代星-我らが母国はいかにして勝利したか、あるいは我らの祖国はいかにして滅びたか-   作:ライト鯖

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第三十二話 燃ゆる憎悪の狭間で

 

 

天暦148年(西暦2687年)3月初旬

鷹鸇(ようせん)本部

 

「基之、ニュース見た?」

「うん…」

 

明子の呼びかけに、基之は何とも言えない表情で頷く。

彼としてはそのニュースをどう消化すれば良いのか、まだ脳が処理しきれていなかったのだ。

 

『青木祐輔准尉 第12星系総督府へ移動。名誉出身者初の恒星間航行か』

 

大きな見出しで、所謂"平等派"や"復讐派"それぞれの影響が強いメディアで大きく取り上げられたていた。

当然前者は好意的に、後者は悪意に満ちた書き方で。

 

そんな書き方の違いは基之にとって重要ではなく、彼が、祐輔がハヤブサからいなくなってしまう、という未来が最も重大であった。

一先ず祐輔と敵として相見えることは無くなったと安堵するべきなのか、解放するべき対象が遠く離れた場所へ行ってしまうことを悲しむべきなのか。

二人の立場が正反対と言えるほどに離れているだけに、基之はこの事実をどう呑み込めば良いのか、わからないでいる。

 

「…どうしてこう頭を悩ませることは連続してふりかかってくるかねえ…」

「分かるわ。でも、"アレ"は仕方ないと思う。私だって、皆と同じ位にしか思えないもの。あいつらは憎むべき敵、違う?」

「…っ!でも明子(ミョンジャ)だって前は」

「前の襲撃ではハヤブサ人も巻き込む危険性があったからだよ。…別に起源国の連中がどうなろうと知ったことじゃない」

「それじゃあ、あいつらと同じに」

「そうね。その言い分も分かる。だから口は挟んでないし、根回しも協力してあげた。でも本音は違うわ。……むしろ、私以上に頭に血が登ってる人達相手にあの条件を呑ませただけ充分じゃない?」

「…そう、だな」

「貴方も連中は憎いんでしょう?」

「それはそうさ。…でも…いや、うん。…これ以上はよしとくよ。君の言う通り、今の条件でも充分過ぎる成果だ」

 

今の基之は、祐輔のこと以外にも、頭を悩ませていることがあった。

それは主に、祐輔から言われた言の葉が鎖となって彼に巻き付いているが故に起きている葛藤だった。

 

事は先週、2月末に遡る。

 

「前回の会議で、基之からの"指摘"による混乱もあったが、おかげである程度作戦の骨子も纏まっている。難しいモノにはなっているが、起源国に勝つためにはその位の危険性は呑まねばならないだろう」

「実際、奪還政府は正面から起源国と戦って敗北したんだ。同じ轍を踏まないためには、難易度が高かろうがやるしかなさそうだしね」

「ああ。それに、組織分裂の危機にすら陥りかけたが、時間をかけたかいがあったな。人員もどうにか凡そが納得出来る配置にもなった。

だからそこは問題がないわけだ」

 

勝敏(かつとし)や烏の賛同を受け、基之の提示した作戦案は大筋に渡って合意を得ていた。

[RB:崔明博,チェミョンバク]や川辺雪菜といった、前回の会合では基之に辛辣な視線を投げつけていた者達も、今となっては作戦の有効性については、納得しているようだ。

 

「まあ、だからこそそちらの方は各々決行までに準備を頼むとして。…今日集まってもらったのは他でもない。作戦を成功させた後、解放後の内政についてもある程度方針を立てねばならないから、こうして会合を開いたというわけだ」

 

烏が音頭を取る形で、惑星ハヤブサ奪還後を想定した方針にも触れることとなった。

取らぬ狸の皮算用、とは言うが、もし作戦が成功して惑星ハヤブサを制圧したとしても、その後の統治方針が何ら定まっていないとなれば混乱を来すことなど目に見えている。

必要な皮算用というわけだ。

 

「それなんですが」

 

基之は挙手し、発言を求める。

 

「統治に関しても妙案があるのかな?」

 

崔明博が皮肉混じりに基之を見た。

 

「いえ、確認したいことがありまして」

「何だね?」

 

勝敏は、前回も似たような流れで組織におけるパラダイムシフトを基之が起こしたことを鑑み、少々身構える。

 

「起源市民、つまり、地球人の扱いについてです。恐らく解放後最も重要な課題となるのは必然だと想いますので、現状、勝敏さんら最高幹部で何かしら方針があるのかを、確認させて頂きたく」

「別に逆らう奴を殺すなり捕まえるなりすれば良いんじゃない?」

 

崔明博はそんなこと、とばかりに鼻を鳴らした。

 

「そうですよ。何なら全員殺しちゃえば良いんじゃないですか?手っ取り早いでしょ。あいつらは侵略者で、私達を虐げてきた敵なんだし」

 

川辺雪菜も崔以上に過激な提案と共に彼に同調する。

 

「ふむ。まあ、殺す云々は置いとくとして、然程問題になるとは思えんな、私も。…崔の言う通り、問題を起こす者がいれば都度対処すれば良い」

「…ハヤブサ市民が憎悪や怒りのまま、地球人を襲う可能性があると思いますが…」

「別に良いでしょそんなこと」

「そうよ。正統な復讐だわ」

 

基之の放った懸念は、崔や川辺を始め、殆どの幹部に一蹴される。

勝敏も、基之の懸念する所を掴みかねているようだった。

烏だけは例外で、ただ静かに基之の様子を伺っていた。

 

「まあ余り暴れられすぎると秩序維持に問題は出るだろうが、多少は放っておいても良いだろう」

 

勝敏の言葉を受けた基之は、一瞬、顔を強張らせたが、直ぐに持ち直し、しかし、と言葉を紡ごうとする。

しかし、その言葉を発する直前、彼は苦悩に口を歪ませてもいた。

 

「…地球人は、起源国に対する交渉のカードになり得ます。…要するに人質です」

「!?」

「…なるほど」

 

何人かは驚き、何人かは基之の言う所を諒解し頷く。

 

「人質?」

「ええ。起源国も、易易と市民を見捨てることは出来ないでしょう。地球本星にその話が伝われば何処でどう爆発するか分からないでしょうから。…そうでなくとも、彼らの建前から言って早々簡単に切り捨てはしない筈です」

「なるほど。分かったよ。だから地球人は丁重に扱うべきで、市民の無秩序な暴力に晒されないようにしよう、ってことだね?」

 

崔明博の解説に、基之は首肯で返した。

 

「はい。人質はケガも何もない方が価値が高い。そうでしょう?。…むしろ市民の暴力から我々が地球人を守ってるとアピールすれば、それすらも交渉カードになる」

「理解した。確かに有用だなそれは。怒れる市民に地球人を提供するのは簡単だが、カードを一つむざむざ捨てるのも勿体ない」

 

勝敏も漸く頷き、理解を示した。

 

「では…」

「うん。組織にはよく伝達しておこう。地球人を徒に傷付けるな。市民の暴走は可能な限り抑え込むように、と。…何なら我々の意図ごと市民に説明するのも手かもな」

 

勝敏の同意により、地球人の取り扱いに関する方向性は定まった。

 

「それにしてもびっくりしたじゃんか。急に起源国の擁護でも始めるのかと思ったよ。…人質かあ。そっか、その発想はなかったなあ」

 

話題が移る前に、崔明博はそう基之に冗談めかした言い方で"称賛"を向けたが、基之はそれに曖昧な笑顔で返すだけだった。

 

結局、俺は皆の認識を変えることなんて出来なくて、皆の気迫に、自然に燃える山火事のように盛る憎悪の炎に気圧されて、同じ土俵に落ちちゃ行けない、とすら口に出せず、"人質"なんて言い訳しか出来なかった。

 

基之は、その事を後悔していたが、それでもなお、どうにか地球人の、ただ事情があってハヤブサに来ざるを得なかった人達もいるだろう罪のない人々も巻き込む事態は避けられたのだと、安堵も同時にしていたのだった。

彼がこの時踏み出せなかった事を、本当の意味で後悔し、その罪を理解するのは、もっと、遥か先のことである。

 

"君たちも民間人の犠牲は出しているだろう?"

"経済的な理由、政治的な理由、家族に連れられて仕方なく。そういう人達も、丸ごと罪人だと言うのかい?"

"どうせ重ねてしまう罪ならば、俺は貫き通すべきだと思っている"

 

祐輔は恐らく、基之の、全てを失いながらも、唯一残った友を解放する為に決めた覚悟を真に理解することは今もできていないだろう。

同じように基之も、祐輔が決めた、血塗られる覚悟を、真にはまだ、理解出来ていなかったのだ。

 

 

そして現在。

 

基之の葛藤とは他所に、鷹鸇にとって重要なこの時期に、新たな、全く別の地平からの変化が訪れようともしていた。

 

「「地球人協力者!?」」

 

鷹鸇の本部、建前上は[RB:雅緂,かだん]支部、の幹部陣が集う会議室に響いたのは、坂東のみならず、呼び出され集まっていた基之や明子すらも思わずといった面持ちで揃って、勝敏の報告にオウム返しを叫んでいた。 

 

「金っすか?幾ら払えって?」

 

坂東があけすけにそう尋ねるのを秋久や明子が苦笑しつつ宥める。

しかし、彼のその反応は理解出来る。

地球人協力者等、余程物好きな汚職政治家、軍人以外に彼等は出会った試しがないのだから。

 

「その場合、"ビジネスパートナー"と呼んでいただろう」

 

勝敏の苦笑しつつの指摘。

それはとりも直さず、本当に金以外の理由で協力しようという人間がいる、ということだ。

 

ただ、"平等派"すら、独立を目指す反乱軍には殆ど敵対的である以上、余程の思想犯か、指名手配でもされているのか。

落ち着いて考えてみると、兵力が少し増す程度になりそうだな、と冷静になった基之などはそういう考えに至っていた。

 

「まあ、本当に協力者になってれるかは不明だがね。とりあえず皆にも顔合わせぐらいしてもらおうと思って呼んでいる。どうせ我々はゲットーにも入れないんだ。今さら対面するぐらいはどうってことはないしな」

 

勝敏はそう言って、その"協力者"を招き入れた。

果たして、入ってきた人物は、基之の想像していた人物とは全く異なっていた。

いや、勝敏を除くこの場にいる全員の予想を遥かに越えていたというべきだろう。

基之の予想とは外れていた。だが、その顔を彼はニュース映像で見たことがあった。

 

「…まさか…」

「カルミネ・ソルデット…」

 

明子も知っていたようで、感嘆の息を漏らす。

 

「な、何だ?有名人なのか?」

 

坂東は全く知らないようで、息を呑む何名かな様子に困惑を向けていた。

 

「地球の首都、アルワタンに本社を構えるスペースロボティクスのトップ企業、"クルスス・プブリクス・カンパニー"のCEOだよ…」

 

坂東の隣にいた秋久が小声で説明すると、坂東も目を見張った。

 

「しゃ、社長!!?しかも大企業の!?何でこんなレジスタンスのとこに!?」

「坂東、落ち着け」

 

勝敏に嗜められ、坂東はとりあえず口をつぐんだ。

 

「皆さんお忙しい所すみません。まあ自己紹介は不要かもしれませんが、一応。

私は"クルスス・プブリクス・カンパニー"CEOのカルミネ・ソルデットです。

鷹鸇の皆様の噂はかねがね伺っております。

私も是非、皆さんにご協力をしたいと思い、お邪魔した次第です」

「…いやいや協力って、地球人だろあんた?何の理由があるんだよ」

「坂東さん…」

「だってよ…」

「すみません。ウチの者が」

 

勝敏が詫びをするが、カルミネは全く気にする様子もなく、いえいえと紳士的な笑みを湛えながら首を振った。

 

「構いませんよ。当然の疑問です。理由について、お答えさせて頂きましょう」

 

カルミネはそう言うと、会議室に居並ぶ面々を見渡しながらこう始めた。

 

「皆さんは古代のローマ帝国についてご存知ですか?」

「…?」

「ローマ帝国?」

「知ってはいますが、それがどういう…?」

 

カルミネの問いの意味を測りかね、全員が小首を傾げる。

 

「今の起源国はかつて地中海を制覇したローマ帝国に似ていると思いませんか?いや、ローマ帝国でなくとも良い。モンゴル帝国や中国の王朝。

要するに、当時の技術力から考えると余りに広大な領域を支配していた国々と」

 

カルミネはここでの同意を期待していたわけではないのだろう。反応が然程なくともそのまま話を続ける。

 

「他の惑星と連絡を取るのに数日から数週間、最も遠いと数カ月も必要になってくる。まるで古代の帝国のようじゃありませんか?

そこが似ている、と言った所以です」

 

なるほど、確かにそこは似ているな、と基之は理解した、と小さく頷いた。

 

「我が社の社名、クルスス・プブリクスはローマ帝国の駅伝制度から取った名前なんですがね。

私が今の惑星間通信や交流の現状を現す社名としたのです。

そして、"公道"という意味もこの言葉にはありましてね。我が社はスペースロボティクスで名を馳せましたが、元は宇宙船設計開発が主でして。

宇宙交流に欠かせない存在となる。そういう理想も同時に籠めた名前なんです」

「この話、要るのか?」

 

坂東のボヤキを秋久が小突く形で諌める。

 

「申し訳ない。前置きが長くなりすぎましたね。本題に行きましょう。

まず結論から行って私は今の起源国の在り方に不満を持っているのです。怒りと言っても良い」

 

カルミネははっきりとそう言い切った。

 

「連中はもっとやるべきことなど幾らでもあるというのに、起源国は下らない侵略活動に全力を、私達にも注がせ、その上今度は反乱やらに対処しやすくするために技術供与をしろなどとふざけたことをぬかすのですよ」

 

しかも、と彼は肩を竦めて見せる。

 

「我が社は起源国から今は軍事目的での依頼ばかりが来ていて、本来の民生分野、市民の交流を促進する為の事業は年々縮小せざるを得なくなっているんです。

連中の身勝手な政策のせいで大変な迷惑を被っている」

「つまり、自由に仕事が出来ないのが嫌、と?」

 

勝敏の要約に、カルミネはまあ、そうなりますかね。と首肯した。

 

「本来、我が社の、私の掲げる理想は未知の領域を探索し、新たな宙域を開拓し、人類の"[RB:道程,みちのり]"を広げることを、そして、より効率的な交流を可能とすることです。」

「ですが起源国は、人類の進出している領域にのみ関心があり、かつ、民間の交流など毛ほども気にしていない。

古代の帝国と起源国は似ていると言いましたが、膨れ上がった帝国と同じで、起源国も今や停滞しています。

内部に争いを抱え込み、未知への探索にかける情熱もない」

 

カルミネの言葉は次第に熱を帯び、彼も若干興奮してきたようで、起源国に対する不満をぶちまけ続ける。

聞いている基之らはその熱量に圧倒されていた。

 

「しかも起源国(連中)は、自ら望んで内部の争いを抱えたに等しい!

名誉市民を平等に取り扱えばこうはならなかっただろうに。非効率極まりない選択をして、あまつさえその始末の一端を我々に押し付けている。

こんなバカバカしいことがありますか?!」

 

ここで漸く、自身が興奮していることを自覚したカルミネは咳払いをし、「失礼」と姿勢を正した。

 

「少々熱くなりました。

要するに、我が社は未知を、純粋な探求を求めているのです。

そして、起源国は既知への対処、いえ後始末を我々に押し付けてきている。

それが不満なんです。

私達はこんな下らない帝国主義ごっこに付き合う為にこの会社を大きくしたわけではないんですよ」

 

要するに、カルミネは他惑星の住人を差別し、支配する為に自分達の力が使われることと、そんな程度の低い事業に邁進する起源国に嫌気がさしているのだ。

彼と、彼の企業の、未知の探求という理念とも真っ向、対立しているが故に。

 

「…なるほど。話は凡そ分かりました。確かに、貴方は起源国に大きな不満を抱いているようですね。しかし、何故、我々を選んだのかは分かりませんな。他の惑星にも、反乱組織等無数にあるでしょう?」

 

勝敏の問いに、「それは」と回答文は既に容易している、と言わんばかりの反射速度で口を開きかけたカルミネだったが、基之や明子を始め、何人かの幹部陣の顔を伺うと、フッと笑い、両手を挙げた。

 

「どうも、ここにいる何人かの方には下手な嘘は通じなさそうだ」

「ほう?嘘をつくつもりでしたか」

「ええ。ですが止めました。…そうですね、あえて言うべき理由はありませんよ。

そも、私にとっては貴方方が勝つか負けるかはどちらでも良いのです」

「何だとお!?」

 

坂東が食って掛かったが、今度は誰も止めなかった。

他の者達も、一斉にカルミネを警戒したからである。

 

「いえ勿論勝利して頂ければそれに越したことはありません。

ですが、私の目的は起源国から我が社を解放し、理念の追求に戻ることです。

つまり起源国の体制が入れ替わるだけでも問題はないわけです。

起源国が改革をするのなら、それで私の方は解決ですから。

戦争等、避けるに越したことはない愚行ですし。

その上、他の惑星が独立して別の国になってしまうと、目的が若干遠ざかりますしね」

「じゃあ、何で俺達なんだ?」

 

今度は基之がそう問うた。

 

「起源国の体制改革は、少なくとも私の知る限り、私が生きている間に成されることは無さそうですから。

そんな状況で、進出予定の惑星ハヤブサに有力な組織がある、と噂を耳にしたので…まあ、言葉を選ばずに言えば粉をかけようと思ったのです」

「なら直接来る必要はなかったんじゃない?」

 

明子も参戦し、そう問い詰める。

 

「ええ。この惑星に来て、色々と調べたところ、現状最も起源国の楔から解き放たれる可能性があるのでは、と判断したから来た、というわけですよ」

「何故そう判断した?」

「ここ最近の貴方方の活動や闇ルートでの物資の動きから何か大きなことを画策しているように見受けられましたので」

 

一同は再び緊張を走らせた。

 

「それに気付かれるってのは不味いなあ…」

 

秋久のボヤきはしかし、全員が同意するところであった。

彼が知っているということは、起源軍にも察知されている可能性がある、ということだからだ。

 

「ああ、心配いりませんよ。私が使ったのは特殊なルートですし、半分は推測混じりですから。既に別口で補足されているなら保障は出来ませんが、私のやり方で軍が気付くことはないでしょう」

「…一先信じるとしよう。…それで?」

「ですから、いっそ我が社を挙げて協力してしまおうと思いましてね」

「「はっ!?」」

 

坂東、ではなく勝敏がその頓狂な声を挙げた。

まさか個人レベルではなく、会社全体で、などという発言が飛び出るとは思わなかっただろう。

 

「私自身は一旦地球に戻りますが技術分野や、地球からの情報収集に協力します。連絡手段は此方で用意いたしますよ。宇宙艦隊の動きだったりは皆さんも知りたいでしょう?

ラグは大きいですが、決して無意味ではないはずです」

「いやいや、話が美味すぎる!」

「勿論、タダでとは言いません。勝利の後は我が社の理念実現の為に協力して頂きたい。

例えば、経済は統制でなく自由化を約束することや、未踏の宙域の探索、開拓に国として協力すること、だったりね」

 

カルミネは何でもないことのように淡々と話すが、勝敏らは何が何だか、という状況であった。

 

「この惑星ハヤブサは他の星系に比べて極めて不安定です。

その惑星で最も力のある組織が何やら大きな行動を起こそうとしている。

乗らない手はないでしょう?」

「しかし、貴方にとってはリスクがかなり高いのでは?それに戦争も嫌っているようですし」

 

「確かに、ある程度はギャンブルですね」とカルミネは頷きつつ笑った。

 

「しかし、戦争の方は好きな人間などいないでしょう?物語の中だけならともかく。

戦争は愚劣な行為ですよ。

人類は古今東西、未知の領域への探求を放置し、既知で殺し合ってきた」

「古代ギリシャの時代からそうです。海を渡った砂漠の先に何があるかなど気にもせず、お隣と戦争をしていた。

近代になっても、南極や深海という未知を放置し、ひたすら殺し合ってきた。

今は宇宙という無限の未知を放置し、既知の範囲で争い合う。

これ程無意味なことがあるでしょうか?」

 

ですが、と彼は続ける。

 

「起源国という既知に拘る、そして時代錯誤も甚だしい差別政策を続ける非効率かつ歴史にツバを吐きかける彼らは如何なる手段であれ、倒されるべきです。

戦争は可能な限り避けるべきだが、避けられないこともある、そのぐらいは承知しています。

今は既知でもって、起源国を打ち倒すしかないのでしょう。

未知を求める為に必要な"道程(みちのり)"です」

 

カルミネの熱量によって、勝敏達は既に彼を疑う姿勢ではなくなっていた。

実際、起源国に強い不満を抱いているようだし、鷹鸇に拘っているわけではない、と正直に答えもした。

もし、スパイか何かなら安牌を取り鷹鸇に拘る理由をこねくり回したことだろう。

 

「…心意気も目的も充分に理解出来ました。後は少し皆で相談するので、隣の部屋に一旦行っていただいても?」

「ええ。勿論です。良いお返事をお待ちしています」

 

カルミネを移動させると、勝敏が苦笑しつつ切り出した。

 

「連絡を貰ってから今日まである程度背後関係は洗っていたから、まあクロってことはないだろうと思っていたが、予想の斜め上だったな…それで、皆どう思う?」

「あんなバカ正直に俺等じゃなくても良いって言ってんだ。こっちも使えるだけ使えば良いんじゃないか?」

 

最初はカルミネに噛み付きまくっていたが途中から大人しくなっていた坂東は、どうやら心情がそういう変化をしたようだ。

 

「私も珍しく坂東に賛成ですかね。バカ正直かどうかはともかく、スパイならとうに私達は軍に囲まれてるレベルの情報を彼が持ってるみたいですし。

そのことから考えてもクロじゃないのは確か。ならお互い持ちつ持たれつ、目的の為に協力できる時はしたら良いんじゃないですか?」

「俺もそう思います」

 

明子も基之も凡そ坂東の考えに同意する。

 

「でも地球人だよ?良いの?」

 

しかし、最初から最後までカルミネとは言葉を交わさず、ただ怪訝な顔を向け続けていた朴仁珍が懸念を表明した。

 

「勝つためには必要だろ。利用出来るものは使っていかないと」

 

そして秋久がそれを一蹴すると、朴は不満そうではあるものの矛を収め、きまりが悪そうに黙り込んだ。

 

「…そうだな。勝つためにはむしろ、彼の様な有力者が協力してくれる方が良い。

我々が目指すは惑星ハヤブサの解放だが、ここを奪還するだけでは終わらないんだ。

なら、少しでも力となる要素は多い方が良いだろう」

 

よし。と勝敏は決意したようで、顔を上げた。

 

「大体が賛成してくれているようだし、私から協定を結ぶと伝えることにする。

皆、忙しい所集まってもらって悪かった。

後は私に任せてくれるか?」

 

こうして、鷹鸇は行動を起こす直前になって、新たな、それも有力な協力者を得ることになったのだった。

 

そう、基之の思いや葛藤の解消を、世界は最早、待ってはくれない。

 

 





Tips
スペースロボティクス

スペースロボティクスとは宇宙開発、又は宇宙航行において補助業務をなすロボット、或いはAI技術の総称。
具体例としては、宇宙戦艦同士の戦闘、或いはスペース・デブリや小惑星によって損傷した船体を自動で、外と内側からハイパー・セラミックで応急処置を施すロボット。
小惑星や非可住惑星のコロニー、基地外での探査や、危険地帯での採掘活動に従事するロボット。
或いは、恒星間航行下での座標管理をなすAI。
そうした宇宙空間におけるロボット技術野をスペースロボティクスと称し、カルミネの企業はその分野におけるトップランナー、という訳である。
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