代星-我らが母国はいかにして勝利したか、あるいは我らの祖国はいかにして滅びたか-   作:ライト鯖

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第四十五話 縺れる足

 

「な…壊滅…?」

 

第二星系総督 リューベン・ストヤノフはそのたるんだ巨体を揺らしながら勢いよく立ち上がった。

 

「は…駐留艦隊はほぼ壊滅し、残存艦隊はリオ・グランデ衛星基地へと帰還した、と…」

「な、何をしているんだ!!このままではこの総督府が反乱軍の手に落ちてしまうぞ?!」

「その件で保安隊司令官と駐留軍総司令が閣下に面会を求めておいでです」

「…直ぐに通せ!」

 

百キロを超える巨体故に僅かの動きで息の上がるストヤノフ総督であるが、今、彼から吹き出ている汗は、それとは無関係な冷えたモノであった。

自らの運命と、地球に残る家族と。

其々の未来に突如として暗雲、いや、雷鳴轟く黒雲が迫って来ることとなったが故に。

 

「お時間頂き感謝します。閣下」

 

保安隊司令官が代表して挨拶し、面会は始まった。

 

「どう責任を取るつもりだ?」

 

開口一番、ストヤノフ総督は駐留軍総司令にそう詰め寄る。

駐留軍総司令は、彼の責任逃れを企んでいるであろう浅はかさに軽蔑を感じつつも、実際自らの責任は逃れられないだろうことから反論は出来ずにいた。

ロドリゲス少将を駐留艦隊司令として推したのは総司令であり、その点、間違いなく責任が発生することに疑いなかったのだ。

 

「はっ。申し開きのしようもありません。ですが閣下、今は総督府防衛に我々の思考は費やされるべきであると確信しています」

「私もそう想います。責任云々は奴らをどうにかしてから考えるべきでしょう」

 

保安隊司令に窘められ、ストヤノフは不服な様子でありながらも、正論に挑戦する不利は理解しており、一先ず席に座り直した。

 

「それで?残存艦隊は何隻だ?」

「5隻であります。しかし、現状戦え可能るのは4隻です」

「…正に壊滅という訳だ。それで、君らは何か策を?面会を求めてきたんだ。あるんだろう?」

「はっ。残存艦隊は遅滞に利用し、連中が大気圏内へ突入するまでに準備を整え、核ミサイルと大気圏内戦力で敵艦隊に打撃を与えます」

 

駐留軍総司令の説明に、ストヤノフはふむ、と頷く。

 

「大気圏内戦力と言うが、戦闘機等では意味がないだろう?」

「ええ。ですから核戦力が主となるかと。しかし、連中は降下作戦を考えているでしょう。故に兵を降下させるタイミングであれば戦闘機も意味を成します」

「加えて降下に成功されたとしても、此方のミサイル兵器でもって敵艦隊の処理能力を割かせることで地上戦力への支援を滞らせます。

それでもって、我等の保安隊戦力と地上戦力で鎮圧。これが現状の作戦です」

 

保安隊司令官と駐留軍総司令による説明は終わり、後はストヤノフの評を、或いは決裁を待つ状況となった。

 

「…勝てるのだろうな?」

「それ以外、我々に道は有りません」

「分かった。その作戦をより詳細に詰めて準備を進めてくれ」

「はっ。では失礼致します」

 

ストヤノフは一人、苛立ちを隠さず貧乏揺すりをしながらホログラム星図を無意味に見つめるのであった。

 

 

統一暦243年(西暦2693年)6月23日

 

第二星系本星、リオ・グランデの重力圏まで後僅かという所で、駐留艦隊の残存部隊と銀河連盟艦隊が火花を散らしていた。

 

単座戦闘機、コリネウスが互いに飛翔し、戦闘機も艦船も綯い交ぜになって戦闘を遂行していく。

 

単座戦闘機は戦艦に比してハエのごとく小ぶりであるが、搭載されている兵装はやりようによっては戦艦をも落とし得る。

そんな兵器に人が乗り、宇宙空間を駆け、敵のそれを自軍の艦艇へと近付けさせないよう戦うのだ。

 

笛戸襍太(てきどそうた)は銀河連盟軍として宇宙に出ることを決めてからコリネウスの訓練を受け戦闘機乗りとなった一人である。

彼もまた、敵、起源国軍が連盟の艦隊を落とすことなきよう宙を飛ぶ。

 

無重力下での空戦は重力圏内とは大きく異なる。

空という三次元を舞台にした飛行機と、無重力、近しい部分はあるが、やはり地面という終焉、それへと導く重力がないことは、操縦士達のセンス如何が機体の動き方の最も重要なファクターとなっている。

 

笛戸は敵機体2機を天頂方向へ半ドーム状に開けている強化ガラスの向こうに捉え、そちらに向けて操縦桿を操った。

 

どうやら見つけた敵2機は、笛戸の味方、連盟軍の一機を追い回しているようだ。

 

連盟軍の機体も必死に頑張ってはいるが、敵一機の背後を突こうとすれば別の一機に狙いを定められ、慌てて射線から逃れる。

それの繰り返しをしていた。

そして、限界も近いように見えた。被弾しているようで、左翼側のエンジンが不調となっているようなのだ。

 

笛戸は急ぎ、しかし敵にギリギリまで悟られぬよう近付く。

後数秒という所まで近付いた時、漸く敵機体のレーダーが警告を出したようで、一機が笛戸の側へと速度を落とすことなく円を描くようにして反転して来た。

 

しかし、浮遊する機体の残骸を利用しつつ、別な場所を目指しているかのように偽装した動きで近寄っていた笛戸は敵に気付かれた時には既にロックオンを終えていた。

 

AIによる自動補正も完了し、ターゲットを指し示す十字線が赤く光るのを確認してから笛戸はボタンを押下した。

 

レーザーが迸り、反転した一機のコックピットを貫く。

一瞬遅れて、爆発。

 

もう一機も追いかけっこを止め、笛戸に狙いを変えて迫ってきていた。

しかし、その突撃とレーザー照射を右翼のエンジンを停止させることで機体バランスを一気に右方向へ傾けることで躱し、同時にミサイルの発射ロックを解除した。

 

小型のミサイル、─勿論、追尾システム付き─は、レーザーを躱されたことを受けて笛戸のカウンターを避けるために天頂方向へ機首を向けつつ、此方は左翼側のエンジンを切り左方向へ機体を捻ることで、斜め上というべきか、斜行しつつ上昇するような動きを取っていた敵機体であったが、ミサイルに追い付かれエンジンの一部を損傷する。

 

そして背後を笛戸は取り、またロックオンをする。

 

「行け!」

 

レーザーが発射され、今度はど真ん中を貫くことは無かったが、致命を負わせることに成功したようで、敵機体は停止することも出来ず、笛戸に追い付かれる寸前、再点火していた左翼側エンジンのみが暴走駆動する状態で、交戦域からどんどんと遠ざかっていった。

 

操縦士は一か八か宇宙服を着ているため、宇宙空間に飛び出したが、レーザーやミサイル、或いは残骸の飛び交う宙域で幸運はそう長くは続かないだろう。

機体の無力化を確認した笛戸は次なる獲物を探しに交戦域の中心へと戻るのだった。

 

 

「残存艦隊の狙いは時間稼ぎか?」

 

基之は執拗に、勝ち目のない突撃を続ける敵艦隊から狙いを推測する。

しかし、狙いを当てた所でどうすることも出来はしない。

何方にせよ、倒さざるを得ないのだから。

 

戦略も戦術もあったものではない。

残存艦隊は正面から突撃し、ただ限界まで戦い続けているだけである。

 

そうして時間を浪費させられた基之達。

会敵してから戦力差を鑑みれば起源国軍艦隊は良くやったと言えるだろう。

全滅にまで基之達は数時間を要し、その後艦列を整え直して大気圏へ向かうことで半日は費やし、結果として敵の戦略目標を達成されてしまったのであった。

 

つまり、大気圏に突入した基之の艦隊は核ミサイルの嵐に晒される運命へと向かうこととなる。

 

「複数の飛翔体が艦隊目掛けて飛んできます!」

「ミサイルか!」

 

基之もミサイルによる遅滞を想定していなかったわけではない。

が、しかし根本的な対処は不可能である。

無論、銀河連盟艦隊も核兵器は所持している為、リオ・グランデ市民の犠牲も厭わなければ先制核攻撃により敵戦力を沈黙させられたであろう。

だが、銀河連盟の建前としても、基之の心情と、信念としても、その手を取ることは出来なかった。

 

「EMPミサイル発射」

 

銀河連盟艦隊は次々と小型のミサイルを核ミサイルへと発射する。

電磁パルスにより敵の電子システムの破壊を目的とした兵器であるが、高精度の誘導システムを備えた核ミサイルを狂わせることを狙ったのだ。

 

核ミサイルは核爆発によって後続のミサイルがEMPの影響を受けないよう防護が施されているが、核爆程度では起こせない強度の電磁パルスをこの小型ミサイルは発する。

つまり、防護を貫通するのだ。

 

これで殆どのミサイルは艦隊へたどり着く前に起爆し、大気圏外で火球を形作る。

 

だが、全てを防ぎきれるわけではない。

逃れた弾頭の幾つかが直撃こそしなかったが影響範囲で起爆し、数隻の戦艦に被害が及んだ。

 

「戦艦 スレイプニル小破!駆動系に問題はないようですが、武装の大半が沈黙!」

「駆逐艦 ジャブダル、ワープ機構損傷!」

「…ッ!仕方がない。傷付いた艦は旗艦の側に移動させろ!戦えない艦でも人員は運べる。このまま突っ切る!」

 

艦列は乱れてもなお、彼等は可能な限りの速度で走る。

そうして大気に突入した彼等であったが、当然それで終わりではない。

 

『敵艦隊捕捉。これより大気圏内空戦機動部隊による波状攻撃を行う』

 

総督府の駐留軍総司令は戦闘機部隊の隊長からの報告を受けると小さく頷き、指示を出した。

 

「よし!恐らく君たちでは艦を落とすことは不可能だろう。しかし、敵兵降下の阻止は出来る。時間を稼げ!」

『了解!』

 

戦闘機部隊は比べ物にならない程の巨体を誇る戦艦へと向かい、機銃を放つ。

空を駆ける鋼鉄の島に銃弾は意味を成さない。

勿論、彼等が搭載出来るミサイルも大して効果を持つことはない。

だが、この状況下で兵を降下させることは出来ない。

そんな真似をすれば兵達は蜂の巣だ。

 

「駐留艦隊の醜態からは信じられないな…」

 

基之はぼやきつつ、次なる策を飛ばす。

 

「コリネウスで迎撃だ!」

「しかし、基之さん。コリネウスは大気圏内における戦闘では大気圏内戦力に劣勢です」

「分かっている。勝つ必要はない。敵を引き付けることが目的だ。

可能ならば遠ざける。艦隊から離れてくれればレーザーで一掃出来るしな」

「な、なるほど」

 

待機していた単座戦闘機乗員が各々の機体へ乗り込み、彼等の故郷とは異なる惑星の大気圏へと、飛び出した。

 

「基之司令!敵戦闘機部隊、我々に気が付いた模様です!」

『よし。そのまま敵をどうにか引き剥がしてくれ。遠ざけるのが難しければ時間を稼ぐんだ』

「了解!」

 

笛戸襍太は母艦から飛び出して直ぐ、隣の艦底に虫のごとく纏わりつく敵戦闘機に存在を察知され、自らへと機首を向けられたことに気付き、報告を入れた。

それを受けた基之は全体に改めて目的を周知する。

 

コリネウス部隊は自らの存在を誇示するようにして敵方向へ派手にミサイルをぶち撒けていく。

 

『敵空戦部隊、一個編隊、此方に来ているぞ』

 

隊長からの無線と同時、笛戸の機体にアラームが響く。

敵の急接近を告げるモノだ。

 

「っ!」

 

殆ど反射で操縦桿を引き上げ、上昇した。

一瞬前に彼のいた場所に光跡が流れる。

彼は一心不乱に操縦桿を引き上げ続け、ループして敵の姿を捉えようと試みたが、別な敵機の接近も機体が感知し、その試みは阻害される。

 

「何処に…っ!」

 

自機がそのままループ機動を取っていれば下腹部を狙い撃ちされていただろう方向に敵機の存在を確認し、即座に機動変更をする。

 

"インメルマンターン"、ロール機動の頂点、背面飛行状態になった際にピッチアップを行い機体をロール。

縦方向にUターンする機動、それで以て新たな敵と正面切って対峙した。

 

「はあっ!」

 

照準が完全に合わさるのを待つよりも早くボタンを押下し、レーザーを放つ。

敵機の翼へ直撃し、光線はそれを見事に手折る。

敵機は落下していき、彼の視界から消え失せた。

 

しかし、未だ最初に笛戸を狙った機体は生きている。

そちらに意識を戻そうとするが、既に彼は背後を取られていた。

 

「しまっ…!!」

 

彼は事態の覆しようのないことを悟ると同時、コックピットの天井部から背面へと配線の伸びるレバーへと手を伸ばし、素早く引いた。

 

次の瞬間、コックピット部分だけが上方へと勢い良く射出され、申し訳程度の折り畳まれていた翼が広がる。

そして僅かなエンジンを噴かせて敵の少ない母艦の一つへと自動で向かうのだった。

 

彼の元いた機体は、コックピットの射出から1秒と経たずに豪炎に包まれ、地表へとその身を落としていた。

 

「危ねえ…」

 

生きた心地のしない笛戸であったが、しかし、自らと、彼の所属する部隊が敵と戦闘していた位置を、空を見上げることで知ると、僅かに力を抜いた。

 

既に母艦は遠く、遥か上空にあることが分かったのだ。

つまり、距離を取らせるという目的は少なくとも彼の部隊においては達成出来た、ということになる。

 

「後は無事に帰れるかだなあ…」

 

AIが戦場となっている空域を避けつつ敵のいない帰投可能な艦を目指して飛んでくれてはいるが、万能ではない。

それ故彼は、後のところ、無事に帰れることを祈ることのみが仕事なのであった。

 

 

そうして、日が傾き始めた時刻から始まった戦闘であったが、艦隊の光や飛び交うレーザーやミサイルの爆発が宇宙に瞬く星のように暗闇に光を与える時間帯となってもまだ続いていた。

 

だが、漸くそれにも終わりは見えた。

コリネウス部隊の善戦あって、敵戦闘機部隊のほぼ全てが一時的にレーザー砲発射圏内へと離れたのだ。

これまでは他の味方艦を巻き添えにしてしまいかねない距離感であった故に撃てていなかった。

 

「だが今なら!…撃て!」

 

直径十メートル近くあるレーザー砲が数キロメートル近い、暗闇を征服し、一瞬の真昼を生み出すと共に、その熱と光は起源国の戦闘機部隊を塵へと変える。

 

「降下部隊の準備は?!」

「問題ありません!」

「良し。今だ!降下作戦を開始する!」

 

こうして基之ら銀河連盟軍は初めて、惑星ハヤブサではない異なる惑星へと降り立つこととなる。

だがこれは戦いの終幕の近いことを告げる合図ではなく、寧ろ漸く幕が上がったに過ぎなかったのだと後に基之自身痛感することとなるモノであった。

 

突貫ではあったが僅かに稼いだ時間で準備し、防衛線を固めた起源国軍を相手に元は素人でしかない銀河連盟軍が戦いを挑むのだ。

多少の戦艦による支援は出来ても街中にレーザーを撃ち込む訳には行かない。

故に彼等は想定以上に時間を浪費させられることとなるのである。

 

最終的に二カ月弱の時間をここで空費することとなるが、この時の銀河連盟軍でそれを予見出来た者はいなかった。

大部分は降下作戦の成功と、大気圏を徐々に征服していくことに昂揚を覚え、基之や明子もどうにか惑星の制圧に取り掛かれたことに安堵しており、泥沼に足を縺れさせていることには気が付いていなかったのであった。

 

 

そこから暫く時間が経過し

統一暦243年(西暦2693年)7月1日

 

戦場となっている惑星リオ・グランデから数十光年程離れた星系。

第十二星系総督府 首府星 ルイス・プラネット

 

この日、第十二星系総督府保安隊司令官 ライアン・マルドゥーンは既知であったが、しかし気に進まない、実際の所可能ならば嫌味の一つでも言って帰らせたい来客を執務室へと迎え入れていた。

 

「トニー・ラレド・バチスタ大将閣下、ようこそ、ルイス・プラネットへ」

 

悪感情の一切を悟らせない、親しげな仮面を被って──。

 

 





Tips:総督府の役職と派閥

復讐派と平等派の派閥争いは過激化し過ぎないよう、或いは、特定の星系で何方かが事実上の支配者となり、半独立の総督府を築かないようにする為に、高位の役職は派閥如にバランスを取って割り振られている。


例えば、総督が復讐派である場合、保安隊司令か駐留軍司令のどちらかは必ず平等派である。
可能ならば、残る一つは中立派が握るように調整され、そうでなくとも、派閥内外での影響力を考慮して任免される。

その他の総督府における大臣の役割を担う局長級職も同じように権限のバランスが取れるように割り振られるなどしており、何れかの派閥が独占することは絶対にない。

ただ、やはり総督がどちらの派閥かによって、平等派に寄っているのか、復讐派によっているのか、星系の色は概ね決まる。
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