不動遊星の初体験を奪いたい   作:うおのめちゃん

31 / 31
30話 想いは絶望を越えて

 アポリアの下を疾駆するG・ヘカトンケイルへ、A・クツァルカートルとT・666が左右から追従する。

 装甲が噛み合い、機構が組み替わり、三つの駆動音が一つへと重なる。

 やがて完成したのは、三つ首の竜を思わせる超巨大Dホイール――T・ウロボロス。

 さらにアポリアもまた両脚を揃え、脚部装甲を変形させる。背部と側面へとT・ウロボロスから展開された無数のコードが接続され、その肉体は機体と完全に一体化した。

 背には翠光を放つ機械翼が広がり、その全身は決戦形態――バトルモードへと移行する。

 

「お前達……いや、お前は一体何者なんだ!」

 

 目まぐるしく続く変貌を前に、遊星も驚愕する。

 アポリアは静かに遊星を見据えた。

 

「我が名はアポリア。絶望の番人。我ら三人は元より一つの存在。これこそが、私の本来の姿だ」

 

 未来の科学が生み出した、常識を超越する光景。

 スタジアムの観客席は騒然となり、医務室で治療を受けながら中継を見守るジャックとクロウも息を呑む。ピットでは龍亞、龍可、アキ、ブルーノが言葉を失い、ただ画面に映る異形を見つめていた。

 しかし、アポリアは自らの正体をこれ以上語る気はない。

 その瞳は、ただ一人の決闘者だけを見据える。

 

「流石だな、英雄―――不動遊星」

 

 その声音には、敵意だけではない確かな評価が滲んでいた。

 

「お前は予定通り機皇帝を倒した。これでサーキットは完成へと近づいた」

「綴が言っていた……アーククレイドル出現の布石が!」

「ふっ、あの男が情報を渡そうと、我らの計画は止められはしない。私のターン!」

 

遊星 SPC6→7

アポリア SPC7→8

 

遊星

LP:4000

SPC:8

Hand:0

Monster:《スカーレッド・ノヴァ・ドラゴン》《ブラックフェザー・ドラゴン》《シューティング・スター・ドラゴン》

FieldMagic:《スピード・ワールド2》

Magic&Trap:Set3

 

アポリア

LP:11000

SPC:8

Hand:5

Monster:《機皇兵廠オブリガード》

FieldMagic:《スピード・ワールド2》

Magic&Trap:

 

「《機皇兵廠オブリガード》の効果発動。このカードを破壊し、デッキから《オブリガード》を除く「機皇兵」モンスターを二体特殊召喚する!現れろ、《機皇兵ワイゼル・アイン》!《機皇兵スキエル・アイン》!」

 

 《オブリガード》が自壊すると、その残骸から二機の兵器が姿を現した。

 《ワイゼル》と《スキエル》を一回り小さくしたような機械兵。しかし「機皇帝」とは異なり、その胸部にシンクロモンスターを取り込む無限の機構は存在しない。

 

「さらに、墓地へ送られた《オブリガード》の効果発動。このターンのエンドフェイズに、私のフィールドの『機皇』と名の付くモンスター一体につき100ポイントのダメージを与える」

 

 フィールドに並ぶのは、《機皇兵ワイゼル・アイン》、《機皇兵スキエル・アイン》。与えるダメージは、わずか200。

 遊星は眉をひそめた。

 

(……違う。この程度のダメージが狙いじゃない)

 

 3体の竜の前にして、意味もなく盤面を広げるはずがない。

 必ず、この布陣には別の意図がある――。

 

「私はこの二体のモンスターをリリース!」

「リリース、だと!?」

 

 【機皇帝】において聞くはずのない宣言。

 低レベルモンスターを連ねる機械群。その戦術からは決して想像できない一手に、遊星の目が見開かれる。

 二体の機皇兵が光の粒子となって霧散する。その光は天へ昇ることなく一点へ収束し、巨大な影を形作っていく。

 

「しかと目に焼き付けるがいい。真の絶望を――最強の力!《機皇神マシニクル∞³》!」

 

 眩い白光を突き破り、巨神が降臨する。

 純白の装甲は神像を思わせる神々しさを纏いながら、その奥底には機械特有の冷酷さを宿していた。

 胸部には鮮血のような深紅のコアが脈動し、左右の肩と胴体には翠光のコアが生き物の血管のように明滅する。

 四肢は機皇帝を遥かに凌ぐ巨躯を支えるため重厚に造られ、その左腕には都市すら粉砕しかねない巨大な砲身が装備されている。

 神の名を冠しながら、その姿は慈悲とは無縁。

 人類へ裁きを下すためだけに造られた、白き絶望そのものだった。

 

《機皇神マシニクル∞³》ATK4000

 

「これがお前の切り札……!」

「焦るな。これで終わりだと思っているのか?私は墓地の《機皇兵廠オブリガード》、《機皇兵ワイゼル・アイン》、《機皇兵スキエル・アイン》――三種類の「機皇」モンスターを除外し、このカードを特殊召喚する!」

 

 墓地の三枚が蒼白い粒子となって天へ昇る。

 三つの光は螺旋を描きながら一つへ収束し、デュエルレーンを貫く巨大な光柱となって炸裂した。轟音。閃光。そして――それは降臨する。

 絶望が、三つ首の竜の姿をとって。

 純白の機械装甲は生物とは思えぬほど滑らかで、神話に語られる神獣のような荘厳さを帯びている。

 三つの首はそれぞれ異なる方向を見据えながら、標的を逃さぬよう無機質に首を巡らせる。その顔には感情の欠片すら宿らず、映るのはただ「排除すべき対象」という事実だけ。

 長大な胴体を覆う装甲の中心では、∞を象った巨大な機関部が脈動し、その鼓動に呼応するように蒼白い稲妻が絶え間なく迸る。

 神話の竜ではない。

 未来の絶望が生み出した、人類を誅するためだけの機械仕掛けの神龍。

 

「絶望せよ!恐怖せよ!これが驕れる人類に進化を許さぬ神の遣い――《機皇神龍トリスケリア》!!」

 

《機皇神龍トリスケリア》 ATK3000

 

 白き巨神《機皇神マシニクル∞³》、そして白き神龍《機皇神龍トリスケリア》。

 二柱の殲滅兵器が並び立った瞬間、ネオドミノシティを覆う空気が一変した。

 溢れ出す膨大なエネルギーは蒼雷となって空を裂き、ビル群を震わせ、スタジアムへと降り注ぐ。

 

「せめて……観客のみんなだけでも!」

 

 綴は強く両手を握り締める。

 

「お願い、《邪神アバター》!」

 

 黒き太陽がスタジアム上空に顕現した。

 漆黒の球体は降り注ぐ雷をことごとく呑み込み、荒れ狂う閃光を静かに受け止めていく。

 観客席では悲鳴が上がり、人々は避難を始める。

 だが、その頭上に黒き神が在る限り、雷は一人たりとも傷つけることはなかった。

 その隣で、テイルは避難誘導に当たるチームラグナロクへ視線を向ける。

 

「……綴はこれでいいのか?」

「え?」

「あいつらから《トール》だけでも借りりゃ、あのでっかいハンマーで避雷針くらいにはなっただろ。街の被害も、もう少し減らせたんじゃねえの?」

 

 一瞬だけ、綴の瞳が揺れる。

 

「駄目。昨日の会議でも言ったでしょ。三極神はアーククレイドルへ突入する時に絶対必要なの。《虹の橋 ビフレスト》が不完全になったら、全部が台無しになっちゃう」

(……本当は一番辛いのは綴自身だろうに)

「……わかってるさ」

 

 テイルは苦笑し、小さく肩をすくめた。

 

「結局、ここはおれたちで食い止めるしかねえなあ」

 

 綴も静かに頷く。

 

「うん。ここで一人でも多く守れれば、それだけ未来は繋がるから」

 

 二人は再び空を見上げた。

 黒き太陽はなおも雷を呑み込み続ける。

 その向こうでは、白き巨神《機皇神マシニクル∞³》と白き神龍《機皇神龍トリスケリア》が並び立ち、英雄・不動遊星を静かに見下ろしていた。

 

「《機皇神マシニクル∞³》の効果発動!《スカーレッド・ノヴァ・ドラゴン》を吸収する!」

「やらせはしない!《スカーレッド・ノヴァ・ドラゴン》の効果発動!」

「愚かな。《機皇神マシニクル∞³》にはさらなる力がある。手札の機皇帝パーツである《グランエルG3》を墓地へ送り、その効果を得る!」

 

 巨神が静かに右腕を掲げる。

 掌から放たれた白き波動が、炎へと変わりかけた超新星の竜を包み込んだ。

 

「一ターンに一度、フィールド上の相手モンスターの効果の発動を無効にする!」

 

 燃え上がるはずだった紅蓮の炎が、まるで時間を止められたかのように霧散する。

 

「《機皇神マシニクル∞³》の糧となれ――《スカーレッド・ノヴァ・ドラゴン》!」

 

 その瞬間、巨神の胸部コアが開く。

 内部から無数の光の鎖が奔り、身動きを封じられた竜へ絡みついた。

 抗う間もなく、《スカーレッド・ノヴァ・ドラゴン》は巨神の中枢へと引きずり込まれていく。

 紅蓮の咆哮は重厚な装甲の内へ呑み込まれ、代わりにコアの輝きだけが禍々しく脈動した。

 

《機皇神マシニクル∞³》ATK4000→7500

 

『なんということだァ! またしても《スカーレッド・ノヴァ・ドラゴン》が吸収されてしまったァ!スタッフは避難しましたが……私も、不動遊星もここで終わるわけにはいかない! チームエイチクロスの《邪神アバター》の加護のもと、中継を続けるぞォ!!』

「これこそが絶望への入り口だ」

 

 アポリアの低く響く声が、雷鳴のように遊星の胸を打つ。

 

「思い知るがいい、不動遊星。――私が味わった絶望を」

 

 背後では、T・ウロボロスが地鳴りを響かせながら迫る。

 超巨大Dホイールが放つ圧迫感は、まるで世界そのものが遊星を追い立てているかのようだった。

 額を伝う汗を拭う暇すらない。

 それでも遊星は、アポリアを真っ直ぐ見据える。

 

「私は、その絶望に抗うため、自らを三つに分け、この時代へ降り立った」

「……三つに分かれた、だと?」

「教えてやろう。私が何故、ホセ、ルチアーノ、プラシドとなり――イリアステルの三皇帝を名乗ったのかを」

 

 その瞬間。

 アポリアの額に埋め込まれた翠玉が妖しく輝いた。

 放たれた翠光が世界を塗り替える。

 遊星たちチーム5D's。

 そして観客席にいた綴とテイル。

 彼らの意識は再び肉体を離れ、アポリアの記憶が眠る異空間へと引き込まれていった。

 視界に広がるのは、生命の気配を失った荒野。

 崩れた都市の残骸が地平まで続き、その片隅には今にも倒壊しそうな小さなドームだけが残されていた。

 その中を、一人の老人が力なく歩いている。

 

「なぜだ……なぜこんなことに……。誰か……誰か、生きていてくれ……」

 

 返事はない。

 どれだけ歩こうと、耳に届くのは自らの足音だけ。

 やがて老人は膝をつき、嗚咽にも似た叫びを荒廃した世界へ響かせた。

 

「人類を、歴史を見送った私は――最後の生き残りとして、絶望の中を彷徨っていた」

 

 静かに響くアポリアの声。

 老人は力なく俯いたまま、動かない。

 

「……だが、生き残っていたのは私一人ではなかった」

 

 その時。

 老人の前へ、三つの影が歩み寄る。

 その中から差し出された一つの手。

 

「我々は、この世界最後の生き残り。ならば、生き残った者としての使命を果たそう」

 

 穏やかな声だった。

 震える手が、その手を掴む。

 義手ではあったがその冷たい感触が、滅びた世界で唯一、生きている証だった。

 

「我々の使命。それは、モーメントの暴走によって滅びた世界に、再び未来への希望を取り戻すことだった」

 

 アポリアの独白は続く。

 

「私たち四人は、残された全てを注ぎ込み、世界と人類を再生させる方法を探し続けた」

 

 だが。

 

「……それは、あまりにも無謀な試みだった」

 

 果ての見えない年月。

 希望だけでは、人は生きられない。

 一人、また一人と仲間は力尽きていく。

 別れの言葉を交わす力さえ残されないまま、その命は静かに尽きていった。

 そして最後に残った老人――アポリアもまた、自らの終焉を悟る。

 永久の眠りにつかんとする彼が向き合う最後の相手は、この世界最後の希望となった男――Z-ONE。

 

「私の中にある三つの絶望を……君に託そう」

 

 三つに分かたれた絶望は、新たな器を与えられ、それぞれ独立した人格となる。

 ホセ。ルチアーノ。プラシド。

 こうして誕生した三皇帝は、Z-ONEとの約束を果たすため、時を超えてイリアステルを結成した。

 すべては、人類の滅びを回避するために。

 ――それこそが、この世界の歴史改竄の始まりだった。

 そして、景色は音もなく崩れ去る。

 遊星たちの意識は再び現実へと引き戻され、世界の命運を懸けたライディングデュエルの只中へ帰還した。

 

「仲間との約束を果たすため。そして未来の滅亡を防ぐために!ネオドミノシティをこの歴史から抹殺する!モーメントの根源を消滅させ、人類を選別する!それこそが未来を救う唯一の道――我らの計画だ!」

「ふざけるな!」

 

 遊星が即座に叫ぶ。

 

「未来を救うために、今を生きる人々を犠牲にするだと!?そんなものは救済なんかじゃない!」

「……我らは再び一つとなった。三つの絶望は一つとなり、完全なる力を得た。お前に、この絶望を覆せるというのか?」

 

 わずかな沈黙。

 そして、その口元が僅かに歪む。

 

「……いや、たとえ私を倒したとしても結果は変わらぬ。アーククレイドルは必ず現れる」

 

 重く響く宣告。

 

「お前は勝った先で、なお絶望を知ることになる。」

「俺は――絶望なんてしない!」

「ならば―――その覚悟が砕け散るまで、さらに過酷な現実を見せてやろう。」

 

 次の瞬間だった。

 轟音。天より落ちた雷がデュエルレーンへ直撃する。

 爆発。アスファルトが弾け飛び、コース全体へ亀裂が走った。

 

「なっ……!」

 

 遊星は咄嗟にハンドルを切る。崩れ落ちる路面。砕け散るガードレール。

 遊星号は跳ね上がりながらも辛うじて姿勢を保ち、そのまま崩壊したコースを飛び越えた。一方でアポリアは避けようともしない。

 巨大なT・ウロボロスは砕け散る道路も、崩れ落ちる瓦礫も意に介さず、そのまま前進する。

 やがて二人のDホイールは、ライディングデュエル専用コースを飛び出し、市街地の一般道路へと降り立った。

 逃げ惑う人々。砕け散る建物。飛び散る瓦礫。

 アポリアはそれらすべてを視界に収めながらも、一切速度を落とさない。

 人命など初めから考慮していないかのように。

 ただ、不動遊星だけを見据えて突き進む。

 

「バトルだ!《機皇神龍トリスケリア》で――」

「バトルはさせない!リバースカード・ダブルオープン!」

 

 遊星の前方で、伏せられていた二枚のカードが同時に跳ね上がる。

 青白い閃光と紫黒の魔力が交差し、走り続ける二台の間へ巨大な結界を築き上げた。

 

「一枚目、罠カード《エターナル・カオス》! 二枚目、永続罠《強制終了》!―――《強制終了》の効果!自分フィールドの他のカード一枚を墓地へ送り、このバトルフェイズを終了させる!」

 

 遊星は迷いなく《エターナル・カオス》を墓地へ送る。

 瞬間、戦場を覆っていた闘気が霧散し、《トリスケリア》が今まさに放とうとしていた三つの顎からの光が静かに閉じた。

 しかし、遊星はそこで終わらなかった。

 

「さらに墓地へ送られた《エターナル・カオス》は《機皇神龍トリスケリア》を対象に取り発動されている!」

 

 紫黒の混沌が渦を巻き、三つ首の神龍を包み込む。

 

「攻撃力の合計が対象モンスター以下になるよう、デッキから光属性と闇属性モンスターを一体ずつ墓地へ送る!《トリスケリア》の攻撃力は3000!俺が選ぶのは攻撃力100の闇属性、《ダメージ・イーター》!そして攻撃力0の光属性、《超電磁タートル》!」

 

 二枚のカードがデッキから墓地へ滑り落ちる。

 それは次の一手へ繋ぐための、遊星の布石だった。

 

「ふん……バトルを封じた上に墓地まで整えるか」

 

 アポリアは静かに目を細めた。

 その間にも、超巨大Dホイール、T・ウロボロスは走り続けるだけで周囲へ凄まじい衝撃を撒き散らす。砕ける舗装、倒壊する建物。逃げ惑う人々の悲鳴が街に響いた。

 遊星は唇を噛み締める。

 

(このままでは街への被害が広がってしまう……!)

 

 遊星号を大きく傾け、一気に脇道へ飛び込む。

 

「ついてこい!」

 

 目指す先は、人通りの少ない旧B.A.D.エリア――サテライト。

 アポリアはその意図を一目で見抜いた。

 

「……まだ守ろうというのか。このデュエルが終われば、いずれすべては消滅するというのに」

 

 アーククレイドルの降下が始まれば、この程度の被害など誤差に等しい。

 それでもなお、人々を守るため走路を変える。

 ――それが不動遊星という男。

 

「無意味な足掻きだ。カードを二枚伏せ、エンドフェイズに《オブリガード》の効果発動。おまえに200ポイントのダメージを与える」

「くっ……」

 

遊星:LP4000→3800

 

 淡々と言い放つ。そしてT・ウロボロスは速度を緩めることなく遊星の後を追った。

 

「俺のターン!」

 

遊星 SPC7→8

アポリア SPC8→9

 

「SPCを2つ取り除き、《Sp-貪欲な壺》を発動!墓地の《ジャンク・コンバーター》、《ジャンク・シンクロン》、《ジャンク・ウォリアー》、《スターダスト・シャオロン》、《フォーミュラ・シンクロン》の五体をデッキへ戻し、カードを二枚ドローする!」

 

遊星 SPC8→6

 

 遊星は引いた二枚のカードへ素早く目を走らせる。

 だが、その表情は険しいままだ。

 まだ――決定打には届かない。

 

「……《ブラックフェザー・ドラゴン》を守備表示に変更」

 

 黒翼の竜が低く身構え、主を守るように翼を畳む。

 

「バトルだ!《シューティング・スター・ドラゴン》で《機皇神龍トリスケリア》を攻撃!『スターダスト・ミラージュ』!」

 

 白銀の竜が爆発的な加速を見せる。

 尾を引く無数の光は流星となって、そのまま三つ首の神龍へ一直線に突き進んだ。

 

「永続罠《ディメンション・ガーディアン》を、《機皇神龍トリスケリア》を対象に発動」

 

 神龍の周囲へ蒼白い光の障壁が幾重にも展開される。

 

「対象モンスターは破壊されない」

 

 轟音。

 《シューティング・スター・ドラゴン》の突撃は障壁を揺るがし、神龍の巨体を押し込む。しかし、その白き巨躯が砕けることはなかった。

 

「だが、ダメージは受けてもらう!」

 

 衝撃はアポリア自身へと伝わり、そのライフをわずかに削る。

 

アポリアLP11000→10700

 

 それでも、アポリアの表情は微塵も揺るがない。

 

「……この程度削られたところで、支障はない」

 

 鼻で笑うように言い放つ。

 たかだか300ポイント。

 絶望を覆すには、あまりにも小さすぎる一撃だった。

 

「くっ……カードを1枚伏せ、ターンエンド」

 

 シンクロキラーは二体とも健在。

 医務室のテレビに映る劣勢の戦況を見つめ、クロウが固唾を飲む

 

「くそっ……なんとかなんねぇのかよ!」

「焦るな。墓地には《ダメージ・イーター》と《超電磁タートル》がある。あれだけで終わる遊星ではない」

 

 ジャックは冷静に言う。

 だが、その表情は険しい。

 逆転の一手が見えているわけではない。それでも仲間を信じるしかない――そんな苦しさが滲んでいた。しばしの沈黙。

 やがてジャックが静かに口を開く。

 

「……行くぞ」

「ああ」

 

 二人はほぼ同時にベッドから身を起こした。

 

「お、おい!何してんだ!」

 牛尾が慌てて駆け寄る。

 

「怪我人は寝てろ!」

「そうよ!外は雷が落ちまくってるんだから!」

 

 カーリーも必死に止める。

 しかし二人は聞こうとしない。その時だった。

 

「はいはい、その辺でストップ」

 

 軽い口調と共に病室へ入ってきたのはテイルだった。

 

「お前、《アバター》はいいのかよ?」

「平気平気。一度祈れば効果は続くらしいし。そこらへんは綴の為となると割とご都合主義なんだ。それより問題はあんたら」

 

 言うなり、テイルは二人の肩を押さえた。

 怪我人とは思えない力で前へ出ようとする二人を、難なく押し留める。

 

「離せ!」

「やだよん」

 

 おちょくるようにあっさり返す。

 

「遊星のところへ行ってどうすんの?」

「決まってる!加勢しに――」

「ふうん?どうやって?」

 

 クロウの言葉が止まる。

 

「デュエルは一対一だ。乱入ペナルティ2000ポイントなんてルールはなかった、いいな?だったらせいぜい近くで応援するくらいだろ?」

「それは……」

「その途中で雷に巻き込まれてみろ。怪我が悪化するかもしれないし、最悪そこで終わるぜ?」

 

 テイルは真っ直ぐ二人を見る。

 

「アーククレイドルに突入する時、戦える人間が二人減る。ついでに言うと、仲間に犠牲が出たまま遊星達が本調子で戦えると思うか?」

 

 二人は答えられない。

 

「遊星が命懸けで繋ごうとしてる未来を、自分たちで狭める気か?」

 

 病室が静まり返る。

 

「……絆ってさあ」

 

 テイルが少しだけ笑う。

 

「そんなに近くにいなきゃ信じられないもんなのか?」

 

 クロウが目を伏せる。

 ジャックも黙ったままだ。

 

「あんたらがやることは一つだ」

 

 テイルは肩から手を離した。

 

「無事に帰ってきた遊星を迎えること。それが今のあんたらにしか出来ない役目だ。いや、綴もおれも盛大に出迎えるけど」

 

 長い沈黙。

 やがてクロウが小さく笑った。

 

「……ちっ。悔しいけどよ。遊星なら、こんなことで負けねえ」

 

 ジャックも鼻を鳴らした。

 

「ふん……遊星を信じ切れず飛び出そうとしたとは、オレらしくもない」

 

 そして静かにベッドへ腰を下ろす。

 

「クロウ」

「ああ」

 

 二人は再びテレビへ視線を向けた。その瞳に宿るのは焦りではない。仲間を信じる覚悟だった。

 

「勘違いするな、テイル。貴様に説得されたわけではない。遊星を信じると決めただけだ」

「はいはい。そういうことにしとくよ」

 

 テイルは肩を竦めて笑う。

 病室の誰もがテレビへ視線を戻した。

 遊星なら必ず、この絶望を切り裂いてくれる――そう信じて。

 

「私のターン!」

 

遊星 SPC6→7

アポリア SPC9→10

 

アポリアは迷いなくカードを掲げる。

 

「私は《スピード・ワールド2》の効果を発動。SPCを7つ取り除き、手札の《Sp-サイクロン》を公開することでカードを一枚ドローする」

 

アポリア SPC10→3

 

「そして、SPCを2つ取り除き、《Sp-サイクロン》を発動。《強制終了》を破壊する!」

 

アポリア SPC3→1

 

瞬間、荒れ狂う竜巻が永続罠を呑み込み、戦場を覆っていた境界線を粉々に吹き飛ばした。

 

「くっ……!」

 

 遊星が表情を曇らせる。

 その隙を逃すことなく、アポリアは畳み掛けた。

 

「《機皇神マシニクル∞³》の効果発動。《ブラックフェザー・ドラゴン》を吸収する!」

 

 巨神の胸部が妖しく開く。

 内部から放たれた無数の光の縄が黒翼の竜へ絡みつき、その巨体を強引に引き寄せていく。抵抗する間もなく、《ブラックフェザー・ドラゴン》は巨神の機構へ呑み込まれ、その姿を消した。

 

《機皇神マシニクル∞³》ATK7500→10300

 

「すまない……」

 

 仲間から託された竜を奪われ、遊星は小さく呟く。

 しかし、アポリアはその表情すら見逃さない。

 

「これで終わりだと思うか?手札の《グランエルT5》を墓地へ送り、《機皇神マシニクル∞³》はその効果を得る。――これにより、《シューティング・スター・ドラゴン》を吸収する!」

「やらせはしない!罠カード《スキル・プリズナー》発動!このターン、《シューティング・スター・ドラゴン》を対象として発動したモンスター効果は無効になる!」

 

 眩い障壁が流星竜を包み込む。

 吸収機構から伸びた光の縄は障壁へ弾かれ、虚しく霧散した。

 わずかに残された希望。

 だが、アポリアはなおも笑みを崩さない。

 

「ふ……自分のモンスターだけは守ったか。だが、さらなる絶望が貴様を襲う。ライフを1000ポイント支払い、永続罠《ソウルドレイン》を発動!」

 

アポリアLP10700→9700

 

 紫黒の瘴気が地を這い、フィールド全体を覆い尽くす。

 

「除外ゾーン、または墓地に存在するモンスターの効果は発動できない!」

「と、いうことは……」

「そうだ。不動遊星。お前の墓地に眠る《超電磁タートル》の効果は使用できない」

 

 遊星の瞳がわずかに揺れる。

 アポリアはその反応を愉しむように続けた。

 

「仲間から託されたシンクロモンスターは二体とも私の手中。そして最後の望みだった墓地のモンスターまでも封じた。最早どうしようもあるまい」

 

遊星

LP:3800

SPC:7

Hand:1

Monster:《シューティング・スター・ドラゴン》

FieldMagic:《スピード・ワールド2》

Magic&Trap:Set1

 

アポリア

LP:9700

SPC:1

Hand:0

Monster:《機皇神マシニクル∞³》《機皇神龍トリスケリア》

FieldMagic: 《スピード・ワールド2》

Magic&Trap:《スカーレッド・ノヴァ・ドラゴン》《ブラックフェザー・ドラゴン》《ディメンション・ガーディアン》《ソウルドレイン》

 

「……」

 

 遊星は何も答えなかった。

 視線だけがフィールド、墓地、そして手札を何度も巡る。

 《ブラックフェザー・ドラゴン》は吸収された。

 《スカーレッド・ノヴァ・ドラゴン》もまた機皇神の中。

 そして、最後の保険だった《超電磁タートル》さえ、《ソウルドレイン》によって沈黙を強いられている。

 遊星を見下ろし、アポリアは静かに目を細めた。

 

「どうした、不動遊星。その希望で、この絶望を覆してみせるのではなかったのか」

 

 超巨大Dホイール、T・ウロボロスの轟音だけが、重苦しい空気を切り裂く。

 

「バトルだ!《機皇神マシニクル∞³》で《シューティング・スター・ドラゴン》を――」

「――この時を待っていた!罠発動!《妖精の風》!」

 

 伏せられていたカードが弾けるように開き、穏やかなそよ風がデュエルレーンを吹き抜けた。

 

「フィールドの表側表示の魔法・罠カードをすべて破壊する!その後、お互いは破壊したカード一枚につき300ポイントのダメージを受ける!」

「何……!表側表示を、すべてだと……!?」

 

 次の瞬間――風は嵐へと変貌した。

 翡翠色の暴風がアポリアの陣を呑み込み、《ディメンション・ガーディアン》を引き裂き、《ソウルドレイン》を粉砕する。

 さらに、機皇神の胸部コアを包んでいた拘束機構までもが激しく軋み、一部が砕けた。

 

「馬鹿な……!」

「《ブラックフェザー・ドラゴン》と《スカーレッド・ノヴァ・ドラゴン》は墓地へと解放される!そして、《ソウルドレイン》も消えた!もう墓地の効果は封じられない!」

 

 白き巨神の胸部から黒き翼と紅蓮の龍が光となって解き放たれる。

 

《機皇神マシニクル∞³》ATK10300→4000

 

 そして暴風の余波は、使用者たる遊星すら容赦なく襲う。

 激しい衝撃が二人のライフを削り取った。

 

アポリア:LP9700→8500

遊星:LP3800→2600

 

「おのれ……!!」

「そして――墓地の《超電磁タートル》を除外することで効果発動!バトルフェイズを終了する!」

 

 巨大な磁力の障壁が展開される。

 機皇神の進撃は、その光の壁の前で強制的に断ち切られた。

 アポリアの宣言したバトルフェイズは、ついに一撃も放たれぬまま幕を閉じる。

 

「だが、貴様の場には《シューティング・スター・ドラゴン》のみ!残る手札も一枚。何ができるというのだ!」

「俺は信じる!この先にある希望を!――俺のターン!」

 

 遊星の腕に刻まれた痣が、灼けつくような熱を放ち始める。

 

「これは……!」

 

 スタジアム。

 医務室。

 ジャック、クロウ、アキ、龍可――四人の腕に宿るシグナーの痣もまた、赤く輝き始めた。

 

「痣が……!」

 

 光は腕から離れ、遊星の背中に巨大な紋章を描き出す。

 五つの痣が重なり、描かれたのは――赤き竜、そのもの。

 

「これは、赤き竜の奇跡……!」

 

 遊星は静かにデッキへ手を伸ばす。

 仲間の願い。託された希望。積み重ねてきた絆。

 そのすべてを乗せるように、一枚のカードを引き抜いた。

 

「ドロー!」

 

 一瞬――世界から音が消えた。

 遊星は引いたカードを見つめ、静かに口元を上げる。

 

「――ドローした時、このカードを相手に見せることで効果発動!《想い集いし竜》を手札から特殊召喚する!」

 

 紅蓮の光が渦を巻き、小さな赤き竜が姿を現す。

 硬質な翼を大きく広げると、《シューティング・スター・ドラゴン》の隣まで舞い上がる。

 小さな体躯。それでも、その身から放たれる輝きは決して侮れない。

 

遊星 SPC7→8

アポリア SPC1→2

 

「《想い集いし竜》はフィールド・墓地に存在する間、《救世竜 セイヴァー・ドラゴン》として扱う!――レベル10、《シューティング・スター・ドラゴン》に、レベル1、《想い集いし竜》をチューニング!」

 

 《想い集いし竜》が一つの光輪となる。その輪へ、《シューティング・スター・ドラゴン》が流星となって飛び込んだ。白銀の軌跡と紅蓮の輝きが交差する。

 それは希望と絆。人の想いと赤き竜の奇跡。

 二つの光は互いを拒むことなく溶け合い、一条の極光となって天を貫いた。

 その輝きは空を裂き、雷雲を押し退け、世界そのものを照らしていく。

 

「集いし想いが、輝く奇跡を呼び起こす!光差す道となれ!――シンクロ召喚!」

 

 光の柱の中心から、ゆっくりと一対の翼が広がる。

 白銀の流星翼。その奥から現れるのは、救世の蒼き光を宿した神々しい装甲。

 流星竜の鋭さと救世竜の神聖さ。二つの意志を宿した究極の竜は、星空を切り裂くように翼を広げる。

 

「―――光来せよ!《シューティング・セイヴァー・スター・ドラゴン》!!」

 

 竜が咆哮した。

 その咆哮は雷鳴を掻き消し、暗雲を震わせ、絶望に覆われた空へ一直線に希望の光を刻み込む。

 仲間たちの願い。シグナーの絆。赤き竜の奇跡。

 そのすべてをその身に宿した、究極のシンクロモンスターが今、世界へ降臨する。

 

《シューティング・セイヴァー・スター・ドラゴン》 ATK4000

 

『な、なんとォォッ!!不動遊星、土壇場でエースモンスターをさらなる高みへと進化させたァァ!!これこそ希望の切り札なのかァァッ!!』

 

 アポリアの表情が初めて揺らぐ。

 

「ここにきて赤き竜が力を貸すだと……だが攻撃力は《機皇神マシニクル∞³》と同じ!さらに《機皇神マシニクル∞³》は墓地の機皇帝パーツを除外することで破壊を無効にできる!」

 

 遊星は静かに笑う。

 まるで、その反論さえ織り込み済みだと言わんばかりに。

 

「《シューティング・セイヴァー・スター・ドラゴン》の効果発動!」

 

 救世の竜が翼を広げる。

 蒼白い粒子が世界を包み込み、機皇神を拘束するように光の輪が幾重にも重なる。

 

「《機皇神マシニクル∞³》の効果を無効にする!」

「な……に……!」

 

 初めて。絶望を語り続けてきたアポリアの瞳に、確かな動揺が宿った。

 

「まだだ……!まだ私のライフは8500もある!このターンを凌ぎさえすれば、希望など容易く砕け散る!」

「いいや……これで終わりだ!SPCが5つ以上存在する時、SPCを2つ取り除いて発動!《Sp-ファイナル・アタック》!」

 

遊星 SPC8→6

 

「《シューティング・セイヴァー・スター・ドラゴン》の元々の攻撃力を倍にする!」

 

 救世の竜が咆哮する。

 純白の装甲を包む蒼き輝きはさらに増し、流星の尾は巨大な光翼となって夜空へ広がった。

 その光は雷雲すら押し退け、絶望に覆われた世界へ一本の光明を刻む。

 

《シューティング・セイヴァー・スター・ドラゴン》ATK4000→8000

 

「そして、《シューティング・セイヴァー・スター・ドラゴン》は通常の攻撃に加え、墓地に《スターダスト・ドラゴン》と、その名が記された《シューティング・スター・ドラゴン》が存在することで、さらに二回攻撃できる!」

「追加攻撃だと……!」

「バトル!《シューティング・セイヴァー・スター・ドラゴン》で、《機皇神龍トリスケリア》を攻撃!『セイヴァー・ミラージュ』ッ!!」

 

 救世の竜が光の螺旋を描く。

 その軌跡は流星となって三首の神龍を正面から貫いた。

 絶望を象徴する機械竜は悲鳴を上げる暇すらなく爆散する。

 

「ぬうううううッ!!」

 

アポリア LP8500→3500

 

「馬鹿な……私が……ここまで来て敗北するというのか……!」

「二回目!《機皇神マシニクル∞³》を攻撃!」

 

 今度は一直線。

 白き閃光となった救世の竜は、巨神の胸部――無限を刻むコアへ迷いなく突き刺さる。

 眩い閃光。次の瞬間。

 白き巨神は全身に亀裂を走らせ、轟音とともに砕け散った。

 爆発の衝撃がアポリアを呑み込む。

 

「があああああああああッ!!」

 

アポリア LP3500→0

 

 絶望の番人は、ゆっくりと空へ手を伸ばす。

 その先にあるのは、滅びた未来でも、絶望でもない。

 約束を託した、たった一人の男の面影。

 

「……すまない、Z-ONE……」

 

 その呟きとともに、翠の光は静かに失われた。

 制御を失ったT・ウロボロスは速度だけを残し、海面へと滑り込む。

 巨大な水柱を上げながら機体は沈み、その巨体は暗い海の底へと消えていった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
一言
0文字 一言(必須:5文字~500文字)
※評価値0,10は一言の入力が必須です。参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。