代星-我らが母国はいかにして勝利したか、あるいは我らの祖国はいかにして滅びたか-   作:ライト鯖

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第一部
第一話 墜つる隼


 

人類の多くが地球を飛び出してから凡そ400年。

天の川銀河の端に瞬く星々には人類が散り散りとなって暮らしていた。

 

500年程前。

ワープ技術こそ現在においても、ハヤブサ連邦等の外惑星社会においては実用化されておらず、超光速航法は実現しなかったが、当時における理論上の最高速度に到達した宇宙船技術は、太陽系を越えるに充分となった。

隕石やオールトの雲等の小惑星群に対処するための、微小な小惑星であれば破壊可能な兵器も開発。

これにより、人類はついに太陽系外へ人間を送り出すことが出来た。

 

そこから100年近く経ち、船の速度は日に日に上がっていっていた。

だが、地球人類の多くは、そんな話に一喜一憂する余裕を失ってしまってもいた。

 

地球環境の悪化は止まるところを知らず、天候は、暑く、激しくなり、社会は様々な影響を受け、混乱していたのだ。

人間には空調があり、ただ過ごす分には問題はない。

しかし、作物の品種改良が間に合わないことや、数多の魚類の死滅など。

そういった食料面の問題や、海面上昇等は誤魔化すことは不可能であった。

故に、次第に"先進国"においても食料事情は悪化していき、貧しい国では飢饉が多発した。

島国では消滅する国も生まれ始め、各地の沿岸都市も、水害が頻発する有り様であった。

 

そんな絶望的な状況で、軍事力のある国々では生き残りを図るべく、他国を滅ぼし、人口を減らすと同時に食料を確保すべし、といった勢力が力を持つなど、文明は、歩みを止めかけていた。

 

だが、一筋の光が見える。

 

宇宙技術の進展による遷光速航法の実現だ。

光速に限りなく近いその航法は、特殊相対性理論による時間の遅れ、所謂ウラシマ効果によって、航行中の乗員にとっては時間の進みが殆どゼロに近くなるようになった。

これにより、ついに、幾つも発見されていた地球に似通った惑星へ、一世代以内に大量の人員輸送が可能となったのだ。

 

つまり、自分達が生き残る道筋を、"先進国"は宇宙に見出だしたというわけだ。

絶望的な国際環境下でも、宇宙開発だけは続けられていた理由は、正にこのためであったのだ。

 

こうして、多くの"先進国"と呼ばれていた、或いは自称し続けていた老体の国々は、唯一、"新興国"に負けてはいなかった宇宙技術でもって、地球を見捨てることにしたのである。

 

日本、とかつて呼ばれた国は、6800万人の人口の3/4近くを積載可能な大量の船舶を、その残された国力の全てを使い建造。

彼の国の宇宙技術における象徴とも言える、代表的な小惑星探査機への尊敬から、発見者たる日本人によって名付けられた、地球から150光年先にある新たな惑星へと飛び立った。

大韓民国と呼ばれた国も、人類が居住可能な惑星数が少ないことから、日本と協同し、人口の2/3近くを、同じ惑星、"ハヤブサ"に合流。

両国国民は長らく良い感情を互いに抱いていなかったが、そんなことは、惑星ハヤブサへの植民と都市建設の労苦に優先するものではなく、大きな問題には至らなかった。

 

他も似たようなものであり、アメリカ、ロシア、中国、インド、ブラジル、南ア、イギリス、フランス、ドイツ、その他E.U、ASEAN諸国民の一部、アラブ圏の一部といった各地の"先進国"と"新興国"と呼ばれた中でも強力な一部の国々、地域の住民大多数は、其々が確保した居住可能惑星へと逃げ去ったのである。

当然、貧困国や多くの新興国は見捨てられた。

また、先進国民であっても、貧しい者や政府に都合の悪い者等は残された。

 

国際協調や人道主義というお題目は、危機にあって、其々のナショナリズムや、利己主義に勝ることはなかったのである。

 

そうして、地球から逃げ出した人間達は、当初は"銀河連盟"と称する超国家組織を結成し、連絡を取り合っていた。

ワープこそ出来ないままでいるが、通信技術に関しては光速を超えることに成功しており、リアルタイムとまではいかないまでも、長くて二月、短ければ一ヶ月弱程度で書簡を交わすことは出来るようになっていたことが、これを組織として実際上の機能をどうにか果たさせていた。

とはいってもそれは、人々が宇宙でまだ不安定な社会状況で孤立するかのような状況に置かれることを不安に思っていた、という事情が多分に働いていた為でもあったわけだが。

 

当然、物資のやり取り等は難しく、大変な、100年単位で時間を必要としていた。

そして、初期の高揚から来る熱意や、未だ不安定な社会、生活基盤から来る不安や、宇宙に感じる孤独感を紛らわす必要もなくなる程に基盤が安定し始めたことなどが影響し、日本人と韓国人が惑星へと到達した時期から僅か二回の儀礼的な人的交流と、同時に運ばれてきた物的交換を経験したのみで惑星間交流は廃れた。

勿論、全ての交流が途絶えたわけではない。

通信による交流や、ソフトウェアの交換、技術、研究の共有等は続けられていた。

だが、遠隔によるそれらの交流のみとなったことは、銀河連盟の存在意義に更なる疑問符が付くことになってしまったのだ。

 

そうして、最後の船の地球脱出から150年、今から約150年前、全ての脱出者達が、各々の惑星で、ある程度の生活基盤を獲得し、安定化したことを確認、それを以て、銀河連盟は宇宙に出た人類の孤独や不安を紛らわせるという最後の存在意義をも完全に失い、自然、解散したのである。

 

こうして、天の川銀河の一角に、其々交流を持たない人類社会が幾つも誕生したのだった。

 

日本と韓国と呼ばれた国の人々が住まうこの"ハヤブサ"、ここには、惑星国家"ハヤブサ連邦"が樹立され、人々は新たな故郷で二億九千万人に人口を増やし、生活している。

また、銀河連盟消滅に伴い、ハヤブサ連邦は新たな暦、"天暦"を制定してもいた。

 

そして━━。

天暦150年(西暦2689年)8月。

 

「そうして、我々、現在のハヤブサ国民は、犯罪者や、残留希望者を除き、全国民を積載して、宇宙へと飛び立ったのです」

 

教師の説明を、半ねぼけで聞きながら、基之は授業を過ごしていた。

 

「なあ基之。今日さ、映画行かね?今流行ってるアニメ映画なんだけどさあ~」

「ごめん。今日は用事あって」

「そっかあー残念。じゃあまた今度誘うわ」

「うん。ありがとう。楽しみにしてる」

 

休み時間。

友人らと何気ない会話を交わす。

平和な、日常。

 

「何?また、お母さん大変なのか?」

 

大体の友人達が去った後、居残っていた青木祐輔(あおきゆうすけ)が、基之にそう尋ねた。

 

「いや、母さんは元気だよ。ただ、転職してから仕事が忙しいみたいでね、俺達が家事してるんだ」

「あー、なるほどな。大変だなあ」

「慣れればそうでもないさ」

「その感覚がすげえよ。何か困ったことあったら言えよ?友達なんだからな」

「あはは。ありがとう。何かあったら、前みたく頼らせてもらうよ」

「おう!じゃあな。また明日」

 

手を振り、教室の扉へ向かう祐輔に、基之も手を振り返す。

三年前、基之らがまだ中学三年生であった頃、基之の母親が入院した時、姉と二人で家事をせざるを得なくなったものの、勝手が分からず苦戦し、学校に行く余裕がなくなり、休みがちになったことがあった。

その時祐輔が手助けをしてくれたのだ。

宿題を手伝いに来たり、買い物を代わりにしてくれたりと、彼は基之と学校を、友人達を繋ぎ止めてくれた。

それ以来、特別親しく感じている友人となっていたのだ。

 

「さて、俺も帰るかな」

 

基之は立ち上がり教室を出る。

そして、自転車に股がり、学校の門扉を潜るのだった。

 

自転車でなくとも、格安の自動運転バスであったり、便利な交通機関もあるが、基之は節約と運動を兼ねて、自転車での移動を心がけているのだ。

 

「さーて、ラーメンの材料は家にあったはずだし~...直帰でいいかな」

 

結局、彼も夕飯の良いアイデアは思い浮かばず、浅菜が適当に要望したラーメンで済ませることにしていた。

 

「♪~♪︎~」

 

鼻歌を歌いながら、自転車を漕ぎ、街の中心部から、草原地帯、彼の家がある郊外地区へと出た。

海を見渡せるその道を少し坂を登りながら進み、別れ道へと到達する。

 

そこを曲がり、家の方角へと向かおうとした時だった。

 

思わず目を閉じそうになる程の強い風が吹きすさび、片目を瞑った彼の上を、いつの間にか黒い影が覆っていた。

 

「?」

 

上空を見上げると、そこには、巨大な、ビルを横倒しにした程度ではすまないだろう、小さな環礁程度ならすっぽり収まってしまいそうな、巨大な黒い鉄の塊が、彼の頭上に浮かんで、いや、飛んでいた。

 

その鉄の塊の全容は、基之の位置からでは分からなかった。

それの黒い下腹部には青白く輝く噴射口のようなモノが幾つも出っ張っており、そして、此方は小型の雑居ビルを横倒しにしたような大きさと思われる、紡錘状の筒が先端に大口を開けており、下腹部の真ん中辺りから、支柱にぶら下がる形で付属している白銀の機械、も同時に目に入ったが、基之にはそれらが何なのかも全く予想が付かなかった。

 

どうやら、その黒い鉄塊はかなりの上空を飛行しているらしく、数秒と経たぬ内に、基之の頭上を通り去っていった。

そうして、直ぐにその全貌を現す。

基之には、その存在は宇宙船に見えていた。

とはいっても、実際には見たこともないし、知識としても、それ程巨大な船があるとは知らなかったが、直感的にそう感じたのである。

 

真っ黒く塗りつぶされたその船体は、進行方向に縦長であり、窓のようなモノも一切見当たらず、代わりに用途の不明な機器が横腹にも取り付けられている。

そして、基之の視線の先、つまり船の真後ろは、青白い、下腹部のものより更に巨大な噴射口、恐らくエンジン、が輝いていた。

 

その船は、いや、基之の目には、頭上を覆っていた船が遠ざかり、視界がクリアとなったことで、他にも複数の船が捉えられていた。

その"船団"は、首都島、星京へと向かっているようだった。

 

合計四隻の船は、基之の頭上を通過した船の丁度直線上に降りてきた船と、それら二つの中間点左右に陣取る二隻という形で、飛行していた。

つまり、四隻を線で結ぶと、菱形になる陣形である。

 

そして、恐らく首都島上空へと到達した四隻が、島の四隅で動きを止めると、満を持して、とでも言うように、菱形の中央に、上空からかなりのスピードで、もう一隻が降りてきた。

 

中央に降りてきた船が、ピタリと他四隻と高度を同じくした瞬間のこと。

 

カッと四隅の船全てが光輝いたかに見えた。

そして、一秒と経たず、空は、全て色が消えたように白い光に包まれる。

 

「なっ!」

 

思わず目を閉じた基之の耳に、轟音が続いて轟いた。

 

「な..にが..」

 

再び目を開けると、光でやられたのか霞んでいた。

しかし、一つ、はっきりと見えるモノがあった。

首都島、星京がある筈の場所に、巨大な光の球が、現れていたのだ。

 

「あっ...あっ...」

 

混乱で脳は情報の整理が追い付いていないようだった。

だが、そんな中でも、視界は新たな情報を次々仕入れるものである。

徐々に霞みも消え、視界を取り戻していく基之は、空に浮く船が再び動き出すのを見ていた。

中央の一隻は、そのまま残っており、残る四隻の内、三隻は、バラバラに何処かへと飛んでいった。

そして、残る一隻は、反転し、基之のいる、街の方へと迫り始めたのだ。

 

「うわあああ!」

 

基之は逃げるようにして自転車のペダルに力を籠め、全速力で家へと走るのだった。

 

自宅へと戻った基之を、慌てた様子の姉、浅菜が出迎えた。

 

「良かった!無事だったのね。さっきの轟音で、家も結構揺れたから」

「姉ちゃん...」

「地震とは思えなかったけど、なんだったんだろ」

 

浅菜は、どうやら事態を全く把握していないようで、基之は混乱しながらも、とにかく情報を求め、テレビを付けた。

 

『緊急速報!緊急速報です!!ただいま、正体不明の巨大宇宙船が、我が国の首都、星京へ攻撃を仕掛けてきました!』

「へ?」

 

浅菜は、すっとんきょうな声を挙げた。

 

『先程、首都の東西南北、四つの地区全てが....全てが..灰塵に帰しました..』

 

冷静に読み上げていたキャスターだったが、現実を受け止めきれていないようで、途中で声が詰まったようになっていた。

 

『死者数は不明。政庁、並びにこの放送局のある中央区は無事でした。が、正体不明の船の目的は一切不明で...15分前時点では上空に止まる船からの交信を待っている状況とのことです...しかし、情報が錯綜しており、新たな動きがあったかは、現在調査中です』

 

キャスターがそこまで読み終えた時、ザワザワと局内が騒がしくなっている様子が、画面越しにも分かるほどとなっていた。

 

突如として鳴り響く乾いた金属音。

同時に、恐らくカメラの向こうを見、目を見張っていたキャスターが、鮮血と共に崩れ落ちた。

 

「え...」

 

基之と浅菜は、衝撃で、ろくに悲鳴も挙げられなかった。

 

騒然とする局内は、徐々に静まっていき、やがて、不自然な程に沈黙する。

その後、黒を基調とし、濃い緑の線のエポレット。頭の漆黒の軍帽にはブリムエッジとの境界をなぞるように黄金色の細い飾り、そして、群青色の星形が真ん中に輝いている。

そんな、ハヤブサ国民の誰一人として見たこともない軍服姿の、如何にも軍人然とした男がカメラの前に現れた。

 

『ハヤブサ連邦を名乗る勢力に支配されし人類諸君。

我々は、君達の正統なる支配者の軍隊である。

諸君らは、本日を以て、唯一正統なる人類の統治者の下へと、帰還したのだ』

 

基之も、浅菜も、こいつは何を言っているんだと理解出来ずにいた。

混乱収まらぬ内に、その軍人は、彼らに次なる混乱を与えにかかる。

 

『たった今、ハヤブサ連邦を名乗る勢力の元首が降伏を表明した。中継を繋いでやろう』

 

そうして、カメラは、ハヤブサ連邦政庁の会見室へと切り替わった。

 

『ハヤブサ連邦国民の皆様...ハヤブサ連邦中央政務評議会議長の、金森傑(かなもりすぐる)です。

本日、先程、我が星京特別市の凡そ8割を灰塵とした、正体不明の武装勢力は、攻撃とほぼ同時に地上部隊を降下させていたようで、政庁並びに議会、そして放送局が僅かの内に占拠されました。

星京の1/5以上を一発で壊滅させられる程の強力な兵器を積み込んだ宇宙船..いえ、宇宙戦艦18隻が、この星を取り囲んでいます。

我々には、これに抗する力はなく、闇雲な抵抗は無益な犠牲者を産むだけであると判断し、武装勢力の責任者に、降伏を申し出ました。

各地で、もし戦闘中の防衛隊あらば、即時に降伏を行って下さい。

抵抗は、都市の破滅を意味します..』

 

悔しそうにうち震えながら、議長は、国民に降伏を伝えた。

 

『よろしい。さて、貴方の役目は終わった。ご苦労であったな』

 

画面に割り込んできた偉ぶった軍人らしき中年の男は、議長を押し退けるようにして壇上から落とすと、腰から拳銃を取りだし、引き金を引いた。

 

バァンという重音と共に、議長は画面の下へと消え、記者達が、悲鳴を挙げ始めた。

だが、直ぐにそれは収められる。

軍人はもう一発引き金を引き、記者の一人を撃ち殺した。

それによって生まれた一瞬の静寂の間に、彼は声を張り上げる。

 

『席に戻れ!記者共!まだ話は終わっとらん』

 

記者達は、部屋をキョロキョロと見渡した後、絶望したように顔を青くさせ、各々席へと戻ったようだった。

 

『さて、ハヤブサ連邦を名乗る勢力は降伏し、諸君らは我が国の支配下となったわけだ。

が、まだ名乗っていなかったな?』

 

不敵に、男は笑う。

 

『我々は"起源国"、全人類を唯一統治せしめる資格を有する国家である。

その我等を導きし指導者様からお言葉を預かっている。

..おい、貴様が放送の責任者であったな?この放送は惑星中に流れているか?』

 

カメラの向こうから、慌てた声が聞こえてくる。

 

『は、はい!ご要望通り、全放送局、全ボーサイムセン、惑星ネットワーク全てで流しております』

『よろしい。では、全住民はよく耳を傾けるように。

映像で見ている者はそのお姿を目に焼き付けよ』

 

軍人は、そこで一旦大きく息を吸った。

そして。

 

『全人類の唯一代表たる起源国議会によって承認されし父なる執政官。

母なる地球の統治者にして全銀河の統一者

唯一人類国家 起源国 執政 ジョルジュ・アース・ンガングガ閣下のお言葉!』

 

一段と張り上げられた軍人の声と共に、カメラが再び切り替わった。

 

映像が鮮明になり、何処かの議場らしき場所の演壇に、人影が現れる。

それは、先程までの軍人らと同じ軍服を着用しており、基之らが見たこともないような黒く、濃い肌をした初老の、しかし、威厳と、覇気に満ち溢れた男であった。

 

『私が、起源国執政官、ジョルジュ・アース・ンガングガである。

母なる"地球"より、逃亡者諸君にお話する』

 

 

 





次回からここでは本編で言及しそうにもなく、かつ、本編進行に大した影響のない設定なんかを開示していきたいと思います。
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