代星-我らが母国はいかにして勝利したか、あるいは我らの祖国はいかにして滅びたか- 作:ライト鯖
プロローグ
『本日、
道に一定間隔ごとに立っている、ボーサイムセンから聞こえる天気予報の声を聞き流しながら、"
建物と建物の間に、充分な距離があり、それら建築物も、高層ビル等は殆どないゆったりとした街並みを数分程走ると、街の端だ。
そこからさらに進んでいくと、キレイに整備されている芝、僅かな茂みがあるのみの、見晴らしが良い丘状になっている道を登り行く。
ガードレールの向こうには、美しい海が広がっており、その奥に、霞む高層ビルが針のように立ち並ぶ様子が見える。
首都、星京のある島だ。
星京は、300万人が住む大都市であるが、対岸からだと、当たり前だが、小さく見える。
そして、新陽がその向こうへと沈まんと、ゆっくり、動いていた。
気持ちの良い風が吹きすさび、基之の頬を撫でていった。
そうして、更に数分後。
彼の視界に、漸く目的地の建造物が見えてきた。
最近新しく出来た温泉施設である。
彼は、学校帰りに見物がてら立ち寄ろう、と自転車を漕いできたのだ。
「いや~綺麗なとこだな」
そう独り言ちながら中へと入り、料金を支払って脱衣場へと向かう。
「あんま人もいないし、ラッキーだな」
オープンしてから二週間ほど経過していた事と、学校終わりの時間でこそあるが、まだまだ大人達は働いている時間なため、暇そうな老人達と、基之と同じく学生らしき者達が多少いる程度であった。
「気持ち良い~」
身体を流し、彼は早速露天風呂へと行き、既に夕陽となっている
─静寂が常である宇宙空間、その片隅に浮かぶ小さな人工物。
それは、エッジワースカイパーベルトの周辺に位置しており、星系外をレーダー観測範囲に捉える場所であった。
ハヤブサ連邦エッジワースカイパーベルト周辺基地。
小惑星帯の直ぐ近くに浮く、小さな、とはいっても、小ぶりな島位の大きさはある人工物。
これは、小規模なハヤブサ連邦防衛隊の基地である。
「
「何?複数?彗星の誤認か?」
「いえ、そんな規模には思えません。それに、機械は先日点検したばかりで ..」
尹と呼ばれた男は、訝しむように眉を曲げ、レーダーの画面を確認する。
「一体なんなんだ...これは..」
「観測艇を出しますか?」
「ああ。それと、政府に報告しておけ。正体不明の人工物が複数確認された、と」
「了解致しました」
「それと、通信員、件の物体と交信を試みろ」
「はっ!」
尹は、言い知れようのない不安感に包まれながらも、そう指示を出すのであった。
数時間後。
日野基之は、人工温泉で温まり、火照った身体に自転車のスピードによって感じられる風を浴びせていた。
「良いお湯だった~」
坂道を下るに任せ、基之は先程通った道を逆走していく。
海の向こう、遠くに見える星京は、幾つもの光に包まれるようにして、輝いている。
そして、7割近く顔を沈めた新陽(新しい太陽という意味)が、赤っぽく光を発していた。
街には戻らず、その少し手前の分岐で曲がり、街と草原の丘に挟まれた道を走っていく。
そうして10分程すると、丘は消え、平らな草原が現れた。
そこには、ポツリポツリと大きさは疎らだが、画一化されたデザインの住宅地が広がっており、その中の一つへと、基之は向かうのだった。
「ただいまー」
家の中は、地球時代と大して変わらない。
むしろ、退化しているとすら言えるだろう。
ある種の社会的ノスタルジーが流行っているのだ。
放送局の電波を拾うテレビ受像機、独立した電子レンジや、手動で捻る蛇口。
自動化されて久しい家具や物品をあえて手動とした、若しくは古い型を模した電化製品が溢れ帰っているのだ。
最早、直接地球を知る者など、一人として生きてはいないのに。
「お疲れー母さんは遅くなるってさ」
リビングに座りながら声だけで出迎えたのは基之の姉、
「そっか。最近忙しそうだもんね」
「そうだねえ。晩飯は作ってあるから勝手に食いな」
「ありがとう。いただくね。ついでだし、明日何か食べたいモノとかある?」
二人は、家事の当番制を取っている。
「ん~。特にはないかな~。ラーメンとか?」
「いっつもそれじゃん」
基之は苦笑しつつ、手洗いへと向かうのだった。
その後、風呂に入り、夕飯を食べ終えた基之は、皿を洗っていた。
浅菜が流しっぱなしにしているテレビは、ニュース番組を放送しており、基之の背後からは、キャスターの声が聞こえてくる。
『えー、たった今入って来た速報です』
「速報?」
基之は、チラリ、と振り返る。
そのタイミングで、丁度キャスターが話始めたようだった。
『只今、連邦政府より、発表がなされました。
正体不明の宇宙船と思わしき船影複数を、連邦防衛隊のレーダーが捉えたとのことです。詳しくは、只今から行われる連邦中央政務評議会宇宙政務長が会見にて説明するそうです...映像を会見場へ移します』
「複数の宇宙船?何処の星のだろうね」
「さあね。にしても、そんな大事なのかな。宇宙船が来る位で」
「正体不明だからでしょ」
「まあーそれもそっか」
二人は、ゆったりとそんな会話を交わしていた。
特に、これを深刻には受け止めていなかったのだ。
まあ、現時点では、ハヤブサ連邦国民の大多数がそうであったのだが。
『えー。本日、午後20:05分、ハヤブサ連邦防衛隊の星系外基地レーダーが複数の宇宙船らしきモノを捉えたと報告がありました。
防衛隊が、当該物体に対して通信を試みましたが、返答はなく、未だ、宇宙船か否かも不明な状況です。
しかし、既に星系基地まで800光分まで迫っているとのことです。
正体を確めるため、探査機を出立させた、とも報告を受けております。
もし、宇宙船であった場合、その目的等が一切不明でありますが、数はそう多くないため、どうぞ、ご安心下さい。
近日中に民間のレーダーや、望遠鏡等にも補足されるようになるでしょうが、憶測や根拠のない推論を拡散しないようお願い致します。
政府として、適切に対応致しますので、どうかご安心頂きたく思います。
では、質問などあれば━━』
「よーするに、デマやら噂が飛び交って混乱されたら困るから速報流したってことか」
浅菜が少し眠そうに、そう訳知り顔に頷いた。
「みたいだねえ」
基之も、同意したが、何か、妙な感覚を覚えていた。
その正体が何かは分からなかったが。
翌朝、いつも通りの朝を迎えた基之と浅菜は彼らが眠る直前に帰ってきた母親、優菜を起こさないように、静かに学校へと出かけるのだった。
同時刻
ハヤブサ連邦エッジワースカイパーベルト周辺基地
防衛隊基地は、慌ただしく動いていた。
「尹大佐!正体不明の"艦隊"が、カイパーベルト内の小惑星を破砕しつつ、此方へ直進してきています!」
「落ち着け!直ぐに連邦政府に報告しろ!観測艦は直ぐに出発!動きを観察し、逐次報告せよ!」
「大佐殿!」
「今度は何だ?!」
「正体不明の艦隊、速度を二倍に上昇させました...!」
「なっ...バカな...小惑星を破壊しながらそんな速度を出せる筈が」
「艦隊、来ます!」
報告が終わるか早いか、彼らの基地の天蓋に設置された、空を写すスクリーンに、巨大な、彼らが見たこともない程の、大きな、艦影が写し出されていた。
「は...なんだ...これは..」
全員が呆けているその間に、艦は光を放つ。
そうして、小惑星帯の端に建設された宇宙基地は、断末魔を挙げることすら許されず、宇宙の静寂の中で、爆炎に包まれるのだった。