プラシドからのチーム・カタストロフへの勧誘。それを綴は―――
「え?普通に嫌だけど?」
一蹴した。プラシドが苦々しげに綴を睨む。
「貴様……虫けらの分際でオレに歯向かう気か?」
「だって、初めて会った人からさらにどこぞの誰とも知らない連中の中に入れって言われてもねえ……ちょっとホセさんを呼んでちょうだい。意図が知りたいわ」
「誰に向かって命令している!……ホセの言うことなど知ったことか!この場で切り捨ててやる!」
剣を腰から取り出すと刃先を生意気な男の娘に向ける。すると画面が中空に現れ、ややくぐもった声と共に、口元を覆う∞の仮面を装着した立派な髭の老人が映る。
「やめろプラシド。その男には利用価値があるといっただろう。我らの神より啓示があった。湯上綴……お前は全てを知っているな?」
「あなた達の正体と目的に関しては、そうね。けど、邪魔もするつもりはないわ。でも、未来がどうなるかについて保証はできない」
「お前がイレギュラーな存在であるがゆえに、か?」
「僕は推しに一生消えない思い出を残したいだけの決闘狂人。だいそれた力はありません。それに、未来は今を生きる人間全体の行動次第ですもの。僕一人が断言できるものはないわ」
「……しかし、覚醒していないとはいえあの不動遊星に余裕をもって勝利したのも事実。邪魔をする気がないのであれば、我らと共に未来を変える気はないか、湯上綴」
(なぜかホセからの勧誘の圧が強い!神の啓示ってことはZ-ONEが僕を認知しているということ。……これは利用できるかもしれないわね。目指せ『ブルーノ生存』!遊星の永遠の思い出にはさせないわ!)
思考を回すこと1秒。即断即決。
「いいわよ。破滅の未来を回避することについては賛成。けどカタストロフなんてチンピラ崩れの連中と組むのは反対。素の実力不足が懸念されるから僕にそいつらの底上げをさせようとしているんだろうけど、闇のカードなんて怪しいモノに簡単に惹かれる連中とは気が合わないし、そもそも犯罪者になるのはアウト。しかも《ヒドゥン・ナイト-フック》によるDホイールのクラッシュで出場停止に追い込もうとしてもシグナー達は間違いなく乗り越えてくる。彼らへの試練にするならもうちょっと欲望の強い相手を用意するべきだし、相手を再起不能にしたいならデュエルで正々堂々叩き潰すべきよ」
「ようするにおまえの作戦は中途半端ってことだよプラシド!」
画面が二つに増え、赤髪の少年がプラシドを煽る。
「黙れルチアーノ!クソッ!どいつもこいつもオレを誰だと思っていやがる……!」
「でも代案はあるわ。カタストロフの代わりに僕がチームを作って、シグナー達と戦うのはどうかしら?」
「……ほう」
ホセが低く唸った。
「お前に、我らの計画を任せろというのか?」
「任せろとまでは言わないわ。ただ、僕にも好きにデュエルする自由が欲しいの。目的が一致している間くらい、協力できるでしょう?」
「口では何とでも言える」
「そうね。だから結果で示すわ」
綴は笑みを浮かべ、プラシドへ視線を移した。
「僕の用意するチームが、カタストロフよりもシグナー達を追い詰められると証明すればいい。サーキットの完成に貢献できるなら、あなた達にとっても損はないでしょう?」
「……だが、お前が裏切らぬ保証はない」
「裏切られたら、そのとき始末すればいいじゃない。あなた達には、それだけの力があるのでしょう?」
ホセは黙った。
綴は自分たちの正体を知っている。
それでいて、恐れている様子がない。
無謀なのか。それとも、何か別の思惑があるのか。
いずれにせよ、容易に信用できる男ではなかった。
「……よかろう。ただし、条件がある」
「なあに?」
「まずはプラシドを相手に、お前の実力を示せ」
「なっ!? ホセ、貴様!」
「お前にも異存はあるまい、プラシド。もとより、その男を認めてはいないのだろう?」
プラシドが歯を剥いた。
「当然だ! こんな虫けら、オレが叩き潰してやる!」
「あら、話が早くて助かるわ」
綴は楽しそうに微笑んだ。
「それじゃあ、デュエルしましょうか」
「待て」
そこでホセが口を挟んだ。
「お前が勝利した場合、独自のチームを率いることは認めよう。だが、それではカタストロフの連中をどうするつもりだ? 奴らにも、我らの計画における役割がある」
「ああ、そういえばそうね」
綴は顎に指を添えた。
カタストロフの実力を底上げしても、シグナー達に勝てるとは思えない。だからといって、まったく使い道がないわけでもない。
むしろ、彼らには彼らにしかできない役割がある。
「じゃあ、カタストロフの連中にシグナー達を襲撃させるのはいいんじゃない? チームは組ませなくても、成り上がるための報酬を与えれば釣られるわよ、あの手の連中は」
綴が軽く提案した。しかし、そこには大きな意味があった。
(クロウが負傷しなければ、アキさんはチーム・ユニコーン戦に出場しない。アキさんが負傷しなければ、病院であの女の子に出会うこともない。そうなったら、医者を目指すきっかけまで失ってしまうかもしれない)
綴は小さく眉を寄せた。
(もちろん、怪我なんてしないに越したことはないわ。でも、そのせいで大切な未来まで変わってしまったら?)
何もかも原作通りである必要はない。
けれど、変わってほしくないものだってある。
綴はそう考えていた。
(ごめんなさいね、クロウ。アキさん。でも、ちゃんと幸せになってほしいのよ)
思い浮かぶのは、怪我をして病院に運ばれる二人の姿だった。
できれば、そんなものは見たくない。
けれど、ここで未来を変えてしまったら、その先にあるはずの大切な出会いまで消えるかもしれない。
――だからといって、僕が二人を傷つけていい理由にはならない。
しかし、今さら迷っても、もう提案は口にしてしまったのだ。
――いいえ。まだ間に合う。
ホセが承諾する前なら、今からでも取り消せる。別の方法を考えましょう、と言えばいい。
けれど、そうして変わってしまう未来を、僕は知らない。
綴は唇を結んだ。
結局、撤回の言葉は出てこなかった。
「……なるほど。奴らを別働隊として使うわけか」
ホセはしばし考え込んだ。
「シグナー達を追い詰めるという目的には適っている。よかろう。ただし、お前が勝利した場合の話だ」
「ええ、それで構わないわ」
「勝手に話を進めるな!」
プラシドが苛立たしげに叫んだ。
「あの連中をどう使うかなど、貴様が決めることではない! このオレに勝てるとでも思っているのか!」
「あら、もちろん」
綴は涼しい顔で答えた。
「だって、勝つつもりがなければ、デュエルなんて申し込まないでしょう?」
「……言ったな?」
安い挑発。だが当然―――
「この俺に挑んだことを後悔させてやる! 当然、ダメージは実体化するぜ!」
提案は通った。
綴は胸の奥に残る重さを押し込めた。
今は、目の前の勝負に集中しなければならない。
「構わないわ。だけど、この家だと機皇帝が収まらないから、ライディングデュエルにしましょう? 思いっきり暴れられるわよ?」
「いちいち癪に障る奴だ。だが、いいだろう。捻りつぶしてやる。来い!」
「え?」
プラシドが綴の腕を掴むと、剣を振るい空間に穴を開け、その中に綴諸共入り込む。
(わあ強引。こういうのは“わからせたく”なるわ……)
気が付けば、人々の営みの光がいつまでも息づいている眠らない街、ネオドミノシティのデュエルレーンに到着していた。そこでは人工的な光に照らされてなお、漆黒の夜空に輝く星が大小さまざまに散らばっていた。
「ちょっと!僕のDホイール持ってきてないんだけど!」
「ちっ……おいホセ!」
「わかっている」
一瞬レーンが光ると、綴とプラシド、両者のDホイールが綺麗に並び立つ。
綴のDホイールは男の娘である彼に似合わず、捩り曲がった二本角をフロントに生やし、昏い青色をしていた。まるで悪魔を想起させるかのように。
プラシドのDホイールはシンプルでありながら未来を感じさせるデザインだ。
「機皇帝の前では何人たりとも無力であることを教えてやる……!」
「屈服させたいのは僕も同じ。けど狂気は僕の方が勝っているわ」
「ほざいていろ」
綴はDホイールのグリップを確かめ、コントロールパネルに手を伸ばした。モーメントを起動させ、ギアをローに蹴り入れるとがちん、と音がして、準備が整ったのが知れた。
「フィールド魔法《スピード・ワールド2》セット!」
『DUEL MODE ON. AUTO PILOT STAND BY』
二機を中心に広がっていく、速さが力に変わる世界。その中で欲望と信念を賭けて、男達が声を張り上げた。
「「ライディングデュエル・アクセラレーション!!!」」
互いのエンジンの嘶きが轟き、機体が爆音を立てて競争路をなぞっていく。闘いの始まりを告げるように夜の静寂は引き裂かれた。
「貴様に先攻は渡さん!」
デュエル開始直後、全力の咆哮を上げる蒼のマシンを相手にしながらも、プラシドは余裕でDホイールを突き放していた。人知を超えた存在の力を示すように。
顔色一つ変えることなく続ける前を走るプラシドに対し、綴は嗤っていた。
「第一コーナーを取った者が先攻だ!オレのターン、ドロー!」
プラシドSPC0→1
綴SPC0→1
「《ワイズ・コア》を攻撃表示で召喚!」
卵のような外殻を上下に分け、その中心に青い光を宿した白い機械が現れる。その攻撃力は0。
「カードを4枚伏せ、ターンエンドだ!」
攻撃の出来ない1ターン目、軽いプレイですぐにターンを譲渡する。プラシドの動きは静かだった。しかしそこには無駄がなく、むしろあるのはある種の風格だった。突き付けられるのは剝き出しの闘志。
(もう《コア》を出したわね。ならセットカードの中に《ワイゼル》を出すトリガーとなるカードはあるはず。残り3枚のカードは全部妨害と考えなくちゃ。下っ端だけど油断はしちゃいけないわ)
綴は状況を細かく分析する。全てを知ったうえで己の欲望を貫き通すことこそ、彼のポリシーであるがゆえに。
「僕のターン、ドロー!」
プラシドSPC1→2
綴SPC1→2
「《カードガンナー》を召喚!」
綴の初手。スピードの世界に戦車のような人型ロボットが入り込む。
(チッ!あのモンスターは破壊された時に効果を発動するカード……だが、もう一つの効果であるカードを墓地に送る能力は後々の展開に響くかもしれねえ。さっさと始末してやる!)
「そいつの召喚時に《ツイン・ボルテックス》を発動!オレのフィールドの機械族モンスターと相手フィールドのモンスター1体を破壊する!」
フィールドに稲妻が走ると、卵と戦車をショートさせ、破壊する。
「破壊されたことで《カードガンナー》の効果発動!カードを1枚ドローするわ」
「知ったことか!その効果にチェーンする形で《ワイズ・コア》の効果発動!このカードがカードの効果によって破壊されたとき、自分フィールドのモンスター全てを破壊し、手札・墓地・デッキから《機皇帝ワイゼル∞》、《ワイゼルT》、《ワイゼルA》、《ワイゼルG》、《ワイゼルC》を特殊召喚する!」
《機皇帝ワイゼル∞》ATK0
《ワイゼルT》ATK500
《ワイゼルA》ATK1200
《ワイゼルG》ATK0
《ワイゼルC》ATK800
プラシドのデッキから飛来する5つの機械。それは機皇帝を構成するパーツであり、合体することで真の力を発揮する。
「シンクロキラーの力、特と味わうがいい……合体せよ、《機皇帝ワイゼル∞》!」
プラシドの指揮に合わせて《機皇帝ワイゼル∞》を中心にパーツ達が変形し、1体のモンスターとして組み上がってゆく。
胸部の無限の穴の奥に蠢く青白い光。シンクロモンスターを吸収するという恐るべき能力を秘めた、破滅の未来からの使者にして、絶望の象徴。
「《機皇帝ワイゼル∞》の攻撃力と守備力は自分フィールドに存在する『ワイゼル』『スキエル』『グランエル』と名のついたカードの合計となる!」
《機皇帝ワイゼル∞》ATK0→2500
本体を除く4つのパーツのステータスが中核となる《機皇帝ワイゼル∞》1体に集約される。
「お出ましね……実際見てみるとすごい……」
壮大なスケールの機械に圧倒されたかのような綴。だがその裏で考えを張り巡らせていた。
(《ツイン・ボルテックス》がアニメでは攻撃宣言時に発動可能なものだったのに、《カードガンナー》の召喚時、つまりフリーのタイミングで発動できたってことは、あれはタッグフォース版のオリジナルカード。だったら【機皇帝】もタッグフォース版?でもアニメと整合性を合わせるなら本体以外攻撃できない仕様じゃないといけないけど……常に最悪の事態を想定してこそ真のデュエリスト。用意は周到にしておかないとね)
「なら僕は!カードを5枚伏せ、ターンエンド!さあ、超えられるかしら」
「ふん、いくらセットしようが、オレの前では無意味だ!」
「どうでしょうね?」
青年は先を行く敵への鋭い視線を絶やさず、そのうえで余裕もかもしだしている。
「手札1枚残して全部セット?いや~な布陣敷いてきたな、おい。プラシドの奴突破できるのかよ?」
「奴とて多少の罠に対する対策は準備しているはずだ。だが……」
天上の椅子に座しながら観戦するルチアーノとホセ。熾烈な争いが今始まる。
「オレのターン!ドロー!」
プラシドSPC2→3
綴SPC2→3
プラシド
LP:4000
Hand:2
Monster:《機皇帝ワイゼル∞》《ワイゼルT》《ワイゼルA》《ワイゼルG》《ワイゼルC》
FieldMagic: 《スピード・ワールド2》
Magic&Trap:Set3
綴
LP:4000
Hand:1
Monster:
FieldMagic: 《スピード・ワールド2》
Magic&Trap:Set5
プラシドはドローカードを一瞥。ふん、と満足そうに鼻を鳴らす。
「貴様は既に詰んでいる!《ワイゼルT》をリリースし、手札から《ワイゼルT3》を特殊召喚!」
ワイゼルの頭部が、翡翠色の電撃を放つ角の生えたパーツへと換装される。
《ワイゼルT3》ATK600
「攻撃力の合計が変化したことにより、《ワイゼル∞》の攻撃力が上昇する」
《機皇帝ワイゼル∞》ATK2500→2600
「あっ、ちょっとやばいかも……」
「知っているようだがもう遅い!《ワイゼルT3》は1ターンに1度、相手の魔法・罠の発動を無効にして破壊する能力を持つ!バトルだ!《ワイゼル∞》でダイレクトアタック!」
未来からの脅威が、綴に向けて剣を振るう。
「リバース、《つり天井》!フィールドにモンスターが4体以上存在する時、表側表示モンスターをすべて破壊する!」
「貴様が無差別殺戮を行うカードを使うことなど、最初から読めていた!その効果に《ワイゼルT3》の効果発動。その効果を無効にし、破壊する!」
「その効果にチェーン!《聖なるバリア-ミラーフォース》!相手フィールドの攻撃表示モンスターをすべて破壊する!」
「無駄だ!フィールドに「機皇帝」が存在することで、墓地に存在する機械族モンスター《ワイゼルT》を除外し、《ゴースト・コンバート》を発動!相手が発動した効果を無効にする!その後、このカードを墓地に送らずセットする!」
「それまであるの!?」
Chain4:《ゴースト・コンバート》
Chain3:《聖なるバリア-ミラーフォース》( 《ゴースト・コンバート》により無効化)
Chain2:《ワイゼルT3》
Chain1:《つり天井》(《ワイゼルT3》により無効化)
綴が発動した全体除去を悉く封じるプラシド。彼は有頂天だった。
「全体除去カードには限りがある。その狼狽した様子を見た限り、残り3枚の伏せの中にはあるまい!直接攻撃を食らえ!」
「……僕はその攻撃を“デッキで受ける”!」
「デッキだと?」
「リバース!《パワー・ウォール》!受けるダメージが0になるように、500ポイントにつきカードを1枚墓地に送る!本来受けるダメージは2600。よって僕は6枚のカードを墓地に送る!」
ばさっ、とデッキからカードを複数枚引き抜き、投げるようなモーションを綴がとると、6枚のカードが壁のように展開し、《ワイゼル∞》の剣を受け止めた。
「ふん、一撃を防いだ程度で調子に乗るなよ。メインフェイズ2、カードを1枚伏せ、ターンエンド―――」
「待ちなさい。そのエンドフェイズにリバース、《リビングデッドの呼び声》を発動!僕の墓地に存在するモンスターを復活させる!対象は《人造人間-サイコ・ショッカー》!」
「罠を多用するデッキで《サイコ・ショッカー》だと?チッ、ライフを半分払いカウンター罠《神の宣告》を発動!その効果の発動を無効にし、破壊する!」
プラシド:LP4000→2000
「僕もライフを半分払い《神の宣告》を発動!あなたの《神の宣告》を無効にし、《リビングデッドの呼び声》の効果を適用させる!おいで!僕のアンチトラップマスター!《人造人間-サイコ・ショッカー》!」
綴:LP4000→2000
首元まで隠す重厚な緑の服を纏い、目元と口元を覆うマスクを被った、ピンク色の肌の人造人間が静かに登場。腕組みをしながらレーンを駆ける。
「このカードが場に存在する限り、お互いに罠は発動できず、フィールドの全ての罠の効果は無効化される」
「だがそいつの攻撃力は2400。2600の《ワイゼル∞》には届かん!今度こそターンエンドだ」
「僕のターン、ドロー!」
プラシドSPC3→4
綴SPC3→4
プラシド
LP:2000
Hand:0
Monster:《機皇帝ワイゼル∞》《ワイゼルT3》《ワイゼルA》《ワイゼルG》《ワイゼルC》
FieldMagic: 《スピード・ワールド2》
Magic&Trap:Set2(内1枚は《ゴースト・コンバート》
綴
LP:2000
Hand:2
Monster:《人造人間-サイコ・ショッカー》
FieldMagic: 《スピード・ワールド2》
Magic&Trap:Set1 《リビングデッドの呼び声》
(《ワイゼル》単騎でしか攻撃しなかったってことは、あれはアニメ版とタッグフォース版の複合?《ゴースト・コンバート》もタッグフォース版だったし……でもそれも関係ないわ。このターンですべてが決まるんだから)
ドローカードを見て、綴は笑みを深めた。
「僕は表側表示の《リビングデッドの呼び声》を手札に戻し、墓地の《BF-精鋭のゼピュロス》の効果発動!このカードを特殊召喚し、僕は400ポイントのダメージを受ける。……くぅ!」
綴:LP2000→1600
蒼い体毛に黒き翼の鳥人が颯爽と登場すると、ダメージの実体化により、胸を押さえる綴。だが、彼は嗤いを止めない。
「《リビングデッドの呼び声》がフィールドから離れると対象となっているモンスターは破壊されるけど、その効果は《サイコ・ショッカー》によって無効化されている。そして、僕は《ゼピュロス》をリリース!《サイバー・ドラゴン》をアドバンス召喚!」
黒い機械龍が吼える。本来ならば白いボディのはずのそれは、欲望の黒に染まっていた。
「あ、やべ」
「むう……」
「ふざけるな!そいつは、そのカードは……!!」
三者三様に驚愕を示す三皇帝。気付いているのだ。既に、詰んでしまっていることに。
(対策は万全だったはずだ!《神の宣告》に加え、伏せてある《奈落の落とし穴》であのカードの召喚は防げたはずだ!だが、現に今、奴の召喚を許してしまっている!どこで、なにを、間違えた―――?)
「僕は《サイバー・ドラゴン》と機械族である《ワイゼル》パーツ5体を墓地に送る!」
機械龍の腹が開き、触手のように無数のコードがうねると、人を司る機皇帝の全身を捕らえ、体内に収める。すると、龍の身体が光り、妖しく膨張し、変形する!
「おいで、僕のマシンキラー!《キメラテック・フォートレス・ドラゴン》を特殊召喚!」
それは機械の龍だった。それは要塞だった。龍の頭部から尾までを9つのホイール状のパーツを連ねて構成された要塞龍。一部のホイールからは、《サイバー・ドラゴン》に似た機械龍が首を出し、咆哮。傲然とレーンを揺さぶる。
「貴様!よくもオレの《ワイゼル》を!」
「吸収能力を持つモンスターが吸収される。皮肉なものね。《フォートレス・ドラゴン》の攻撃力は素材となったモンスターの数×1000ポイントになる。素材は6体。よって攻撃力は―――」
《キメラテック・フォートレス・ドラゴン》ATK6000
「攻撃力、6000……!!」
「ダメージが実体化するって言ってたわよね?6000のダメージを受けちゃったらどうなるのかしら?だけどサレンダーすれば、そのボディが破壊されることはない。あなたも僕に初めてを捧げなさい?」
「ふざけたことを!なぜオレが人間如きに屈服しなければならない!」
「きひひひひ!やめとけよプラシド。直せるって言っても手間がかかるんだしさ!素直に言うこと聞けよ!」
「その通りだ。敗北を受け入れ、その男の利用価値を認めるのだ」
「断る! 頭を下げるくらいなら壊された方がマシだ!」
プラシドの叫びに、綴は目を細めた。
つい先ほども、似たような言葉を聞いた気がする。
勝てる見込みがなくとも、決して負けを認めようとしない。
不動遊星も、この男も、どうしてこうまで頑固なのだろう。
もっとも、その頑固さこそが綴の好むものでもあった。
「……そう。なら、仕方ないわね」
綴は《キメラテック・フォートレス・ドラゴン》を見上げた。
「あなたが選んだんだもの」
プラシドは顔を歪めた。
「何を……!」
「決まってるでしょう?」
綴の指が、攻撃宣言へ伸びる。
「その意地ごと、叩き潰すのよ」
綴にとって、サレンダーは恥ではない。
だから、相手がそれを拒んだなら、最後まで戦うだけだ。
その選択を尊重しているつもりだった。
けれど、相手の意地を折る瞬間を見たいという欲望も、確かにそこにあった。
「やってみろ、人間風情がッ!」
「ええ。遠慮なく」
綴が腕を振り抜いた。
「《キメラテック・フォートレス・ドラゴン》で、ダイレクトアタック!」
巨大な機械竜が咆哮する。
六体もの機械を取り込んだ巨体が、凄まじい速度でプラシドへ迫った。
「ぐ……ッ!」
プラシドは身構える。
次の瞬間――。
「う、おおおおおおおおッ!!」
轟音。
実体化した衝撃がプラシドの身体を吹き飛ばし、そのまま路面を何度も転がしていく。
「プラシド!」
ルチアーノが叫ぶ。
だが、プラシドはすぐに立ち上がった。
「……まだ、だ……!」
身体は震えている。
それでも、その目から闘志だけは消えていない。
綴はそれを見て、楽しそうに目を細めた。
「へえ……」
「この程度で……オレが……!」
「ふふ」
綴は小さく笑った。
「やっぱり、そっちの方がいいわ」
「何……?」
「そんな簡単に折れるような人間じゃ、つまらないもの」
綴はデュエルディスクをDホイールから外す。
「あなた、さっき言ったわよね。頭を下げるくらいなら壊された方がマシだって」
「……ああ」
「だったら覚えておきなさい」
綴は真っ直ぐにプラシドを見つめた。
「その意地を貫くなら、それ相応の覚悟を持ちなさい」
「…………」
「敗北を認めることと、誇りを捨てることは同じじゃないわ」
「……貴様に、何が分かる」
プラシドは低く唸った。
「人間風情が……このオレに説教するつもりか!」
「あら、説教のつもりはないわよ。ただ、あなたがあんまり頑固だから」
「黙れ!」
怒声が夜のデュエルレーンに響いた。
綴は肩をすくめる。
「まあ、僕が言っても説得力はないでしょうけどね。僕だって負けず嫌いだもの」
「…………」
プラシドは拳を握り締めた。
自分の《ワイゼル》が、あの機械龍に飲み込まれる光景を思い出す。
対策はしていた。
相手の罠を封じる手段も、勝利への道筋も用意していた。
それでも、敗れた。
「……気に入らん」
「そうでしょうね」
「貴様の戦い方も、その態度も、何もかもだ!」
「ふふっ。そこまで嫌われちゃった?」
「だが――」
プラシドは歯を食いしばった。
「このオレの《ワイゼル》を攻略したことだけは、事実だ」
認めたくなどなかった。
それでも、目の前で起きた敗北まで否定するほど、プラシドは愚かではない。
「次はないぞ、湯上綴。必ず貴様を叩き潰す」
「ええ。楽しみにしているわ」
綴は満足そうに笑った。
デュエルディスクの勝利の表示を眺めながら、ふっと息を吐いた。
「……二連戦はさすがに疲れたわね。帰ったら甘いもの食べたい」
「……ふむ。そういうところだけ普通なのだな、お前は」
ホセが呆れたように言う。
「失礼ね。僕はいつだって普通よ?」
「人に認められたいが故の戦術は普遍的とはいえまいよ」
「きひひひひ!」
遠くでは、プラシドがゆっくりと立ち上がっていた。
その顔には、怒りと屈辱が残っている。
だが――同時に、確かな興味も浮かんでいた。
「湯上綴……」
その名を、プラシドは噛み締める。
「覚えておくぞ」
プラシドの視線を背中に感じながら、綴は口元に笑みを浮かべた。
イリアステルとの接触。
シグナー達と戦うための、新しいチーム。
思いがけず、面白い舞台が整い始めている。
「……待っていて、遊星」
今日のデュエルでは、忘れられないものを残せた。
けれど、まだ足りない。
遊星が最後に見せた、あの冷たい横顔。
あれでは、満足できない。
「次はもっと、僕のことを見てもらうから」
綴は楽しそうに笑った。
「あなたの心に、僕を刻み付けてあげるわ」