ローンファイア・ブロッサム》を特殊召喚!」
《ギガプラント》の蔦が地中に突き刺さり脈動する。栄養を送られた地中が活気づき、再び爆弾のような実が姿を現す。
「再び《ローンファイア・ブロッサム》の効果発動!自身をリリースし、デッキから《姫葵マリーナ》を特殊召喚!」
巨大な向日葵が花開き、姿を現したのは褐色に日焼けした女性の上半身。向日葵の花弁で彩られた冠を揺らしながら活発そうな笑みを浮かべる。
「植物族である《ギガプラント》を対象に《フレグランス・ストーム》発動!対象モンスターを破壊し、デッキからカードを1枚ドローする!そして、《姫葵マリーナ》の効果と《スーペルヴィス》の効果が発動!まずは《スーペルヴィス》の効果によって墓地の通常モンスター扱いの《ギガプラント》を復活させる!」
嵐によってその身を散らした巨大植物が再度蘇った。
「そして、《マリーナ》の効果!植物族モンスターが破壊され墓地に送られた場合、相手フィールドのカード1枚を対象をとらずに破壊する!」
「チェーンはないわ?どうぞ」
「なら、《ライオウ》を破壊するわ!」
向日葵の花吹雪が雷の土偶に襲いかかる。何も発動されることはなく、引き裂かれ砕け散る《ライオウ》。
「よし……これでクロウに後は託せる。カードを2枚伏せ、ターンエン―――」
「このエンドフェイズに永続罠《心鎮壺》を発動。このカードが場に在る限り、アキさんが今セットした伏せカード2枚は発動することができないわ」
「!……改めて、ターンエンドよ」
「さあて、おれのターンだ。ドロー!」
渦中の人物たるテイルがカードを引く。その動向に、ギャラリーの視線が集まる。
「手札から《おろかな埋葬》を発動。デッキから《オシリスの天空竜》を墓地へ送る」
「神を墓地に送るだって!?」
「狙いは墓地からの復活か……」
「慌てない騒がない。大体、《オシリス》は特殊召喚したターンのエンドフェイズに墓地に送られるんだからそこまで怖くねえって。さらにおれは《終末の騎士》を召喚。召喚時の効果で、デッキから闇属性モンスターであるアスピッピこと、《地縛神 Aslla piscu》を墓地に送る」
寂びれた格好の騎士の登場と共に、異なる神が丁寧に埋葬される。
「カードを4枚伏せ、ターンエンド!」
綴とテイル、両者共に手札0の状態でターンが譲渡される。
「やっとオレのターンだぜ、ドロー!手札から《BF-幻耀のスズリ》を召喚!」
クロウの先鋒を務めるは、青を基調とした鳥人。
「《BF-幻耀のスズリ》が召喚に成功した時、デッキから「ブラックフェザー・ドラゴン」のカード名が記されたカード1枚を手札に加える!オレは―――」
「その効果にチェーンしてリバース・カード・オープンだ!《蘇りし天空神》!おれの墓地から《オシリスの天空竜》を復活させる!」
「な!?このタイミングで神を復活させるだと!?」
ガレージの天井が鮮烈な赤で染まった。深紅の神竜ここに在り。荒々しくも気高い、存在の暴力の降臨。若干、狭苦しそうにしている。
「だけど、あなたの手札は0。《オシリス》は手札枚数によって攻撃力が決まるモンスター。今の攻撃力は0よ!」
「ところがどっこい。《蘇りし天空神》の効果には続きがある。お互いに手札が6枚になるようにドローする。おれたちは手札が0枚だから6枚ドロー。アキさんは2枚だから4枚。で、クロウは5枚だから1枚だけだ。ハンドアドバンテージ、回復させてもらったぜ?そして《オシリス》の攻撃力は6000となる!」
「インチキ効果じゃねえか!」
《オシリスの天空竜》ATK6000
無限に広がる空の如く、神竜の存在感は圧倒的だった。さらにクロウ達にとってみれば、一気に計12枚ものアドバンテージを確保されたのだからたまったものではない。
「くそっ、その効果の解決後、おれは《BF-無頼のヴァータ》を手札に加える!そして、同名カード以外の「BF」モンスターが存在することでチューナーモンスター《BF-無頼のヴァータ》は特殊召喚できる!当然、《オシリス》がいるから守備表示だ!」
不良学生を思わせる格好をした小さな鳥人が登場。ここでテイルのデュエリストの勘が発揮されたのか、リバースカードが発動される。
「《ブラックフェザー・ドラゴン》の名が記されてるってことはそいつを呼べる可能性があるなあ。だったらここだ。《終末の騎士》をリリースして《ナイトメア・デーモンズ》を発動!クロウの場に3体の「ナイトメア・デーモン・トークン」を攻撃表示で特殊召喚するぜ!」
騎士の姿が消え、代わりにクロウのフィールドに黒い妖精が3体、踊りながら登場。テイルのささやかな悪意が妖しく嗤う。
「ナイトメア・デーモン・トークン」ATK2000
「このタイミングでの発動……そうか!」
ジャックがテイルの狙いに気付く。同じく《ナイトメア・デーモンズ》を使用する者であるがゆえに。
「モンスターが攻撃表示で特殊召喚されたことでオシリスの効果が発動。そのモンスターの攻撃力を2000ダウンさせ、この効果で攻撃力が0になった場合破壊する。そのトークン共の攻撃力は丁度2000。さあ《オシリス》、『召雷弾』をぶっぱなせ!」
並みいる妖精達に雷の弾が炸裂。大きな爆発が四方を荒らし、黒い焦げ跡が残る。
「そして、「ナイトメア・デーモン・トークン」は破壊された時コントローラーに800ポイントのダメージを与える。それが3体分だ。2400ポイントのダメージを受けな!」
「クロウ!」
撃ち抜かれた妖精達は嘲笑を浮かべながら爆発四散。おぞましきコンボがクロウを襲う。
「ぐぁあああ!」
クロウ:LP2800→400
「この形式のタッグデュエルでは集中攻撃を受けることを念頭に入れなさい。そして、最後にターンを迎えるプレイヤーは最初のターンだからといって、効果ダメージで何もさせずに終わらされる危険性もあるということもね」
「ま、ちょい足りなかったがな。さあて、どう立ち向かう?」
「へ、ライフなんざな、0にならなけりゃ安いもんだぜ!《BF-無頼のヴァータ》の効果発動!レベルの合計が8になるように、このカードとデッキの「BF」1体以上を墓地に送り、《ブラックフェザー・ドラゴン》をEXデッキから特殊召喚する!オレはレベル2の《無頼のヴァータ》とレベル6の《刻夜のゾンダ》を墓地に送る!舞い上がれ!《ブラックフェザー・ドラゴン》ッ!!」
現れ出でるは黒い羽毛と白い羽を持った怪鳥の様な竜。六本ある脚は鉤爪その物の様であり、長い尾羽が優雅に靡いている。
《ブラックフェザー・ドラゴン》ATK2800/DEF1600(守備表示)
「クロウ、今まで墓地から罠とかシンクロ召喚とかしてたけど、今度はデッキからシンクロ召喚しちゃったよ!?」
「すごい……けど龍亞、あれは厳密にはシンクロ召喚扱いじゃないから気を付けるんだよ」
「正規の特殊召喚じゃないから、蘇生が出来ないのは覚えているわよね?」
「え?えっと……うん、覚えてるってば!」
「覚えてねえのがまるわかりだぜ龍亞くん。んで?効果ダメージへの耐性以外に取り柄がないそいつで何をするんだ?」
テイルが煽る。だが、クロウは不敵に笑った。
「まだまだ!「BF」の可能性はこんなもんじゃないぜ!墓地の《刻夜のゾンダ》を除外して効果発動!デッキからレベル5以上の「BF」を特殊召喚する!来い!《BF-毒風のシムーン》!」
墓地に送られていた赤き鳥人が槍を掲げると、同胞が呼び出された。その名の通り毒々しい色をしたヤンキーのような鳥人だ。
「この効果で特殊召喚した後、オレはそのモンスターの攻撃力分のダメージを受ける……だが、《ブラックフェザー・ドラゴン》の効果発動!『ダメージ・ドレイン』ッ!!」
本来主が受けるはずの痛みを肩代わりする効果。自身の羽の一部を黒く染め上げ、赤く光らせる。
「お前らも知っての通り、《ブラックフェザー・ドラゴン》はカードの効果によってダメージを受ける場合、代わりにこのカードに黒羽カウンターを1つ置く!そしてこのカードの攻撃力は黒羽カウンター1つにつき700ポイントダウンする!」
《ブラックフェザー・ドラゴン》ATK2800→2100
「なるほどね?《ブラックフェザー・ドラゴン》の効果を利用して展開する……それが新たな「BF」の戦法」
「まだ止まらないぜ!《毒風のシムーン》をリリースして《幻耀のスズリ》のもう一つの効果発動だ!チューナーの「幻耀トークン」を守備表示で特殊召喚する!」
《シムーン》がにっ、と笑って光の粒子に変わると、新たに生み出されるは青き鳥人の分身。
「その後、オレは700ポイントのダメージを受けるが……また頼むぜ、《ブラックフェザー・ドラゴン》!『ダメージ・ドレイン』ッ!」
《ブラックフェザー・ドラゴン》ATK2100→1400
再び黒く染まる翼。だが、その姿は痛々しいものではなく、むしろ誇り高いものだった。
「ここからだ!レベル4の《幻耀のスズリ》にレベル2の「幻耀トークン」をチューニング!」
《スズリ》がその身体を羽搏きで浮かせ、大きく飛び上がる。はらはらと舞い散る青い羽根。4つの光の星となったそれは、トークンが生み出した2つの輪に融けていく。
「黒き烈風よ、吹き上がり遥かな空へと導く力となれ!―――シンクロ召喚!舞い降りろ!シンクロチューナー《BF-魔風のボレアース》ッ!!」
途端に溢れ返る光が渦巻き、その内から出現するは漆黒の鎧を纏った、鎖鎌を携えた武者。
黒い双翼が広がれば、羽根と共に新風が渦巻いた。
「シンクロチューナー!これって、遊星の《フォーミュラ・シンクロン》と同じ……」
「だけど、クロウはアクセルシンクロの境地には辿り着いていないはずだよ。おそらく、また別の可能性を見せてくれるはず……」
「《BF-魔風のボレアース》がシンクロ召喚に成功したことで効果発動!デッキから「BF」モンスターを墓地へ送り、そのモンスターと同じレベルになる!オレが墓地に送るのはレベル2の《BF-下弦のサルンガ》!」
武者が鎖鎌をデッキに投擲すると、そこから炎の点いた王冠を頂いた緋色の鳥が引っ張りだされた。
「自分フィールドに「BF」シンクロモンスターが存在することで、墓地の《下弦のサルンガ》を除外して効果発動!相手フィールドのカード1枚を対象にとり、破壊する!綴の《フィールドバリア》を破壊!」
《神縛りの塚》を取り囲んでいた障壁が、炎を纏った風により塵となった。綴が先の展開を読み、危惧する。
「このカードが狙われたってことは……」
「そうだ!《サイクロン》を発動!《神縛りの塚》を破壊する!」
決闘場を包みこんでいた3本の塚が強風により切り裂かれる。そして……
「うっ……フィールド魔法が存在しない場合、「地縛神」は破壊される。ごめんね、《Chacu Challhua》」
小鯱がとぷん、と石畳の中に融けるようにして消えていく。しかし、塚が破壊されたことによって起こりうる事象はそれだけではない。
「《神縛りの塚》が効果で破壊され墓地に送られたことで効果発動よ!デッキから神属性モンスターである《ラーの翼神竜》を手札に加えるわ」
「おっと、神を手札に加えさせちまったか。だが、これで耐性は消えた!《オシリス》を対象に《ブラックフェザー・ドラゴン》の効果発動!このカードに乗っている黒羽カウンターを全て取り除く事で、相手モンスター1体の攻撃力を取り除いた黒羽カウンター1つにつき700ポイントダウンし、ダウンした数値分のダメージを相手に与える!『ブラック・オーブ・バースト』ッ!
《ブラックフェザー・ドラゴン》が吸収したダメージを脚部に集中させると、それを一気に解き放つ。天空に座するオシリスへと。守りを失くした神龍はエネルギーをもろに喰らい、主たるテイルもその衝撃を受ける。
「くぁああ!」
《オシリスの天空竜》ATK6000→4600
テイル:LP4000→2600
「オレの新たな力はこんなものじゃすまねえ!レベル8の《ブラックフェザー・ドラゴン》に、レベル2となった《BF-魔風のボレアース》をチューニング!」
武者が2つの光輪を形作り、その中に飛び込んだ《ブラックフェザー・ドラゴン》は上空に駆けあがっていく。
「黒き旋風よ!猛き嵐となって天空を突き破れ!―――シンクロ召喚!吹き荒れろ、《BF-フルアーマード・ウィング》ッ!!」
頭部から薄紫の長髪を伸ばし、漆黒の鎧を身に纏う《BF-アーマード・ウィング》の進化形態たる鳥獣戦士。拳をメインに闘っていた時とは異なり、右手には剣を、左腕は銃を携えた完全武装。黒い双翼が広がれば、一面モノアイで覆われた仮面が一際大きく発光した。
《BF-フルアーマード・ウィング》ATK3000
「おお、かっこいいじゃねえか。だが、攻撃表示なら《オシリス》の効果が起動するぜ?『召雷弾』ッ!!」
《オシリス》第二の口から放たれる雷は、相手の反逆の芽を踏みにじる。空から抑圧するその弾は例外なく鳥獣戦士にも炸裂した。しかし、その身体には焦げ跡すらなく、何かが掠った程度といわんばかりに左手の銃で軽く右肩を払う。
「あん?」
「《フルアーマード・ウィング》は自身以外のカードの効果を受けないぜ!そして、相手フィールドのモンスターが効果を発動する度に、そのモンスターに楔カウンターを打ち込む!」
銃から楔型の弾が放たれる。それは寸分違わず深紅の神竜の胴に突き刺さった。
「そして、《フルアーマード・ウィング》の効果発動!楔カウンターが置かれたモンスター1体を対象とし、そのコントロールを得る!」
「おいおい、無法な効果しやがって。ま、いいさ。今の《オシリス》は特殊召喚された状態。エンドフェイズに墓地に送られるからな。一旦渡してやるよ!」
《フルアーマード・ウィング》が剣を掲げると、クロウとアキを睥睨していた《オシリス》が向き直り、今度は綴とテイルを睥睨する。
「これで準備は整ったぜ!オレは墓地のシンクロチューナーである《BF-魔風のボレアース》と、《ブラックフェザー・ドラゴン》を……除外する!」
「クロウの奴何を……まさか!」
どこからか流れる一筋の風。それに背中を押されるように、クロウの痣が光る。あらゆる風の流れを掴んだかのような感覚。右腕を高らかに翳し、クロウが祝詞を紡ぐ。
「黒き旋風よ!気高き誇りをその翼に顕現せよ!」
墓地から飛び上がった《ボレアース》が光輝くリングとなり、それに追随するように《ブラックフェザー・ドラゴン》が勢いよくそれに向かって飛び込んでいく。瞬間、光に包まれてなお天に向かう《ブラックフェザー・ドラゴン》。そして、眩く輝いてその姿を変える。
「解き放て!―――《ブラックフェザー・アサルト・ドラゴン》!」
漆黒の体躯はより洗練され、鋭利な爪のような脚はさらに鋭く、翼はさらに赤みを増し、雄々しさを感じさせる力強さに満ちている。全身から放たれる橙色のオーラが決闘場を満たし、甲高い声を上げてクロウの頭上に滞空した。
《ブラックフェザー・アサルト・ドラゴン》ATK3200
観戦者達が驚愕も露わに口を開く。
「墓地からの疑似的なシンクロ召喚だって!?」
「しかも、レベルの合計が一致していなくともチューナーと《ブラックフェザー・ドラゴン》の組み合わせであれば進化可能だと……!?」
「これが、クロウの新たなる可能性……」
「すごいやクロウ!」
「ええ、綺麗で、心地いい風……」
「私にも、こんな可能性が……?」
言葉少なく感嘆する彼らを見つつ、クロウがテイルと綴に拳を突き出した。
「見たか!これがクロウ様の新たな力だ!カードを3枚伏せて、エンドフェイズ!《オシリス》には退場してもらうぜ!」
天空で圧倒的存在感を放っていた赤が姿を薄くして消える。
「これでターンエンドだ!さあ、かかってこいよ!」
綴
LP:4000
Hand:7(1枚は《ラーの翼神竜》)
Monster:
FieldMagic:
Magic&Trap:《心鎮壺》
テイル
LP:2600
Hand:6
Monster:
FieldMagic:
Magic&Trap:Set2
アキ
LP:4000
Hand:6
Monster:《ギガプラント》《姫葵マリーナ》
FieldMagic:
Magic&Trap:Set2(《心鎮壺》により発動不可)
クロウ
LP:400
Hand:3
Monster:《BF-フルアーマード・ウィング》《ブラックフェザー・アサルト・ドラゴン》
FieldMagic:
Magic&Trap:Set3
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シグナーパワーアップ回。