代星-我らが母国はいかにして勝利したか、あるいは我らの祖国はいかにして滅びたか-   作:ライト鯖

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第四十七話 逆鱗

 

 

統一暦243年(西暦2693年)7月3日

まだ太陽の昇る前、空は闇夜に包まれている頃、ライアン・マルドゥーンは首府の病院を訪れていた。

 

「どうだ?」

「どうにか、動けます」

「そうか。なにはともあれ、先ず命があって本当に良かった」

「いえ。閣下を危険に晒すことになってしまい…」

「君が責任を感じることじゃあない。それに、むしろこれは利用出来る。…やれそうか?」

「はい。いえ、やります。例えその後、動けなくなろうとも」

 

ライアンはライス中佐の強い意志を感じる語調にありがとうと頷いた。

 

「だが、無茶はし過ぎるな。君に死なれては困る」

「私も閣下に死なれては困ります。それに、命を救って頂いた恩を返していません」

「あの時の事は気にするな。しかし、頼りにしているよ」

 

そう言い残し、ライアンは自ら車を運転し、バチスタと待ち合わせている湖畔へと向かうのであった。

 

「やあ、おはよう」

 

トニー・ラレド・バチスタ大将は、銃を携行した体格の大きな男と共に彼等の、大型のワゴン車の側に立って、ライアンを待っていた。

空には太陽の端が見えており、空を照らしつつある。

陽光を背に受け、ライアンは二人へと近付き、バチスタへと敬礼をした。

 

「お待たせ致しました。閣下」

「私達が早く着きすぎただけさ。楽しみだったものでね。…彼は護衛だと思ってくれ。幾ら人気のない場所とは言え、総督府保安隊司令と起源国宇宙軍太陽系総司令参謀長。二人揃って無防備を晒す等愚の骨頂だからな」

 

バチスタは隣に立つ大柄な彼をそう紹介した。

 

「余り大事にはしたくないからな。彼に見張っててもらう。彼は近接戦闘も強いが、優れたスナイパーなんだ。怪しい奴は我々に近付く前に、脳天を破壊される」

 

バチスタは気遣わしげな表情を作り、ライアンの肩に手を置く。

 

「報告は聞いている。二人も君の部下が反逆者に殺されたらしいな。

本当に大丈夫か?無理に私に合わせなくとも良かったのだぞ?」

「問題ありません閣下。それに、死んだのは一人です。もう一人は…弾が心臓近くを通過した為、集中治療室にいます」

「それは失礼した。しかし、大変だろう。無理はするなよ?」

「お気遣い感謝します。しかし、なればこそ少々気晴らしをしたかったもので」

「それも当然だな。まあ、彼が守ってくれる安心したまえ」

 

護衛を指差しバチスタはほほ笑んだ。

それを受け、愛想笑いを浮かべながら何度か首を揺らし、ライアンはその"護衛"に握手を求める。

 

「よろしく頼むよ」

 

そうして二人は湖畔の小さな船着場になっている場所へやって来た。

 

「君の船か?」

「ええ。妻は釣りに興味がありませんし、娘も…。それに息子は年頃なのでしょうね。誘いには余り乗ってくれないので、動かすのは久しぶりですがね。

この星に持ってきてからですとちゃんと動かすのは始めてです」

「何処の家族も似たようなものだな」

 

こればかりは真に可笑しそうに笑い、バチスタは船の様子を実際に触って確かめる。

 

「だが、汚れてもいないな」

「気分転換にこいつを掃除したり、整備したりしているんですよ。機械を弄っていると余計な事を考えずに済みますから」

「なるほど。なら問題はなさそうだな」

 

サッと船に乗り込んだバチスタにライアンも続き、エンジンを動かした。

小振りの小さな船、権力者二人が肩を並べて乗っているとは思えないそれはザバザバと波音を立てながら湖畔の真ん中へと進んでいく。

 

「良い景色だ」

 

バチスタは湖の四方を取り囲む小高い山地に生い茂る緑の木々とそれらを反射する透き通った水面に感嘆を漏らした。

昇る陽光も、キラキラと輝きを付け足す。

 

「ええ。ここには原生の魚類も住んでいるので、そちらでも良いモノを見れると思いますよ」

「ほお?そいつは楽しみだ」

 

二人は其々背を向け、ルアーを投げる。

ポチャリと釣り針が着水し、波紋をゆっくり、静かな水面に広げた。

 

「……本当に、良い場所だ」

「私はいつもここに来て地球を思い出しています。植えられた木々の多くは安全上の理由から地球のモノとなっていますが、元からここは殆ど同じ景色でした」

「何百光年と離れた星にいるとは思えんな」

 

二人は、仮初の、僅かな安穏に息を付き、ほんの少しの休息を享受していた。

言葉を発することも、何かサインを送ったわけでもなくただ自然に両者に成立した一種の紳士協定。

それがもたらした時間も、無限には続かない。

 

「ライアン」

 

バチスタが一度反応のあったルアーを引き、一匹、原生の小型の魚を釣り上げた後、背筋を正してから切り出したことで、紳士協定は終わりを告げた。

 

「何でしょう」

「率直に聞こう。君は執政官閣下、或いは執政府の連中からルーカス大臣に関して、何か命令を受けていないかね?」

「護衛の命令を」

「はぐらかすな。分かっているだろう?そうじゃないことは」

「何も受けていませんよ。何かあったのですか?"トニー"」

 

餌だけをせしめられた釣り針を引き上げながらライアンは応える。

バチスタはしかし、それで引き下がる筈もなかった。

 

「ライアン。分かった。君としても易易と言えることではないだろう」

 

だから、と彼はルアーを振りながら続けた。

 

「勝手に前提を作って言わしてもらおう」

「どうぞ」

「此方に付かないか?ライアン。君の才能は欲しい。是非ともね」

 

ライアンは釣り針を眺めながら続きを待つ。

 

「こうして正直に話すのには理由があることくらい、分かるだろう?君はそれ程までに欲しい人材なんだ」

「ルーカス大臣の部下に…彼に忠誠を尽くせ、と?」

 

正直、とライアンは苦笑しながら言う。

 

「彼に魅力を感じません。執政官閣下と比較しても…ああ、トニーの選択を否定したいわけではないのですよ?」

「ハッハッハ」

 

突如、大きな笑い声をあげたバチスタにライアンは一瞬警戒を引き上げた。

 

「私とてあんなのに忠誠を尽くすつもりはない」

 

あれはデコイさ。と疑似餌を一つ掴み、湖面に投げ込んでみせる。

 

「見たまえ。偽物であろうと魚は食い付く。彼は神輿。あれでも政権の功臣。大義名分と人集めに使っているだけさ」

「では、彼でなければ、誰を?」

 

もう分かっているだろう?とバチスタは微笑する。

 

「私に忠誠を誓うつもりはないかね?ライアン。

君は偽物の餌では寄り付かない。だからこそ、欲しい」

「…彼を使って執政官閣下を追い落とした後、ルーカス閣下をも追放する、と?」

「人は権威があると安心するものだ。彼の名を看板にすれば後ろ盾の大きさに惹かれる者がよく釣れる。

だが、ンガングガ執政官さえどうにか出来れば、そんなモノ不要になるからな」

 

彼には、と再び小魚を釣り上げながらバチスタは続ける。

 

「引退して頂く。彼とて本来トップに立つことは好みではないのだからな。本望だろう」

 

せせら笑うバチスタ。

ライアンは何も応えず、代わりに耳の辺りを2回、バチスタからは見えないようにノックをする。

 

「さて、どうだ?私は君の忠義を得るに値しないかね?」

「…拒否権はないのでしょうね?」

 

わざとらしく目を見開き、驚いた、ような顔を作ってからバチスタは笑った。

 

「存外、君は愚か者なのかね?…だが、そうだな。確かに直ぐに忠誠を切り替えるというのも難しいだろう」

 

しかし、とバチスタはライアンの目を見、言い放つ。

 

「アルワタンにいる君の家族には私の部下がしっかりと付いている。執政官が寄越した護衛もいるようだが、あんなもの捨て駒を使えば簡単に無力化出来るさ。

家族に危害を加えられたくなれば──」

 

それは、逆鱗であった。

ライアン・マルドゥーンにとって、許容しからざるレッドライン。

ンガングガ執政官も確かに彼の家族を人質となしている。

しかしそれは実質的なモノであり、建前は異なる。

守る為、と銘打っているし、実際必要以上に監視を強めたりなどはしていない。

実態はどうあれ、形としては彼の家族に危害を加える意志がない、と示されたことでライアンは納得出来ていた。

だが、しかし、バチスタのそれは異なっている。

 

明確なる危害意志。

従えば守る。ではなく、従わなければ、危害を加える。

これは実質が近似していようと天と地の差があるのだ。

少なくともライアンにとってはそうだった。

 

従えば、という条件であれば、ライアンにメリットの提示されていることになる。

しかし、従わなければ、は従わないデメリットはあっても、従うことにメリットはない。

ンガングガ執政官は自分に忠実である限り、ライアンの家族を力の及ぶ限り実際に保護している。

 

だが、バチスタは単に、損壊の対象としてしか、見ていなかった。

 

「やはり、貴方には価値がない。私が、私の家族を危険に晒してまで守る価値が」

「ほう?そうか」

 

残念だ、と息を吐きながらバチスタは湖畔を取り囲む山地の一つ、その一角へチラリと視線を向け、胸ポケットを2回、叩いた。

 

キラリ、と葉緑に反射した陽光とは異質の光が輝いたように思えた。

そして、静寂の広がる湖畔に、一帯に、ドオンと破裂音が響く。

 

バサバサと鳥たちが飛び立ち、疑似餌に食いつきかけていた魚達は直ぐ様水の奥底へと潜る。

 

しかし、ライアン・マルドゥーンは微動だにせず、バチスタを見据えていた。

バチスタは怪訝を塗りたくった様相となり、目に見えて困惑を露わにする。

 

「な、なぜ…」

 

瞬間、隙をついたライアンはジュウドウの要領でバチスタの足を払い、船床に見事な技捌きで倒れさせる。

そして、バチスタの懐に素早く手を伸ばし、硬く重みのある、流麗なフォルムの金属塊を奪い取って、上体を起すや否やバチスタの腕に向け、引き金を引いた。

 

肩から血を流し、転んだ拍子に水面へと落ちた、得物の入っていたバケツのあった場所に背を付けて倒れ込む男の影。

船床には赤黒いモノが広がり始めていた。

 

「なっ……」

「閣下。そうやって相手を過小評価、或いは自己を過大に評価なさっている点も執政官閣下と異なり忠義を尽くすに値しない部分です。

自らの立場の強さをかさに来て油断する小物に賭ける命はありません」

 

ライアンは冷たい目で肩を抑えるバチスタを見下ろす。

そして、足と、もう一方の手を全力で踏みつけ、鈍い音を鳴らさせる。

 

「ぐうっ…なぜ…貴様…どう…やって…」

「現在、私が信頼している部下のいないことに油断しましたか?」

 

懐から小型のレコーダーを取り出し、ライアンは録音を停止させながら言った。

 

「そう思わせるように情報を流しましたからね。ライス中佐は暫く復帰できない、と」

 

しかし、とライアンは山の向こうを指差しながら笑う。

 

「最新の再生医療は素晴らしいですね。2日で動ける程度には回復してくれた。少々高く付きましたがね。さすがに、本当に心臓近くに弾が通っていればこうはいかなかったでしょう。ですが当然、それも嘘」

 

 

湖を見下ろす山地、その一隅。

 

ライス中佐は、息を切らしながらも、自らの仕事の確実性を確かめに来ていた。

ライアンと話して直ぐに病院をライアンの手の者の助力によって抜け出し、予め伝えられていた地点に用意された銃を持って、これまた伝えられていた地点にて、ライアンの発する秘匿信号を探知しつつ、彼の場所に狙いを定めやすそうな地点を見下ろせる場所で待機していた。

そして、"護衛"が発砲準備をした瞬間を彼の更に背後から狙いを付け、脳天に一撃をお見舞いしたのである。

 

屈強な身体と潰れた頭部を確認したライス中佐は、小さく頷き、身体を引きずりながらライアンの車が待つ場所へと戻るのだった。

 

 

「そう長時間詳細に調査する時間のない貴方が狙撃ポイントに選びそうな場所等、数カ所しかない。

そこ全てを狙える場所にライスを配置した。

ただそれだけのことです」

「貴様…最初から…!」

「いいえ?貴方が言ってはならないことを口にしたからですよ」

 

ライアンは手持ちの銃をバチスタの口に押し込む。

引き金に指をかけながら。

 

「家族に危害を与える者を。与えることを公言する者を、私は許さない。

妻を、子供達を傷付けかねない存在は全てが敵だ。

貴様は、私の家族を"守る""保障する"ではなく、危害を加えられたくなれば、と言った」

 

排除対象だ。

バチスタが思わず身震いする程の気迫でライアンは銃を力強く握り、ゴリッと更に口内の奥へと銃を押し込んだ。

 

「がっ…!ライ…!す…!」

「………」

 

船はオート操縦にライアンが切り替えた為、元の船着場へと戻りつつある。

 

船が岸に着くと、ライアンは銃をバチスタの口から抜き、肩の傷に布を当てて応急の止血を施した。

 

「何のつもりだ…?」

「貴方にはまだ伺いたいことがありますのでね」

「はっ!それで答えるとでも?」

「ええ。無論。貴方はそうしたくなるでしょう」

 

バチスタは強がり、叫ぶ。

 

「拷問でも何でもすると良いさ!だが、ルーカス大臣が知れば、貴様が捕らえられるだけだ!あと1日の…」

 

だが、ここでバチスタは気が付いた。

先程、ライアンの操作していた機器の存在に。

 

「これを聞いても、ルーカス大臣は貴方を守るのですか。

それはそれは、素晴らしい上司のようですね」

「待て。待て!」

「…それと、拷問?何を仰る。貴方自身に危害を加える間でもない。ルーカス大臣がこの音声。…ああ、勿論、私のセリフは編集しますよ。貴方の悪辣さが際立つようにもね─。を、聞いた後、何をなさるでしょうね。

きっとご家族も──」

「…!!止めてくれ!止めてくれ!家族だけは!」

 

乾いた笑い声をあげた後、ライアンはバチスタの腹を蹴った。

 

「自らは恐れるのか。バカバカしい。貴様の使った手だろう。返される覚悟もなく、軽々しく口にするな」

 

だから、とライアンは吐き捨てた。

 

「貴様に忠誠を尽くす価値などないんだ」

 

そうして、バチスタをライアンの自家用車、その後方に寝かし、ライスを助手席に加え、ライアンは保安隊司令部へと急ぐのだった。

 

 

翌日。

ニューサンフランシスコ宇宙港

 

起源国軍の深緑色の軍装がズラリと整列し、起源国の重鎮たるルーカス・イワノヴィッチを出迎える。

 

「出迎えご苦労」

 

ルーカスは居丈高な態度で胸を反らし、自らを大きく見せるようにして、彼を出迎えたライアン・マルドゥーンと、第十二星系総督 トレイス・チャンとに向き合った。

 

「ようこそ第十二星系へ。我が総督府一同、閣下の訪問を心より歓迎致します」

 

恭しい態度でトレイス・チャン総督はルーカスに頭を下げ、手で行く先を指し示す。

 

「ところで、バチスタが見当たらないが?」

 

ライアンは全く動じることなく、こう囁いた。

 

「その件に関しては総督府に到着後お話致します。…少々驚かれるやもしれません」

「?。分かった」

 

トレイスはルーカスを先導するようにして歩き、ルーカスはその後ろを堂々と、と言えば聞こえは良いが、実態以上に自らの権威を強調せんとする安っぽい演出を行いながらついていく。

ライアンはその二人の間程に立ち、周りを囲む護衛らの統率を身体の動きだけで取りながら進み、車へと案内するのであった。

 

 

そして、総督府に到着後。

 

「閣下。ご到着早々ではありますが、残念な事実をお伝えせねばなりません」

 

総督執務室へ入る前にある、総督を尋ねた客を待たせる為のホールとなっているスペースから人払いをし、ライアンは一編のファイルと音声再生用のデバイスを手渡した。 

 

「此方は、バチスタ大将の閣下に対する裏切りの証拠です」

「何だと?」

「彼は裏切り者だったのです」

 

驚愕と動揺を顔に滲ませながらルーカスはファイルをひったくるようにして取ると、乱暴にページを捲り始める。

 

「…!!まさか…奴が?」

「音声もあります」

 

言いながらライアンはデバイスのスイッチを入れ、再生ボタンを押下した。

 

『ルーカス大臣の部下に…彼に忠誠を尽くせ、と?』

『あんなのに忠誠を尽くすつもりはない』

『見たまえ。偽物であろうと魚は食い付く。彼は神輿。あれでも政権の功臣。大義名分と人集めに使っているだけさ』

『では、彼でなければ、誰を?』

『私に忠誠を誓うつもりはないかね?ライアン』

『ルーカス閣下を…追放する、と?』

『引退して頂く。彼とて本来トップに立つことは好みではないのだからな。本望だろう』

 

自然に聞こえるようAI補正等を多分に施した音声であるが、少々不自然であることは否めない。

本来、音声データは加工を疑うのが常道であるが、ルーカスの側でそれをしてきたのは他でもないバチスタであったのだ。

彼はルーカスの取捨した情報を下に決断を下してきた。少なくとも、ここ十数年もの間。

その上、予想外の事態に混乱した精神に、更なる衝撃をぶつけられたことで、そんな些細な不自然にルーカスの思考が至ることはなかった。

ライアンの狙い通りという訳だ。

 

「これは反逆の証拠です閣下。バチスタ大将。いえ、トニー・ラレド・バチスタは起源国政府中枢の地位を私的に掠め取らんと画策していたのです」

「う、うむ…」

「この事実は広く喧伝し、奴の一味に陰謀の失敗を知らす必要があるでしょう。事の重大さから言って、執政官閣下にもお伝えし…」

「よい!」

 

ルーカスは思わずといった様子で若干声を張り上げ、ライアンを制止した。

それは、慌てた、ということもあるだろう。自らの陰謀が露見するかもしれない、ということで。

そして、同時に安堵によって精神の蓋が緩んでいたことも影響している。

どうやらライアンはルーカス(自身)の陰謀の方には気が付いていなさそうだ、と。

 

あり得ないことであるが、衰え、自らに都合の良い情報ばかりを耳にし続けてきたルーカスにとっては些細な不自然よりも自らの望む展開を連想し得る事実の方が何千倍も重要なのであった。

 

つまり、彼はこの場においてライアンは味方であると、誤認していたのだ。既に。

 

「このようなこと閣下のお耳に入れる必要もあるまい。よくある話だ。大袈裟に騒がずとも良い。これは私が処理しておくから、任せてくれないか?」

「構いませんが…よろしいので?」

「良い。…バチスタは牢獄か?」

「…いいえ閣下。大変申し上げにくいのですが、確保の際に彼は激しく抵抗し、その…」

 

察したルーカスはそうか。と明らかに安心した様な息を吐いた後、数度頷いてからライアンの肩を叩いた。

 

「ありがとう。君は国家の英雄だな」

「軍人として当然の義務を果たしたまでです」

「素晴らしい。…さて、辛気臭い話は一旦終わろう。総督も交え、明日の式典について聞こうじゃあないか」

 

わざとらしく話題を変え、ルーカスは総督執務室の扉へと歩み寄る。

ライアンはそれを追及することもなく、ただ笑顔で頷きながら彼の前へ出で、扉を開けるのだった。

 





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