代星-我らが母国はいかにして勝利したか、あるいは我らの祖国はいかにして滅びたか-   作:ライト鯖

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番外編③‐執政官Part.O

 

西暦2314年 12月 地球連合共和国 首都 ニューヨーク

地球連合共和国政府総合ビル 旧国連本部

 

「閣下、準備が整いました」

 

部下の声に、地球連合共和国最後の政府主席にして後に起源国初代執政官となるイエナ・オクトールはゆっくりとその黒い顔を向けた。

 

「ありがとう。"お客さん"の準備も?」

「イエス・サー。全て滞りなく」

「よし。では予定通り」

 

部屋を歩み出、オクトール首席は旧国連本部の総会場を利用して使われている連合立法議場へと向かった。

 

わあああああ。という歓声を受けながら彼は登壇し、聴衆となっている議員─既に殆どは彼の率いる起源統一党が占めている─を見渡した。

 

「──諸君。我々は地球の統合を、人民の協力と軍の尽力によって進めることが出来ている。

しかし、依然、国家は深刻な危機の中にある。

経済格差のことではない。無論、それが問題でないというわけではないが、もっと深刻な問題だ」

 

彼の言葉は地球各地に同時通訳付きで放送されている。

山中忠信は、東京の自宅でこの放送を観ていた。

 

『Simply put, the problem is hatred and division.』

『問題は、簡単に言えば憎悪と分断である』

 

忠信はつまらなさそうに画面を眺めている。

大してやることもない故に観ているが、彼はオクトールの熱心な支持者という訳でないのだ。

 

『I want to speak to the many people who have been hurt by terrorists and extremists.』

『私はテロリストや過激派に傷付けられた多くの人々に語りかけたい』

 

議場は静まり返り、オクトールの演説だけが響く。

 

「愛する者を奪われた。そうした声は多く聞く。今日、ここにも来て頂いている。

フランクさんは妻をテロリストに奪われたそうだ」

 

最前列に座る一人の男性に手を向け、オクトールは続ける。

 

「カナンさんは弟が過激派に拐われ、洗脳され、戦闘員として使い捨てられた」

 

忠信は僅かに眉を歪めていた。

彼もまた、東京を一時支配した軍閥に妹を奪われていたのだ。

 

『These are tragedies. These are unspeakable horrors.』

『これらは悲劇だ。言葉では言い表せようもない程の』

 

オクトールの心底悲しそうに見える表情を冷めた目で忠信は見つめる。

 

「くだらない演技だ」

『It is natural to hate terrorists and extremists.』

『テロリストや過激派を憎むのは当然だ』

 

議場を見渡しながらオクトールは息を入れた。

 

「しかし、私はあえて言いたい。

その憎悪は、怒りは、向けるべき相手を違えている、と」

 

一瞬、ざわめきが起こる。

数は少ないが未だ起源統一党でない政党所属の議員達のモノだった。

 

忠信もまた、自宅で一人、オクトールに悪態を付く。

 

「バカバカしい。テロリストが悪くなきゃなんなんだ?それともあれか?許してあげろ、融和だーとか宣う気か?』

『I don't deny your anger, and I'm certainly not saying that terrorists should be forgiven.』

『皆さんの怒りを否定するわけではありません。

勿論、テロリスト達を赦せ、というわけでもない』

 

忠信は驚き、目を見張った。

偶然に過ぎないがしかし、まるで自らと会話しているかのようなタイミングでオクトールがそう話したからだ。

そして、自らの予想とは違う方向に進む演説に、興味を惹かれてもいた。

最前列に座る、フランクという者も動揺を隠せていなかった。

オクトールの演説内容を知らされていたわけではないからだ。

 

「しかし、皆さん、全市民の皆さん!考えてみて下さい!テロリストが、過激派が、軍閥が何故この地球に跋扈しているのかを!その理由を!」

 

オクトールは動揺を打ち消す為にも言葉を紡ぐ速度を速め、強調し、直ぐにトーンを落とす。

 

「…私も、かつて兄を奪われた。軍閥に。

私は愚かでした。その時私は、彼らの兵隊だったのです。金を稼ぐためにね。

そして兄を理不尽に奪われ、まんまとその組織を、上を憎んだ。

しかし、ある時気が付いたのです。

何故、その軍閥が力を持ち、私の故郷を支配していたのかを」

 

彼らは、と一瞬のためを挟み、オクトールは口を開いた。

 

「彼らは"先進国"が去った後の利権の隙間に入り込み、力を蓄えていたのです。

私は思いました。勿論、連中を、トップの、名をなんといったか…べデルなんとかといった、が悪くないとか、許したとかいう訳では無い。

だが、奴が力を握り、私の故郷で暴虐を尽くすことが可能となった根本原因をこそ、私は憎むべきだと思ったのです」

 

忠信はなおも不審を拭えない様子であったが、不思議とチャンネルを変えることはしないでいた。

 

『So what is the root cause?

It's the fugitives from so-called "developed countries."』

『つまり、根本原因とは何か?

それは"先進国"と呼ばれていた逃亡者達である』

 

彼はつまり何が言いたいのか、と忠信は先を聞きたい、といつの間にか思わされていた。

 

「"先進国"は、そう自称していた国々は"途上国"等と括った地域の内政に人道主義だと口を出してきたが、彼らは我々を見捨てて逃げ去った。

しかも、自国民であっても都合の悪い者達を捨てた。

"人道主義"という名で利己主義を奨めてきた彼らは数億、十数億を超える人間を一度に地球から去らせたことで、混乱をもたらした」

 

皆も良く知っているだろう?と議場に水を向ける。

議員達は多かれ少なかれ思うところはあり、頷いていた。

 

「我々は"先進国"を知らない。老人以外は最早知らない。だが、彼らが残した混乱は知っている。

確かに、"先進国"から人がいなくなったことで環境も結果的に改善し、食料問題も実質的に解決した。

だが、もし、彼らがその為に移住しようとしたのであれば、漸進的に移住をしただろう。混乱を避けるためにね。

しかし、奴等は載せられるだけの人々を乗せ、とっとと逃げ去ったのだ」

 

そして、と静かに彼は言う。

 

「地球は混乱した。供給網の破壊。人口の大規模空白。

これらは秩序の消失をもたらした。

紛争、略奪、紛争、略奪、暴力、暴力、暴力だ!」

 

忠信は数年前までの東京を、自然、思い返していた。

ヤクザが跳梁し、自警団を名乗る暴力に飢えた者達による略奪が頻発する、とても日本の首都だったとは思えない、荒廃した廃墟の群れ。

 

『This has resulted in many tragedies and the rise of terrorists and extremists.』

『その結果、多くの悲劇が起こり、テロリストや過激派の誕生に繋がった』

『Terrorists don't appear out of nowhere.

They are human beings just like us.

There's a reason they became who they are.』

『テロリストは無から生まれるわけではない。

彼らも同じ人間だ。そうなった理由がある』

 

オクトールの声色は、英語の分からない忠信が聞いても、何故か感情を揺さぶられてしまう。

強弱だけでなく、速度や身振りも巧みに交える彼の演説は意味よりもまず、その様だけで印象に残るのだ。

 

「繰り返すが、だから赦してやれ、というのではない。

彼らの多くは正しく裁かれるべきだろう。

だが、もし、"先進国"。いや、無責任な逃亡者が地球を一斉に捨てなければ、テロリストや過激派にならなかっただろう者達が大半だ」

 

演壇を彼は指で激しく二回叩いた。

 

「奴等が!地球を見捨てたが故に、多くの悲劇は生まれたのだ!

連合共和国による平和を拒む軍閥に多くの地域が支配されている現状も!

数年前までの流通網の混乱も!

テロリストの跋扈も!

無責任な逃亡者によって引き起こされた悲劇なのだ!」

 

だからこそ、と落ち着いた語調に変わり、オクトールは言う。

 

「恨むべきは、怒りを向けるべきはテロリストではないのだ。

"逃亡者"にこそ向けられるべきなのだ」

 

どうか、とオクトールは最前列にいるフランクやカナンに目を向けた。

 

「過激派達を赦せ、とは言いません。ですが、どうか、彼らが隣に立つことを黙認して欲しい。

皆が手を取る必要はないのです。

ただ、隣にいることを認めて欲しい」

 

少なくとも、我々は皆、多かれ少なかれ被害者なのです。

オクトールは、なおも静かな調子で続ける。

 

「目に見えない国境などの境界線。

そんなもので互いを分断するべきではないのです。

我々は、真の敵に、この悲劇を報いさせなければいけない。

奴等に責任を取らせるべきだ。

真に憎むべきは、隣に立つ者でない!」

 

文章ごとに語気が強まっていく。

彼の弁舌に、既に忠信は魅入られていた。

 

『The fugitive who fled into the darkness beyond the sky is the true enemy!』

『空の向こう、漆黒の彼方へ逃げ去った"逃亡者"こそが真の敵なのだ!!』

 

忠信はオクトールの演説を最後には彼へ敬意を向けながら観ることになっていた。

 

「市民諸君!立ち上がれ!我々は地球という星で争っている場合ではない!

"逃亡者"達の良いように捨てられ、あげく、内部で争い合うなど愚の骨頂!

我々は戦わねばならないのだ!

奴等が残した混乱。それがもたらした不幸と!

当然、勝利せねばならない!

そして、我々は贖わせなければならない!

宇宙の彼方でのうのうと暮らす卑怯者達に!

この悲劇のツケを!!」

 

起源統一党の議員が立ち上がり、半分は割れんばかりの拍手を、もう半分は敬礼をし「Remember Origin!」と事前に取り決められていた、新たな国家の象徴とするべきフレーズを叫ぶのだった。

 

この後、西暦2327年に彼は終生執政官となり、2328年には国号を"起源国"と改めることになる。

彼らはその後、執政官という独裁者の下で地球を、"逃亡者"への復讐を掲げ、発展していくのであった。

 





次回、火曜日投稿です。
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