光の軌跡   作:社畜A

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第8話 BS11「Winning Horses」天皇賞予想特集

「こんばんは、BS11『Winning Horses』へようこそ。本日のMCを務めます菅原優華です」

スタジオのセットは芝生と桜をイメージした春らしいデザインに変わっていた。天皇賞・春を控え、番組は毎回より多くの視聴者を集めていた。菅原の隣には競馬評論家の中村誠と、元JRA騎手の高田浩二がゲストとして座っている。

「先週は三上光輝騎手の特別インタビューをお送りしましたが、今週は来週に迫った第166回天皇賞・春の展望をお届けします」

菅原の表情は穏やかだが、目には確かな輝きがあった。スタジオ後方の大型スクリーンには「天皇賞・春 ―3200mの激闘―」というタイトルが表示されている。

「先日は貴重なインタビューを放送していただき、ありがとうございました」と高田が話を切り出した。「三上騎手の素顔に迫る素晴らしい内容でしたね」

菅原は微笑んだ。「ありがとうございます。三上騎手は『氷の男』と呼ばれていますが、馬と接するときの表情は温かく、誠実な印象を受けました」

「あのインタビューを見て、三上騎手の評価が変わった視聴者も多いのではないでしょうか」と中村が続けた。「特に『クレーミングレースで様々な馬に乗った経験』が彼の強みだという点は興味深かったです」

菅原はうなずき、スクリーンに天皇賞・春の出走予定馬一覧が映し出された。

「それでは本題の天皇賞・春の展望に入りましょう。今年の注目は何といっても大阪杯を制したブルーダイヤモンド号と三上騎手のコンビネーションです」

スクリーンには大阪杯のレース映像と、ウイナーズサークルに立つブルーダイヤモンド号と三上の姿が映し出された。

「高田さん、三上騎手の騎乗についてどのような印象をお持ちですか?」

元騎手の高田は真剣な表情で答えた。「大阪杯での第4コーナーの判断力は見事でした。私も現役時代にあのような狭い隙間に入る勇気はなかったかもしれません。しかし、天皇賞は2000mから3200mへと大幅に距離が延びます。ここは別の騎乗技術が問われるでしょう」

「具体的にはどのような点でしょうか?」

「ペース配分です」と高田は即答した。「大阪杯は比較的速いペースでの勝負でしたが、天皇賞はスタミナ勝負。序盤から中盤にかけて馬のエネルギーをいかに温存するか、そして最後の直線でどのタイミングで仕掛けるか。この判断がレースを分けます」

中村が補足した。「三上騎手が『馬の声を聞く』と表現する能力も、長距離になると別の意味を持つかもしれません。スピード勝負ならば瞬間的な判断が重要ですが、スタミナ勝負では馬の疲労度合いを長い時間読み取る必要があります」

菅原は静かにうなずいた。インタビューで三上と直接話した経験から、彼のことをより理解できるようになっていた。

「私が印象に残ったのは、三上騎手が『馬に教えてもらっている』と話していたことです。ブルーダイヤモンド号との信頼関係が、距離を問わず彼の強みになっているのではないでしょうか」

スクリーンには三上と馬が接する様子が映し出された。インタビュー映像の一部を編集したものだ。

「さて、予想印に移りましょう」

画面が切り替わり、天皇賞・春の出走予定馬と各予想家の印が表示された。

 

出走予定馬       中村 高田 菅原

ワールドキング     ◎  ◎  ○

ブルーダイヤモンド   △  △  ◎

ボンドマティーニ    ○  ○  △

プラトン        ▲  ▲  ▲

ビーンドール      ×   ×   ×

 

「中村さんは本命にワールドキングを推していますね」

「はい。昨年の菊花賞勝ち馬で、3200mの適性は証明済みです。春のローテーションも理想的でしたし、追い切りの動きも上々。ここは堅実に◎としました」

高田も頷いた。「私も同じくワールドキングを本命に。この馬の長距離適性は折り紙付きですから。一方、ブルーダイヤモンドは△にとどめました。大阪杯は素晴らしい勝利でしたが、3200mはワールドキングには敵わないとみます」

菅原は少し考えるような素振りを見せ、ゆっくりと口を開いた。

「私はブルーダイヤモンドを本命に推したいと思います」

スタジオに少しの沈黙が流れた。中村と高田が驚いた表情で菅原を見つめる。

「理由は二つあります。一つは血統です。父ディープインパクト、母系にもスタミナ豊かな血が入っており、昨年から馬体の成長もあります。もう一つは」と菅原は少し表情を柔らかくして続けた。「三上騎手の存在です」

「三上騎手ですか?」と中村が食いついた。

「はい。インタビューで感じたのは、三上騎手の馬への深い理解と信頼です。彼はクレーミングレースで培った経験から、馬のわずかな変化も感じ取る能力を持っています。その能力は距離が変わっても有効なはずです」

高田が微笑みながら口を挟んだ。「菅原さん、ずいぶん感情的な意見ですね。あのインタビューで三上騎手のファンになられたのでは?」

スタジオに軽い笑いが起きた。菅原は少し赤面したが、すぐに冷静さを取り戻した。

「いえ、あくまで分析結果です」と彼女は微笑んだ。「馬術経験者として、彼の馬との関わり方に共感する部分があるのは確かですが。なにより、大阪杯での彼の判断力は、単なる偶然ではなく確かな技術だと感じたんです」

中村は興味深そうに頷いた。「なるほど。確かに騎手と馬の相性は重要ですね。ただ、私としては過去の実績を重視したいと思います」

「それでは、今週の『Winning Horses』はここまで。次回は天皇賞・春の結果と共にお会いしましょう。菅原優華でした」

カメラが引いていくと、菅原は穏やかだが自信に満ちた表情でカメラを見つめていた。彼女の心の中には、三上とブルーダイヤモンド号の姿があった。まだ会ったばかりの騎手だが、彼の誠実さと馬への愛情に、何か特別なものを感じていた。

「本当に楽しみだな」

放送が終わった後、彼女はつぶやいた。天皇賞・春はレースの行方だけでなく、三上光輝という騎手の真価が問われる場になるだろう。そして、それを見届けたいという思いが、彼女の心を静かに熱くしていた。

 

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