代星-我らが母国はいかにして勝利したか、あるいは我らの祖国はいかにして滅びたか-   作:ライト鯖

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第六十話 ノースポイントII

 

「よっしゃあ!」

 

板堂の歓喜。

 

スクリーンモニターに映し出された艦外の光景。

つまり、敵旗艦と思わしき艦が炎に包まれる様を見、叫んだのだ。

オペレーター達も作戦の成功を悟り、安堵の息、続き、歓喜の声を漏らす。

 

だが、基之は弛緩しかけた空気を引き締める。

 

「敵はまだ残っている!油断するな!この隙に此方は陣形を完成させるんだ」

 

そうして攻撃型の、相手を貫く意志を見せる槍のような陣形へと組み直った銀河連盟艦隊は混乱する起源国艦隊へと突撃を敢行する。

 

起源国艦隊はよく抵抗したが、司令官を喪った状況下で、間髪入れず攻勢をかけられたことで指揮統制を立て直すことは能わず、徐々にその数を減らしていくのみであった。

 

 

「司令官代理!指示を!」

 

起源国艦隊の阿鼻叫喚は凄まじいものであり、最早、事実を掴むことすら困難であった。

 

「わ、分かっている!」

 

何人目か分からない艦隊司令官代理となったボイス少佐は臨時旗艦となった"アルハンゲリスク"にて頭を抱えつつも錯綜する情報を整理しようとしていた。

 

「とにかく、纏って撤退だ!こんな状況では──」

 

無情にも"アルハンゲリスク"の艦橋部は乱戦の中、レーザーキャノンによって貫かれ、彼の言葉は空気を振動させることはなく、真空へと散る。

 

「ほ、本星に連絡がいっている!耐えれば増援が──」

 

史中尉は辛うじて指示を飛ばしたが、直後、メインカメラの損傷により、艦橋を上部に出すことによる肉眼戦闘に切り替えていたことが災いし、単座戦闘機の餌食となった。

ルイス・プラネットを飛び立った時には40隻弱あった第一艦隊は最早風前の灯であり、残るは10隻を割っていた。

その内の数隻は何とか船として動けてはいるものの、戦艦としては死んでいる。

 

「指示を!指示を!曹長!」

 

「兵長!命令を!」

 

最早まともな連絡手段もなく、其々の艦毎に臨時司令官が生まれる始末であり、彼らもまた手足を動かすこと叶わず、散っていった。

 

そして、明滅する命の光は消え、銀河連盟艦隊の放つ均一なる光のみが小惑星帯に残る人工物の存在を誇示するのだった。

 

「勝ったぞ!基之!」

 

板堂が目を輝かせながら基之を見る。

基之は苦笑しつつ、頷き、どうぞ、とばかりに掌を向けた。

 

「よっしゃああ!」

 

板堂に合わせ、他の乗員達も歓喜を上げる。

少なくとも、交戦と相成った敵艦隊は壊滅し、一区切り付いたことを示すに板堂の素直さは基之にとってもメリハリとして丁度よいモノだった。

 

「上手く行ったね」

「ああ。直ぐに次の準備を始めなきゃだけどな」

 

言いつつ基之は手元のディスプレイを操作し、次の行動に向けて各方面への指令書を作成していく。

 

「次はルイス・プラネット」

「そうしたいところだけど、多分まだ艦隊は残ってると思うんだ。要衝にしては数が少なすぎる」

「じゃあ艦隊戦だね」

「うん。だから、明子にも頼みたいことがある」

「え、やだよ」

「まだ何も言ってないんだけど」

 

クスクスと笑いながら明子は基之を軽く小突いた。

 

「なら報酬はあるんでしょうね」

「ルイス・プラネットで何か買うよ」

「言ったね?」

 

基之も明子も、勝利は勝利として、束の間の弛緩を味わっていた。

 

「それで?何をすれば良いの?」

「まだ動きはする、って敵艦があるだろ?」

「まあ幾らかはそうでしょうね」

「そいつをAIに操作させて無人爆撃艦として運用したい」

「ああ、前やったやつのね」

「そう。再利用」

 

それなら直ぐだね。と明子もディスプレイに視線を落とすのだった。

 

 

翌日。

時間としては日を跨いだが、実際は半日と経たない程度の後、基之達は艦隊を星系の首府星、ルイス・プラネットの姿を臨む星域へとたどり着いていた。

 

まだ稼働可能な起源国艦艇から起源国兵の遺体や生存者を近隣の観測基地を占拠し、安置、並びに拘禁。

同時並行で、明子製作のプログラムをインストールし、それらの艦艇をオートで航行可能とした。

 

「レーダーに反応あり、起源国艦隊と思われます!」

 

第一艦隊と星域とは位置関係としてはルイス・プラネットを挟んで真反対の星域にて巡視を行なっていた第二艦隊は、銀河連盟艦隊急襲の報を受けてから急行していたが、第一艦隊からの通信が完全途絶したことから方針を転換。

近隣惑星基地へ直ちに寄港。

臨時の補給と戦闘の為の補修を行い、改めて出撃し、銀河連盟艦隊と相対することとした。

 

ルイス・プラネット星域会戦は、銀河連盟にとっては連戦。

第二艦隊は万全に近い状態で始まるのだった。

 

 

二つの艦隊がそれぞれ船頭と船尾を向けるルイス・プラネット。

その地上、首都 ニューサンフランシスコは総督府政庁のとあるフロアでは、宇宙での緊迫感とは無縁な会議が行われていた。

 

「まさかこのようなことになろうとは…」

 

平等派の大尉がそう項垂れる。

第一艦隊の生存率。

その余りの低さに暗澹たる思いを抱かざるを得なかったのだ。

正確な数値は不明ながらも、銀河連盟に落とされた観測基地の入港記録や、システムを落とされる以前に送信された生命反応等なら推算された数値は、僅か3%という数字を導き出していたのだ。

そして、観測艦による報告、つまり、惨憺たる戦場の様子、からしてその数値が更に低下することはあっても増加することはないだろうと結論付けられていたのだ。

 

その報告を行う役目を負った大尉は、故にこそ、血の気のない土色の顔を引き攣らせていた。

 

第十二星系における平等派の領袖、フレデリック・デ・バッケル駐留軍司令官中将はしかし、動じる様子もなくそれを聞き届けていた。

 

「了解した。報告をありがとう」

 

バッケル中将は大尉に着席を促しつつ、口を開く。

 

「ヴォスルーは残念だったが、第二艦隊は演習においてヴォスルー艦隊と互角だ。疲弊した銀河連盟艦隊には早々簡単に負けはしない。その点での心配はせんでも良いだろう

むしろ、これは平等派にとっての好機だ」

 

幾人かの出席者、無論、報告をした大尉も含めて、怪訝な目をバッケルに向けざるを得なかった。

こいつは何を言っているのだ、と。

青木祐輔という英雄を、神輿を失ったというのに、好機などとは、と。

 

だが、バッケルはそんな視線に気付いてか気付かずか、滔々と話し続ける。

 

「この軍の苦境の原因には過激な差別政策が根底にあることは明らかだ。

第三星系が転覆し、第二星系、そしてこの第十二星系へと叛乱軍は至っている。

人々はどれだけ情報統制しようとも薄々感じている筈だ。解放の可能性を」

 

となれば、とバッケルは言う。

 

「差別政策によって名誉起源民を叛乱軍支持へと流れさせるだけだ。そして星系総督府は不安定となる」

 

これが事実として証明される必要はない、と得意気にバッケルは笑みを浮かべる。

 

「そう印象付けさせ、"復讐派"を抑えるのだ。

そして──」

「閣下!」

 

そこまで演説の続いた所で、出席者の一人が立ち上がり、それを遮った。

最早我慢の限界といった様相である。

 

「閣下。今は現実逃避をしている時ではないでしょう。青木祐輔の生死如何によっては──いえ、恐らく彼は…」

 

ん?とバッケルは訝しむように唸ってから、ああ、と得心した、とばかりに手を打った。

 

「君は、ああ、ここにいる者何人かは、か?

まだ聞いていないのだな」

「青木祐輔大尉は死んでいないよ」

 

報告者の大尉も、苦言を呈した者も、その他何人かも、一様に目を見張っていた。

 

「今、なんと?」

「青木祐輔大尉は生きている、と言ったんだ」

「無事だったのですか?!いや、しかし、いつ…?そのような報告は聞いていませんが…」

「少し前だよ。すまないね。伝え忘れていたようだ。まあ、心配は要らない。重傷ではあるが、一、二週間もすれば原隊復帰が可能になるだろうとの事だ」

 

驚愕を隠せなかった者達は、思わぬ情報に混乱しつつ、そして若干の釈然としない想いを抱きながらも、そういうことならば、とバッケルの演説、その続きを拝聴することとした。

 

「さっき言いかけたのは復讐派を抑え、そして、青木祐輔を使い、恭順こそが幸福を掴み取る最善だと名誉に植え付ける、ということだ」

「叛乱分子も起源国に逆らい戦う道の苦難はよく承知していることだろう。

故に、慰撫政策で以て彼らを統合することは容易だろう」

 

政庁での会議、派閥争いとイデオロギー的闘争の産物。

それと宇宙で繰り広げられている会戦はお互い無縁であるかのように、全く異なる論理で、全く異なる世界を見ていた。

 

ニューサンフランシスコでは復讐派も平等派も、今日を見ずに明日の陰謀をこそ見、起源国の勝利等には関心を払ってはいなかった。

無論、それは派閥闘争に目が眩んでいる故、という側面もあるが、根底にあるのは、起源国が最終的には勝利するだろうという根拠のない妄信こそが最も強く影響している。

対して起源国第二艦隊は眼前の脅威に対する勝利をのみ考えており、そこは一時的ではあっても派閥は無縁となっていた。

 

彼らは例え起源国の最終的な勝利を信じていたとしても、ここで負ければ自分達は死ぬのだ。

だからこそ、目前の勝敗こそが全てであった。

 

 

ルイス・プラネット星域

銀河連盟第二艦隊旗艦 ヘルシンキ

 

「敵分艦隊、急速接近…!」

「これは…全艦、接近する艦に砲撃を集中させつつ散開!!あれは無人爆弾だ!」

 

第二艦隊総司令は腕を大きく振り、焦りを動きに滲ませながらも冷静さを意識した声色で指示を飛ばす。

戦訓は起源国内で共有されている。

初戦で幾らか逃げおおせた起源国叛乱鎮圧特別派遣軍がもたらした情報によって、無人の艦艇を用いた体当たり攻撃も知られているのだ。

 

無人艦の不自然なまでに均一かつ、正確な動きで起源国艦隊に接近する様子から第二艦隊総司令は見抜いたのである。

 

起源国艦隊の集中砲火によって、数隻の爆弾は次々途上で破壊され、爆炎を宙域にて発生させる。

 

「良し!全艦油断するな!まだあるかもしれん!」

 

総司令は直ぐ様僅かに崩さざるを得なかった陣形再編に動く。

しかし、次なる一手は既に打たれていた。

 

爆炎は、無重力空間においては、広く拡散しにくい。

球状に燃え上がり、ゆっくりと消え行く。

その間、宙域の一角には通行不可能な地点が幾つか発生することになるわけだ。

 

その隙間を縫うようにして単座戦闘機編隊が起源国艦隊へと急迫する。

 

「しまっ!」

 

単座戦闘機は機動力を僅かに犠牲としつつも、特別に換装された小型核を投射。

数隻の艦艇に直撃する。

 

「!…フクオカ、フィウメ、カナンガ損傷!被害規模不明!」

「っ!此方も単座戦闘機を出せ!」

 

総司令は薄々と察していた。

後手と回った時点で恐らく銀河連盟艦隊の掌の上なのだろう、と。

だが、他に取り得る手段が殆どないのだ。

愚策をあえて打ったところでいなされるのみだろう。

それはリオ・グランデにおける会戦が証明している。

故に、堅実な対応策を打ち出すしか彼にはできなかったのだ。

 

無論、想像を超える奇策を打てれば文句はないのだろう。

だが、彼にはそうした独創的な発想という能力が欠けていた。

この宇宙戦争黎明期とも言えるこの時代において、最も必要で、かつ最も希少な能力を彼は持ち合わせなかったのだ。

 

不運、とも言い難いだろう。

他の誰であっても、9割方は同じ結果を生むことになったであろう。

 

無人爆弾の意図が、ただ艦隊を狙っているだけだと誤認した時点で、彼の堅実さは意味を失ってしまっていたのだ。

 

 

「滞留する爆炎を利用した塹壕と、戦艦は通れずとも単座戦闘機は通れることを利用した奇襲」

 

そして、と基之は命令を飛ばす。

それは光信号で以て、起源国の観測艦に偽装した小型艦経由で"分艦隊"にも伝わる。

 

これまで戦域から遠く離れていた10隻弱の分艦隊は急加速し、一気に起源国艦隊のレーダーにその姿を現させる。

 

 

「敵増援、此方には向かわず、ワシントン・ムーンへ真っ直ぐに!」

「基地狙いか?!」

 

艦隊同士が戦っている間、基地は航宙戦力を持たない。

故に、対宙兵器で対抗するのみであるのだが、銀河連盟は容赦なく基地へミサイルやレーザーの雨を降らせ、飽和攻撃で以て基地の対宙能力を越えて損傷を与えていく。

 

「不味い…このままでは…!」

 

敵、つまり銀河連盟の意図は艦隊総司令にとって明白であった。

つまり、惑星を守備する最後の宇宙防衛戦力と言える衛星基地を破壊すれば、航宙戦力が銀河連盟の本隊と戦っている故に、無防備を晒すこととなるルイス・プラネットへ一方的な攻撃が分艦隊は可能となる。

だからこそ、基地をむざむざ見捨ててはならない。

そう起源国艦隊に思わせることで戦力の分散、或いは狙いを変えさせる。

そうでなくとも、迷わせ、判断を鈍らせる事になれば良い。

それが彼らの狙いなのだと、気付いていた。

 

故に、彼は笑った。

 

「ルイス・プラネットには"あれ"がある」

 

だから、と自信たっぷりな様子で前を見据えた。

 

「私の目は眩まない!」

 

第二艦隊は基地を攻撃する分艦隊には目もくれず、目の前の銀河連盟本隊にのみ注力を続ける。

彼は先例をよく研究していた。

しかし、優位を取り戻すことに必死になり、そして、今は優位を取り戻したことで見逃していたモノがあることなど、彼は想像もしていなかった。

 

第十二星系に入ってからというもの、銀河連盟艦隊はある兵器を使っていなかった。

艦隊総司令の脳にも、知識としてその存在はあり、リオ・グランデでの戦訓もあった。

 

だが、第十二星系で一度も使用されず、そして、他の対処によって疲弊させられた今もなっては、警戒から無意識に外れていた。

 

「…?…!レーダー、使用不能!通信もです!」

「何?………!まさか、EMPか?!」

「恐らくその様です!新たに発生させられた爆炎によって敵艦隊数隻の捕捉が困難となりました!」

 

EMPミサイル。

強力な電磁パルスを発することのみを目的とした妨害用兵器と言えるその存在が突如として現れ、総司令は思考を一瞬乱される。

 

「爆炎に隠れて奇襲するつもりやもしれん!全艦、再び散開しろ」

 

だが彼は持ち直す。

いや、持ち直したつもりになった。

 

正面で身を隠すための爆発を起こされたことも相まり、相対的に背後の、彼に取っては無意味な、しかし、銀河連盟からすると知る由もない情報故に、意味を成す戦略に勤しんでいる分艦隊に対する注意は、疎かになっていた。

 

起源国艦隊は陣形を崩した代わりに、銀河連盟艦隊本隊全ての姿を捉えていた。

 

「良し!このまま──」

 

ガクン、と大きく船体が揺れ、続いて、彼の後背から重低音が振動と共にやって来る。

 

「は─?」

「ワシントン・ムーン基地を襲撃していたはずの分艦隊が背後から攻撃を!」

「EMPの真の狙いは──!」

 

時既に遅し、である。

レーダーが使用不能となった隙に、月面基地を狙っていた分艦隊は、基地の対宙兵器によって多少損害を受けることを前提にUターン状に反転し、背後から起源国艦隊を狙ったのだ。

 

こうして趨勢は決した。

制宙権は、銀河連盟が獲得することになったのだ。

 

「いやあちょっと焦ったね」

「どうも敵はルイス・プラネットに隠し玉を持ってるっぽいな。考えてて良かったよ、プランC」

「新兵器かしらね」

「戦術か兵器か。何れにせよ衛星基地を見捨てても最悪分艦隊程度なら脅威にならない。

そういう類の何かしらがあるのだろう。警戒が必要だな」

 

起源国と銀河連盟は再び、そして、この戦争において最も長期間に渡る地上戦へと突入するのであった。

 

 

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