代星-我らが母国はいかにして勝利したか、あるいは我らの祖国はいかにして滅びたか-   作:ライト鯖

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第四十一話 エキシビション・マッチ

 

夜影(よかげ)中将!」

 

宇宙空間を航行する、起源国の艦隊。

それらを構成する船の中でも一際大きく、威圧感を感じさせる風貌の旗艦"トーキョー"の艦橋にて"銀河連盟"を称する叛乱軍鎮圧、の総司令と任命されている夜影月久中将の下にオペレーターが報告をする。

 

「レーダーに複数の艦影!識別信号も確認出来ますが、いかが致しましょう」

「敵に奪取されている艦か、味方か、か。数は?」

「8隻です」

「そう多くはないな。よかろう。リアルタイム通信の可能域まで接近しろ」

「はっ」

 

艦隊の半分にも満たない艦数であることを確認し、夜影はオペレーター達にそう命じた。

 

リアルタイム通信域に入ると向こう側、現状正体不明の艦隊の方から通信が入る。

 

『此方、第三星系総督府駐屯艦隊。此方、第三星系総督府駐屯艦隊。起源国軍の艦隊とお見受けする。応答されたし。我々は起源軍第三星系総督府駐屯艦隊です。応答されたし』

 

夜影はその通信を聞き、指で顎を擦りながら何やら数秒程思案した後、ニッと笑い部下に応答を命じた。

 

「此方、起源国叛乱鎮圧特別派遣軍総旗艦"トーキョー"。そちらの詳細な所属を述べられたし。繰り返す、そちらの詳細な所属を述べられたし」

『…良かった…!。はい。此方は第三星系総督府駐屯艦隊の第三分艦隊旗艦"ギテガ"。ただ、他の艦は所属が異なる艦もあります。叛乱軍に接収される前にどうにか離脱に成功した艦で構成された混成艦隊でして』

「映像は映せるか?そちらの司令官の顔を見せてくれ」

『はっ!直ちに!』

 

直ぐ様映像が、艦前方の宇宙空間を映し出すスクリーンの一部にウィンドウが生成され、そこに映し出される。

 

『第三分艦隊司令 オリガ・ムラザバエフ准佐であります!』

 

確かに起源軍の軍服を着用している中年の、少々くたびれたように見える男の姿を確認した夜影は、一歩前に進み出て口を開いた。

 

「ムラザバエフ准佐。私は夜影月久中将、この艦隊の司令官だ。貴官には色々聞きたいことがある。良いな?」

『はっ!勿論であります!閣下!』

 

夜影の名を聞いた瞬間、ムラザバエフ准佐は背筋をこれでもかと言うほどに真っ直ぐと伸ばし、緊張した面持ちで敬礼を行った。

そうして夜影に聞かれるままに事情を説明したムラザバエフ准佐によると、彼等の辿った経験は以下のようである。

 

まず、核兵器でもって首府を焼き払うと脅されたことで総督府が降伏。

その際、惑星ハヤブサに駐在していた艦は全て接収されたが、星系内の他惑星基地にいた艦は叛乱軍が到着する前に逃げる選択肢があった。

 

勿論、抵抗することも可能ではあったろうが、それはつまり首府の壊滅を意味していた為、ほんの僅かなある種の狂気に包まれた数隻がハヤブサに突貫しはしたものの、ジャミングによってろくな連携も取れておらず見事に一隻一隻各個に撃沈された以外は皆、逃げる選択を取ったのだ。

 

しかし、首府と主要都市を威圧する艦以外が即座に進発し、隊列を組み、兎にも角にも、と速度を優先しバラバラに逃げていた艦の何割かが拿捕された。

 

そんな中、どうにか逃げおおせたのが今いる8隻の艦、というわけであった。

 

「なるほど。状況は理解した。…仕方のなかった事とは言え、持ち場を離れ逃亡したことは残念ながら処罰の対象だ。分かるな?」

 

言われ、ムラザバエフ准佐は悔しげに唇を固く結びつつ、小さく頷いた。

 

「…しかし、これを挽回する方法がある。興味はあるかな?」

 

ムラザバエフは夜影のその問いかけは予想外であり、思わずといった様子で顔を上げた。

 

『もし、この汚辱をすすぐ方法があるというのであれば、力を尽くしたく…』

「よろしい。では、貴官らには今の8隻で叛乱軍と戦ってきて貰いたい」

『…は…?』

 

要領を得ない、といった声色のムラザバエフの返答に夜影は特段の反応を示さなかった。

予想していた反応だったのだろう。

 

「簡単な話だろう?星系から逃れたのではなく、一時撤退であった、という事に出来るじゃあないか。君達が勝てば、ね」

『し、しかし敵の数はどう少なく見積もっても我々駐留艦隊の現有兵力を上回っております…』

「准佐。嫌なら拒否したまえ?君にはその権利があるんだ。…勿論、その場合は軍規に則り、君を逃亡の容疑で捕縛せねばならないがね」

『……戦って死ね、ということでありますか?』

「解釈は任せるよ。だが、軍人足る者、名誉を重んじ、国家への忠誠を何よりも優先すると私は期待しているし信じている」

 

ああ、そうそうと彼は、ムラザバエフが降伏や逃亡という道を選ばないよう、とどめを刺すことを忘れなかった。

 

「地球にいる君達のご家族については安心し給え。勝敗に関わらず適切に保護されるよう私からンガングガ閣下にお願いしておく。

何、礼には及ばん。君達の赴く任務の危険性を考えれば当然のことだ」

 

映りはしていないが、拳を固く握り締めているのだろうことが上半身のみ映る映像からでも分かるほどに、ムラザバエフの肩は小さく震え、そして、表情筋も岩のごとき硬さを見せていた。

しかしやがて、脱力したように息を吐き、そして絞り出すように言う。

 

『謹んで、命をお受け致します』

「よろしい。Remember Origin」

『Remember Origin』

 

通信が切れると、夜影の副官、ルスラン・ムハドフ少佐が無礼を承知で、と前置きし、彼に疑義を申し立てる。

 

「閣下。彼らは我々の艦隊に加え戦力増強に利用する方が確実な利益になるのでは、と考えますが。

何故、あのような事実上、死を命ずるかの如き指示を出されたのでしょうか?」

「君の疑問も考えも尤もだ。正直逃亡の罪だとかはどうでも良い」

「では何故…」

 

我々が、と夜影はよく通る声で艦橋全体に伝わるようにして言葉を続ける。

 

「執政官閣下から期待されている役割は小手調べ、だ。一番の目的は敵叛乱軍の戦力、並びに戦術、戦略能力の測定にある。

起源国にとっての危険性を測るための、我々は言わばファースト・ペンギンなのだ」

 

とはいっても、と彼は言う。

 

「当然、勝利してしまって構わない。負ける為に行くわけではないしな。

ただ、もし、万が一があったとして、その場合は敵の実力を正確に測ることが求められているのだよ」

「それが彼等の扱いとどう関係するのか?と言いたげだね。少佐」

 

少佐は否定するでもなく、気をつけの姿勢で夜影の言葉を待っている。

 

「簡単だ。彼等にこそファースト・ペンギンをやってもらおうというわけだ。

敵が宇宙戦においては全くの素人同然なのだから、8隻でも充分勝ちの目はあるだろうさ。

そうなれば、彼等は奪われた星系を自力で取り返した英雄。

我々は仕事が減って、皆で万々歳。

彼等が負ければ?少なくとも叛乱軍は宇宙艦隊での戦い方を最低限理解していると我々は把握出来る」

 

一応、と夜影は手をひらひらとさせながら艦橋を見回し、言う。

 

「小手調べ、とは言え、即応戦力の7割以上を動かしているんだ。舐めてかかるのが一番良くないからな。

しかしそうなると、我々は下手を打って万が一にも全面敗北等してはならないのだ。

仮に撤退するにしても痛み分けがレッドライン。

そうするには万全を期して、我々よりも更に先んじて敵を推し量ることが出来る機会があるのなら、そうすべきだ。違うか?」

 

いえ、確かに仰る通りかと、と少佐は頷いた。

 

「そして、彼等は本来、此方に存在しなかった筈の戦力だ。

敵に奪われるか破壊されるか。

敵に奪われていれば此方からすればカウントとしてはマイナスだ。良くて破壊されてゼロ。

だが、彼等はここまで来た。期せずしてプラスとなってくれたわけだ。

だが、本来存在し得なかった戦力。

ならば浪費したとしても此方の損害としてはゼロと見れる」

 

で、あるならば、だ。と夜影はニンマリとする。

 

「先遣隊としてこれ以上ない連中だとは思わんかね?何があろうと、此方の損害にはならないし、敵の手に落ちていたかも知れないことを思えば、プラスとすら言える」

「だから、無謀な命令を…?」

「そういうことだ。何方にせよ逃亡の容疑は実際かかる。

それならば可能性は少ないが挽回出来る機会をやった方がより良い人的資源の使い方でもあるしな」

 

夜影の極めて冷徹な計算式に畏怖を覚えつつ、ムハドフ少佐は頭を下げ、理解した、ということを態度で示しつつ、後ろへと下がった。

 

「そういう訳だ。あの司令…あー…名はなんだったかムラザバエフ准佐だ。に、第三星系への進軍を命じておけ。

それと、戦闘を記録するためと、監視用に核弾頭を搭載した艦を一隻、奴等に帯同させて、戦闘時レーダー感知範囲ギリギリで待機させておけ。

勝敗に関わらず戦闘が終われば帰還するよう手配しろ」

「はっ!」

 

オペレーターに命じた後、夜影は前方スクリーンに船体へ取り付けられたカメラを通して映し出される宇宙空間へと目を移し、自信に満ちた微笑みを浮かべるのであった。

 

 

惑星ハヤブサ 星京 戦争犯罪臨時裁判所

 

アウグスト・バルテル旧第三星系総督府文化局長は、目の前に鎮座する裁判長による判決の読み上げを待っていた。

 

「判決を言い渡す。被告 アウグスト・バルテル。懲役10年。

被告は、総督府の高官であり、市民の弾圧を行っていた政府に与していた事実はある。

しかし、"平等派"として知られる派閥に属し、"名誉起源民"と称されたハヤブサ市民の権利向上に努めていたことは酌量に値するとも考えられる」

 

だが、と裁判長は続ける。

 

「その際に、"名誉起源民"、ハヤブサ市民を自らの政治信条成就の為に人権を無視した取り扱いを行っていた、という多数の証言、証拠もある。

これら事実を複合的に考えた時、前例から考えられる以上の重罰を課すことも、酌量をすることも適当と認められない。

故に、検察の求刑通り懲役10年が妥当であると判断した」

 

バルテルは静かに読み上げられる判決と理由を受け止め、ゆっくりと前を見据えた。

 

「被告人、何か言っておきたいことは?」

「…後悔はしていない。君達の権利向上に必要な犠牲であったと確信している。

だが、彼、彼等には申し訳無く思っている」

 

裁判は閉廷し、退廷するバルテルには傍聴者らの白い目が向けられ、針の筵のようであったが、それでも彼は、真っ直ぐに、前を見据えるのだった。

 

 

統一暦243年(西暦2693年)5月16日

 

ハヤブサ星系 第7惑星 ケイモーン 衛星 H7b

 

日野基之率いる銀河連盟宇宙軍艦隊は、最も星系外縁に近い惑星、その衛星に建てられていた起源国軍の施設に入港し、整備を行っていた。

ここで整備を終え、起源軍の侵攻を待つつもりなのだ。

 

「基之。星京から頼んでたやつ、届いたよ」

 

明子からの報告に基之は満足気に頷いた。

 

「ありがとう。これで作戦に大きな幅が生まれた。さあ、最後の準備といこう」

 

基之は明子と共に届いた"荷物"の確認に向かう。

その数時間後、休憩も挟み、そろそろ別な作業に移ろうかという時、哨戒─星系の外縁、オールトの雲ギリギリを周回して、レーダーによる索敵をしている─に出ていた艦から報告が届いた。

 

「日野司令!哨戒に出ていた艦から星系外縁地帯に複数の艦影を確認した、と!」

「来たか!悪いがそのまま放送室へ行って伝達を頼む!発艦するぞ!」

「はい!」

 

基之は駆けていった報告の者を見送り、明子の方へと顔を向けた。

 

「じゃあ、行ってくる。留守と、例の"荷物"の整備を頼むよ」

「ええ。任せて」 

 

明子が頷くのを見、基之は艦へと駆けてくのだった。

 

元々、四分の三以上の乗員は艦内や艦付近でいつでも出れるよう待機していたこともあり、三十分と経たない間に、殆どの乗員が揃い、艦隊の進発準備は整った。

 

艦隊が衛星基地から一隻、また一隻と宇宙へ飛び出し、艦列を整えて行く。

衛星 H7b、主星ケイモーン、双方が遠く小さくなっていき、星々の雫に同化しようかという程に離れた頃、艦隊のレーダーも、件の艦影を捉えることとなった。

 

「日野司令。レーダーに反応あり。2時の方向、5〜10隻の艦影です」

「…少ないな。一個艦隊に満たない」

 

基之はその数の少なさを聞き、眉間にしわを寄せた。

起源軍の狙いが分からなかったのだ。

 

「間違いはないのか?」

「はい。ステルスの可能性は勿論ありますが、レーダーには間違いなく……8隻しか写っていません」

「…とりあえず偵察衛星を出せ」

「はっ!」

 

 

同時刻

0.1光秒程離れた場所

 

「准佐。敵の艦隊を発見しました!恐らく向こうも此方に気付いている可能性は高いです。真っ直ぐ此方に向かって来ています」

「…了解した。…総員!戦闘配置!敵は軍事の専門家集団ではないと聞く!数は少ないが、我々にも勝ち目はある!数十年に渡って培われてきたシミュレーションの蓄積。これらでもって我々は勝利し、総督府を奪還するのだ!」

 

艦隊全体に告げ、准佐自身は司令官席にかけなおし、軍服の襟を整えた。

そして、オペレーター達に速度を上げるよう伝える。

 

「勝って、生きて、帰るぞ!」

 

両軍はそこから数十分後、第7惑星ケイモーン軌道上でぶつかった。

 

「識別信号の外された起源軍艦を確認!映像、出します!」

 

オペレーターの声に続き、前方の景色を映すスクリーンの中央部が拡大され、望遠レンズによって捉えられた艦隊が映る。

 

「一個艦隊…いや、二個になるか?やはり殆どは鹵獲されてしまったのだな」

 

一個艦隊は15隻前後。

目の前に映る艦隊は20隻強。

つまり一個艦隊と纏まるか、或いは二個艦隊に分割される。

彼我の数の差にムラザバエフは身震いする。

もし楽観的に考えて、叛徒の戦術能力が相当に低くとも、楽々勝利出来得る数ではないからだ。

 

それでも、やるしかない。

ムラザバエフは喉を鳴らし、深く呼吸をした。

 

「全艦、密集形態を維持しろ!火力を集中して確実に一隻ずつ墜とすんだ!」

 

8隻は一塊の岩石となって、─といっても実際の所は一隻一隻の間は100メートル以上の感覚を空けているが─個々の艦が平面で見た場合に生じる空間の隙間を埋めるようにして入れ違えに配置され、それらが有機的な繋がりがあるかのごとき動きを見せる。

 

「敵旗艦は分かるか?」

「通信電波光学信号の頻度から分析中です!」

 

オペレーターやムラザバエフだけでなく、艦隊に乗る全員に緊張が走る。

史上初の宇宙における艦隊決戦と呼べる戦いが始まろうとしてるからだ。 

 

自由合衆国との戦いにおいて、確かに彼の国の艦艇との戦闘はあった。

しかし、それは余りにも技術差の大きな、その上、単純な艦艇同士のサイズ差─起源軍のそれは全長500〜1100メートル、幅80~150メートルに対し、自由合衆国のそれは全長200メートルに満たない程度、幅も50メートル無かった─も巨大な、児戯に等しいものだったのだ。

 

それ故、同じ艦艇によって構成された艦隊決戦は初であり、ここからは、未知の領域となる。

 

 

「射程範囲まで後3分です!」

 

オペレーターの声に基之は小さく頷き、指示を飛ばす。

 

「全艦、天底方面に艦首を向けろ!全速力だ!」

 

あらかじめ作戦概要の伝えられていた各艦は動じること無く、指示通りに艦首を揃えて天底方面、つまり、現在の艦の向きからして、下方向へ急行する形となった。

 

 

「准佐!奴等、天底方面へ進行方向を急激に変化させています!」

 

起源軍の艦艇の方ではオペレーターの一人が動揺の隠せない声色でそう報告していた。

 

「…なんのつもりだ?」

 

敵の狙いが判然とせず、ムラザバエフは腕を組み、唸る。

 

「…いやとにかく敵を追うしか無いだろう。此方も艦首を下げろ。上から狙えば良い」

 

起源軍の側は、銀河連盟の艦隊を追うように艦首を下げる格好となったが、両軍は未だ射程外であり、見方によっては逃げる銀河連盟艦隊を起源軍艦隊が追うようにも見えただろう。

 

 

「よし!想定のポイントに到達したな。全艦、艦首を上げろ!天頂方面に向かって全速前進!」

 

数十キロメートルは天底方面へ下がった銀河連盟艦隊は、突如として、今度は艦首を一気に引き上げ、天頂方向へ向かって急上昇する格好となった。

そのまま、艦首を上へ向け続けると、やがて艦は最初期の体勢から見て直角方向に向くことになるが、そこからなお、艦首を上げる動作を続けると、グルリと艦艇が回転するような動きを見せ始めることになる。

 

そうして艦全体としては120度近い天頂方向への回頭を行い、艦首を下げて彼等を追っていた起源軍艦隊の艦艇を正面に捉える位置へとなった。

 

ムラザバエフは銀河連盟艦隊の急激に切り替わる動きに対応しきることが出来ず、対処が後手に回る。

その為、銀河連盟艦隊が全速力で成した一連の動作によって艦隊の下腹部を射程に定めることに成功したのだ。

 

「柴崎さんらの分析から、起源軍艦艇は下腹部が最も弱いと仮説付けられた。さて、恐らく仮説は正しいだろうが、どうかな」

 

スクリーンには拡大された起源軍艦隊の下腹。

艦隊運動用のエンジンや、単座戦闘機発着の為のハッチ等が面積の大部分を占めており、武装の少ないことは一目瞭然であった。

 

「…良し!撃て!」

 

基之の指示が通信や光学信号を伝って全艦隊へと伝わる。

数秒の後、各艦の艦首にある巨大な主砲、或いは多連装砲や側面に取り付けられたミサイル発射口が起動、火を吹いた。

艦首からはレーザー砲が発射され、起源軍艦隊の下腹部を光線で焼き切る。

 

レーザーが鋼鉄の鉄板を貫き、艦内にエネルギーによる熱が伝播。

同時に空いた穴から空気が凄まじい勢いで吹き出していき、艦は大きなダメージを負った。

そのまま、レーザーによる被害は艦内へ種々のエネルギーを供給している小型原子炉に誘爆し、巨大な爆発を起こす。

最後の安全策─これは周囲の艦を巻き込まない為の、だが─が働き核融合による核爆発には至らないものの、当該の艦自体が爆散するには充分な衝撃であった。

 

「ポルトープランス大破…いえ、撃沈!」

 

オペレーターの報告を受けるまでもなく、ムラザバエフは大量の汗を流しながらそれを拭うこともせず、スクリーンが映す艦底方面の映像を睨みつけている。

 

「…不味い!全艦全速で逃げるんだ!このままでは良い的だ!陣形は気にするな!一旦エッジワース・カイパーベルト周辺まで撤退し戦列を整える!」

 

撤退の判断を即座に下せるという点において、彼は間違いなく正しく、才覚もあったのだろう。

だが、既に遅い。

 

「…!熱反応を検知!敵艦からレーザー、来ます!」

 

オペレーターの報告が早いか、艦に衝撃が走る。

ムラザバエフはそれにより、指揮官席から飛ぶようにして落ち、肋骨を硬い床似しこたま打ち付けた。

 

「かっ…!」

「閣下!」

 

艦、"ギテガ"はどうにか爆散は免れたようであったが、スクリーンに映る警告はエンジンの停止を伝えていた。

けたたましい警報音も響き、艦橋の外ではざわめきと幾つもの軍靴が音を鳴らしていることが分かる。

艦橋にも多少の被害が出たものの、応急修理を行うロボットが出動し、ヒビ割れ等を即座に修繕していく。

 

「…カル…ベ…ル大尉…君が…指揮を…」

 

代理の者に指揮権を委ねるムラザバエフ。

だが、エンジンの停まった艦などただの的である。

ミサイルがレーザーを追いかけてくるようにして着弾。

艦橋にも爆風は届き、艦橋にいた全員が吹き飛ばされ、身体を宙に浮かせた。

応急修理ロボットも破砕し、同時に割れた壁から空気も漏れ出し、何人かは宇宙へと放り出された。

そして、分厚い扉を、更に追い打ちとして放たれたレーザーによる熱がついに突破し、残った者達も焼き尽くされるのだった。

 

同じようにして、殆どの起源軍艦隊は撃沈、或いは大破の憂き目に遭うこととなった。

 

「敵艦隊、残りは2隻です!射程外へ逃げます!追いますか?」

「追いかけろ。今は少しでも起源軍の戦力を削らねばならない」

 

基之の指示を受け、艦隊は全速力で以て敵艦2隻を追う。

速度では同じであるため、射程内に敵艦を収めることは出来ないが、基之は追跡の仕方、つまり艦隊運動によって敵の逃走方向を誘導していく。

そして、ある座標まで敵艦がやって来た時、彼等の命運は尽きる。

 

「レーダーに反応!ミサイルです!」

「バカな!射程外のはず!どこから…しまっ…!」

 

残る2隻の駆逐艦と戦艦、その戦艦の艦長は自らのミスに死という運命を受ける直前に気が付いた。

 

彼等は第7惑星ケイモーンの軌道上で戦闘を行なっていたが、元々戦闘が行なわれていた座標はケイモーンの進行方向であった。

そして、2隻が逃げさせられた方向は、ケイモーンその惑星の座標である。

衛星H2b基地のミサイル、その射程範囲に入ってしまった、というわけだ。

 

長距離核ミサイルによって2隻の艦艇は一瞬にして宇宙の虚空へ蒸発した。

 

「敵艦反応消滅。…勝利です!」

 

オペレーターの興奮した声に、艦橋は歓声に包まれる。

基之も、自らの策が通用し、自軍に犠牲を出さず勝利を収めることに成功し、僅かに安堵の息を漏らした。

敵軍の数が少なかったとはいえ、鷹鸇、いや銀河連盟の初勝利である。

その上、人類史上初の本格的な艦隊決戦の勝者という称号付きだ。 

高揚や安堵を感じるのは当然だろう。

 

『お疲れ様。基之。そして、おめでとう』

 

衛星基地近くへ来たことでリアルタイム通信が可能となり、明子(ミョンジャ)の声が基之に届いた。

 

「明子!ありがとう。兎にも角にも勝利だよ。首の皮を繋いで行く為の最初の試練はクリアだね。とりあえず一度帰投する」

『待ってるわ。皆、祝いの席を設けたいって興奮してるよ』

「それは次の結果次第かな。恐らく数日内にもう一度戦うことになる」

『じゃあ、ケーキの代わりに幹部を集めとくわ』

「助かるよ」

 

通信を終えた基之は、艦橋に、そして、通信の繋がる艦隊全艦に労いの言葉をかける。

 

「皆!お疲れ様!勝利だ!皆が私の計画に従い適切に動いてくれた結果だ。勿論、各艦其々の働きによる所も大だ。ありがとう」

 

艦橋に拍手が充満する。

それらが落ち着いたタイミングで基之はしかし、と言葉を続けた。

 

「悪いが、祝勝会はまた今度だ。皆にはこのまま臨戦態勢を維持して貰いたい。直ぐに連中の主力が来る筈だ。

いくら何でも今回のは少なすぎるし弱すぎたからね。

だが、次も策はある。安心してくれ。

次も勝つさ。私達の運命を繋ぐために」

 

 

ハヤブサ星系より少し離れた座標にて。

戦艦"トーキョー"

 

夜影中将は自律行動可能な人工衛星が戦闘宙域から帰還した結果もたらされた戦闘記録を確認し、唸っていた。

横の参謀の一人は、そんな夜影を差し置いて無節操に叫んだ。

 

「奴等は戦術を知らない!!…こんなもの、定石からかけ離れている!!」

 

頷く者も数人いたが、夜影は鼻でそれを笑った。

 

「奴等が戦術を知らんのではない。

君の言う定石とやらが、残念ながら我々が積み上げてきた"偏見"に過ぎなかったのさ」

「中将!…しかし!」 

 

夜影は銀河連盟艦隊の軌跡を眺めながら参謀らにため息交じりに説明する。

 

「我々は宇宙戦艦という巨大な船を、その大きさ故に海上で戦う"艦隊"と誤認し続けて来たんだ。

それが正に示されてしまった。

ムラザバエフ准佐は初期の動きからして正面を向き合って戦闘をするつもりだったのだろう。

教本通りだ。シミュレーションの模範的な動き」

 

だが、と夜影は銀河連盟艦隊を示す矢印を指さす。

 

「彼等は違った」

 

そう、起源軍はこれまで、実際上の宇宙艦隊同士の戦いを経験したことがなかった。

つまり、シミュレーションでしか理論を積み上げてこなかったのだ。

しかし、実戦経験がない故に、その理論も従来の、重力圏内での戦争の常識に大きく引っ張られてしまっていたのだ。

巨大な船の艦隊が戦う、となれば海軍の艦隊運動が参考にされ、単座戦闘機の運動となれば、空軍の機体運動が参考にされて来た。

 

「だが、違うのだ。艦そのものも、空軍の戦闘機が最も近い存在だったんだ。

私も、彼等の戦いをこうして見るまで気が付かなかったことだがね」

 

重力圏外では、巨大な船だろうと、一度動き出してしまえば、一方向に限れば慣性によって無限に近い運動が可能となる。

それ故、大きさ如何に関わらず、機敏に、海の上等では、或いは、戦艦や空母では不可能な小回りを、搭載されたエンジン次第では可能とする。

 

しかも、三次元空間での戦闘である為、何も艦隊が真正面を向き合って撃ち合う必要性など無い。

だからこそ、基之は艦艇の弱点を狙う動きを取ったのだ。

 

だが、起源軍は既存の常識に影響され、宇宙という自由な空間で、まるで重力があるかのような戦術理論ばかりを積み重ねてしまっていたのだ。

 

青木祐輔が第三星系の研究所で見出した戦術でもあるが、しかし、それは派閥争いの結果として最終的にその戦術を見た研究者の逮捕という形で藻屑と消えた。

故に夜影らには知る由もないことであった。

 

「もしかすると、過去にこれを考えた軍人はいたのかもしれん。だが、これまでは…"人類統合"まではどんな宇宙戦術理論も机上のモノに過ぎなかった。

であるならば、派閥争いや嫉妬、そういうモノが阻んできたとしてもおかしくはない。

何を言っても理論でしかないのなら、大多数にとって都合の良い方が主流となる」

 

だからこそ、起源軍は気付くことが出来なかったのだ、と夜影は悔しそうに言うのだった。

 

「…とにかく、このデータは首都に、執政官閣下に直接送れ。将校、いや全軍に共有すべきことだ。

彼なら下らないしがらみも、嫉みも関係ない。起源国の為になるのであれば、直ちに共有してくれるだろう」

 

さて、と夜影は"撃沈"、とスクリーンに示される8隻の艦隊、その記録に目を向け、呟いた。

 

「しかし彼等は役に立ってくれた。実質損害ゼロで、我々は叛徒から戦術のご教授を賜ることに成功したわけだからな。

もし、我々が最初から奴等とぶつかっていれば、多大な被害は避けられなかっただろう」

 

感謝せねばな。夜影は皮肉と自嘲を込めた笑みを浮かべながら、"ムラザバエフ准佐戦死"、と移り変わってゆく文字列に感慨こそ気づいていなかったが、一応の感謝を向けるのだった。

 

「さあ、これで我々は対策を取れる」

 

例えば、敵の動きに合わせること無く、敵が艦首を下げたタイミングで此方は上げ、反対方向へ離脱。

敵が追ってきたタイミングで艦首を下にし、立場を逆転させる。

例えば、艦隊を二分し、一方はバク宙のような挙動を取り、一方は普通に敵を追いかけることで挟み撃ちにしてしまう。

幾つかの対応策を頭に並べながら、夜影は激励を飛ばした。

 

 

「全艦、第三星系へ入るぞ!叛徒共に鉄槌を下す時だ」

 

そうして、反乱鎮圧軍の主力、本陣が基之の予想通り、極めて短い間隔でもって、襲来することとなるのであった。

 

 

 

 

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