代星-我らが母国はいかにして勝利したか、あるいは我らの祖国はいかにして滅びたか- 作:ライト鯖
〚来たれ、戦士よ。宙を駆ける解放の雄となれ。─銀河連盟宇宙軍〛
〚人員募集。銀河連盟宇宙軍は協力者を求めています。高待遇をお約束します〛
〚祖国防衛に尤も効果的、かつ確実足るは起源国の打倒。共に戦い、自由を取り戻そう〛
様々なタイプの宣伝文句がCMや電子広告、或いは古式ゆかしい紙のポスターに踊り、銀河連盟はあの手この手で人員を集める努力を重ねていた。
少しでも多様かつ、大量の人材を確保する為にも、形式を変えた宣伝が必要であったのだ。
努力の成果か、10万人を越える希望者が数週間の間に集まり、一先ず基之の求めていた戦力の拡充という目的の半分は達成された。
結局は星の防衛に繋がるのだ、と説明しても、壮大な話だ。
直ぐに呑み込み、それならば宇宙に出よう、と決断出来る者はそう多くはない。
英雄となった基之に請われたとあっても、やはり宇宙という途方もない空間に、遠大な目的で飛び出す、ということは大多数の人間にとっては無理難題とすら言える。
その上でリオ・グランデの人口規模はハヤブサ連邦よりも1.5倍程の4億と少しである事を考えると、10万人を越える人々が集った結果は、充分宣伝が成功した、と言って差し支えないであろう。
後は武器だな。
と、基之は後半分を達成する為に、この日もリオ・グランデ暫定連合政府との協議に臨んでいた。
「無論、我々も貴方方に協力は惜しみたくはない。ですが、民生に影響が出る事は避けたい」
基之は勿論です。と同意する。
「我々はそのような無理を言うつもりはありませんよ。むしろ、皆様の益になる提案をさせて頂きたい」
基之は依然、協力を乞う立場、という形式を維持している。
市民からの好感はあくまでリオ・グランデの解放を掲げたからこそ得られている所が比重として大きいこと。
そして、戦力的には基之らが圧倒しているとは言っても、現状、惑星を全土を掌握した暫定政府次第で、艦隊への補給に問題が出る状況下になったこと。
これらからパワーバランスは加盟協議の頃とは打って変わって対等と言える状態になっている故に、であった。
「まず、皆様は経済の再建を行いたいところかと思います」
「ええ。起源国は我々を利用した奴隷労働を前提とした搾取構造で経済を回しておりましたからな。あのようなシステムは維持できない。…仮に逃げ遅れた起源人共を我々のいた場所に押し込んだ所で人数が足りませんし」
基之は、彼等の合理性に感謝していた。
もしも、復讐心に燃える集団であったなら、正に起源人を奴隷としよう、等とぶち上げてもおかしくはなかっただろう。
そうなると、その点での対立は避けられなかったが、極めて単純な数字の比較を冷静に行える者達であった故に、一先ず対立の源泉足ることは無かったからだ。
「はい。それに、起源国は地球の失業者なんかを入植させ、その者達に職務を与える為、敢えてアナログな形式で官僚機構を整備していました。
これは名誉起源民とされていた市民の一部にも共通することですが、要するに意味のない役職や不要な人員が雇用されていた訳です」
その上で、と今回は会議に銀河連盟側の代表者の一人として参加している明子が引き取った。
「連中は私達大多数の名誉起源民から労働力を、星系から資源を搾取することで、生産活動に寄与しない者達の給与によって贖われる物資を補充し、実態以上の経済を演出していました」
リオ・グランデ側の代表者らも頷く。
「ええ。だからこそ、健全な形で経済を再建せねばならない」
基之はそこで、です。と指を立て、注目を集めた。
「問題となってくることがあります。起源民だけでなく、名誉起源民もアナログな形式を強要されていた為、不必要な位置にいる労働者が大量に存在してしまっています。
彼等を解雇してしまっては、失業率が悪化し、ひいては治安、そして、生産力にも悪影響を齎すでしょう」
ふむ、と代表者の一人は立派な口髭に手を当てつつ口を開く。
「だからといって雇用を維持しては企業も政府も無為に支出を増やすだけとなる。
此方も悪影響があるだろうな」
そこで、我々です。と基之はホログラムを起動させた。
「既に10万人の人員が銀河連盟軍へ加入してくれています。これはまだある程度増えるでしょう」
「こう言ってはなんですが、僅かとは言え空きを作ってくれた事は感謝していますよ」
初老の女性がそう苦笑し、他の者達も似たような反応を示す。
「ありがとうございます。しかし、ここからが重要です。軍事に変重する経済というのは不健康であることは言うまでもありませんよね。
しかし、今は特殊な状況です。
炙れる労働者の多くを一先ず、現在の職場で働かせ、そして、生産活動に寄与して貰うことが肝要となります」
バっと基之は腕を広げ、それに合わせてホログラムが映像を映し出す。
映像は起源国のデータベースから拝借し編集したモノで、建造中の宇宙戦艦を映し出していた。
「即ち、軍需工場です。戦艦を建造し、銃火器を生産し、レーションを作る。
戦艦はある程度鹵獲で賄えましたが、新造艦は必要です。他の軍需物資に至っては尚の事。
つまり、需要は我々にあります。これから更に拡大するでしょう」
暫定政府議長がなるほど、と唸る。
「資源は確かに我々の星系全体で見れば一部を除き有り余っている。
特に、運輸を掌握した今となってはね。─そうだろう?
と、なれば、一過性の需要に余っている人員を供給し、君等に売り付ける形を取れば一先ず破綻は避けられる目算は立つな」
「その通りです。そして、その間に経済再建を行うのです。軍需の人員は漸次削減しても問題はありません。
我々は次なる惑星へ向かうのですから」
つまり、基之の提案とは、銀河連盟軍の補給の一部をリオ・グランデには担ってもらい、リオ・グランデはそれによって得る金と、余る人員を一先ず雇用状態に置く事で安定化を図る、という取引であった。
そして、連盟が惑星を解放すればするほど軍需の供給は分散することになり、漸次、軍需産業は縮小するが、その間に経済再建を進めることで新たな雇用を生み出し、そこに削減された軍需産業の人員を配置していくことで、緩やかに起源国的軍事変重の経済体制を通常の経済状態へと戻していく為の方策でもある。
「双方に利点があるな。分かりました。その方向で行きましょう。…ところで、起源国の国営軍事会社や連中のお抱え企業が殆どですが、何処が運営するのでしょう。
…我々ですかな?メリットも無くはないので構いませんが、正直政府機構の整備が間に合っていないので…」
基之は「ご心配なく」と笑った。
「暫くは私達が管轄しても?」
「構いませんが…暫く、と仰ると?」
「運営してくれるだろう人間に心当たりがあるのですが、合流がもう少し先になりそうなので」
「ふむ…何れ民間に移行する、ということですかな」
「そうなりますね。ご心配ですか?」
「いいえ。貴方方の仲間が来て管理してくれると言うなら心強い。…では、お任せしても?」
基之は頷き、議長と握手を交わした。
「共により良い社会を築きましょう」
この後も、幾つかの小事項の確認が行われ、2時間ほど経ってから基之らは暫定政府ビルのエントランスホールにまで降りてきていた。
「付いてきてもらったのに大した話は殆どなくてすまない」
「気にしなくて良いよ。参加者にいた学者達と誼を結べたしね」
「ちゃっかりしてるなあ」
それなら良かった、と基之は笑うのだった。
人員の確保、兵器類の補充。
これらが叶ったと言っても全てが万事解決とはいかない。
言語の問題は幸いと言うべきか嘆くべきか、起源国が強要した共通語であり、公的な場でベーシックに用いられていた英語がある為、クリアではあった。
文化の違いもまた、起源国という多種多様な文化背景を持つ襲来者を経験している以上、強く気にする者はいない。これも、問題はなし。
では、何が問題か。
それは更にごく初歩の問題であった。
銀河連盟に参加した者達の多くは、元々レジスタンス活動に身を投じていた者達ではあるが、彼等に体系だった軍事教育の経験はない。
何ならレジスタンス活動もしていなかった完全な一般人もごく僅かにいる。
そして問題の本質は、ハヤブサ出身者も同様である、ということにあった。
ハヤブサ出身者はここまでの航程である程度は経験によって馴染んでいたが、まだ他人に教えられる段階ではない。
一応、両星系出身者共に、元軍人を抱えてはいるが、絶対数が不足している。
教練が必要であるのに教練が出来ないのだ。
基之自身とて軍人ではない。受けられるものなら受けたい程であった。
こればかりはどうしようもない、と基之は決断することになる。
同郷出身者で、大部分が鷹鸇発のメンバーであった今まではなあなあで済んでいた部分も、ここから先は通用しなくなるだろう。
となると、ここで規律を整えねばならない。
「それで、我々の元軍人を集めて教官にしたい、と」
これまではメリットの提示による対等な取引であったが、こればかりはお願いをするしかなく、基之はまたも、暫定政府の下を訪ねることになっていた。
「ええ。どうか、お願い出来ないでしょうか」
「まあ…断る理由もないですし構いませんよ。
恩人のお願いの一つも聞かない恥知らずにこんな事でなりたくはないですしね」
若干の驚きと困惑こそ表出させたが、議長は快諾。
こうして、余り時間をかけ過ぎることも出来ないため、2ヶ月弱の即席軍事教育を銀河連盟軍はリオ・グランデの元軍人達から施される事となるのであった。
基之も混ざって軍事について始めて体系立てて学ぶ事となった頃─。
第十二星系 ルイス・プラネット 首都 ニューサンフランシスコ
青木祐輔は疲れからかフラフラとした足取りで自室へと向かっていた。
「あ、祐輔さん!」
そこに駆け寄ってくるのは、祐輔にとっては懐かしさすら感じる樱花である。
「やあ。なんか久しぶりだね〜。
樱花は祐輔の疲れ切った様子に直ぐ気付き、気遣う表情となる。
「まだ2日ぶりですよ。…だいぶ、お疲れのようですね」
「色々あったからねえ〜。メディアにはもみくちゃにされたし、何か"平等派"上の人が来てやる会議に参加させられたし…街では声かけられたかと思えば嫌味を囁く連中も周りにいるしで」
休まる時が無かったよ、と大きく息を吐く祐輔。
お疲れ様です。と樱花は苦笑しつつ、基之の側に寄った。
「今日はお休みですか?」
「うん。…久方ぶりのね…」
「ゆっくり休まれて下さい。部屋までご一緒しますよ」
「いや、良いよ。忙しいでしょ。君も」
全く貴方は、と樱花は呆れつつ、基之の背中に手を当てた。
祐輔の胸に光る勲章が微かに揺れ、光を失ったようにわずかにくすんで見える。
その一瞬、祐輔の胸の奥に潜む複雑さを垣間見た気がして、樱花の微笑はかすかに翳った。
「…私は貴方の護衛ですからね」
「それに、フラフラしてますよ」
祐輔は、あははと誤魔化すように笑ってから、ごめん。と観念する。
「それじゃあ、お願いしようかな…」
「はい。じゃ、行きましょうか」
祐輔を支えながら歩く樱花、その後ろ姿をひっそりと物陰から覗き見る影。
「"英雄"様のゴシップ…高く売れそうだな。復讐派辺りに売れば面白そうだ」
クククッと下衆な笑い声を口の中で押し殺しながらニヤけるとある曹長。
その彼の背後を、更なる人影が抑えていた。
「確かに、あることないこと書き連ねた最低かつ最高な記事が見れそうだな」
「…!?こ、これはギンペル大佐殿…!」
慌てて敬礼をした下衆な曹長の肩に、彼、アベル・ギンペル大佐は手を置き、囁いた。
「私に売りたまえ」
「…そ、その…」
アベルの威圧感に慄く曹長。
アベルは、タダとは言わんよ?と懐から札束を取り出した。
「…な…」
「価格はこれに加えて、君の将来と行こうじゃないか」
「そ、それはつまり…」
「出世コースから外れたくはないだろう?」
「は…はい。大佐殿…」
曹長は大佐の見る前でデータを消去させられ、かつ、端末の送信履歴等も全てチェックされることとなった。
そうして下衆な曹長を追い払ってから、アベルは誰にも見られぬ笑みを浮かべるのだった。
強に対する最高の抑えにもなる上、"平等派"の切り札。彼等に恩を売るネタには欠かない二人の立場。
様々な理由からアベルは寄る小蝿をひっそりと払っていた。
しかし、それらの利用価値だけが彼の行動理由ではない。異なる事由も間違いなくそこにはあった。それがどの程度の割合を占めているかは、本人も知らぬことではあったが。
私のような薄汚い人間に、ああも純朴な表情を向けられてはな。
少し前、宇宙航行中に初めて出会った時のことを思い出し、アベルは無意識に笑みを零すのだった。
「さて、"平等派"にはもう少し力を付けて貰いたいところだ」
しかし、即座に無機質な計算によって利用価値を測る、金龍会のボスとしての仮面に戻る。
そして、祐輔らの存在、それを利用した策略へと思考はシフトして行く。
「"平等派"は数でも武力でも"復讐派"には敵わない。だからこそ、民衆人気は高くなって貰わねばな」
その後に続くアベルの真意は、彼の脳裏にのみ走る。
起源国よ。争い合え。
争い合って、疲弊し、国家としての弱体を曝け出せ。
そして──。
私達は、起源国から、いや、"地球人"から"独立"する。