代星-我らが母国はいかにして勝利したか、あるいは我らの祖国はいかにして滅びたか-   作:ライト鯖

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第十三話 旅行

 

統一暦240年(西暦2690年)9月初旬

 

昼下がりの晴れ間が覗く"鷹鸇(ようせん)"、雅緂ゲットー支部駐車場に停められたトラック。

その車内に乗り込んだメンバーで今回の作戦に参加する10余名は、最終確認を行っていた。

 

「まず、我々は琥珀市へと行くために、雅緂(かだん)市へと向かう。そこで鉄道に乗り、琥珀市へ入る。雅緂市へ入る際には、隊長以外は名誉起源民労働者として振る舞うように。以上、何か聞いておきたいことは?」

 

一人が挙手をし、説明をしていた今作戦において勝敏率いる部隊の副隊長となっている、栂池桐人(つがいきりひと)が其方へ顔を向ける。

 

「鉄道はハイリスクではないですか?」

「うん?ああ、そういえば前の会合に君はいなかったな」

 

何を今更、と眉を歪めた栂池だったが、質問者が会合に参加出来ていなかった者と気付くと、態度を軟化させた。

 

「簡単なことだ。まず、通るべき検問の数が多くなりすぎること。そして、車で大陸を突っ切るとなると、起源国の衛星に捉えられてしまうこと、だ。基地から雅緂市までの道中は、衛星のシステムを"明子(あきこ)"がハッキングして映像を差し替えてくれるが、大陸を横切る間ずっと、となると発覚のリスクが高まる。それに、仮にバレずとも、不自然な痕跡が大量に残ってしまうから余り望ましくはないんだ」

「なるほど...ありがとうございます」

 

質問者が礼を言うと、栂池は頷き、トラックの荷台全体を見渡した。

 

「雅緂市に入り、車を降りたら我々は起源民の旅行者として振る舞う。各々、状況に応じて柔軟に演技をするように」

 

全員が頷くのを確認し、栂池は、運転席と繋がる小窓に向け、声をかけた。

 

「こっちはOKだ」

 

それに応じる、勝敏の声が運転席から届く。

 

「了解。五分後に出発する」

 

確認が終了すると車内は緊張が静寂に引き連れられて来、張り積めた空間となって、皆が押し黙る。

今までは、勢力拡大の為に"自警団"活動を行ったり、秘密裏に横暴な下級兵士や官吏を誅殺するなどといった隠密活動が主であった中、起源国の行政施設を襲撃するというのだ、当然だろう。

 

そうして、五分が経過すると、明子の声が無線を通して車内にやって来た。

 

『お待たせしました。こちらも完了しました。雅緂ゲットーから出る幹線道路までの道の映像を差し替えたので、予定のポイントまで出発してください。猶予は最大48分。ただし、それは最悪の場合です。基本的には30分以内に到着を』

「了解。荷台の奴等はどっか捕まっとけよー」

 

勝敏の注意が飛ぶと同時、エンジンを起動し、待機していたトラックは、一気に加速状態へと移行した。

発進したトラックは、そのまま速度を上げ続け、速度計の限界にまで針が動いていく。

改造され、リミッターの解除された車体であるため、時速200km以上出ているだろう。

周りに建物も何もない荒野故に出来る荒業だ。

 

「はっや...」

 

基之に取っては初めて体感する高速であり、その感覚に驚いていた。

 

「酔って吐くなよ?」

「大丈夫です。...今のところ」

 

栂池の冗談半分といった心配に苦笑で返しながら、基之はバランスを崩さないよう全力で車内の突起に捕まっている。

舗装されていない道を走っており、しょっちゅう車体が跳ねるため、他の団員もおおよそ同様であった。

そうして、出発から22分が経過し、トラックは予定のポイントへと到着。

雅緂ゲットーから延びている幹線道路の脇、車体を隠せる岩影にトラックを停め、勝敏は無線を入れた。

 

「荷物を受け取った」

 

傍受対策にあらかじめ決められている言い回しで勝敏は明子へと連絡を入れる。

 

『了解。別件ですが、二号車は業務が終了したため、此方へ修理へ戻るそうです』

「承知した」

 

通信から2分と経たない内に、一台のトラックが幹線道路を走ってきてかと思うと、そのまま道を外れて基之達のやって来た方角、つまり基地へ向けて走り去っていった。

 

「よし。行くぞ」

 

トラックを見送った勝敏は、そう声をかけ、それと共にトラックはエンジンを起動し、再び走り出した。

 

幾ら、基地から出発した所を衛星のハッキングによって映像を改竄し誤魔化そうと、突然トラックが道に現れたのでは怪しまれる。

その為、同じ車体のトラックをあらかじめ雅緂ゲットーに潜伏する団員協力の下、ほぼ同時に特定ポイントで合流するように出発させておき、入れ替わることで突然出現するトラックなど存在しないようにしているのだ。

勿論、今の入れ替わりのタイミングはしっかりと改竄されている。

 

トラックはそのまま今度は法定速度で真っ直ぐな道をスムーズに走り抜けていく。

そして、新陽が沈み始め、夕陽へと変わり始めた頃、トラックは雅緂市内へと繋がる検問所に到着した。

既に雅緂市は間近であり、家々やビルの影がチラチラと見えている。

 

「停まれ」

 

検問を行っている兵士の内、若い一人がスピードを落としつつあったトラックの前に出て来て、停車を命じる。

車が停車した瞬間、勝敏(かつとし)はその表情を見事なまでに瞬時に切り替え、にこやかな調子で窓を開けて顔を出した。

 

「お疲れ様です」

「何処から来たのか。目的地、所属、そして身分証を提示せよ」

 

微動だにしない顔で命じる若い兵士の後ろから中年の兵が顔を出し、「いやいやすみませんね」と若い兵の前へ立った。

 

「彼は無愛想なもんで」

「いえいえ。何かと物騒ですからね。当然かと」

「そう言って頂けるとありがたい。それで、目的地なんかは?」

「雅緂ゲットーから来ました。鷲爪建設という建設会社でして、市内の作業場までこいつらを送迎してるんですよ」

 

後ろを指し示し、勝敏はそう笑う。

 

「ふむ。名誉ですかな?」

「ええ。中々どうして優秀でね」

「それはそれは。では、目的地は市内で?」

 

尋ねながら中年の兵士は、若い兵士に目で指示を出す。

若い兵士は荷台の方へと歩いていく様子を見て、勝敏は口を開いた。

 

「ええ。市内です。荷台も開けた方が?」

「可能であれば」

「では直ぐに」

 

勝敏が運転席にあるスイッチの一つを押すと、荷台を閉ざしていた扉のロックが外される。

若い兵士はそのまま扉を開けて、荷台へ乗り込んだ。

 

「身体チェックを行う。全員両手を頭の後ろに組め!怪しい動きをすれば容赦はしない!」

 

後背で身体チェックが進められる中、中年兵士は勝敏に言う。

 

「では、身分証の方を。それと、名誉の身分証と市外出域許可証も」

「一度にお渡ししても?」

「構いませんよ」

 

ダッシュボードから取り出した束になっている偽造身分証を、勝敏は兵士に手渡した。

 

「では、少々お待ちを。おい!レオナルド!そっちは終わったか?」

「後三人です!」

「なら終わったら手伝ってくれ」

「はい!」

 

どうやら身体チェックの方は問題なくやり過ごせたようで、最後の一人をチェックし終えた若い兵士は、戻ってきて中年兵士から半分受け取り、分担して確認していく。

 

鵜瀬(うせ)さんは、社長なのですね。...社長さんがわざわざ現場に労働者をお運びに?」 

 

勝敏の身分証上のデータではどうやら鵜瀬という名で社長ということになっているらしい。

 

「ええ。何分こじんまりした会社でしてね。下請けも下請け、やはり私自ら挨拶に出向かないと行けないんですよ」

「ああ。なるほど。それはそれは、お疲れ様です」

 

特に疑った様子もなく、勝敏の身分証が返却される。

 

「まずは、ご返却致します」

「ありがとうございます。連中のはまだかかりそうですか?」

「書類が多いもので、ご勘弁願えますか?」

 

苦笑する中年兵に合わせ、勝敏も愛想笑いをした。

 

「因みに、何処の工事に参加なさるんで?」

 

身分証の確認をこなしながら、雑談のような形で中年兵がそう尋ねてくる。

 

「入植者用に街の改装だってんで色々やられているでしょう?あれですよ。雅鱗(かりん)地区のマンションの解体と新築に参入しましてね」

「ほほう。マンションの。あれは勿体無い事業ですな。ああ、いえ、御宅の仕事を無くしたいわけではないのですが」

「ははは。いえ、私個人としてもそれは思いますね。元のマンションでも充分綺麗ですし、住めるのに。まあ、仕事になるので、社長としては助かりますが」

「はは。まあ、何にせよ政府の方針ですしな。...そっちも終わりか?」

 

中年兵は、身分証の書類の束を閉じ、若い兵に目をやった。

 

「はい。全て問題ありませんでした」

「よろしい。では、お待たせ致しました。お返しします」

「ありがとうございます」

 

全員分の身分証を受け取った勝敏は、ダッシュボードに滑り込ませる。

 

「それでは、お気を付けて」

 

中年兵と若い兵が敬礼し、検問の終えたことを確認した他の兵士が操作するゲートが開いていく。

 

「皆さんも」

 

勝敏は最後まで愛想良く笑いながら、敬礼を真似て見せ、そのままトラックは走り出す。

そうして、トラックは徐々に暗くなりつつある空の下、反対にどんどんと灯が付き、明るく染まりつつある街へと入るのだった。

 

「さて、ここからだが、トラックを降りたらお前達は今度は起源民として振る舞え。鉄道は起源民以外ほぼ乗れないからな」

「つまり普通に歩いてりゃいいってことだろ?」

 

軽い調子でそう言ったのは、基之の隣に座っている若い団員、"坂東歩(ばんどうあゆむ)"である。 

 

「まあ、大方そうだ。しかし、重要なことがある。"名誉起源民"が軍人からどんな目に合わされていようと、無視をしろ。それが起源民の有り方だ。良いな?」

「わーってるよ」

 

坂東のぼやくような言い方に続き、基之含め全員が重苦しく頷いた。

その後、工事現場付近の駐車場に車を停めた勝敏は、明子に再び連絡を入れた。

 

「到着した。発見した故障物品の回収を手空きの連中にお願いしたい」

『了解、連絡しておきますね』

 

トラックの回収を勝敏が依頼している間、荷台の全員が起源民らしく見せるために、小綺麗な、ある程度の値がありそうな上着を着、椅子に擬態させていた収納庫を特定の手順で開けて、中から武器を取り出していく。

そして取り出した武器は全てカモフラージュ用の入れ物に入れ、準備の出来たものから荷台を降りていった。

基之の場合、ギターケースがそれであり、本物のギターも入っているが、その奥、底を剥がすと現れる空間に銃器を入れていた。

 

「よし。では予定通り、二人~三人の組となりそれぞれ雅緂駅を目指せ」

 

勝敏の指示に皆が頷き、あらかじめ決めていた組に分かれ、各々、バラバラに散らばっていくのだった。

 

基之は、勝敏と坂東が同行者となっていたので、全員を見送る形となった。

 

「よし。では我々も行こうか」

 

全員の姿が見えなくなったタイミングで、勝敏はそう言って歩き出した。

街は、基之の記憶にある姿とはかなり異なってきていた。

変わらない所もある。

しかし、それらも全て、他の工事現場や既に新しく建てられた建造物に囲まれており、かつての姿をそのまま留めているとは言い難かった。

起源国は、どんどんとハヤブサ連邦の残滓を消し去っていっている。

名誉起源民の歴史を抹消する為か、はたまた入植者に罪悪感を抱かせないためか、あるいは両方か。

目的は基之達には知るよしもないが、崩されていく故郷の姿を見ると、理由の如何に関わらず怒りの涌き出るものである。

基之も、起源国に対する憤りを感じていた。

 

一部の起源民は、名誉起源民を奴隷の如き召使として使役しており、街の至る所で、主人に付き従う苦力のような名誉起源民が見られる。

これも基之だけでなく、勝敏や坂東の怒りに火を注ぐ要因だった。

 

「遅いぞ!馬鹿者が!」

 

丁度、彼らの近傍で重そうな荷物を運ぶ名誉起源民が、主人らしき男の振りかざしたステッキを叩き付けられていた。

 

「くそう...あいつら...」

 

坂東が憎々しげに呟く。

 

「抑えろ。坂東。ここで余計な問題を起こすわけにはいかん」

「分かってますよ」

 

勝敏のとりなしに、唇をとがらせながら坂東は頷いた。

基之とて、彼の気持ちは良く分かる。

出来ることならば、あんな横暴を放置はしたくない。

だが、今の彼には姉を助けるという大目標がある。

ここで立ち止まることは出来ない。

心苦しさを感じながらも、通りすぎるしかないのだ。

しかし、目線は虐げられる男と、傲慢なる起源民につい向いてしまう。

どうか彼にふりかかる理不尽が一秒でも早く終わることを望んで、つい。

そんな風に余所見をしていると、人通りの多い今の時間、やはり人にぶつかることもある。

基之は、ドシン、と前方にいた人にぶつかってしまったので、直ぐに謝罪を述べた。

 

「あ、申し訳ありません」

 

だが、ぶつかった人の服が目に入り、思わずぎょっとしてしまう。

起源国軍人であったのだ。

勝敏も坂東も、一瞬息を呑んだが、表情で悟られるようなへまはしない。

即座に三人共表情を戻すのだった。

 

「ああ。これは失礼。不注意でした」

 

ぶつかった少年の胸元をチラリと見、何もついていないことを確認した軍人は即座に笑顔をつくり、そう言った。

名誉起源民はゲットー外ではそれと分かる記章の着用が義務付けられているため、恐らく軍人はそれを確認したのだろう。

相手が起源民であると認知した軍人は、非常ににこやかに基之に言葉をかけたのだ。

 

「あ、いえ。私の方こそ余所見をしてしまっていて..」

「ふむ。何かお困りなのですか?道に迷われたのでしたらご案内致しましょうか?」

 

基之は、ゲットー内で自分達に接する軍人の態度と、今の差に現実感を感じることが出来ず、まるで宙に浮くような感覚を味わった後、先程の検問の兵士達が、起源民として振る舞った勝敏と名誉として振る舞った自分達に対する態度の差も思い起こされ、言い表しようのない嫌悪感と、吐き気に襲われてしまっていた。

しかし、ここで黙りこくるのは不自然である。

どうにか口を動かし、若干ぎこちないことは自覚しながらも、どうにか作った笑顔で、こう返した。

 

「いえ、道は分かっていますので大丈夫です。来たばかりなもので、つい色々見てしまうんですよ。ありがとうございます」

「そうですか。どうぞお気を付けて」

 

軍人は終始、にこやかに話し、最後には敬礼をして去っていくのだった。

 

「...ひやひやしたぜ」

 

坂東が言う。

 

「それにしても、奴等の態度の差異には辟易するな」

 

勝敏は、基之の複雑な心中を慮る様に肩を叩き、歩き出す。

基之は、小さく息を吸い込んでからその後に続くのだった。

 

その後は特に大きな出来事もなく、駅へとたどり着いた三人は、他のメンバーと人混みに紛れながら合流していき、予め用意していた切符を手に、其々が特急改札で偽造身分証を提示し、ホームへと入り込むことに成功する。

 

ホームには、流線形の赤が特徴であった、しかし、今は起源国のシンボルカラーの一つ、黒に塗り潰されている、ハヤブサ高速特急の車両に乗車。

列車が出発すると、皆、一様に関門を潜り抜け、琥珀市へ向かうことが出来る事実に、安堵を示した。

 

「漸く乗れたなあ」

 

坂東の誰に言うでもない小さな呟きに勝敏が少し笑いながら反応した。

 

「ここからが本番だ」

「そーっすね。気、引き締めますわ」

 

そう言ってから数十分と経たず、坂東は穏やかな眠りに付くことになるが、今の彼は姿勢をしゃんと正して、座り直すのであった。

 

そのまま列車は海を渡り、首府、星京のある島へと入る。

まだ灰塵に帰したままの島の外縁を、その破滅的光景に似つかわしくない高架に沿って、列車は進んでいく。

そのまま、復興途中の地区を、工事現場の間を縫うようにして過ぎ去り、都心部へ。

この総督府、惑星ハヤブサにおいて尤も巨大なステーション、星京駅に滑り込んだ列車に軍人数名が乗り込んできた時は、メンバー全員、坂東以外、は肝を冷やすこととなった。

しかし、特に乗客を調べ出すでもなく席に座るとそのまま眠りにつき、一同は胸を撫で下ろし、まだ改竄も不正入域もバレてはいなさそうだ、ということに安堵する。

 

そうした後、およそ5時間。

既に暗闇に包まれた空をバックに、列車は街と街の間にある荒野を駆け抜けて行く。

夜も深まった頃、車体はまばらな街の灯を望みながら、最後の駅、琥珀駅へと入り、乗客の全てを吐き出した。

基之達は、ついに、無事、目的地である琥珀市の大地を踏みしめるのであった。

 

 





Tips 名誉起源民の付ける記章について

名誉起源民の集住する指定居住区は形式上名誉起源民の自治下に置かれている。
法律上の居住区統治者は"指定居住区住民評議会"という組織だ。
実質の統治者は居住区の保安局、つまり保安隊であるが、種々の書類における責任者として評議会は名を使われている。
その評議会のエムブレムは、各惑星ごとに異なっており、ハヤブサにおいては手折れた翼をモチーフとした意匠となっている。
要するにハヤブサ市民への当てつけだ。

そのエムブレムが記されたバッジを居住区外では名誉起源民に装着が義務付けられているのである。
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