光の軌跡   作:社畜A

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第12話 新たな挑戦

栗東トレーニングセンターの調教が終わった後、三上光輝は池田厩舎でブルーダイヤモンド号の調教後のデータを確認していた。天皇賞・春から一週間が経ち、次の目標である宝塚記念に向けて調整を始めたところだった。

「三上くん、ちょっといいかな」

声をかけてきたのは池田調教師だった。その横には吉野誠一と、もう一人見知らぬ中年の男性が立っていた。豪華なスーツに身を包み、自信に満ちた表情をしている。

「こちらは松原グループの松原隆志社長だ。三上くんに会いたいと来られたんだ」

三上は深々と頭を下げた。松原グループといえば国内有数の大手企業で、競馬界でも有力オーナーとして知られていた。

「初めまして、三上です」

「やはり実物も凛々しいな」松原は満足げに頷いた。「天皇賞・春、見事な騎乗だった。あの内からの抜け出しは神業だよ」

三上は静かに礼を言った。松原の来訪の目的は明らかだった。

「実は三上くんに、うちのマツリダゴールドに乗ってほしいんだ。かしわ記念を考えている」

松原の言葉に、三上は少し驚いた表情を見せた。マツリダゴールドはダート重賞に複数回挑戦している有力馬だが、気性が荒く扱いづらいことで知られていた。

「三上くんを見つけ出したのは吉野さんだしね、仁義は切らせてもらったよ。どうだろう?」

三上は吉野の方を見た。吉野はわずかに笑みを浮かべていた。

「私は構わないよ。他の馬に乗って経験を積むのも良いことだ。特にダートでのG1は、三上くんの今後のキャリアにとっても重要だろう」

吉野の言葉には優しさがあったが、続けて松原に向けて言った言葉には皮肉が混じっていた。

「松原さんは後追いがお上手だな。ブルーダイヤモンドが勝つまで三上くんに目を向けなかったのにね」

「ビジネスは常に結果だよ、吉野さん」松原は気にした様子もなく、むしろ愉快そうに笑った。「君は先見の明があって、私は結果を重視する。それだけの話さ」

二人のオーナーの間に流れる微妙な緊張感を感じながらも、三上は自分の気持ちを整理していた。自分はアメリカでダートを中心に騎乗してきた。「ダート専用機」と揶揄されながらも、その経験が自分の基礎を作った。そして今、芝のG1を二連勝した後に、再びダートで腕を試す機会が訪れている。

「マツリダゴールドに乗らせていただけるなら、ぜひお願いしたいです」

三上の声は静かだったが、確かな意志が感じられた。

「気性が荒いと聞いていますが、一度調教で会わせて頂ければ」

松原の顔に笑みが広がった。「期待していたよ。君なら扱えると思っていた」

「マツリダゴールドは素質十分だが扱いづらい馬だ」池田調教師が補足した。「三上くんの騎乗なら、あるいは...」

三上はわずかに頷いた。内心では、自分の原点であるダートでの騎乗に胸が躍るのを感じていた。芝のG1は大阪杯、天皇賞と制したが、本当の意味での「自分の騎乗」を証明するには、ダートでも結果を出す必要がある。

「明日の朝、調教で乗せてみよう」池田調教師が言った。

その日の夕方、吉野は三上を呼び止めた。

「松原の馬に乗ることは、君のキャリアにとって良い経験になるだろう。ただ、マツリダゴールドは難しい馬だ。騎手を選ぶタイプでね」

「挑戦したいです」三上は迷いなく答えた。「もともと私はダートで育ちました。その経験を活かせる場所でもあります」

吉野はじっと三上を見つめた。そこには今までの三上からは感じられなかった熱意があった。「氷の男」の内側に、確かな炎が灯っているのを吉野は感じた。

「久しぶりにダートを走るのが、楽しみなんだね」

三上は珍しく微笑んだ。「はい。ダートは...私の故郷のようなものです」

吉野は満足げに頷いた。あの天才騎手ミシェル・キンネが言った言葉を思い出していた。「真の騎手は、どんな地面でも、どんな馬でも、その力を引き出せる者だ」

松原グループのマツリダゴールドが、三上光輝にとって新たな挑戦となることは間違いなかった。そして、「ダート専用機」と揶揄されていた過去が、今度は彼の武器となる皮肉な展開が待っていた。

 

 

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