代星-我らが母国はいかにして勝利したか、あるいは我らの祖国はいかにして滅びたか- 作:ライト鯖
惑星ハヤブサより約400光年の距離を飛び━━。
自由合衆国(地球時代のアメリカ合衆国)
首都 ワシントンD.E
地球から見た星座の一つエリダヌス座に属する恒星系の第四惑星。
そこで移住初期に現れ、内紛を治めた英雄、ルイス・ソフィア・ウィリアムズの名から、ルイス・プラネットと呼称されるこの惑星は、旧アメリカ合衆国からの脱出者が移住し、発展させて来た惑星である。
だが、西暦2689年の終わり頃になって、突如現れた"外敵"によって、彼らは危機に瀕していた。
起源国。そう名乗る勢力は、突如として星系内に現れたかと思えば瞬く間に本星であるルイス・プラネット以外の星系惑星を全て占領してしまう。
そして、ルイス・プラネット、自由合衆国本土も、彼らの猛攻を受けることとなった。
しかし、自由合衆国は、元がアメリカ合衆国であり、彼の国の性分を受け継いでいる。
最早戦争など起きないと思われた移住後の世界においても、既存の軍事技術による軍事力の拡充に努め、かなりの兵力を揃えていたのだ。
故に、ハヤブサ連邦などは即座に降伏することとなったが、彼らは未だ、半年近くに渡る抵抗を続けることが出来ていた。
ワシントンD.E 大統領官邸 ニューホワイトハウス
自由合衆国大統領、コリン・スミスは部下から戦況報告を聞きながら、思案に耽っていた。
元々合衆国は、他惑星がワープ技術を開発した場合、それを利用して侵略行為を行うのではないか、という疑念を他惑星に対して抱き続けていた。
その為に、軍備の充足と、予算は少ないながらもワープ研究の継続が求められ続けてきたのだ。
ワープの方は結局理論も完成しなかったし、軍事技術も大して進歩はしなかったが。
まあそれは仕方ない。
何せ、この300年近くは、惑星と星系の開拓に多くの国力を割かねばならなかったのだから。
それは、他の惑星も同じだろう。
我々が想定していたのは、ルーシ・ミールや紅星人民解放区等の、かつてからの仮想敵だ。
だからこそ、まだ時間があると考えていた。
そう。地球という、遅れた連中、打ち捨てられた惑星等、敵として襲来するなどあり得る筈がない、そう、誰もが思っていたのだ。
「..現実はどうだ。下手なSF作家は真っ青な事態だ」
自嘲気味にスミス大統領は笑う。
「大統領?」
「ああ、すまんすまん。少し考え事をしていた。
まさか、地球が何処よりも早くワープ技術を実用化させ、その上我々に対して侵略を仕掛けに来るなど、一体誰が考えれたろうかとね」
「そうですな。しかも、奴等の技術力は凄まじい」
沈痛そうに部下は俯く。
「曲がりなりにも開発していた宇宙での戦闘を想定した宇宙挺は、赤子の手をひねる様にして奴等の巨大な戦艦に破れ去って久しいしな。何なら虎の子の艦隊も奴等の単座戦闘機部隊に敗れ去ってしまったし」
「ええ。ですが、まだ我々は負けていません。大気圏内であれば、劣勢ながらも膠着を生み出しています」
部下の言葉にスミスは頷く。
「その通りだ。我々はまだ負けてはいない。自由と民主主義、そして我等の祖国を守るために、戦い続けるのだ。最後まで」
同じ頃。
ルイス・プラネットのある空にて。
一機の起源国軍の単座戦闘機、"コリネウス"は、16機の自由合衆国空軍のジェット戦闘機、"F-52A"と空中戦を繰り広げていた。
起源国軍のそれは、ロケットと戦闘機の合の子の様な形状をしている。
そして、これは宇宙空間での戦闘を基本に、大気圏内での戦闘も想定している機体であり、ロケットエンジンとイオンエンジンが積まれている。その重量故に大気圏内での動きは旧技術のジェット戦闘機に劣る瞬間もあるという。
特に小回りが利きにくく、それがこの空中戦を厄介なモノとしていたのだ。
「くそっ!ちょこまかと!」
コリネウスの乗員である、カーネル曹長は、自身の背後を取ろうと動き回るF-52の編隊から逃れつつ毒づいていた。
「ムルシア隊!応答せよ!ムルシア隊!...っそ!」
応援を呼ぶために繋いだ無線であったが、雑音を届けるのみであり、焦燥を覚えるはめになるだけだった。
「何でこんな数の戦闘機があるんだよ..!」
ロケットエンジンの爆発力で、後方を取られるたびに瞬時に姿勢を立て直し、攻撃をかわしていた。
しかし、問題は燃料である。
ロケットエンジンは莫大な燃料を消費する為、幾ら燃費を効率化してきたといっても限度があり、そう長時間の戦闘、特に自身らより数が多い敵を相手になどすれば、直ぐに燃料切れを起こしかねない。
当然大気圏内であるため、イオンエンジンは使い物にならない。
そもそも、このコリネウスは大気圏内でも行動出来るとは言え、主な任務は偵察を想定されているのだ。
何故なら、宇宙戦艦や駆逐艦は大気圏内でもかなりの速度で行動可能な為、其方が主力となるからである。
大した戦闘力が必要だとは、思われていなかった、というわけだ。
「おい!カーネル隊!誰か応答してくれ!まだ残っている隊員はいるか?!」
カーネル曹長は部下達にも呼び掛けてみるが、一つの返答も入らない。
「くそっ!」
2時間程前、自由合衆国の首都に対する攻撃準備として出撃したカーネル隊は、ムルシア隊と共に大気圏内へ降下したのだが、そこには自由合衆国軍戦闘機の大編隊が待ち構えており、30分と経たない内、ムルシア隊は壊滅。
カーネル隊も粘ったが、既に彼を残して壊滅してしまっていたのだ。
単騎性能ならば基本的には起源国軍のコリネウスに軍配が上がる。
だが、小回りの鋭さと、数で上回る自由合衆国軍は、多勢で押し切り、有視界戦闘に持ち込み、更には複数の機体で一つのコリネウスを狙って撃墜していくことで、確実な勝利を積み上げてきたのだ。
「逃亡者共があああ!」
全力で自由合衆国軍の攻撃を避けながら、反撃の機会を探すカーネル曹長。
「ここだ!」
背後を取ろうと回ってきたF-52の隙を見てとった彼は、ロケットエンジンで一挙に加速。
同時に機首を上空へと向け、ループするかという動きを見せる。
彼を追っていたF-52もそれに気付いたのか、背後を取られぬ様に、彼を追って機首を上げた。
カーネル曹長の機体は、そのままロールし、正常な体勢へと戻ったが、それと同時にピッチアップをし、背後を追って来るF-52の視界外へ逃れた。
彼の機体がカーネル曹長のコリネウスを探す隙を付き、背後を取ることに成功する。
「おらあ!」
レーザーを放つと同時、目の前のF-52が火を噴いた。
撃墜。
だが、一機落とした程度では最早覆ることのない不利。
それは彼にも良く分かっていたし、眼前の光景もそれを示していた。
今の空戦の間に、他のF-52が彼の周りを取り囲んでいたのだ。
もう一度ロケットエンジンの噴射で加速し逃げを計ったカーネル曹長だったが、操縦桿近くに設置されているパネルから、警告音が鳴り響き、燃料切れを通告していた。
「っそ..!」
残る燃料で加速したところで、また囲まれれば直ぐに燃料が尽きるだろう。
端的に言えば、詰みである。
彼を取り囲むF-52達の機銃が火を吹き、カーネル曹長は自由合衆国の空へと散るのだった。
更に上空。
成層圏と中間圏の間。
起源国軍宇宙戦艦 マンダレ-
「カーネル隊、全機ロスト..」
報告に、首都上空作戦域の司令を勤める、イーサ-・アフマド・バグダーディ准将は苛立ちを顕にしていた。
「くそったれ!何なんだこの数は!戦闘機部隊の全滅だと..!?このままでは作戦は失敗に終わってしまう!」
そんなことになれば、と彼は背に汗を浮かべていた。
「我等に敗北は許されぬ!こうなれば戦艦で直接乗り込むぞ!」
「お待ちください閣下!」
幕僚が立ち上がり、バグダーディ准将に向き合った。
「閣下、我々が何故戦闘機部隊で以て制空任務に当たらざるを得なくなったかを思い返して下さい!」
「っ...」
言われ、バグダーディは沈黙する。
彼とて忘れた訳ではなかったからだ。
しかし、だからといって手をこまねく訳にも行かない。
そこに、突如として警報が鳴り響く。
「何だ?!」
「ひ、飛翔体が我が分艦隊目掛け、複数飛んできています!」
「飛翔体?!まさか!ここは射程外のはずだ!」
「ち、長距離ミサイルの模様!」
「奴等まだ隠し持って..」
瞬間、バグダーディ准将の視界は、真っ白な光に包まれた。
首都ワシントンD.E
ニューホワイトハウスを警護する部隊の兵士達は、遮光グラスをかけながら、上空での爆発を眺めていた。
「命中したみたいだな」
「大昔と違って、今度は文句のつけようがない、救いの光だ」
巨大で、強力な宇宙戦艦が何故大気圏内に降りて戦えないのか、それは、これが理由であった。
核ミサイル。
自由合衆国は、宇宙で独立した人類社会となってからも、それを手放すことはしなかったのだ。
いかに宇宙戦艦と言えど、水爆や原爆が直撃すれば、いとも簡単に消滅する。
とは言っても、自由合衆国にもこの攻撃方法にはデメリットがある。
核爆が実質的にEMP攻撃として機能してしまっている為、無人戦闘機やドローンが使用不能になっていた。
しかし、艦隊を消し飛ばせる可能性は、そのデメリットを補って余りあるメリットなのだ。
そうして自由合衆国が蓄えていた核ミサイルでもって宇宙戦艦に攻撃を加え、この被害に苦しむことになった起源国軍は、単座戦闘機による制空に切り替えざるを得なくなったのである。
そして。
ルイス・プラネット衛星軌道圏内。
自由合衆国攻略軍総旗艦 宇宙戦艦 アスタナ
自由合衆国攻略作戦の指揮を執る司令部が置かれており、作戦の最高司令官も座乗している。
レオポルド・カブラル大将は、首都戦域艦隊壊滅の報せを受けたところであった。
「また核ミサイルか..その上戦闘機部隊も壊滅ときた」
忌々しげに眼下のルイス・プラネットを睨み付けながら、彼は吐き捨てるように言った。
「既に他惑星との通信を長年傍受して推測されていた戦力の5倍以上の戦力が確認されています..」
幕僚の言に、カブラル大将は、ため息を付く。
「奴等、大戦力の保持をひた隠ししてきたわけか。ルーシ・ミールといい地球時代から変わらず薄汚い連中だ。地球を見捨てるだけのことはあるな」
嫌味を言っていても仕方がないのだが、言わずにはいられない、と、憎々しげに彼は吐き捨てる。
「全くですな。劣勢にも関わらず戦い、無為な犠牲を産み続けてもいますし、奴等にはやはり統治者足る資格などどこにもない」
幕僚も同調する。
「とは言っても、だ。我々が苦戦を強いられていることもまた事実だ。これ以上時間を費やす訳にはいかん。
執政官閣下のご期待に背くことだけは避けねばならない」
司令室の空気が張り詰める。
このまま苦戦が続けば、自分達の将来が危ぶまれる、その現実を直視したからだ。
「...首都に通信をしてくる。ないと思うが、一週間程空けることになるからな。私が戻るまでに何かあれば、チャールズ少将、君が指揮を執るように」
「はっ!」
カブラル大将は、待機する通信士官に連絡を入れ、自身も戦艦の後方下部、小型船の格納されているエリアへと向かった。
「よろしく頼むよ。ウィレム少佐」
既に船の準備を終えていた通信士官のウィレムに軽い敬礼をし、船へ乗り込む。
「では、出します」
「ああ」
カブラル大将の乗り込んだ小型船は戦艦等に比較して非常に小型であり、1/100にも満たないサイズである。
しかし、小型でありながら速度は戦艦以上であり、ワープ機構も備え付けられている。
これは、通信船だ。
地球から数百光年は離れているここからでは超光速通信で以ても往復一月と少しかかる為、至急の要件にあっては、ワープで以て、地球近傍へと戻り、直接通信を行う方が速い場合が往々にしてあるのだ。
要は伝令である。
戦艦なら往復二週間と数日程度かかるが、通信船は、その戦艦よりも速く航行可能な為、10日前後で行き来出来るのである。
今回は重要事案であるため、司令官であるカブラル大将自らが乗り込んだのだった。
そうして、5日程経ち、カブラル大将らは地球近傍、太陽系内へと到着する。
「よし、アルワタンに繋いでくれ」
「はい」
通信士官が機器を操作し、カブラル大将の前面に空中ディスプレイを展開させる。
そして、数秒のコールの後、執政府へと繋がった。
『はい。此方執政府。所属と用件をどうぞ』
地球の執政官が執務を行う執政府へと繋いだのだ。
「自由合衆国攻略軍総司令、レオポルド・カブラル大将だ。攻略作戦に関することだ。執政官閣下と、至急お目通り願いたいのだが」
『少々お待ちください』
十数秒程度で、カタカタとキーボード操作をしていた向こうの通信士が再び口を開いた。
『はい。お待たせ致しました。10分以内なら話が出来る、とのことです』
「そうか。良かった。繋いでくれるか?」
『ええ。勿論でございます』
「ありがとう」
『では、お繋ぎしますね』
そうして、画面が切り替わり、執政官執務室の荘厳な内装を背に、執政官、ジョルジュ・アース・ンガングガが写し出された。
「Origin's Here」
カブラル大将の敬礼に、執政官も略式の敬礼で返す。
「貴重なお時間を頂きまことにありがとうございます」
『構わん。しかして、何の用件だ?わざわざ通信船に乗ってくるとは』
「..既に聞き及びかもしれませんが、誠に遺憾で、かつ恥ずべきことながら、我々は自由合衆国相手に苦戦を強いられております」
『ふむ。それは聞いている。しかし、まあ、十数も惑星があればそういうこともあるだろう。
何せ奴等は薄汚い逃亡者の子孫なのだ。
此方の想定を上回る戦力を保持してようと、驚くには値せん。
故に、気に病む必要はない』
執政官の言葉に、カブラル大将は深く頭を下げる。
「寛大なお言葉、痛み入ります。
ですが、このまま手をこまねき、無為に閣下の軍隊を、引いては起源人類の何よりも貴重な資源を浪費する訳には参りませぬ」
『ふむ。ではどうする?』
「閣下に御裁可頂きたき議がございます」
『言ってみろ』
「は。核兵器による、自由合衆国を名乗る連中の首府に対する爆撃を許可して頂きたいのです」
カブラル大将の言葉に、なるほど。とンガングガ執政官は頷いた。
『...わざわざ私に許可を求めるということは、首都の壊滅を狙うわけだな』
「はっ。左様であります閣下」
起源国が他惑星を占拠する際に基本としている行動指針は、大気圏内に突入した宇宙戦艦の兵装で以て、政庁以外の首都地域を正確に壊滅させる、というものだ。
戦後処理において敵勢力の首班が健在であればやり易く、また占領後も、政府機関が残っていれば占領政策が多少なり容易になるためである。
だが、そんなことに拘っていては更に犠牲が増えると判断したカブラル大将は、政庁ごと破壊してしまう核兵器でもって敵の指揮系統を全て壊滅させようと考えたのだ。
『...良いだろう』
少し間があり、ンガングガ執政官は許可を出した。
『だが、一つついでだ、やってもらいたいことがある』
「何なりとお申し付け下さい」
そして更に5日と少し後。
ワシントンD.E ニューホワイトハウス
「大統領!」
「どうした?」
スミスの下に、秘書官が慌てて報告を持ってきた。
「起源国より降伏勧告です!四時間以内に降伏せよ。さもなくば、首都地域に対する無差別攻撃を実施する、と!」
「無差別...?そう来たか」
苦々しげにスミス大統領は眉を歪める。
「い、如何致しましょう。拒絶でしょうか。承諾でしょうか..」
「どちらでもない」
「は..と申しますと」
「時間一杯まで返答は出さない。この時間を有効に使うんだ」
大統領は、静かに息を吐いた。
「降伏勧告の電波の出所を探知しろ。直ぐにだ。その後、そのポイントを核ミサイルで狙う」
「しかし、奴等は大気圏外ですが」
「ICBMなら衛星軌道も狙える。ある程度正確な計算が必要になるが、しかし、多少ずれても、遠隔で爆破命令を出せば核爆発に巻き込まれてくれるだろう」
「もし、探知が間に合わなければ...」
「首都の民間人共々、あの世行きだ」
しかし、とスミス大統領は手を組み、鋭い、覚悟の籠った目で続ける。
「奴等に降伏するよりは、この賭けにベットするべきだ。起源国なる連中がどんな奴等かは、連中の目を盗み、超光速通信で情報提供をしてくれている他惑星の人々の報告からでも分かるだろう」
秘書官は頷いた。
弾圧、虐殺。収容所での強制労働や、同性愛等を病理と見なした矯正、指定居住区という名の"ゲットー"。
言論の自由など勿論ありはしない。
「そのような最低な国家に我が国民を預ける真似は出来ない。
もし、奴等がここを支配すれば、自由も、民主主義も無くなってしまう。
━━何より、私が市民に選ばれることもなくなってしまうからね」
「フフッ。そうですね。それは一大事です。私も失職してしまいますし」
一瞬の笑いの後、表情を整え直した秘書官は、居住いを正した。
「では、直ちに閣下の命を実行させます」
「ああ、頼むよ」
執務室に一人となったスミス大統領は、椅子に深く腰掛け、天井を仰ぎ見た。
「例え私が死のうと、首都が壊滅しようと、国民が生きている限り、合衆国は再建される。成功してさえくれれば、それで良い」
だから、四時間以内に、どうか頼んだ。
そう、心中で技術者や軍人達に願いをかけるのだった。
再び、大気圏外。
ルイス・プラネット衛星軌道圏内
「撃て」
カブラル大将が突如下した命に、艦橋はざわついていた。
「閣下..?」
「聞こえなかったか?」
「そうではありません!しかし」
「まだ勧告から一時間しか経っておらぬ、そう言いたいのだろう?」
「はっ。恐れながら..」
「構わん。降伏勧告を出した、というポーズが必要であっただけだ。何なら文書だけ作って送らなくたって良かったんだ。あくまで報道用。本当に送付しただけ向こうにはありがたく思ってもらわんとな」
「......」
「万が一、妙な抵抗をされても困るだろう」
「..はっ」
幕僚らを代表して、カブラル大将に異を唱えていた男は、それ以上何も言えなかった。
「ああ、そうだ。カメラの準備は出来ているな?」
「はい。既に中継を回しております。各外惑星領でも放送するよう、連絡も完了しています」
カブラル大将の後ろに控える副官は、この異様な状況を全く意に介することなく、そう淡々と報告してみせた。
「よし、なら問題は何一つない。..では改めて命ずる。撃て!」
「す、水爆ミサイル、全弾発射!!繰り返す全弾発射!」
その衝撃的な映像は、多少の時間的ズレはあれど、僅かの間に全人類が目にすることとなった。
ンガングガ執政官の命令に基づき、全星系へと放送がなされたからだ。
地球で言えばオーストラリア程の大きさをした大陸。
自由合衆国の首都のあるその大陸が、数百、いや、数千に及ぶ原子核の放つ光に包まれていた。
眩いその閃光は、大陸の全てを包み込んでおり、惑星の一角が大きく燃え上がっているようだった。
原子核が放つ光は、照らす相手を選ばない。
第一次攻撃は、宇宙戦艦が積載しているミサイルや、既にルイス・プラネットの衛星等は起源国の支配下にあるため、そこに建設された臨時の基地等から発射された水素爆弾によってなされた。
そして、第二次攻撃では中性子爆弾が大量に投下される。
一次攻撃とは違い、爆発力には劣る中性子爆弾は、大陸の全てを光に包むことはなかったが、大陸の至る所、何千箇所の場所で、虫食いのように光を放った。
まずは、爆発で。そして万が一それを生き延びたとしても、莫大な放射能によって確実に、誰一人生き残らないことを想定した攻撃が、機械的に行われていく様が、全人類に向け、放送されたのだ。
そして、最後に執政官の名で声明が出された。
『我等にとって、外惑星はさして重要ではない。地球という故郷さえあれば、都市の数十、惑星の一つや二つ、大した問題にはならないのだ。
少なくとも、都市や惑星の命運は、人類の唯一国家への統合という目的に比べれば、紙の如く軽いモノである。
もし、これ以上、無為な抵抗を試みるのであれば、一切の容赦はしない。
その時は、ルイス・プラネットとその星系を、人類が放棄することとなるだけである』
映像は声明が幾度か繰り返されている間に投下された無人機が写す地上の様子へと切り替わる。
首都 ワシントンD.Eのあった場所は、そこに街があったのだろうことは分かるが、それは、瓦礫や、黒焦げた、恐らく人だったモノ等、残骸と、残された焦土によってのみ判断可能といった有り様であった。
そして、また映像が切り替わる。
少し離れた場所の無人カメラの映像だ。
今度は、郊外の街らしく、建物は幾らか形を止めている。
だが、道々には、強力かつ多量の放射能によって即死したと思しき遺体が、何十何百と転がっていた。
大陸中に向けてこれが行われ、そして、それは他の大陸、いや、惑星にも向けられる可能性がある。
そう察することの出来ない人間は、殆どいなかった。
結果として、自由合衆国は他大陸に避難していた副大統領によって、即日降伏を宣言することとなった。
各地の軍も、民間の義勇兵も、銃を下ろした。
抵抗は、滅亡を意味すると知ったからだ。
更に、他惑星において抵抗運動を繰り広げていた勢力も、大部分が沈黙することになった。
ンガングガ執政官の声明は、要するに起源国軍等の手に負えない規模の反乱が起きでもすれば、同じことをする、という意味に他ならないのだから。
つまり、皆、その抵抗に勝利はあり得ないと悟ってしまったのだ。
それでもなお抵抗を続ける選択を取る者は勿論ゼロではない。
しかし、大部分は、その拳を下ろすしかないと判断せざるを得なかったのだった。
半月後
統一暦240年(西暦2690年)5月
自由合衆国は、起源国に抵抗する最後の惑星国家であった為、自由合衆国の消滅によって、戦争は終結した。
そして、起源国による自由合衆国の併呑を以て、人類社会は人類史上初めて、一つの政体の下に置かれることになった。
起源国が、人類唯一の統一政体となったのである。
ジョルジュ・アース・ンガングガの声明によって、正式に人類の統合が確認され、人類を統治する唯一の国家が、起源国であると高らかに宣言された。
その国は、"逃亡者"と蔑まれる、かつて地球から脱出した人々の子孫を社会的劣位に置く差別社会であり、報道、言論、その他あらゆる自由が統制された全体主義体制であり、そして、執政官という個人が絶対的権力者な、独裁国家である。
しかして、最早人類の誰も、その国から逃げ出すこと能わなくなったのだ。
かつて理想主義者が夢見た人類統一社会は、その理想とはかけ離れた形で、冷徹な起源国の支配下に現出したのであった。
Tips
総督府の頭に付く数字、惑星ハヤブサの場合"第三星系"総督府のような。は、地球からの距離如何ではなく起源国に統合された順番で付けられている。
第一星系総督府は例外として距離も最も地球から近いが、惑星ハヤブサとルイス・プラネットの場合、ルイス・プラネットの方が直線距離では地球に近い。
つまりハヤブサは三番目に降伏、統合された為第三星系総督府と呼ばれているのだ。