代星-我らが母国はいかにして勝利したか、あるいは我らの祖国はいかにして滅びたか-   作:ライト鯖

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第四十九話 虚実の英雄

 

ルーカス・イワノヴィッチが狙撃された次の瞬間から始まったパニックによって狙撃犯の位置を特定することは出来ないかに思えた。

それこそが狙いであったのだが、しかし、全く何も突き止めることが出来なかった、では終われない。

 

体面のことではあるが、ライアン・マルドゥーンにとっては重要なことである。

反乱軍連中の詳細な計画は当然知る由もない。

故に彼等が群衆の中から狙撃したのか、或いは他の場所からかは判別が付かなかったのだ。

 

「サー!」

 

銃を構えながら周囲を見回していた兵の一人がライアンを呼び、掌を頭の横から伸ばすようにして南東、バルコニーの一角を指し示す。

見ると、小型の、不審なドローンがカメラドローンに紛れて飛行していた。

 

あれか?いや、分かり易すぎるし、何より銃器らしきモノは見当たらない。

 

ライアンは瞬時にドローンのいるのとは反対、南西方向に視線を向けた。

 

「あそこだ!」

 

ライアンの声に兵らは反応し、即座に狙いを南西へ向ける。

 

ライアンは少し離れた場所にあるビル、恐らくホテルだろう、の窓が一つ空いていることを見つけたのだ。

 

恐らくドローンはデコイ。

あえて不審なそれを飛ばすことでホテル方向から注意を逸らすための。

 

そう判断を下し、ライアンは叫ぶ。

 

「直ちにあのビルを封鎖しろ!!首府全域もだ!今より犬の一匹足りとも首府から出すことを許さん!!」

 

命令を受け、警護隊の兵達は直ちに各所へと連絡を取り始めるのだった。

 

 

青木祐輔は、気付けばそうした喧騒の中心にいた。

目の前には倒れる男。ルーカス・イワノヴィッチの身体があり、彼はこの、本来憎むべき男の救命措置を行なっていた。

 

「閣下!意識はありますか?!」

 

自分の口ではないかのように、勝手に言葉を発する。

彼の手は、赤い液体を口から溢れさせるルーカスが嘔血によって窒息せぬよう、気道確保の為に顎先拳上へと使われていた。

 

そして、祐輔の制服、その右腕は素肌となり、破れている。

その布は、ルーカスの胸辺りにあてがわれており、深緑の軍服に赤黒い血液が染み込み、どす黒く変色していた。

 

俺は何をしているんだ?こんなこと。

混乱する脳。そして、それでも動く身体とは別に自らの行動を振り返る冷静な彼。

其々が独立して駆動していた。

 

こいつは、宇宙大臣。総督府の政策責任者だろう。

憎むべき相手。

しかも、何で積極的に救命措置なんか。

何かあれば責任は俺に来るのに。

どうしてこんなバカな真似を。

 

思考は纏まらない。

理由などないからだ。

祐輔自身が納得出来るロジックは、彼が足を動かした瞬間、一つたりとも存在しなかったのだ。

 

ただ、目前に負傷者がいるという事実に、彼は跳ね飛ばされたように動き出していただけであった。

 

言うなれば、純粋な善意でしかなかった。

確かに、事前にギンペルから忠告を受けていた。

故に、他の者よりは僅かに心構えがあったことは無関係でらないだろう。

しかし、冷静に考えるなら名誉出身者の立場の不安定な彼が、いの一番に飛び出すことは得策でないことは明らかだ。

 

事前に心構えを持てていたなら、他の誰かが救命措置に向かってから続くべきであった。

責任は少なくとも分散されるし、祐輔一人に押し付け、他の者の尻尾として利用されることもない。

 

だが、彼は飛び出してしまった。

これまで、彼が犯してきた罪と、それによって摩耗した精神。

善良さなどとうに潰えたと自虐していた彼には、しかし残っていたのだ。

思わず人助けに走ってしまうような純粋な善性が。

"性善説"の信奉者が歓喜するだろう程に、他意も、打算もなく、反射的に、理由の追いつく暇もなく、ただ足だけが先に動いた。

 

「血が止まりません!止血をせねば!布か、紐でも構いません!何か!」

 

冷静さを取り戻した理性の一部は、どうにか混乱を収め、結論を下す。

少なくとも今更この行為を止めるわけには行かない。

それこそ反逆者にされてしまう。

生き残る手段はただ一つ。

どうにかこの独裁者の片割れを生かすことだ、と。

 

彼の声に応じ、間に合わせではあるが演壇にかかっていたクロスが破り取られ、あてがわれる。

 

パニックの会場、慌ただしく駆け回る軍人の隙間を縫い、救護班が到着。

祐輔からルーカスを引き継ぐ。

 

「出血が止まりません。それと、三十秒位前から呼びかけに反応が無くなりました」

「分かりました。ありがとう」

 

救護班は頷き、ルーカスを担架で運び出す。

そうして祐輔はポツンと未だ続く喧騒の中に一人、取り残されるのだった。

 

皮肉なことに、被支配層である祐輔のみが、この場においてはルーカス・イワノヴィッチの生命に最も関心を払っていた。

 

策謀の内実を知る者、或いは自らに責任の及ぶことを恐れる者。

或いは職務から下手人の発見の方に全力を尽くす者。

 

傍観者は、慌てふためくのみで大した役にも立たず、殆ど祐輔が救命措置を担いきった。

 

そこから更に数分が経ち、祐輔にとっては一瞬にも無限にも感じられたこの騒乱も一先ずの終わりを見せる。

 

市民の大多数は演説会場の敷地から逃げ出し、兵力は件のホテルに向かい、ルーカスの身柄は運ばれていった。

 

呆然とする祐輔の下に駆け寄る影が一つ。

 

「祐輔さ…少尉!」

 

樱花である。

彼女は瞳を薄く湿らせながら彼の下へと滑り込むようにしてかがみ込んだ。

 

「だ、大丈夫でしたか?」

「俺は大丈夫。何ともないよ」

「良かった…」

 

ホッと息を漏らした彼女だったが、直ぐにキッと口を結び、誰にも聞こえないよう小声で囁く。

 

「でもどうしてあんなことしたんですか…」

「あんなこと…?」

 

何のことかは分かっていたが祐輔はとぼけてみせる。

 

「大臣を助けたことです!危険なのは分かっていたでしょう?」

「うん。まあね…冷静に考えれば危ないよねえ」

 

アハハ、と頭をかく祐輔に、樱花は怒ったように口を曲げ、もう。と小さく漏らした。

 

「本当に心配したんですよ。…いいえ、今も心配です。もし、大臣に万が一があれば、祐輔さんは…」

「ごめん。ふざけてるわけじゃないんだ」

 

でも、と祐輔は続ける。

 

「あの時は無意識に動いたんだ。身体が勝手に。

何か思惑があったとかじゃなくてさ。

本当に、気が付いた時には大臣に俺の袖を捧げてたんだ」

 

破られた自らの右袖のあった場所に左手を当て、祐輔は樱花の目を見据える。

 

「ごめん。心配かけて。あとありがとう。心配してくれて」

 

本当に、ズルいですよ。と樱花は口の中で呟き、祐輔に手を差し出した。

 

「とりあえず、移動しましょう。ここにいる意味は無さそうですから」

「…そうだね。行こうか」

 

祐輔は彼女の手を取り、立ち上がる。

そして辺りの状況を漸く正確に認識するに至った。

目の前の状況に手一杯で、周囲の事など気に留めている猶予は無かったのだ。

 

豪奢な内装や煌びやかな装飾はパニックによって傷付いていた。

或いは無傷の場所やモノでも、不思議なことにそれが飾る対象のいなくなった無人の空間ではくすんで見える。

 

全体的に暗く光の失われたような情景に感じられ、別な場所に迷い込んだような錯覚さえ覚える。

爆破されたわけでもないのに、ただ人々のパニックを経験したのみであったが、それによって異なる事物となったかのようであった。

 

そんな演説会場を後にし、祐輔と樱花は端末に来ていた指示に従い基地へと戻るのだった。

 

 

統一暦243年(西暦2693年)7月7日

ルイス・プラネットでの混乱、その熱が冷めやらぬ頃、惑星ハヤブサでも炎が立ち昇っていた。

 

銀河連盟の臨時本部をも名乗っているこの惑星では、第十二星系で起きつつある政変とは別に、勝敏(かつとし)らを苦しめる騒乱が勃発していた。

 

今まで潜伏していた起源国軍残党が蜂起したのだ。

しかも、首都星京のある島と大陸を繫ぐ架橋やトンネルのある都市にて別個の部隊が連携して。

 

これにより、首都星京は孤島とされ、補給に著しい支障を来すこととなった。

とは言っても、空路は確保されている為、餓えることはない。

しかし、海底ケーブルは損傷し、通信と送電に大きな問題が発生していた。

幸い、島内に僅かながら発電施設がある為、病院等の必要な施設と最低限の政府機能は生きているが、市民生活には大きな影響が出ていた。

 

その上、蜂起の発生した都市では起源国軍による市民虐殺が発生しているとの報もあり、事態は一刻を争う様相となっている。

 

「何故今になって連中は…!」

 

勝敏は憤りを逃しきることが出来ず、机に拳を強く打ち付けた。

 

「くそっ!雅緂市は全域を押さえられてしまっているし…。一体狙いはなんなのだ」

 

まさか、と勝敏は背筋を冷たくさせる。

宇宙艦隊が此方に向かいつつあり、それと連動したのでは?と考えたのだ。

 

それならば突然の蜂起にも納得が行く。

だが、それは惑星ハヤブサが危機にあることを示す。

 

「基之を呼び戻す…?いや、間に合わんだろう…」

 

第一呼び戻せば全てが破綻しかねない。

何のために宇宙へ送り出したのか。

呼び戻すのであれば星系の防衛に回していれば良かったのだから。

しかし、それでは勝利は恐らく不可能。

無傷で幾度となく装備を整えて襲い来る起源国軍を打ち倒さねばならない絶望的な防衛戦を強いられるからだ。

 

故に、賭けだが、解放地を増やし、味方を、資源を、戦力を増加させる方策に出た。

 

つまり、八方塞がりに思えた。

だが、これは勝敏の杞憂に終わる。

この蜂起は究極的には計画されたモノではなかった。

無論、潜伏していた起源国軍人らは蜂起を考えていたが、このタイミングとなったのは数多の偶然による産物に過ぎなかったのだ。

 

起源民として"名誉起源民"であるハヤブサ市民を侮蔑し、嘲笑し、酷使し、差別し続けてきた彼等にハヤブサ市民の復讐の刃は向けられることとなり、起源民は社会経済的劣位に置かれている。

立場が正反対となったようなものだ。

 

そして、それを目にしながらも手出しすることの出来なかった潜伏兵士らは忸怩たる思いを募らせ続ける。

だが、我慢の限界は来るものだ。

一人の小隊長、その友人と家族は総督府時代に"職業訓練所"という名の収容所を運営していた角で、恨みを抱いていた元収容者に凄惨な目に遭わされた。

小隊長は、自らの犯してきた事を全て棚に上げ、怒りを燃やし、我慢の限界とばかりにハヤブサ臨時政府守備隊に対するテロ行為を実行。

 

潜伏起源国軍人や、復讐に走る市民による治安悪化に頭を悩ませていたハヤブサの治安機関は、此方も沸点を越えたのか全力を挙げてテロの実行犯を追い詰めにかかった。

 

そうして潜伏軍人らは存在を完全に明るみとされ、最早戦うしかなくなった。

 

こうして蜂起へと至り、それまでにどうにか策定されていた計画に基づき、起源国軍は行動を始め、そして現在、勝敏は首都を包囲されるに至っている、というわけである。

 

「第二師団は?」

「光川市で足止めをくらっているようです」

「くそっ。ではやはり、暫くは首都部隊で耐えるしか無さそうだな…」

 

やはり、悪手であると理解した上で…。

勝敏は迷っていた。

大悪手であることを理解していてもなお、惑星ハヤブサが再び起源国の手に落ちることを防ぐ確実な方策を撮るべきなのでは?と。

つまり、基之ら艦隊を呼び戻すこと、だ。

 

「せめて建造中の艦を動かせれば良かったんだが…」

 

嘆いても仕方のないことであるが、言わずにはいられない、といった様子だ。

勝敏ははあと息を吐き、とにかく、と指示を飛ばす。

 

「首都の部隊には橋を爆破させろ。現状無用の長物であるし、敵に道を提供するだけだ。

後で修復すれば良い」

 

一先ず時間稼ぎに打って出る。

 

しかし、と勝敏は逡巡を止めることは出来なかった。

そして、彼の迷いを嘲るかのようにして、鷹鸇としての戦略、その意味を理解しきれていない末端の者が狂騒に駆られ、無秩序に救援要請を基之らの艦隊に対し、放っていること等、今の彼は知る由もなかった。

 

だが、翌日これを知った勝敏は、内心僅かに胸を撫で下ろしたという。

自らの迷いに、強制的にである上、不味いことではあるが、終止符が打たれた故に。

そして、この難局で一瞬でも無責任に安堵してしまった彼を責める事など出来はしないだろう──。

 

 

この間、一人の人間が運命を決めていた。

アーノルド・マーカス。

元雅緂ゲットー、第5指定居住区の責任者を勤めていた男。

彼は、人道に対する罪を犯した者達の収容所から解放され、起源国軍人残党の幹部らに歓迎を受けた。

 

「是非、我々を指揮して頂きたい!」

 

大佐の階級を持つ彼は、起源国軍の階級で言えば、残党の誰よりも高位であったのだ。

そして、彼の噂は残党らに尾ひれがついて伝わっていた。

 

曰く、保安隊司令部が反逆者に襲撃された際、指揮系統が麻痺する中、迅速果断に指揮を掌握し、辣腕を奮っただとか、反逆者の蜂起に際し、雅緂ゲットーに連中を最後まで一兵足りとて侵入させることはなかった、だとかだ。

それ故に希望の象徴として担がれかけたのだ。

 

だが、マーカスは首を縦には振らなかった。

さりとて、暴走する彼等の前で首を横に振ることもしなかったが。

 

「少し考えさせてくれ。今は、収容生活で疲れてるんだ」

 

そう誤魔化したのだ。

 

「勿論でございます。閣下のためにお部屋も用意しました。熱いシャワーはいかがでしょう?」

 

当然のことだろうと納得した残党の隊長たる准佐はそう正にゴマすりといわんばかりに手を擦り合わせ部下に案内を命じる。

そしてシャワー室へ来た彼はその部下達に言った。

 

「ここは君らが制圧してて安全なのだろう?落ち着いてシャワーを浴びたいから一人にしてくれたまえ」

 

勿論、これは疑われなかった。

尾ひれのついた噂が彼への信頼を担保していたのは極めて皮肉であるが、それにより全く彼の言動は疑われることなかったのだ。

 

「では、我々は先程の場所でお待ちしております。お部屋にご案内致しますので」

「ああ、助かるよ」

 

それが起源国軍において彼の姿が確認された最後であった。

それどころか、銀河の歴史において、アーノルド・マーカスという名が登場するのは、あらゆる記録をひっくり返しても、ここで途切れる。

 

十年と少し後、彼とよく似た風貌をした初老の男性、恒星間世界の片隅において開かれた孤児院の責任者、"アルフレッド・マルス"という者の名が、とある地方新聞で確認されるが、それ以上の事は、一切確認されることはなく、銀河系宇宙からアーノルド・マーカスは消え去るのであった。

 

 

統一暦243年(西暦2693年)7月16日

 

そんな惑星ハヤブサの混乱とは別に、第十二星系も別種の騒乱状態であった。

ライアン・マルドゥーンもその騒乱に加わる一人となっていた。

 

何せ、目覚めてしまったからだ。

彼が。

2発の銃弾に身体を貫かれた筈の、ルーカス・イワノヴィッチ宇宙大臣が。

 

これは極めて、人によっては痛快な、人によっては不快極まる事態だろう。

彼等、起源国中枢の血と硝煙に染まった陰謀家達の迂遠かつ壮大な計画は、一つの、打算のない偶発的なる善意によって破壊されてしまったのだなら。

 

ライアン・マルドゥーンは執政官に連絡を取り、今後の方針を協議せんとしていた。

 

目を覚ましたルーカスからはどうやらライアンに対して抱きつつあった信頼も当然のごとく吹き飛ばされてしまったようで、しきりに恨み言を呟いているという。

もし、退院すれば、その足で赴き、自らの部下に排除を命じるやもしれないし、現状でも既に何処かから話が漏れ、ルーカスの手の者が動き出さないとも限らない。

そうなれば、ルーカスは、或いは彼の家族は破滅を迎えるだろう。

 

やきもきしたまま、ルーカス生存の報を受け、執政府が下した決定の伝えられる日を、恐々としながら彼はこの10日間を過ごしていた。

 

そうして、ついに間に合ったのだ。

まだ、確実ではないが、恐らく、ライアンは勝利した。

漸く、ここ数日以上取り戻せていなかった冷静さの戻ってくることをライアンは実感していた。

そして、迎え入れる、首都からの使者を。

 

「どうも閣下。私は本件に際して極秘裏に執政官閣下より全権を委ねられました"ジェリー"です」

 

フルネームを明かさず、それが本名かも分からなかったが、委任状は間違いなく本物であり、彼の付ける勲章等から功績も地位もある人物であるのは確かだった。

 

ライアンは恐らく情報部の誰かを寄越したのだろうと察し、丁重に部屋へと迎え入れる。

 

「ありがとうございます。執政官閣下の迅速なる対応と、貴方に感謝を」

「挨拶は結構です。ルーカスはどうです?」

 

ライアンが執務室のマイクのスイッチをオフにする前に"ジェリー"がそう話し始めたので、彼は思わず目を見開いてしまっていた。

 

「問題ありませんよ。不安なら消しても良いですがね」

 

つまるところ、最早隠し立てする意味もない、ということだろう。

この陰謀は何をおいても成功させるべきものに変わった、ということだ。

 

まあ、そうだろうな、と冷静になった脳の一部はそうライアンに告げる。

 

ルーカスの狂乱ぶりから言って、彼も病院を出れば最早なりふり構わなくなるだろう。

下手を打てば、内戦とは行かずとも小規模な武力衝突の危険も出てくるに違いない。

"銀河連盟"が暴れている現状、それは避けたい所、という訳だ。

 

「分かりました」

 

相手への信頼を示すため、ライアンは両手を一瞬挙げ、スイッチを切らない"フリ"をした。

実際は"ジェリー"の話す間に既に素早く切ってある。

 

"ジェリー"は十中八九執政官側なのだろうが、万が一もあり得るし、トカゲの尻尾にされても敵わない。

故に、記録を残すつもりはライアンには全くなかった。

 

「…それで、ルーカスは?」

「1週間以内に退院するでしょう。もしかすると3日後にでも…」

 

意味深な笑みを浮かべてから発されたジェリーの問に、ライアンは医療データの示されたホログラムを彼の側に表示させた。

 

「なるほど。…では、早速本題に入るべきですね。ライアン中将。貴方は台本を覚えるのは得意ですか?」

「モノによります。が、今は少々、自信を喪失しているところです」

「よろしい。では、君と君の部下を貸したまえ。私が原稿を諳んじる。君は、後ろで拍手の準備をしておけ」

 

小さく諒解の意を示してからライアンは尋ねる。

 

「今直ぐに向かわれるのですか?」

「こういうのは、早ければ早いほど良い」

 

そしてジェリーは極めて俊敏で、均整のとれた動きで踵を返す。

ルーカス・イワノヴィッチのいる病院へ向かうべく──。

 

 

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