代星-我らが母国はいかにして勝利したか、あるいは我らの祖国はいかにして滅びたか-   作:ライト鯖

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第六十一話 沈黙の大陸

 

銀河連盟艦隊はルイス・プラネットの大気圏へと突入し、第十二星系総督府の解放作戦へと入る。

 

首府への直接降下も案としては挙がったが、首府や周辺の防空体制は強力であることが判明し、余計な被害を産まない為にも防御の薄い場所への上陸降下が決定された。

 

最も防御の薄い場所。

それは、自由合衆国の首都 ワシントンD.E(エリダヌス特別区)がかつて存在したニューアメリカ大陸であった。

 

核の炎で焼き尽くされ、人のみならず、あらゆる生命の兆候が消え去ったこの大陸には、レジスタンスが抵抗拠点として利用しないよう定期的に巡回する部隊が僅かに駐留するのみであり、明確な穴となっていた。

 

しかし、穴であり続けることには当然相応の理由もある。

レジスタンスが抵抗拠点としないために除染をせずに放置し続けているのだ。

無論、命を削れば拠点とすることは全く不可能ではないので巡回はされているが、汚染を無くす、ではなく無くならないようにすることに重きの置かれた処置が取られており、投下当時よりは多少マシではあるものの、汚染水や汚染物を放置し、水は時折上空から撒くなどしている為、今でも健康被害を生むには充分である。

それ故、大した戦力は置かれていない。

 

放射能が濃いことを事前測定で理解した基之は直ちに除染を行うことを決定し、物資を掻き集める。

 

そうして、大気圏へ降下し、ニューサンフランシスコのあるディスティニア大陸の対岸に当たるニューアメリカ大陸の一区画へ除染剤をばらまきつつ降り立った。

 

まず行ったのは除染作業と、拠点の構築であった。

極小さな港町。

大陸の端に当たるここすらも惨状としか形容しかねるものであった。

街、などは存在せず、廃墟と瓦礫が散らばり、ガイガーカウンターは常に危険を示す警告音を発し続けている。

 

生き物の影はなく、まだボロキレのような服の跡を纏った白骨死体が廃墟に横たわっている等、最初の探索に出たチームは精神に不調を来す程であった。

また、無人機が映し出した大陸の全体状況には、基之始め、基幹要員も声を失った。

 

ワシントンD.Eのあった場所には何も、そう文字通り何一つとして、そこに都市のあった痕跡は無くなっていた。

 

他の爆心地となった地域は同じようなものであり、中性子爆弾の放射能被害を主に受けた地域には、未だに、死肉を喰らう野生動物もなく、放射能に耐え抜いた、或いは外から運ばれてきた植物の種子に付随していた微生物によって分解されるを待つのみの死体が大量に転がっている。

 

「悪魔…」

 

起源国によって生み出された惨状。

彼等に対する評価。この誰かから漏れ出た言葉を訂正する者も、否定する者も出よう筈が無かった。

 

「…すまない。今全ての遺体に処置することは出来ない。だが、必ず、君等の仇を打つよ」

 

だから、と合掌し、基之は呟く。

数年前に起源国が名誉の戦意を折るべく流し、視聴させられた映像。

あれすらもある程度取捨された映像であったと知った基之は、深い怒りと全身を駆け抜ける不快感、嫌悪感と共に、絞り出す。

 

「君達の故郷を、祖国を貸してくれ」

 

キッとニューサンフランシスコのある方向を睨みつける。

 

「連中を引きずり落として、起源国の旗ではなく、彼等の旗を掲げよう。一刻も早く」

「「応!」」

 

皮肉なことに、残虐に対する怒りは、憎悪はこれまでになく銀河連盟軍の想いを一つにさせていた。

リオ・グランデ、ハヤブサ。

各々の独立、自由の為の戦い。

その目的を、一時的にせよ凌駕する、強い、強い、怒り。

負の感情が、彼等を何よりも、纏めてしまったのだった。

 

旗艦ハルキマス含む艦隊の半数は最低限の整備を終えた後、直ぐ様飛び立った。

大陸への攻勢作戦である。

とは言っても、冷静さを失っているわけではない。

先ずは敵情視察というところである。

防宙能力は非常に高いことは判明しているが、果たして大気圏内からの侵攻には、という点を見極める為の攻勢だ。

残る半数は拠点防衛とニューアメリカ大陸の制圧が任となっている。

 

「ディスティニア大陸、見えてきました!」

「よし。主砲準備。単座戦闘機も出ておけ」

「はい!」

 

それから数秒遅れて、レーダーが敵影を捉え、警告をけたたましいサイレンで報せた。

 

「敵、来ました!」

「数は?いや、まず何で来たんだ…?まだ宇宙戦艦が?」

 

敵影が戦闘機の類ではないことを知った基之は、怪訝そうに眉を寄せ、オペレーターの分析を待つ。

 

「…詳細は不明ですが、星海(シンハイ)級航宙戦艦と同程度の質量かと!」

「小型戦艦か…?」

「あ…更に小さいかもしれません!ただ、数が…我が艦隊と同数近いです!」

「何?!何処にそんな戦力を隠し持っていた…?」

 

やがて、その正体は直接メインモニターへと映し出されることとなる。

それは、一般的な航宙戦力である宇宙戦艦とは全く異なる見目をしていた。

丸みを帯びた船頭と、滑空の為なのだろうか翼のような機構が両端から伸びている。

そして、艦の上部に位置するだろう天面にはエンジンの噴射口もなく、コクピットが艦の内奥に埋め込まれている様子もなく、艦の表層部に大きな窓も確認出来た。

 

 

「何だあれは…?宇宙戦艦、なのか…?」

「ですが、形状が余りに…」

「正体が分からずとも敵であることに変わりはない!全艦、主砲、斉射!」

 

驚愕に包まれつつも、基之は兎にも角にもと戦闘開始と、先制攻撃を命じた。

 

起源国軍の正体不明艦隊もまた、レーザーキャノンの斉射を開始する。

宇宙空間の戦闘と異なり、両者の距離は十数キロであり、レーザーも命中率は遥かに高まっている。

銀河連盟、起源国両者共にいくつかの艦が火を噴いた。

 

「…何だ。存外…」

 

大したことのだろうか。

基之の脳にそんな思考が過った瞬間だった。

 

起源国艦隊は重力圏下に置ける航宙戦力の常識からは考えられないほど軽快な動きを見せ始めた。

航空機程ではないが、銀河連盟側では到底だし得ない速度で散開し、銀河連盟艦隊の外縁を囲むような陣形へと変わる。

 

銀河連盟艦隊は即座に前進を停止することも出来ず、そのまま起源国艦隊の陣へと突入させられてしまう。

 

「不味い…!単座戦闘機を…!」

 

単座戦闘機の編隊が空を舞い、起源国艦隊を狙う。

しかし、起源国艦隊の方からも航空機が飛び出し、単座戦闘機編隊の動きを阻止した。

 

 

 

「あれって飛行機じゃねえか?!」

 

単座戦闘機のパイロットである笛戸 襍太(てきど そうた)は、起源国艦隊から飛び出した航空機の姿を見、驚愕を隠せなかった。

無重力圏下での戦闘が基本となり、大気圏内での戦闘等、起源国軍がレジスタンスを一方的に弾圧する際の戦闘程度である為、お役御免となっていた筈の、重力圏でしか戦えない航空機。

 

まさか、そんなものを目にするとは思っていなかったのだ。

 

「いや、不味い!」

 

笛戸は反射で素早く操縦桿を引き上げ、急上昇をさせる。

 

ほんの一瞬遅れて、機銃とそれを追うようにして起源国航空機が彼の後方を掠めて行った。

 

元々起源国は他国の軍事力を甘く見ていた為、宇宙戦闘も大気圏内での戦闘もこなせる戦闘機のみを開発していた。

大気圏内での性能は、それに特化した通常の航空機に一枚劣っており、一定程度苦戦はしたが、最終的に人類統一を成し遂げたことで、最早そうでない航空機を生産する意味は無くなった。

大気圏内での戦闘はレジスタンスに対する一方的な攻撃をするのみであり、大した性能を必要としなかったからだ。

 

だが、今、銀河連盟の前にはその大気圏内に特化した戦闘機が飛んでいる。

 

つまり、銀河連盟軍航空隊は想定外のピンチに立たされたのだ。

 

笛戸の目の前で味方機が炎に包まれる。

 

「っ…!」

 

全力で操縦桿を操り、どうにか逃げに徹するものの、反撃は出来ない。

 

「くそっ。何で今更こんな…!」

 

どうしようもない憤りを吐き出しながら、彼は自らの命を繋ぐべく、飛び続けるのだった。

 

 

基之は、航空隊が大気圏内仕様であることを知ると同時、正体不明艦隊の詳細にも推測が付いていた。

 

「まさかあれは…浮遊航空母艦と浮遊航空戦艦ってことか…?!」

 

大気圏内での航宙戦力と対するのみを想定して建造していたのか?。

いや、余りに早すぎるだろう。1年だとかが経っていたなら分かるが。

何故、こんなに早くこの局面を想定していたかのような兵器が…?。

 

基之は敵の意図を、艦の正体に至ってもなお掴むことができず、混乱が収まることは無かった。

 

「だが、単座戦闘機達のおかげで敵艦隊も味方を撃たないよう、俺達に対する斉射を避けている。

今の内にこの包囲を突破するぞ!」

 

銀河連盟艦隊単座戦闘機部隊は、起源国艦隊から出でた航空機編隊に対して極めて劣勢であり、損害も膨らんでいた。

しかし、敵艦を直接狙いに行く方針が功を奏した。

敵は、自らを防衛するには大ぶりな攻撃しか出来ない艦にのみ頼ることは出来ず、戦闘機を出さざるを得なくなったのだ。

そうなると、味方を巻き込む包囲を利用した集中砲火を行うに躊躇いが生じる。

 

どうにか基之達は命を繋いだのだ。

 

「しかし、もしあれが大気圏内専用の航空艦なのだとしたら、大気圏内での戦闘能力は宇宙戦艦に勝るのだろうな…」

 

打開策もない以上、手詰まりでもあった──。

 

 

同時刻。

ニューサンフランシスコ

 

第十二星系総督府保安隊総司令ライアン・マルドゥーン大将は、地球から長らくの"出張"に来ているという客人を饗していた。

 

「カルミネ・ソルデットCEO。此方には随分長く滞在されているようですね」

「ええ。良い商機を嗅ぎ取りましてね」

「ほう。良ければお教え願えませんかな。後学のためにも第一線のビジネスマンの視点も知っておきたい」

「尋問の始まり、というわけですか」

 

ティーカップを置きながらカルミネは冗談めかして尋ねたが、ライアンの方はニコリと微笑みつつも否定の言葉は出さず、軽く右掌を上に向け、とぼけるジェスチャーを取るのみだった。

 

「まあ、良いでしょう。…そうですね。我が社はスペース・ロボティクスが有名ではありますが、実は艦船の建造も行っていましてね」

「存じていますよ。ウチにも何隻か探査船だかを納入していましたね」

「ええ。観測船を1ダース程」

 

カルミネは余裕を演習するべく再びティーカップを手に取り、まだ熱いままの紅茶を口に運ぶ。

 

そして、ライアンはカルミネがふう、と息を吐いたところを見計らい、話の続きを目線と手の僅かな動きで促した。

 

「…総督府ではどうも全く新しいタイプの艦船を建造されているようですね?」

「耳の良い事だ。何処で?」

「財界という巨大な口に戸を建てるなど不可能です。小耳に挟んだんですよ」

 

肩を竦める動作をライアンは見せ、苦笑する。

 

「厄介なものだ」

「必要な事です。何せ、大金の香りを貴方方は直ぐに隠そうとなさるのですから」

「ふむ…そうかもしれないな」

「さて、我が社にも一枚噛ませて頂けないかと、今日は伺ったのですがね」

 

ライアンはカルミネの話に納得したのか、或いは表面上理解したふりをしているのか、それを見抜くことは困難な程に無表情に、しかし、鷹揚に頷いて見せた。

 

「随分と積極的だ」

「勿論、皆様に得もありますよ。ええ、保障致しますとも」

「ほう?」

「話は変わりますが、閣下は最近何か欲しい物等はありますか?ご家族とも離れておられるようですし、プレゼント等は迷われるでしょう」

「おいおい。腕に輪をかけられたいのか?」

 

言われ、今度はカルミネが肩を竦めてみせる。

 

「今のは冗談です。しかし、我々は他社より安く請け負います。我が社のノウハウにかかればコストカットなど容易い」

 

ライアンはティーカップを、ぬるくなった自らの紅茶を啜り、悪いが、と微笑した。

 

「もうプロジェクトは最終段階なんだ。

それに、今作っているのは宇宙船じゃあない」

「宇宙船ではない?…となると、まさか、海を走る船を?」

 

これは想定外であったのだろう、素を僅かに漏らしつつカルミネは尋ねた。

 

「いいや。海ではない。同じ青い場所だがね」

「空…?しかし、何のために…?」

「保安隊管轄の兵器、と言えば分かるかな」

「………。航宙戦力の保持は保安隊には許可されていませんな」

 

ライアンは小さく頷く。

 

「その通りだ。我々は同じ軍ではあるが、駐留軍を上回る力を持つことは許されていない。

だが、防空を航宙戦力にのみ頼ることはリスクでもあると常々思っていたのだよ」

 

言いつつ、ライアンは手元のディスプレイを巨大化させ、カルミネの前へと移動させた。

 

「これは…?」

「今、正に我が新兵器の戦っている様さ」

 

カルミネは目を見開き、ライアンを凝視する。

 

「宜しいのですか?機密なのでしょう。こいつは」

「貴方は我が国にとっての重要な"ビジネスパートナー"ですから」  

 

カルミネは食い入るように画面を見やる。

現在の様子、という事はつまり、相手は──。

 

「叛乱が激化しつつある中、万が一駐留軍が首府を留守にすることがあった場合、保安隊が最も重要な戦力となる。

なればこそ、万全を期すべきだと執政官閣下の許可を頂いたうえで実験的に建艦していたのさ」

 

ライアンの語った所は事実ではある。

しかし、半分程しかその実態を説明していない。

実際は派閥闘争が深く絡んでいるのだ。

"復讐派"に明確と所属しているわけではないが、友人の多いライアン・マルドゥーン保安隊司令。

"平等派"のフレデリック・デ・バッケル第十二星系駐留軍司令中将。

そして、トレイス・チャン総督。

総督は派閥には属していないものの、平等派との関係が深い。イデオロギー的なものではなく、利益的な関係ではあるが、復讐派にとっては望ましくない環境である。

 

そして、復讐派は平等派に総督府を、そしてその防衛を実態として委ねざるを得ない状況に不満を覚えていた。

故にこそ、承認されたのである。

明らかにレジスタンス鎮圧には過大な、未だ銀河連盟が蜂起していない時期から進んでいた、"仮想敵の曖昧な"大気圏内兵器。

 

こうした内実を語る理由はライアンにはない。

当然だ。恥を、弱みを自ら語るバカはいないだろう。

 

そんな実態を知る由もないカルミネは内心の焦りを表面には全く出さず、儀礼的な笑みでライアンの解説に応える。

恐らく思考が冷静さを取り戻せばこの歪さに気が付くだろうが、現況においてそれは困難であった。

 

「慧眼ですね」

「世辞は良いさ。結局、あの艦隊しか生産も間に合わなかった。

リオ・グランデの地上兵には感謝だな。もう少し早く来られていたら実証実験すら出来ない所だったよ」

 

楽しげに語るライアンの手前に浮かぶスクリーンから流れる映像は、カルミネにとっては衝撃的であった。

 

「銀河連盟艦隊が包囲されている…?」

「そう。大気圏内戦力はこの為にこそあるのさ!航宙戦力以上の機動を発揮出来る」

「…凄まじいですね。本当に慧眼をお持ちのようだ」

 

ニヤリ、とライアンは微笑する。

 

「さて、ミスター・ソルデット」

「!」

「今お話しした通り、この艦隊はまだまだ途上だ。貴方方のロボティクス事業であれば参入の余地はあるかと思いますよ」

 

わざとらしい丁寧な口調。

カルミネは汗を拭いたい衝動を抑えつつ、同じく慇懃な態度で以て返す。

 

「それは大変喜ばしい。お安くしますよ」

「ははは。カルミネ・ソルデット。金はどうだって良いんだよ。条件はただ一つ」

「条件、ですか」

 

一瞬の沈黙。

それは室内に殆ど完全な静寂をもたらした。

カルミネのティーカップから立ち昇る湯気が唯一この部屋で動いていた。

 

「分かっているだろう?」

「なんのことでしょうね」

「私が何も知らないと思わないことだ」

 

カルミネは両手を広げて演技がかった動きで応える。

 

「何のことか分かりませんがね。何か問題があると言うなら取り調べられてはいかがですかね」

「経済界に無用の疑心を広めたくはないんだよ。

運が良いな。君がもし、くだらない木っ端企業の人間ならここではなく地下にいたところだ」

 

カルミネは苦笑し、息を吐きながら首を振った。

 

「どうも、私はあらぬ嫌疑にかけられているようだ。…まあ、良いでしょう。その条件とやらは分かりませんがね。社内の調査でもしてみますよ」

 

貼り付けた笑顔で、ライアンは立ち上がったカルミネに言う。

 

「調査はお早く。カルミネ・ソルデットCEO。

決断も、可能な限り、ね」

 

そうしてカルミネは両脇を保安隊員に挟まれたまま、ビルの出口までまるで連行されるかのようにして誘導された。

 

「やあ、どうも。ご苦労さま」

 

皮肉をこめて言い捨て、カルミネは車に乗り込むのだった。

 

 

 

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