代星-我らが母国はいかにして勝利したか、あるいは我らの祖国はいかにして滅びたか-   作:ライト鯖

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第五十五話 1パーセク半の陰謀

 

太陽系から凡そ4.2光年。

ワープ技術が確立してから初めて人類の進出した星域。

プロキシマ・ケンタウリと、その軌道を公転する惑星、ケンタウリbを中心とした、人類初の太陽系外植民地。

 

この星系においては、ケンタウリbに建設された二つの実験コロニーと、完全人工天体として建設が進められた、直径10km、奥行き100kmの、此方も二つある宇宙コロニーにて人類が暮らしている。

 

計四つの居住地区によって構成されているこの地は、起源国において、プロキシマ・ケンタウリ弁務官区として、形式上自治が認められている、第一星系総督府よりも遥か前から存在する彼の国の植民地である。

 

太陽系の惑星や衛星へ無理にコロニーを建設せずとも、ワープ技術が完成した以上、もっと住み良い惑星に作れば良い、と手始めに選ばれたのがケンタウリbであった。

だが、水こそあったが、プロキシマ・ケンタウリが連星の一つである影響か、とてもではないが、可住惑星とは言い難かった。

事前調査でそれが確定した後、起源国は新たなコロニー技術の実験場、且つ、初の太陽系外居住地という宣伝を目的としてケンタウリbを利用することとした。

 

そして、実験都市が建設され、ついでとばかりに宇宙コロニーの建造も行われた。

何れも採算が取れないとして、2番目が建設された後、計画は凍結。

 

そうして開発の放棄されたこの星系は、資源採集と、政争に敗れた者達が行き着く左遷先として定着していく。

 

しかし、その頃には既に、ケンタウリで生まれた子供達が社会の構成員、その主軸を占めるようにもなっていた。

彼等は、一度も行ったことすらない地球への忠誠を求められることに不満を抱き、都合良く資源を奪われ、左遷先として人のゴミ箱として利用される事に怒りを抱いた。

 

そんなケンタウリ社会で秘密裏に影響力を拡大した運動があった。

それこそが、プロキシマ・ケンタウリ独立運動である。

 

表立って活動をすることは出来ない。

起源国の弾圧に合うことは目に見えている。

それ故に地下活動として、だが、地球に思い入れ等ない"起源国人"の一部は"起源国人"から脱しようと動き始めたのだ。

 

そして──。

 

プロキシマ・ケンタウリ弁務官区A号コロニー

 

漆黒の宙に浮かぶ、星々から見れば極めて矮小な。

しかし、人の目には余りに巨大なそのコロニーは、プロキシマ・ケンタウリ弁務官区の首府である。

宇宙港建設に多大なコストがかかるケンタウリbコロニーよりも、交通の便が良い宇宙コロニーが中心地となるのは必然であっただろう。

 

その人造天体の内部に張り巡らされた都市。

針山の如く建ち並ぶビル群の中でも頭一つ飛び抜けている巨大なビルディング。

そこの最上階にて、複数の男女。

若いとは言い難い者が大半を占めており、全員が何処かくたびれたような様相、─表情のみならず─をしている。

 

その中で、人工日照に照らされる大きな窓、その真ん前に陣取る、恐らく集団のトップらしき男。

彼は、他の面々にも聞こえるように設定した状態で、秘匿回線による通話を行なっていた。

無論、この会議室の防諜は事前に厳しく検査されている為、盗聴の心配はない。

 

「なるほど。では"平等派"と"復讐派"にはそのまま争い合って頂くとしよう。…それで?叛徒はどうするつもりだ?」

『そっちにも少しばかり手を貸してやろうかと。

その方が我々の共通目的に合致していませんか?』

「肯定する。では、そちらは任せるよ」

『ええ。…で、そちらはどうです?』

 

男は僅かに顔を翳らせるが、しかし彼は声色においては何ら抑揚を付けることなく、淡々と応えてみせる。

 

「今から正に、といった所だ。君のおかげでもあるが、叛徒の活躍もあって機会が来たんだ。逃す手はない」

『そうですか。幸運を祈ります。…そして、確実にお願いします。好機というのは一瞬を逃せば、直ぐに逸してしまうものですから』

「重々承知しているとも。…では、次の定期報告で」

『ええ。失礼します』

 

代表の男、浅黒い肌に白髪の混じり始めた疲労を感じさせる髪を短く整えた容貌、実年齢の割に引き締まった体型をスーツで包む、プロキシマ・ケンタウリ弁務官区高等弁務官のフェレティ・トゥイオアネアは通信を終えると、参加者一同へ目を向けた。

 

「さて、私の協力者からの通信は皆も聞いてくれたことだと思う。…これを聞かせたのは他でもない。

皆にも協力して欲しいからだ」

 

さあ、ここからは半分賭けだ。

フェレティは心中では冷や汗を滲ませる心境であったが、表は堂々とした姿を崩さず、参加者達を見渡す。

 

「共に、人類の支配者となる賭けをしないか?」

 

フェレティは唖然とする参加者達に、挑戦的とも、好戦的とも見える笑みを浮かべながら事の経緯をかいつまんで説明するのだった。

 

事の始まりは、フェレティが月面コロニー統合政務官という月面コロニー全てを統括する地位から政争に敗北し、この捨てられた星系、プロキシマ・ケンタウリ高等弁務官へ左遷された所からである。

当時は統一戦争、つまり、起源国による各星系征服直前であった為、彼の地位は今の同じ肩書よりも巨大なモノであった。

 

そんな彼は、この僻地で一生を終えることになるだろう事実に耐えられなかった。

だが、身悶えした所で現実は変わらない。

せめて、この高位職者の流刑地におけるお山の大将の立場だけは維持したい。

 

野心すらも死に絶えかけていた彼はそんなことを考えながら日々を過ごしていたが、ある時、プロキシマ・ケンタウリ独立運動の存在を知った。

 

その瞬間は、下らない思想と鼻で笑ったが、しかし、統一戦争の勃発、起源国の大勝利。

続く、名誉の扱いを巡る派閥対立の激化。

太陽系軍事力の相対的低下。

 

種々の要因が重なっていった時、まだ完全には死滅していなかった彼の野心は、独立運動をピースの一つとして、奇抜なデザインに最後の一欠片として加えた。

 

「私はこの閑職で終わりたくはない。…君はプロキシマ・ケンタウリの独立を目指したい」

「そうですね。それが何か?殆ど無関係でしょう。我々は。下手をすれば対立関係にある」

「我々の目的は並立し得る。…もし、そう言ったら?」

 

接触したのは、今は亡き独立運動の当時の指導者。

彼は、フェレティの考えに興味を抱いた。

そして、彼等は利害の一致から協調関係を取ることとした。

 

「この小さな星系弁務官区が独立国家としてやっていくには何か明確な強みが必要だ。…或いは、起源国にとってのウィークポイントを抑えるか」

「つまり…?」

「独立を果たすには結局私の望みを叶えるのが一番、ということさ」

「全人類のフィクサー、等という大言壮語を、ですか」

「その通り。それ以外にこの弱小星系が生き残る道があるか?」

「…………。その為に、起源国の派閥争いを激化させ、内戦を起こす…」

 

そうだ。とフェレティは独立運動の指導者に頷いて見せる。

 

「名誉が大規模な反乱も起こしてくれるとありがたいな。起源国が弱体化すればするほど、我々の相対的な力が増す。

そして、連中が分裂をすれば、我々が食い込む余地が生まれる」

「仲介者として…か」

「その通り。仲介者として振る舞う事ができるし、彼等は少しでも味方を多くしたがるだろう。両方の勢力が我々を当てにするはずだ。ましてや反乱も頻発していれば尚の事だろうな」

 

奇抜、且つ、ギャンブル性の高い構想。

しかし、実際問題として人口、経済、資源、あらゆる面から中小以下の星系であるプロキシマ・ケンタウリが独立する為には、賭けをせねばならないだろう。

独立運動の指導者は、決断したのだった。

 

 

そして、現在。

余りに遠大な、そして、夢物語のような計画に呆然とする会議の参加者に向かってフェレティは言う。

 

「君達は…このまま"ここ"で終わりたいか?」

 

参加者達はチラチラと互いに視線を向き合いつつも、肩を落とす。

彼等のある種のウィークポイントを突かれた故に。

 

「ある者は派閥争いに敗北し、ある者は責任を押し付けられ、ある者は嫉妬から来る虚偽の密告で、ある者は些細な失敗であったが、上司が理不尽であったが故に」

 

フェレティは机を指でコツコツと叩き、続ける。

 

「この弁務官区へ飛ばされてきた。出世コースから放り出された君達はここで朽ちるだけだ。

そして、次々送られてくる同じ不幸を背負う者達から、残されたなけなしの地位を守る為の小さな政争に明け暮れる日々」

 

本当に、とフェレティは一人一人に目線を合わせていきながら、言う。

 

「このままここで終わって良いのか?どうせ終わりなら、私と共に賭けをしてみないか?」

 

ニヤリ、と不敵な笑顔を作り、フェレティは指を鳴らした。

 

「成功報酬は人類圏のフィクサー。少なくとも、独立国家の大臣クラス。失敗すれば、死だ。…起源国という国家で、政治生命は既に絶たれている我々が、物理的な生命を失うかどうか、でしかない。

チップは極めて安価だ。何せ、この国で政治的地位の無い人間の命は、安いものだからな」

 

「対してリターンは、想像もつかない程の権勢だ」

 

参加者達は、誰一人として言葉を発しなかった。

軽々に発言出来る空気感でないことは無論であるが、余りに突飛な話であり、まだ呑み込みきれていなかったからでもある。

 

「…正直、夢物語にしか聞こえません」

 

怒るでもなくフェレティは小さく首肯をして見せた。

 

「だろうな。私もだよ。だが、可能性はゼロじゃない。限りなく低いわけでもない。勝ち目はある」

「無謀でしょう…」

 

誰かの最初の発言によって多少は空気が緩和されたのか、別の者の本音が漏れる。

 

「無謀かもな。だが、前よりは勝ち目が大きくなっている。だから、君達に話したんだ。

"銀河連盟"。彼等は我々にとって都合が良い」

「…?」

「…!」

 

左遷されたと言っても、理由は様々、能力があろうと理不尽に送られることもある。

優秀な一部の者達はフェレティの理屈を理解しつつあった。

 

「起源国を二つに割らずとも、名誉達が2つ目の国家となってくれた。…つまり、内戦を起こすよりも簡単だ。戦争を長引かせるだけで良い」

 

戦争を長引かせるのも、起源国を一定弱体化させれば十分叶うだろう。と、フェレティは自信を見せる。

 

「協力者達は故に今、起源国軍を主な対象として派閥争いが激化させるべく、"金龍会"を率い、或いは各派閥内でイデオロギーごっこに邁進している」

「金龍会が叛乱軍へ横流ししているという噂も…?」

「この為だ」

 

面々は今度はしっかりと顔を見合わせ始めた。

まさか、自分達の知らぬ所、水面下で、しかも、自分達の今の住処を出発点として、巨大な陰謀が動いているとは思いもしていなかったのだ。

 

「銀河連盟がこの先狙う星系には幾つか目星が付く。

して、ある程度の所で戦線が停滞し戦争が長期化した場合、彼等は、ある資源が枯渇することになるだろう」

 

演出として用意しておいた通りにプロジェクターが起動し、複数の星系、その主星を映し出す。

 

「クラウディオ鉱…」

 

弁務官区資源局長がまさか、と目を見開きつつ呟いた。

 

「そう、彼等が直近に戦略的に狙うだろう星系はクラウディオ鉱の産出量が少ない。

つまり、戦争が長期化すれば、ワープに必要なクラウディオ鉱が枯渇することになるだろう」

 

対して、と起源国旗がモニターへ表示される。

 

「起源国はボーキサイトを始めとした鉱物資源の幾つか、そして、既に星系総督府間の交易を前提としたシステムが各星系総督府で構築されている故に、食料不足も一部で発生することが予想されている」

 

おお、困った。とフェレティはわざとらしく腕を広げて見せる。

 

「これでは戦争を続けられない!…ここでもし、"中立地帯"として我々が仲介役をすれば?」

「………交戦勢力同士の間接的な貿易、ですか」

「両方が乗ってくれるのか?」

 

乗るしかないでしょう。とフェレティは笑う。

 

「起源国は他国を認めない。…つまり、少なくとも勝ち目のある限り戦争を続けるでしょう」

「そして、銀河連盟の側は、大義名分はともかくとしても、起源国が戦争を止めぬ以上、抵抗するしかない」

 

だからこそ、です。とフェレティは言う。

 

「我々が交易を仲介し、金を取り、両者にとって無視できぬ存在となるでしょう。

戦争が長期化すればする程、我々は彼等への影響力を大きく出来る。

稼いだ金で国債を買ってやったりも可能となるでしょうからね」

「なるほど…それなら、確かに…」

「戦争を続けさせ、裏で経済を牛耳っていく、と…なるほど。フィクサー、という所以か」

 

参加者達の野心には、再び火が付き始めていた。

大言壮語。奇抜。低い勝率。

しかし、既に失っている彼等にとって、乗るに値する賭けである、と彼等の多くは認識しつつあったのだ。

 

「しかし」

 

一人が挙手し、尋ねる。

 

「独立勢力は何故貴方と協力してきたのです?確かに独立を維持するには貴方の構想が最適かもしれませんが、構想だけ盗んで貴方を処分するやり方もあったでしょう?」

「確かに、ケンタウリへの愛国心等ではない人間を恐らく国家のトップに据えることになるのは明らかですものね」

 

それはもっと簡単な話だよ。とフェレティは苦笑した。

 

「私はまだ一応は形式上、政府の幹部と言える位置にいるんだ。色々と無理は効く。彼等の任地を多少は操作することも可能だからね。

それに、一番の理由は、彼等の安全の為だよ。

私は形式的な捜査以外は行っていないんだ」

 

書類上は、と文書をモニターへ出す。

 

「独立運動は壊滅状態、というわけさ。

彼等が好き勝手動くフィールドを整える助力、そして、彼等を逮捕しない人間であること。

これこそが私と手を結ぶメリットというわけ」

 

その見返りが、と今度は組織図をモニターへ出し、フェレティは参加者全員に向けて放った。

 

「政府高官の地位、というわけさ!」

 

君達の名前もあるぞ。と言われ参加者達は組織図に自らの存在を見出す。

それは、魅力的な輝きを放っているように彼等には思えた。

今からでは到底望めない筈の地位。─大臣だとか、長官だとかが付いている職─。

しかも、構想が実現すれば、名前だけの職ではなく、全人類に影響を与えられる可能性のある、地位なのだ。

 

「さあ、どうする?全ては君達の掌の中にある」

 

無論、とフェレティは付け加えることを忘れない。

 

「強制ではない。嫌なら退出してもらって構わないよ。他言無用なのは勿論だがね。

ああ、大丈夫。私は君達を信頼しているからね。

…だが、もし、外にこの話が漏れることあれば、私が逮捕されるよりも早く、君達本人か、或いは家族か、が不幸な事故に遭うことになるだけだ」

 

結局、その脅迫があってもなお、「もうそんな情熱は抱けない」、「私は堅実に生きることにしたのでね」だとかで数人が退出を決めた。

だが、当然彼等は誓約をする。

他言はしない、と。

そして、此方は同意を取ったわけではなく、彼等と、その家族にはこの後から秘密の監視が付くこととなる。

 

だが、八割以上の参加者、弁務官区の局長達は賛同し、この一世一代、銀河を巻き込んだギャンブルへ生命というチップを差し出すことを決めたのであった。

 

野心か、起源国への復讐心か、理由は十色。

しかしてここに、新たな結束が誕生したのである。

 

 

「そうですか。上手く行きましたか。それは良かった。…では、後はタイミングですね。

…ええ、そろそろ銀河連盟はこっちへくる頃合いでしょうね。

第十二星系に加えて、後一つか二つを連中が抑えた時点で、始めましょう。それまでは、互いにこれからも、準備を怠らぬように…」

 

アベル・ギンペルは彼の故郷に居座る野心家達との通信を終えると、不満半分、期待半分といった心持ちで立ち上がった。

 

ケンタウリ社会への愛着からではなく、ただただ野心や復讐からケンタウリの独立を利用せんとする者達に対する嫌悪、それらが独立後ケンタウリ国家の枢要を占めることへの不満。

しかし同時に、それらを呑み込んだ上で、漸く成し遂げられる可能性の生まれてきた、独立の夢、それに対する期待。

これらが混ざり合っているのだ。

 

そうだ。奴らの力は必要だ。

例え左遷先だろうと私達にとっては政府。

彼等が我々を追わないだけで十分過ぎるほどなんだ。

"金龍会"の影響力も増しているとは言え、大半は自分の本来の目的を知らない汚職者ばかり。

つまるところ、真に、ある種の信頼を置けるのは彼等しかいないのも事実。

 

割り切るしかない。

頭を切り替え、アベルは外面の良いギンペル大佐、の笑顔を顔に貼り付け、部下達の待つ広間へと向かうのだった。

 

「さあ、ルイス・プラネットへ戻ろうか」

 

 

 

 

 

 

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