代星-我らが母国はいかにして勝利したか、あるいは我らの祖国はいかにして滅びたか-   作:ライト鯖

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第三十三話 Last Days of Slavery Peace

 

「と、言うわけで道中護衛を務めます。李 樱花(リー インファ)です」

「ええ…?」

 

他の惑星に派遣されることとなると基地司令より伝えられ、首府星京へとやって来ていた青木祐輔は、案内された総督府ビルの一室にて居並ぶ、自身を今まで使ってきたであろう面々を初めて目にした事に対する諸々の感情よりもまず、その中に樱花のいることに対する驚きが最も大きなものとなっていた。

思わず困惑をそのまま出したような声を出してしまう程に、彼は混乱させられている。

 

「驚かせてしまったようだね」

 

部屋にいる面々で最も高位だろう男は、そう笑い、「改めて」と祐輔に向き直った。

 

「直接会うのは初めてだね。はじめまして。青木祐輔少尉。混乱させてしまったこと、謝罪しよう。まあ、順を追って説明するから、かけたまえ」

 

落ち着いた雰囲気を出し、椅子を勧める男に従い、とりあえず祐輔は勧められた椅子に腰を落ち着かせた。

 

「申し訳ありません。驚いてしまって…」

「無理もない。ああ、自己紹介を改めて。…私は、アウグスト・バルテル。第三星系総督府で文化局長を勤めている。そして君も知っての通り、この星系における"平等派"の代表をやらしてもらっている」

「青木祐輔少尉であります」

 

バルテルは微笑を浮かべながら他の面子も紹介していく。

 

「私の右側に座っているのがエリック・パルカス少将。左にいるのが、アラウィー・ウマル・ターリブ准佐。…本来は大佐が座っているはずだったが…いや、気にしないでくれ。

そして、そっちに立っている2人の内、背広のは郭李 睿煬(クオリー ルェヤン)。最後の一人は、知っての通り、李樱花だ」

 

樱花は軽く会釈し、その隣に立つ郭李睿煬もペコリと頭を下げた。

 

「事前に伝えている通り、青木祐輔君。君には第十二星系総督府、旧自由合衆国に行って貰うことになった。…すまないね。私ではどうすることも出来なかった」

「…いえ…?」

 

本当に申し訳なさそうに言うバルテルの表情に祐輔は困惑を隠せなかった。

"平等派"とはいっても起源民である人間にまともに、人として扱われていると実感出来ることは殆ど無かったからだ。

 

「困惑も尤もだ。全く、私とて君とこうして話すことになるとは思わなかったさ。

…話が逸れたね。まあ、何にせよ決定事項。2日以内に荷物をまとめて置いてくれ。

ご家族については、先んじて手配してあるから、1日速く移住することになる」

「家族も、ですか…?」

「ああ。下手に分散させるのはリスキーだからね。それに、李強から正統な理由でもって遠ざけることが出来る。

言葉の問題は気にせずとも良い。我々の公用語の一つと第十二星系の公用語は同じ英語だ。

英語さえ話せれば学校も問題はないだろう」

 

淡々と言うバルテルに、祐輔はああ、結局か、という想いを抱いていた。

確かに、多少は人として扱ってはいるのだろうが、しかし、此方の事情など全くお構い無しで自分達の事情を優先し続ける姿勢は変わらない。

どこまでいっても、自分は"名誉起源民"に過ぎないのだろうなと感じざるを得なかった。

 

「さて、君の話だ。第十二星系は"平等派"の影響力が強い総督府だから、着いてからはまあ問題はないだろう。

だが、移動に関しては軍の戦艦に同乗することになる。

そこは我々の手が及ばない。艦長だけならともかく、乗員全ての管理は不可能だからな」 

 

だから、とバルテルは郭李睿煬と樱花に目を向けた。

 

「彼女らに君の護衛をしてもらう。郭李睿煬は私の秘書だ、信用出来る。樱花は、説明不要だろう?」

「はあ…。なるほど」

 

宇宙空間、応援を向かわすことなど出来ない閉鎖空間において、何かが起きた時、下手な"平等派"の人間に守らせるよりも、損得感情や利害、打算からある程度離れて青木祐輔を守ってくれるだろう人間。

バルテルにとって、樱花はうってつけの存在だったのだ。

 

「よろしくお願いします。祐輔少尉」

「私も、案内と護衛の手伝いを致します。どうぞよろしく」

 

祐輔が二人と挨拶を交わし終えると、最後にバルテルは彼に言った。

 

「それじゃあ、君の活躍を祈っているよ。…"名誉出身者"初の宇宙航行だ。油断し過ぎるのは良くないが、宇宙旅行を楽しんでくれたまえ」

 

「で、何で君が?」

 

総督府庁舎を共に出た樱花に祐輔は迎えの車を待つついでに、そう尋ねた。

 

「聞きましたよね?護衛が必要で、私はぴったりな人材だったんですよ」

「バルテル局長側の事情は理解してる。問題は君の方だよ。どうしてこんな…」

「うーん。正直私は私の行動理由を勝手に推測してるあの人は好きじゃないです。でも、まあ渡りに船だったんで乗ってあげることにしただけですよ」

「どういうことだ?」

「まあー、要するに貴方に着いていく口実を作れるから、ですよ」

 

至って真面目な表情で言われ、祐輔は無意識にドキリと胸を跳ねさせていた。

 

「私みたいな新人が異動希望出してもそんな簡単には通りませんしね。ましてや、父の影響力がありますし。

…でも、"平等派"が私を必要と見なしたなら、その限りではない。

だから売り込んだだけですよ」

「どうしてそこまで…俺なんかの為に…?」

「私の為ですよ。…私が、貴方と一緒にいたいんです。…嫌ですか?」

 

僅かだが、確かに頬を赤くさせ、少しだけ心配そうな目で直視された祐輔は、言葉に詰まり、「えっと…」と目を泳がせながら適切な返答を探した。

 

「…嫌じゃ、ない…でも、そしたら君は…」

「聞きたいですか?」

「…止めておくよ」

 

それ以上聞けば、戻れない。

祐輔はそう直感し、同時に覚悟を持てない自分を呪い、会話を閉じる選択をした。

 

「あ、そうだ。私、到着後も護衛になる予定なんで。よろしくお願いしますね」

「…は?!」

 

終わりかけた会話はしかし、樱花の投げ込んだ爆弾によって結局、迎えが到着するまで続くのだった。

 

同じ日。

第三星系総督府 第一大陸の某都市。

 

「おっと」

 

壮年の男性はビルの廊下、その曲がり角を曲がって直ぐの場所にいた掃除業者の老人にぶつかりそうになり、足を捻り、躱した。

その際、一瞬、天井にそれとは分からないように取り付けられている監視カメラの死角を男性は背中で作り出し、掃除業者の老人が胸ポケットから素早く取り出したメモリチップを鞄を持つ手で受け取り、そのまま鞄の持ち手と拳の間にチップを挟み、何食わぬ顔で体勢を戻した。

 

「失礼」

「いえいえ。此方こそ」

 

自然な、一瞬のやり取りをし、二人は他人へと戻るのだった。

 

男性は後々、また別のやり方で若い女性にチップを手渡し、女性は青年に、老齢の女性に、ホームレスと思しき男性に、そして最後に受け取った中年の男は、仲間の集う鷹鸇の支部でそのチップの情報を読み取った。

 

「ついに、だ。…おい、之鍵(これかぎ)はいるか?皆に伝えてくれ。…各支部本部、準備は完了。今週の金曜日の夜、つまりは3日後が、決行日だ、と」

 

そう、情報細胞を通じて、惑星中に散らばる仲間達へ勝敏(かつとし)は"ボス"として指示を出していたのだ。

蜂起の決行日を。

彼らの運命を否応なく決定づける、戦いの日を。

 

鷹鸇(ようせん)本部

 

「さて、兵器含め、大方準備は終わった。ブラックマーケットとは言え派手に動いたから、保安隊も直ぐに気付くだろう。

だが、奴等が細胞をちまちま辿ってももう間に合わん。

…やるぞ、諸君。勝利の為に。祖国の奪還の為に」

「「はい!」」

 

最後の確認として集まった雅緂支部、つまり本当は本部のメンバーは、勝敏の激励に興奮した様子で応えるのだった。

 

そうだ。もうここまで来たなら、やるしかない。

祐輔のことは、今、考えても仕方がない。

とりあえず相見えることにならないのだ。

まだ考える時間はある。今はとにかく、作戦の成功を。

 

自分が迷っていてももう世界は止まらない。

それを基之はここ数週間の怒涛によって理解していた。

銃火器類の調達には基之にも参加して組織のネットワークを駆使し、彼が見たこともないような金額を動かし、その過程で幾人かの協力者から逮捕者も出した。

作戦成功の為の下見には多くの労働者として組織に協力している者達が総督府ビルに掃除夫や配達の形で訪れ、軍基地にも種々の業者に扮した構成員が調査を行い、その情報が基之らに共有されて来た。

それらは基之にとって新鮮なものだったのだ。

今までは任務の際に勝敏から情報を与えられるのみで、そうしたネットワークの動きを知ることはなかった。

故に今になって彼は、自分の迷いや事情とは無関係に世界は進んでいくことを強く自覚していた。

不幸、災厄、それら以外も等しく時間は進み、結果を人々に突きつけ続ける。

 

「戦って勝ち取る他ないんだ。結局のところ」

 

基之はそう独り言ち、彼に割り振られた役割。

集まった情報から明子(ミョンジャ)や秋久の助言を受けつつ作戦を詰め、勝敏に提出する。ことを完遂するべく、明子らのいる情報分析・管制室へ向かうのだった。

 

翌日

雅緂ゲットー 第五指定居住区 保安隊支部

 

「マーカス少佐」

 

ジュノ・カールトン中尉に呼ばれ、アーノルド・マーカス少佐は電子書類から目線を上げた。

 

「どうした?」

「どうにも、妙な報告が上がりまして」

「妙?」

「ええ。3日後、第1ブロック丙通りのB型倉庫にて武器が搬入されそれの取引がなされる、というタレコミです」

 

確かに妙だ。

マーカス少佐は顔をしかめ、手を顎に置く。

 

「具体的過ぎるな」

「はい。まるで我々を誘導するような…」

「うむ。かといって無視は出来ん情報だ。最近ブラックマーケットでも武器類が大量に取引されているようだしな。…ガサ入れを警戒し、慌てた結果杜撰なモノになったか…?」

「その可能性もある、と現場からも上がってきています」

「………」

 

はたと、マーカス少佐は思い付いたことがあった。

根拠はない。

しかし、この思い付きを簡単に切り捨てても良いのか、と彼は迷った。

そして、部下に相談してみることに決める。

 

「なあ、似ていると思わないか?」

「何がです?」

「民間人が近付かん場所に我々が行かざるを得ない状況にさせられていること、だよ。

武器兵器をやり取りするとなっては生半可な装備では向かわせられん。

そう、まるで"あの時"のようだ」

 

ジュノ中尉もそれで察した。

"あの時"が何時を指しているのかは言わずもがなであった。

"鷹鸇"による保安隊支部襲撃とウィリアムズ大佐暗殺。

その時も、彼らは保安隊支部襲撃の裏で、駐屯基地の軍が増援として来れぬよう、無人のビルを爆破し、彼らの注意と戦力を分散させていた。

 

「奴等の十八番、だろうかな」

「!…その線で対策を組みます」

「うん。ただどちらにせよタレコミの方に戦力が割かれるのは確実だ。何を企んでるかは知らんが、先手を打つ。雅緂市内の保安隊に応援を送っておいてもらおう」

「ですが、根拠は薄いですよ」

「責任は私が取るさ。…どうせ俺はいつ切られてもおかしくない人柱だ」

 

マーカス少佐は自らの立ち位置をよく理解しており、そう自嘲した。

失敗すれば簡単に切り捨てられる身。

ならば備えられるだけのことには備えておこう、と、それでも彼は、職務に忠実なのだった。

 

 

更に2日後。

星京の北端、島の端に位置する切り開かれた人工的な平野に広がる宇宙港。

そこには青木祐輔と李樱花、郭李睿煬の姿があった。

見送りにはエリック少将が来ている。

 

「じゃあ、青木祐輔少尉。悪いが、頼むよ。

君の活躍は我々に近いテレビ局が積極的に流す。

ここよりは平等派の力も強いから多少は動きやすくなる筈だ」

「ありがとうございます。微力を尽くします」

「じゃあ、郭李さん、李准尉、よろしくね」

「はい」

「はっ!」

 

既に出発準備を終えつつある巨大な宇宙船が巨大な人造湖に建てられたプラットフォームブロックに挟まれるようにして浮いている。

祐輔らはその様子を窓外に見ながら廊下を歩いていく。

やがて、目的の乗り口へ辿り着いた。

 

"28番"

そう印字された看板を確認し、三人は乗り場の守衛らへと近付いた。

 

「H-156987a 青木祐輔少尉であります」

「そこで待て」

 

守衛はそう言うと自身の端末を起動し、祐輔の差し出した身分証を読み込み、情報を確認する。

 

「…確かに。青木祐輔少尉、第十二星系総督府への異動。失礼ながら手荷物検査を行います。そちらへ」

 

手で指し示された方へ祐輔は先に向かう。

その後しろで、樱花達も同じ手続きを始めた。

 

「T-875637c 李樱花准尉。彼の警護です」

 

その声を後ろに受けながら祐輔は検査機に荷物を置く。

 

『異常ありません。ゲートをくぐって下さい』

 

金属探知機も無事通過し、宇宙戦艦の乗降口のある通路へ入り、二人を待つ。

そうして祐輔はやって来た二人と共に宇宙への入り口へと足を踏み入れるのであった。

 

そして更に翌日。

統一暦243年(西暦2693年)4月1日

この日は、人類史に記録される日となる。

その結果がもたらす善悪に依ってではなく、それがもたらす結果の大きさによって。

 

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