「……ごめんなさい。待たせたわね。行きましょう。遊星、ブルーノ」
綴は頬を伝った涙を拭い、ゆっくりと立ち上がった。
胸の奥に空いた穴は、まだ塞がっていない。
テイルの最後の笑顔が、脳裏から離れない。
あの声も、最後に託された言葉も――まだ耳の奥に残っている。
それでも。綴は、もう一度前を向いた。
悲しみを捨てたわけではない。忘れたわけでもない。
だが、だからこそ――進まなければならない。
「大丈夫かい? なんて、聞いてもキミは止まらないよね」
「ああ、だが無理をするな」
「平気……じゃないけどね。けど、テイルがいたこの世界を守らないと」
その言葉に、遊星とブルーノは静かに頷いた。
三人はそれぞれDホイールへと跨る。エンジンが唸りを上げる。
そして――三台のDホイールが、再び走り出した。
失った仲間の想いを胸に。残された者たちが託された未来へ向かって。
やがて三人は、アキ、クロウ、シェリー、アリア、ジャック、龍亞、龍可の七人と合流した。
「遊星!謎D!綴!」
クロウ達が駆け寄ってくる。
「みんな、無事だったか!」
「ええ!」
仲間たちの無事を確かめる声が飛び交う。
その中で、龍亞が嬉しそうに右腕を掲げた。
「遊星!見てよこれ!」
そこには、新たに刻まれた痣があった。
「オレ、6番目のシグナーだったんだ!」
「遊星、お前にもみせてやりたかったぞ、龍亞のデュエルを」
「龍亞がいなかったら遊星ギアは止められなかったんだから」
ジャックと龍可が、誇らしげに龍亞を讃える。
「……よくやった、龍亞」
遊星が龍亞の頭を撫でる。
「へへ……」
龍亞は照れくさそうに笑った。
その光景を見つめながら、綴の視線がシェリーとアリアへ向く。
「シェリー、アリア……」
二人の顔を見た瞬間、その表情が僅かに曇った。
「テイルが……」
「そういえば、テイルがいねえな?」
クロウが周囲を見回す。
その問いに、空気が止まった。
「それは、ボクが説明しよう」
ブルーノが静かに口を開いた。
そして――赤いサングラスを外す。
その下から現れた瞳が、仲間たちをまっすぐに見つめた。
「……!」
遊星を除くシグナー達が、驚愕に目を見開く。
「ええ、ブルーノ!?」
「貴様……ブルーノの分際で今まで正体を隠していたのか!」
驚きと警戒が、一斉に噴き出す。
だがブルーノは、それらを受け止めるように静かに立っていた。
「ボクの本当の名前はアンチノミー。Z-ONEによってキミ達の元に送り込まれたんだ。遊星をクリアマインドの境地に導くために」
「敵ってこと……?」
龍可が不安そうにブルーノを見つめる。
「いや……遊星と綴とのデュエルを経て、ボクはキミ達の可能性に賭けることにしたよ。けど、その過程でテイルが……」
ブルーノの声が、そこで僅かに沈む。
そして彼は、すべてを語った。
テイルがティエラに身体の主導権を奪われたこと。
自分と同じように、アーククレイドルを守る者として立ちはだかったこと。
そして――最後には自ら主導権を取り戻し、三人を生かすために、その身を犠牲にしたこと。
話が終わる。
誰も、すぐには言葉を返せなかった。
その沈黙を破ったのは、クロウだった。
「許せねえ! テイルを遊星ギアの盾に使うなんて!」
怒りが、声となって噴き出す。
「ブルーノ! Z-ONEはこの上にいるんだな?」
「……ああ」
遊星の問いに、アンチノミーは静かに頷いた。
「いくぞ、遊星、綴!テイルの仇を取りに!仲間を盾に使われて、このまま黙っていられるか!」
ジャックが拳を握り締める。
その言葉に、綴は顔を上げた。
「ええ、行きましょう!Z-ONEの元へ!」
遊星もまた、仲間たちを見渡す。
失った者がいる。けれど、その想いは消えてはいない。
むしろ今、残された仲間たちの胸の中で、確かな力へと変わっている。
「みんな!行くぞ!」
遊星の声が響く。
九人が、力強く頷いた。
そして彼らは、再び走り出す。待ち受ける最後の敵――Z-ONEのもとへ。
悲しみも。怒りも。そして――テイルから託された想いも。
すべてを胸に抱えて。
しばらく進んだ先で、景色が一変した。
そこに広がっていたのは、瓦礫の山だった。
砕けた建造物。崩れ落ちた機械。用途すら分からない無数の残骸。
まるで、世界そのものが役目を終え、打ち捨てられたような場所だった。
「なんだここは?」
「ゴミだらけじゃん……」
『ようこそ、チーム5D’sの皆さん。湯上綴、アリア、シェリー……そしてアンチノミー』
どこからともなく、声が響いた。
その一言だけで、空気が張り詰める。
「こっちだ!」
声のする方へ、一同がDホイールとDボードを走らせる。
瓦礫の山を越えた、その先――。
巨大な残骸の頂に、それは鎮座していた。
卵を思わせる丸み。そして、アンモナイトを思わせる螺旋状の構造。
機械で造られたとは思えないほど異様で、それでいてどこか神秘的な揺り籠。
その上部に、一人の男がいた。仮面を被り、静かにこちらを見下ろしている。
「Z-ONE!」
「ついに姿を現したな!」
その存在を目にした瞬間、全員の緊張が頂点に達する。
「皆さんのデュエルは見せていただきました。流石はチーム5D’sと湯上綴。見事な闘いぶりでした。しかも、シェリー、アリア、アンチノミー。貴方達も一緒とは」
Z-ONEの声は静かだった。怒りもない。
ただ、長い年月をかけて一つの結論に辿り着いた者だけが持つ、冷たい確信がそこにはあった。
「もう過去は振り返らない!私は未来だけを見て生きていく!」
「我が子に恥じない人生を送ることにしたよ。償いは後でするさ」
シェリーとアリアが、それぞれの決意を言葉にする。
過去に囚われていた者たちも、今は未来へ進もうとしていた。
その姿を見つめながら、アンチノミーが一歩前へ出る。
「Z-ONE!《創星神 tierra》を用いた人類を選別する計画は崩れた!このままアーククレイドルを堕として、モーメントを消滅させても、多くの犠牲を生むだけだ!だから……」
「だから諦めろ、というのですか? アンチノミー」
言葉を遮ったZ-ONEの声には、僅かな揺らぎもなかった。
「そうだ!チーム5D’sのみんなや綴が証明してくれた!人々は欲望や誘惑に囚われずに、未来を目指すことが出来ると!」
ブルーノの言葉が、瓦礫の空間に響き渡る。
人間の可能性。
何度も壁にぶつかりながら、それでも立ち上がる力。
そして――誰かのために、自分の限界さえ超えていく力。
「ふっ……確かに、彼らならば悪しき心を持たず前に進めるかもしれません。しかし、それ以外の人間がそうであるか、とは断言できないでしょう。故に。計画は止めません。モーメントごとネオドミノシティを消滅させ、多くの犠牲を以て警鐘を鳴らさなければ、人々がそう簡単に変わることはない」
「……」
ブルーノは、すぐには言葉を返せなかった。
Z-ONEが見ているのは、目の前にいる十人ではない。
その背後にいる、数え切れないほどの人間たち。
欲望に負ける者。争う者。過ちを繰り返す者。
それらすべてを知った上で――それでも未来を信じられるのか。
Z-ONEの仮面の奥から向けられる視線は、まるで問いかけているようだった。
――人間を、本当に信じられるのか、と。
「そんなことはないわ! 欲望に負ける人間でも、変わることは出来る! 僕がその証明よ!」
綴が、真っ直ぐにZ-ONEを見据える。
その声に、迷いはなかった。
かつての自分を否定するためではない。
かつての自分を知っているからこそ――綴は、言い切ることができた。
「ほう?」
Z-ONEが僅かに反応する。
「僕は最初、転生した後の人生のことを何も考えていなかった。遊星に自分の存在を刻み付けることが出来れば、後の未来なんてどうでもいいと思っていた。けど、遊星とWRGPで決着を着けてから気付かされたの。自分と相手のことを考えて生きていくことが、お互いの幸せにつながるって!」
「綴……」
遊星が、静かに彼の名を呼ぶ。
その言葉を聞きながら、綴は過去を振り返っていた。
自分だけを見ていた頃。自分の存在を証明することだけに囚われていた頃。
あの頃の自分なら、きっと未来など必要なかった。けれど――人は変われる。
誰かと出会い、傷つき、ぶつかり、それでも相手と向き合うことで。
自分だけでは見えなかった未来を、誰かと共に見つけることで。
綴は、そのことを自分自身の人生で知った。
だからこそ、Z-ONEの「人は変わらない」という結論を、受け入れることはできなかった。
「僕は変われた。なら――他の人だって、変わることが出来る」
その瞳に宿る光は、テイルから託されたものでもあった。
ブルーノが信じてくれたものでもあった。
そして何より――綴自身が、歩んできた人生そのものだった。
「……その通りだ、湯上綴」
その声とともに、瓦礫の向こうから一つの巨体が姿を現した。アポリア。
その機械の身体は、もはや原形を留めていることすら奇跡だった。装甲は幾重にも砕 け、内部の機械が露出し、千切れたコードが力なく垂れ下がっている。
「「アポリア!」」
「生きていたのか……!」
龍亞、龍可、ジャックが驚きの声を上げる。
しかし、アポリアは三人の言葉には答えず、真っ直ぐにZ-ONEを見据えていた。
「私は、お前達とのデュエルを通して、一つの答えを見つけたのだ」
「答え?」
アポリアは、ゆっくりと自らの胸に手を当てる。
「私は何故、あれほどの絶望を味わいながらも生き続けていたのか。―――愛する両親を失い、恋人を失い、この世にたった一人残されて……三つの絶望を味わいながらも、私は歩き続けた。それは、絶望しながらも希望を失っていなかったからだ!」
「……!」
その言葉に、Z-ONEを除く全員が息を呑んだ。
あれほど「絶望」を語っていた男が。
その絶望を、自らの生きる理由へと変えている。
「Z-ONE、私は君にも思い出してほしい。君が遊星達に抱いていた希望を!」
「Z-ONEが私達に希望を?」
アキが驚く。
「君は、アーククレイドルを出現させるために私をネオドミノシティに送り込み、サーキットを完全なものとするために、アンチノミーを送り込み、チーム5D’sの進化を促した」
アポリアの言葉を受け、アンチノミーが続ける。
「そうだ、そして今や、彼らはアーククレイドルを止めるほどまでに進化したんだ! もしかしたら、それがキミが真に望んでいたことなんじゃないのか?」
「5D’sなら、人類の進化を成し遂げることが出来るかもしれない。だから、湯上綴にも試練を与え、その証明をしようとしたんじゃないのか?」
アポリアの声が、瓦礫の空間に響く。
「人間の僅かな可能性に、最後の希望を託して!」
「……」
「ならばなぜ、その進化を遂げた彼らを抹殺しようとする?」
「……希望など、幻想にすぎないのです」
「だが、君はその希望を抱いていた!私はそれを思い出してほしいのだ!……ぐうッ!」
その瞬間、アポリアの身体が大きく震えた。
内部で火花が弾ける。機械の身体が限界を迎えているのだ。
それでもアポリアは倒れなかった。むしろ、残された力を振り絞るようにデュエルディスクを展開しようとする。
「アポリア!」
綴が駆け寄り、その腕を掴んだ。
「無理よ」
「……湯上綴?」
「僕が観測した〝物語”では、貴方はZ-ONEに敗北する。チーム5D’sに希望を繋ぐことは出来るけど、それは、貴方一人を犠牲にしてまで得るほどのものじゃない。ここは僕がいくわ」
「……おまえの観測では、私ではZ-ONEには希望を思い出させることが出来ない、と……?」
「残念だけど、そうよ。折角の命を無駄にしないで」
アポリアの動きが止まった。
綴の言葉は、単なる予言ではなかった。
――命を無駄にしないで。
その一言が、アポリアの胸に突き刺さる。
彼は、「あなたが死ななければ希望が繋がらない」などという未来を、受け入れようとしていない。
「だが、綴!」
アリアが制止する。
「Z-ONEに勝てるというのか!? 負ければ君は死ぬかもしれないんだぞ!」
「……大丈夫よ。僕を信じて」
綴は振り返らない。
その言葉に、アポリアは息を呑む。
信じてほしい。
綴がそう言った。
それは、かつて自分がZ-ONEに求めたものとは違う。
誰かを犠牲にして未来を繋ぐのではない。
誰かを信じ、その人自身に未来を託す。
――それこそが、彼の言う「可能性」なのかもしれない。
それでも、アポリアの中には迷いが残る。
自分が戦えば、希望を繋げるかもしれない。
だが、綴に任せれば――彼自身が犠牲になるかもしれない。
「……」
アポリアは、目の前の青年を見つめる。
そして初めて、自分が「守る側」ではなく、「信じる側」に立つことを求められているのだと気付いた。
その瞳には、恐怖がないわけではない。それでも――退く理由にはならなかった。
テイルが命を懸けて繋いだ未来。ブルーノが信じてくれた可能性。
そして、アポリアが今まさに託そうとしている希望。
それらを背負う覚悟が、綴の瞳に宿っていた。
「湯上綴……転生したデュエリストの中では上澄みに入る一方、その実、何の力も持たない。しかし、人間の負の感情の化身たる地縛神を従えているという点は見逃せません。アンチノミーは貴方を希望と呼びましたが。果たして真実そうであるか、私が確かめてあげましょう」
瞬間。
Z-ONEの身体が、ふわりと中空へ浮かび上がった。
その下で、瓦礫の山が大きく震える。地中から巨大な機械がせり上がった。
三つに分かれた機械のパーツ。二つは巨大なマシンアームへと変形し、残る一つが中央へと展開する。
さらに、地面に埋まっていた石板が次々と光を放った。
刻まれていたデータが巨大なカードへと変換され、宙を滑るように飛翔する。
そして、それらすべてを受け入れるように、残された装置が口を開いた。
Z-ONE専用のデュエルディスク。
それはまるで、この世界そのものが最後の戦いのために造り上げた異形の機械だった。
「貴方の力、見極めさせてもらいましょう」
その一言が、戦いの始まりを告げる。
綴が静かに頷く。
背後には、希望を託す仲間たち。
前には、人類の未来を否定する者。
その狭間に立つ綴が、デュエルディスクを構えた。
「「デュエル!」」
「貴方が先攻です。どうぞ」
「僕のターン!」
綴は六枚となった手札を扇状に広げた。
――相手の戦法は、すでに観測によって把握している。
それでも、胸の奥に緊張が走る。
知っていることと、実際に対峙することは違う。
だからこそ、一手目から迷いは許されなかった。
「僕はデッキからカードを三枚墓地に送ることで《光の援軍》を発動。デッキからレベル4以下の「ライトロード」を手札に加える。《ライトロード・マジシャン ライラ》を招集し、そのまま召喚するわ」
光が収束する。
その中から姿を現したのは、白き衣を纏った女魔術師。
彼女は静かに杖を掲げ、綴の前に立った。
《ライトロード・マジシャン ライラ》ATK1700
「カードを二枚伏せて、エンドフェイズ。《ライラ》の効果発動!デッキからカードを三枚墓地に送る。これでターンエンドよ」
墓地へ送られたカードが積み重なる。
綴は自らの墓地を一瞥した。
まだ準備段階。
だが、このカード達が後の戦いを左右する。
「これで墓地に六枚のカードがたまったか……」
「ああ。綴のデッキは墓地で発動するカードが多い。態勢を整えているはずだ」
「だが、あのZ-ONEにどこまで通用するか……」
仲間たちの声が響く。
そして――
「私のターンですね」
Z-ONEが、静かにカードを引いた。
ただそれだけの動作だった。だが、全員の視線がその一挙手一投足に吸い寄せられる。
カード一枚を引く。それだけで、この場にいる誰もが次に何が起こるのかを警戒していた。
「自分フィールドにモンスターが存在しないことで、私は手札から《時械神メタイオン》を召喚。このカードはレベル10だが、今の条件下ではリリースなしで召喚できる」
白銀の装甲に覆われた、異様なまでに細長い巨体が、音もなく浮かび上がる。
その中心。人の顔を思わせる赤い仮面が、ゆっくりと綴へ向けられた。
睥睨されている。そう感じた。
ただ宙に浮いているだけだというのに、周囲の空気が一気に重くなる。
呼吸さえ、僅かに苦しくなるほどに。
綴は無意識に拳を握った。 ――知っている。このモンスターの恐ろしさを。
その攻撃力が、わずか「0」であることさえも。
《時械神メタイオン》ATK0
「出たぞ、Z-ONEのエースモンスターが!」
アポリアが声を上げる。
「あれが……」
「だけど、攻撃力は0。どんな能力を秘めているというの……?」
攻撃力だけを見れば、脅威には見えない。
だが――綴は知っている。
時械神にとって、攻撃力0という数値は弱さを意味しない。
むしろ、その逆だ。
「私は、《時械神メタイオン》で《ライトロード・マジシャン ライラ》を攻撃」
メタイオンの身体から、炎が噴き出した。
轟音とともに放たれた炎弾を、ライラは咄嗟に杖で弾き飛ばす。
反撃。
女魔術師が放った光弾がメタイオンへ直撃する。
しかし――白銀の巨体には、傷一つ刻まれなかった。
「《メタイオン》は破壊されず、戦闘ダメージを0にする。さらに、バトルフェイズ終了時に相手フィールドに存在する全てのモンスターを手札に戻し、戻したモンスター一体につき、300ポイントのダメージを与える」
瞬間。ライラの身体が光に包まれた。
次の瞬間には、彼女の姿はフィールドから消えていた。
さらに、メタイオンの炎が、今度は綴自身へと向けられる。
「きゃあッ!」
爆炎が弾けた。
綴:LP4000→3700
熱風が全身を叩きつける。
足元が僅かによろめいた。
「大丈夫か!」
遊星が叫ぶ。
「平気よ……たった300ポイントのダメージくらい」
綴は息を整えながら立ち上がる。
痛みはある。だが、それ以上に強く胸へ刻まれたものがあった。
――やはり、来た。観測していた通りの展開。
それでも、実際に味わえば分かる。このモンスターは、攻撃力0などという数値で測れる存在ではない。
「カードを三枚伏せ、ターンエンド」
Z-ONEは、それだけを告げた。
静かなターン譲渡。だが、その静けさこそが不気味だった。
メタイオンは微動だにせず、綴たちを見下ろしている。
「僕のターン!」
汗が、ぽたりと頬から落ちた。手の甲で拭う暇さえない。
目の前にいるのは、攻撃力0という数値とは裏腹に、圧倒的な存在感を放つ《時械神メタイオン》。その力を知っている。
だからこそ、綴は怯むことなくカードを繰り出した。
「《ライトロード・マジシャン ライラ》を再び召喚!」
光が弾け、白き女魔術師が再びフィールドへ舞い戻る。
だが――
「罠カード《奈落の落とし穴》を発動。相手が攻撃力1500以上のモンスターが召喚した時、そのカードを破壊し、ゲームから除外します」
足元に、漆黒の奈落が口を開いた。《ライラ》の身体が一瞬で引きずり込まれる。
「……!」
白い衣が闇の底へ消え、女魔術師の姿は完全にフィールドから失われた。
わずか数秒。せっかく呼び戻したモンスターを、あっさりと失った。
それでも――綴は笑った。
「貴方の伏せカードを使わせられたならそれでいいわ!僕は、フィールド魔法《神縛りの塚》を発動!」
綴の手にしたカードが、強烈な光を放つ。
次の瞬間。瓦礫の大地を突き破り、巨大な柱が三本、轟音とともにせり上がった。
それぞれを繋ぐように、無数の鎖が軋む。
神を縛りつけるために造られたかのような異形の祭壇が、戦場そのものを塗り替えていく。
「そして、《戦線復帰》をリバース。墓地からモンスター一体を守備表示で特殊召喚する!僕が呼ぶのは……《地縛神 Chacu Challhua》!」
――大地が、震えた。
墓地という深淵から、何か巨大なものが這い上がってくる。
瓦礫が跳ね、地面が割れる。その裂け目から、巨大な影がゆっくりと姿を現した。
地の境界を突き破り、超弩級の鯱が浮上する。
その巨躯が完全に姿を現した瞬間――大地そのものが波打った。
巨大な水柱が噴き上がる。砕けた瓦礫を巻き上げながら、荒波のような衝撃が戦場を駆け抜けていく。やがて、大鯱が宙へ浮かび上がった。
その瞬間。戦場一帯を覆い尽くすほどの巨大な波紋が、静かに、そして不気味なほど広がっていった。
《地縛神 Chacu Challhua》DEF2400
「相変わらず、でっけえ……!」
龍亞が思わず声を漏らす。
「ほう……地縛神ですか」
Z-ONEは、巨大な神を見上げながらも動じない。
その余裕を見て、綴の瞳が鋭くなる。
「その余裕もここまでよ!《地縛神 Chacu Challhua》の効果発動!1ターンに1度、相手ライフにこのカードの守備力の半分のダメージを与える!『ダーク・ダイブ・アタック』ッ!」
大鯱の巨体が――沈んだ。
いや。地面をすり抜け、そのまま地中へと潜り込んだのだ。
次の瞬間、地表に突き出したのは、一本の巨大な背ビレ。
それが瓦礫の海を泳ぐ。大地そのものを海に変えたかのように。
背ビレが進むたび、周囲の瓦礫が激しく跳ね上がり、巨大な衝撃波が幾重にも広がっていく。回避する隙などない。防ぐ術さえない。
地中を突き進んだ大鯱が、Z-ONEの足元を通過する。
そして――黒い衝撃波が、一気に地表へ噴き上がった。
「くっ……!」
漆黒の奔流がZ-ONEを呑み込む。
Z-ONE:LP4000→2800
「Z-ONEのライフを削った!」
「いかに時械神が破壊されないモンスターであろうと、Z-ONE自身は無敵ではない。綴は最初からこれを狙っていたのか!」
爆発の余波が収まる。
そこには、なおも宙に浮かぶ《地縛神 Chacu Challhua》の巨影。
その姿を見上げながら、綴は静かに息を吐いた。
「僕はこれでターンエンドよ」
「私のターン」
Z-ONEがカードを引く。
その動作に、先ほどまで以上の緊張が走った。
「このスタンバイフェイズ。《時械神メタイオン》の効果発動。このカードをデッキに戻します」
「なっ……折角のエースカードをデッキに戻すというのか?」
白銀の巨体が、淡い光に包まれていく。
綴は目を細めた。
――来る。《メタイオン》は、最初からここに留まり続けるつもりなどなかった。
「ですが、この効果にチェーンして永続罠《闇の増産工場》を発動します。《メタイオン》を墓地へ送ることで効果発動。カードを一枚ドローします」
光に包まれていた《メタイオン》の巨体が、今度は別の闇へと引き込まれる。
フィールドから消えた。それでも――Z-ONEの放つプレッシャーは、少しも弱まらなかった。
むしろ。綴には、相手の手札が一枚ずつ研ぎ澄まされていくように感じられた。
「《闇の増産工場》を墓地へ送り、《マジック・プランター》を発動。カードを二枚ドロー」
さらに二枚、カードがZ-ONEの手札へ加わる。
使ったカードを無駄にしない。モンスターさえも、罠さえも、次の一手へ繋げていく。
まるで、すべてのカードが最初から一つの結末へ向かって配置されているかのようだった。
「また手札を増やしている……」
誰かが呟く。だが、Z-ONEは止まらない。
「私は、永続罠《虚無械アイン》を発動」
リバースカードが開く。
その瞬間、巨大な金属製の輪が空間へと出現した。
「私の魔法・罠ゾーンに他のカードが存在しないことで、墓地の《時械神メタイオン》をデッキに戻し、《無限械アイン・ソフ》をデッキからセット」
先ほど墓地へ送られたはずの《メタイオン》さえ、再びデッキへ戻される。
墓地に残す必要すらない。必要な場所へ。必要なタイミングで。
Z-ONEはカードを移動させていく。
(……今のところ、【時械神】関連カードはOCG版ね。けれど、他の「時械神」の固有効果がそうであるとは限らない……)
綴は必死に思考を巡らせる。
観測していた未来。知っているカード。知っている戦術。
それらを一つずつ照らし合わせる。
――だが。Z-ONEのデュエルは、綴が知る未来をそのままなぞっているわけではない。
ここから先に何が待っているのか。その答えだけが、見えない。
「さて、湯上綴。地縛神程度のモンスターで私に対抗しようという思い上がりを正してあげましょう。永続魔法《闇の護封剣》を発動」
空が、暗転した。
三本の巨大な剣が、天よりゆっくりと降り注ぐ。
地面へ突き立った瞬間――。
噴き出した闇が、戦場を覆い尽くした。
「このカードの発動時、相手フィールドの全てのモンスターを裏側守備表示にします」
「くっ……」
闇が《地縛神 Chacu Challhua》を呑み込む。
巨体が抗うように身を震わせる。
だが、その姿は瞬く間に闇の中へ閉ざされ、裏側守備表示となった。
綴の切り札が、封じられた。
「《神縛りの塚》による対象を取る効果および破壊への耐性も、このカードの前では無意味です。さらに、その地縛神にはバトルフェイズをスキップする効果もありましたが……裏側守備表示になればそれもまた無意味」
綴は唇を噛む。
《神縛りの塚》で守り、Chacu Challhuaの効果で削る。
その布陣を、Z-ONEは一枚のカードで崩してみせた。
「けど、エースモンスターを失ったZ-ONEに反撃の手段はあるのかしら?」
アキが問いかける。
その言葉にZ-ONEは、僅かに視線を向けた。
「何か勘違いしているようですね……《メタイオン》は主力の一つでしかありません。私は、《時械神サンダイオン》を召喚」
――空が、鳴った。
雷鳴ではない。もっと低く、重い。
大地の底から響いてくるような音。
まるで、世界そのものが軋みを上げているかのようだった。
天から、一筋の光が落ちる。瓦礫を照らす光。
その中心に――巨大な影が浮かび上がった。
白銀の装甲。金色に輝く機械構造。そして、その中心に据えられた巨大な顔。
四枚の翼を背負った異形の巨神が、何の音もなく空中へ静止する。
《時械神サンダイオン》ATK4000
「なに! 時械神は《メタイオン》だけではなかったのか!?」
アポリアが叫ぶ。だが、綴は声を失っていた。
知っている。時械神が、一体だけではないことを。
それでも――実際にその姿を目の前にすれば、理屈など簡単に吹き飛んだ。
「時械神は無と無限光から生まれ、生命そのものを司る。互いに絡み合い、十の神からなる全能の神。《時械神メタイオン》は、その一つでしかないのです」
「《メタイオン》みたいな奴が十体もいるってのかよ!」
龍亞の声が震える。
綴は答えなかった。答えられなかった。
今、目の前にいるのは、その十柱のうちの一体。しかも――攻撃力は4000。
「バトルです。《サンダイオン》で……」
「墓地の《ネクロ・ガードナー》を除外して効果発動!このターン、攻撃を一度だけ無効にする!」
瞬間。
綴の墓地から戦士の霊が飛び出した。
《サンダイオン》の前へ立ちはだかり、その巨体を包むように光を放つ。
轟音。だが、その一撃は綴には届かなかった。
「それは想定内です」
Z-ONEは、淡々と告げる。
その言葉に、綴の背筋を冷たいものが走った。
――想定内。《ネクロ・ガードナー》を使うことさえ、読まれていた。
「メインフェイズ2。《サンダイオン》をリリースし、《アドバンスドロー》を発動。カードを二枚ドローします」
「また時械神をドローに変換した……」
遊星が呟く。
綴は、黙ってZ-ONEを見つめた。
《メタイオン》を失っても、Z-ONEの手札は増えた。
《Chacu Challhua》を封じ、Z-ONEは新たな時械神を呼び出した。
そして、その《サンダイオン》さえも二枚のドローへ変えた。
戦っているはずなのに――Z-ONEのカードは、一枚も無駄になっていない。
「私はカードを二枚伏せてターンエンドです」
静かに、ターンが渡される。
だが、綴にはそれが休息の合図には聞こえなかった。
むしろ――次に訪れる、さらなる絶望のための静寂に思えた。
「僕のターン!」
綴
LP:3700
Hand:4
Monster:《地縛神 Chacu Challhua》(裏側守備表示)
FieldMagic:《神縛りの塚》
Magic&Trap:Set1
Z-ONE
LP:2800
Hand:2
Monster:
FieldMagic:
Magic&Trap:Set3(内1枚は《無限械アイン・ソフ》)+《虚無械アイン》《闇の護封剣》(継続:残り2ターン)
綴がカードを引く。
Z-ONEのフィールドには、モンスターがいない。
《サンダイオン》も消え、あれほど巨大な時械神が立っていた戦場には、今や何も残されていなかった。
――それなのに。空気は、少しも軽くならない。
むしろ、何もないからこそ不気味だった。
フィールドに伏せられたカード。そして、Z-ONEの手札。
見えているものより、見えていないものの方がはるかに多い。
綴はその事実を噛み締めながら、カードを構えた。
「僕は、《地縛神 Chacu Challhua》をリリース!《邪帝ガイウス》をアドバンス召喚!」
裏側守備表示となっていた大鯱が、音もなく闇へ溶けていく。
その闇が、今度は一箇所へと収束した。
そこから現れたのは――闇を殺すための闇。
全身を覆う重厚な漆黒の鎧は、光さえも吸い込むかのように黒く沈んでいる。
《邪帝ガイウス》ATK2400
「《ガイウス》がアドバンス召喚に成功したとき、フィールドのカード1枚を除外する!僕は、セットされた《無限械アイン・ソフ》を除外!」
邪帝が片手を掲げる。
その掌に、黒い重力球が生まれた。
標的は――Z-ONEの伏せカード。
「その効果にチェーンします。《無限械アイン・ソフ》を選択し罠カード《スキル・プリズナー》を発動。このターン、選択したカードを対象に発動したモンスター効果は無効化されます」
次の瞬間。ガイウスの掌から放たれた重力球が、透明な障壁へ激突した。
弾かれる。《無限械アイン・ソフ》は、そこに残った。
「……やっぱり」
綴は歯を食いしばる。
だが、焦りはなかった。
むしろ――確認できた。
ならば、もう一つ。
「いくわ、《ガイウス》でダイレクトアタック!」
邪帝が拳を握る。漆黒の巨体が、一気にZ-ONEへと踏み込んだ。
空気が唸る。2400の攻撃力を乗せた拳が、Z-ONEへ迫る。
「自分フィールドにモンスターが存在しないことで、手札から罠発動。《女教皇の錫杖》。モンスターの攻撃を無効にし、バトルフェイズを終了させ、500ポイントのダメージを与える」
――止まった。
ガイウスの拳が、突如として出現した女教皇の錫杖によって受け止められる。
直後。杖の先端から凄まじい雷光が迸った。
「――ッ!」
雷が綴を直撃する。
「ああッ!」
綴:LP3700→3200
身体が弾き飛ばされる。綴は地面に膝をついた。
「綴!」
ブルーノの声が響く。
綴は荒い息を吐きながら、震える脚に力を込めた。
「……問題ないわ。今のはあのカードがあることがわかっていて敢えて突っ込んだのだもの。一枚でもZ-ONEのリソースを削るためにね」
痛みは消えない。呼吸もまだ整わない。それでも、綴は立ち上がる。
今の攻撃でダメージを受けた。
だが、その代わりにZ-ONEが手札から使える防御札を一枚、確認できた。
観測した未来を、現実の戦場へと照らし合わせる。
そのために必要なら、自分のライフさえも削る。
「僕はカードを一枚伏せてターンエンド……」
だが――
「そのエンドフェイズ。《虚無械アイン》を墓地に送り、永続罠《無限械アイン・ソフ》をリバース。そしてその効果を発動。墓地の《時械神サンダイオン》をデッキに戻し、《無限光アイン・ソフ・オウル》をセットします」
――綴の表情が変わった。
再び、Z-ONEのフィールドに異形の装置が姿を現す。
∞の形をした巨大な金属が展開されていく。
墓地へ送られた時械神は、またデッキへ戻る。
そして、その代わりに現れる新たな「無限」。
「さて、私のターン」
Z-ONEは、残された二枚の手札を確認する。
迷いはなかった。
まるで、すでに次の手が決められていたかのように、一枚のカードを取り出す。
「《おろかな埋葬》を発動。デッキからモンスター一体を墓地に送る。私が墓地に送るのは《時械神ザフィオン》」
「うっ……」
綴の表情が強張った。墓地へ送られた一枚。それが意味するものを、綴は知っている。
――時械神は、墓地へ送られたからといって終わるわけではない。
むしろ。墓地に存在することさえ、Z-ONEにとっては「次の一手を準備した」という意味に過ぎなかった。
「それではいきますよ?《無限械アイン・ソフ》を墓地に送り、永続罠《無限光アイン・ソフ・オウル》を発動!」
フィールドに展開されていた巨大な機械が、ゆっくりとその姿を変える。
∞を思わせる輪。それが三角状に連なり、中心から凄まじい光を放った。
光が、戦場を白く染める。綴は咄嗟に腕で顔を覆った。
その向こう側から――Z-ONEの声が響く。
「自分フィールドにモンスターが存在しない時、手札、デッキ、墓地からそれぞれ1体までカード名の異なる「時械神」を召喚条件を無視して特殊召喚する。私は手札から《時械神ガブリオン》、デッキから《時械神サンダイオン》、墓地から《時械神ザフィオン》を特殊召喚!」
瞬間――三つの光が、同時に戦場へ走った。
それぞれが、異なる場所から現れる。
手札。デッキ。墓地。本来ならば決して同じ場所に集うことのない三枚のカードが、今、一つの戦場へと引き寄せられていく。
まるで、Z-ONEの意志そのものによって、三つの領域が繋ぎ合わされたかのように。
Z-ONEの手札から黄金の光が大きく弧を描き、その中から巨大な機械天使が姿を現す。
青白い装甲。左右へ大きく展開された翼。
宇宙を背負うように浮かぶ、異様なほど細長い巨体。《時械神ガブリオン》。
その隣では、大地そのものを踏み砕くような轟音が響いた。
デッキから飛び出したカードが閃光へと変わり、その中心から再び黄金と白銀の巨神が現れる。
分厚い装甲に覆われた巨体。巨大な機械翼。四肢の先から迸る光。《時械神サンダイオン》。
そして最後の一体は――墓地からだった。青白い光が、地面から静かに浮かび上がる。
そこから現れたのは、長い青髪を持つ女神のような姿。
人の顔にも似た美貌。その周囲を取り巻く黄金の装飾と、水面を思わせる青い光。
しかし、それは人間ではない。生命の気配すらない神像。《時械神ザフィオン》。
三体の神が、ほとんど同時に戦場へ並んだ。
その光景を前に、誰も言葉を失った。
綴は無意識に、一歩だけ後ずさった。
知っている。この戦術も。このカードたちの存在も。
それでも、知識だけでは到底受け止めきれない。
目の前に並ぶ三柱の時械神。
それはまるで、Z-ONEがこれまで温存していた「神」という概念そのものを、一気に戦場へ解き放ったかのようだった。
「時械神が一気に三体も……!」
圧巻。
誰もが息を呑む。
三柱の異形の神が並び立つだけで、戦場そのものが狭く感じられるほどだった。
だが――綴は、その威圧に呑まれなかった。すぐさま、伏せカードへ手を伸ばす。
「この瞬間!リバースカード・オープン!速攻魔法《マジックカード「死者蘇生」》!墓地から《地縛神 Chacu Challhua》を復活させる!」
綴のフィールドに、再び巨大な影が浮かび上がる。
大地を割るようにして、大鯱が戦場へと浮上した。
先ほど《闇の護封剣》によって封じられた地縛神が、再び綴自身の手によって呼び戻されたのだ。
「《Chacu Challhua》が守備表示で存在する限り、バトルフェイズは行えない!これで攻撃は……!」
綴の声に、僅かな安堵が混じる。
攻撃そのものを封じる。
これで少なくとも、三体の時械神による一斉攻撃は防げる――!
「……言ったはずですよ、湯上綴。地縛神程度のモンスターでは、私に対抗できないと。《時械神ザフィオン》を墓地へ送り、リバースカード発動。《禁じられた一滴》」
「なっ……!」
綴の表情が凍る。《ザフィオン》の巨体が、静かに水へと変わっていく。
その姿が消えた直後――
「発動時に墓地に送ったカードの数だけ相手フィールドのモンスターを選び、そのモンスターの攻撃力を半分にし、効果を無効にする。当然、対象を取る効果ではないため《神縛りの塚》による耐性は無意味です」
巨大な一滴が、天から落ちた。黒き大鯱へ降り注ぐ。それが触れた瞬間。
《Chacu Challhua》から放たれていた、あれほど強烈だった威圧感が消え失せた。
「くっ……」
綴は唇を噛む。
攻撃を封じるために蘇生した地縛神。
だが、その力そのものを奪われた。しかも――
「そして、《時械神ザフィオン》がフィールドを離れた時、私は手札が五枚になるようにドローする」
カードが引かれる。
手札零枚だったZ-ONEの手札が、一瞬にして五枚へと膨れ上がった。
綴の瞳が見開かれる。
攻撃を止めるためのカードが、そのまま相手の手札を増やすための布石になっていた。
無駄がない。一つの行動が、次の行動を生み、その結果さえも次の布石へ変えていく。
(それは原作版の効果なのね!だとすると……いけない!)
綴の脳裏を、いくつもの可能性が駆け巡る。
これまでの観測と、今のZ-ONEの動き。
その二つが、一つの未来へと繋がり始めていた。
「バトル。《時械神ガブリオン》で《地縛神 Chacu Challhua》を攻撃」
《ガブリオン》が動いた。
その巨体の周囲に青白い光が集束する。
「手札を一枚捨てて罠発動!《レインボー・ライフ》!このターン、僕が受ける全てのダメージは回復に変換される!」
綴の身体を、虹色のオーラが包み込む。
これでダメージは恐れる必要がない。
だが――
「ですが、攻撃が止められたわけではない。攻撃続行です」
直後。
津波が発生した。巨大な水の壁が《Chacu Challhua》を呑み込み、そのまま綴のフィールドへ押し寄せる。視界が白く染まった。
「《時械神ガブリオン》が戦闘を行った時、相手フィールドのカードを全てデッキに戻す」
「……!」
綴が息を呑む。《神縛りの塚》が流される。《邪帝ガイウス》も呑み込まれる。
蘇生したばかりの《Chacu Challhua》さえも、大波の向こうへ消えていく。
守り。反撃。積み上げてきたもの。
そのすべてが、たった一度の戦闘によって「なかったこと」にされていく。
だが、綴の身体を包む《レインボー・ライフ》だけは消えなかった。
「《レインボー・ライフ》の効果が適用されているため、《サンダイオン》の攻撃は行いません。カードを二枚伏せて、ターンエンド」
最後に残った《サンダイオン》が、静かにその翼を広げる。
そして、攻撃を行わずに戦場へ留まった。
綴は荒い息を吐きながら、濡れた髪をかき上げる。ライフは守った。
だが――フィールドは、ほとんど空になった。
そしてZ-ONEの手札には、三枚のカード。さらに伏せカードが二枚。
綴は、静かにZ-ONEを見据えた。――追い詰められている。
それでも、まだ終わってはいない。
次の一手を握るために。綴は、震えそうになる指を強く握りしめた。
「僕の、ターン!」
勝つのは
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綴
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Z-ONE