代星-我らが母国はいかにして勝利したか、あるいは我らの祖国はいかにして滅びたか-   作:ライト鯖

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第六十七話 昨日こそ君はありしか思わぬに

 

統一暦243年(西暦2693年)11月30日

ニューサンフランシスコから数百km。

ディスティニア大陸の中央部。

荒涼としたサバンナに、柵に囲まれた街がポツンと佇んでいる。

 

"ディスティニア第一家族英雄居住区"

 

"名誉出"の起源国軍人の家族、その大半が暮らすある種の指定居住区である。

しかし、通常の指定居住区とは異なり、劣悪な環境下には無い。

むしろ、下手な起源民の暮らす小村よりも余程清潔であり、インフラストラクチャも整っている。

 

彼等は要するに"人質"である。

忠誠心テストや生活監視、経歴の調査、全てに問題の無かった極一部の"名誉起源民"志願者の家族を除き、原則全ての"名誉出"の起源国軍人の家族が集められているのだ。

 

もし、裏切り行為を働けば…という無言の圧力。

レジスタンスのテロの標的になりかねない集住であるが、しかし、監視の容易さや、人質として利用する以上、不慮の事故等で死亡するリスクは可能な限り減らす必要があるなど、幾つかの理由から居住区への集住という手段を起源国は取っている。

居住区辺り100人の起源民警備兵を使って、2000〜4000人の"名誉出"兵士を安心安全に酷使出来る、という極めて醜悪かつ冷酷な費用対効果に基づいた政策だ。

 

この"ディスティニア第一家族英雄居住区"の門を無限に広がる荒野を背にし、潜ったのは青木祐輔であった。

ここに、青木祐輔の家族が暮らしているのだ。

 

彼が門扉を潜り、街の入り口となっている広場に二人は待っていた。

青木 優芽、祐輔の母と、青木 優、彼の弟である。

 

「…何年ぶりだろうね」

「祐輔…!」

 

優芽は感極まったようで、祐輔の姿を遠目に見た時から目から溢れんばかりであった涙を決壊させた。

 

「良かった…本当に…!また会えて…」

 

祐輔へと歩み寄り、二人の距離は1メートルも無いほどに近付く。

 

「俺も嬉しいよ。お母さん。優も、元気だったかい?」

「……変わったね祐輔」

 

祐輔の身体、その真横で行き場を失ったように静止する優芽の腕。

祐輔は屈み込み、優に目線を合わせる。

しかし、優はビクリ、と身体を震わせてから優芽の背後へと隠れるようにして回ってしまう。

 

「…優。お兄ちゃんよ」

「怖がってるのか?」

「最後に会ったのが小さな頃だから、よく覚えてないのかもしれないわね」

「そっか…。でももう小学六年生になってるだろ?ほら、おいで」

 

優はしかし、母の背後から動こうとせず、おっかなびっくりといった様子で彼の姿を伺う。

 

「……ほら、この子人見知りだからねえ」

「そうだったね。まあ顔もあんま覚えてないのかな?」

 

口元から微笑みを絶やすことなく祐輔は姿勢を戻す。

優はくるりと後ろを向き、目だけを僅かに彼の方へ向けた。

 

「ここで長話もなんだし、行きましょうか。今の我が家へ」

「ああ、そうだね。行こうか」

 

そうして彼は青木家団欒の場へとゆっくり、ゆっくりと向かうのであった。

 

 

 

統一暦243年(西暦2693年)12月10日

ニューサンフランシスコ

 

煌々と夜空を照らす、第十二星系総督府の首府。

綺羅びやかな都市にて人々の享楽が夜空へ光を送り届けている訳では無い。

今は、鳴り響く砲声が、神罰の如く天より落ちるレーザーキャノンが、燃ゆるビルが、夜空を紅く染めているのだ。

 

人々、大多数はこの都市を自由合衆国市民から奪った起源民、一部の連れてこられた、或いは彼等に媚びへつらうことで残り続けてきた"名誉起源民"達は逃げ惑い、標的である軍事施設から可能な限り離れんと、道という道を駆けていく。

特に、起源民は普段の傲慢さが滑稽に思える程に醜く、みっともない形相で、しかし、尚も傲慢に"名誉起源民"を押し退け、狂奔していた。

 

だが、最早保安隊の秩序も市内の中心部以外には無意味となった現況では、その傲慢は命取りであった。

押し退けんとした"名誉起源民"に首根っこを掴まれ、引き倒され、そして、周囲の数人に踏み付けにされる。

意識を失い、或いは足が折れ、動けなくなった彼等は、その後に続く人々にも、路傍の石ころ、或いは木の枝、それらと同じように蹴られ、踏みつけられるのだった。

 

その喧騒の下、阿鼻叫喚を土壌で隔てた地下下水道に10と少しの疾走する影があった。

 

「坂堂さんは第二分隊を率いてくださいね」

「わかってるよ」

「指示は?」

「覚えてるよ!俺は鶏じゃねえよ!」

「意外とウィットに富んでますよね」

「お前、俺のことちょいちょいバカにしてない?」

「バレました?」

「おい!基之てめえ!」

 

まだ目的地には遠い為、皆の緊張を解そうと基之は坂堂と茶番を交わす。

 

「あはは」

 

幾人かは堪えるような忍び笑いを漏らし、基之の思惑が上手く行ったことを伺わせる。

 

この場にいる者達は基之と祐輔の関係を知った者達であり、基之にとっては今現在、明子に次いで、気を許せる仲間達であった。

 

「地図によれば後少しです。青木祐輔がいると思わしきホテル・シティ ニューサンフランシスコまで」

 

カルミネとジョン・アレンの協力により、上からと下からの情報を組み合わせる事が容易となった。

それ故、スピーディに青木祐輔が少なくとも総督府にはいないことが明らかとなっていた。

 

そして、1週間程度の時間で青木祐輔の居城が明らかとなる。

 

どうやら総督府には総督府行政の高官のみが集い、それ以外のV.I.Pはテロの標的分散と、警護の容易さという両輪を追及可能とする目的から、高級ホテルが数棟集い、種々の娯楽施設も併設するホテル・シティのサンフランシスコ店へ集められているようなのだ。

 

青木祐輔も政治的権力はない事、不確定ながら目撃情報が数件ある事からホテル・シティにいるだろうと結論付けられた。

 

そうして今。

 

「ここがホテル・シティに繋がっている。無論、このまま上へ上がったとて、妙なマンホールから飛び出てしまうだけだ。だから…」

 

ジョン・アレンからの情報を明子が遠隔で基之の装着するスマートグラスに表示しており、それを頼りに彼は壁面の一部をまさぐるように探る。

 

「お、あった」

 

言われなければ、仮に見つけても工事のちょっとした、致命的には決してなり得ないだろうミスにしか見えない程度の、極々小さな凹凸。

そこを印に基之は掌を一定距離左に動かし、次に上へ、と壁に直接触れるのではなく、数ミリ浮かせた状態で動かす。

 

すると、基之のスマートグラスに一つのウィンドウが現れる。

自動的に登録されたデバイスへパスワード入力画面を送信するコマンドが設定されているのだ。

ジョン・アレンから共有されたパスを打ち込むと、人一人が通れる程度の通路が開いた。

 

システムの関係上、基之以外の者達が先んじて通路へ飛び込み、基之も通路へ入ると、殆ど音を立てずに扉は閉まり、システムをシャットダウンさせる。

 

「行こうか」

 

"FSLF"が構築した文字通りの地下ネットワーク。

肉体労働者の多く、いや、九割が"名誉起源民"によってなされている為、こうした芸当が可能だったのだ。

とは言っても、ニューサンフランシスコ中にクモの巣状に張り巡らされていると言った類いではなく、金に汚い起源民連中から情報や物資を受け取り、運搬の容易となる施設に通されているのみであるが、ホテル・シティも正にそうした場所であったのだ。

 

廃棄される食料に混ぜられた武器、或いは地位の高い者が使用するホテルの為、内部はプライバシーの保護が行き届いている故に、FSLFのメンバーが"起源民"に扮して潜入する通路として、使われていた。

 

「これって何処に出るんだ?」

「ボイラー室って聞いてますよ。…明子?」

『はいはい。聞いてるよ。ボイラー室で合ってる。周辺の監視カメラは切ってあるからそのまま客室棟へ向かって。

そっちのカメラはお偉いさん達が"守られる"為のカメラだから改竄が容易だし』

「分かってる。確か3553号室にFSLFが装備を用意してくれてもいるんだろ?」

『そういうこと。付いたらまた連絡を』

「ああ」

 

メンバーはボイラー室へと出ると、慎重に出口となる扉を開け、廊下へ出る。

うまい具合に、と言っても、これも明子やジョン・アレンの工作の賜物だが、誰一人として周囲にいない。

巡回警備員等は偽の低レベル警報に釣られ、上階へと半数近くが集中している。

 

基之達は僅かの警備を潜り抜け、客室棟へ入り込む。

 

「ある程度は持ち込めたけどよ…こいつは…」

 

高官や富裕層が利用しているだろう豪奢な装飾や幾らするのか分からない様なベッドがあしらわれている部屋に地下通路を通しても運び込めるのか?という程の大量のサブマシンガンやアサルトライフル、銃弾が整理されて安置されていた。

 

「すげえなFSLFって…」

 

坂堂が感嘆を漏らす。

 

『市民の多くが戦意を喪失している中でも戦い続ける覚悟を持っていた者達が構成員だからな』

 

ジョン・アレンは明子の通信を介して少し誇らしげに言う。

どうやら立ち直れているらしいと基之は他人事ながら安堵を感じていた。

 

「よし。明子(ミョンジャ)。準備は?」

『オッケー。30秒後にぶっ放す』

「了解。各自、問題ないな?」

 

基之の確認に、全員が頷き、応える。

そして、時計の秒針が半周し、その時が来る。

 

まず、ホテル中を、いや、周辺の地区全体を煌々と照らしていた照明が落ちた。

周囲は瞬間的に暗闇に包まれる。

遠くに燃える戦火の紅さが目立つようになり、同時に怒号が飛び交い始める。

 

「行くぞ」

 

暗視ゴーグルの役目も果たすスマートグラスを装着している彼等は音を立てずに客室をスルリと出る。

更に数十秒後、ホテルの中庭に数発のミサイルが着弾した。

 

「な!何故ここが総督府の接収施設とバレているんだ!」

 

通信機に向かって叫ぶ幾つかある警備隊の一つ、その隊長らしき男を見つけた坂堂が、周囲の雑音に溶け込み素早く背後を襲った。

 

「がっ…」

 

頸動脈を斬り捨てられた隊長はそのまま崩れ落ち、赤黒い池を作り出す。

ここを起点に坂堂、基之の隊が別れ、其々目標の探索に向かうのだった。

 

「クリア」

 

基之は、恐らく"平等派"にとって重要な存在となっている祐輔を下層階に置いていることは無いだろうと踏み、上から順に虱潰しをすることに決めていた。

だからこそ、難易度が高いことを承知の上で高層階を武器保管庫としたのだ。

 

一つ一つ部屋を調べ、祐輔のいないこと、そして、事前に作り上げていたリストに載る"重要人物"つまり、政治的影響力の強い"復讐派"や"平等派"の中でも"名誉起源民"を道具としてしか見ていないグループに属する者達を発見し次第射殺していく。

 

「クリア。30階まで制圧。…V.I.Pの数が存外少ないですね」

 

隊の一人が呟く。

基之もそれは感じていた。

ホテルの規模感の割には収容人数が少ない、と。

正か総督府という更なる危険地帯に好き好んで居残る者達ばかりというわけでもないだろう。

では、考えられるのは?

 

「逃げている…?」

 

嫌な想像である。

守るべき市民を見捨てて銀河連盟軍の制宙能力が安定していない今の間に第十二星系を逃げ出している幹部が多いのでは?ということなのだから。

 

そして、その予想は当たっている。

次々に個人用や小型の旅客宇宙船や小型巡洋艦がルイス・プラネットを飛び出し、全球を常に網羅出来ているわけではない銀河連盟軍の隙を縫い、逃げ出していたのだ。

 

「無責任な…」

 

恐らく直近までここに滞在していた人間がいるだろう痕跡のある部屋だけが続く。

基之達の嫌悪は募り、そして基之は一人、焦りを募らせる。

祐輔もまた何処かに…?と考えずにはいられなかったのだ。

 

『基之』

「…!どうした明子?」

『さすがに総督府は耳が早いみたい。鎮圧部隊が組織されつつあるそうだよ。恐らく1時間以内にホテルへ第一陣が来る』

「俺達の人数的に…」

『うん。その第一陣とまともに戦うことも出来ないでしょうね。というか、ホテルにいる連中の混乱が収まった段階での被害次第ではそれだけでヤバい』

「だよな。となると、猶予はない…そっちはどうだ?」

 

惑星ハヤブサにいる技術局の柴崎達が開発した新型ドローン─超小型で航続距離も大陸を跨ぐ程度にはある─が一月以上の時を経て届いたため、試験も兼ねて作戦開始と同時に飛ばしているのだが、それのスキャニングでヒントを得られないかと基之は明子に尋ねたのだ。

 

『まだね…さすがに敷地が広い。もう少し時間がいるし、個人の特定は無理よ』

「人のいる部屋が分かればそれでも充分」

『了解。もう少し待って』

 

そこに坂堂が割り込んでくる。

 

『おい!基之!此方坂堂!』

「どうしました?」

『司令部を発見した。制圧も完了。暗闇で右往左往してたところを一網打尽よ』

 

夜襲はいつの時代も有用なのだろう。

特に起源国軍人は大半が暗視スコープの類を付けていなかった故に、最も大きな効果を発揮したようだ。

彼等もまさか地区の変電所が破壊され、更には非常用電源も続くミサイル攻撃で吹き飛ぶとは思っていなかったのだろう。

密偵の報告によればリソースは総督府にこそ集中しており、ホテル側の人員はあくまで護衛程度にしか考えられていなかった。

 

その上、政治的対立の深刻な起源国軍にあっては、"守りたくない人間"や"出来ればいなくなって欲しい人間"等様々な派閥にいくらでもいる。

そうしたV.I.Pの集中するこのホテルに完璧な警備システムが構築される筈も無かった。

 

誰一人として故意に強い悪意を持って警備を薄くしたわけではない。

しかし、潜在にあるそうした意識が「まあ非常用電源は地下深くにあるから暗視スコープまではいらんだろう」だとか「ベテランは総督府防衛に回したいし新兵の部隊をホテルに回すか」だとか「人数もある程度いれば問題無いだろう」だとかの言い訳を重ねさせ、結果としてホテル側の防備全体の軽視を生み出している。

 

この期に及んで表立った権力闘争をルイス・プラネットでする者はいない。

だが、既に老人の人生より長く続いてきた派閥争いは政軍問わず、起源国の中に潜在意識として染み付いてしまっていたのだった。

 

「それで?何か分かりました?」

『ああ、今送る!見てくれ!』

 

基之は、送られてきたファイルを開く。

 

『部屋のリストだ!15階にいるってよ!』

「よくデータを取れましたね!」

 

基之は興奮を顕にした。

 

『明子が持たしてくれてた…なんだっけ?何か洒落た感じの…?』

『"強制起動システム"特におしゃれな名前ではないですよ』

 

名前の通りである。

これを挿し込まれたコンピュータは"強制起動システム"に埋め込まれているバッテリーからエネルギーを供給され、同時に強制的に起動させられる。

後は情報を抜き取るだけである。

当然それもシステムに組み込まれており、これも"秋久"がハヤブサで開発した叩き台となるシステムを明子が調整したモノを初投入していた。

 

『さあ、早く私を寝かせてちょうだい』

「了解」

 

基之は仲間を引き連れ、一つの部屋へ飛び込む。

 

「このまま警備連中を相手しながら15階までは降ってられん。飛び込むぞ!」

 

明子!と基之は呼びかける。

 

『何?』

「ドローンは複数あるんだったよな?」

『3台あるけど…。まさかあなた…』

「馬力はあるんだろう?」

『行けるは行けるでしょうけど、正気?』

「正気でここまでは来れんさ!」

 

はあ、とため息を吐きつつ、明子はドローンを基之達のいる部屋の前まで呼び寄せる。

 

「3台か。山本、カヴァコ。付いてきてくれるか?」

「勿論!」

 

指名を受け、快諾した二人以外の仲間達に基之は詫びる。

 

「すまない。先に行く。お前達はこのままクリアリングはせずに階下へ降りろ。戦闘は避けれるなら避けるんだ。人数も減るしな」

「了解。では、あとで落ち合いましょう」

 

残るメンバーはさっと部屋から走り去り、階段へと向かう。

基之達3人はドローンのプロペラを邪魔しないように捕まる。

 

ガクン、と機体が一瞬大きく高度を下げるが、墜落することはない。

1秒と経たず安定し、そのまま明子の下した命令通りに15階の、祐輔がいるはずの部屋、その窓を

目指す。

 

そして、基之は勢いのまま窓へ足を向け、蹴破った。

ドローンと共に部屋へと転がり込んだ基之は受け身を取り、即座に立ち上がる。

 

仲間達も同じく次々に降り立ち、三人は室内を見回した。

 

ユラリと、古めかしいランプの炎が揺れる。

非常用電源も死んだ今、有用な光源と言えるだろう。

 

そのランプの柔らかなオレンジの光によって生み出された影がのそりと動き、ソファの向こうから、彼が顔を出した。

 

「……祐輔…」

 

まだ目は慣れていないが、しかし、彼の姿を基之が見まごうはずもない。

"青木祐輔"の姿を認識した基之は力の抜けそうになるのを必死に堪え、目の慣れるのを待った。

 

一拍遅れて、向こうも気がついたのか、スクリ、と真っ直ぐに立ち上がり、口を開くのだった

 

「…ああ、基之、だね?久しぶりだねえ」

 

彼の言葉を、青木祐輔の声を聞いた瞬間、基之は駆け出さんと力の籠もっていた足を踏みとどまらせる。

そうして彼は、漸く慣れてきた目で、もう一度彼の姿を見た。

 

「どうしたんだい?基之」

「──お前、誰だ?」

 

基之は顔を青くさせながらも、そう呟いた。

 

「忘れた訳じゃないだろう?僕だよ。青木祐輔だよ。君の"友人"の、さ」

 

違う。

姿も、声も、青木祐輔に他ならない。

だけど、こいつは、青木祐輔、俺の親友の、祐輔じゃあない。

 

基之は直感と言うべきだろうか、彼の言葉から、立ち居から感じられた違和によって足を止め、そして、再び彼を見て、確信したのだ。

 

「お前は祐輔じゃない!誰なんだ!お前は!!」

 

一瞬の沈黙。

そして、クツクツとした忍び笑いが部屋に、空虚に響く。

 

「なーんで"また"バレちゃったんだろ?」

「!!」

 

"青木祐輔"は、日野基之の親友であった彼ならば決して他者に向けることの無かったであろう攻撃的な歪んだ笑みを口に浮かべ、基之へとそれを向けた。

 

そして、片耳に手を当て、言う。

 

「どうしましょう?」

 

わざと回線をオープンにし、問われた先にいる者は応える。

 

『殺せ。どの道奴はレジスタンスのリーダーだ。"青木祐輔"の伝説をもう一つ、増やすのだ』

「Remember Origin」

 

恍惚とした様子で了解を口にした"青木祐輔"は腰にぶら下げたホルスターから、"名誉出"の軍人でありながら大尉という例外的な地位となった彼に特別支給されていた高出力テーザー銃、─セーフティを遠隔で外せば成人男性でも死に至る威力となる─を目にも留まらぬ速度で構え、基之の胸元へ構えと同時に狙いを定める。

 

そして、一切の逡巡も、躊躇いもなく、引き金を引いた。

 

"青木祐輔"の部屋は、一瞬、暗闇の中に雷が姿を現したかのように、白く、光った。

 

 

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