代星-我らが母国はいかにして勝利したか、あるいは我らの祖国はいかにして滅びたか-   作:ライト鯖

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第十一話 諦念と弾圧

 

 

統一暦240年(西暦2690年)8月末

 

第三星系総督府(旧ハヤブサ連邦)

第一群州烽丈市(だいいちぐんしゅうほうじょうし)

 

《差別を止めて》

《我等に平等を》 

 

そう印字されたプラカードや幟を掲げ、街を練り歩く集団が、シュプレヒコールを挙げている。

 

「我々に人権を!」

「平等を!」

 

彼らは、未だゲットーに移送されることなく元いた都市で生活を送っている名誉起源民である。

ゲットーに移送されていないと言っても、それがゲットーにいる人々よりも楽な生活を送れているのかというと、そうではない。

ゲットーとは要するに、地球から入植に来る起源民が直ぐに生活を始められるよう、既に完成された都市に住まわせるべく追い出した名誉起源民らを収容するための、突貫工事による、仮設過密都市である。

全名誉起源民を追放する程に入植者がいるわけではないので、必要以上にゲットーが建設されるわけではないのだ。

その為、ゲットーに暮らしていないからといって、ゲットー住民より権利の面で優遇される訳ではない。

むしろ、ゲットー外に住む市民は、それ故に別途税金が課されており、衛生面や利便性はゲットーよりは上回るものの、どちらがマシか等簡単に比較出来ない程である。

 

故に彼らはその不満を、起源国を否定しない範囲で、処遇の改善だけに絞った主張を繰り広げるデモ活動で訴えているのだ。

 

「差別反対!」

「人類統合ではなかったのか!」

 

確かに、起源国の存在を否定しているわけではない。

それに、人類の統合を掲げる起源国に、差別の是正を訴えることは、起源国の建前もある以上、許容されうる主張である。

だが、それは起源民が主張する場合に限った話だ。

名誉起源民のデモなど、起源国政府の主流たる"復讐派"が許容する筈もない。

 

デモ隊が通りの交差点まであと100メートル程に差し掛かった頃、彼らの行く手を阻む存在が現れた。

 

デモ隊の数十メートル先、交差点の出口を塞ぐようにして、保安隊がシールドを並べ、その後ろで銃を構えている。

 

『不遜なる名誉起源民諸君に告げる。貴様らの行為は道徳的に誤っており、倫理的に邪道である上、法的に問題がある。直ちに解散せよ』

 

当然、それで大人しく解散することはない。

起源国による自由合衆国の徹底的な破壊を目の当たりにして、そして反対運動を起こした者が収容所へ送られることを知っていてなお、訴えようと覚悟を決めた者達なのだ、軍隊に解散を命じられた程度で怯む筈もなかった。

 

『無許可の集会は禁じられている。直ちに解散せよ』

 

再度の警告。

デモ隊の先頭に立っていた者が、それに反発の言葉を被せる。

 

『我々は届け出を行ったが受理されなかった。平和的な、起源国に政策の改善を訴えるだけのデモが、だ!』

『当局が公認していない集会、行進活動は違法である』

 

軍人の方は、まともに取り合わず、そう淡泊に告げるのみだった。

 

『我々はあくまで起源国政府に政策の改善を要求するのみである。決して起源国に反する意図はない!故に保安隊諸氏に要求する。直ちに道路封鎖を解いてほしい。平和的な活動を阻害しないでくれ』

 

デモ隊からは拍手や同意の声が上がり、賛意が示される。

 

だが、起源国軍に響くことなどない。

淡々と、メガホンでデモ隊に呼び掛けていた男は、部下に向け命じた。

 

「警告はした。発砲せよ」

「全隊、撃て!」

 

部下は命を受け、即座に発砲命令を出し、ほぼ同時に銃火がデモ隊に向け一斉に放たれた。

 

デモ隊の先頭に立っていた者達は次々崩れ落ちていき、その者達が盾となって助かった前方の人間は全速力で逃げ出し、物陰へと身を潜める。

銃弾が奥へ奥へと飛ぶ内に、混乱と恐怖も同時に伝播していき、デモ隊の統制は崩れていく。

投石等で応戦するデモ参加者も現れ始め、それに合わせて、後方にいたデモ隊が起源国軍へ向け雪崩れ込むように前進を開始した。

混乱や恐怖は離脱者を産んだが、もはや怒りがそれらを上回った者達が、銃弾飛び交う中、人の波となり、起源国軍を襲ったのだ。

整列し、盾を構えることで作っていた人間バリケードが突破され、一気に起源軍と市民が入り交じる混戦模様となる。

 

「バカ共が!」

 

指揮官らしき男はそう吐き捨て、新たな指示を下した。

 

「第三、第四特別中隊!制圧せよ!」

 

後方に待機していた青木祐輔は、その命が発せられると同時に立ち上がり、部隊長に目を向けた。

 

「私はここで待機している。貴様が隊を率いるんだ。分かっているな?」

「はい...」

 

祐輔は頷き、部隊員達を先導し、デモ隊らとの混戦へと加わる。

 

「撃て!」

 

祐輔の率いる部隊と、何人かのデモ隊員が固まっていた集団がぶつかり、彼は発砲指示を出した。

 

バタバタとデモ隊員らは倒れていき、血の池が一つ、また一つと増えていく。

しかし、祐輔は構うことなく発砲指示を出し、自身もその銃口を"市民"へと向けていた。

 

「執行長!向こうに囲まれている友軍が!」

 

部隊員の報告を受け、祐輔も其方へ視線を向ける。

見ると、確かに数十人のデモ隊員に囲まれた数人の起源軍人がいた。

どうやら銃器も破壊されたのか奪われたのか所持していないようだった。

 

「山本、簡、金村は救援に迎え!」

 

比較的余裕のありそうな部隊員を即座に選定し、指示を出す。

指示を受けた三人は直ぐに其方へと迎い、友軍を包囲している集団を背後から強襲する格好となった。

 

祐輔は現在、第三特別中隊の執行長となっている。

特別中隊は特殊教育隊を分割して設置された部隊であり、こうしたデモ鎮圧など、とりあえず人手が欲しい任務において特別に組織、派遣されるものである。

部隊長は地球出身の起源軍人であるが、隊長はあくまで責任者として存在するのみであり、実戦を行うのは部隊長の命令を受け部隊指揮を行う執行長と部隊員だ。

執行長は、先の"新兵教育"で実戦に駆り出された四名の内三名と、残り一名は、理不尽な殺人を拒否し、"強制解雇"が成されたため、別な成績優秀者が、特別に軍曹待遇とされ任じられている。

要は実戦経験が一応はある者に基本的には任せているというわけだ。

 

「裏切り者があああ!」

 

別のデモ参加者に集中していた祐輔は背後から来たその男への反応が遅れ、ヘルメットの上からではあるが、パイプのようなモノで殴られてしまう。

 

「...っ!」

 

ぐわんぐわんと頭が揺れ、倒れそうになるところを踏みとどまり、振り向き様に銃床で相手の顔面を殴り返した。

 

「がっ..!」

 

歯が折れたようで、口から血を溢しながらも、デモ隊の男は憎しみの籠った目を祐輔に向けながら、なおも突進しようとする。

だが、側面から祐輔の部隊員に頭部を撃ち抜かれ、そのまま勢いよく倒れ、息絶えることとなった。

 

「すまない。助かった。岩本」

「いえ、無事で何よりです」

 

その後も、数時間程、デモ隊はろくな武器もないままに武装した軍隊相手に粘ったが、ついに壊滅し、全員が逃げるか死ぬか、逮捕されるかし、通りには一応の静寂が戻るのだった。

 

「...」

 

起源軍にも多少の被害が出ており、リンチされ死んだ兵の認識票や、デモ隊に一時奪われていた兵器類の回収等、後始末も当然の如く"名誉出"である特別中隊に押し付けられており、祐輔らは黙々と回収作業に取り組んでいた。

 

「...」

 

黙々と、ただ心を殺しながら、その職務をこなしていく。

自分達が撃ち殺した者らの、苦痛や、悲痛、怒りに染まった顔、顔。

それらから目を逸らすと、今度は、今朝まで共に寝食共にしてきた、もう息のない同僚の、顔。

祐輔は、祐輔以外の特別中隊員殆ども、可能な限り何も考えないようにして、命令をこなしている。

発砲命令は、祐輔が下さず共、部隊長に命じられている以上、結局はそうせざるを得なかった。

そんな心に沸き出る言い訳と共に、ただ、静かに、目の前の現実を消化するしかなくなっていたのだ。

 

そうして、数時間後。

基地に戻った祐輔は、戻るなり余り使われていないトイレの個室へと駆け込んでいた。

 

「おえええ」

 

自らが撃ち殺した人々の顔、一目では見分けの着かない程に潰された同僚らの顔。

それらが罪悪感と共に吐き出されていく。

可能な限り考えないように、そして、感じないようにし、職務をこなさねば、家族の身が危うい。

だが、何も感じないなど不可能だ。

だから、彼はこうして、一人、胃の内容物と共に全てを吐き出す。

逆らっても殺されるだけ、何も意味がない。

やるしかないのだと諦め、自分に言い聞かせ続けながら。

 

祐輔がトイレから出ると、丁度屋外訓練場へ集合するよう放送がかかった。

四つの特別中隊員が全員集合し、整列を終えると珍しくにこやかな顔のアミュンタス・ガヴラス大佐が現れ、演壇へと登った。

そうして、集まった特別中隊の面々を見渡した。

 

「諸君、此度の働きまことにご苦労であった」

 

皆、驚いていた。

ガヴラスが素直に彼らを褒めたことなど今まで数える程もなかったからだ。

 

「保安隊も感謝していた。君らの働きによって被害は最小限に止まり、速やかに治安を回復させることに成功した」

 

そこまで言って、ガヴラスはもったいぶるように咳払いし、再び口を開いた。

 

「今回、特別中隊の功績大なるを認められ、叙勲、そして、何名かの昇進が決定された」

 

僅かにざわつく隊員達。

勲章は100歩譲って理解出来ても、デモ鎮圧に貢献したからといって"名誉出"が昇進など出来る筈もない。

だが、現実としてそれがガヴラスの口から発せられていたからだ。

 

「勲章の授与者は、執行長四名、並びに第一中隊 石井一正、第二中隊 尹衍洙の六名だ。そして、昇進が決定した者は三名。

第二中隊 山野要、第三中隊 青木祐輔、第四中隊 文奉吉がそれぞれ正式に軍曹へ昇進だ」

 

更にざわめきは大きくなった。

名誉出が一等兵以上となること自体、稀である。

そして、彼らにとっては異例どころではない。

まだ入隊して8カ月の新人にも関わらず、であるからだ。

起源民でも、相当なコネのある人間か、それこそ巨大な功績を立てでもしない限り中々ない昇進速度である。

 

「三名はこの先、下士官としてより一層起源国に忠節を果たすよう!」

 

ガヴラスはそう話を締め括ると、最後に祐輔に目線を合わせて、言った。

 

「青木祐輔は残れ、個別に話がある」

 

そうして、祐輔を除く全員が解散し、残された祐輔に、ガヴラスは近付き、にこやかに話しかけた。

 

「君に言伝てを預かっている。李強 少佐殿からだ」

 

祐輔は、反射的に身体を固くする。

 

「『昇進おめでとう。君を推薦した身として、とても喜ばしいことだ。きっとご家族も喜ばれるだろう。これからも、"期待"しているよ』、とのことだ」

「っ...ありがとうございます」

 

何をいけしゃあしゃあと、と吐き捨てたい気持ちをひた隠しにしながらそう礼を言い、立ち去ろうとする祐輔だったが、ガヴラスがもう一つ、と呼び止めた。

 

「任務外で一人でいる時、犯罪以外何をしようと君の自由だ。プライベートの問題だからな。しかし、だ。"掃除はしっかりしておいてくれたまえよ"」

 

ひゅっと息の詰まる感覚。

祐輔は、金縛りにあったかのようにその場に固まってしまう。

プライバシーなどない、そんなことは理解していたはずだったが、それを糸も容易く飛び越えてくる嫌悪感に包まれていたのだ。

 

「要件は以上だ。次の座学に遅れないようにな」

 

はっと、どうにか正気を取り戻した祐輔だったが、なおも言葉によって返答することは能わず形ばかりの敬礼をこなすと、足早にガヴラスの前から立ち去るのだった。

 

第三星系総督府

首府 星京 行政中央区 総督政務庁ビル

 

星京の中心に位置し、星京で最も高層であるこの57階建てビルの最上階付近、53階に位置する、とある会議室に、十数人の制服軍人や背広の人間が混合した集団が集っていた。

最奥の、代表者が座るだろう一つだけ独立している席に座る背広の男は、窓外の景色に目をやっていた。

このビルは星京の中央に位置し、最高層であるため、中央区に建ち並ぶビルを全て見下ろす形になっている。

そしてその外、地区の境目が可視化されるようにして、海まで広がる焼け野原も、邪魔するものなく見渡せる。

起源国が、ハヤブサ連邦を制圧した際に、政庁のある中央区を残し、首都を灰塵とした故に産まれている景色である。

正確には、ビルと焼け野原の狭間には復興建設中の建造物が数多あるのだが、政庁ビルからは他のビルに遮られ、見えないのだ。

その為、はっきりと対照的な、起源国を象徴するかのような景色が写し出されている。

代表者らしき男は、出席者が揃うまでの間、その残酷なコントラストをぼんやりと眺めていた。

 

「お待たせしました。申し訳ない。上司に捕まってしまって」

 

最後の一人が扉を空け、入ってくる。

 

「構わんよ。10分程度。これで全員かね?」

 

男は、最も近くの席に座る部下にそう尋ねた。

 

「ええ。揃いました」

「そうか、では最終確認だ。録音機は切られているな?」

「はい。一時間半を局長権限で申請済みです。盗聴機の類いもありませんでした」

「よろしい。では始めようか」

 

男は参加者全員を見渡しながら、開始を宣言した。

 

「改めて、私がこの第三星系総督府における"平等派"の代表である、アウグスト・バルテル文化局長だ。よろしく頼む」 

 

アウグスト・バルテルはそう自己紹介すると、咳払いを一つした。

 

「さあそれでは早速、本題に入ろう。ジェフ大佐、報告を」

 

呼ばれたジェフ大佐は立ち上がり、書類を手に口を開く。

 

「皆様、ご存知のことと思いますが、先般、第一群州烽丈市 にて発生したデモ活動に対して、鎮圧行動が取られました。これは、本来逮捕、解散で済ませるべき程度のモノでしたが、"名誉起源民"に自らの立場を弁えさせるべきと強硬に主張した"復讐派"の一部によって虐殺による鎮圧と相成りました」

 

皆、重苦しく相づちを打つ。

 

「この際、名誉出身者によって構成された部隊が主に直接鎮圧、いえ、戦闘の任に付き、デモ隊を制圧。これが、今次デモ鎮圧における概略であります」

「ご苦労、ありがとう大佐」

「はっ」

 

ジェフ大佐の着席を待ち、バルテルが話を継いだ。

 

「今回、名誉出の部隊を推薦したのが我々であることは皆、存じていると思う。今日の会議は、その件に関する説明と、今後のことについて話し合うべく、集まっていただいた」

 

まず、とバルテルは続ける。

 

「名誉出の部隊、特別中隊を推薦した理由に付いてだ。資料の4ページ目を見てくれ」

 

パラパラと紙の捲れる音が響く。

 

「これは、デモ鎮圧に参加した保安隊の責任者による評価だ」

 

そこには、『戦意高く、訓練中とは思えない俊敏さにより、デモ鎮圧を易からしめた。保安隊の犠牲者がほぼゼロであったことも、特筆に値する』と書かれていた。

 

「これが何か...これまでも、名誉出の部隊を代わりに死なせて来たのが我が軍ではありませんか」

 

参加者の一人が、そう発言した。

 

「いや、これまでとは違う。まず、犠牲者が少ない、という点以外でも評価がなされていること。そしてもう一つ、今までのそうした事例は全て、死傷率の高い激戦地へ、現地徴募の名誉出を投入していたものだが、今回は、あくまでデモ鎮圧に伴う戦闘で、死傷率も高くない事案だ」

 

つまり、とページを捲りながらバルテルは言う。

 

「書かれている通り、特筆すべきことなのだよ。死なせることを前提とした任務ではない中で発生した戦闘。そこで敢闘した名誉出のおかげで、保安隊は死なずに済んだ、ということはね」

 

面々は、まだ納得しきれてはいない様子だが、発言した者含め、とりあえずは頷いた。

 

「話が見えないという顔だね。まあ、もう少しで核心だ。辛抱してくれ。次は7ページを見てくれ」

 

バルテルは、言いながらページを捲り、皆に言葉を使わず次のページへ話題が移ったことを示す。

 

「今回、名誉出を推薦した一番の理由は、功績を上げさせる為だった。普通なら名誉出には死が前提の任務以外割り当てられることは稀だが、"復讐派"がごり押しで虐殺を通したおかけで、その分此方の要求も通りやすくなったのでね、彼らを捩じ込んだというわけさ」

 

そして、と、彼は自信に満ちた調子で言葉を繋いだ。

 

「ジェフ大佐やエリック少将が人事の連中を上手く丸め込んでくれたおかげで、彼らに勲章と昇進を与えることが出来た。

"復讐派"の虐殺要求が余りに強引であったことは大きく、中立的な者達も今回はかなり協力的だったことは、付け足しておくべきことだがね」

 

ふう、と彼は一息付き、微笑を湛えながら口を再び開いた。

 

「ここからが核心だ。諸君、我々"平等派"の主張を政府に、そして国民に支持させるには、説得力を持たせるには、どうすれば良いと思う?」

「起源国の統合イデオロギーと復讐の矛盾を付く?復讐派の非人道性を糾弾する?何れも大した意味はないだろう。論理で大衆は動かない。大衆を動かせねば、政府を動かしようもない。これは民主政体だろうと独裁政体だろうと同じことだ」

 

これには一同が賛意を示す。

 

「では、どうするか。我々が出した答えは、"英雄"を産むことだ」

 

バルテルの言葉に、幾人かは顔を挙げ、幾人かはなるほど、と頷いて見せていた。

 

「"復讐派"や支持者、一般大衆の多くは憎悪の余りに、起源民と名誉起源民には、起源民がより発展した文明を築いていたが故の根本的な能力差がある、などという前時代的社会ダーウィニズムを内面化しつつある。

これを解消しつつ、名誉出の評価をも上昇させるには、起源民の軍人に負けず劣らず、いや大差を付けて活躍する、名誉出身者の"英雄"が必要なのだ」

 

その為の彼らだ、とバルテルは資料に纏められている人物リストに目を落とす。

 

「特別中隊に所属している軍人は、何れも士気が高い。その理由は皆、存じているように、構成員らの入隊背景によるところが大きい」

 

と、そこで、一人の軍人の参加者が挙手をした。

 

「遮ってしまって申し訳ないが、疑問点がある」

「何です?」

「貴方の現況社会に対する分析には大筋同意します。なればこそ、問題があるように思われる。"英雄"一人がいたところで、その者だけが例外だと処理されてしまうだけに終わるのではないか?」

「逆に此方は、同じような優秀な人材が埋没しかねない、と主張することも出来る。諸刃の刃というやつだ」

「それに、"復讐派"の中でも過激な最右翼の奴等はともかく、穏健派、一般大衆はまだ、強く染まっているわけではない。これは非公式の世論調査や我らの放った網からの報告でも明らかだ。入植者を除く大衆の殆どは、"名誉起源民"に直接関わりも持たない故に、強い関心があるわけでもない。何となく、そう思っている、という程度。その程度なら、一つの反証で心証をひっくり返すことも出来る、というわけさ」

 

バルテルの説明に、反論した男は頷き、納得を示した。

 

「それに、例外は前例になり得る。これが一番肝要だ。我々は、前例を作らねばならないのだよ」

 

バルテルは資料を掲げ、参加者全体の注目を集める。

 

「この資料に集めた五人は、件の昇進させた三名と、その他部隊に属する二名で、本星の幹部らと協議し選定した最終候補だ。諸君らには、この五名から誰を英雄とするか選んでいただきたいのだ」

「全員では問題があるのですか?」

「"復讐派"につけこまれるリスクが高まるだけだ。それに、リソースは集中させるべきだ。"英雄"は一人の方が分かりやすくもあることだしな」

 

そうして、皆、資料に目を落とし、候補者らの情報を吟味しだした。

 

「上に書いてある入隊理由はプロパガンダの方。下にあるのは"そうでない"方だ」

「で、あるなら、この男が一番良いのでは?」

 

先ほど、バルテルに異論を示したのと同じ男が、資料にある一人を指し示して言った。

 

「ほう?私と同じだな。彼は入隊理由自体はまあ近いのはそれなりにいるが、宣伝されている背景は申し分ないし、本人の戦う動機も分かりやすい。メンタル値に若干の不安こそあるが、能力も高く、更に..」

 

バルテルがニヤリと笑ったのに合わせ、誰かが口に出した。

 

「推薦人が李強少佐」

「そうだ。この五名の推薦人の中だと最も御しやすい。どうだろう?お歴々の諸君。彼、青木祐輔は、我等の英雄足るにふさわしいと、私は思うのだが」

 

バルテルの問いに異論を差し挟む者はなく、首肯する者や、「異議なし」と呟く者達だけであった。 

 

「採決する間でもなく満場一致だな」

 

バルテルは満足そうに頷き、高揚した様子となっていた。

 

「では、諸君。今日は種々の事情で来られなかった同僚や、諸君の部下、同胞と緊密に連携し、各々の権限で持って、全力で任に当たって欲しい。

彼、青木祐輔を我々の手でプロデュースし、"英雄"に、我等に代わって瞬く星へと成し上げるのだ!」

 

 






Tips 派閥について
起源国における派閥争いの二代巨頭は"復讐派"と"平等派"である。
しかし、この二つ派閥は起源国が他惑星への侵略を開始してから活動している派閥だ。
つまり、歴史はまだまだ短い。
それ以前の派閥は主に"主戦派"と"内政派"であった。
要するに、侵略をするかしないか、である。
この2つの派閥が概ね、"主戦派"が"復讐派"に"内政派"が"平等派"に移動している。
だが、一部、例えば"主戦派"にも、人類の統一をこそ最重視し、他惑星の市民も平等にすべき、という考えの者も当然いた。そういった人々は"が主戦派"から"平等派"に移動する場合があった。
または逆に"内政派"ではあっても、まだ早いというだけでもっと国力を高めてからの戦争そのものには反対していなかった者で、他惑星の人間に対する憎悪はしっかり抱いている者は"内政派"から"復讐派"に移動したり、といった具合に例外もあった。
結果、戦争中は派閥がある程度流動化していた。
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