代星-我らが母国はいかにして勝利したか、あるいは我らの祖国はいかにして滅びたか-   作:ライト鯖

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第二話 新たなる日々

 

 

起源国執政官を名乗る男は、ゆっくりと口を開いた。

 

『私は、諸君らを統合するために、唯一人類代表 起源国議会の承認を受け、軍隊を派遣した。

不遜なことに、人類の起源が何処であるかも忘れ、故郷を打ち捨てた逃亡者共は、天の川銀河の方々に惑星政府を自称する統治機構を打ち立てた。

これは、忘恩であり、そして、傲慢である。

人類の故郷は母なる地球ただ一つであり、人類を統治せしめるは我々起源人類のみである』

 

執政官を名乗る男の言葉は一切基之らには分からなかったが、同時翻訳によるハヤブサ語(日本語や韓国語の語彙が混ざりあった言語)の字幕が、その意味を教えてくれていた。

 

「地球って...犯罪者と希望した奴らしか残ってなかった筈でしょう。今更なんの..」

 

浅菜の言葉に基之も頷く。

 

『起源国は、人類をあるべき姿に戻す。

そして、傲慢なる逃亡者惑星政府に洗脳されし、その子孫らに真実を伝えることこそが、我等が使命である』

 

執政官は、気味の悪い笑みを浮かべた。

 

『人類は間もなく、我等が統合することとなるだろう。全人類に、秩序を。

忘れるなかれ。起源はここに(Origin's Here)

 

そこで、執政官の言葉は終わった。

 

またまた画面が切り替わり、政庁の会見室へと戻る。

先程の軍人が、一つ咳払いをした後、口を開いた。

 

『執政官閣下からのありがたいお言葉をしかと胸に刻み込むよう。

起源国は、本日を以て、惑星ハヤブサを唯一人類国家へと統合することを、改めて宣言する。

そして、同時に我等は、第三星系総督府の設立をも宣言する。

首府はここ星京に設置することとなるだろう。

ハヤブサ連邦を自称する統治勢力に操られし官僚達は、大人しく我々の指示に従うよう。

市民、いや、名誉起源民全ても、同様である。

━━━━』

 

浅菜と基之は、もはやまともに放送を見ていなかった。

浅菜は、母親に電話をかけ、安否の確認を取っており、基之も、友人らに連絡を取っていたからだ。

 

「お母さん!そっちは大丈夫?!...そう..そう..良かった」

 

[無事か?]

[俺は大丈夫]

[俺も。映画館に軍服の奴等がきたのは驚いたけどな]

 

メッセージアプリで友人らの無事を確認し、浅菜の声色から母もどうやら無事らしいことを察した基之の身体からは、力が抜けていた。

この先何があるかは全く分からないし、想像も出来ていなかったが、それでも、一先ずの安心が、彼を覆っていたのだ。

 

その後、直ぐに母親、優菜が帰宅し、互いの無事を喜びあい、それぞれ、眠りに付くのだった。

 

翌日からは、世界が一変し、家族と友人の無事によって感じていた安堵や安心など、まやかしに過ぎなかったのだと突き付けられていくこととなるが、この夜の彼らは、考えもしていなかった。

 

 

時は進み、ハヤブサ連邦消滅から3ヶ月後。

統一暦239年(西暦2689年)11月。

 

惑星ハヤブサのこの地域には四季らしきものがあるため、気温も低く、雪のちらつく日も増えた頃。

 

基之は、2ヶ月前に再開した学校へとこの日も、向かっていた。

 

今は、自転車では通っていない。

徒歩圏と定められた区域外の生徒はバス通学が義務付けられているからだ。

 

近くの学校用バス停で待っていると、五分と経たずにバスがやって来た。

 

「Remember Origin 」

「Remember Origin 」

 

起源国によって命じられた挨拶、もとい起源国に忠誠を誓う文言と簡易的な敬礼を運転手と交わし、バスへと乗り込む。

 

「それでは出発します」

 

運転手が車を発進させると、車内スピーカーからは、起源国が聴取を義務付けている国歌が再生され始める。

 

『我等産まれし母なる土地 無限の恩義と未来を乗せて 故郷たる地球 故郷たる太陽系 永遠にその美麗を保ちたまえ』

 

厳かな曲調の国歌は、地球の言語らしく、まだ何を言っているのか殆どさっぱりだが、意味の方は学校でくどいほどに叩き込まれていた。 

また、暗唱も出来るようになっていた。

1ヶ月前辺りから、歌うことの出来なかった者には罰が下るようになっていたからだ。

今は、口頭注意や反省文程度だが、来年以降からは、本格的な取り締まり対象となるらし

い。

 

この3ヶ月は、余りに怒涛であった。

まず、ハヤブサ連邦消滅の翌日。

正式に総督府が設置され、天暦の廃止と、起源国の暦である"統一暦"の採用が行われ、次に、惑星ネットワークが遮断された。

一月後に再開したが、それは検閲が行われるようになっていた。

そして、言論の統制。

最初は、基之にとっては何も変わらないように思えた。

しかし、ある日学校で起源国を小馬鹿にした生徒がいたのだが、"誰かが"通報したようで、次の日には姿を消していた。

それ以来、本当に信頼出来る友人の前以外では、発言に気を遣うようになったのだ。

 

そして、ハヤブサ住民の大部分は、名誉起源民とされたのだが、これは、起源民、つまり地球の起源国国民や起源国に忠誠を誓った、つまり軍や警察に入ったハヤブサ住民に対して劣位に置かれた。

例えば、名誉起源民は映画館の利用やテレビ視聴が、プロパガンダや許可されたモノ以外は禁止であったり、携帯端末の所持も、買い換えと新規の買い求めは禁止された。

他にも、大学進学の権利や、将来的に付ける職業や、職位にも差異が設けられる等々、差別が盛りだくさんである。

報道も起源国賛美一色。

軍人が大きな権限を握っているため、軍人による暴力事件の噂も後を絶たない。

社会は、平和から程遠い位置に置かれてしまったのであった。

 

ぼんやりと国歌を右耳から左耳へと流しながら、基之は街へ入ったバスの窓外へ目を向けた。

 

人々の中、まばらに、起源国の軍服を着た軍人らが行き交う姿が目に入る。

彼らは、その全員が地球からの襲来者ではない。

既に起源国に、どのような理由があってかは分からないが、忠誠を誓ったハヤブサ市民が多くいるからだ。

昨日まで隣人だった者が、弾圧者に回ることは、ここ最近頻発しているありふれた悲劇である。

 

そして、至る所に、電子ポスターのみならず、紙のポスター等が張られており、起源国への忠誠と忘恩の反省が訴えられている。

真っ黒な布地の中央に大きな金色のリングが描かれ、その中に正距方位図法で描かれた地球が鎮座、金色のリングから四つの赤い線が、上下左右丁度中心に延び、リングの外側に位置する一際大きな赤い円へと繋がる。

そんな図柄の起源国国旗も同じく方々にはためいていた。

 

バスは学校へ到着し、基之は再び挨拶を運転手とし、降りると、門扉にはまたまた軍服の男が立っていた。

 

「Remember Origin 」

「Remember Origin 」

 

はっきりと、よく通る声で挨拶をし、門扉を潜る。

その数秒後、軍人の怒号が飛んだ。

 

「貴様!声が小さい!」

 

どうやら、基之の後ろにいた生徒の挨拶が小さかったらしい。

 

「貴様ら逃亡者は、まず地球こそが起源たると自覚せねばならんと言っているだろう!何だ今の挨拶は!」

 

基之達に取って運の悪いことに、彼らの学校に配属された軍人は、生粋の地球人であった。

故に、とてつもなく厳しいのだ。

 

「歯を食いしばれ!」

 

ゴッと背後から聞こえる鈍い音から逃げるようにして基之は小走りで教室へと向かうのだった。

 

 

「皆おはよう━━さあ起立して」

 

教師に促され生徒達は起立する。

そして、教室の、ホワイトボードの上に掲げられた起源国旗に、肘を伸ばした右腕を斜めに上げ、親指と人差し指と中指のみを伸ばす、といった形の敬礼を行い、宣誓する。

 

「Remember Origin」

 

起源を忘れるなかれ。地球こそが人類唯一の故郷という彼らの主張を伝えるスローガン的挨拶だ。

 

そして、もう一つ。

敬礼を続けながら初代執政官 イエナ・アース・オクトールの肖像へ視線を移し、宣誓する。

 

「Origin's Here」

 

起源は、ここに。

ここは起源国である。

二つの意味を持つ、しかして意味する所は同じ。つまり、地球を本土とする起源国こそが人類の原点である、と示す宣誓だ。

 

「さあ、授業始めるぞ~」

 

そうして、授業は始まる。

数学や理科の授業は同じであり、退屈なモノであることは3ヶ月前と変わらぬ点だ。

半ねぼけで授業をやり過ごし、昼休み。

 

「よー基之」

 

青木祐輔が基之に話しかけに来た。

 

「どした?」

「飯食おうぜ」

「おー。いいよ」

 

学食で昼休みに先んじて購入していた昼食を広げた二人は他愛のない話を暫くしていたが、丁度教室に、ある生徒が教室を通り過ぎたのを見て、話題が移った。

 

「なあ、生徒会の件、知ってるか?」

「ああ。起源国に忠誠を誓った連中に交代したんだっけ?」

「そうそう。そんでさあ、良からぬ生徒がいないか、ああしてパトロールしてるらしいぜ」

「ご苦労なこったな」

 

溜め息を付く基之に、祐輔は顔を近付け、小声で続けた。

 

「そんで噂なんだけどさ。学生の密告も受け付けてるらしいんだって。治安機関に通報する窓口もやってるんじゃないかって」

 

あり得ることだ、と基之は納得していた。

ここ一月程、何処から漏れたのか、という密告による逮捕が相次いでいる。

もう既に至る所に起源国の協力者が潜んでいるのだろう。

 

息苦しい。

そう感じたとしても、何かすることなど、出来はしない。

ただただ、目を付けられないように息を潜めて、基之は生活を続けていたのだった。

 

同日

-地球 起源国-

 

起源国の首都は地球の、人類発祥の地と言われている東アフリカ地域に建設された都市、"アルワタン"である。

都市は、均一化されたデザインの高層ビルが建ち並んでいて、中央の地区に政府機関が集っている。

 

その一つにして、他の政府機関よりも広い土地を持ち、高さも兼ね備えた起源国執政府ビルの執政官執務室にて。

 

「第三星系総督府は順調に"統合"を進めているようです。また、"街"の建設も滞りなく」

「反逆者の方は?」

「既に大部分のリストアップがすんでおり、重大犯罪人は既に逮捕、処刑が完了、他も見せしめの為にある程度は逮捕済み。

後は収容所が完成次第、次のフェーズに移行する、とのことです」

「よろしい」

 

秘書官からの報告を受け、執政官ジョルジュ・アース・ンガングカは満足そうに頷いた。

 

そこに、少し慌てた様子のノックがなされる。

 

「入れ」

 

執政官の言葉が早いか、グラナト国家統合大臣(実質的な国軍大臣)が駆け込んできた。

「Origin's Here」と公式的な場での敬礼と宣誓文句を叫び、彼は喜色満面といった様子で話し始めた。

 

「閣下!私がこの報告を閣下にお届け出来る事を深く喜び、誇りとするものであります」

「ほう?」

「フィリブス・ウニティスを名乗る逃亡者勢力が降伏致しました!残るはルーシ・ミールと自由合衆国、そして、現在攻撃中であるバーラト連盟の三惑星となりました!」

 

国家統合大臣の報告に、執政官は、ニヤリと笑った。

 

「素晴らしい。私も君からこの報告を聞けたこと、喜ばしく思うよ。残る三惑星の統合も、しっかり実行してくれたまえ」

「はっ!父なる執政官閣下の仰せのままに!」

 

腕を延ばし、敬礼し、統合大臣は部屋を去るのだった。

 

「後少しで、我等人類は一つになる。

人類は、唯一国家のもとへ..」

 

執政官は、恍惚とした様相で、そう静かに誰に言うでもなく、口にするのであった。

 

 

 





Tips
起源国の公用語は英語、フランス語、中国語、スペイン語、スワヒリ語、アラビア語と幾つもあるが外惑星での活動中は基本的に英語で統一されています。
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