代星-我らが母国はいかにして勝利したか、あるいは我らの祖国はいかにして滅びたか-   作:ライト鯖

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番外編‐⑥ 悪夢

 

 

日野基之は、凄まじい寝汗と共に飛び起きた。

ゼエゼエと荒い息をしていることが耳からも分かる。

 

呼吸を整えつつ、彼はゆっくりと立ち上がった。

どうにも、凄まじく悪い夢を見ていた感覚がする。

自分の全てが壊されたような、そんな感触だけが未だに消えない。

 

そうしてフラフラと、感覚だけを頼りにドアを開け、廊下を歩いて漸く自分のいる場所に気が付く。

そうだ、家だ。

 

当たり前だ。

寝ていて、起きた場所なのだから自宅と相場が決まっている。

扉の先からは物音と話し声。

光も差していて、眩しい。

扉を潜ると、そこには──。

 

「あら、基之おはよう」

「おはよ。基之」

 

浅菜(あさな)優奈(ゆな)

基之の──

 

「姉ちゃん…母さん…?」

「はあい?お母さんですよ?」

「どしたの?顔色悪いよ?」

「……生きて…ごめん!ごめん!」

 

二人に駆け寄り、基之は訳もわからないまま、しかし、溢れ出る後悔だけを溢れさせ、狂ったように二人に謝罪を浴びせる。

 

「ちょちょ、どうしたのさ急に」

「そうよ。大丈夫?」

「ごめん…俺、俺…!母さんを…姉ちゃんを!!」

「きっと悪い夢でも見たのね」

「はよ顔洗って目、覚ましな?あたしらはほら!ピンピンしてるじゃない」

 

二人のにこやかな笑顔に包まれ、基之は涙で濡らした頬を動かし、どうにか不器用な笑顔を作り、頷いた。

 

「どうした?朝から騒がしいな」

 

その声にも、基之は聞き覚えがあった。

しかし、彼は、もっと前に──。

前に─?。

基之の思考にノイズが走る。

 

「あら昨二(さくじ)さん。おはよう。基之ったら怖い夢を見たみたい」

「おいおい小学生じゃないんだから」

「茶化さないであげなよ。私だって時々飛び起きるような夢見るわよ」

「悪かった悪かった」

 

笑いながら、昨二、基之と浅菜の父、は彼女らが座る机にある椅子の一つに座った。

 

「父さん…その服は…?」

 

まるで、と言いかけ、言葉を失う。

彼の着る軍服のような姿。

それは、彼の記憶に焼き付いている筈で、しかし、思い出すことは出来なかったのだ。

 

「まだ夢の世界にいるのか?お前達が誇る惑星連合共栄軍の軍服じゃあないか」

「あ、ああ。そうだったね。ごめん。直ぐに顔洗ってくるよ」

 

まだ混乱は収まりきっていなかったが、兎にも角にもと顔を洗い、基之も朝食の席についた。

 

「それにしても一体どんな夢を見たら朝から私達に泣きながら謝るのかしらね」

「…良く覚えてないんだ。…でも謝らなきゃって…」

「なあにしでかしたのかしらね」

「テストでも隠してるのか?」

「まさか!」

 

アハハハと笑い合い、基之にとって、最も幸福な、団欒の時間が過ぎていく。

高層ビル群の中、しかし、巨大な窓故に明るい日差しを取り込むリビング。

柔らかな、家族の雰囲気。

全てが、基之にとって、とても懐かしく感じられていた。

そして、時計の針が七時を指した時、昨二が立ち上がってテレビに近寄った。

 

「悪いな。ニュースを見なきゃ」

「構わないわよ」

「いつものことだしね」

 

基之も、とりあえず曖昧に頷くと、昨二はテレビのスイッチを付けた。

テレビは、丁度ニュースのオープニングが始まったところだった。

 

『今朝のニュースです。地球総督府からの発表によりますと、後進惑星市民からなる反逆組織、"イーグルステイツ"はこれまで数々のテロを実行し、幾人かの高官に危害を加えてきました。

しかし、今回、日野昨二大将率いる共栄軍第三軍主導による作戦で見事鎮圧され、残党も今朝方、札幌にて降伏したとのことです』

「お父さんじゃん。すごい!」

「また昇進かしら?」

「おいおい。自慢する為につけたわけじゃあないんだけどな」

 

基之は何故か、得体の知れない不安感に包まれていた。

 

『共栄軍最高司令 アルフレッド・ロックウェル議長も大将閣下に強い賛辞を送られ、勲章と元帥杖の授与を行うとコメントを発表。

ハヤブサ国家政務官府から初の元帥昇進者となりそうです』

「お祝いしなきゃね!」

「あらあらどうしましょ!外食にする?それともウチで?」

「おいおい。その話は夜にしよう!夜に!」

 

二人に褒められ、有頂天になっている昨二。

その横で、基之はただ、何か空恐ろしいモノを見るような目でしか、全てを捉えることができていなかった。

 

『次のニュースです。後進惑星市民教育施設が日本列島、並びにオーストラリア大陸にも設置され、ついに全惑星に渡って、先進宇宙市民教育が全後進市民にも行き渡ることとなりました。

これには後進市民も歓喜しており、漸く先進宇宙市民の皆様と同じ価値観を持つことが出来る、と感涙にむせび泣く市民も──』

 

「基之?」

 

昨二の声に、基之は首を動かした。

 

「どうした?さっきからやけに静かだが?」

「あ…」

 

先程まではあれ程懐かしく思えていた彼の姿が、今では何か、正体の分からない怪物のような存在に感じられていた。

 

「もしかして体調が悪かったの?」

「だから変な夢見たんじゃない?」

 

心配そうに我が子の額に手を当てにくる母。

机から身を乗り出して様子を伺う姉。

どれもが、彼の、求めて止まない。

しかし、そう、もう、二度と手に入るはずのない光景。

 

そして今や、それは、とてつもなく、嫌悪を感じる対象となって。

 

「な、なんでもない!大丈夫!もう1回顔洗ってくるね!まだ寝ぼけてるのかな!」

 

あはは、と誤魔化しながら、彼は家の外に飛び出した。

家族の呼び止める声が聞こえたが、気にしない。

 

超高層なのはわかっている。

妙な冷静さだけは残っているなと苦笑しながら彼はエレベーターに飛び乗って、1階へと降りた。

 

そこに広がっていたのは、まるで。

 

そうだ。

奴隷のように傅かされて荷物運びやらをさせられているのは、多分地球人。

地球を模したエムブレムが付けられている。

偉そうに彼等を怒鳴っているのは、腕に"共栄軍"の腕章を付けた、憲兵のような男達。

そう、まるで──。

思わず、目を逸らすようにして空へ目を移す。

 

そこには、天にはためく旗があった。

まるで──。

 

「星京──」

 

起源国に、支配されていた時のような──。

 

旗の紋様は鮮明となる。

"起源国旗"が、彼の目の中で、踊っていた。

 

基之は、ガバリ、と飛び起きる。

今度もまた、見慣れない景色。

しかし、荒い息をしながらも、記憶は確かにあった。

ここは、宇宙に出る前にと泊まることになったホテル。

その最上階。

 

「何の夢…だったんだ…?」

 

はっきりとは思い出せない。

しかし、これだけは間違いなく言える。

 

「最悪な気分だ…」

 

頭を振り、シャワーで気分を切り替えようと、シャワールームへと彼は向かうのだった。

 

眼下で繰り広げられる、大小様々な復讐には、さして気にも止めないで。

 

 






今回で番外編は終了です。
明日から本編、第二部の投稿を始めます。
よろしくお願い致します。
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