不動遊星の初体験を奪いたい   作:うおのめちゃん

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増殖するH
5話 快楽主義者たちの宣戦布告


 夕刻。ネオドミノシティの名所である噴水広場は、焼け燃えた真っ赤な光にとっぷりと満たされ、あたかも炎の中の光景のようであった。噴水を反射した光によって広場は一様に染め上げられる。

 中でも目立つ建物、仕掛け時計が目印の小さな時計屋―――ポッポタイム。そのガレージの中で、7人の男女が円を描くように立ち、深刻な表情で会話を繰り広げていた。その光景はなかなかに壮観。遊星、ジャック、クロウ、アキ、龍亞、龍可、ブルーノだ。

 

「えぇっ!遊星が負けた!?」

「ちょっと、声が大きいわよ龍亞。けど、そんな実力を持つデュエリストがいるなんて……」

「信じがたいわ……どんな相手だったの?」

 

 遊星が急遽仲間を呼んだのは、綴との一件について報告するためだった。一緒に住んでいない双子とアキは初めて知らされる事実に動揺した。

 

「ああ、名前は湯上綴。悪魔族を中心とした、モンスターを操ることに特化した戦術を用いる男だった」

「見た目は女の子みたいだけどね。……事実上勝利を手にしている状態で相手を嬲る、悪い子だったよ」

「なにがあったの!?」

「ああ、実は……」

 

 龍亞の問いに、遊星とブルーノがデュエルの詳細を話すと、ジャックとクロウが怒りを露わにする。

 

「相手のエースカードを奪い、いたぶるなど、【機皇帝】以上に悪質な奴だ!」

「しかもサレンダーを強要しやがって! デュエリストの風上にも置けねえ……!」

 

 ジャックとクロウが憤るのも無理はなかった。

 遊星は、二人の怒りを否定しなかった。

 

「ああ。あいつが《スターダスト》にしたことは、今でも許せない」

 

 その言葉に、仲間達の視線が集まる。

 

「だが、それとデュエリストとしての実力は別だ。あいつは俺の戦術を読み切り、正面から追い詰めた。サレンダーを強要される前に、俺は事実上、勝ち筋を失っていたんだ」

「……つまり、実力だけは本物ってことかよ」

 

 クロウが苦々しげに呟く。

 

「ああ。それに、デュエルが終わった後、あいつは俺達に助言を残した。WRGPで待ち受ける危険についても、知っているようだった」

「だからって、あの子のやったことが許されるわけじゃないけどね」

 

 ブルーノが静かに付け加える。

 

「分かっている」

 

 遊星は頷いた。

 

「それでも、あいつの言葉には耳を傾ける価値があると思う。俺達がこれから戦う相手は、あいつ以上に手強いかもしれないんだからな」

「けど、その綴ってデュエリストに対する印象が悪いことに変わりはないわ」

「当然、次は勝つんだろうな遊星!」

「そのつもりだ。だが、みんなに知っていてほしいのは、今まで俺達が見てきたもの、体験してきたものは、世界からすればまだ小さいということだ。この街にだって綴のような隠れた実力者がいたんだ。【機皇帝】だけに目を向けるんじゃない。もっと大きな視野で世界に挑まなければ、優勝には届かないだろう」

「確かにな……とは言ってもよ、具体的に何をすりゃいいんだ?」

 

 クロウが頭を掻く。アキや龍亞、龍可達も良案がすぐに思い浮かばないようだ。

 

「まずは知識をつけろ、とあの子は言ってた。『己を知り、相手を知れば百戦危うからず』って。後、『主力となるカードは簡単に除去されたり奪われたりすることを前提にしろ』とも」

「ふん、デュエリストならばカードの知識を身につけておくことは当然だ!そして、相手が未知の存在であろうとも、対処出来てこそ真のデュエリスト!そして!エースカードが狙われるなど、デュエルでは当たり前のことだ!エースに頼りすぎる戦術がいかに脆いか、おまえたちもよくわかっているはずだ。だからこそ、モンスターだけではない、魔法も、罠も、全てを駆使しなければならん!」

「偉そうに言うよな!最近は詰めデュエルで《ミラフォ》をくらうわ、偽物に1回負けるわで散々だったくせによ!」

「なんだと!確かに、最近オレが腑抜けていたのは事実。だが、そこから何も学ばないジャック・アトラスではないわ!」

「なら一度デュエルしてみようじゃねえか!俺が試してやるよ!」

「いいだろう!WRGPに向けた演習だ!ライディングデュエルで―――」

「そこまでよ!」

 

 ヒートアップするジャックとクロウの間に1枚のカードが投擲され、床に刺さる。《逆転の女神》だ。

 

「「「「だれ!?」」」」「「「誰だ!?」」」

 

 声がした方向、ガレージの扉へ視線を向ければ、夕陽に照らされた黒い影。モデルと見間違うような肢体のシルエット。ポニーテールと右半分破れたジーンズにより、遊星とブルーノは正体を察する。

 

「瑞々しい青年を堕落させてこその人生!己の欲望に従い、湯上綴、華麗に登場!とうっ!」

 

 入口の階段から跳躍すると、中空で一回転。綺麗に7人の輪の中に両足を揃えて着地する。

 

「貴様か!遊星を負かせたデュエリストは!だが今は邪魔をするでないわ!」

「テメェもデュエリストならわかれってんだ!」

「デュエルするのはいいけど、その前に大切なことを伝えないといけなくてね。遊星さん、いえ遊星。昨日、次はライディングデュエルで、って言ったの覚えてる?」

「ああ、それを今日するつもりなのか?生憎だが……」

「早とちりしないで。実は僕、急遽WRGPに出場することになってね。その報告とメンバーの紹介に来たの。さあ、いらっしゃい!」

 

 入口から二つの影が音もなく入ると、綴同様中空で一回転。彼の隣に並び立つ。

 

「年齢を重ねたマダムからしか得られない栄養がある!己の欲望に従い、同じくテイル・バウンサー、優雅に登場!」

 

 ハーフバックの若草色の髪に琥珀色の瞳。青いフライジャケットに無地の白いシャツ。墨で塗りつぶされたかのような黒いズボン。185㎝程はあろう男が、残念な発言をしたことを意に介さず、威圧感を奥に封じ込めたかのような視線であたりを見回す。

 

「うら若き少年少女の悲鳴こそ世界の宝!己の欲望に従い、同じくアリア・ラスティ、瀟洒に登場!」

 

 淡い亜麻色の髪。アンバーの宝石と見紛う瞳、それを囲う茶色の睫毛、ルージュをひいてもいないのに赤い唇。全てがオーダーメードで造られた細工品のようだ。身長は175cm程度だろうか。

 スーツ姿の彼女は挑むように、まっすぐ龍亞と龍可、アキを見据えていた。

 

「「「我ら!チーム・エイチクロス!」」」

 

 獰猛な獣が威嚇するかのようにポーズを取る。それは鷹か獅子か。龍可とアキは眩暈が沸き上がったかのような感覚を味わった。

 

「うわあ!かっこいい!」

「やめて龍亞!冷静になって!あの人たちはおかしい人たちなの!」

「そうだぞ少年。私たちのチーム名の由来を聞けば、きっと失望するだろう!」

 

 いつの間にか、アリアが龍亞と龍可の目線に合わせて屈んでいた。

 

「ひっ……!」

 

 龍可が小さく悲鳴を上げる。

 アリアは、その反応を見逃さなかった。

 

「おや。まだ何もしていないのに、随分と可愛らしい声を出すんだね」

 

 まるで珍しい音色を聞きつけた音楽家のように、目を細める。

 

「おい、龍可に近づくなよ!」

 

 龍亞が妹の前に割って入った。

 

「おお、勇敢な少年だ。妹を守る騎士というわけか。実に素晴らしい」

 

 アリアは感心したように頷いた。

 

「では、その勇気がどこまで続くのか、ぜひ確かめてみたいものだね」

「アリア、そこまで」

 

 綴が声をかける。

 

「まだデュエルも始まっていないんだから、楽しみは取っておきなさい」

「おっと、失礼。つい興が乗ってしまった」

 

 アリアが素直に身を引くと、テイルが肩をすくめた。

 

「悪いな、龍可ちゃん。あのおねーさん、ちょいと悪趣味なんだ。あんまり真に受けないでくれ」

「おまえも同類じゃないのかよ!」

 

 クロウの突っ込みに、テイルは悪びれず笑う。

 

「否定はしねえよ。でも、おれはどっちかっつーと、怖がらせるより口説く方が好きなんでね」

「どっちもおかしいわよ!」

 

 アキが即座に切り返した。

 

「ははっ、違いねえ!」

 

 テイルは愉快そうに笑う。

 

「で、チーム名の由来だったな。まず快楽主義のヘドニズム、その頭文字がH。んで、変態の頭文字もHだろ?」

「……嫌な予感しかしないわ」

「その両方を掛け合わせた狂人だから、クロス。つまり、エイチクロスってわけだ」

「うわぁ……本当におかしな人たちだったぁ!!」

 

 龍亞が叫ぶ。

 

「いいね!最高の音楽だよ!」

 

 アリアが嬉しそうに手を叩いた。

 

「やめなさい、アリア」

「そうだぞ。せっかく叙情的な音楽を意味する名前がついてるのに、毎回それはどーなんだよ」

 

 二人に同時に注意され、アリアはようやく肩をすくめた。

 

「やれやれ。芸術を理解しない仲間を持つと苦労するね」

「白々しいぞ!ガキどもには見せられねえぞコイツら!なんでWRGPに出場できるんだよ!」

「待て、クロウ。綴、昨日の時点ではWRGPへの出場は一切仄めかしていなかった。それがなぜ、今日になって出場を決めたんだ?」

 

 遊星が疑問を投げかけると、綴達は一斉に嗤いだした。狂気が湧き出す。

 

「あのね、実は僕、あなた達が帰った後、そのWRGPの偉い人達から直接勧誘を受けたの。で、今日僕の伝手でこの二人を呼んで、また連絡したら微妙な顔をしながらも言ってくれたわ」

「おれ達の欲望で会場を盛り上げてくれってな!」

「私達はいい悪役になれるともね!表の世界で欲望を開放するのは綴さえも最近まで控えていたんだが……短い人生で華々しく輝ける瞬間があるのなら、その機会に乗ってみようと思ったんだ」

 

 7人は直感した。この3人とは大会のどこかで間違いなく戦うことになる、と。

 

「ふん、運営が用意した道化か……貴様らのような奴が相手になろうと、オレ達は勝つ!」

「ふうん。なら、今日は顔見せだけの予定だったんだけど、前哨戦やってみない?この子達の門限を考えるとこの場でスタンディング形式になっちゃうけど」

 

 双子とアキを見ながら提案する綴。

 

「んじゃ、こうしねえ?WRGPに出場しない龍亞くん、龍可ちゃん、アキちゃんの中から誰がが、俺たちのうち一人を選んで挑むってのは?出場しなくても機皇帝が襲ってくる可能性はあるわけだし?その他にも女子供を人質として狙おうとするわるーい奴がいるかもだし?今のうちに悪人と戦う練習はしておいた方がいいんじゃねえかな、って思うワケ。仲間の足引っ張って、後悔したくないだろ?」

 

 その言葉は親切心からか。はたまた面白いものを見ようとしているからか。テイルは誘導するかのように言葉を投げかける。

 

「なら私が全員まとめて面倒を見よう!」

 

 アリアが一歩前に出た。

 

「一人ずつ相手にするより、三人まとめてかかってきたまえ。その方が、私も存分に楽しめる」

「待て!貴様の相手は俺だ! 新生したジャック・アトラスの力を――」

「ジャック!」

 

 龍亞が声を張り上げた。

 

「オレ、やるよ!」

「何?」

「前にルチアーノと戦った時、オレ、最後まで龍可を守れなかった!」

 

 龍亞は拳を握り締める。

 

「だから今度こそ、龍可を守れるようになりたい!」

「龍亞……」

 

 龍可が兄を見上げた。

 

「だったら、私も戦う」

「龍可?」

「私だって、守られてばかりじゃいられないもの。龍亞が私を守ってくれるなら、私も龍亞を守りたい」

 

 その言葉に、龍亞が目を見開いた。

 

「だったら、私も参加するわ」

 

 アキが二人の隣に立った。

 

「相手は私達のデッキを知っているようだし、どんな手を使ってくるか分からない。一人で挑むより、三人で協力した方がいいでしょう?」

「アキ姉ちゃん……!」

「それに、私にも負けられない相手がいるの」

 

 三人が並んでデュエルディスクを構える。

 アリアは、その姿を見て満足そうに微笑んだ。

 

「素晴らしい。互いを守ろうとする意志、仲間を信じる心。実に美しいね」

 

 そして、その笑みが深まる。

 

「では、その絆がどこまで通用するか、確かめさせてもらおう」

「三人とも、無茶はするなよ」

 

 遊星が声をかけた。

 

「大丈夫だよ、遊星! あれからオレも戦術を考えてきたんだ!」

「私も、新しい戦い方を身につけたの!」

「ありがとう、遊星。勝ってくるわ!」

 

 遊星は三人を見つめ、静かに頷いた。

 

「……分かった。自分達のデュエルをしてこい」

 

 仲間の声援を受け、少年少女のボルテージが上がる。その様子に笑みを深めるアリア。頭の後ろで手を組み、どうしようもないチームメイトをあきれた様子で見るテイル。

 

「綴、提案しといてなんだけど、アリアがあの子たちをぶっ壊しすぎるとまずいんじゃねえの?」

「大丈夫よ。『少年、これが絶望だ』を先取りしないように言いつけてあるから。加減はしてくれるはず。……はず」

「ああ、絶対に必要なイベントだっていう龍亞くんのあれな。そこは自信持って断言して……いや出来ねえな。アリアだし」

 

 二人が雑談するのを尻目に、アリアがルールを確認する。

 

「ライフはそれぞれ4000。また、全プレイヤーは先攻1ターン目には攻撃できない。そして先攻は私がもらう。後攻の君達3人がどの順番でターンを回すかは好きにするといい。そして、フィールドのカードを全て破壊する効果は全員のフィールドに及ぶ。《ブラック・ローズ・ドラゴン》の効果を使うときは気を付けることだ。それで構わないね?」

「ライフアドバンテージもハンドアドバンテージも要求しないのね、私たちを侮りすぎているんじゃないかしら?」

「君達の想定通り、私は君達のデッキを知っている。情報アドバンテージは何にも勝るからね。これでイーブンだと私は思っているよ」

(知られているってことは対策もされているってこと?でも、全員に対処するなんてできるの?)

「不安そうな顔するなって龍可!何があってもオレが守るから!」

「ありがとう、龍亞。アキさんと一緒にこの人を倒しましょう!」

「いい兄妹愛だ、昂るね!……始めようか」

 

 アリアの雰囲気が一変する。瞬間、ガレージに闘気の渦が迸る。お互いに決闘盤を構える。合図は要らなかった。

 

「「「「デュエル!!」」」

 

こうして決闘は始まる。最初からヤる気十分のアリアと未知のデュエリストからのに対し勇気をもって立ち向かう3人。4つの頭脳が火花を散らす。

 

「私のターン、ドローだ!」

 

 慣れた手つきでカードを1枚選ぶと、早速場に繰り出した。

 

「《創造の代行者 ヴィーナス》を召喚!」

 

 先鋒は金星の名を冠した長髪の女天使。見た目はアリアの外見に似合っていると言っていいだろう。

 

「ライフを500支払い、効果発動!デッキから《神聖なる球体》1体を特殊召喚する!」

 

 聖なる輝きに包まれた球が浮遊して登場。

 

「この効果に回数制限はない!ライフ500をさらに2回支払い《神聖なる球体》2体を特殊召喚!」

 

アリア:LP4000→2500

 

「一気にモンスターを4体も展開してきた!いきなりエースカードを呼び出すのか?」

「焦らないことだ、ブルーノちゃん。効果モンスターではない《神聖なる球体》1体を墓地に送り、《馬の骨の対価》を発動。カードを2枚ドローする。そして、私はフィールドの3体のモンスターを墓地へ送る!」

 

 3体のモンスターを糧として、紅・蒼・翠。三条の光柱が顕現する。徐々に螺旋状に閉じてゆけば、それは目を見張るほど美しい一条の白色の光柱へと変化した。これを見続けていたら、視界の全てがあの色に染まってしまうのではないか、と錯覚するほど鮮烈な光景。

 

「子供は未来の可能性に溢れているという。だぁがぁ!君達の運命は既に決まっている!来い、私の究極の闇の支配者!《アルカナフォースEX-THE DARK RULER》!!」

 

 淡く浮かび上がったその光から飛び出したのは、巨大な機械のような天使、異形だった。緑色の2つの眼を宿した無機質な顔、艶のある漆黒のボディ、身体を支える2本の逞しい尾、全てを引き裂かんとする鋭い爪、決して穢れることのない神々しさ。アリアの中にある欲望を誇示するかの如く、ガレージの中で圧倒的な存在感を放つ。

 

《アルカナフォースEX-THE DARK RULER》ATK4000

 

「こ、攻撃力4000!?」

「あわてるな少年。この支配者に効果耐性はない。充分対処できる範囲だとも。特殊召喚時、効果発動!」

 

 闇の支配者の前にその依り代となるカードが出現し、回転し始めた。

 

「このカードはタロットのように正位置と逆位置で効果が変わる。さあ、任意のタイミングで「ストップ」と宣言したまえ」

「ここは私がやるわ。……ストップ!」

 

 アキの宣言により、イラストが正反対の位置で止まった。即ち逆位置。

 

「《THE DARK RULER》の逆位置の効果。このカードが破壊される場合、フィールドの全てのカードを破壊する!この効果はチェーンを組まず、カウンター罠でも止めることは出来ない!」

「!……全体破壊効果は、みんなのフィールドに及ぶ。迂闊に破壊できない……」

「その通りだ少女よ。さらに!私の墓地に天使族モンスターである《ヴィーナス》及び《神聖なる球体》3体の計4体のみが存在することで、このカードは特殊召喚できる!来い、私の頼れるしもべの一角!《大天使クリスティア》!」

 

 白い甲冑に身を包んだ朱色の翼の天使が降臨。さらにフィールドを神聖なものへと変えていく。

 

《大天使クリスティア》ATK2800

 

「《クリスティア》が特殊召喚に成功した場合、墓地の天使族モンスター1体を手札に加えなければならない。私は《ヴィーナス》を手札に加える」

「《クリスティア》……!あのカードが場に存在する限り、お互いにモンスターを特殊召喚が出来ない。強力なモンスター2体をこうも簡単に……!」

「ええ!それってシンクロ召喚どころか、デッキや墓地、手札からの特殊召喚もできないってこと!?」

「少年、まだこのカードをフィールドから退かす道は残っているぞ、がんばりたまえ。私はそれを承知の上で対策するがな!カードを2枚伏せて、ターンエンド!」

 

アリア

LP:2500

Hand:3(内1枚は《創造の代行者 ヴィーナス》)

Monster:《アルカナフォースEX-THE DARK RULER》《大天使クリスティア》

FieldMagic:

Magic&Trap:Set2

 

「私が先にいくわ。龍亞、龍可。《THE DARK RULER》の効果がいつ起動されるかわからない以上、カードを場に出しすぎないで。最低限の動きで守りを固めながら、反撃のチャンスを待つのよ」

「わかったよ、アキ姉ちゃん!」

「頼りにしてます!」

(といっても、攻撃力4000のダイレクトアタックを受ければ、敗北してしまう……。相手モンスターの攻撃を私だけでどこまでしのげるか……。守りの堅い龍可が要になりそうね。なら、私の役割は二人をサポートすること!)

 

 アキは決意を固めると、デッキに手を伸ばした。

 

「私のターン、ドロー!」

 

 引いたカードを一瞥。《月の書》。類似効果を持つ《幻影破壊》の代わりに投入したカード。先の展開を想定する。

 

(《THE DARK RULER》に使えば、全体破壊効果をなくすことが出来る。あの効果は、特殊召喚成功時に決定される効果だから。けど、それでは特殊召喚を封じる《クリスティア》への対策が疎かになってしまう……ここは!)

 

「《ボタニカル・ライオ》を攻撃表示で召喚!このカードの攻撃力はフィールドの植物族モンスター1体につき300ポイントアップする!」

 

《ボタニカル・ライオ》ATK1600→1900

 

「さらに、カードを2枚伏せ、ターンエンド!」

 

 アキが最低限の動きでターンを終えると、龍可が前に出た。

 

「龍亞、次は私のターンにする。龍亞が後で思いっきり攻撃できるよう、サポートするから!」

「ああ、頼んだよ、龍可!」

「私のターン、ドロー!えっと……」

 

 先程のアキの指示を思い出す。目の前には攻撃力2800と4000を誇る大型モンスター。

 

(けど、あのモンスターたちは守りを突破することには長けていない。《THE DARK RULER》の破壊効果が怖いけど、あの人も《クリスティア》をすぐに失うような真似はしないはず。なら、このカードで持ちこたえることができる……)

 

「モンスターをセット!カードを2枚伏せ、ターンエンド!」

「よし、オレのターン、ドロー!シャッキーン!」

 

 大げさなアクションでカードをドローする。目の前に変態がいても、仲間たちがいるからいつも通りのテンションでいられる。

 

(守りを固めるんだったよな。じゃあ、このモンスターを伏せればいいってことだよね)

 

「モンスターをセット、カードを1枚伏せて、ターンエン―――」

「少年のエンドフェイズに《THE DARK RULER》を選択し《デストラクト・ポーション》を発動。選択したモンスターを破壊し、その攻撃力分だけ私のライフを回復する」

「いきなり全体破壊を狙って……!?なら、《THE DARK RULER》を対象に《月の書》を発動!《THE DARK RULER》を裏側守備表示にする!これで、全体破壊効果を《THE DARK RULER》は失い、さらに、《デストラクト・ポーション》は裏側表示のモンスターを破壊することは出来てもライフは回復しない!」

「かしこいねお嬢さん。だが!カウンター罠《八式対魔法多重結界》発動!モンスター1体を対象とする魔法の効果を無効にし、破壊する!」

 

 青い背表紙の本が放つ眠気は青い結界に阻まれた。そして、闇の支配者はその身を盛大に爆発させ、その残滓がアリアに取り込まれる。

 

アリア:LP2500→6500

 

「チェーン終了。そして《THE DARK RULER》の特殊能力発動。フィールドの全てのカードを破壊する!」

 

 黒い光の雨が問答無用といわんばかりに降り注ぎ、小規模な爆発を決闘場の各所で巻き起こした。

 

「きゃあっ!」

(《ボタニカル・ライオ》に《棘の壁》まで……)

「いやっ!」

(《マシュマロン》が……)

「うわぁ!」

(ごめん、《ステープラン》……)

「ふふ……」

 

 更地となったフィールド。それを見て、アリアはほくそ笑む。

 

「《クリスティア》は墓地へ送られる場合、墓地へは行かず私のデッキの一番上に戻る」

「まずいぜ!次はあいつのターンだ、フィールドががら空きになっちまった以上、手札か墓地に攻撃を防ぐカードがねえと、誰か一人は脱落する可能性がある!」

「アリア、大胆にやったわね……けど、手札の差はまだある。全員に勝つつもりはあるのかしら……?」

「私のターン、《クリスティア》をドロー!」

 

アリア

LP:6500

Hand:4(内2枚は《創造の代行者 ヴィーナス》《大天使クリスティア》)

Monster:

FieldMagic:

Magic&Trap:

 

アキ

LP:4000

Hand:3

Monster:

FieldMagic:

Magic&Trap:

 

龍可

LP:4000

Hand:3

Monster:

FieldMagic:

Magic&Trap:

 

龍亞

LP:4000

Hand:4

Monster:

FieldMagic:

Magic&Trap:

 

「墓地に天使族が《神聖なる球体》3体及び《THE DARK RULER》の計4体のみのため、《大天使クリスティア》を特殊召喚!特殊召喚時の効果により、《THE DARK RULER》を手札に加える」

「またか……しかもあの女の手札には《ヴィーナス》もいる。あれの攻撃力は1600。召喚されれば《クリスティア》とのダイレクトアタックで一人は負ける……」

「ジャックくん、そんなつまらないことを私がするとでも?」

「“くん”だとぉ!?」

「落ち着け、ジャック!ならば、何を狙っているんだ……!?」

「《手札抹殺》を発動。お互いに手札を全て捨て、その枚数分ドローする!私がドローするカードは3枚。お嬢さんと少女も3枚。少年は4枚だね。全体破壊を避けて温存していたカードが捨てられる気分はいかがかな?」

「いいえ、そう悪いものでもないわ!」

「ほう……」

 

 アキの言葉に興味を示すアリア。手札交換を無事に終え、彼女はさらに動く。

 

「墓地の《神聖なる球体》3枚、《ヴィーナス》、《THE DARK RULER》の5体を対象に《貪欲な壺》を発動!対象モンスターをデッキに戻し、カードを2枚ドローする!」

「《神聖なる球体》2枚引いて悶絶しねえかな」

「テイル、戯けたことをいうものじゃない。運命は私に微笑んでいる!ドロー!……ふ」

 

 アリアが嗤った。今までの余裕を見せつけるかのような嗤い方とは違う。獲物を恐怖させるための嗤い。3人は胸を掻きむしられるかのような感覚を味わった。

 

(あの人は危険だわ……)

(あの人、やっぱり怖い……)

(怯えちゃダメだ、しゃんとしろオレ!)

 

「いい表情だ。さて、誰に絶望を味わらせようか」

「誰も傷つけさせはしない!私は墓地の《光の護封霊剣》を除外して効果を発動!このターン、あなたのモンスターは直接攻撃できない!」

「龍可、ナイスプレイ!よし、これでこのターンはみんな無傷で……」

「そうはいかないんだよ。手札から《スカル・マイスター》を捨てて効果発動。墓地で発動したカードの効果を無効にする」

「そんな……!!」

 

 焦る龍可。思わず二人を見回す。攻撃を防ぐ手段を求めて。

 

「ごめんなさい。私には……」

「オレも……」

「ううん、謝らないで……それに、まだあの人の手札に召喚できるモンスターがいると決まったわけじゃ」

「決まっているとも、運命は!《ライオウ》を通常召喚」

「あっ……」

 

 それは近代化された土偶と言っていいだろうか。焼土の代わりに鉄鋼を、呪力の代わりに電力を使った祭具。変わらぬ鉄仮面で甘い考えを持った敵を咎める。その攻撃力は1900。

 

「さあ、悲しみの声を聴かせてくれ! バトルだ! 《ライオウ》と《クリスティア》で少女を攻撃!」

「やめろぉっ!」

 

 龍亞が叫んだ。

 だが、その声で攻撃が止まるはずもない。

 《ライオウ》の雷撃が龍可を襲い、続けて《クリスティア》の光が彼女を包み込んだ。

「きゃあっ!」

 

龍可:LP4000→2100→0

 

「龍可!」

 

 龍亞は思わず妹のもとへ駆け寄った。

 龍可は尻もちをついていたが、怪我はない。

 

「大丈夫……。ちょっと、びっくりしただけ」

「本当に?どこも痛くない?」

「うん。だから、そんな顔しないで」

 

 龍可は微笑もうとした。

 けれど、龍亞は顔を上げられなかった。

 

(まただ……)

 

 ルチアーノとのデュエルが脳裏をよぎる。

 今度こそ守ると決めた。

 あれから新しい戦い方も考えた。

 それなのに、何もできなかった。

 

「安心しろよ、龍亞くん。ダメージは実体化してねえんだから、怪我の心配はねえって」

 

 テイルが軽い調子で言った。

 

「……そういうことじゃない」

「あん?」

「そういうことじゃないんだよ……!」

 

 龍亞は拳を握り締めた。

 

「オレは、龍可を守るって言ったのに……!」

「龍亞」

 

 アキが静かに声をかける。

 

「私もフォローできなかった。対策の対策まで考えが及ばなかったのは、私の落ち度よ」

「でも……!」

「悔しいのは私も同じ」

 

 アキはアリアを見据えた。

 

「だけど、まだデュエルは終わっていないわ。私達がここで諦めたら、龍可の頑張りまで無駄になってしまう」

「……!」

「そうだ、龍亞!」

 

 ジャックの声が響く。

 

「デュエリストならば前を向け!敗北を恐れるな!悔しさを力に変えろ!」

 

 龍亞は唇を噛んだ。

 そして、ゆっくりと顔を上げる。

 

「……うん」

 

 まだ悔しい。

 悔しくて仕方がない。

 それでも、龍可は自分を信じてくれている。

 

「オレ、まだ戦える……!」

「うん。頑張って、龍亞」

 

 龍可の声に、龍亞は強く頷いた。

 

「絶対に、あいつを倒してみせる!」

 

 激励を受け、前を向く少年。その純情は不屈のものとなっていく。

その様子を悪役二人は興味を惹かれたかのように見つめていた。

 

「んん……!やっぱり絆っていいわね」

「おれ達も仲間だろー?」

「あなた達のことはもちろん好きよ?だけど、ああいう、純粋な心を持っているのもいいじゃない。目の前に気持ちのいいことなんてたっぷりあるのに、夢・希望に向かおうとする意志。綺麗だわ……。それを落とすのが僕達の快楽決闘主義なんだけどね!」

「だな!……おれがマーサハウスで何してるか言ったらどんな顔するんだろうなあ、あいつら?」

「それはまだ秘密にしておきなさい。直接対戦する直前くらいで『衝撃の真実ゥ』するのが面白いんだから」

「へいへい、わかりましたよっと。で、場の状況は……?」

 

アリア

LP:6500

Hand:1

Monster:《大天使クリスティア》《ライオウ》

FieldMagic:

Magic&Trap:Set1

 

アキ

LP:4000

Hand:3

Monster:

FieldMagic:

Magic&Trap:

 

龍亞

LP:4000

Hand:4

Monster:

FieldMagic:

Magic&Trap:

 

「アリアが1枚リバースを伏せただけでターンエンドしたわ」

「そうかい。じゃあ、どう反撃するか見てやろうじゃねえか」

 

 テイルが腕を組み、二人のデュエリストへ視線を向ける。

 龍亞とアキ。

 二人のフィールドには何もない。

 対するアリアの場には、《大天使クリスティア》と《ライオウ》。

 特殊召喚を封じられたまま、この布陣を突破しなければならない。

 

「……龍亞、準備はいい?」

「うん!」

 

 龍亞はデッキに手をかけた。

 先ほどまでの落胆は、まだ消えていない。

 それでも、もう俯いてはいなかった。

 

「オレ達は、まだ負けてない!」

 

 その声を聞き、アリアは満足そうに微笑んだ。

 

「いいね。その意気だよ、少年」

 

 希望を失わない者達。

 その希望を奪うことに喜びを覚える者。

 両者の視線が交差する。




同じ場に登場人物が十人もいると意識しなければならないことが多い……多い……!!

ちなみにオリキャラ三人の声のイメージは
湯上綴:村瀬歩さん
テイル・バウンサー:宮野真守さん
アリア・ラスティ:甲斐田裕子さん
です。

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