代星-我らが母国はいかにして勝利したか、あるいは我らの祖国はいかにして滅びたか-   作:ライト鯖

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第三十五話 レイズド・フィスト

 

朴 錫熙(パク ソクヒ)は、興奮の只中にいた。

自らが所属する組織が、起源国に対して蜂起し、尚且つ、少なくとも彼のいる前線においては優勢。

目標の街を陥落させようという状況にあったからだ。

 

起源国の圧政に対し、隣人が、家族が、友人が苦しめられていることが許せず、怒りに燃え、情熱のままに鷹鸇へ参加した彼は、これまで地味な情報の受け渡し、そのサポートであったり、大きな案件でも実際に情報を受け渡す人間になる程度であった。

その事に不満を覚えもした。

こんなことばかりやっていて本当に起源国を倒せるのか、意味があるのか、と。

だが、それは実を結んだのだ。

自分の成してきた事がどの程度影響しているのかは分からないが、それでも僅かでも貢献していたのだと実感することが出来ていた。

 

その上、今朝、連絡された場所へ行くと、蜂起すると言われ武器を渡された。

勿論、断っても構わない、という恐らくそこの責任者の言葉もそこそこに、彼は興奮のまま武器を取った。

 

ついに、自分も重要な仕事が出来るのだと。

そう、胸を躍らせたのだ。

自らの能力を発揮し、戦果を上げると、確信していた。

 

朴錫熙は制圧したビルの屋外エントランスに設置された植木を簡易的なバリケードとし、横断歩道を挟んだ先にあるビルにいる起源軍と銃撃を繰広げている。

 

銃弾が自らの耳を掠めても彼は気にもとめなかった。

雰囲気に、自分に、酔っているのだ。

高揚のまま、レクチャーされた通りに引き金を引き、撃ち続ける。

 

本来、素人に武器を持たせた所で大した意味はないのだが、秋久や明子の尽力により、武器と同時に配られたゴーグルに搭載されたAIが照準の補助をする為、多少は頭数としてカウント出来る。

 

「突撃!」

 

起源軍側からの銃撃が止み、数秒してから鷹鸇の指揮官が叫ぶ。

朴錫熙は心臓の鼓動を耳に響かせながら立ち上がり、駆け出した。

 

鼓動がうるさく、彼には聞こえていなかったが、辺りは銃声に包まれていた。

全員、AIの提示するルートに基づき、直線ではなく之字運動を模した形で走る。

これは、相手方、起源軍も当然のようにAI補助の付いたヘルメットを被っている為である。

ただ真っすぐ、昔のように突撃したのでは照準補助により即座に撃ち殺されるのだ。

 

勿論、人間がちょこまか動いた程度で大した意味はないが、機関銃は此処にはないため、多少、直撃の可能性を下げてくれる。

 

朴錫熙は引き金を引く。

放たれた銃弾は、彼の目には捉えられないが、どうやら正面にいた敵の頭に命中したらしい。

一人が植木の下に鮮血と共に消えた。

 

「ははっ!やった!!」

 

叫ぶ朴錫熙。

彼は興奮の絶頂にいた。

既にビルの1階は鷹鸇側が制圧していた。

故に朴錫熙は油断もしていた。

その彼の隣を任同じくする仲間が駆け抜けて行こうとする。

しかし、その仲間は転げるようにして地面に崩れ落ちた。

 

「え…」

 

朴錫熙は一瞬遅れて倒れた仲間の方を見る。

 

「どうし…っ!?」

 

その倒れた仲間は、顔の一部を失っていた。

無くなった部分は赤黒い液体に代わっている。

 

直後、朴錫熙の耳に指揮官の声がこだました。

 

「狙撃手だ!伏せろ!」

 

彼の身体は、その言葉に反応することは出来なかった。

しかし、彼には幸運の女神が僅かに微笑んだ。

頬を銃弾が掠め、彼の足下の道路から小さな瓦礫を生み出す。

 

「!?」

 

漸くその時になって彼は姿勢を低くし、物陰に向かった。

 

「ぐっ…」

「うあ!…」

 

その視線の端で、幾人もの仲間達が倒れて行く。

最早、数秒前まで感じていた高揚等遠く、ただ彼は激しい生存本能と恐怖によってのみ突き動かされていた。

 

 

「助けて!!」

 

雅緂(かだん)市に響く悲鳴の如き叫びを、起源国軍アレクサンドロ・カラレス二等兵は聞き逃さず声の方へと駆け出した。

 

「何処ですか?!」

 

銃声や爆発音の響く街を駆け抜け、路地に飛び込んだアレクサンドロ二等兵は声の主だったのだろう人の下へとたどり着く。

しかし、その人は既に虫の息で、胸を赤く染めていた。

既に撃たれた後だったようだ。

 

「…おね…がい…」

 

アレクサンドロ二等兵の存在に気が付いたその人はかぼそい声を発する。

 

「!…大丈夫、助けます。直ぐに運びますから」

「わた…じゃ…な…息…子」

 

震える指をゴミ箱の方へ向ける。

アレクサンドロ二等兵は直ぐ様ゴミ箱を覗き込む。

 

「なっ…!」

 

見ると、頭のひしゃげた小さな人と思われるモノが投げ込まれていた。

 

「息…子を…助け…て…」

「っ……!お任せ下さい。大丈夫。直ぐに病院へお運びします」

 

ぎこちないことを理解しながらも笑顔を造り、倒れる"親"にせめて、と敬礼をする。

 

「あ…りが…と…う…」

 

そこで息は途絶えたようで、"親"は死体となった。

アレクサンドロ二等兵は肩を震わせながらゴミ箱から子供の遺体を取り出し、親の側に横たえた。

 

「逃亡者共め…!」

 

銃を取り直し、彼は再び戦闘の渦中へ戻る。

怒りを籠めた弾丸を、"敵"に向けて発射する為に。

 

 

「やっぱり"プランC"になりましたね」

 

次々と受ける報告から基之は勝敏(かつとし)との通信でそう言った。

 

「ああ。連中も無能ではないからな。だが、なればこそ君の計画も活きる。だろ?」

「ええ、準備は完了していますよ」

「よし。では、頼んだぞ」

 

通信を終え、基之は率いている隊員らに向き直った。

 

「さて、行動開始だ。皆、よろしく頼むよ」

 

 

第三星系総督府 第四群州 星城(ピョルソング)

 

中心地で幾度か発生した爆発を陽動に過ぎないと無視し、目の前の敵に注力している起源軍は、気が付かなかった。

下水道を通り、地下鉄のトンネルを通り、或いは先んじて潜伏していた鷹鸇の者達が集結し、彼らの背後で新たに蜂起したことなど。

 

プランCとはこれのことである。

Aは陽動である爆発に起源軍が引っかかった場合、戦力が陽動側と前線とに分散されるので現在中心地に集いつつある兵力をむしろ、前線にそのまま投入、数で押し切るというもの。

Bはほぼあり得ないが、陽動をこそ本隊と錯覚し起源軍が主力をそちらに向かわせた場合の攻撃方針。

そして、Cは起源軍が陽動を無視するか極めて小規模な兵を送るに留めた場合、だ。

 

この場合、各地の鷹鸇軍は待機させていた兵を中心地へ送る。或いは第一撃で蜂起させずに潜伏を続けさせた兵を蜂起させ、手薄な中心地をそのまま占領していくことが決められていた。

 

星城市の起源軍は突如現れた反乱勢力が中心地にある行政施設を次々制圧していくことに気が付くことが遅れ、幾つかの施設が陥落してから漸く兵力を送ってきた。

しかし、既に遅く、総督府の支所。第二大陸の中心足る政庁が陥落寸前となっていたのであった。

 

多くの都市で同じように複数用意されたプランの中から状況が適合するに合わせて其々行動をし、惑星解放作戦を遂行していった。

 

そうして、星京においても──。

 

「クセナキス中将!」

 

彼女の部下の一人が息せき切って扉を叩きつけるようにして参謀の集う作戦会議の場へ飛び込んできた。

 

「どうした?」

「星京においても反乱が!!」

「!…やはり来たか」

 

驚きつつも、しかし、混乱することはなく言い、クセナキスは横に立つサミュエル総督をチラリと見た。

彼の方は不安そうな表情そのままであったが、しかし、恐慌状態にはない。

 

「閣下。予想通りだったようです」

「あ、ああ。そうだな」

 

そう、クセナキスは反乱勢力が短期決戦を挑んでくると睨み、星京の防衛に兵力を温存していたのだ。

反乱側に豊富な武器があるはずもない。

つまり、わざと長引かせる真似をするとは考えにくい。

それ故に、彼女は鷹鸇の狙いを正確に読んでみせたのだ。

 

「さあ、迎撃だ。ただし、市内には入れてやれ。連中を油断させ、分断を試みる。

市内侵入前だと市外へ通じる道が限られるからな。

むしろ此方が包囲されかねん。指示通りに動くよう各所へ伝えろ」

「はっ!」

 

部下は再び飛ぶように駆けていった。

 

「さて、ここからですね。閣下」

「頼むよ…。クセナキス中将…」

 

確かに判断力においては多少頼りになるが、この自らの身を案じるばかりな態度を改めて欲しいな。等と考えつつも、彼女は問題ない、とばかりに頷くのだった。

 

その星城に突入した勝敏と[RB:烏,からす]率いる二軍団は幹線道路を起点に各道路を線に見立てて浸透。

徐々に面状となるよう制圧していく。

だが、直ぐにその進撃は足止めされる。

 

「どうも誘われたようだな」

 

行政施設の集中する中央区の少し手前に配備されていた起源軍の主力部隊と戦うことになった勝敏らは一先ず遅滞戦闘に努めつつ、一時後退。

分散しゲリラ的な戦闘方に切り替えていった。

しかし、それでも苦戦する。

当然だろう。

起源軍の主力が本気で首都の陥落を防ぐために戦っているのだから。

更に、各地からの報告が鷹鸇の劣勢を伝える。

幾つかは勝利の報告であったが、数で言えば、悪い報告の方が多かった。

 

「第一群州烽丈市の部隊は潰走、制圧に失敗した、と」

「雅緂市と雅緂ゲットー、双方共に停滞しているとのこと!」

「第三大陸の蜂起は殆ど鎮圧された模様…」

 

絶望的にも聞こえる報告の数々。

しかし、そんな切迫した状況ではあっても、勝敏は慌ててなどいなかった。

 

自分達の動きがある程度読まれていることは織り込み済みだ。

むしろ、何の障害もなく倒せる程甘い敵ならここまで潜伏し、工作活動をする必要もなかった。

勝敏達は確かに主力だが、もう一つ、主力となる部隊がある。

 

つまり、主力を二手に分けているのだ。

本来、戦力の分散は愚策。

しかし、仮に全ての戦力を集中させたとしても、絶対数において起源軍に勝ることはない。

どちらにせよ数的不利があるのなら、それを覆し得る奇策に賭けたほうが得策だと言えるだろう。

 

何処の都市に派遣された部隊も、数は然程多くはない。

大きめの部隊でも、軍隊における連隊規模を越えている部隊は少ない。

 

緒戦の優勢や、蜂起から既に半日以上経過している現在でもなお、戦えているのはひとえに通信網の遮断や陽動等を用いた起源国の統率を混乱に陥れる作戦の成功による所が大きい。

それによって混乱した起源軍の指揮の乱れや士気低下が鷹鸇の力を実力以上に発揮させているのだ。

 

これもまた、数的不利を補う為の策であったが、当然それだけでは勝てない。

現に、勝敏らも苦戦を強いられている。

それ故、もう一つの主力が重要になってくるのだ。

盤面をひっくり返す一手を打つための、布石が。

 

 

僅かに時間を遡り、星京のある首都島を臨むとある沿岸地域にて。

 

「さて、星京突入が開始されたみたいですね」

「ああ。…あいつら、大丈夫かな」

「まあ、激戦になるでしょうが、こっちも無策じゃないんです。大丈夫ですよ、きっと」

 

坂東が星京に突入した者達を案じ、基之はそれを慰めていた。

彼らは、星京にはいない。

だが、しかし、彼らもまた、星京攻略の任に就いている。

 

「行きましょうか」

 

基之の坂東、二人が率いる部隊は、星京のある首都島、そこから一番近い位置にある宇宙航空戦力が配備されている基地にいた。

"あの会議"の席で組織の方針を定めるに多大な役割を果たした基之の、その構想に基づいた、最重要任務の一貫としての意味を持つ、この作戦。

彼らは基地へと事前に用意していたルートを使って秘密裏に侵入し、行動を開始する。

 

「侵入者…っ」

 

巡回していた兵士を倒し、全員が基地施設内へ飛び込む。

それと同時にけたたましいサイレンが基地中へと響き渡った。

 

「バレたか。問題ない!坂東さんは予定通り隊舎方面へ!俺達は格納庫に!」

「おう!任せとけ!」

 

部隊は二手に別れ、次々と参集してくる敵敵を鉄の雨で払い除け、奥へ奥へ、目的の場所へと突き進む。

基地の兵士達は即応態勢こそ取っていたようだが、基地に侵入されるという事態は想定していなかったようで、統率が混乱しているようだ。

近くにいたであろう者達が一人二人、多くても五人程度の集団がバラバラにやって来ては散発的に抵抗する、というのが暫く続いた。

 

「くそっ!何でここに?!」

 

侵入前に基之が様子を伺った限りにおいて、彼ら基地の兵はどうやら星京へ援軍に出ようとしていたらしい。

その所以で、想定以上の混乱が基地にもたらされていた。

 

だが、何処にでも"英雄"はいるものだ。

どうにか指揮をある程度回復させただろう者の指示を受けた、統率の取れた2個小隊程度の兵が基之達の行く手を阻んでいた。

 

山名(やまな)はバックアップを頼む」

 

言うと基之は手榴弾、を模したモノを取り出し、投擲する。

簡易的ながらバリケードを張っていた起源軍兵士らは慌てた様子で身を屈め、物陰に身体を隠す等、各々対処をした。

しかし、それはただのダミー。

爆発はせず、ただ彼らは隙を晒すだけとなった。

 

山名と呼ばれた、本来基之が今、率いている部隊の隊長をしている男が部下らに命じて発砲する。

基之は身を屈めて彼らの射線から逃れ、次は閃光弾を投擲した。

仲間達には事前に伝えていた行動パターンの為、皆、閃光にやられることはなかったが、どうにかダミー手榴弾によって崩されていた体勢を立て直しつつあった兵士らは閃光に目をやられ、そうしてそのまま銃弾に貫かれてしまう。

 

「この調子だと敵さんももう殆ど秩序を回復しているだろう。急ぐぞ」

 

基之の読み通り、そこから先はそれなりに組織立った抵抗と相成って行き、彼らの足は都度、止めさせられる。

基地にいる兵とほぼ同数がそれより少し多い位の人員を掻き集めて基之達は突入した為、個々の戦闘において不利になることはほぼなかったが、時間はどんどんと喰われてしまう。

 

「想定より少し遅いな…。勝敏さん、皆、もう少し耐えてくれ」

 

ここに来て徐々に想定からズレ始めた現実に、基之も完全に冷静ではいられなかった。

しかし、それでもやるしかないのだ。

決めた覚悟を反芻し、彼は部隊と共に基地の"格納庫"を目指すのだった。

 

 

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