代星-我らが母国はいかにして勝利したか、あるいは我らの祖国はいかにして滅びたか- 作:ライト鯖
統一暦243年(西暦2693年)4月4日
第三星系総督府降伏から一夜明け、
「
「川辺の隊を回せ!」
「勝敏さん、ゲットー居住市民への食糧配給が一部で滞っていると」
「秋久にシステム構築を急がせている。それまでは個々で対処を。
備蓄食糧を解放して構わん」
特に勝敏は惑星全体から上がってくる報告に忙殺され、勝利を噛み締める余裕もなかった。
鷹鸇は末端に至るまでおおわらわであったが、市民は対照的であり、解放を多くのハヤブサ市民が祝っていた。
惑星の一部解放、等ではなく、惑星ほぼ全土を起源国の支配から解放したのだ。
奪還政府による星城動乱失敗以降、慎重になっていた市民もこれには興奮を隠すことが出来ず、お祭り騒ぎとなっていた。
とは言っても、一部の冷静な市民の中には、この後予想される起源国からの反撃を考え、暗澹たる想いを抱いている者もあった。
それでもこの日は大多数が高揚の中にいることが出来たのだった。
しかし、翌日からは異なる感情が市民を支配することとなる。
ひとしきり喜んだ後、襲ってきたのは今までの鬱憤、怒り、憎悪であった。
起源民、今やそれは名誉の、強者の象徴等ではなく、迫害の対象となってしまっていた。
多くのハヤブサ市民が逃げ、隠れる起源民を追い詰め、リンチし、彼らの邸宅を略奪し、報復を行った。
星京等は住民の大部分が起源民に置き換わっていた為、侵入した市民にとっては格好の的であった。
そこらに起源民だった死体が転がる事態になり、アチラコチラで火の手が上がる。
星京だけでなく、幾つもの都市が同じような有様であった。
ここ、
「Journalist! I'm a journalist.!」
起源国の公用語で必死に叫ぶケビン・ヤマシタ・アルトーであったがあえなく、鷹鸇の末端兵士と興奮した市民に引きずり出され、跪かせられる。
「Journalists are protected by the Geneva Convention! I demand my release!」
ジャーナリストは保護されると叫んだが、この場にいる者の多くはジュネーブ条約等という古めかしい地球時代の条約に関する知識などなく、無視された。
また、ハヤブサ市民は起源国総督府群の中で唯一、地球にはない言語を形成していた為、ハヤブサ語は公用語に含まれておらず、それ故起源民との会話では英語が強制されてきたことの反動で、一切の起源国公用語を使用せずに彼らを追い詰めてもいた。
「黙れ!くそったれの起源国人め!ジャーナリストだあ?どうせ起源国万歳!とか書いてるだけだろうが!」
ハヤブサ語で兵士はそうまくし立て、銃床ではたくようにしてケビンを地面に倒す。
「I…I just came The Thrd Star system for an interview…Please release me. please…」
「取材だあ?!俺等の情報でも持ち帰るつもりか?!」
市民の一人がそう吹き上がったが、鷹鸇兵の隊長らしき男は別の言葉に反応をしていた。
「待て。貴様今、
怯えるケビンの髪を掴むと、隊長は彼を地面に叩き付けた。
「This place isn't called The Third Star System. It's called "HAYABUSA".」
青筋を浮かべる隊長の気迫に、ケビンは震えながら何度も頷いた。
「So…Sorry. I'm Sorry Sir. Yes.Yes."HAYABUSA".… I…I just came HAYABUSA for an interview…」
「ふん。今更遅いわ」
冷ややかな視線をケビンに浴びせ、隊長は銃を抜き、彼の頭蓋に突き付けた。
「No!Nonono!Stop!Please!」
ケビンは必死に頭を回転させ、生き残る術を探す。
まるで高速鉄道から見える景色のように過ぎ去る記憶の中で、一つの藁を掴んだ。
少し前、取材中に見た、起源軍人に命乞いをしていた第三星系総督府名誉起源民、つまり、ハヤブサ市民の発していた言葉である。
後から聞いたところによると、謝罪と、助けを乞う意味が籠められているという。
どうにか、当時はせせら笑っていたその言葉を再現しようと必死に舌を動かす。
「オ、オユルゥシィクダシャイ。オネェガイシマシュ」
しかし、同情の一つも買うことは出来ない。むしろ──。
「オユルシクダシャーイだってよ」
「お願いシマァシュ。だっはっは!」
外野はゲラゲラと侮蔑を込めた嘲笑を向け、銃口を突きつける隊長も失笑するのみだった。
「Please...」
そんなケビンに隊長は口を寄せ、ケビンの放った辿々しいハヤブサ語とは正反対に、強制されてきたが故に流暢な英語で、突き放す。
「|You are not journalist. So,you are Propaganda "System".」
引き金に指をかける音がする。
「何れにせよ、起源国賛美を垂れ流して奴等を利するだけの存在だ。生かす理由はないな」
「Please!オ…オネガイシマシュ!Please!! Plea──
彼の最後の叫びは銃声によってかき消された。
こうした事態はさすがに目に余り、治安維持の観点からもよろしくない上、総督との約束もあるため、勝敏は綱紀粛正と鎮圧部隊を差し向けることを決定。
市民を宥め、落ち着かせつつ起源民を避難させた。
しかし、これにはハヤブサ市民が鷹鸇に不満を抱く結果となったため、止むを得ず勝敏は起源民保護の理由を全土に喧伝することとした。
要するに、交渉材料にするので勝手に危害を加えるな、というものだ。
それを聞き、鷹鸇の対応に不満を覚えた者達も大半は納得し、とりあえず矛を収めた。
だが、一部ではその後も、散発的な報復行為が絶えず、その度に勝敏は仕事を増やされることとなった。
しかし、彼も仕事を増やすな、という憤りは感じても、ついぞ起源民に同情を抱くことはなかった。
同じ日、どうにか勝敏率いる鷹鸇主導で臨時政府が立ち上げられる。
首席は勝敏であり、官房長として烏、改めコードネームの必要性がなくなったため、本名を名乗った
基之は宇宙軍総司令官、並びに外惑星全権大使に任ぜられた。
その他、秋久が情報長官、
こうして体裁こそ整えられたものの、旧総督府官僚の多くは起源民である為、職務に対する強い信念を有する者や、鷹鸇に媚を売ることで権益を生きながらえさせようとする薄汚い者という、ある種両極端な人員を除き殆どが逃げ出している為、行政はほぼ停止状態であった。
その上、基之や明子等幾らかのメンバーは次なる作戦の準備に追われているため、勝敏以下、政府枢要メンバーの負担は凄まじいものとなったのだ。
そんな状況下では、一隻の小型の民間船籍である貨物船が星系をひっそりと去ったところで気付かれることはなかった。或いは、無視されたのも当然と言えるだろう。
「すまんな。迎えまでよこしてもらって」
「いえ。中佐がご無事で何よりです」
貨物船を民間人に扮し操縦するトシン・オゴチュクウ准尉に礼を言ったのは
彼は起源軍の敗北を悟るや否や持ち場から混乱を良いことに逃げ出し、オゴチュクウと連絡を取りながらこうして貨物船を拝借して逃げ出すことに成功していたのだ。
「何処に向かいましょう?」
「地球…は止めたほうが良いな。そこまで逃げてはまるで計画的に逃亡したように見られてしまう。…第十二星系総督府、ルイス・プラネットへ行ってくれ。ここから直線距離では二番目に近い。
這々の体で逃れたフリをせねばな。
ついでに奴もいるし」
「了解しました。では、燃料も減らしておかねばなりませんね。多少、遠回りしていきましょう」
「そうしてくれ」
真に自らの利益にしか興味のないこの二人は身を守りつつ、再び権益を築くための一手をも同時に打とうと漆黒の真空下で画策するのであった。
鷹鸇技術本部 旧総督府科学局ビル地下フロア
基之は明子に呼ばれ、彼女が臨時で居を構える技術局の中心へやって来ていた。
「悪いわね。忙しい時に」
「必要なことなんだろう?」
「ええ。とっても。こっちよ、これ被って、後、靴もこれ着けて」
髪の毛を落とさないようにするためのディスポキャップを手渡され、被る。
「こっから先は精密機器があるから、ちゃんと髪が出ないように被って」
言いつつ明子もキャップを被り、基之と共にエアシャワールームへと入った。
「今日来てもらったのは、紹介したい人達がいるからよ」
シャワーを出ると、基之には何の音かは分からなかったが、何か複数の機器が駆動する音が耳を貫いた。
「皆!ごめんなさい!少しだけ良いですか?」
明子が声を張り上げると、皆、動きを止め、機械を停止させて明子の方へと視線を向けた。
「連れてきましたよ。我等が大将を」
「いや、大将ではないけど…」
「いいや大将だよ。この人達は皆、基之の作戦に協力してくれてる人達なんだから」
「!…これは失礼。お初にお目にかかります。日野基之です」
明子の冗談めかした紹介にツッコミを入れたが、即座に姿勢を正し、基之は頭を下げる。
「若いねえ。明子さんと同い年くらいかな?」
「年下なんです」
「そいつは驚きだ。天才ってのは何処にいるか分からんね明子さん」
「ですねえ」
他人事のように笑った明子に、何人かが「君もだよ」と笑いかける。
どうやらそれなりに気安い関係のようだ。
「この方達は?」
改めて基之が尋ねると、明子も姿勢を改め、居並ぶ人々の側に立ち紹介した。
「私が呼びかけて集まってくれた技術者仲間よ。ロボット工学者からコンピューター技術者、プログラマーまで何でもござれ」
基之は驚き目を見張った。
「こんなに!?皆さん明子さんの知り合いなの?」
「いえさすがに全員ではないわ。でもどんどん知人を紹介して頂いてね。これだけに膨れ上がったってわけ」
白衣を着た眼鏡をかけた初老の人物が一人近付き、明子と基之に笑いかける。
「明子ちゃんの頼みとあれば一肌もふた肌もぬぐさ。…はじめまして日野基之君。私はこの娘が常連だったロボコンの主催者をやっていた
「よろしくお願い致します」
「柴崎さんが殆ど紹介してくださったの」
「それは…ありがとうございます」
礼は不要だよ。と柴崎は首を振る。
「収容所から出してもらった恩だよ。それに、あの娘…今波さんや犠牲になった同僚達の弔い合戦なんだ。そうだろう?明子ちゃん」
「はい。でも本当にありがとうございます」
「若いのは気にしなくて良いさ。ここにいる皆、君とあの娘に敬意を表してここにいるんだ」
薄く目を濡らしながら明子は少し照れくさそうにニコリと笑った。
「さて、基之君。仕事の話だ。注文通りのシステムを構築している途中なんだがね、幾つか確認しておきたいことがある。
特に宇宙船の装備についてなんだが──」
そこから暫く、基之は彼らと次なる作戦に使う宇宙船を始めとするツールについて相談を重ねることとなった。
そして数時間後。
「まさか明子さんにあれだけ人望があるとはね」
「どういう意味かしらあ?」
「悪い意味じゃないよ。知人の知人、って紹介が広がったとはいえ、あれだけの人達が協力してくれるなんて。というかテレビで見たことある顔もいたし」
フフン、と明子は鼻を鳴らし、胸を張った。
「伊達に惑星二番目の天才やってないのよ」
まあ、志望のおかげでもあるけどね、と付け加えてから一瞬顔を伏せた後、即座に顔を上げ、とびきりの笑顔で、笑った。
「私達の凄さ、分かった?」
「充分過ぎるほどに」
こうして準備は整えられていき、惑星ハヤブサ解放から3日後、幾つかの艦船が一隻ずつ各星系へと発進していった。
これは戦闘を目的としたものでもなければ、監視等のスパイ任務を帯びたものではない。
その目的は"宣伝"にあるのだった。
起源国 太陽系 首都星 地球 首都 アルワタン
統一暦243年(西暦2693年)4月24日
ジョージ・サンチェスはこの日もいつも通りの日常を送っていた。
朝起きて着替え、顔を洗い、母の用意してくれた朝食を食べ、中学校へ向かう。
「それでは、マークさん。誓いを」
毎朝の日課。
クラスの代表が教壇に立ち、国家への忠誠を誓うのだ。
「我々は誓う。法の守護者であることを。
我々は誓う。秩序の維持者であることを。
我々は誓う。祖国に尽くす愛国者たることを。
我々は誓う。執政官閣下への無限の忠誠を」
一文ごとに全員が復唱し、それが終わると代表、教師含め教室のホワイトボードの真上に飾られた2人の肖像に目線を向ける。
一人は、初代執政官、イエナ・アース・オクトール。
もう一人は、現執政官、ジョルジュ・アース・ンガングガである。
まずイエナ・アース・オクトールに向かって肘を伸ばした右腕を斜めに上げ、親指と人差し指と中指のみを伸ばす敬礼を行う。
「Remember Origin」
続いて、ンガングガ執政官の肖像に向かって敬礼をする。
「Orgin's here」
最後に二人の肖像の間に掲げられた国旗を向き、もう一度敬礼をしてから着席をする。
これが毎朝の朝礼である。
「さあ、歴史の授業始めるぞ」
授業はいつも通り退屈で、教師の話は半分程しか入ってこない。
「──こうしてイェナ・アース・オクトール初代執政官は、当時横浜に追い詰められていた日本列島自治政府救援の為に自ら陣頭に立たれ、その類稀なる指揮によって日本列島の再統合を完遂したのです。
これを皮切りに、各地で次々と軍事勝利を成し遂げたことでオクトール初代執政官は国民の強い支持を受けるに至り、起源統一党の支持基盤を盤石なものとなしたのです」
歴史の授業。
これはサンチェス少年にとって最も退屈なものだった。
覚えるべきことは多いが大して興味を唆られない。
その癖してつまらなそうにしていると非国民だと騒ぎ立てられる。
面倒なことこの上ないのだ。
故に、姿勢を正しながらどれだけ睡眠に近い精神状態へ移行出来るかは、彼含め多くのクラスメイトが挑戦するところであった。
そんな日の午後、授業中突然に教室に1台ずつ取り付けられている小型映写機が自動的に起動し、教師が誤作動を疑いスイッチを切ろうとするよりも早く、けたたましいサイレン音を響かせた。
『緊急放送。緊急放送。全国民はテレビかラジオ、或いは情報端末を起動し待機せよ』
国家非常時に流される文書そのままであったため、教師達は動きを止めた。
起源国の放送であると疑うことなかったのである。
『我々は起源国より独立を解放せし惑星ハヤブサの市民代表である。繰り返す。我々は惑星ハヤブサの市民代表。起源国より、惑星ハヤブサを取り戻せし者である』
歴史の教師は大慌てでスイッチを切ろうとしたが、反応しない。
無慈悲に、流れるべきでない映像がディスプレイを通して映し出され続ける。
『市民諸君。起源国に虐げられし惑星市民諸君!我々は解放を目指す。
勿論、惑星ハヤブサのみのことではない。
全銀河の解放だ。起源国からの隷属を終わらせ、自由な国家を取り戻すのだ』
サンチェス少年は、不安と、しかし、密やかな興奮に包まれていた。
つまらない筈の歴史の授業。
だが、彼は今実感していた。
その歴史の中に生きているのだ、と。
直感していたのだ。
これは教科書に載るような一事になる、と。
同日 第十二星系総督府 旧自由合衆国
ジェラルド・ターレスは剃り上げた丸坊主の頭を撫でる癖を繰り返しながら部下から集められた報告書を読んでいた。
どれも殆どが暗澹たるものである。
どこそこの地域で構成員が捕まった、だとか。
保安隊に情報を流していた幹部がいた、だとかである。
彼は、このルイス・プラネットにおける、起源国に反対するレジスタンスのリーダーであった。
この惑星は起源国による核攻撃を受けた経験がある為、恐怖心から反抗運動は大きくはない。
極少数の者達が死に物狂いで戦っているのが現状である。
しかし、当然それで不利が覆るわけでもない。
そして上がってくる報告は悪いニュースばかり。
彼は、深くため息を付くことしか出来なかった。
だが、どうにか心を落ち着けようとコーヒーを入れ、席に戻った直後のことであった。
情報収集の為に付けていたニュース番組が突如、雑音と共に消え、直ぐに別な映像へと切り替わったのだ。
それも、どうも放送事故などの際にあるような切り替え映像ではなく、何者か、少なくとも起源軍人ではない軍服に近い姿の者が映っていた。
そして、その彼は言った。
自分達は第三星系総督府、惑星ハヤブサを起源国から取り返した、と。
更にそれだけでなく、全銀河を起源国から解放してみせると、そう宣言したのだ。
『急なことで皆、驚いていると思う。しかし、我々がハヤブサを解放したことは事実だ。
証拠をお見せしよう』
同時に切り替わった映像は、起源国旗が、庁舎らしきビル─大抵の惑星総督府のビルはデザインが同じなため、そう推測することは容易なのだ。─から降ろされている様子や、起源国宇宙戦艦の内部にて、宣言を述べた者の後背に掲げられていたシンボルが同じく掲げられ、軍服でない者達が慌ただしく動く様子を映し出した。
『残念ながら映像では限界がある。
しかしながら、これらがフェイクでないことは調べれば直ぐに分かるだろう。
その上で我々はもう一つ宣言をさせてもらう。
…首席、お願い致します』
ジェラルドは息を呑んで映像を見つめていた。
また映像が切り替わり、今度は別な、先程の者よりも歳を重ねて見える男性が映る。
『我々、鷹鸇、いや、ハヤブサ連邦臨時政府は臨時政府総意の下に"銀河連盟"への再加盟を宣言する。
また、銀河連盟憲章第一条に基づき起源国なる侵略国家に主権を奪われし国々を解放するべく我々の全力を尽くすことを約束する』
銀河連盟憲章第一条。
"加盟国、非加盟国を問わず、全ての国家はその主権を尊重される。また、宇宙の平和秩序を害する侵略行為は何人にも許されない。
全ての加盟国はこれを擁護するために国家の名誉をかけ、連帯する義務を負う"。
その文章が立体的に勝敏の前に映し出され、視聴する全ての人々に彼らの意志を伝えた。
この憲章を盾にした大義は言ってしまえば、屁理屈である。
銀河連盟は確かに、解散が決定されたわけではなく、全ての加盟国脱退によって消滅した組織だ。
だからこそ、再加盟は可能ということなのだろう。
そして銀河連盟は実効性の面で言えば小さな、殆ど飾りのような組織であった。
ワープ技術等無かった時代において、ただ、宇宙に孤立するかのような事態を避けたかった移民者達の慰めでしかなかったからだ。
しかしそれ故に、憲章は理想主義的な言葉が幾つも並べられている。
それを拡大解釈したのだ。
屁理屈でしかない。
しかし、人類発祥の地たる地球を治める起源国こそが唯一正統なる人類の統治者、等という起源国の大義名分がそれとして成り立つのなら、彼らの主張も、解釈も、充分大義名分として成り立つと言えるだろう。
要するに、意趣返しというわけだ。
『我々ハヤブサ連邦臨時政府は銀河連盟憲章に基づき──』
ジェラルドは立ち上がり、映像を凝視していた。
まさか、彼らは。
何故、そこまで?それは後戻りが出来なくなる。
宣言などせず戦った方が、引きようもある筈。
なのに──。
訝しみによるモノではなく、興奮と歓喜に包まれた疑問。
それに対する答えは得られない。
しかし、彼が予測した通りの言葉が、映像から届けられる。
『起源国に宣戦を布告する!』
光など見えることのなかった暗闇。
そこに突然差した、鮮烈な光。
夜を照らす、輝きをジェラルドは、感じていた。
『そして我々は"全会一致"で決定をした。
銀河連盟憲章を変更し、銀河連盟市民解放軍を設立することを。
その司令官として、ハヤブサ宇宙軍総司令官、日野基之を任ずることを』
再び映像が切り替わり、最初に映像に映っていた男性に戻る。
『私が、銀河連盟市民解放軍総司令官に任ぜられました、日野基之です。
起源国に虐げられし市民諸君。共に戦いましょう!自由の為に!
我等が、唯一無二の代えざる母国の為に!』
そこで漸く、起源国の側が電波の主導権を取り返したようで、映像は乱れ、途切れ、起源国のニュース番組へと戻る。
一先ず何事もなかったかのようにニュースは続くが、最早ジェラルドにとってはそんなモノはただの雑音だった。
「はっは。すげえや。…諦めるには、まだ早いってことかな」
抱いた希望に目を輝かせながら、彼は部屋を飛び出した。
僅かに時間を遡り
統一暦243年(西暦2693年)4月8日
惑星ハヤブサ 星京 臨時政府直轄宇宙港
坂堂は出発した船を見送りながら「しかしよお」と疑問を基之にぶつける。
「わざわざ全部の星系への放送を船まで送ってやる必要あんのか?こっそり地球に向かって戦う方が早いんじゃねえの?」
「良い案ですが、問題点が幾つかあるんですよ」
基之は言う。
曰く、こっそり地球に直接向かったとしても、此方が地球に辿り着く頃には地球もハヤブサ陥落を察知することになるので、準備万端の敵といきなり戦うことになるという問題。
そして、ワープを使って敵本陣へハヤブサへ向かってくるだろう敵戦力や他星系を無視して直接行くと、敵、起源軍がその隙を付いてハヤブサ本星を占領しかねない、若しくは補給部隊を壊滅させられかねないこと。などを上げて、リスクが高く成功確率が極端に低い、と説明する。
万が一、ハヤブサが制圧され住民を人質に脅されたら両手上げるしかない、とも。
「まあ、しかし、起源軍もこの条件は同じです。
向こうがいきなり此方との戦闘を避けつつ何処かの星系や地球の戦力をハヤブサに差し向けた場合、後方の補給部隊や敵の拠点、つまり他星系を無防備に晒すことになります。
そうでなくとも、ハヤブサ本星と後方にワープした宇宙戦力での挟み撃ちの危険が生まれる。
だからこそ、我々も、彼らも、あえて敵と直接ぶつかり合わねばならないんですよ」
とは言っても、と彼は続ける。
「起源国の戦力は莫大な為、最悪、多少のリスクを抱えてでも直接ハヤブサに一挙に大兵力を送り込む作戦も無しではない」
だから、と基之は笑った。
「この放送が必要になってくるって訳です」
同日。
起源国 太陽系 首都星 地球 アルワタン
執政府政務ビル
「なるほどな」
起源国の独裁者、執政官 ジョルジュ・アース・ンガングガは不敵に笑った。
「閣下…?」
報告に飛んできた秘書官は、電波ジャックにより流される映像を見て、彼の上司が笑った理由を理解出来ないでいた。
「わからないか?これは奴等の先手だ。全くやられてしまったな。此方の取れる手段が幾つか潰された」
「…と、申しますと?」
「この映像は恐らくほぼ同時、いや、或いは我々の通信や伝令が間に合わない程度にズレを抑えて全ての星系で放送されているに違いない」
「まさかそんなことが」
では、と、いたく真面目な顔でンガングガ執政官は秘書官に振り向いた。
「地球でだけこんな映像を流すメリットはあるだろうか?」
「…?と、申しますと…」
「連中は間違いなく我々より戦力に劣る。精々駐屯艦隊を鹵獲した程度だろう。
であるなら、本来1日でも多く時間を稼ぎたいはずだ。
だが、此方が通信や伝令で詳細を把握するだろうより前に、現に、私達は第三星系総督府で反乱発生、という報せしか受け取っていないわけだが、という状況であえて自らの存在を誇示するメリットは、ない」
ならば、考えられることは二つだ。
と指を2本立て、授業をする教師のようにして彼は話す。
「敵が勝利の勢いに浮かれてバカをやったか、或いは地球にのみ放送をしているのではなく、あまねく起源国民全てにこれを伝えようとしているか、だ」
前者は当然あり得ない。と彼は一瞬で切り捨てる。
「そんな無能にクセナキスが敗れるはずがない。
しかも反乱の報せから逆算すると僅か数日内で負けていることになる。
無能にそれは不可能だ」
「となると、残るは一つ、全ての星系にこれを届けているのだろうと結論出来る」
何故なら、わざわざ"銀河連盟"等という大昔の遺物を利用してまで全銀河の連帯を謳っている彼等を見れば、各星系の名誉起源民は希望を抱くだろうからだ。
もしかしたら自分達も勝てるかもしれない、と。
もしかしたら、起源国の支配は永遠などではないのかも知れない、と。
そんな希望を抱くだろう。
「そしてそんな時、駐屯部隊の大部分、ないしは一部が第三星系奪還の為に動き、その星系における戦力が手薄になれば、彼らはどう思うだろうか?」
そこまで言われて、秘書官も漸く気が付いたようだった。
「好機と、そう捉えるでしょうね」
つまり、と秘書官は執政官に自らが悟った推測が正しいか確認する。
「閣下の予測そのままであった場合、敵、銀河連盟の狙いは我々の戦力を縛る目的がある、ということでしょうか?」
ンガングガは鷹揚に頷いた。
「その通り。更なる反乱を防ぎ、治安能力を維持するためにも迂闊に各星系駐屯兵力は動かせなくなった」
もし、とンガングガは言う。
もしも、放送が無ければ、─基之が偶然にも遥か遠くの銀河の向こうで坂堂へ説明していたような理由─から、後背の拠点を奪われるリスクを背負うものの、大兵力で惑星ハヤブサを確実に圧殺することも、手段として一応は考えられただろう、と。
「だが、策として成り立っていた条件はたった今崩れ、その手段は全くの愚策に堕ちてしまった。
反乱対処能力が落ちれば、敵の跳梁を許すことになる。
そうなれば艦隊の補給基地が危機に晒されることになるな。
それはまず士気に大きく関わるし、実際上の問題も直ぐに表出するだろう」
「しかも、悪いことに我々の核兵器を使用した絶対制圧は余程でない限り使われることはない、と"奪還政府"を経験した第三星系の住民以外にも今、正に広まってしまった。
核の抑止としての効果が減衰した以上、駐屯兵力というもう一つの抑止力の重要性は増したんだ」
だからこそ、彼らは我々に詳細を本来より早く知らせることになったとしてもなお、この放送を流した理由になるんだ。
それも、同時多発的に全星系に渡ってね。
ンガングガは肩を竦めてみせた。
「見事に我々は取れる手段を限定されてしまった、というわけさ」
「…ですが、閣下のご推測が全て正しいとして、ではどのように対処をすれば良いのでしょう」
フッと執政官は微笑する。
そこに丁度タイミングよく、彼の執務室、その扉がノックされた。
「執政官閣下。夜影中将であります」
「入れ」
扉が衛兵によって開かれ、部屋へとやって来たのは、まだまだ若さをその身体に残しながらも、中将という肩書に相応しい威圧感、オーラを感じさせる男であった。
「どうするか?簡単だ。取れる択から最上のモノを選ぶだけさ」
言いながらンガングガは夜影中将と向き合った。
「よく来てくれた。早速だが、聞いているかな?反乱のことと、放送のことは」
「はい閣下。恐らく連中は各星系にも同様の放送をしているのでしょうね」
「話が早そうで助かるよ。そうだ。恐らくその報告が1週間もすれば全ての星系から届くだろうな。
そしてその場合──」
夜影は頷き、言う。
「此方の動かせる戦力には限りが出てきますね」
「そうだ。時に、話は変わるが夜影中将。君の士官学校における宇宙戦術シュミレーションの成績は、どの程度であったかね?」
「は。事実をのみ述べさせて頂きますれば、次席でありました」
ンガングガはよろしい、と首肯する。
彼の言う、取れる範囲での最善とは正に、これであった。
起源国の即応戦力は意外に少ない。
各星系への駐屯に多くが割かれているためだ。
だが、少ないとは言っても恐らく銀河連盟を名乗るハヤブサの現有するよりは二倍か三倍以上の差を付けられるだろう。
その数の差を武器とし、その司令官には、有能な、それもとびきりの、を付けることで万全を期し、惑星ハヤブサへと向かわせる、というものであった。
極めて単純であるが、数の差、というアドバンテージが起源国にある以上、極めて明瞭かつ有効な方法でもある。
無論、この場合ハヤブサへ向かわせる、とは、敵を無視して本星に突っ込むのではなく、敵も同じ事を考えているだろうことを予想し、確実に叩き潰すために送り込む、という意味である。
実際、基之も、最初の一度か二度は準備や整備、そして、起源国の即応戦力の排除をし、一時的にでも自分達が自由に動く時間を確保する、という目的を鑑みてハヤブサ星系内で戦うつもりだった。
ンガングガも惑星ハヤブサの、ひいては基之の狙いはそこにあると辺りを付けていた。
基之の狙いに乗り、しかし、絶対数の差と、有能な指揮官によって勝利し、そこで反乱軍の命脈を途絶えさせるつもりであるのだ。
「ですが閣下、それならば首席の彼の方が適任だったのでは?」
夜影の疑問にンガングガは悪びれもせず、こう言う。
「今回は小手調べの意味もある。いきなりジョーカーは出せんよ。
とは言っても、出し惜しみしすぎても良くない」
「だから、次席の私を、と?」
「そうだ。気を悪くさせてしまったかね?」
「いえ、至極合理的であると思います。是非、私にファーストペンギンを務めさせて頂ければ、と」
全く表情を揺るがせずそう言い切った夜影を、ンガングガは気に入った。
「素晴らしい」
その次の瞬間、はた、とンガングガは何かに気付き顔を上げ、またくつくつと笑い出した。
「いかがなされましたか?」
「いや、ふと思ってね。
我等が偉大なるイエナ・オクトール初代執政官が一番始めに統合なされたのは日本列島だった。
そして、例え一時的にせよ、最初に我々起源国の支配から完全に抜け出したのは、日本人の子孫が半数を占める惑星だ。
しかもそのリーダーは日本人」
可笑しそうにンガングガは続ける。
「運命というのはなんて皮肉だろうね」
「申し訳ありません。我が同族が…」
夜影も日本系である為そう言ったが、今度はンガングガの方が多少申し訳なさそうにして首を振った。
「ああ、いや、嫌味のつもりではなかったんだ。本当に純粋に面白くてね。
運命の徒と言うやつが」
それと、そう言えば。とンガングガは夜影に尋ねる。
「連中の銀河連盟の代表として紹介された男、いただろう?恐らくあの組織を実質的に引っ張ってるだろう奴だ」
「日野基之、と名乗っていましたね」
「そうだ。日野基之。確か、ヒノモトという言葉が日本語にあったと思うのだが?聞き覚えがある言葉な気がしてね」
「はい。ありますね。日が昇る国、という日本の異称であります」
ああ、そういえばそうだったな、とンガングガは小さく何度か頷く。
「
名案を思い付いたとばかりに指を鳴らし、ンガングガは夜影に向き直った。
「それでは
夜影は姿勢を改める。
「"銀河連盟"を自称する逃亡者共、そして、それに希望を抱く愚者共に教えてやれ!
逃亡者を照らす陽は二度と昇ることなどないのだと!
その光は幻想に過ぎないと!
……そして奴等に、永遠の夜を与えてやれ!」
ンガングガの命令を聞き終えると、夜影は真っ直ぐに美しい動作の敬礼でもって返すのであった。
「Remember Origin!全ては我等が
第一部 了
第一部最終話です。
ここから後半戦に突入していきますが、その前に幾つか番外編を挟ませて頂きます。
其々、本編に挿入する隙の無かった話や補完的な話が合計で5話あります。
番外編投稿中は週二回、土曜日とランダムな曜日で投稿する形式に致します。
とは言っても、3週間後の土曜日に新章に入るまでとなるので長期的な変更ではないです。
今後も今シリーズをよろしくお願い致します。