代星-我らが母国はいかにして勝利したか、あるいは我らの祖国はいかにして滅びたか-   作:ライト鯖

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第八十三話 人形遊びの終わり

復讐派の中にはレジスタンスの脅威を煽る為に、レジスタンスへ情報を漏洩させ、市民の不安を増幅させることを狙っている者達がいる。

 

ルーシ・ミールのレジスタンスはそれを利用した。

 

「連中は平等派の象徴を消してくれると期待しているのだろう。

だが、奴等の思い通りに動くだけのレジスタンスなど、あるわけがない。

連中がくだすった情報を下に、更なる調査を進め、総督の行動経路も把握した。

ありがたく、使わさせて貰おうじゃあないか」

 

ルーシ・ミール レジスタンスのリーダーはニヤリと笑い、時計の針が予定時刻を指す瞬間を確認した。

 

「行くぞ!」

 

彼等の策は単純明快。

叙勲後の祝賀会という名目で開かれている社交場に突入するのだ。

無論、隙を作るための方策は欠かさない。

 

会場となっているホテルの下層でわざとらしく侵入を試みる暴徒を演じる仲間に警備の気を取らせる。

更に、自爆、に見せるために、下層ではロボットが爆弾を抱えて爆発。

 

警護は下層を警戒せざるを得ない。

だが、パーティはまだ中断されない。

中止を判断する責任者がその決を下すまでのタイムラグ。

恐らく、数分とないだろう。

そこを、彼らは突いたのだ。

 

彼等はホテル側の人間を装って、会場へと侵入する。

そして、慌ただしく動くスタッフや護衛らを横目に、群衆に紛れてひっそりと、黒い、得物を取り出した。

 

発砲音。

悲鳴、ガラスの割れる音。

 

会場が阿鼻叫喚に包まれるまで、数秒も必要なかった。

 

青木祐輔は倒れた。

だが、総督は──。

 

レジスタンス達は素早く混乱の中、目当てを探る。

 

「いたぞ!」

 

メンバーの一人は出口の方を指差す。

そこには、既に会場外へと護衛に連れられ出ようとしている総督の姿があった。

 

「ちっ。本命が逃げちまう!」

 

復讐派とて、レジスタンスを利用するに無策であったわけではない。

予め、青木祐輔以外の要人の退避をスムーズに出来るよう、手筈は整えていた。

 

パーティ参加者の文官や民間人たちは逃げ惑い、武官らはレジスタンスらしき人間に武器の照準を向けんとする。

 

しかし、両者ともに逃げ惑い、秩序の失われた民間人らによって邪魔をされてしまう。

 

「くそっ!動きにくい!」

「市民に充てるわけには…!」

 

こうなれば、とレジスタンス達、いや、ルーシ・ミールの革命家にしてテロリストは、決断する。

 

最後の一手を打つと。

 

「我等がルーシ。ルーシ・ミールよ。偉大なる故国よ!その姿を取り戻し給え!…万歳!」

 

レジスタンス部隊のリーダーは、震える手を騙すように、勇ましく万歳三唱の声を挙げ、自らの胸に当てた引き金を弾いた。

 

他の者達も続いた「万歳」の声は、轟音にかき消される。

 

そして、ホテルの上層フロアは、瞬時に爆炎に包まれ、生命の兆候を一挙に奪い去るのだった。

 

下層にいる人々や、ビルの騒ぎを遠巻きに見ていた人々も、余りの瞬時に反応すら遅れてしまう。

 

ホテルの最上付近は、突如としてガラスが割れ、同時に噴き出した炎と煙に包まれることとなったのだ。

 

彼らが身に纏っていたのは小型ではあるが、強大な威力を誇る、彼ら自作の、爆弾であった。

稚拙な作りだが、ちょっとした衝撃程度では爆発しないよう慎重に作られていた。

だからこそ、彼等は確実な起爆を狙って、爆弾を巻き付けた胸部に、銃口を当て、引き金を引いた。

 

起爆装置は彼らの技術、資源では誤作動の下であったので、いっそのこと、どうせ死ぬなら確実な起爆と誤爆防止を両立するべきだ、とそれが考案されたのである。

 

彼らにとって、起源国人とは全てが敵であり、殺すべき相手であった。

それ故に、躊躇など、欠片もなかったのである。

 

そうして、どうにか逃げ出した生存者によって青木祐輔は死亡が確認された。

 

同時に、総督は連絡途絶。

 

間髪入れずに、各地で武装蜂起が発生するのだった。

 

 

『青木祐輔"少佐"はテロリストの凶弾に倒れ、亡くなったとのことです。

また、第十星系総督とも連絡が取れておらず、総督府は捜索に全力を尽くしているとのことで──』

 

"青木祐輔"の死は、英雄の死として取り扱われた。

取り扱われはした。

しかし、かつての平等派であればパレードすら計画しただろう熱意でもっての追悼は全く無かった。

平等派のごり押しと復讐派の対立。

最早恒例と化していたその動きは、地球において、つまり、起源国政府において、殆ど起きなかったのだ。

 

彼らは最早、そのような些事に構っている余裕はなくなっていた。

 

それどころか、銀河連盟とも地球とも離れている星系総督府のような地方はともかく、他の地域、特に太陽系近辺においては、復讐派、平等派という括りが再編されつつあった。

 

つまり、和平派と抗戦派である。

既に、銀河連盟の跳梁は起源国における政界秩序を大きく揺るがしていたのだ。

 

執政官の独裁権は大きくは揺らいでいないが故に、戦争にも国家秩序にも直ちの影響は出ていないが、派閥争いは新たなルールによって動きつつあった。

 

銀河連盟と妥協するべきか、否か、である。

 

和平派、抗戦派はそれぞれ、平等派と復讐派を骨格にしているが、かつて人類統一を成し遂げたことによって非戦派と主戦派が再編された時のように、派閥間の少なからぬ移動が起きていた。

 

例えば、復讐派であっても、一旦和平を結び、体勢を立て直してから再び統一を目指す、という者。

平等派の、人類統一という理念を強く信奉する者は、徹底抗戦し、分離主義を完全に絶やす事を目指す者。

 

当然、派閥内も多様だ。

抗戦派には熱意の差、つまり、まだ和平するほどではないと考えている者と、例え起源国が滅ぼうとも和平するべきでないとする者がいる。

 

和平派には、和平の条件での対立がある。

独立を認めるか、或いは、広範な自治権を認めた上で、名目上だけでも起源国に留まらせるか。

はたまた、銀河連盟の中核たる惑星ハヤブサの独立のみを認め、それ以外の鎮圧に協力させる、とする者。

 

こうした政界の再編によって、平等派という枠組みにおける神輿であった"青木祐輔"は、既にオリジナルは存在しないことも相まって、急速にその存在意義を失っていたのだ。

 

未だ、切迫感の薄い、旧来の派閥秩序が力を持っていた第十星系総督府においては重要視され、パーティなどが開かれもしたが、それは単に、星系総督府そのものが時局に遅れていただけのことだった。

 

そうして、ルーシ・ミールでの反乱と総督の死亡のニュースによって、"青木祐輔"は小さく、形ばかりの名誉起源民出身の英雄として弔われるのみで、数日の内に報道からも姿を消してしまうのだった。

 

 

「基之。良いの?あんなのを許して」

「…本音を言えば、許したくはない」

「なら、公表すれば良いんじゃない?青木祐輔が偽物だったって。

確かに、貴方との関係を向こうが公表すれば、多少はダメージになるかもしれないけど、今更その程度で止まる状況でもないし」

 

珍しいな、と基之は乾いた笑いを向けた。

 

「君が合理性の欠片もない提案をするなんて」

「私をなんだと思ってんの。…単に私は可否を述べただけ。

貴方はどうしたい?」

「青木祐輔の名を今更大きく人々に知らしめた所で、もう、あいつの望みは叶わない。

なら、変にあいつの作った虚像を壊す方が、侮辱になってしまう。

少なく共、俺はそう思う」

 

基之は、机に立てている家族写真の隣に置いている、何でもない時にとった、ふざけあっている二人の写真を見、息を吐いた。

 

「良いんだ。それに、俺だけが背負うべきことだ」

 

ギュッと握った拳に目を移す。

 

「あいつを殺したのは、俺だって。

それは、俺だけが知っていれば良い。

親友を、救われるべきだった英雄を、宇宙の藻屑にしたのは俺だ」

 

そして、と基之は瞑目し、数秒後、目を見開いて言うのだった。

 

「裏切り者の"青木祐輔"を始末したのはルーシ・ミールのレジスタンス達。

これは、彼らの功績だ。奪う理由もない。

そうだろ?」

「分かった。それで良いなら、私はもう何も言わないわ」

 

今は、と基之は執務室に常時浮かばせているホログラム星図へと目を、そして、意識も向ける。

 

「俺達がなすべきことをするだけだ。

祐輔の事は、"俺達"が覚えている。

だから、俺が見るべきは、地球だ。

作戦を詰めねばならない。アイツの生きた意味を無にしない為にも」

 

そう。起源国はもう、祐輔に興味がない。

祐輔の努力は、屈辱に、呵責に耐えながら、それでも彼自身が選んだ道で、差別を、弾圧を無くせるようにと願った全ては、忘れられようとしている。

無かったことにされようとしている。

 

そりゃそうよね。起源国が滅ぼうって時に、名誉起源民の人権だとか"そんな事"考えている余裕はない。

 

彼の生きた意味を無にしない為にはもう、彼と敵対していた日野基之が、彼のやり方を踏み越えるしかない。

 

だから、私は、立ち上がらなくちゃいけないんだ。

 

李樱花はふう、と大きく息を吸ってから、意を決して、扉を叩いた。

 

「日野司令。李樱花です。お話、よろしいですか?」

 

私も、戦わなくちゃ。

少しでも、彼の、祐輔の、足跡をこの世界に残すために。

私達の全てが無意味だったなんて、思いたくない。

祐輔の全てが起源国の気まぐれで消えるなんて、許せない。

 

その為に私に出来る事で、ほんの、少しでも──。

 

 

プロキシマ・ケンタウリ弁務官区。

 

「レーダーに艦影?故障じゃないか?」

 

わざとらしく報告を聞き流すフェレティ・トゥイオアネア高等弁務官。

 

プロキシマ・ケンタウリ星系に複数の反応が近付きつつあることをレーダーは示していたが、それを本国に報告するべきではないか?という何も知らない部下からの問い合わせに彼は遅滞を仕掛けていた。

 

協力関係にある銀河連盟艦隊だろうことは彼にも想像は付いていた。

 

つまりは、ここを通り抜けて貰わねば困る。

 

戦争を長引かせ、我々がフィクサーになるには、まだまだ起源国が国力をすり減らす必要がある。

しかし、銀河連盟が勝ちすぎても困る。

 

太陽系での戦闘は丁度良い。

銀起源国は本腰を入れて部隊編成をしている。

銀河連盟も勝つのはほぼ不可能だろう。

 

しかし、彼らのこれまでの実績からして惨敗ということもあるまい。

 

恐らく、太陽系からは撤退し、ティーガーデン辺りを制圧して前哨とすることで、そこを起点に前線を築くことになる。

 

この艦隊行動はティーガーデン制圧も視野に入れた示威行為、と思わせるための行動だな。

 

起源国艦隊を分散させようというのだろう。

このプロキシマ・ケンタウリかティーガーデンか、或いは他か。

少なく共、太陽系が狙いであると断定出来ない以上、最低限、斥候として多少は戦力を割かざるを得なくなる。

 

起源国の戦力を僅かでもすり減らそうというのだろう。

 

トゥイオアネアは「好都合」と笑う。

 

起源国には事が起こってから報告してやろう。

それから起源国が対処をすれば、丁度良い塩梅だな。

負けはしないが多少の損害を受けての、銀河連盟軍を追い払う事に成功。

 

良い状況だ。

 

「くっくっくっ。良いぞ。我々に運が向いてきたのだ!」

 

独り、嗤うトゥイオアネア。

しかし、そこからほんの十数キロメートル離れた先にある、A号コロニーの宇宙港に陣取る軍人は、そうは考えていなかった。

 

いや、そうでないことを既に知っていた。

 

カルミネによって一枚岩でないことを見抜かれていたプロキシマ・ケンタウリ弁務官区。

基之とカルミネは狙いを、独立運動勢力に定めていた。

 

「話の早い方々で助かりましたよ」

 

カルミネ・ソルデットはアベル・ギンペルに笑いかける。

 

「我々はプロキシマ・ケンタウリ独立が目標ですから。

あんなギャンブルに乗るしか無かったのは、それしか現実的な、あれすらも妄想に近かったが、それでも可能性としては、選択肢が無かったからです」

 

チラリ、とアベルはカルミネに目を向けつつ、平板な、軍人調の口調で続ける。

 

「貴方方の戦略はアレの考える世界よりは現実味がある。

それは、私だけでなく、独立運動の指導層に共通しています。

後は、銀河連盟が本当に独立を許すかどうか、ですが」

 

胡散臭く微笑むカルミネに無感情な瞳を向けてから、アベルは合理的に考えて、となおも平板に続ける。

 

「戦争中に無駄なリスクは増やしたくないでしょうし、貴方方の建前から言って、少なく共形式 

以上の独立を許容しなければ、他からの反発も強くなるでしょう」

「ええ、そうでしょうね」

「で、あるならば、独立の達成は出来る、というわけだ。

まあ、これが読み違えだったとしても、結局の所やるのとは変わらない。

私達は私達の為に、戦うまでですから」

 

 

カルミネは「おお」とわざとらしく肩をすくめる。

 

「怖いことですね。中々しつこい敵が生まれそうだ」

 

何にせよ、とアベルは宇宙港の窓外に写る、輝く星々の大海へと目を向けた。

 

「ロイヤルストレートフラッシュを狙うよりは、余程まともだ」

 

不敵にアベルが言った直後、部下が慌てた様子で駆け寄ってきた。

 

「ギンペル大佐!お話中申し訳ありません!」

「どうした」

「レーダーに複数の反応あり!今度は間違いなく、艦隊とはっきり分かる精度になっています!」

 

カルミネはそれを聞いただけで、基之の取った方法を悟っていた。

 

「ハハハッ!無茶をする!超短距離ワープか!

100%の精度は難しい。そうなると艦隊行動をするうえでは、陣形が崩れてしまうが──」

 

ギリギリまで気取らせない努力をする必要があった今回のような場面だけだろうな、使えるのは。

 

しかも、陣形が多少崩れても問題のない相手。

つまり、敵が寡兵である必要もある。

 

「再現性は無さそうだが、だからこそ、というわけですか」

 

アベル・ギンペルも感心したように頷きつつ、部下を下がらせる。

 

そして、その意図は見事に、トゥイオアネアが椅子からひっくり返らんばかりの反応でもって、成功が明らかとなった。

 

「なっ?!ここまで近付くなんて聞いてない…

いや、そもそも、ここまで来るということは…」

 

顔面蒼白とはこのこと、と言わんばかりの青さでトゥイオアネアは荒くなる呼吸を必死に抑えながら思考を巡らせる。

 

不味い不味い不味い。

これは、つまり、奴等は我々を──。

 

「だ、騙したな…!日野基之…!!」

 

ひとしきり遠吠えをあげてからトゥイオアネアは直ぐ様地球本国へ事態を報せることを命じたが、当然、もう遅い。

 

トゥイオアネアは、日野基之やカルミネ、そして、全く意図しない所で、執政官ンガングガも同じく、彼を手玉に取り、計画が上手く行っているかのような錯覚を与えてきていた。

 

それ故に、都合良く目の前の現実を捉え、そして彼は、敗北することになったのである──。

 

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