代星-我らが母国はいかにして勝利したか、あるいは我らの祖国はいかにして滅びたか-   作:ライト鯖

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第三話  起源国

 

 

統一暦240年(西暦2690年)1月

 

「新しく来た歴史の教科書配るぞ~」

 

その日の朝、年明け早々のSHR(ショートホームルーム)で基之らの担任が無愛想に言い、総督府から指定された教科書を配り始めた。

 

「そういや歴史の授業は中断されてたっけか」

「もう無しでいいじゃーん」

 

クラスの面々はそう不平を上げながら教科書を回していく。

 

「はいはい静かに。早速、総督府から指示されてるとこだけ今日やるからな。教科書開けー」

 

歴史の授業に関しては、当然ながら、起源国の歴史を教える必要があるためこの日まで歴史の授業はストップしていたのだ。

 

「さあて始めるぞ~」

 

そうして、総督府から、初日に必ず教えるようにと言明されている最重要項目、地球脱出から起源国の誕生まで、の授業が始まるのだった。

 

西暦2238年

地球は、気候変動とそれに付随する様々な異常気象や作物の不足、海面上昇、気温上昇等により、人類にとって住み良い環境とは言い難くなっていた。

特に気温の変動に、作物の改良が追い付かなくなったことによる食料不足は深刻であった。

それ故、先進国、といっても高齢化による人口減少で経済的影響力は大幅に減少していた国と、新興国の一部、実際上の経済大国らは、保持していた遷光速航行技術でもって、それぞれが可能な限り国民を詰め込み、居住可能惑星へと飛び立ったのだ。

ただ、老人、貧困層は積極的に放置され、政府に批判的な人間も残されていった。

全ては乗せられないのであれば、ということで、老人とついでに都合の悪い人間を捨て去ったのだ。

また、途上国と呼ばれた大多数の国々。此方も途上国とはいっても、既に先進国の一部を追い越す経済力を有していたが、宇宙技術は発展途上であった、という地域の人々は、"人道主義"を掲げて内政にまで口を出してきていた時期もあった先進国諸国に、あっさり見捨てられたのだった。

 

その後の地球は酷いものであり、サプライチェーンの崩壊により、途上国など、脱出に関われなかった国々の経済崩壊とそれに伴う内紛、飢餓、虐殺。

そして、先進国や新興国においては、大規模な人口の空白、権力の空白による社会システムの崩壊。

これらが半世紀の間、全地球を覆った。

 

そうして、長い時間、内紛や飢餓、虐殺が日常であり続けたが、無限ではなかった。

どうにか政府としてまとまった人々が、最早形骸化して久しい国際連合の本部へと集い、会議を開いたのである。

地球を、一つの国家とするための。

 

人類社会全体の混乱を沈めるために、全地球が協同することを目ざしたこの会議、最早、自国の権益にかまける首脳はとうに地球から消えていた為、議論はスムーズに進んだ。

直ぐに地球連合憲章が採択され、国際連合は改組発展。

地球連合共和国が誕生する。

 

だがしかし、経済の崩壊等は中々建て直せるものではなく、各地の政府も、有志が集って連合しただけの組織であり、全土を維持する力もなかった。

それ故に、各地に軍閥やマフィアが跋扈する事態は依然として継続し、状況は中々改善しなかった。

 

そんな中で、この長い不幸の原因を、極めて、簡潔に、はっきりと指差す勢力が現れる。

それが、起源連盟。

後に統一党という政党と合併し、起源国の支配者となる起源統一党の前身組織である。

 

地球から逃げ出した先進国や新興国の責任であると、今の地球の不幸に対する原因を述べた彼らの言うことは、瞬く間に地球中に広まる。

何せ、事実として、彼らは地球に残された人々を見捨てたのだから。

貧困層、老人、そして人道主義等を唱えながら、独自に居住可能惑星へ行く力のない国の人々を、糸も簡単に捨て去ったのだから。

更に、彼らは、自らが逃げるための宇宙船建造に必要な資源、鉱物や残り少ない化石燃料だったり、を大量に浪費することで作り上げた。

つまり、現状の地球で起きている資源不足も、それ以前の紛争の時代も、全ては宇宙に逃げ出した、"逃亡者"に責を帰せるべきなのだ。

 

彼らのその復讐主義的な主張は、起源統一党が政権を握った際に、当時の指導者、後に初代執政官となるイエナ・アース・オクトールが見事な軍事手腕で軍閥の跋扈する地球を平定した実績もあり、どんどんと受け入れられていった。

経済も復調し、人口も増加傾向になる。

 

そうして、市民からの圧倒的な支持を得たイエナ・アース・オクトールを唯一の指導者とする現在の起源国が産まれた。

その過程で地球連合共和国が起源国へと生まれ変わったのだ。

地球市民は、逃亡者らに、怒りを抱いている。

ただ同時に、起源統一党の主張する、起源の統一。

人類の起源たる地球政府こそが人類を正統に統治しうる存在であり、その地球政府は唯一起源国である、とする論も、重要だ。

復讐だけではない。

人類を起源国の下に統合することが、起源国の使命なのだ。

故に、起源国は、逃亡者に罪を自覚させる為、そして、人類の統合の為に、ワープ技術を開発し、艦隊を編成して、各惑星へと飛び立ったのである。

 

起源国による起源国、いや、地球の歴史、その概略が生徒達に時間をかけてしっかりと伝えられていく。

基之はテレビでも何度か流されていたためこの話を聞くのは三度目位だが、その度に同じ想いを抱かずにはいられなかった。

恐らく、殆どの者が同じだったろう。

 

起源国の言う歴史とハヤブサ連邦の語ってきた歴史は違う。

ハヤブサ連邦によると、残留希望者と犯罪者のみを残し、全ての希望者が新天地を目指せたという。

だが、起源国はそうではなく、貧乏人や老人、反体制派を捨て去ったのだと言う。

 

どちらが本当かなど、基之らには判別する術もなかった。

起源国の語る歴史は大筋としては真実であり、ハヤブサ連邦こそが嘘を付いてきたのだが、突然侵略を働いてきた独裁政権の語る歴史を被侵略者が信頼出来ないのは当然である。

つまり、つまらない授業、というわけだ。

 

「さて、概略はこの時間で終了だ。次からは普通の授業に戻るぞ。歴史の授業で、一から地球の歴史を学習していく」

 

特別授業として、この概略は当日に全ての時限を充てて、教えるべしとされていたが、どうにか4限目に終わったのだ。

教師が教室から去ると同時に、クラスの面々は一気に力を抜いた。

 

「終わった~」

「長かったね~」

 

口々にクラスの皆が話始める。

勿論、起源国批判と取られない範囲で。

 

「基之~」

 

祐輔も少し眠そうな足取りで基之の下へやって来た。

 

「お疲れ」

「ほんとな。テレビでも見たってのに何でまた1日で詰め込むんだか」

「それだけ重要視してるんじゃない」

「そらそうなんだろうけど、眠いよな」

「昼休みにでもゆっくり寝れば良いさ」

 

二人が談笑していると、突然教室に、呼び出しのアナウンスが響いた。

 

『2年B組青木祐輔くん。2年B組青木祐輔くん。直ちに生徒会室へ来なさい』

 

祐輔は突然の呼び出しに訝しげな顔をし、天井のマイクを見上げた。

 

「何したんだ?」

「何もしてねえよ?!何なんだ一体..」

 

言いながら彼は立ち上がる。

 

「悪い。ちょっち言ってくるわ」

「直ぐに昼休みだし、付いてくよ。終わったら一緒に食堂行こうぜ」

「おー。良いよ」

 

そうして、基之も共に生徒会室へと向かうのだった。

 

「呼び出したのは一人なはずだが、どちらが青木祐輔かね?」

 

生徒会室の前には、居丈高な起源国軍服をた着用し、胸にプロビデンスの目らしき意匠の、眼球が地球を模したモノになっているエムブレムを付けた軍人らしき男が、二人の同じく軍人らしき男を従え、立っていた。

 

「俺ですけど..」

 

異様な雰囲気を感じつつも、祐輔が恐る恐る手を挙げる。

 

「貴様か。私は、起源国第三星系総督府保安隊の李 強(リー チアン) 少佐だ。青木祐輔、貴様に国家反逆予備罪の容疑がかかっている」

 

李強が懐からタブレット端末を取り出し、令状と書かれた画面を祐輔に見せつける。

その間に、もう二人の軍人が、祐輔の背後に回っていた。

 

「え..?」

「心当たりがないとは言わさんぞ」

 

李強が祐輔に詰め寄る。

 

「な、何のことだか..」

「とぼけるな!」

 

バキッと拳を顔に受け、祐輔は倒れそうになるが、脇の軍人らがそれを許さない。

 

「貴様。昨夜、貴様の父親が食事中に発した我が国を嘲笑する発言に、笑い、同調しただろう?!」

「..!あ、あれは..」

 

言われて祐輔は思い至る。

確かに昨晩、彼の父親は食卓で、起源国に対する皮肉を言った。

しかし、それはつまり..。

 

「聞いて..」

「父なる執政官は全てをご存知なのだ」

「待って、あれは...笑わなきゃダメだったから..」

 

祐輔は取り乱した様子で首を振る。

 

「笑わないと...殴られる..」

 

頬に手を充て、祐輔は小刻みに震える。

 

「問答無用!そんな言い訳が通るか!」

「待ってください!」

 

祐輔に掴みかかる軍人の間に入るようにして基之が割り込んだ。

 

「何だ?貴様は」

「本当なんです!彼の父親は...気に入らないことがあると手を上げる人間で..」

「基之..」

 

祐輔の父親は、粗暴な人間で、気に入らない事があると家族に暴力を振るう最低なタイプの親である。

基之の母が入院した時、基之の手助けを良くしていた祐輔だったが、自分の思い通りに動かない息子を殴り付ける彼の父親によって、頬を腫らしていたことがよくあった。

それでも、祐輔は基之への助力を辞めることは無かったが。

 

「ハヤブサ連邦を自称していた政府の法律ではドメスティックバイオレンスは違法とされていた筈だが?」

 

李少佐の冷ややかな視線に、基之と祐輔は背筋を寒くさせる。

 

「それは...祐輔の父親は、長いこと州議員をしていて、それで、何処に行っても相手にされなかったんだ!」

 

苦い記憶。

基之が祐輔を秘密裏に連れていった警察も、児童相談所も相手にしてくれなかった。

今から思えば、父親に話が行かなかっただけでも幸いだったのだろう。

 

「君らの話を総合すると、ハヤブサ連邦を自称していた政府は、自浄作用を失った腐敗政府であったということになるが、それが言い訳かね?」

 

李少佐はなおも鼻で笑い、冷笑的にあしらう。

その押しても動かない姿勢にカチンときた基之は、つい、感情的になってしまった。

 

「それもありますが、もう一つ。ハヤブサ連邦は、私邸での会話に聞き耳を立てる程、"治安維持に熱心な政府"ではなかったので」

「ほう?」

 

基之の皮肉交じりの言い様に、眉を僅かに動かした李少佐は、次の瞬間には微笑を浮かべ直していた。

 

「良いだろう。"祐輔君"。君とお友達の言葉を信じるとしようじゃあないか」

「!?...本当に..」

「ただし!条件がある」

 

李少佐はタブレット端末を操作しながら、祐輔に向き直る。

 

「君の起源国への忠誠を示せ」

 

再びタブレット端末の画面を祐輔に見せつけた。

ただし、中身は全くの別物であるが。

 

「入隊...志願書...?」

「は?...入隊って..」

 

祐輔も、基之も呆気に取られていた。

何が起こっているのかと。

 

青木憲吉(あおきけんきち)、父親以外の君ら家族は反逆の意思など無く、反逆的思考を有した憲吉に暴力によって支配されていた、と証明するためだ。君が軍に入れば、これ以上ない証拠だろう?」

 

李少佐は、顔面蒼白となり血の気のなくなった祐輔と基之と対照的に、楽しそうに笑うのだった。

 

 





Tips
ハヤブサ連邦並びに第三星系総督府の地方行政単位について
ハヤブサ連邦は"群州"と呼称される行政単位が連合し形成されていた連邦国家である。
その群州の内部には複数の"州"が存在し、その下位に市区町村がある。
州の群れであるから群州、というわけだ。 
起源国は、あえて既存の行政単位を変更するコストに合理性を見いださなかった為、名称はそのまま維持されている。

ただし、連邦時代には群州に保障されていた様々な、独自の徴税や警備隊の保持、群州法といった権限は削除され、単なる地方自治体へと変えられている。
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