代星-我らが母国はいかにして勝利したか、あるいは我らの祖国はいかにして滅びたか-   作:ライト鯖

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第八十九話 ハルマキス

 

 

銀河連盟艦隊は確かに、起源国艦隊に対して、イニシアチブを奪うことで、僅かな優位を確立していた。

 

しかし、その優位は、切り札の一つを早々に切ったことによって得た、諸刃に過ぎない。

 

「やられたわね」

「ああ。…既に、宇宙戦は幾度か繰り返されてきた。

起源国もその戦訓を活かしてくるのは至極当然のことではあるが…」

 

優秀な司令官が相手のようだ、と基之は歯噛みする思いであった。

 

これまでの起源国の敗北を間違いなく糧にしている指揮官が相手であろうことは、これまでの短い対戦で理解出来る。

 

一筋縄では行かない。それどころか、悪手を打てば、そこから全てが崩されかねない緊張感。

 

そして、敗北の二文字が、いやがうえにも浮かび上がってしまう。

 

それだけは避けねばならない。

 

ああ、憎たらしい。最初期の、宇宙戦争を自らが打ち立てた机上の論理に縛られ戦っていた頃に出し惜しみなく、今の指揮官が投入されていれば、夜影の様にそこを突いて楽に葬れただろう。

 

栓のないことと理解しながらも、彼はそうしたIFをついつい、想像してしまっていた。

 

「厄介だ…」

 

不平を言っても眼前の現実は変わらない。

基之は吐き捨てながら、次なる策の指示を出す。

 

「全艦、パターンE!」

 

基之の命令に合わせて事前に通達されていた通りの動きで銀河連盟艦隊は陣形を変更していく。

 

両軍が巨大な薄い方陣でもって向かい合っていた状態から、銀河連盟艦隊は外縁の艦隊を僅かに後退させていき、艦隊が紡錘形となるように動いていった。

 

「なるほど。我が軍の中央を突破し、混乱を作り出してから背後を撃つつもりだな?!」

 

イスカンデルは紡錘の頂点を先鋒にした突撃陣を敷いているのだろうかと読んだが、基之の狙いは別にあった。

 

突撃陣と錯覚させることは無論狙いの一部ではあったので、紡錘形のままに前進を開始する。

しかし、敵、起源国軍が模範的とも言える反応速度で突撃に対する策として、薄く広がって、突破を許しやすくなっている方陣を解き、素早く艦は互いの距離を密集させていき、外縁の艦は後退も合わせつつ、分厚い立方体のような陣形へと至る。

 

防御力の高い陣形。

言うなれば、三次元立体のファランクスである。

 

各艦は防御に注力しつつ、先頭集団が主に向かってくる敵軍先鋒を集中砲火し、紡錘を崩す。

これがセオリー的な解釈であり、模範解答と言える。

僅か数年の、そして、数える程度の宇宙戦争によって、既に人類は、宇宙戦争のマニュアルを整えつつあったのだ。

 

これは、人類の叡智と柔軟を喜ぶべきことだろうか。

それとも、こと殺し合いに際して発揮される発明の数々を、恨むべきだろうか。

 

基之は、自ら作り上げた戦術教本を逆手に取るつもりであった。

 

銀河連盟艦隊は起源国艦隊の立方体陣への転換を確認すると、直ぐ様次に動いていたのだ。

 

紡錘の先鋒集団は突如として航行速度を落とし、逆に裾の外縁集団は速度を上げた。

つまり、三角形が引っ込んで、図形を反転させたのだ。

 

先鋒集団の頂点は、今やすり鉢の底となり、紡錘の底面に位置していた外縁集団は、縮こまった起源国艦隊を取り込まんとする蟻地獄の入口となっていた。

 

「…?!しまっ──」

 

銀河連盟艦隊の動きに気付いた時には既に陣立ては完成しており、ここから再び陣を解いて組み直す隙を晒すことは、最も無能な無為無策であることは疑いようない。

つまり、イスカンデルが銀河連盟の意図に気付いた時にはすでに、間に合わなかったのだ。

 

立方体陣はすり鉢に呑み込まれ、半包囲の状態に陥る。

すり鉢陣とでも言うべき包囲陣はしかし、絶対数において劣っている銀河連盟の所以もあって、薄い。

 

だが、起源国艦隊の取った立方体陣は密集形態である為、内側に布陣した艦は同士討ちを避けるため、火砲が必然、制限されてしまう。

 

つまり、突破力を有しないのだ。

だからこそ、薄いすり鉢の壁を破壊しきることは出来ず、外側の艦からじわじわと削り取られるような体勢となってしまった。

 

「──やられたな。こうなった以上、出血は避けられないが…」

 

イスカンデルは悔しげに歯噛みしながらも、冷静さを失う事はなく、動く。

 

「全艦に伝えろ!後退しつつ、陣立てを変更する!陣の外縁に布陣する艦の乗員には別途連絡を──」

 

「貴官らの勇戦を、無駄にはしない」

総司令の名で送られたそのメッセージは送られた艦の者全てにとって、その意図は明白であり、自身らの運命を悟らせるに充分なものだった。

 

降伏はするな。沈むまで戦い、時間を稼げ。

 

そして、彼らは悲しいまでに軍人であった。

外縁に位置していた半個艦隊の内、すり鉢から脱出する為に盾となった殿軍、凡そ2個分艦隊。

 

一隻たりとも降伏はせず、最後の艦が撃沈する頃には、起源国艦隊の残存戦力はすり鉢から後退し、すり鉢陣の薄く広がった銀河連盟を天頂方面から天底へ貫く事を目指し、今度は起源国艦隊が紡錘陣を取り、上昇を開始していた。

 

「不味いな。殿に残った連中は全滅したか?!」

「最後の艦の動力消失を確認!」

「よし!連中はこの薄い陣を槍で貫かんとしている!後退しつつ、すり鉢を閉じ、我々も再度紡錘形態となるぞ!」

 

起源国艦隊も、さすがに早く、銀河連盟艦隊が後退しきるよりも前に突撃を敢行。

銀河連盟艦隊は紡錘陣となりつつあった艦隊の先端を削り取られるような格好となってしまった。

 

「ミネルウァ小破!スザク、大破!クヌム、撃沈!」

「ぐっ…!やはり、無傷とはいかないか」

 

漸く縮まりつつあった起源国との戦力比。

しかし、銀河連盟も損害が出る以上、完全に並ぶことは難しいだろう。

 

「だが、此方も陣は完成と言える!」

「突撃するの?」

「まさか。馬鹿正直に正面対決なんてするつもりはない。…多分、向こうも同じじゃないか」

 

基之は言いつつ、オペレーターらに向け、声を張り上げた。

 

「全艦、パターンO!半数はこのまま突貫の構えを見せろ!残る半数は突貫する艦に付いていきつつ、ギリギリまで待機!作戦指示書に従い、機を見て反転せよ!」

 

獲物から逃れた蛇を追跡するようにして、銀河連盟側の蛇も飛び出し、起源国艦隊へと急迫する。

 

両者共に攻撃陣である今、起源国艦隊は損害を押してでも反転し、銀河連盟と向かい合という手法。

これが最も、安定した策であろう。

 

だが、起源国軍はまるで尻尾を巻いて逃げるように速度を上げ、数の優位を利用した正面対決に挑もうとはしない。

 

その上、起源国艦隊はそのまま艦首を下げて天底方向へと飛び始めた。

彼らは、銀河連盟艦隊の土手っ腹を狙ったのだ。

いや、狙いと誤認させたのである。

 

艦首を下げ続けることで、艦が前転をしているかのような動きをする起源国艦隊。

彼らは、回転するまでに艦首を下げきったこ事で、今度は必然、艦首は天頂方向を向き、形としては上昇する格好となったのだ。

銀河連盟艦隊が組んだ紡錘陣の後背に飛び出し、集中砲火を浴びせててやろう、というのがイスカンデルの狙いであった。

 

艦首を下げ続け、上昇の格好となっていた起源国艦隊はそのまま、銀河連盟艦隊の紡錘形態、その後背へと飛び出す。

 

しかし、先んじて反転をしていた銀河連盟艦隊の紡錘の後尾によって、起源国艦隊は艦首を銀河連盟艦隊へと向ける前、つまり、上昇によって土手っ腹を晒している所へ、砲火を浴びせられてしまうのだった。

 

この攻撃は彼らの虚を突いたようで、艦隊行動にも乱れが見えることとなる。

 

しかし、正面戦力においては、起源国の方が勝っている以上、銀河連盟艦隊の反転していた後尾の艦が幾ら必死に砲火を放とうと、決定打を与えることは出来ない。

それどころか、無様を晒しながらもどうにか艦列を揃えた起源国艦隊に対しては、正面戦力が過小である。

故にこれは、次なる策への時間稼ぎに過ぎないのだ。

 

銀河連盟艦隊は後尾に牽制的な攻撃をさせる傍ら、前進をも継続し、起源国に自らを追跡させ続ける。

 

「陣を展開しろ!」

 

頃合いを見て基之より出された指示。

艦隊は紡錘を解き、溢れるようにして広がる。

容器から溢れた水のように辺りへと広がったと思えば、規則正しく艦列を並べ、立体陣を形成していく。

 

紡錘陣に対して、起源国艦隊を受け止める為に立方体陣が構築されつつあった。

 

今度は連中が防御を?

また先程のようにすり鉢を作って我々を誘引するつもりか?

同じ手をそう何度も打ってくるだろうか。

しかし、紡錘陣同士の衝突は、互いに取って許容しきれない損害を生みかねない諸刃。

いや諸刃どころではないギャンブルだ。

そうなると、立方体陣で受け止める事で損害を抑えつつ、次なる策へ繋げる、といったところか?

 

 

 

イスカンデルはわざわざ紡錘陣同士の衝突とならぬよう時間稼ぎを打ってきた銀河連盟、基之の意図をそう汲み取った。

 

しかし、実際の所、基之は紡錘で突っ込んでくる起源国艦隊を再びすり鉢や海苔で巻くように、銀河連盟艦隊で起源国艦隊を取り囲む事を狙っていた。

しかし、そのまま動いたのでは狙いが露見する可能性もある。

それ故に、小手先の弥縫策かのように見える策を打ち、銀河連盟艦隊の動きをある種、軽視させたのだった。

 

「全艦、散開!」

 

起源国艦隊の位置が所定ポイントまで移ってきたタイミングで、基之の指示が銀河連盟艦隊へと飛んだ。

 

向かい来る起源国艦隊に道を譲るようにして立方体は散開していき、傍目に、艦隊の動きだけを見れば、まるで起源国艦隊の紡錘陣によって銀河連盟艦隊が陣を突破され、大損害を受けているかのようだった。

 

だが、実際はそうではない。

タイミングを合わせて起源国艦隊の周囲を取り囲むようにして次々移動していく。

そして、銀河連盟艦隊があらゆる方向から起源国の艦艇を撃ち抜いていき、この会戦始まって以来、漸く、基之は自らの思惑通りに事を運ぶことが出来てもいた。

 

これによって、2個半近い艦隊を漸く2個艦隊程度。

つまり、会戦開始時における銀河連盟と同数程度、にまで起源国艦隊はその数を減らすこととなった。

 

しかし、それでもなお彼らは健在であり、戦闘はなおも終わることはない。

 

そして、損害を受けながらも、起源国艦隊は包囲トンネルを抜けきり、体勢を立て直す。

 

勿論、銀河連盟艦隊も、陣を再び組み替えていた。

既に正面対決をしても、勝敗は分からない、と言える程度には起源国の艦艇を減らしてはいる。

しかし、それでも基之は油断する事なく、起源国艦隊を削り取る腹積もりでいた。

 

「此方がせめて数において上回るまでは、相手により多くの出血を強いるべきだろう。

奴等に勝つ為には、まだ、減らし足りない」

 

次は、誘引を狙うのではなく、積極的な攻勢によってそれを成さんと基之は思考していた。

 

さすがに、3回も誘われてはくれないだろう。

 

基之はさすがに似た手をもう一度、とするわけにもいかないと、攻勢を計画したのだ。

 

無論、紡錘陣という単純な手段は取らない。

本気の攻勢であると、確実に認識させねばならないのだから。

 

起源国艦隊、イスカンデルも攻勢を企図していた。

既にじわりじわりと戦力を削られている現状。

敵の出方を伺っていては、主導権を渡し続けるだけである。

会戦のイニシアチブを握るには、積極的な攻勢こそが最良。

 

イスカンデルは、そう判断し、艦隊に前進を命じる。

陣立ては目新しいものではない。

会戦初頭の方陣─正方形に広がる基本陣形の一つ─でもって真正面から銀河連盟を受け止める格好を取っていた。

 

しかし、それは粗雑さや、彼の作戦能力の限界を示しているわけではない。

彼は一つの連絡を地球より受け取っていたのだ。

 

「閣下!アルワタンの統合省より直接の連絡!」

「なんと?」

「符号"太陽の加護を"で、あります!」

 

ニヤリ、とイスカンデルは笑う。

 

「よろしい!で、あれば、我々は奴等を受け止めるのみ!」

 

起源国にとっての最大のアドバンテージ。

それは、背水の陣とも言える地球圏内を戦場としたことによって生まれている。

即ち、地球よりの直接的な援助。

 

基之は、最初の宇宙での会戦にて自らが利用した地の利。

つまりはホームグラウンドであるが故の、有利。

今度は起源国が、それを利用し、基之はそれを受け止めなくてはならなくなった。

 

しかし、現時点での基之は、その未来を、知らない。

 

「陣立てをW陣に変更!」

 

天頂から俯瞰すれば、アルファベットのWかのようになるような陣形である。

しかし、前段階として、まずは方陣を組む必要がある。

 

もう何度目か分からない陣形の変更。

それも複雑なものが何回も、だ。

これには、板堂の叫びが、かなりの数の銀河連盟兵の内心を代弁することになる。

 

「何回目だよ!さすがにキツイって。

時間もかかるし、通信も万全じゃないってのにさあ」

 

ぼやきながらも、得意のサボりに走ることはなく、板堂も各所への連絡に駆け回っていた。

その合間を縫っての抗議、と言えるだろう。

 

「すみません。けれど、必要なことです」

「必要って…あのなあ、陣形変更ってのは隙が大きくなるんだぞ」

「承知しています」

「…その間、下手すりゃ撃たれ放題だ」

「ですね」

「ですねじゃねえだろ。無駄に死ぬかもしれねえんだぞ?!」

 

今更、下手な言い逃れをするつもりもない基之は、ただ静かに憤りを受け止めていた。

熱情のあった頃の彼ならば、「では、最初の陣形のまま、無様に突撃して負けたいのですか?」等と嫌味の一つも言っていただろう。

だが、今の彼には、その熱すらない。

 

とは言っても、周りの人間はそれを放置するほどに薄情でもなければ、危機意識に欠ける人間でもない。

ジョン・アレンが板堂を嗜めつつ間に入った。

 

「しかし、敵の策に対応する為の窮余としての場面以外で、陣形変更の際に撃沈した船は今の所ない、という事実があります」

「何が言いてえ」

「基本的に、敵も、基之司令も、似たタイミングで陣形を変えているのです。

相手の出方に合わせている、という側面もあるでしょうが」

 

何より、とジョンはメインモニターに映る、宇宙空間を数多煌く光跡を見、言う。

 

「この変幻なる陣形こそが最大の攻防なのです。

…それに、もっと単純な話としてお互いに陣形変更の隙を狙われるなんてバカはやりたくないですからね」

「だから似たタイミングを狙うってか?」

 

柔らかい物腰ながらも有無を言わせぬ気勢を感じたのか、板堂のボルテージはみるみると下がっていっていた。

 

「今までもそうでしたが、結局の所、どんなに実力に開きのある指揮官であっても、相手の策に対して突っ立ってるだけ、なんてのはいなかったでしょう?」

 

明子も加わり、板堂に過去を巡らせる。

彼、そして、彼の不満にある程度同情的、同調的であったオペレーターや司令室にいる者達も、同じく説得されつつあった。

 

しかし、全ての艦に赴き、そのような時間を浪費することは出来ない。

 

「そりゃあ…そうだったかもしれねえけどよ…」

「だから、無意味な陣形変更を連発したり、敵の掌の上で上手にダンスを踊らない限り、特別に危険に晒されるということはない」

 

少なくとも、と明子は肩を揺らす。

 

「基之のダンスは上手ではないでしょ?」

「はっ。ちげえねえ。ノリも良くねえしな」

「…本人の前で話します?」

「話題がないよりは良いだろ?」

「ああ言えばこう言う…」

 

思わず苦笑を浮かべる基之の姿は、以前までの彼のようだった。

板堂は少なくとも、それを感じたのだろう。

 

彼が信じているのは、冷たい指揮官となりつつあった基之ではなく、嫌味やツッコミを飛ばす、仲間なのだ。

 

旗艦、ハルキマスは板堂の人脈も鑑みると、それで済むだろう。

だが、他の艦において必要なのは、下手なジョークなどではない。

 

純然たる、実績。

損害を受けてしまっている以上、既に崩れた不敗神話には頼れない。

そうであるならば、眼前の銀河連盟艦隊に対し、有利を、視覚的にも示し続ける必要がある。

 

W陣はその点、有効であった。

 

基之の狙い。

この陣形の意味は、起源国の方陣との距離が縮まるにつれ、明らかとなる。

 

まず、方陣同士の接敵を演じる銀河連盟艦隊。

 

互いの力戦が始まり、正面衝突の様相となる。

起源国艦隊も、無論、彼らには別の狙いがあるのだが、それとは別に、と言うべきだろう。

 

功名心というものは誰にでもある。

 

少なくとも、この戦争に起源国が勝ったとしても、あとに残るのは大した戦力を有しない地上に縛り付けられた叛乱軍。

 

起源国軍人が、少なくとも、現世代の軍人が、大きな功績を上げる機会は、ここが最後となろう。

それに加え、祖国の荒廃もかかっているのだ。

自然、力も入る。

 

そうして眼前の敵に集中してしまった一部の起源国艦は、気付いていなかった。

徐々に後退していく一部の銀河連盟艦隊に合わせて突出してしまっていることに。

 

 

Wの先端、右翼、左翼、そして中央部は位置を変えず、その間に位置する艦艇が後退し、敵を誘引する。

突出した事で、Wの先端以外の部分に陣取った艦艇に被弾面積の大きな側面を晒す格好となった起源国艦は、次々とレーザーやミサイルの直撃を受け、宇宙に滞留する爆炎を幾つも生み出していく。

 

結果として、起源国艦隊は基之の策に乗せられてしまった。

 

勿論、銀河連盟艦隊も無傷とは行かない。

正面対決を担ったWの先端部の艦は、誘引した敵艦の撃滅が終わる頃には、先端が削り取られるようにして、入れ替わっていた。

 

それでも、成功を示すことは出来た。

だが、起源国の狙いは、それで折られるものではない。

 

地球よりの、強力な援軍が、ついに宙域をカバーする両軍のレーダーに映った。

 

「ミサイル…!弾道ミサイル群が艦隊に向かってきています!」

「地球からか…!単座戦闘機部隊は対応可能か?」

「…先程の戦闘に出撃していた為、殆どが補給待ちです…!」

「…EMPミサイルを撃て!」

 

在庫は少なく、乱用は出来ないものの、ここで使わねば、艦隊に取り返しのつかない損害が生まれかねない。

 

発射されたEMPミサイルによって、弾道ミサイル群はその機能を喪い、目的地へとたどり着くより前に炸裂。

 

戦域より離れた宙域で、閃光の如き瞬間の、太陽が数十、産まれた。

 

しかし、起源国も当然、それの存在は知っている。

そう、ミサイルだけで終わりではない。

 

EMPミサイルの弱点は、ただでさえジャミングの激しい戦場において、電波を用いるシステムを軒並み、一定時間無用の長物としてしまうことにある。

 

そう、今は、レーダーを使えない。

 

弾道ミサイル群に遅れて戦場へと突貫し始めた、小艦隊。

小惑星帯に配備されていたのと同じような、旧式艦や、解体寸前であった艦、5隻である。

 

この作戦の為だけにあえてこの分艦隊程度の艦は残されていたのだ。 

 

無人ではない。

完全に無人動作するシステムを実装するだけの時間的余裕は彼らにはなかったのだ。

そもそもが、無人化ならぬ有人化を推し進めてきた起源国は、他の星系よりも無人化に必要なAI技術等は、遅れていた。

 

唯一、地球、起源国に対して外惑星諸国が優位に立てていた分野と言えるだろう。

だからこそ、銀河連盟には出来たことが、起源国には出来なかった。

 

それでも、人は腐るほどいる。

軍人も。

なればこそ、答えは単純。

 

有人艦でもって、特攻させるのみだ。

 

戦場において、肉眼で視認可能な距離にまで迫られた時点では、手遅れであった。

 

退避は、幾ら性能の劣る旧式艦相手でも、間に合わない。

亜光速で迫る艦から、逃れる術は、一つ。

 

「迎撃しろ!」

 

指示を出しながらも、さすがに基之は悔しげであり、喘ぐような声を挙げる。

さすがに今の彼にとっても、衝撃であり、策に嵌められた自らに、強い憤りを覚えたのだ。

 

迎撃ミサイルや、どうにか間に合った幾らかの単座戦闘機が五隻を狙う。

まず、二隻は撃ち落とすことに成功した。

しかし、残る三隻の内、一隻は分艦隊の旗艦"ダジボーグ"に直撃。

その分艦隊の他艦艇も特攻艦に積まれていた水爆の影響により、小破以上の損害。

 

残り二隻は直撃こそ避けられたが、甚大な影響を銀河連盟艦隊に及ぼすこととなる。

 

一隻は炸裂した水爆によって二隻を大破させ、機能を停止に追い込む。

つまり、実質的な撃沈だ。

 

最後の一隻は──。

 

「ぐうっ?!」

 

基之の身体は床を離れ、壁面に叩きつけられていた。

直撃は単座戦闘機部隊の奮闘と、そして、光に呑まれることとなった犠牲によって逃れた。

だが、爆炎は、衝撃は総旗艦"ハルマキス"に届いてしまった。

それも、僅かに、というものではなく、直撃による撃沈は免れた、と言うしかない程の惨事を生んだ。

 

メインカメラを喪った艦はオートで司令室を有視界とするべく、艦の天頂へとブロックを移動させる。

 

その司令室も、突如の衝撃によって十メートル以上吹き飛ばされて身体を打ちつけ、命を喪っただろう兵や、生きてこそいるものの、まともに動けずにいる兵。

酷い有様となっていた。

 

「基之…生きてる?」

「俺はな…」

 

彼は周りを見渡し、何処か現実感を喪いながらも、オペレーターらがどうにか持ち場へと戻らんとしているのを見ながら、目の端では彼らを探していた。

 

「板堂?ジョン?無事か?」

「……いってえ…背中痛え…」

 

比較的元気そうな板堂に安堵してから、基之ははた、と指揮台に戻り、眼前に目を下ろした。

 

「…!」

 

ジョン・アレンがそこには倒れ伏し、既に駆けつけていた医官らや兵に囲まれ、救命措置を施されていた。

 

「ジョン…!」

 

しかし、彼の身ばかりを心配はしていられない。

次なる問題が彼を襲う。

 

「基之司令!この艦はもうだめです!機関に異常を検知!長くは保ちません!」

 

一同はギクリとしたように報告を上げたオペレーターに目を向けてから、基之の方へと視線を集中させた。

 

「……………ふ──負傷者を救助しつつ、退避!近傍の旗艦級は?!」

「"アルテミス"です!」

「では"アルテミス"を総旗艦とする!先に連絡だけ出しておけ!それと、ハルマキス全艦に通達!医官を除く非戦闘要員から退避しろ、と!」

「はっ!」

 

それから、と艦橋に残ったオペレーターに基之は尋ねる。

 

「機関部はまだ動くか?」

「──安全性は担保出来ませんが、とのこと」

「了解。では、自動操縦を我々の退避後、オンになるよう設定してくれ。ルートは、ここまでの戦闘で分析した敵総旗艦を目標に、だ」

 

恐らく、敵も同じように分析したのだろうな。

基之はそんな事を思いながら、退避準備の進む艦にて、ギリギリまで星図と肉眼を頼りに、数人のオペレーターと共に指揮を続けた。

 

1時間後──。

 

基之は最後の脱出艇に乗ることを、本心では希望したい所であったが、立場がそれを許さないことも理解しており、非戦闘要員脱出後、即座に飛び立った。

それから続々と戦闘要員の乗った脱出艇が飛び出していき、最後の脱出艇が艦を出てからほぼ間を置かずに、自動操縦が働き、"ハルマキス"は敵陣に向かって、一人、突貫を開始した。

 

「ありがとう。ハルマキス。…すまない皆」

 

起源国から奪い取り、ここまで基之らと運命を共にしてきた艦は、起源国の下へと帰っていく。

弔われる事なく、艦に残された人々を乗せて。

 

爆弾として──。

 

彼は総旗艦"アルワタン"に辿り着くことはなかった。

当然、途中に陣取る起源国艦が見逃す筈もないからだ。

 

しかし、混戦模様となりつつあった戦場において、実質的に沈められた艦への注意は他に対するものよりは散漫となっており、反応が遅れたのだろう。

超水爆と化したハルマキスの炸裂によって、数隻の起源国艦は爆発し、或いは、歪んだ次元に巻き込まれ、互いに衝突をした。

 

総旗艦には大した損害を与えられはしなかったものの、W陣による損害も合わせ、起源国艦隊の陣形、秩序を大きく乱すには充分だった。

 

ハルマキスの最後に放った光は、総旗艦を失い、陣を乱され、形勢を不利としつつあった銀河連盟に、光明を残した。

 

"地平線のホルス(太陽神)"は、銀河連盟に夜明けの光を、齎したのであった──。

 

 

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