代星-我らが母国はいかにして勝利したか、あるいは我らの祖国はいかにして滅びたか-   作:ライト鯖

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第六十四話 堕天

 

僅かに時を遡り、"FSFL"によるニューサンフランシスコ基地襲撃が発生する数時間前。

 

「止まれ!」

 

腕章の付いた腕をこれ見よがしに振り回しながら簡易的な検問所で人々を足止めする、最近導入されたばかりのゴーグル型端末を頭へ装着した保安隊員の前には30人程の列が生まれていた。

 

街中であってもこうした気まぐれは良くある。

レジスタンス捜索、テロ警戒、様々な口実でゲリラ的に街の道路がランダムに封鎖されることは日常茶飯事であり、それに重要な意味があるのか、無いのかは殆どの人々にとって大した関心事ではない。

ただぶつかってしまった時には、無事にやり過ごせることを祈るしかない不運なイベントなのである。

 

ベビーカーを押す家政婦のアメリもこの"イベント"に巻き込まれていた。

 

「次!」

 

呼ばれる前に身分証、IDカードの準備を済ませておかねば場合によっては暴行を受けることもある為、彼女は素早く、しかし丁寧に保安隊員にIDカードを差し出す。

ゴーグル型端末は視界に捉えたIDカードや人物の顔などに反応し情報をそのまま映し出す装置だ。

単に顔情報だけでも充分なのだが、100%の精度ではない、ことを言い訳に"名誉起源民"イビりの為だけにIDの提出を義務付けているのである。

 

検問を行う保安隊員の隣にはもう1人隊員がおり、周囲を威嚇するようにして銃を見せびらかしてもいる。

 

「何処に向かってる」

「職場です…この先の(デン)氏の邸宅で家政婦をさせていただいております…」

「……ベビーカーのカバーを開けろ」

 

IDの情報から相手が確実に"名誉起源民"であると認めるやいなや、保安隊員は不躾な視線をアメリに向けた。

 

アメリがベビーカーのカバーを開けると、保安隊員は中を覗き込む。

そこにはウトウトと寝ぼけた様子の赤子が座っている。

 

「可愛いな」

「はい…」

 

赤子には"名誉起源民"を示すバッヂが付いておらず、なおかつゴーグル型端末に搭載されたAIが直近の監視カメラの映像などから分析し、"起源民"であると表示した為、保安隊員は顔を綻ばせ、赤子に慈しむ視線を向けるのだった。

 

「ケガ等させないように。行け」

「ありがとうございます」

「次!」

 

アメリが検問所を抜けると、背後からはアメリに対するのとは別人かのような丁寧な声色が届く。

 

「あ、これはこれは、お待たせして大変申し訳ありません。テロリストが潜んでいるという通報があったものでして。IDは結構でございますとも。ええ。ミスター・アルジュンのお住まいのお近くとはつゆ知らず」

「大変失礼を致しました。どうぞお気を付けて」という媚びるような謝罪から数秒後、肩を怒らせた不機嫌を顔から噴出させている恰幅の良い男が足早に、従者らしき人間を連れてアメリを追い越して行った。

 

もし、アメリがベビーカーを押していなければ恐らく短気な起源民、ミスター・アルジュンは彼女を突き飛ばすなりしていただろう。

しかし、後背でそのベビーカーに乗るのは起源民であると知っていた故に彼は彼女を避けて行ったのであった。

 

ミスター・アルジュンは2つ目の曲がり角を左に曲がったが、アメリはその正反対、右へと曲がり、入り組んだ道へと入る。

 

「通り抜けられたか。良かった」

「まさか丁度検問が始まるとはな。急げ、5分押してるぞ」

 

先んじて検問を通過、或いは抜け道、という名の不法侵入を含めたアクロバットを駆使して辿り着いた彼女の仲間達が迷路の先で待ち構えていた。

 

「よーしよし。良い子だ」

 

仲間の男の一人が寝てしまった赤子が起きて泣き出さないよう慎重にベビーカーから出す。

 

その隙にベビーカーのシーツの下に隠していた金属反応を遮断する特殊加工された箱を開け、各々の武器を取り出す。

 

「悪いね。弾はあんまり運べなかったよ」

「仕方ないさ。しかし、検問も考えようによっちゃチャンスかもな」

 

一人はそうニヤリ、と笑った。

 

「確かに、ニューサンフランシスコ基地の連中をおびき出すのが目的だもんな」

「上手く殺さずに撃てればあいつが応援を呼ぶはずだ」

「でもその場合は近くの駐在所じゃないか?」

「その間に駐在所を襲えば、そっちの戦力が少なくなってるだろ?」

 

ああ、とアメリは納得したように頷いた。

 

「そうなれば駐在所の連中はさっさと基地から応援を呼びそうだね」

「そういうことだ」

「なーる。なら、やってやりますか」

 

こうして彼女らは来た道を戻り、検問所を襲うのだった。

 

銃弾が飛び交い、列に並ぶ人々は蜘蛛の子を散らすようにして去っていく。

検問の1人は即死。

もう1人は、彼女らの中で最も狙撃の腕が良いボブに足を撃ち抜かれ、道へと倒れ込んだ。

 

即座に異常を検知した端末が駐在所への緊急連絡チャネルを開く。

 

「て、敵襲…!」

 

そこまで言わせれば充分であった。

端末を破壊しないように、胴体、心臓があるだろう位置をアメリが撃ち抜く。

 

後はシステムの生きている端末が位置情報を送信し、応援が駆け付けることだろう。

 

「さて、じゃあ裏道使って駐在所目指すぞ」

「この媚売の近くに悪戯程度だが、こいつを置いとこう」

 

仲間の1人はそう言って、遠隔操作の可能な飛行の為のプロペラ等はベビーカーに入れるために除去した超小型機銃付きドローンを媚売保安隊員の近くへと設置した。

 

「ほんの一分かそこらかもしれんが、一瞬は見えない敵と戦っているって誤認してくれるだろう」

 

時間稼ぎの準備も終え、アメリ達は最終目的、"FSFL"によるニューサンフランシスコ基地襲撃における本隊の負担を減らすべく、駐在所へ向かうのだった。

 

そして、現在。

ニューサンフランシスコ基地で、至る所から響く爆発音や銃声に囲まれながら、ジョン・アレンとジェラルド・ターレスは地下フロアを駆け下りていた。

 

「良し!やはり敵が少ない!皆がよくやってくれているんだろう」

 

ジェラルドは味方を鼓舞し続けながら自身も正面へ機銃をぶっ放し続けている。

 

「ジョン!時間はどうだ?!」

「5分の遅れだ!」

「最高だな!大隊長にぶん殴られちまう!」

「はっは!俺の場合左遷かもな!」

 

ジョークを叫びつつ、二人は目指す。

"ウリエル"、銀河連盟を苦しめる炎の待つ場へと。

彼等はまだ、この時点では知らない。

 

銀河連盟が丁度、同じタイミングで作戦を開始していたことを。

巡り巡り彼等の行為が、基之達を救うかことになるかは、この先に待つ"結果"に全てがかかっていた。

 

「だが、ここが格納庫に通じるフロアだ」

「あと一歩ってとこだな」

「…!」

 

装着している端末に表示された情報を見たジョンは、一瞬後ろを振り返る。

 

「どうした?」

「七番隊がやられた。敵が後ろから来るかもしれん」

「マジかよ…急ぐぞ、お前達!」

 

仲間達の何人かは即座に後背を警戒する体勢を取り、先を急ぐ。

 

「見えた!」

 

表示によれば格納庫に通じているシャッターを彼等は視界に捉えることに成功した。

 

「足を止めるな!」

 

後十数メートルという所まで来たジェラルドは手榴弾のピンを抜き、投げ飛ばす。

廊下を僅かに振動させると共に、威力を絞ってある手榴弾はシャッターを完全破壊こそしていなかったが、ネジ曲がり、殆ど機能を喪失していた。

 

「行くぞ!」

 

体当たりでトドメをさし、シャッター、だった金属片を巨大な盾に見立て、雪崩込むようにして突入した。

 

ジェラルドはゴロゴロと床を転がり、直ぐ様膝立ちで銃を構える。

 

しかし、敵はいない。

もぬけの殻、であった。

 

「どうやら随分基地の戦力は減ってたみたいだな」

 

ジョンのホっとしたようなため息。

外の仲間達が上手く撹乱をしてくれているのだろう、とジェラルドも僅かに警戒を緩める。

 

そして、自らの横に聳え立つようにして鎮座する巨体へ目を向けた。

広いその空間には、十数機はあるだろう巨影が静かに並んでいる。

 

「こいつらが…」

「"ウリエル"って奴らしいな」

「幾つあるんだ?」

「さあな。だが、全部を破壊してる時間はないだろうな」

 

ジェラルドは頷きつつ、"ウリエル"を見上げる。

 

「こいつを使えば良いんじゃないか?」

「動かせるかは未知数だぞ。下手に時間を食うよりも可能な限り破壊して回ったほうが良いんじゃないか?」

「…確かにな。でも、成功すれば全部が上手く行く。俺達が死ななくても勝てるかもしれない」

「逆に、俺達の全てが無意味に終わるかもよ?」

 

二人は議論に無為に時間を費やしているわけではない。

機体に工作を施しつつの議論であり、仲間達も既に手分けして作業を行なっている。

その上で、どうするか、ジェラルドには一抹の迷いが生じていたのである。

 

自分自身が死ぬことを恐れているわけではない。

しかし、これまで共に戦ってきた仲間達を全滅させることに、ジョンという相棒の命を散らさせることに、そうしなくても良い理由がある中で取るべき択であるのか、迷っていたのだ。

 

しかし、迷う時間すらも、起源国に奪われる。

突如として格納庫の照明がオンになり、同時に銃声が、巨大な大洞穴の如き格納庫に響き渡る。

 

「もう来たのか!」

 

ジェラルドは機体に身を隠し、銃を構える。

起源国兵の銃撃は何処に誰がいるのか分かっているのか、無駄撃ちのようなことは無く、FSFLメンバーの隠れている付近を正確に狙ってきていた。

 

そんな中でジョンはというと、まだ手を止めていなかった。

最早、運命を受け入れているのだ。

 

ジェラルドの、ジョン・アレンという男を救った彼の言葉を信じ、託すことを決めていたのだ。

ここまで来た以上、今更銀河連盟に懐疑を唱えたところで無意味でもある。

 

だからこそ、散らす覚悟でもって、彼は手を止める事をしなかったのだ。

 

「くそっ!」

 

再び銃声が轟く。

一瞬遅れて機体に銃弾が散らばり当たる、金属との衝突音を響かせる。

 

「ジョン!身を隠せ!」

 

ジェラルドは声をかけるが、ジョンは目もくれない。

 

「おい!」

「…良し!」

 

セットが終わったようで、満足そうに小さく頷くと、ジョンはジェラルドのいる方へと180度近く身体を回転させ、飛び込まんと足に力を込める。

 

瞬間、照明と機体の金属の角度の奇跡がキラリと屋外における陽光の如く、小さなガラスが反射した光を増幅させた。

 

それにいち早く、いや、唯一気が付いたジェラルドは此方に飛び込もうとしているジョンに向かって体当たりを繰り出した。

全ての力を籠めて、ジョンの発する力を相殺せんと、飛び出したのだ。

 

ジョンの視界はジェラルドの鍛え上げられた体躯に覆われる。

同時にチュイン、とジェラルドの真横にある機体の部品に銃弾が跳ねる音が響いた。

 

「は…」

 

ジョンの目には、スローモーションで崩れ落ちるジェラルドの姿が映っていた。

 

「…ジェラルド!!」

 

叫び、ジョンは彼の身体へ手を伸ばす。

 

力任せにジェラルドが身を潜めていた場所へとジェラルドの身体ごと飛び込み、ジョンは彼の身体を見る。

 

赤黒い染みが服に広がっていく様にジョンは歯を食いしばることしかできなかった。

覚悟を決めていた筈の事。

しかし、動揺はどうしても彼を襲い来る。

 

自らの命ならば幾らでも捧げる覚悟はあった。

ジェラルドの想いを、願いを実現する為に自らの命が燃え尽きる事は当然とすら思っていた。

 

「な…何で…違うだろ。これは…!」

 

判断ミス、という訳でもない。

元よりそういう作戦であった。

だが、ジョンはいざその現実を突きつけられ、否応なしに理解させられる。

 

覚悟が虚構であったことを。

考えられることであったはずだ。

都合良くジョンが先に倒れ、相棒の倒れる様を見ずに済む、というジョンの虚構が崩れない未来と成り得ないことなど。

しかし、ジョンは無意識的にその順番での覚悟しか決めていなかった。

 

走馬灯の様にして、死にかけているジェラルドではなく、ジョンの脳裏に、彼との記憶が過っていく。

 

国防総省事務次官補という大層な肩書を持ちながら、どうにか逃げ延びた廃墟の地下室。

そこにやって来た一人の軍人。

 

「生存者は?」

「…ここだ」

「…政府の?」

「最早そんなものは存在せんよ。…死に損ないだ。放っておいてくれ」

「政府がない、ですか。それならば遠慮なく運ばせて頂きますね。貴方に従う義理がないもので」

 

拾われた先で先走りがちな彼を諌めた事もあった。

 

「ここは連中の基地を爆破でもしてやるべきだ!年若い娘が何人も廃人にさせられたんだぞ!」

「落ち着け!この武器と人数で襲ったところで廃人どころか肉塊が量産されるだけだ!」

「落ち着いてられるかよ!ジョン、アンタはあの娘らを見て何も感じないのか?!」

「感じないわけがないだろうが!彼女らは、私が、私達が守るべき国民だった!」

 

或いは、くだらないジョークの言い合い。

 

「それで?ドブネズミの生活には慣れましたかね?ヘキサゴンの便所位はキレイにはしたつもりですが」

「バカを言え。あそこでなら飯を食えるがここでは必要ないなら御免被りたい心境だよ」

「やはりスーツは人を弱くしますな」

「軍服は文明人を卒業させるのかね?」

「代わりに空を飛べるようになりますよ」

「モグラが何を言うか」

 

ジョンは、耳鳴りによってどうにか我へと帰る。

 

『ジョン副司令!』

 

耳鳴りの正体は、最大音量で叫ばれる通信であった。

 

『指示を!』

 

指示?何を指示しろと。これ以上はもう何も出来ない。

元々そういう作戦で──。

それに──。

ああ、そうか。アレだけはやっておかねば。

 

「爆破スイッチを──」

 

言いかけた所でジェラルドの手が自身の腕を掴んでいる事に気が付き、言葉を止める。

 

「ジョン…悪いな。騙してた」

「何を…口を開くな。傷が…!」

「本当は…全員を…破壊工作に向かわせるべきだったんだろうが──」

 

ゲホッと咳き込んでから、ジェラルドは力を籠めて、口を開く。

 

「どちらにせよ、全部の破壊は無理だった…いや、言い訳だ…これは…ジョン…逃げてくれ…動かせる奴が…ある筈だ…」

「何で…お前はこの作戦で…」

「銀河連盟を、信じてないわけじゃない……でもさ…俺達だって見たいだろ?祖国を…」

「何で…隠してた…!」

 

ジェラルドは弱りきった様子で、しかし、悪戯のバレた子供のような顔で、笑った。

 

「戦力の分散なんて、許さないだろ…あんた…」

「それにこれは…ただの俺の身勝手だ……多くの…仲間が…犠牲になるのに…あんたを生かしたいって……バカだよな…」

 

ジョンは眉を歪め、顔を落とし、絞り出すように言うのだった。

 

「大バカ野郎だよ…」

 

そして、顔を上げ、通信を再開する。

 

「おい!どれだ?!」

 

その一言で、ジェラルドに指示されていた者達は理解したのだろう。

突如、飛び交う銃声と爆音に混ざり、異音が、全てを掻き消す騒音として現れた。

 

「な!何で動いてる!」

「いつの間に?!」

 

起源国軍兵の慌てた声が僅かに届く。

 

ジョンはジェラルドを抱えたまま、音の中心部へと駆けていった。

 

徐々に騒音は収まり、最終的には静かな、僅かの駆動音を除き、機体の発する音は消える。

 

起動時は各システムを一斉にオンにし、排気や排熱、エンジンの駆動といった全ての動作準備が進行するため、非常に大きな音を立てるのだ。

元より、突貫開発の機体故にそうした歪さがある。

 

しかし、その騒音はジョン達を助けた。

彼等の位置を探るための高感度集音マイクは銃声等の戦闘音はAIが、その他の音もある程度まではノイズキャンセリングによって除去される。

しかし、そのある程度を越えた兵器による音以外は除去されない。

それは使用者の安全を考慮してのことだ。

想定外の事態に気付けないということがないように。

 

だが、"ウリエル"の起動音は彼らにマイクを切らせるに充分過ぎる音であった。

こうして起源国兵は一定時間、FSFLを巨大な格納庫で見失わざるを得なくなった。

 

「動け!"ウリエル"!」

 

ジョンの願うような叫び。

ジェラルドに指示され、機体の一つを解析していた仲間がコンソールを操り、"ウリエル"に動きを与えた。

 

「…やはり格納庫は閉まったままだな…」

 

操縦者の一人がそう舌打ちする。

 

「全部は上手く行かないか…撃とう」

「しかないな…」

 

二人の操縦者は互いに頷き、起動したばかりの兵装を発射した。

 

小口径のレーザー・キャノンが発せられ、"ウリエル"出動用の格納庫のシャッターを破壊する。

 

「よし!加速します!」 

 

聞こえるが早いか、"ウリエル"は急加速し、格納庫の出口へ飛び込んだ。

そして、一気に地上への急勾配を駆け上る。

 

滑走路の不要な飛空艦であるため、既に飛行状態にはなっており、AIが狭いトンネルで衝突しないよう調整を行なっているのだ。

 

そして、"ウリエル"はついに明るい光の中へと飛び込んだ。

 

「…爆破!」

 

ジョンは目に光るものを貯めながらも、どうにか命令を出す。

これによって、他の、破壊工作が完了していた機体に付けられた爆弾が遠隔作動する。

 

数秒後、地響きと共に、ジョン達の飛び出してきた発射口から凄まじい熱風が飛び出す。

暫くしてから煙を大量に吹き出し始めることにもなる。

つまり、成功したのだ。

 

ニューサンフランシスコ基地の"ウリエル"その半数以上は確実に爆破され、他も無傷では当然済まない。

 

これにより、大気圏内での戦力においても、銀河連盟は優勢を確保することとなるだろう。

全ての目的は達された。

 

しかし、ジョンにとっては、自らの甘さを突きつけられ、高すぎる勉強代を徴収されようとしている悲劇であった。

 

「ジェラルド…成功したよ…」

「…良かった…」

「一緒に祖国を見よう。もう一度」

「…ああ。……すまない」

「謝らなくても良い」

「…俺の身勝手で…それに…」

「命令だ。謝るな」

「イエス・サー…」

 

ジョンは戦友をせめて、敬意と共に見送ろうと望む、しかし、ぎこちない笑顔を浮かべ、笑いかけた。

 

「後は俺がやる。だから──」

「…あ…りがとう…俺の…相棒……まか…せる……」

 

ダラリと垂れ下がった腕は否応なしにジェラルドという男がその命を燃やし尽くしたことを報せる。

 

ジョンは、高速で飛んでゆく"ウリエル"、その手の中でただ項垂れるばかりであった。

炎を燃やすことなく、くすぶり、ただ、戦友の死体と時間を過ごすのみであった。

 

彼に遺した言葉は、彼を安心させるために口をついた言葉だった。

嘘を付いた訳でもない。

しかし、彼の心は、少なくとも今は、燃え上がる事は出来なかったのだ。

 

 

殆ど同じ頃。

ディスティニア大陸とニューアメリカ大陸に挟まれた海域。

その上空に、基之達銀河連盟艦隊は辿り着いていた。 

 

「さあ、行こう。今度こそ、勝つ。全てに勝利する為に」

 

基之の睨むは、ニューサンフランシスコ。

彼の取り戻すべき唯一の希望は、見据える明日はこの惑星にある。

 

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