光の軌跡   作:社畜A

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第29話 アメリカ競馬の勉強会

静かな東京の夜景を背に、YouTubeのスタジオセットが設置されたマンションの一室。「Winning Horses」の撮影を終えた菅原優華と、Ray誌の撮影を終えた山野みづきが、大きな窓の前に座っていた。

「お疲れ様でした」山野は微笑みながら菅原に飲み物を差し出した。「三上さんの特集、とても興味深かったです」

「ありがとう」菅原は優雅に茶碗を受け取った。「でも、視聴者からは『アメリカの競馬のことがよく分からない』という声も多いのよ」

山野は少し考え込む様子を見せた。「そういえば、Ray誌の読者アンケートでも同じような反応があったわ。三上さんの活躍は素晴らしいけど、アメリカのレースの重要性や位置づけが分からないって」

「そうよね。日本の競馬ファンでも、アメリカ競馬に詳しい人は少ないもの」菅原はテーブルの上に置かれた資料に目を向けた。「せっかくだから、二人でYouTubeでお喋りしながら解説してみない?三上さんの7月から9月までの活躍と、これからの挑戦について」

「いいアイデアですね!」山野は目を輝かせた。「私も勉強になります」

菅原は微笑み、資料を開いた。「では、まずアメリカ競馬の基本的な仕組みからご説明しましょうか」

 

アメリカ競馬の基本構造

菅原は図表を指しながら説明を始めた。「アメリカの競馬は日本とは根本的に違う体系なんです。日本ではJRAという一つの組織が全国的に競馬を運営していますが、アメリカでは各州や地域ごとに独立した競馬場があって、それぞれが自分たちのレースプログラムを持っています」

「まるで47都道府県が別々の競馬を運営しているようなものですね」山野が理解を示した。

「そうそう。そして重要なのがグレード制度」菅原は続けた。「日本と同じくG1、G2、G3の3段階があって、G1が最高峰ですが、アメリカでは芝とダートの位置づけが日本と大きく違うんです」

「どう違うんですか?」

「日本では芝レースが主流で格が高いですよね。でもアメリカではダートレースの方が歴史も長く、権威も高いことが多いんです」菅原は熱心に説明した。「例えば、ケンタッキーダービーもベルモントステークスも、アメリカの三冠レースはすべてダートで行われるんですよ」

「へぇ、知りませんでした」山野は驚いた様子で言った。「三上さんがアメリカから来た時『ダート専用機』と呼ばれていたのも納得です」

「そうなんです。実は日本で『ダート専用機』というのはある種の皮肉でしたが、アメリカで言われたらむしろ誉め言葉なんですよ」菅原は笑った。

「主な競馬場はどこになるんですか?」山野が尋ねた。

「ニューヨーク州のベルモント・パーク、サラトガ、アケダクト。ケンタッキー州のチャーチルダウンズやキーンランド。カリフォルニア州のサンタアニタやデルマーなどが有名です」菅原は地図を指しながら答えた。「特にサラトガは『王者の墓場』と呼ばれる難関コースで有名なんですよ」

「王者の墓場?」山野は興味深そうに尋ねた。

「ええ、多くの名馬や名騎手がそこで敗れてきたから。セクレタリアットもマンノウォーもそこで負けたんです」菅原は説明した。「だからこそ、三上さんがサラトガで『サラトガ・スペシャリスト』として認められたことは、すごく価値があるんです」

 

三上光輝の7月~9月の活躍

「さて、三上さんの7月から9月の活躍を振り返りましょうか」菅原はタブレットを開いた。「彼はこの期間、主にニューヨーク州のサラトガを中心に活動していました」

「エクイティ・レーシングの『サラトガ・スペシャリスト』と、ネクストジェネレーション・ブラッドストックの『若馬投資アドバイザー』という二つの役割を持っていたんですよね」山野が補足した。

「よく覚えていますね」菅原は微笑んだ。「では主な成績を見てみましょう」

菅原は7月前半のベルモント・パークでの成績、7月後半のサラトガ開幕からの結果、8月のサラトガ盛期の活躍、そして9月のベルモント秋開幕での成績を詳しく説明した。

「特に9月18日のウッドワードステークスでの勝利が重要でした」菅原は熱心に語った。「このレースはアメリカのダートG1の中でも歴史と権威のある一戦で、過去にはシアトルスルーやアファームドなど伝説的な名馬が勝利しています」

「そのレースで三上さんが勝ったことは、アメリカでも大きな話題になったんですね」山野は理解を示した。

「ええ。この3か月間で三上さんは『Versatile Rider from Japan』、つまり『多才な日本人騎手』という評価を得たんです」菅原は誇らしげに言った。「芝とダート両方で結果を出し、さらに異なる競馬場、異なる距離、様々なタイプの馬で活躍したことが評価されたんです」

「それって、かなり稀有なことなんですか?」山野が尋ねた。

「とても珍しいことです。アメリカでは『芝専門』『ダート専門』『短距離専門』『長距離専門』と、騎手もある程度専門分化しているんです。でも三上さんは、どんな条件でも対応できることを証明したんです」

 

今後の挑戦レース解説

「では、三上さんの10月以降の主な挑戦レースについても説明しましょうか」菅原はカレンダーを指さした。

「最初に挑戦するのがジョッキー・クラブゴールドカップですね」菅原は解説を始めた。「ベルモント・パークで行われる伝統あるG1レースで、1918年から続く歴史あるレースです。距離は約2000mのダートレースで、秋のベルモントの主要レースとして位置づけられています」

「日本で言うとどのくらいのレベルのレースなんですか?」山野が質問した。

「そうですね...天皇賞(秋)くらいの位置づけでしょうか。ブリーダーズカップクラシックの前哨戦としても重要なレースなんです」

続いて菅原は、チャンピオンステークス、クイーンエリザベスIIチャレンジカップステークス、サンタアニタスプリントチャンピオンシップについても詳しく説明した。

「そして11月5-6日には、ブリーダーズカップが開催されます」菅原は興奮した様子で語った。「これはアメリカ競馬の年間チャンピオンシップとも言えるレースシリーズで、2日間にわたり14のグレードレースが行われるんです」

「ものすごいイベントなんですね」山野は感心した。

「ええ、総賞金額は3100万ドル、約34億円にも上ります。まさに『競馬のワールドシリーズ』と呼ばれているんですよ」菅原は説明を続けた。「三上さんは両日で計5レースに騎乗する予定です。初日にはジュベナイルターフでターフスター号、ジュベナイル・フィリーズでエンライトンド、ジュベナイルでスカイピーサーに騎乗。二日目にはターフでマジェスティックムーン、クラシックでアクセレレーターに騎乗します」

「数多くの重要レースに騎乗するんですね」山野は驚いた様子を見せた。

「特に日本馬のマジェスティックムーンでの挑戦は注目です。日本からの遠征馬での勝利となれば、日本競馬界にとっても大きな一歩になるでしょう」

 

日米両国でのG1制覇の意義

「最後に、三上さんが日本とアメリカ両国でG1を勝つことの意義について考えてみましょう」菅原は真剣な表情で語り始めた。

「これまで多くの日本人騎手が海外G1を勝利していますが、三上さんのような経歴の騎手はいませんでした」菅原は熱心に説明した。「アメリカで修業し、日本に短期免許で来て成功し、再びアメリカに戻ってG1を制するという『二つの大陸を駆ける』スタイルは前例がないんです」

「三上さんの経歴は本当に映画みたいですね」山野は感慨深そうに言った。「クレーミングレースというアメリカ競馬の底辺から始まって...」

「そうなんです。三上さんはアメリカの騎乗スタイルを完全に身につけた上で、日本の繊細な騎乗技術も融合させるという独自のスタイルを確立しています」菅原の声には尊敬の念が滲んでいた。

「彼の挑戦は、単に個人の実績を積み上げるということだけでなく、日米の競馬文化の架け橋になるという意味でも大きな意味を持っているんですね」山野が理解を示した。

「その通りです」菅原は頷いた。「『二つの大陸を駆ける』というのは単なるキャッチフレーズではなく、三上さんの騎手人生の本質を表す言葉なんです」

「10月から12月にかけて、三上さんはどんなレースに挑戦するんですか?」

「日本では天皇賞(秋)、ジャパンカップ、有馬記念という三大G1に挑戦します。そしてアメリカではブリーダーズカップの5レースに騎乗が決まっています」菅原は期待に満ちた表情で言った。

「ブリーダーズカップでどんな成績を残すと思いますか?」山野が興味深そうに尋ねた。

「マジェスティックムーンでのターフは最も期待できますね。日本馬の特性が活きる長距離芝レースですから」菅原は分析した。「それとアクセレレーターでのクラシックも楽しみです。サラトガでの勝利を考えると、彼との相性も抜群ですから」

「この前例のない挑戦が、どんな結果になるのか楽しみですね」山野は笑顔で言った。

窓の外では東京の夜景が輝き、遠くに見えるスカイツリーの明かりが二人の視線を捉えた。

「菅原さん、今日はありがとうございました」山野は微笑んだ。「三上さんのことが、もっと理解できた気がします」

「いいえ、こちらこそ」菅原は優雅に茶碗を置いた。「三上さんの挑戦をこれからも一緒に見守っていきましょう」

二人は静かに頷き合い、夜景を眺めながら、二つの大陸を駆ける男の未来に思いを馳せたのだった。

 

 

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