代星-我らが母国はいかにして勝利したか、あるいは我らの祖国はいかにして滅びたか-   作:ライト鯖

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第四十二話 開戦

 

「星系内に起源国軍艦隊侵入!規模、3個、若しくは4個艦隊!」

 

急報を受け、基之達は既に準備を整えて待機していた艦隊を出動させた。

極寒の惑星ケイモーンを背に、基之達はH2b衛星基地を出立。

30隻弱の艦艇は、艦列を整え、整然と敵の侵入ポイントまで向かっていく。

 

『鹵獲した1隻、整備間に合わなかったのか?』

 

各艦との通信中、坂堂がそういや、と基之にそう尋ねた。

前回の会戦において、1隻だけ小破に留まり、航行不能となっていた所を鹵獲することに成功していたのだ。

その上、修理自体は直ぐに終わる程度の損傷であった。

しかし、今回それは艦列に加わっては居ない。

 

「柴崎さん達に意見を伺ったんですよ。今後修理用の予備として残しておくか、そのまま修繕して戦力に加えるかどちらの方がより経済的かを」

 

戦力に加えたとしても僅か1隻増えるだけだが、予備パーツの集積として見なすのならば、複数の艦艇の修理に使うことが出来るだろう事を考えれば、予備に回すべきだろうというようなことを柴崎と話し、最終的に基之もそのように判断したのである。

 

『でも大丈夫なのか?相手は2倍以上みたいだけどよ』

「断言は出来ませんが、策はあります。大丈夫。

先日から行っていた準備は無駄にしませんよ」

 

通信を終えた基之は、オペレーター達に進路の指示を出す。

敵が既に自分達の位置を把握していると考え、不自然と察知されないよう、まるで索敵をしているかのような動きでもって誘導していく。

 

「敵艦隊、座標ポイントGに向かいつつあります」

「警戒しつつ向え」

 

夜影はメインモニターに映る3D星図上で敵艦隊を示し、明滅する球体を見つめ、指示を出す。

 

彼は正に、"銀河連盟艦隊"は索敵を行っているのだろうと考えていた。

敵もレーダーは持っているであろうが、細かい座標は分からない。

ポイントGとは要するに特定の宙域であり、正確な座標を示してはいない。

そして、夜影達とてここまで接近せねば正確な位置は分からなかったのだ。

彼の考えは正しい。

艦艇のレーダーのみでは正確性に限度があった。

だが、基之らはあらかじめ衛星を星系外縁に幾つも配置することでその範囲をカバーしていた。

衛星の一つや二つは小惑星等でカモフラージュ可能な為、夜影達は気が付いていなかったのだ。

 

「間もなくポイントGです」

「よし。全艦戦闘態勢」

 

命令は伝達され、全艦の乗員は多かれ少なかれその身に緊張を宿す。

 

「ん…?」

 

オペレーターの一人が不審気な声を挙げ、隣のオペレーターと何やら会話を交わす。

そして夜影の方に向き直り、報告した。

 

「レーダーに…多数の反応を確認」

「数は?」

「不明です。多数、であります」

 

レーダーのウィンドウが同時にメインモニターにも映し出される。

そこには、確かに数えようもない程の点が明滅し、異常事態を静かに告げていた。

 

「小惑星帯はこの辺りには無く、明らかに異常です」

 

困惑した様子のオペレーターを諌めることもなく、夜影も顎に手をやり、思案する。

だが、直ぐに彼等は困惑も思案も不要であったと知る。

メインモニターが映す艦外の景色、そこに無数の反応の正体が映り始めたからだ。

 

「人工衛星…?」

 

宙に浮かぶ、数多の人工物。

人工衛星の骸達が夜影の艦隊を待ち構えていたのである。

スペースデブリと呼べる規模ではなく、明らかに人為的なモノであることは艦隊の皆が即座に気が付いた。

しかし、その意図をも同時に理解し得た者は余り多くはなかった。

 

「一体何のためにこんな…」

「…チャフか」

 

オペレーターの怪訝な声に応えるようにして夜影はそう呟いた。

 

「全艦に伝達!奇襲に注意せよ!肉眼での観測を優先するんだ!」

 

大量の人工物をばら撒きレーダーの意味を失わせる意図。

考えうる最も高い選択肢は奇襲であろう。

 

「特に天底方面と、天頂方面に注意しろ!」

 

ムラザバエフ分艦隊から得られた戦訓だ。

三次元的に艦隊を運用するのであれば、最も武装の少ない艦底を狙う可能性が高い。

そして次に狙われるとするなら、艦橋、つまり司令部が艦の上部に位置しているため、天頂方面となるだろう。

夜影はそう推測していた。

 

「陣形も事前に伝達していた形へ変形!」

 

艦隊の半数は指示を受け、ぐるり、と180度横向きに回転し、天底方面が艦の上部となるように反転した。

これで艦隊全体で艦底を無防備に晒す艦は無くなり、同時に何方から急襲されたとしても全ての艦の司令が同時に壊滅するという事態も避けられることになる。

 

夜影は敵の戦術を取り入れることに全くの躊躇がなく、その点において彼は間違いなく優秀な指揮官と言えるだろう。

この少し後、"銀河連盟"の行った艦隊運動が地球においても広まるが、現実を受け止める気のない愚か者達は更に暫くの間、否定や逃避に時間を浪費することになる。

それとは、正に対極にあった。

 

「…敵艦隊です!目視にて確認!拡大します!」

 

オペレーターの一人が艦隊の真正面に現れた小さな黒い点に目を凝らし、それらが人工衛星とは異なる存在であることに気が付き、声を上げた。

拡大された映像で確定する。

"銀河連盟"の艦隊が現れた、と。

 

「来たか!…しかし、正面から…?」

 

夜影は銀河連盟艦隊の意図を掴めず、眉をひそめる。

 

「敵の数は?」

「……半個艦隊程度かと…」

「少な過ぎる」

 

夜影はしばし思案に沈み、ふと、可能性に思い至り顔を上げた。

 

「まさか…!」

 

それと同時、艦内にけたたましい警報が鳴り響き、事態の急変を報せる。

 

「どうした?!」

「高速度で天頂方面から…いえ!天底方面からも艦影が接近!!」

 

どうにか恐慌に陥らないよう自らを律していると感じ取れる、微妙な震えのある声のオペレーターが、そう報告した。

 

「っ…!やはり…!」

 

夜影は口惜しそうに歯ぎしりをしたが、即座に精神を切り替え、指示を飛ばす。

 

「正面は陽動だ!天頂方向の武装を全て解放!撃ち尽くせ!天底方面には単座戦闘機を出撃させろ!」

 

素早い対応。

しかし、彼は見逃していた。

突如の、予想していたのとは全く異なる形での奇襲に精神が割かれていたことは無関係ではなかっただろう。

3方向から艦隊が来ている状況下で想定され得る事態の一つを彼は見逃してしまっていたのだ。

 

「は、背後からも反応!他のレーダー反応とは違い、高速度で接近中!!」

 

今度は完全に引きつってしまったオペレーターの声が夜影の鼓膜を突き抜け、一拍遅れて彼の心臓は激しく拍動する。

突き抜けるような悪寒を払い除けながら、夜影は状況を整理せんとモニターに目を向けた。

 

三次元ホログラムは艦隊周辺の宙域を星図として映し出すその一端から現れた、艦隊規模の質量を現す大きな点が中央に浮かぶ夜影らの艦隊を示す地点へと凄まじい速度で向かって来ていることを示している。

冷静さを取り戻すという目的は果たせず、しかし時間は次なる逃避を許してなどくれない。

 

「っ…!いや、待て…」

 

各方面の映像を再度見直した夜影は自身の肉眼に写る情報から一つの希望を突如として見出し、というより、混乱から忘却していた厳然たる事実を思い出し、冷静さを取り戻した。

 

「そうだ。数では此方が上回っているのだ。慌てることはなかった。……よし。全艦に通達。艦隊は現在包囲されつつあるが、数の面では此方が優位である。包囲網を突破し、各個に分離している敵艦隊を確実に撃破していく」

 

彼はバッと勢いよくメインモニターを指差し、命令する。

 

「我々は敵包囲網の一角、薄い包囲の中でも最も数の少ない天頂方面へ全艦で向かい包囲に穴を空けて突破する!」

 

全艦は夜影の指令を受け、艦首を一挙に天頂へと向け、隊伍を組んで四隻からなる包囲と呼ぶには薄すぎる銀河連盟艦隊へ向かった。

 

 

「首尾は?」

「全乗員の退避はとうに完了しております」

 

銀河連盟側の旗艦にて、基之の問いに副官として付き従っている尹 敘俊(ユン ソジュン)がそう応えると、基之は「よし」と頷き、合図を出した。

 

「多少の損害を出してでも、必ずここでは勝たねばならない。しかし、敵を混乱させ、指揮を乱し、隙を作らねば倍以上の数の差を覆すことは難しい」

 

だから、と基之は天頂を仰ぎ見る。

彼の艦は敵艦隊を正面から睨みつけている。

既に射程範囲内である為、双方ミサイルやレーザーが飛び交い始めていたが、包囲状態であってもやはり絶対数が違う故に基之達が押される状況となっていた。

 

基之の艦にもレーザーが掠め、僅かだが損傷を受ける。

艦橋が揺れ、警報がなる。

メインモニターの映像が切れ、外の様子を知る術が途切れた。

 

「っ…!やはりキツイな」

 

メインモニターの復旧が不可能であると艦内AIが判断すると同時、ガコン、と艦橋が揺れる。

一分程度の時間が経つと、メインモニターが完全にオフとなり、代わりにこれまでモニターとして利用されていた壁面が透過率を高め、直に宇宙を艦橋の人々の肉眼へと届けるようになった。

そう、艦橋が艦艇の上部に飛び出る形となったのである。

メインモニターが生きている限りは安全性優先であり、艦内に艦橋は格納される形となっているが、視界である艦のカメラがやられた場合、艦橋は直ちに上部に移動し、海上を走る戦艦の艦橋のような形状となって視認性を復旧させるシステムとなっているのだ。

 

「当たらないでくれよ…!」

 

小さな艦橋に直撃する確率は低いが、それでもやはり生身でレーザーやミサイルの飽和に晒されているようなものだ。

豪傑であっても肝を冷やすだろう。

光の束が真横を、上を流れていき、ミサイルの雨が飛び交う様は基之にも身震いをもたらす。

 

モニター越しに見る光景と本質的には変わらない。

しかし、人間とは不思議なもので、実際に晒されて始めて実感することは多いものだ。

 

ましてや今のところ彼等は押されている。

恐怖や焦りとは無縁ではいられない。

しかし、正面の彼等が引き受けていた負荷は、ある瞬間を境に、ガクンと軽くなるのだった。

 

 

「夜影中将!!天頂方面の敵艦が、此方に向かってきています!最大船速です!」

 

最早驚愕に次ぐ驚愕でオペレーターの声は掠れており、しかし、その状況で出し得る限りの声量でもって彼はそう報告した。

 

「なに!?どういうことだ?!詳しく報告しろ!」

「包囲を狭めるようは動きではありません!艦が…艦が、衝突コースで我が艦隊に向かってきているのです!」

「バカな!連中にとっては虎の子の艦隊…そんな簡単に…?」

 

いや、そうか。と夜影は呟く。

 

「だからこそ、というわけか!こちらの意識外からの攻撃!こっちに到達する前に撃沈せよ!最低限の武装を除き可能な限りの砲門を天頂の敵に集中させるんだ!」

 

光の束が、ミサイルが、飛び行く方向を変化させ、天頂へと飛んでいく。

だが、突然の照準変更では、元々命中率など大したモノでは無いこともあり、殆ど的中することはない。

虚しく虚空を舞い、宇宙の彼方へ消え去っていく。

 

「間に合いません!」

 

四隻の内、起源軍は一隻を撃沈し、一隻を大きく損壊させていたが、エンジンを止めるには至らず、三隻の無人となった船が襲い来た。

艦隊の最上部に位置していた幾つかの艦が、やって来た艦と衝突する。

 

「戦艦 ベルン撃沈!」

「駆逐艦 ロサンゼルス大破!」

「駆逐艦 シャンハイ小破!しかしエンジン停止!」

「戦艦 ウランバートルがベルンの爆発に巻き込まれた模様!被害規模不明!」

 

次々ともたらされる報告に、夜影は一瞬平衡感覚を喪失したかのように錯覚し、足から力が抜けかけたが、しかし、彼は義務感と責任感で持ち堪え、次なる指示を出した。

 

「被害は受けたが天頂方面の道は開けた!全速で離脱せよ!隊列は気にするな!包囲網を抜けてから立て直す!」

 

 

「そう。包囲を敷かれた状況で一カ所、道が開かれれば必然、そこを目指すだろう」

 

起源軍艦隊の動きを立体星図と肉眼で確認した基之はだからこそ、と余裕を取り戻した表情で呟いた。

 

「良い的だ」

 

 

「中将!!」

「っ今度は何だ!」

 

包囲網を突破しつつある、というタイミングになって、艦橋にアラートが響き、同時にオペレーターの、最早悲痛と言える叫びが対抗する。

 

「無数の反応が艦隊に向かって高速で接近中!!」

「まだ艦艇を保有してい…まさか!?」

 

チャフとして展開されていた。

少なくとも夜影はそう判断した、無数の人工衛星やスペースデブリ。

それらの何割かが突如として夜影らに牙を露わにし、襲い来ていたのだ。

 

 

「柴崎さん達には足を向けて寝れないな」

 

基之はキラキラと光る粒が必死に包囲網から逃れんとする艦隊と合流する様を眺めながら独り言ちた。

彼等技術者達がこの短期間の間に力を尽くして整備をしたのだ。

人工衛星のエンジンをイオンエンジンからロケットエンジンに換装し、高精度の自動操縦システムを搭載、指示があるまではチャフとして一定範囲を虫のようにふよふよと漂うようプログラミングを調整。

それらの数多の分野の技術者達の尽力によって、この作戦は成立しているのだ。

 

幾つかの艦が白い光に包まれ、次の瞬間には溢れ出る爆炎に包まれる。

人工衛星には当然、攻撃力を高める為に爆弾も搭載されており、それがエンジンか核融合炉かに誘爆したのであろう。

 

無音の宇宙で数多の悲鳴が、爆発が誰にも聞こえぬ五重奏を奏で、数多の命を無慈悲に消し去っていく。

夜影の艦も、これの例外ではないように思われた。

 

「っ…!誰か!返事をしろ!」

 

艦橋はいつの間にか上部に移動しており、ヒビや穴は自動修復ロボットが必死になってセラミックで簡易的な修繕を重ねていた。

 

オペレーターの叫びと直後に与えられた衝撃。

爆発によって夜影は吹き飛ばされ、意識を数分程喪っていたのだ。

瓦礫に潰された足をどうにか腕の力だけで這い出ることで自由にし、辺りを見渡すが、生存者らしき者は見当たらない。

 

「っそ。…誰か!階級は問わん!歩ける者!いないか?!」

 

叫び、彼はギリギリと歯を食いしばる。

 

やられた。そうだ。人工衛星は基本的にイオンエンジンしか積まれていない。だから超加速など出来ない。そんな"常識"が勝っていた。

エンジンを換装していたのか。常識という思い込みの隙を突くために…!。

 

銀河連盟の策、その実態を悟り、夜影は身体の痛覚よりも矜持をへし折られた痛みをこそ感じていたのだ。

 

「閣下!」

 

声がし、夜影は視線をのみそちらに向ける。

 

「ナセル二等兵であります!艦橋が被害を受けたとの報告があり、下部のサブブリッジより参りました!それと、各部署からの伝達もです!」

「そうか。ここの通信は生きているか?現況は?」

「直ちに試してみます。ですが閣下をまず医務室へ」

「他に誰か来ればな。早く試せ。それと現況の報告を」

「…っは!」

 

ナセル二等兵は配線が剥き出しになり火花を上げているコンソールを避け、比較的マシに見えるオペレーター席の一つ、そのコンソールを操作し、同時に現況を伝える。

 

「人工衛星群衝突後、各方面の敵艦隊が一挙に急迫し、混乱した我が艦隊を半包囲の状態で攻撃して来ています。

指揮系統はご覧の通り混乱し、数で勝るはずの我々ですが、一方的に攻撃されるばかりで、未確認ではありますが、どうやら戦艦が何隻か撃沈されたようでして…」

 

ナセル二等兵は現況報告を中断し、より重要な発見を伝える。

 

「…オープンチャンネルでしたら生きていました」

「そうか。構わん。開け。今更敵に聞かれようと変わらんさ」

 

 

基之はアナログな望遠鏡を用い、敵艦隊の被害を確認しようと狙いを定めて拡大率を上げていた。

 

「うん。想定してたよりも上手く決まってくれたな」

 

幾らか周辺に視界を移動させた基之の注意を、浮遊する残骸の一つが引いた。

 

「…"今波宇宙産業"」

 

刻印された社名を口の中で再現し、一つの記憶を思い起こす。

それは、明子と共に出立直前に柴崎らエンジニアの視察へ行った時のことであった。

 

「廃棄予定だったのか、希少金属の再利用の為だったのか、起源国はハヤブサ時代の宇宙船や衛星を大量に保管してていたようでしてな。

経緯はどうあれ、我々にとって僥倖と言えるでしょう」

 

並べられた衛星群。

その一つに、明子は駆け寄るようにして近付いた。

 

「これ…」

 

柴崎は「ああ」と察した様子で近付き、刻印された社名を撫でた。

 

「彼女のお家が経営されていたところですね」

「はい。…そっか。まだ、残ってたんだ」

「柴崎さん。こいつは保存しておきませんか?」

 

基之も事情を知っている故にそう気を利かせたが、明子が頭を振った。

名残惜しそうに、愛おしそうにそれを撫でながらも、しかし、確固とした意志を滲ませながら言う。

 

「あの娘の無念を晴らす為に私は戦っている。…あの娘は、志望は戦うことを選んだ。

だから、私の執着の為だけにこれを使わないなんて出来ない。

一緒に戦わなきゃ。志望と、一緒に」

 

基之は記憶の海から戻り、数秒、静かに瞑目した。

顔も見たことのない、しかし、彼自身の大切な仲間が、何よりも尊ぶ女性に対する敬意と、その家族が経営していた、つまりは彼等の生きた証が、存在証明が、虚空に取り残されることに対する追悼と謝罪と、そして感謝を込めて。

 

『全起源軍艦隊に告げる!撤退せよ!』

 

基之の感傷を遮るようにしてその通信は銀河連盟艦隊内にも伝わってきた。

 

『私は起源国叛乱鎮圧特別派遣軍総司令 夜影月久中将である!全艦に告げる。撤退せよ!一隻でも多く逃れ、次なる戦いの為に戦力を僅かでも維持するのだ。可能な艦から各個に撤退しろ!これは命令である!

繰り返す。これは命令である。撤退せよ!』

 

通信は切れ、艦橋には静寂が僅かの間満ち、そして次には歓呼が浸透した。

 

「勝ったのか?!」

「撤退だってよ!」

 

沸き立つ乗員。

しかし、基之は声を張り上げ、引き締めさせる。

 

「まだだ!油断するな!戦いは終わっていない。敵はまだ目の前にいるんだぞ」

 

しかし、多くの乗員は何をいきり立っているのかとばかりに弛緩した空気をそのまま纏わりつかせていた。

 

「…」

 

銀河連盟側はその多くの乗員が素人がそのまま軍艦に乗れるようになっただけ、というような人材が大半であり、その欠点が如実に現れていた。

 

 

「"トーキョー"は殿を務める。最早中破した役立たずだ。エンジンが動いている間だけでも僅かながら役に立たねばな」

 

どうにかかき集めた人材で復旧させた艦橋で、夜影はそう宣言した。

全員が覚悟を持った眼差しで簡易的な止血を施されて椅子に乗る司令官を仰ぎ、指示を待つ。

 

「非戦闘員に告げる。直ちにこの艦から退避せよ。15分の猶予を与える。それ以上は保障出来ない。直ちに退避せよ」

 

艦内に最後の連絡を入れ、夜影はキッと敵艦隊を睨みつけるのだった。

 

 

「起源軍艦隊、次々と撤退していきます…が、何隻かは残っているようです…っ!?一隻が我が軍の戦艦に向け急速接近!」

 

予備のレーダーを睨んでいたオペレーターが慌てて報告を入れる。

この時になって漸く、浮かれていた者達は戦いの終わっていないこと、その意味を理解し、大急ぎで自席に戻った。

基之は苛立ちを理性で抑えながら指示を出す。

 

「砲撃しつつ後退するよう伝えろ」

「…!間に合いません!」

 

少し離れた場所で爆発が発生し、その事実を実に単純に彼等に伝えた。

 

「くそっ…」

 

やられた戦艦はどうにか撃沈こそ免れたようだったが、エンジンは停止したようで、緊急停止システムによって最後の逆噴射とエンジン噴射の同時射出により、その場で動きを止めたようだ。

 

 

「マルズ准将…バカなことを…!」

 

夜影は、殿を伝える旨全体に伝達した後、お供をする、と残った艦の一つが時間稼ぎの為にと突貫する様子を眺めていることしか出来ず、悔しげに唸っていた。

 

しかし、これにより敵艦の一つは停止し、それを迂回する為に幾隻かの動きが緩慢となる。

 

「今の内だ!」

 

これによって、残存していた10隻弱の艦艇はどうにか逃げおおせた。

だが、最早夜影と共に残った艦に逃げ道は残されていなかった。

今度こそ、数の上でも上回った包囲陣によって取り囲まれてしまっていたからだ。

 

「見事だ。日野基之…」 

 

憎々しげに、正面に浮かぶ恐らく敵旗艦だろう艦を見、夜影は自嘲混じりにそう呟き、そして、叫ぶのだった。

 

「Origin's Here!!」

 

眩い閃光。それは彼の視野が捉えた、最後の事象であった。

 

最後の爆発が虚空をほんの僅かに照らし、そして消え、再び宇宙に静寂が戻った。

これによって戦闘は終結した。

 

銀河連盟は勝ったのだ。

倍以上の敵を相手に、2度目の艦隊決戦であり、小規模な戦闘となった前回を鑑みると、初の大規模会戦における勝利は、曲がりなりにも戦術、戦略理論を蓄積してきた起源国ではなかった。

むしろ、偏見なく宇宙というフィールドの特性を掴み、奇策を用いることに抵抗なく、地の利を利用した"銀河連盟"にそれはもたらされたのであった。

 

 

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