31話 勝利の果て、未来への架け橋
アポリアとの死闘が終わると同時に、ネオドミノシティを覆っていた雷雲は嘘のように消え去った。黒く渦巻いていた空は澄み渡り、眩い陽光が街へ降り注ぐ。
誰もが思わず空を見上げた。
まるで、この勝利を祝福するかのような快晴だった。
『決まったァァァッ!!』
実況席のMCが総立ちになって叫ぶ。
『WRGP決勝! 誰も予想できなかった激闘、激闘、また激闘! 数々の奇跡と逆転の果てに、初代キング・オブ・ライディングデュエルの栄冠を掴んだのは――チーム5D'sだァァァッ!!』
歓声が爆発した。
スタジアムだけではない。街中の大型ビジョンを見上げていた人々も、テレビ中継を見守っていた家庭も、誰もが歓喜の声を上げる。
「やったぁ!」
真っ先に飛び跳ねたのは龍亞だった。
「勝ったんだ! 本当に勝ったんだ!」
龍可も満面の笑みで頷く。
「うん……遊星たち、やってくれた!」
アキは胸の前で固く握っていた両手をゆっくり解き、安堵の息を漏らす。
「流石だよ、遊星」
ブルーノも穏やかな笑みを浮かべた。
その隣では、医務室を飛び出してきたジャックとクロウも中継用モニターから目を離さない。
「へっ……やっぱりあいつはやりやがった」
クロウが笑う。
ジャックも腕を組みながら小さく鼻を鳴らした。
「当然だ。遊星とはそういう男だ」
綴とテイルも互いに顔を見合わせる。
「やっとひと段落ついたわね……」
綴が小さく呟く。
「ああ」
テイルは空を見上げたまま答えた。
「けどま、これは第一ラウンド終了ってところだなあ」
その言葉には、誰よりもこれから訪れる戦いを知る者だけの重みがあった。
やがて、一台のDホイールがスタジアムへ戻ってくる。
『さあ! 勝利の英雄、不動遊星が帰ってきたァァ!!』
歓声に迎えられ、遊星号がゆっくりとピットへ滑り込む。
エンジンが停止すると同時に、仲間たちが駆け寄った。
「遊星!」
龍亞が飛びつきそうな勢いで駆け寄る。
「ああ」
遊星は静かに笑った。
その表情には疲労が滲んでいたが、それ以上に勝利を掴んだ安堵があった。
クロウが肩を叩く。
「さすがだぜ!」
「いや、俺たち全員で掴んだ勝利だ」
ジャックは腕を組んだまま近づく。
「苦戦したな」
「悪かった」
「ふん。勝ったならいい」
それがジャックなりの最大級の賛辞だった。
アキ、ブルーノ、龍亞、龍可も加わり、チーム5D'sはようやく全員が揃う。
誰もが笑っていた。
長い戦いの末に勝ち取った、最高の瞬間だった。
そこへ静かに歩み寄る三人の男。
チームラグナロクだった。
「チーム5D's」
ハラルドが遊星を真っ直ぐ見据える。
「まずは……見事だった」
その一言には、戦士としての敬意が込められていた。
「ありがとう」
遊星も真っ直ぐに応える。
「だが」
ハラルドの視線が空へ向く。
「本当の戦いは、この先にある」
「……ああ」
クロウが苦笑する。
「そうだったな。優勝して終わりって話じゃなかった」
ドラガンが静かに口を開く。
「それでも今だけは、この勝利を誇るべきだ」
「その通りさ」
ブレイブも柔らかな笑みを見せる。
「世界を救う者には、それだけの資格があるってな!」
「そうそう!」
そこへ勢いよく飛び込んできたのはカーリーだった。
「まだまだ大変なことになるかもしれないけど!今だけは優勝のお祝いなんだから!」
カメラを構え、
「はい、笑って笑って!」
フラッシュが何度も弾ける。
遊星とジャック、クロウが肩を並べる一枚。
アキやブルーノ、龍亞、龍可を加えた集合写真。
そして、健闘を称え合うチームラグナロクと綴とテイルの一枚。
誰もが笑顔だった。
この瞬間だけは、世界の危機さえ忘れてしまうほどに。
――その時だった。低く、重い地鳴りが響く。
笑顔が一斉に止まる。
「……なんだ?」
ジャックが眉をひそめる。
スタジアム全体が微かに震え始めた。
クロウが咄嗟に空を指差す。
「おい……見ろ!」
全員が見上げる。
快晴だったはずの青空に、一筋の黒い亀裂が走っていた。
それはガラスが砕けるように音もなく広がり、
やがて世界そのものを引き裂くように空が割れる。
砕け散った青空の向こうから姿を現したのは、都市すら飲み込むほど巨大な逆さの城。
「……アーククレイドル」
綴がその名を呟く。
勝利の歓声は消え去り、誰もが言葉を失った。
WRGPは終わった。
だが、本当の戦いは――今、この瞬間に始まろうとしていた。
「とうとう……現実になってしまったか」
誰ともなく漏らした呟きが、静まり返ったスタジアムに落ちる。
遥か上空。
逆さに浮かぶ鋼鉄都市――アーククレイドル。
その巨大さは、誰の目にも「災厄」そのものだった。
ブルーノは食い入るように空を見つめる。胸の奥がざわつく。
(Z-ONE……あなたは本当に、この街を破滅させるつもりなのですか)
その時だった。
「チーム5D's!」
聞き覚えのある甲高い声が響く。
一同が振り返ると、イェーガーが息を切らせながら駆け寄ってくる。
「急いで治安維持局へ! このままでは状況を把握することすらできません! 湯上綴さんが事前に観測した未来と、我々が収集したデータを照合し、直ちに対策会議を行います!」
遊星は仲間たちと視線を交わし、小さく頷いた。
「ああ!」
こうして一同は、治安維持局へと向かう。
解析室。
壁一面を埋め尽くす大型モニターには、ネオドミノシティ各地の映像が次々と映し出されていた。
街を覆う巨大な影。混乱する市民。避難を開始する治安維持局隊員。
そして、ゆっくりと降下を続けるアーククレイドル。
解析室の空気は張り詰めていた。
「モーメント出力をリアルタイムで解析!」
「各地区の被害予測を算出中!」
オペレーターたちが慌ただしく端末を操作する。その矢先だった。
――室内の照明が一斉に消えた。
「なっ!?」
モニターが暗転し、機械音が止まる。
数秒の静寂。すぐさま非常灯が赤く灯り、予備電源が起動した。
最低限の照明だけが解析室を照らす。
「システムダウン!」
「主電源喪失!」
「予備電源へ切り替えます!」
オペレーターたちが慌ただしく復旧作業に入る。
やがて一台、また一台とモニターが映像を取り戻した。
「イェーガー長官!」
一人の解析員が血相を変えて振り返る。
「旧モーメントが稼働しています!」
「何ですって!?」
「しかも……通常とは逆方向へ回転しています!」
その報告が発せられた瞬間、解析室の空気が凍りついた。
大型モニターには地下深くで稼働を始めた旧モーメントの映像が映し出されている。
巨大な円環は、人類が築き上げてきた歴史そのものを否定するかのように、本来とは逆の方向へゆっくりと回転を続けていた。
綴はその映像を見つめ、静かに目を閉じる。
「……始まった」
観測した悪夢が、とうとう現実になった。
その時だった。
「長官! 阿久津所長から緊急回線です!」
オペレーターが振り返る。
イェーガーは即座に指示を飛ばした。
「つなぎなさい!」
モニターが切り替わり、研究所にいる阿久津所長の姿が映し出される。
『イェーガー長官! とんでもないことが分かりました!』
興奮とも焦燥ともつかない声が解析室に響く。
『どうやらあの物体は、それ自体がマイナス回転する巨大なモーメントなのです!ご覧ください!』
映像が切り替わる。
アーククレイドルの内部構造を立体表示したホログラムが現れた。
三つの巨大な遊星ギア。
その中心には、一際大きなモーメントが鎮座している。
『中心部に存在するこのモーメントが、三基の遊星ギアと連動しながら負の回転を続けています!』
「その影響で、ネオドミノシティ中のモーメントが相殺されているということか……」
ジャックが低く呟く。
『大正解!そして、さらに恐るべき事実があります!』
阿久津所長の表情が一層険しくなる。
『アーククレイドルは現在も降下を続けています!』
モニターには都市を中心にした立体地図が映し出され、赤い軌道予測がゆっくりと地表へ伸びていく。
『この速度なら約十二時間後にネオドミノシティへ激突! その衝撃波は市街地だけに留まらず、数百キロ圏内へ壊滅的被害を及ぼすと推定されます!』
部屋中から息を呑む音が漏れた。
十二時間。
その数字は、あまりにも短い。
遊星は拳を握り締め、ジャックも険しい表情でモニターを睨みつける。
クロウは無意識に歯を食いしばり、アキは思わず口元を押さえた。
龍亞と龍可も言葉を失い、テイルは黙ったまま綴を横目で見る。
綴だけは、その数字が記憶と寸分違わぬことを知っていた。
「やはり……」
かすかに震える声で呟く。
「残された時間は……たった十二時間」
重苦しい沈黙を破ったのはイェーガーだった。
「ネオドミノシティの全住民を避難させる場合、どれほど時間が必要です?」
すぐさま別のオペレーターが端末を確認する。
「全市民を対象とした場合……最短でも二十四時間は必要です!」
「倍……!」
クロウが思わず声を上げる。
「まったく足りんぞ……!」
ジャックは苦々しく唇を噛み締めた。
時間が足りない。
それはすなわち、このままでは避難が間に合わないという現実だった。
だが、立ち止まる暇はない。
イェーガーは決意を込めて顔を上げる。
「これは非常事態を宣言するしかありません!」
解析室に鋭い声が響いた。
「非常電源を街中の主要モニターへ優先供給! 全市民へ非常事態を宣言します!」
イェーガーの号令が飛ぶ。
直後、街中の大型モニターが一斉に切り替わった。
映し出されたのは、ネオドミノシティ上空に浮かぶ巨大な鋼鉄都市――アーククレイドル。
避難を呼びかける放送が街中へ響き渡る。
『こちら治安維持局です。ただいま非常事態が発生しました。市民の皆様は係員の指示に従い、速やかに避難してください』
最初は呆然と見上げていた人々も、状況を理解するにつれ表情を強張らせる。
悲鳴が上がり、人波が一斉に動き出した。車のクラクション。子どもの泣き声。
怒号と悲鳴が入り混じり、街は瞬く間に混乱へと飲み込まれていく。
解析室でも職員たちが避難していく。
広かった解析室は急に静まり返り、その場に残されたのはイェーガーと遊星たちだけだった。
「遠隔操作できる監視カメラはすべてアーククレイドルへ向けた」
ブルーノが端末へ手を走らせる。
「内部構造や進入口……何か分かることがあるかもしれない」
モニターの映像が次々と切り替わる。
巨大な外壁。崩壊した建造物。その時だった。
「……!」
遊星の瞳が鋭く細まる。
「ブルーノ、その映像を止めてくれ!」
ブルーノは素早く巻き戻し、画面を静止させる。
「拡大するね」
映像が少しずつ鮮明になる。
そこに映っていたのは、崩れ落ちた街並み。
ひび割れた道路。
そして、中央で無惨に折れ曲がった巨大な橋。
「……なっ!?」
誰もが息を呑んだ。
「あれは……!」
クロウが思わず前へ身を乗り出す。
「ダイダロスブリッジじゃねぇか!」
サテライトとシティを結ぶ象徴。
誰も見間違えるはずがない。
だが、その橋は完全に崩落していた。
「まさか……」
龍可が震える声で呟く。
「未来の……サテライト?」
「綴の見た未来が、本当に……」
アキの顔から血の気が引く。
ブルーノもモニターを見つめたまま言葉を失っていた。
「ネオドミノシティは……本当に滅ぶというのか」
重苦しい沈黙が流れる。
誰もが否定したかった未来。
しかし今、その光景は現実として彼らの目の前に映し出されていた。
「何かアーククレイドルを止める方法はないのですか!」
イェーガーの声が解析室に響く。
誰もがモニターに映し出された巨大な構造物を見上げるしかなかった。
刻一刻と地表へ近づいてくるアーククレイドル。
このままでは、十二時間後にすべてが終わる。
そんな絶望的な状況の中で、静かに口を開いたのはブルーノだった。
「……あるかもしれない」
「ブルーノ?」
遊星が振り返る。
ブルーノは複数のモニターを睨みながら、頭の中で計算を組み立てていた。
「アーククレイドルの中心で動いているモーメントはマイナス回転。そこに、より大きなプラス回転のモーメントをぶつければ……」
「マイナス回転はプラス回転となる、か」
遊星がその意味を理解する。
ブルーノは頷いた。
「ああ。理論上は、逆回転するモーメントを打ち消すことができる。上手くいけば、アーククレイドルそのものの動きを止められるかもしれない」
「けれど、今この街には正常に動くモーメントはないわ……」
アキが指摘する。
その言葉に、再び沈黙が落ちた。
ネオドミノシティの至るところでモーメントが停止している。
それはつまり、ブルーノの考えを実行するための「プラス回転」が、この街には存在しないということだった。
だが――。
「いいえ、あるわ」
綴が言った。
「モニターをよく見て」
全員の視線が一斉にモニターへ集まる。
そこに映し出されていたのは、異常事態の中でもなお走り続ける三台のDホイール。
チームラグナロクだった。
「……あれは!」
「動いている……?」
遊星が目を見開く。
街中のモーメントが停止しているにもかかわらず、三人のDホイールだけは何事もなかったかのように走行している。
「ならば――!」
遊星たちはすぐさま解析室を飛び出した。
ほどなくして、治安維持局の入口へとチームラグナロクの三人が到着する。
三台のDホイールが停止し、ハラルド、ドラガン、ブレイブが降り立った。
「チームラグナロク、なぜおまえ達のDホイールは動いているんだ?」
遊星が問いかける。
するとブレイブが肩を竦め、いつもの調子で笑った。
「なんだ、気付いてないのか。これだよ」
彼の瞳――ルーンの瞳が淡く輝く。
「我々は今までイリアステルの歴史改竄の影響を受けなかったように、マイナスモーメントの影響も受けない」
ハラルドが静かに続ける。
「私達のDホイールは正常に稼働している。つまり――君達が求めている『プラス回転』も、ここにあるということだ」
「そうか……!」
遊星の表情に、わずかな希望が戻る。
「なら、俺達のDホイールも!」
遊星が自らのDホイールへ駆け寄り、ハンドルを握る。
続いてジャック、クロウもそれぞれのDホイールへ跨った。
エンジンを起動する。――低く唸る駆動音。
そして三人の腕に刻まれた痣が、まるで呼応するように輝いた。
モーメントエンジンが、停止した街の中で再び息を吹き返す。
「動いた……!」
遊星が確かめるようにアクセルを握る。
エンジンは力強く回転し、Dホイールは確かな鼓動を返した。
「僕達は……」
「どうなっかなっと」
綴とテイルもそれぞれのDホイールへ乗り込んだ。
エンジンを始動する。
――こちらも、問題なく起動した。
「……動く」
綴が呟く。
その声には、安堵よりも戸惑いの方が強く滲んでいた。
『我が加護を与えているわけでもないのに動くとはな。Z-ONEに誘われているからか?』
綴の肩に止まったアスピッピが、不意に口を開く。
「……」
綴は答えなかった。
ただ、アーククレイドルを見上げる。
そこから発せられる異様な気配が、まるで自分たちを待っているかのように感じられた。
「どうやら、覚悟した方がよさそうね」
「そうみたいだなあ」
「後は、アーククレイドルに辿り着く手段だが……」
遊星の言葉を遮るように、Dホイールの通信モニターが突然点灯した。
『それは間違いよ』
聞き覚えのある声。
「……!」
画面に映し出されたのは、一人の女性だった。
シェリー・ルブラン。そして、その隣に立っていたのは――。
『君達はここに来てはいけない』
アリア。
綴とテイルの仲間だった女性の姿。
しかし、その表情には普段の彼女とは違う、張り詰めたものがあった。
『と言っても来るのだろうがね。運命は決まっているというのに』
「お嬢様!」
ミゾグチが思わず画面へ身を乗り出す。
「アリア……」
綴もまた、画面から目を離せなかった。
『遊星、私達は見たわ。これから起きる未来を』
遊星の表情が強張る。
『そう、我々が見た未来。それは――』
アリアが言葉を継いだ。
『遊星。そして……そのほかの仲間も、アーククレイドルで死ぬという未来だよ』
「……!」
空気が凍りついた。
「俺達が……死ぬだと……!」
遊星の声に、僅かな動揺が混じる。
ジャックも、クロウも、アキも、ブルーノも。
そして綴とテイルでさえ、言葉を失っていた。
ようやく見えたはずの希望。
アーククレイドルを止めるための手段。
動き出したDホイール。
そのすべての先に待つ未来を、二人は「死」と告げた。
誰も口を開けない。
ただ、空を覆う巨大なアーククレイドルだけが、静かに――確実に、地上へと降下し続けていた。
「誰だ! そんな適当な未来を見せたのは!」
沈黙を破ったのはクロウだった。
拳を握り締め、通信モニターを睨みつける。
自分たちが死ぬ。
そんな未来を、いとも簡単に突きつけられたことへの怒りだった。
『Z-ONE。アーククレイドルの主。神の力を持つ男――遊星、私達が異次元で出会った男よ』
遊星の脳裏に、かつて異次元で見た男の姿が蘇る。
仮面の奥に秘められた瞳。
人類の滅亡を回避するためなら、どれほどの犠牲さえも厭わないという、あまりにも強固な意志。
だが、アリアはさらに続けた。
『綴。君が観測した情報では、私達は“遊星だけの死”を予言するはずだった』
「……」
綴の表情が曇る。
彼女がこれまで観測してきた未来。
そこに記録されていたのは、確かに“不動遊星”の死だった。
『だが、現実は違う』
アリアの声に、迷いはなかった。
『アーククレイドルの番人たる我々に立ち向かった結果、死を迎えるのは一人ではないのさ』
「なんですって……!」
アキが息を呑む。
未来は変わった。いや――変えられたのかもしれない。
綴が観測した未来よりも、さらに多くの命が失われる未来へ。
『Z-ONEのやっていることは正しい』
シェリーが言った。
『あの破滅の未来の光景を見たでしょう?』
その言葉に、誰も反論できなかった。
既に彼らは見ている。
文明が滅び、人類が消え去った世界。
モーメントの暴走によって、未来そのものが死に絶えた光景を。
『あれを回避するために、彼は覚悟を決めているわ』
「シェリー、アリア!おまえたちは、それでネオドミノシティが滅びてもいいというのか!そんなことをすれば、数千――いや、数万の命が犠牲になるんだぞ!」
一瞬の沈黙。
それでもシェリーは目を逸らさなかった。
『けれども、それで将来の何十億という人間の命が助かるわ』
「……!」
『命は尊ぶものだ』
今度はアリアが口を開く。
『だが、歴史は常に犠牲を出してきた。それがこの街の住人だったという話さ』
冷たい言葉だった。
だが、それが単なる冷酷さから出たものではないことを、綴には理解できてしまった。
彼女たちもまた、未来を知ってしまったのだ。
何十億という命と、目の前にいる数万の命。
その二つを天秤に掛けることを強いられている。
『そして――君達の命も、また……』
「多くの犠牲の上に、手に入れる未来が幸せなものになるわけがない!」
遊星が叫ぶ。
「ネオドミノシティを消滅させるなんて、間違っている!」
その言葉には、迷いがなかった。
未来がどれほど悲惨なものだったとしても。
その未来を変えるために、今を生きる人間を犠牲にすることは認めない。
クロウが続く。
「そうだ! 何十億人を救うためなら何万人殺してもいいなんて、そんな理屈を認められるかよ!」
「未来を変えるために、今を捨てるなんて……そんなの、未来を救ったことにならない!」
アキもまた声を重ねる。
ブルーノ、ジャック、龍亞、龍可。
それぞれが言葉を発しようとするが、通信越しのシェリーがそれを遮った。
『貴方達……死ぬことになるのよ?』
静かな声だった。
脅しではない。
彼女は、本当に彼らの死を見ているのだ。
「やってみるまでわからないさ!」
遊星は即答した。
「俺達はまだ、何も終わっていない!」
その言葉に、シェリーの瞳が僅かに揺れる。
しかし、その視線はすぐに別の人物へ向けられた。
「お嬢様!」
ミゾグチが声を上げる。
「お嬢様は……あのアーククレイドルにいるというのですか!」
長年仕えてきた主人の姿を前に、普段の冷静さを失っていた。
シェリーは一度だけ目を閉じる。
『ミゾグチ』
そして、穏やかな声で告げた。
『私は、私の意志でここにいる。もう私のことは忘れなさい』
ミゾグチの顔が強張った。
それが別れを意味する言葉だと、理解してしまったからだ。
「そんな……!」
だが、シェリーはもうミゾグチを見ていなかった。
アリアが視線を向けたのは、綴とテイル。
『綴、テイル。地獄のような絶望に、自ら飛び込む必要はないよ』
「アリア……」
『君達は十分に戦った。だから――』
僅かな間。
『早く逃げるんだ』
その声は、初めて震えていた。
『……いいね?』
綴は答えようとした。
けれど、言葉が出てこない。
アリアもまた、何かを言おうとしているように見えた。
しかし――。
通信画面が暗転した。
「……アリア!」
テイルが画面へ手を伸ばす。
応答はない。
残されたのは、黒くなったモニターだけだった。
誰も、すぐには言葉を発せなかった。
やがて綴がゆっくりと顔を上げる。
その瞳には、恐怖ではなく決意が宿っていた。
「……逃げろ、って言われちゃったわね」
「無理だろ」
テイルが苦笑する。
「こんなところまで来て、今さら逃げられるほど器用じゃねえよ。……あいつらも、それは分かってるはずだ」
遊星もまた、空へ視線を向けた。
青空を裂くように浮かぶ、巨大なアーククレイドル。
その中心では、今なお破滅のモーメントが逆回転を続けている。
あれを止めなければ、ネオドミノシティは消滅する。
そして、そのためにはあの場所へ行かなければならない。
「どうにかして、あそこに行かなければ……」
遊星が呟く。
その言葉を聞いた瞬間だった。
「オレ、やだよ……!」
龍亞の声が震える。
拳を握り締めたまま、必死に涙を堪えようとしていた。
だが、堪えきれなかった涙が頬を伝う。
「遊星が死ぬのも……!オレも死んじゃうかもしれないのも……!」
先ほど告げられた未来が、幼い心に重くのしかかっていた。
遊星が死ぬ。
自分たちも死ぬ。
その言葉を、簡単に受け入れられるはずがない。
「つまらん弱音を吐くな!」
鋭い声が飛ぶ。ジャックだった。
龍亞を叱咤するその声には、怒りにも似た力強さがあった。
「あの女共が語った未来など、オレが捻じ曲げてくれる!」
「ジャック……」
「未来が決まっているなどと、誰が決めた!このオレが認めん!遊星も、お前達も――誰一人として死なせはせん!」
その言葉を受け、遊星は静かに頷いた。
「龍亞、心配ない」
そして龍亞の目を真っ直ぐに見つめる。
「ジャックの言う通りだ。俺は死なない」
言葉に力を込める。
「みんなも死なせない!」
「「遊星!」」
龍亞と龍可が、同時に遊星へ飛びついた。
「うわっ……!」
二人に抱き着かれ、遊星が僅かによろめく。
龍亞は遊星の服を強く掴み、龍可もまた、兄の肩越しに遊星を見つめる。
その光景を見つめていた綴が、小さく息を吐いた。
「……だからって、一人で行くのは無し、よ?あなた、こういう時、最悪自分一人でどうにかするって考えちゃうでしょ」
「……」
遊星は答えない。
その沈黙こそが何よりの肯定だった。
「好きな人のことだから、わかるわ。隠しても無駄よ?」
「綴……お見通しか」
遊星が僅かに苦笑する。
その横から、テイルが肩を竦めた。
「そもそもの話、遊星一人じゃ制限時間内に番人達とZ-ONEを倒すのは無理だぜー?」
「テイル……」
「おれ達も行かないとダメってわけだ」
軽い口調。
だが、その瞳には冗談の色など一切なかった。
遊星一人を戦わせるつもりなど、最初からない。
それが彼らの答えだった。
「けどよ……」
クロウが空を見上げる。
アーククレイドルは、あまりにも高い。
Dホイールで地上を走ることしかできない自分たちに、あそこへ到達する手段などあるのか。
「どうやって行けば……」
その疑問に答えるように、三人の男が歩み寄ってきた。
チームラグナロク。
ハラルド、ドラガン、ブレイブ。
三人の表情には、既に迷いがなかった。
「その点については心配ない」
ハラルドが言う。
「今から我々が、アーククレイドルへ向かう橋を架ける」
「なに!? そんなことが出来るのか!」
クロウが目を見開く。
ハラルドは静かに頷いた。
「旧モーメントを利用し、《虹の橋 ビフレスト》を造る」
「オレ達のDホイールと、三極神の力で、旧モーメントのマイナスエネルギーを正しく導く」
ドラガンが続ける。
「逆回転している力を、正しい方向へと導き、その力そのものを道へ変えるんだ」
ブレイブが端末を操作する。
空中にネオドミノシティの立体地図が投影された。
「そして―――」
幾つもの座標が表示される。
そのうちの一つが、赤く強調された。
「橋を架ける場所はここだ」
遊星たちが画面を覗き込む。
表示された場所。
そこには、誰もが知る巨大な橋の姿があった。
「……!」
遊星の目が見開かれる。
「ダイダロスブリッジ!」
それは今もなおネオドミノシティの歴史を象徴する場所。
さらに――先ほどアーククレイドルから映し出された、崩壊した未来の光景にも存在していた橋。
未来と現在。
破滅と希望。
その二つを繋ぐ場所として、これ以上相応しい場所はなかった。
「ブルーノ、君は我々と来てもらおう」
ハラルドが静かに告げる。
「旧モーメントを利用して《虹の橋 ビフレスト》を構築するには、我々のDホイールだけでは足りない。旧モーメントと機体を接続し、出力を調整するには……君の知識が必要だ」
ブルーノは一瞬だけ遊星を見る。
これから向かうのは、未来を救うために用意された最後の舞台。
そこへ至る道を作ることもまた、決戦の一部なのだ。
「OK。わかったよ」
ブルーノは頷いた。
「ボクにできることがあるなら、やらせてもらう。遊星たちがアーククレイドルへ向かえるように、必ず道を作るよ」
「ああ。頼む、ブルーノ」
遊星とブルーノの視線が交わる。
それだけで十分だった。
長い付き合いの中で培われた信頼が、言葉以上の意味を持っていた。
その一方で、ミゾグチは動かなくなった自らのDホイールを見つめ、拳を強く握り締めていた。
「私のDホイールも動けば……!」
悔しさを滲ませる声。
シェリーがアーククレイドルにいる。
それが分かっているというのに、自分には彼女を迎えに行く術がない。
そんなミゾグチの肩を、クロウが軽く叩いた。
「安心しろ!必ずシェリーは連れ戻してやるぜ!」
力強い言葉だった。
ミゾグチは目を見開き、それから小さく息を吐く。
「……ありがとうございます。ならば、クロウ。このカードを」
「カード?」
差し出されたそれを、クロウが受け取る。
カードに記された名は――《Z-ONE》。
アーククレイドルの主と同じ名を持ちながら、読みの異なるカードだった。
「これは……?」
「お嬢様の父上の形見です」
その言葉に、クロウはカードへ視線を落とした。
ただのカードではない。
シェリーが父から受け継ぎ、そして今なお彼女の手元に残されていたもの。
「もし、お嬢様に会うことがあれば……それを渡してください」
ミゾグチの声には、隠しきれない願いが滲んでいた。
自分自身がシェリーのもとへ行けないのなら。
せめて、この一枚だけでも彼女のもとへ届けたい。
クロウはカードを大切にデッキへ収める。
「ああ。わかった。必ず渡す。約束するぜ」
「……お願いします」
それ以上の言葉は必要なかった。
やがて、それぞれが自らのDホイールへと向かう。
遊星、ジャック、クロウ、アキ、龍亞、龍可、綴、テイル。
アーククレイドルへ向かう者。
ハラルド、ドラガン、ブレイブ。《虹の橋 ビフレスト》を架ける者。
そしてブルーノ。
旧モーメントと三極神を繋ぎ、その道を完成させる者。
ネオドミノシティの命運を懸けた戦いは、まだ始まったばかりだ。
誰もが不安を抱えている。
それでも――足を止める者はいなかった。
「行こう」
遊星がDホイールへ跨る。
「ああ!」
仲間たちも続く。
それぞれの覚悟を胸に。
未来を変えるために。
――旧モーメント内部。
巨大な機械構造の中心で、チームラグナロクとブルーノは最後の準備を進めていた。
「よし、準備できたよ!」
ブルーノが制御盤から顔を上げる。
無数の計器を確認し終えたその表情には、緊張こそあれ、迷いはなかった。
「それではブルーノ。君はここから避難するんだ」
「わかった」
「……いくぞ!」
ハラルドの号令が響く。
直後、三人の瞳に宿るルーンが同時に輝いた。
アクセルを吹かす。
轟音と共にDホイールのモーメントエンジンが唸る。
眠っていた巨大な機構が、まるで三人の意志に呼応するかのように明滅を始めた。
「今だ!」
三人は、それぞれの手にした三極神のカードを掲げる。
「星界の扉が開くとき、古の戦神がその魔槌を振り上げん。大地を揺るがし轟く雷鳴と共に現れよ!光臨せよ、《極神皇トール》!」
轟雷。
天を裂く雷光と共に、巨大な戦神が顕現する。
その手に握られた魔槌が、まるで世界そのものを揺るがすかのように振り上げられた。
「星界より生まれし気まぐれなる神よ、絶対の力を我らに示し世界を笑え!光臨せよ、《極神皇ロキ》!」
続いて、蒼白い光が旧モーメントを包み込む。
その光の中から、狡猾なる神が姿を現した。
瞳に宿る神秘的な輝きが、巨大な機械の心臓部を見据える。
「北辰の空にありて、全知全能を司る皇よ! 今こそ、星界の神々を束ね、その威光を示せ!!天地神明を統べよ、最高神――《極神聖帝オーディン》!」
最後に、眩い白光が天井を突き抜ける。
悠然と降臨した最高神が、二柱の神を従えるようにして立った。
三極神。
神話の時代より語り継がれた三柱の神々が、今この瞬間、未来を救うためにその力を振るおうとしていた。
「モーメントは、操る人間の力を読み取る!」
ハラルドが叫ぶ。
「我々の全身全霊を注ぎ込め!」
ドラガン、ブレイブもまたアクセルを踏み込んだ。
Dホイールが唸る。三極神が力を放つ。
その瞬間――旧モーメントが激しく明滅した。
反転し続けていた巨大な機構へ、三極神から放たれた力が流れ込んでいく。
プラスとマイナス。
二つの力が衝突し、凄まじいエネルギーが渦を巻く。
「ぐっ……!」
「まだだ!」
「耐えろ、モーメント!」
三人は必死にDホイールを制御する。
旧モーメントの輝きが、さらに強くなる。
やがて、その光は地上から空へと伸び――雲を突き抜けた。
そして。
「現れよ!神の世界に続く橋――《ビフレスト》!」
瞬間。
ダイダロスブリッジの先端から、虹色の光が奔った。
七色の輝きは空中を駆け抜け、幾重もの光の帯となって絡み合いながら、遥か上空へと伸びていく。
それは橋だった。
ネオドミノシティと、空に浮かぶアーククレイドル。
決して交わるはずのなかった二つの場所を結ぶ、巨大な虹の道。
その先にあるのは、人類の未来を左右する最後の決戦の舞台。
アーククレイドル。
「チームラグナロク!やったんだな!」
ダイダロスブリッジで待機していた遊星が、虹色に染まった空を見上げる。
遥か彼方。空に浮かぶアーククレイドルへ向かって、虹の橋が伸びている。
道は、繋がった。
ならば、後は進むだけだ。
遊星は静かに仲間たちへ振り返った。
「……この先、どんな危険が待っているかわからない。あの二人が告げた、死の未来が本当のものになるかもしれない」
遊星の脳裏に、シェリーとアリアの言葉が蘇る。
アーククレイドルへ向かった者は死ぬ。
それが、二人が見た未来。
「それでも……みんなは行くのか?」
問いかけに、最初に答えたのはジャックだった。
「当たり前だ!お前も、オレたち自身も死ぬ気はさらさらないわ!」
拳を握り、ジャックは不敵に笑う。
「死ぬ未来が見えたから何だというのだ! そんなもの、オレたちが認めなければいいだけの話だ!」
「へっ、ジャックらしいぜ」
クロウが笑う。
「オレ達はチームでずっと走ってきたじゃねえか!」
遊星へ向けて、クロウは親指を立てる。
「勝手に一人で突っ走って、後から『みんなは来なくてよかった』なんて言われたって、こっちは納得できねえんだよ」
「クロウ……」
「だから行く。最後まで一緒だ」
その隣で、アキも頷いた。
「遊星、私たちだって覚悟はできてる」
瞳には、迷いがない。
「これまでだって、何度も危険な場所に飛び込んできたじゃない。今さら、未来を恐れてここで立ち止まるなんてできないわ」
「オレ達は最強のチームなんだ!」
龍亞が胸を張る。
「みんなが一緒なら、どんな困難だって超えられるよ!」
「うん」
龍可も静かに微笑んだ。
「どんな時も、絆の力で乗り越えてきたから」
二人の言葉を聞き、遊星の表情がわずかに和らぐ。
そして――
「大好きな人たちが闘いに行くっていうのに、今さらお留守番なんてできないわ」
綴が腕を組み、当然のように言い切った。
「それに、僕たちがここまで見てきた未来が、全部決まっているわけじゃないもの」
続いて、テイルが肩を竦める。
「未来は一人一人の手の中にある。予言なんて、そう当たるもんじゃないさ」
「テイル……」
「それにさ」
テイルはいつもの軽い調子で笑った。
「未来が決まってるってんなら、わざわざ未来を変えようなんて話をする必要もないだろ?」
誰もが頷く。
恐怖が消えたわけではない。死への不安がなくなったわけでもない。
それでも――彼らは進むことを選んだ。みんなの決心は固い。
遊星は一人一人の顔を見つめる。そして、小さく息を吐いた。
「……わかった」
その瞳に、再び強い光が宿る。
「行こう」
遊星はD・ホイールへと向き直った。
「俺達の手で、ネオドミノシティを救いに!」
「ああ!」「おう!」「もちろんよ!」「うん!」「任せて!」「行きましょ!」
仲間たちの声が重なる。
その時だった。
「私も忘れないでもらおうか」
「――!」
聞き覚えのある声。
全員が一斉に振り向く。
そこには、一台のD・ホイールが走り込んできていた。
「謎D!」
綴が叫ぶ。
謎のD・ホイーラー。
彼もまた、アーククレイドルへ続く道の前に現れた。
「お前も、アーククレイドルに……?」
遊星が問う。
「ああ」
謎のD・ホイーラーは、虹色の橋を見上げた。
「私の肝心な記憶は失われている。それを取り戻すため、キミ達に協力しよう」
「……そうか」
遊星は微笑む。
仲間たちも、それぞれのD・ホイールへ跨る。
エンジンが次々と唸りを上げていく。
虹の橋の向こう。そこには、未来を滅ぼすために生み出された絶望が待っている。
だが、一人ではない。仲間がいる。絆がある。
そして、自分たち自身の意志がある。
「よし――行こう!」
遊星がアクセルを握り込む。
その瞬間、D・ホイールのエンジンが一斉に唸りを上げた。
遊星を先頭に、ジャック、クロウ、アキ、龍亞、龍可、綴、テイル、そして謎のD・ホイーラー。
彼らは虹色の橋を駆け抜けていく。
眼下に広がるネオドミノシティが、徐々に遠ざかっていった。
代わりに近づいてくるのは、人類の未来を滅ぼすために造られた巨大構造体。
――アーククレイドル。
その全貌を間近に捉えた時、その巨大さは改めて彼らを圧倒した。
都市そのものを思わせる巨大な機械構造。
幾重にも重なった建造物。そして、その中心へ向かって伸びる螺旋状の道。
遊星たちは虹の橋を渡り切り、ついにアーククレイドルの頂上へと辿り着いた。
「ここが……アーククレイドル……」
龍可が息を呑む。
しかし、感慨に浸っている暇はなかった。
「行くぞ!」
遊星が先陣を切る。
螺旋状の道を、さらに中心部へ向かって走り始める。
その後ろを仲間たちが続いた。
だが――
しばらく進んだところで、遊星がD・ホイールを減速させる。
「……?」
前方を見据える。
道は、そこで途切れていた。
いや。
正確には、途切れているのではない。
――入口そのものが存在しない。
その先へ進むための扉も、通路も、何一つ見当たらなかった。
「こっからどうする?」
クロウがD・ホイールを止め、首を傾げる。
「まさか、ここまで来て行き止まりってわけじゃねえだろうな?」
「……そんなはずはない」
遊星が周囲を見回す。だが、何もない。
その時だった。
D・ホイールの真下に、黒い円形の穴が出現した。
「うわっ!?」
「何だ、これは!」
「遊星!」
黒い穴は急速に広がり、まるで巨大な口が開くかのように、七台のD・ホイールをまとめて呑み込んでいく。
「くっ――!」
遊星がハンドルを切る。
しかし、タイヤは地面を捉えない。
重力そのものが反転したかのように、全員の機体が黒い穴へと引きずり込まれていく。
「遊星!」
「龍亞、龍可! 離れるな!」
「わかってる!」
「みんな、掴まって!」
叫び声が重なる。
だが、抗う術はなかった。
D・ホイールごと、彼らの身体は漆黒の闇へと落ちていき、アーククレイドルの内部に招待されたのだった。
アニメ2話分を圧縮しても、15000字前後になってしまいますね……
次回からデュエル回です。