不動遊星の初体験を奪いたい   作:うおのめちゃん

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6話 黒薔薇は散る

 龍可を脱落させてしまった後悔。変態に負けてなるものかという意地。応援してくれる皆の期待を裏切りたくない想い。これらが、アキと龍亞の原動力だった。まずはアキが、事態を打開せんとして動く。

 

「私のターン、ドロー!」

 

 目の前には特殊召喚を封じる《大天使クリスティア》と《ライオウ》。そしてリバースカードが1枚のみ。

 

(あの人の引きは強い……防がれる可能性はあるけど、後に残すためには!)

「墓地の植物族モンスター《ボタニカル・ライオ》を除外して、《クリスティア》を対象に《薔薇の刻印》を発動!対象モンスターのコントロールを得る!」

「ふ、そんな効果を通すと思っているのかい?《サイクロン》を発動!《薔薇の刻印》を破壊する!」

 

 竜巻が大天使に宿ろうとしていた刻印を剥がす。だが、それも狙い通り。

 

「構わないわ!私は、《ロードポイズン》を攻撃表示で召喚!カードを2枚伏せ、ターンエンド!龍亞、あの人のリバースカードはなくなった!今がチャンスよ!」

「ありがとうアキ姉ちゃん!オレのターン、ドロー!」

 

 龍亞の手札は5枚。その豊富な選択肢から龍亞の取る手段は―――

 

「オレは《D・ビデオン》を召喚!」

 

《D・ビデオン》ATK1000

 

 白と黒のコントラストがお似合いの、ビデオを模したロボット。真打ち登場と言わんばかりの動きで、華麗に地面へと着地した。

 

「さらに装備魔法≪ダブルツールD&C≫をビデオンに装備!このカードは自分ターン中は装備モンスターの攻撃力を1000あげる!」

 

 右手の甲にチップソーを装備し、何も持っていない左手にはドリルがはめ込まれる。

 

「さらに、攻撃表示の《ビデオン》の効果!このカードは装備しているカード1枚につき攻撃力が800アップする!」

「つまり、攻撃力は……」

 

《D・ビデオン》ATK1000→2000→2800

 

「ふふ、それならば攻撃力1900の《ライオウ》は倒せるが、もっとも厄介な《クリスティア》とは相打ちだよ?」

「まだまだ!オレはさらに、《団結の力》を《ビデオン》に装備!このカードは自分フィールドのモンスター1体につき攻撃力を800ポイントアップさせる!《ビデオン》しかいないから、攻撃力は800しかあがらないけど、《ビデオン》の効果と合わせれば……」

 

《D・ビデオン》ATK2800→3600→4400

 

「よっしゃ!《クリスティア》の攻撃力を上回った!」

「そして、《クリスティア》は特殊召喚を封じる強力な効果の代償に、墓地に送られる場合にデッキの一番上に戻る特殊能力がある」

「そうか!だから撃破すれば、あの人の次のドローは《クリスティア》で確定するから……」

「奴の墓地に天使族は4体存在しない。《クリスティア》の召喚条件は満たされてはいないということだ。そして、残る奴の手札1枚次第だが、《ライオウ》だけでは《ビデオン》を突破することはできん。勝利にかなり近づくぞ!」

「龍亞……がんばって!」

「やってしまいなさい、龍亞!」

「よーし!いくぞ!《D・ビデオン》で《クリスティア》を攻撃!」

 

 全員の声援を受け、《ビデオン》がチップソーとドリルで粉砕せんと、猛進する。

何も妨害するものはない。接近。そのまま、まずはチップソーでその身体を削ろうとして―――

 

「果たして、そううまくいくかしら?」

「『カードの知識が大事』だって、綴がアドバイスしたのになぁ?」

「ふふ、ははは!」

 

 決闘狂人達が嗤う。そして、ぶわり、と《クリスティア》の背中から巨大な天使の羽根が強烈な光を伴いながら生やされる。

 

「光属性モンスターである《クリスティア》が戦闘を行うダメージ計算前に、手札から《オネスト》を捨てて効果発動!《クリスティア》の攻撃力は、相手モンスターの攻撃力分アップする!安い希望など踏みにじられるものさ!」

「しまった!そんなカードまで持っていたなんて……!!」

 

《大天使クリスティア》ATK2800→7200

 

「返りうちだ!消えたまえ!」

「うわぁぁあ!」

 

 輝きを増した大天使が、その光で《ビデオン》をじゅっ、と焼き尽くす。

 

龍亞:LP4000→1200

 

「くぅ……まだ諦めたりしない!オレはカードを1枚伏せ、ターンエンド!」

 

 前を向き続ける龍亞。だが、その表情はやはり険しい。

 

「今の攻撃で《クリスティア》を倒せなかったこと、後悔したまえ。私のターン、ドロー!」

 

 手札はドローカード1枚のみ。果たして何が来るか、と二人が身構える。

 

アリア

LP:6500

Hand:1

Monster:《大天使クリスティア》《ライオウ》

FieldMagic:

Magic&Trap:

 

アキ

LP:4000

Hand:0

Monster:《ロードポイズン》

FieldMagic:

Magic&Trap:Set2

 

龍亞

LP:1200

Hand:1

Monster:

FieldMagic:

Magic&Trap:Set1

 

「……私は《ライオウ》で少年を攻撃!」

「このままでは龍亞のライフは尽きてしまう……」

「いいえ、させはしない!待っていたわ、この時を!《聖なるバリア-ミラーフォース》発動!相手の攻撃表示モンスターを全て破壊する!」

「なに!《棘の壁》では飽き足らず、攻撃反応型の罠をしかけていたとは……!!」

「よし!これであの女のモンスターを全滅させることが出来れば―――」

「一気に逆転勝ちだぜ!」

「残念だが、全滅とはいかない!速攻魔法《禁じられた聖槍》を《クリスティア》を対象に発動!攻撃力を800ポイント下げる代わりに、このターン、魔法・罠の効果を受けない!」

 

《大天使クリスティア》ATK2800→2000

 

「けど、《ライオウ》は破壊されるわ!」

 

 反射鏡が、雷を跳ね返しながら、敵を殲滅せんと光を放つ。壊れる近代土偶。しかし、大天使はその身に槍による傷を負いながらも、翠色のオーラを纏い、その光から守られていた。

 

「攻撃再開だ!《クリスティア》で少年を攻撃!」

「うわあああ!」

 

 絶対的な光が、龍亞に浴びせかけられる。防ぐ手段はない。セットカードは《D・スクランブル》。攻撃を防ぐためには『特殊召喚』可能な状態でなくてはいけなかった。

 

龍亞:LP1200→0

 

「いい悲鳴だった。満足させてもらったよ」

 

 アリアは愉悦に満ちた笑みを浮かべた。

 龍亞は俯いたまま、拳を握り締める。

 

「オレ、また何もできなかった……」

「そんなことないわ!」

 

 アキが即座に否定した。

 

「龍亞が《クリスティア》を攻撃したから、あの人は《オネスト》を使わなければならなかった。それに、さっきの《ミラーフォース》で《禁じられた聖槍》も使わせたわ」

「でも……オレは龍可を守れなかったし、あいつにも勝てなかった……」

「ええ。私達は二人とも負けた」

 

 龍可が静かに答えた。

 

「だけど、まだアキさんがいるよ」

 

 龍亞が顔を上げる。

 

「私達が使わせたカードは、もうあの人の手札にはない。だから、きっとアキさんが勝ってくれる」

「龍可……」

「龍亞。私達のデュエルは、まだ終わっていないわ」

 

 アキがアリアへ視線を向けた。

 

「ここからは、私が引き継ぐ」

 

 龍亞は自分のデュエルディスクを見下ろした。

 勝てなかった。

 守れなかった。

 その悔しさは、少しも消えていない。

 それでも、自分が戦ったことに意味があったのなら。

 

「……うん!」

 

 龍亞は顔を上げた。

「頼んだよ、アキ姉ちゃん!」

「勝って、アキさん!」

「ええ。二人の分まで、戦ってみせるわ!」

 

アリア

LP:6500

Hand:0

Monster:《大天使クリスティア》

FieldMagic:

Magic&Trap:

 

アキ

LP:4000

Hand:0

Monster:《ロードポイズン》

FieldMagic:

Magic&Trap:1

 

「相手にはもう、《クリスティア》しか戦力が残されてねえ!手札はゼロ、墓地にも発動できるカードはねえ!」

「そして次は十六夜のターンだ。ここで《クリスティア》を突破できれば、あの女にはドローロックがかかる」

「みんなの言う通り、次のアキさんのドロー次第ね、これ。《クリスティア》を倒せればほぼ勝ち。そうでなければ負け。けど、このパターンは……」

「間違いなく突破されるよなあ……けど、ライフアドバンテージがあいつにはある。万が一、ドローロックされちまった後のターンにもライフが残れば……何か起きるかもな」

 

 くつろぎながらも仲間を信じるヴィラン達。彼らにも絆はあるのだ。

 

(みんなが私を信じてくれている。だから応えて、私のデッキ!)

「私のターン、ドロー!」

 

 勢いよく引き抜いた、ドローカード。そのカードに視線を向ける。アキは微笑んだ。

 

「いくわよ!《ロードポイズン》をリリースして、《ギガプラント》をアドバンス召喚!」

 

 現れ出でるは蔓の触手を複数生やした巨大な植物。赤い蕾状の頭部には2対の眼が備わっており、鋭い牙の生えた口からは涎が出ていた。

 

《ギガプラント》ATK2400

 

「攻撃力が足りないみたいだね?」

「そういうセリフを言ったデュエリストは大抵逆転されるものよ!《ギガプラント》を対象にリバースカード・オープン!《植物連鎖》!このカードは装備カードとなり、攻撃力を500ポイントアップさせる!」

「と、いうことは……」

 

《ギガプラント》ATK2400→2900

《大天使クリスティア》ATK2800

 

「攻撃力が上回ったよ!」

「これならいけるぜ!」

「バトル!《ギガプラント》で《クリスティア》を攻撃!」

 

 大量の蔓が天使に向かって伸び、その身体を絡めとると、今までの恨みを晴らさんかの如く、地面に何度も叩きつける。天使は羽根を散らしながら消滅した。

 

アリア:LP6500→6400

 

「くっ……《クリスティア》は私のデッキトップに戻る」

「アリア、サレンダーする?」

「綴、私の初体験は、私が見初めた若々しい子が熟れたその瞬間に捧げると決めている!この戦いにサレンダーなどない!」

「あれもデュエリストの誇り……かな?」

「理由が理由だぞ、認めたくねえ……」

「そもそも、最後まで己を貫き通してこそのデュエリストだ!奴は当然のことを言ったまで!」

(なにかある)

 

 遊星は察した。アリアにはまだ逆転の芽が残されていると。

 

「最後まで油断するな、アキ!」

「わかっているわ!仕留めきるまでは相手から目を離さない!」

「ふふ、いい絆だね!私のターン、《クリスティア》をドローしてターンエンド!」

 

アリア

LP:6400

Hand:1(《大天使クリスティア》)

Monster:

FieldMagic:

Magic&Trap:

 

アキ

LP:4000

Hand:0

Monster:《ギガプラント》

FieldMagic:

Magic&Trap:《植物連鎖》

 

 無防備にもかかわらず、堂々としているアリア。アキは疑念を抱く。

 

(このターン、おそらくライフを削り切れない。あの人が次のターン、返しに引いて私が困るのは全体除去カード。なら、ドローしたいカードは……!)

 

「私のターン、ドロー!」

 

 ドローカードを確認したアキは、一息つくと行動を開始した。

 

「召喚権を使用し、《ギガプラント》を再度召喚!これにより、《ギガプラント》は特殊能力を得たわ!1ターンに1度、自分の手札・墓地から昆虫族か植物族モンスター1体を特殊召喚できる!私は《手札抹殺》で墓地に送られた《椿姫ティタニアル》を特殊召喚!」

 

 地面から生えてくる巨大な椿の花。その蕾が花開き中から出てきたのは美しい女性だ。椿の花の冠を被った姿はまさしく四季を司る姫の一柱に相応しい。肩から手先まで椿の葉で覆い胸元に椿の赤をモチーフにした装飾品を身につけるなど至る所を豪華に着飾っていて煌びやかだ。

 

《椿姫ティタニアル》ATK2800

 

「バトル!《ギガプラント》と《ティタニアル》でダイレクトアタック!」

「ぐううぅぅううッ!!」

 

アリア:LP6400→3500→700

 

「……っ!」

 

 花吹雪が収まると、アリアはゆっくりと腕を下ろした。

 ライフは、残り700。

 あと一撃でも受ければ、敗北は免れない。

 

「……ふふ」

 

 アリアが笑った。

 

「ははっ……はははは!」

「何がおかしいの?」

 

 アキが警戒を強める。

 

「いや、失礼。少々、感動してしまってね」

 

 アリアは自分のライフ表示を見つめた。

 

「ここまで追い詰められるとは思わなかった。君達は、私の想像以上に強い」

「だったら、もう諦めたらどう?」

「まさか!」

 

 アリアは即答した。

 

「私は君達の希望が砕ける瞬間を見たい。だが、君達が私を倒すというのなら、それもまた一つの結末だ」

 

 その瞳に、奇妙な熱が宿る。

 

「どちらに転んでも、実に面白いデュエルじゃないか!」

 

 アキは眉をひそめた。

 

(この人……負けることさえ楽しもうとしているの?)

「カードを一枚伏せ、ターンエンド!」

 

 アキは気を引き締めた。

 相手が何を考えていようと、ここで勝つつもりだった。

 

「さてさて、ここから逆転できるかアリア?おそらくセットカードは『アレ』だぞ」

「承知している。そのうえで、私はまだ諦めてはいない!私のターン、ドロー!」

 

 一瞬、アリアの右腕が光ったかのような感覚を皆は覚えた。彼女は一体何を引いたのか。

 

「モンスターをセット。ターンエンドだ」

「ふん、壁モンスターを出しただけか」

「けど、厄介な効果を持っている可能性は十二分にあるよ」

「こういう時貫通効果を持つモンスターや効果ダメージを与えられるカードがありゃいいんだけどよ」

「今のアキのデッキは植物族モンスターで戦う純粋なパワータイプ。その類のカードは入れていないだろう。ないカードは引けない」

「けど大丈夫だよ、アキ姉ちゃんは負けない!」

「このまま《ギガプラント》の効果でモンスターを増やしていけば、あの人は対応できないはず……」

 

 だが、アキも含めた7人は胸騒ぎを覚えた。

 

「ふふ、勝利を確信できないみたいね」

「アリアがあんだけ自信持って引いたカードだ。そりゃ警戒もする」

「天使族主体だから、《マシュマロン》とか《ジェルエンデュオ》のような戦闘破壊耐性を持ったモンスターの可能性もあるけど、それだと逆転できないのよね。じゃあ、残るは……」

「あいつだな」

「あいつね」

 

 悪役チームは既にセットモンスターの正体に気付いている。ここが今の7人との差か。

 

「私のターン、ドロー!」

 

 ドローしたカードは《ブロッサム・ボンバー》。植物族モンスターがバトルでモンスターを破壊したとき、その攻撃力分のダメージを相手に与えるカード。

 

(このタイミングで来たのね。けど、トドメを刺す手段の一つには出来るかもしれない)

 

 落胆はせず、アキは今度こそアリアを仕留めるべく動く。

 

「メインフェイズ、《ギガプラント》の効果で、《ロードポイズン》を復活させる。そしてバトルよ!《ギガプラント》で、セットモンスターを攻撃!」

 

 巨大な蔓によってぱりん、と壺が割れた。中にいた黒い単眼の魔物は宝をまき散らして消滅する。

 

「このエフェクトは、綴とのデュエルでも見た……!!」

「《メタモルポット》の効果発動!お互いに手札を全て捨て、新たにカードを5枚ドローする!」

「ここに来て手札補充を!」

 

 実質動けなかった状態から万全の手札へ。アリアの欲望が再び膨らんでいく。

 

「だけど、攻撃自体を止められたわけじゃない。《ティタニアル》でダイレクトアタック!」

「相手の直接攻撃宣言時、《バトルフェーダー》の効果発動!このカードを特殊召喚し、バトルフェイズを強制終了させる!」

 

 それは戦場を切り離す調停の使者。振り子型の悪魔の放つ音波によって、花吹雪は受け止められた。

 

(あと、700。僅かなライフポイントが削れない……だけど!)

「メインフェイズ2、このターン、私はまだ通常召喚を行っていない。モンスターをセット、カードを2枚伏せ、ターンエンド!」

 

 潤沢になった手札を3枚、場に用意し反撃に備える。

 

「倒し切れなかったか……だけど、アキさんの場にはモンスターが4体。セットカードも3枚あるし、あの人がここから切り返すのは難しいんじゃないかな」

「いや、《スカル・マイスター》に《ライオウ》、《メタモルポット》、《バトルフェーダー》……《大天使クリスティア》を使っていたから天使族を中心としているデッキに見えたが、カードチョイスがおかしい。もしかすると、あのアリアというデュエリストは定石に囚われないデッキ構築をしている可能性がある」

 

 遊星は気付き始めていた。アリアの真意に。

 

「どういうことだよ?」

「お、そこ気づいちゃうか?」

 

 テイルがいつの間にか6人の中に混じっていた。

 

「おい、何しにきやがった!」

「つれねえな……なに、アリアのデッキ構築はまともに見えてそうじゃないって話をしにきたってワケ。“今回は”光属性天使族をデッキの軸にはしているんだが……それでもやっぱり己の欲望を抑えきれなくてな。オブラートに包めば、『デッキの回転率を落としてでも相手が嫌がる顔が見たい』って言ってよ、綴からなんぼかカード借りてるんだ。悪魔族の《スカル・マイスター》や《バトルフェーダー》なんかがそれだ。で、まだあいつは借りたカードの中でもとっておきをまだ出してない」

「これ以上、何が出てくるっていうの……?」

「龍可ちゃん、それは今からのお楽しみだ。《メタモルポット》と今からのドロー、《バトルフェーダー》を除けば5枚だ。もう引いてるんじゃねえかな。ただ、一つだけ言うとしたら……」

「したら、なんだというのだ!」

「龍可ちゃんと龍亞くんは早めに退場してよかったなって」

 

 不穏な発言。ひりついた雰囲気がガレージの中に広がっていく。

 

「ふむ。テイルが盛り上げてくれているようだ。私もその期待に応えなくてはな。私のターン、ドロー!……ははっ!」

 

 アリアの欲望が膨れ上がったことをアキは感じた。警戒心で思わず決闘盤を前に突き出す。

 

「見せてあげよう。面白いものを。One!君の《ギガプラント》と《ティタニアル》をリリース!」

 

 巨大な植物と椿姫が地下から伸びてきた溶岩の腕に握りつぶされ、

 

「Two!《溶岩魔神ラヴァ・ゴーレム》を君のフィールドに特殊召喚!」

 

 アキの背後から溶岩で構成されたゴーレムが這い出てくる。そして―――

 

「Three!《ラヴァ・ゴーレム》の檻の中に君を閉じ込める!」

「なんですって!」

 

 気が付いた時にはもう遅かった。アキは溶岩の巨人が首からぶらさげている鉄製の檻の中に囲われてしまった。

 

「けど、実体化していないソリッドビジョンなら抜け出せるはずよ!」

 

 檻の立体映像からすり抜けようとするアキ。だがアキが檻の中心から外れようとすると、《ラヴァ・ゴーレム》が位置を維持するかのようについて回り、結局視覚的には抜け出せていない状態となってしまった。

 

「なんなの!嫌がらせにしてはタチが悪いわ!」

「ソリッドビジョンの設定を弄ったのか?」

「いんや?カードイラスト通り、相手が檻に閉じ込められた状態を再現するための、KCの技術のたまもの。おれ達は一切関与してない。悪用はするけどな!」

「ふざけた真似を!」

「文句はKCの技術部にな。あ、後、ライディングデュエルでは流石についてくるだけだからそこは安心していいぜ?」

「安心できないよ!アキ姉ちゃんが……!」

「大丈夫。あの人は今までモンスターで攻撃する戦術をとってきた。今からロック戦術に切り替えるなんてこと……」

「できてしまうのがアリアの才能なのよ。微妙なデッキバランスを保つセンス。誰にでも真似できるものではない。そして、まだショーは終わっていないわ!」

 

 くつくつと2人が嗤う。それを合図に、アリアはさらなる行動に出た。

 

「さらにさらに!君のフィールドの《ロードポイズン》とセットモンスターをリリースし、2体目の《ラヴァ・ゴーレム》を特殊召喚!」

 

 ごぽっ、と音を立てて2体目の魔神が1体目同様、植物達を握りつぶして登場。

 

「檻は2つもいらないからね。横に並ぶだけだ。よかったね?」

 

 閉じ込めている側の《ラヴァ・ゴーレム》の右隣に配置される、檻の中が空っぽの《ラヴァ・ゴーレム》。

 

「……っ、よくないわ!このカードは私のスタンバイフェイズ毎に溶岩の身体を溶かし、コントローラーに1000ポイントのダメージを与える。それが2体ということは……」

「アキさんは、2000もダメージを受けるっていうの!?」

「本当はそこの双子達にそれぞれ1体ずつプレゼントして悲鳴を聞きたかったんだが……残念ながら私のデッキはこの欲望には応えてくれなかったようだ。本当に残念だよ。まあ、己の無力を痛感させることは出来たから良しとするがね。苦難の後には成長があるのだぞ、特に少年少女の頃だとね!」

 

 龍可と龍亞は唇をかんで俯いた。違う。この人たちは相手のことを考えていないデュエルで他人を不幸にしているのだと言いたかった。だが、負けたのは事実。悔しい。一体何が言えようか。

 

「ふざけんな!悪辣なデュエルしやがって!」

「クロウくん、だからそういう連中と戦うときのための練習って言っただろー?ああいう連中はダメージの実体化とかむしろ当たり前だから。今のうちに慣れとけってそういう話のはずだろ?」

「ああ、落ち着いてくれみんな。まだデュエルは終わっていない。最後まで見届けるんだ」

 

 遊星の言葉に昂っていた感情がすっ、と落ち着く。アキも呼吸を整え、アリアをまっすぐ見据える。

 

「いい表情だ。立ち向かってくるといい。そして今は手が届かないことを知るといい。私はそれを至上の喜びとしているのだから。私は成長のための試練なのだよ。《光の護封剣》を発動!発動後、このカードはフィールドに残り続け、相手ターンで数えて3ターン目のエンドフェイズに破壊される。そしてこのカードがフィールドに存在する限り、相手モンスターは攻撃宣言できない」

「くっ、厄介なカードを……!!」

 

 アキが歯噛みする。

 

「つまり、十六夜があのカードを除去することが出来なければ……」

「アキさんは毎ターン2000ポイントのダメージを受けて敗北する……さっきまで逆転できるはずだった。だけどこうしてまた追いつめられている」

「これがデュエルの醍醐味だと言ったでしょう?欲望の決闘をよく見ておくことね」

「私はカードを2枚伏せ、ターンエンドだ。もうリソースはない。ここを突破出来れば君の勝ちだ。……出来るものなら、だがね」

 

 軽く挑発する。だが、アキは煽りには乗らない。

 

(大丈夫、冷静に……龍可と龍亞の仇は取って見せる!)

「私のターン、ドロー!」

「スタンバイフェイズ、2体の《ラヴァ・ゴーレム》の効果発動!1000ポイントのダメージを2回分喰らってもらう」

 

 溶岩が上から、横から染み出し、アキの服や靴に触れると、焦がすかのような、じゅっ、という音を立てた。実際に溶かされてこそいないが、不快感と焦燥感を感じた。

 

「くっ……」

 

アキ:LP4000→3000→2000

 

「さあ、この状況をこのターンでなんとかしなければ君の負けだ。さて、《ラヴァ・ゴーレム》を退かされると困るから、このカードを発動しておく。《生贄封じの仮面》!このカードが場に存在する限り、お互いにカードをリリースできない。これでアドバンス召喚による《ラヴァ・ゴーレム》の排除はまず消えた!そして、君が《メタモルポット》の効果起動前から伏せていた《ポリノシス》も、植物族モンスターをリリースしなければ発動できないもの。両方封じさせてもらったよ」

「くっ!」

 

アリア

LP:700

Hand:0

Monster: 《バトルフェーダー》

FieldMagic:

Magic&Trap:Set1+《光の護封剣》《生贄封じの仮面》

 

アキ

LP:2000

Hand:3

Monster: 《溶岩魔神ラヴァ・ゴーレム》《溶岩魔神ラヴァ・ゴーレム》

FieldMagic:

Magic&Trap:Set3(内1枚は《ポリノシス》)

 

「私は、《おろかな埋葬》を発動!デッキからモンスター1体を墓地に送る!」

「直接場の状況を動かすようなカードが発動されない限りは止めはしないとも。好きに動くといい」

「なら、《グローアップ・バルブ》を墓地へ送るわ。そして、墓地のチューナーモンスター《グローアップ・バルブ》の効果!デッキからカードを1枚墓地に送って、このカードを特殊召喚する!」

 

 地面からぽこっと、目玉の付いた球根が生えた。ここから始まる逆転への布石。

 

「さらに、永続罠《アイヴィ・シャックル》を発動!そして、このカードを墓地に送り、《マジック・プランター》を発動!カードを2枚ドローする!……!」

 

 状況を打開する鍵を探して、デッキを掘り進める。そして、その鍵をアキは見つけたのだった。

 

「《サイクロン》発動!あなたのセットカードを破壊する!」

「……《和睦の使者》をチェーン。このターン私のモンスターは戦闘で破壊されず、私が受ける戦闘ダメージも0になる」

「私の行動が妨害されないなら問題ないわ!《思い出のブランコ》を発動!墓地から通常モンスター扱いの《ギガプラント》を特殊召喚!」

「アキ姉ちゃんのフィールドには、レベル1のチューナーとレベル6のモンスター……!!」

「いくわよ!レベル6の《ギガプラント》にレベル1の《グローアップ・バルブ》をチューニング!」

 

《グローアップ・バルブ》がその身を一つの星に変えると空へ舞い上がり一つの連環を描く。

 その連環が《ギガプラント》を包み込み、その身を同じく六つの星へと変じさせた。

 一つの星と六つの星。合計七つの星が空中で絡み合う中、アキは星々を導くように言葉を紡いでいく。

 それは想いを示すためのまじない。

 

「冷たい炎が世界の全てを包み込む。漆黒の花よ、開け!」

 

 そして今ここに、再起の花が開花する。

 これこそアキの切り札、奇跡を呼ぶ黒薔薇の竜。その名は――――。

 

「―――シンクロ召喚!!舞い上がれ!《ブラック・ローズ・ドラゴン》ッ!!」

 

 アキの場に竜が深紅の花弁を撒き散らしながら舞い降りた。【黒薔薇の魔女】と呼ばれていた時のような禍々しさはない。気高き想いの薔薇が少女の決意を示すために嘶いた。

 

「シンクロ召喚に成功したことで《ブラック・ローズ・ドラゴン》の効果発動!フィールド上のカード全てを破壊する!『ブラック・ローズ・ガイル』!!」

 

アキが下した命と共に黒薔薇の竜が大きく咆哮を放つと、その身から幾百の花弁を撒き散らす。そしてそれは竜巻のように渦を巻くと場全体へと襲い掛かった。

 アリアの場の音波の悪魔、光の剣と禍々しい仮面、そして、アキを囲っていた忌まわしい溶岩魔神も黒薔薇の花弁に切り刻まれ爆散。黒薔薇の竜も消えていく。場は更地と化した。

アリアは、盤面がひっくり返される様を、一部漏らさず目撃していた。

 

「それが君のデッキか。それが君のデュエルか。それが君の生き様か」

「ええ、ライフが残っている限りはどんな状況でも諦めない。そしてデッキを信じれば必ず応えてくれるということ。大切な仲間が、それを教えてくれた」

 

 大きく頷く6人。絆の力が、ここに結実した。アリアも晴れやかな表情でアキを見つめていた。だが、すぐに元の嗤いを浮かべる。

 

「だが、このターン、私は《和睦の使者》により戦闘ダメージを受けない」

「わかっているわ。私は《死者蘇生》を発動!《ブラック・ローズ・ドラゴン》を復活させる!」

 

 黒薔薇の竜が再び咆哮する。これ以上、何も傷つけさせないという意思の表れか。

 

「カードを2枚伏せ、ターンエンド!」

 

アリア

LP:700

Hand:0

Monster:

FieldMagic:

Magic&Trap:

 

アキ

LP:2000

Hand:0

Monster: 《ブラック・ローズ・ドラゴン》

FieldMagic:

Magic&Trap:Set2

 

 アリアの手札・フィールドには何もない。チームメイトが戦況について語る。

 

「攻撃力2800の《ティタニアル》じゃなくて2400の《ブラック・ローズ・ドラゴン》を選んだのは、守備モンスターを攻撃表示に変え、その攻撃力を0にする効果があるからね……」

「時間稼ぎすら許さないってことか」

「セットカードも迎撃用のカードっぽいし、これは……」

「“引き次第ね”」

「そうだなあ」

 

 まだ、アリアの勝利について諦めたわけではなさそうだった。

 

「さて、これが、私のラストターンだろう。ドロー!」

 

 アリアが一瞬目を瞑り、そしてドローしたカードを確認する。彼女は今までの嗜虐的な感情を失くしたかのように笑みを消した。

 

「カードを1枚伏せ、ターンエンド」

 

 その様子にギャラリー達がにわかにざわつく。

 

「あの人、諦めちゃったのかな?」

「サレンダーしないって言ってたけど、状況をひっくり返せるカードじゃないんならあんな顔にもなるのかも……おかしい人だけど、そこの感性は普通だったのね」

「おまえはどう思う。遊星?」

「……天使族による制圧からの《ラヴァ・ゴーレム》を用いたロック。今まで、アリアは欲望を見せつけるようにカードを使ってきた。ならば、気配を消したのは、カードの正体を探らせないため……?アキ!最後の最後まで油断するな!まだ何かあるぞ!」

「大丈夫よ遊星。ここまで来て負けられない!準備はしっかりしているわ!」

(セットカードは《リフレクト・ネイチャー》と《禁じられた聖杯》。効果ダメージへの対策と、効果モンスターへの対策は揃えた。……おそらく、遊星が心配しているのは伏せカードによる迎撃。あの人はまだ全体破壊効果のある《ミラーフォース》や《激流葬》を使っていない。そこを意識するのなら……)

 

 アキは望みのカードが来ることを祈った。

 

「私のターン、ドロー!」

 

ドローカード:《ウィキッド・リボーン》

 

(《ブラック・ローズ》が効果破壊されても、このカードがあれば復活できる……いけるわ!)

 

 覚悟を決めた表情。そして。

 

「バトル!《ブラック・ローズ・ドラゴン》でダイレクトアタック!『ブラック・ローズ・フレア』!!」

 

 攻撃宣言と共に竜は黒薔薇の花弁のように見える炎の奔流を吐き出した。

 その攻撃は真っ直ぐに突き進み、無防備なアリアへと迫る。

 

「これで決まりか!?」

「いけるぞ!」

「いけっ!アキ姉ちゃん!」

「決めて、アキさん!」

「……いけるか!?」

「このままいってくれ!」

 

 仲間達の声援を受け、《ブラック・ローズ・ドラゴン》の炎がアリアへ迫る。

 その瞬間だった。

 アリアの前に、ぽっかりと黒い穴が開いた。

 

「……え?」

 

 炎が、その穴に吸い込まれていく。

 

「ふ……ははははは!」

 

 アリアが笑った。

 

「リバースカード、オープン!《ディメンション・ウォール》!」

「《ディメンション・ウォール》……!?」

 

 アキの表情が凍りつく。

 

「私が受けるはずだった戦闘ダメージを、君に受けてもらう!」

「そんな……!」

 

 アキは自分の伏せカードへ視線を落とした。

 《リフレクト・ネイチャー》は効果ダメージへの対策。

 《禁じられた聖杯》はモンスター効果への対策。

 どちらも、この罠を止められない。

 

(《ミラーフォース》や《激流葬》は警戒していた。《魔法の筒》も考えるべきだった。だけど……!)

 

 アキは唇を噛んだ。

 

(ここまで戦術を変えてきた相手なら、こんなカードだって……!)

 

 読み切れなかった。

 あと一歩まで追い詰めたのに。

 

「いい表情だよ、十六夜アキ」

 

 アリアは静かに告げた。

 

「君は最後まで勝とうとしていた。だからこそ、その希望が失われる瞬間には価値がある」

「……っ!」

「さあ、受け取りたまえ。君自身が放った、勝利への一撃を!」

 

 アキの背後に空間の裂け目が現れた。

 そこから噴き出した黒薔薇の炎が、彼女を包み込む。

 

「きゃああああっ!!」

 

アキ:LP2000→0

 

 炎が消える。

 アキはその場に膝をついた。

 負けた。

 仲間達の期待に応えられなかった。

 だが、それ以上に悔しかったのは、自分の考えが最後の一手に届かなかったことだった。

 涙が出そうになって、堪える。応援してくれたみんなにこれ以上無様を晒したくはなかった。

 

「大丈夫かい?……今思えば、《ラヴァ・ゴーレム》を使ってきた以上、《魔法の筒》のような反射カードも想定しなくちゃいけなかったのかもしれない。けど!ボク達はまだ失ったものはない!3人とも、あの人に負けたのは相当悔しいけど!それを教訓として活かして、本番に向けてがんばっていこう!」

 

 ブルーノが精いっぱい励ます。自分の中に、『みんなをここで立ち止まらせてはいけない』という思いが溢れてきたからだ。

 

「くっそあいつ、嫌なカード使いやがって!」

「解せん!なぜ《ディメンション・ウォール》なのだ!?あれは攻撃を受け止めることが出来ず、モンスターを守れないカード。《クリスティア》のように、場に存在することで強力な効果を発揮するモンスターを維持するならば、《魔法の筒》を採用するはず!」

「それはエフェクトの都合だよ」

 

 アリアが満足気な表情でかつ、かつと近寄る。その後ろから、綴、テイルも近づく。同じく満足気に。

 

「エフェクトだと?」

「《魔法の筒》は1つの筒で攻撃を吸収し、もう一方の筒で攻撃分の威力のビームを発射するエフェクトだが、それでは面白くないだろう?」

「その点《ディメンション・ウォール》は面白いぜ?さっきも見ただろ?攻撃が決まった!と思った瞬間に背後から奇襲されちまうんだからさあ!」

「『希望を与えられ、それを奪われる……その瞬間こそ人間は一番美しい顔をする』。あるデュエリストの名言よ。そう、僕達エイチクロスは、実用性よりも快楽を重視する!!そしてそのうえで勝利をもぎ取る!」

 

 静まり返ってしまったガレージの中で、快楽決闘狂人の哄笑が虚空に響く。

 

「テメェ!」

「貴様ァ!」

 

 クロウとジャックが綴の胸倉を掴もうとする。掴んだ。しかし―――

 

「やめろよお二人さん。暴力に訴えるのは大会出場を控えた選手にとっちゃアウトだ。あんたらはおれ達のお気に入りなんだから、出場停止になんてなってほしくねえの」

 

 逆にテイルが両者共に極めた。藻掻く度に回り込まれる。すべてを読まれているかのように。

 

「そうよ!そして僕達を倒さないと!そうでなくちゃ、未来に希望なんてないのよ……!」

「どういうことだ」

 

 遊星が二人を諫めて、テイルが解放する。果敢に戦った3人も、ブルーノも真剣に敵を見据えている。

 

「そら、よ~く考えてみろ?おれ達のように欲望に身を任せた人間ばかりだと世界はどうなると思う?」

「どうなるって、そんなの、ろくでもないに決まってる!」

「少年、半分正解だ。だが、現実はもっと悲惨極まりない。端的に言えば世界が破滅する。将来的には愚かな人間同士で争うどころか、世界そのものの意思で人間が粛清される。そういう結果が出ている」

「……待ってくれ」

 

 遊星が険しい表情で口を開いた。

 

「今のは、単なる例え話じゃないんだな?」

「そうだとも」

 

 アリアは即答した。

 

「私達は、少なくともそういう未来が存在することを知っている」

「だったら、その情報はどこから得た?」

「トップシークレットよ」

 

 綴が割って入った。

 

「それ以上は教えられないわ。今ここで説明したところで、あなた達が信じてくれる保証もないしね」

「……お前達は、その未来を防ぐために動いているのか?」

 

 遊星の問いに、綴は少しだけ目を細めた。

 

「さあ、どうかしら」

 

 そして、いつもの調子で微笑んだ。

 

「ただ、一つだけ言えることがあるわ」

「何だ?」

「あなた達が正しい道を歩もうとする意思は、決して間違っていないってこと」

「だったら!」

 

 アキが声を上げた。

 

「どうしてあなた達は、その真逆を行こうとするの!?」

「だって気持ちいいことが好きなんだ、おれたち」

 

 テイルがあっけらかんと答えた。

 その場の全員が、呆気に取られた。

 

「それを世間ではどうしようもない連中だというのだけれどね。夢がない私達は、目先の快楽を何よりもお優先してしまう」

「一応言っておくと、犯罪をしたことはないわ。基本的にデュエル以外では害がない存在よ、僕達」

「綴、それ今のみなさんへのフォローになってねえから!悪いな。そろそろお暇するぜ……っとその前に、ほい」

 

 テイルが遊星とブルーノに名刺を渡す。『万屋“大嵐”代表:テイル・バウンサー』。

 

「おれ、このチームのメカニックやってるんだ。で、シティでなんでも屋もやってる。あんたらには牛尾さんや雑賀さんがいるけど、それでもなんか裏の情報が欲しかったり、Dホイールのメンテナンスで意見ほしかったら気軽に相談してくれ。あんまり借りたくない猫の手だろうけどな!」

「いや、その厚意には感謝する。ありがとう」

「いいのか遊星!こいつらに借りを作ることなど絶対に許さんぞ!」

「そこはおれ個人とのやりとりだから大丈夫ですよっと。後、他の二人と違って、あんたらの中に俺が興奮するタイプの人間がいないから、いっちゃん話しやすいと思う」

「……後で考えさせてね。名刺は受け取るよ」

「どうもどうも……いってえ!!」

 

 商談を終えたかのような雰囲気を漂わせるテイルに、綴が容赦なく脇腹にボディブローを入れる。躱しはしなかった。

 

「なんであなたが遊星と仲良くしようとしてるの!!」

「だって同じメカニックだし……あと、『衝撃の真実ゥ』とやらをした時に面白そうだから」

「……ふうん」

「ついでに言うけどな、遊星って、普通に付き合おうとすれば真摯に応えてくれる奴だろ。なんでわざわざ凌辱の方向に行ったんだよ?」

「…………」

 

 綴の表情が、わずかに曇った。

 テイルはその変化を見逃さなかった。

 

「……だって」

 

 綴は声を落とした。

 

「そうしないと、唯一無二になれないと思ったから……」

「……なるほどねえ」

 

 テイルは少しだけ考え込んだ。

 

「でもよ。それって結局、綴が遊星にどう思われるかを気にしてるってことじゃねえの?」

「違うわよ」

「そうか?」

「違うったら違うの!」

 

 綴は頬を膨らませた。

 

「僕は遊星の記憶に残りたいの!誰にも代わりが利かない、特別な存在として!」

「だからって、嫌われる方向に全力疾走することもねえだろ」

「いいの!」

 

 綴は言い切った。

 

「好きでも嫌いでも、遊星の中に僕が残るなら、それでいいんだから!」

 

 テイルはしばらく綴を見つめた。

 

「難儀な奴だなあ、綴は」

「今さらでしょう?」

「違いねえ」

 

 テイルは肩をすくめる。

 

「ま、普通に付き合えば案外うまくいくと思うんだけどな。みんなのことが好きだからこそ敵に回りたいって、ぶっちゃけちまえば楽になれるんじゃねえの?」

「言わないし、秘密にしなさい!」

 

 綴はぷい、と顔を背けた。

 

「僕はこのままの路線でいくから!」

 

 そう宣言すると、いつもの笑顔を取り戻した。

 

「……じゃあね、皆さん! また今度!あと、今回のデュエル、3人のうち誰かが遊星から《速攻のかかし》借りてればアリア負けてたから!参考にしてね!」

 

 声を張り上げる。照れ隠しのように。

 

「二度とここに来るんじゃねえ変態ども!」

 

 クロウの罵声と共にヴィラン3人は去っていく。最初から何もなかったかのように。

 

「ねえ遊星。パパに連絡して、今日は遅くなるって伝えたの。どうしても今すぐどうすればよかったのか振り返りたくて……」

「オレも!」

「わたしも!」

「しょうがねえな。あの連中には絶対負けたくねえからな!付き合うぜ!」

「同感だ!帰りは送ってやる。存分に検討を行うぞ!」

「なんで今回一番外にいたおまえが仕切ってんだよ!」

「外から見ていたからこそ気付くものがある。わからんか!」

「それとこれとは関係ねえだろ!」

「落ち着いてくれ、二人とも。……今回のデュエル、俺も気付かされるものがあった。さっきの綴のアドバイスも含めて、検討をしよう!」

「うん!みんなで考えれば、きっといい案が思いつくよ!」

 

 7人、否、後のチーム5D’sは一歩ずつ強くなっていく。それは綴達が齎した影響か。良き思い出も悪い思い出も糧として、そうやって強くなっていくのがこの世界の彼らだ。

 




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