第10話 ついに解かれた鎖
人気の少ないアリーナで、私は自分の専用機に乗っていた。
「あは、あはは……」
「あはははははっ!!」
「か、簪ちゃ~ん……」
「かんちゃん、怖いよ~……」
「いやまあ、こうなる気持ちも分かるがな」
お姉ちゃんと本音が引いてるけど、それでも私は笑いを堪えることが出来なかった。
1組のクラス代表決定戦が終わって、織斑君が正式に代表になって数日。やっと……
やっとレッド・スコルピオを表に出せるんだから!
「簪ちゃん、最終目的を忘れてないわよねー?」
「大丈夫、ちゃんと覚えてる。如月重工のテストパイロットとして、レッド・スコルピオのデータを取る」
「うんうん」
「そしてお姉ちゃんのミステリアス・レイディを最強にして、誰も逆らえなくする」
「違うからね!?」
「大体合ってるんじゃないかな~?」
「本音ちゃんまで!?」
今現在、レッド・スコルピオには試作も含めて色んなものが積まれている。
・連射型荷電粒子砲『春雷』
・96連マイクロミサイル『山嵐改』
・輻射波動『メメントモリ』
・無線誘導ビット『GNファング』
・SE吸収ナノマシン『月光蝶』(試作)
この内、月光蝶は完成したらミステリアス・レイディに渡す予定。光子対消滅反応魚雷と合わさって、もはや最凶。
それ以外にも、載せたいものはいっぱいある。何より……
「やっとこれで、織斑君に山嵐を……!」
「結局そこなのね……」
それ以外にも、まだ
「まあまあ。簪の想いは分かったから、今日のところは久々の動作確認から始めようぜ」
「あ、うん」
陸の言う通り、入学前に月光蝶のテストをして以来、まともに動かしてなかったから、少し準備運動は必要かも。
そう気を取り直してたら、陸も専用機である『陰流』を展開していた。
「俺も、こいつを動かすのは久々だからな。とはいえ、手加減してくれよ? さすがにお前の全力をぶつけられたら、
そう言って、
「陸は全力?」
「そりゃそうだろ。機体を変えたとは言っても、お前のレッド・スコルピオより性能は下だからな」
陸の乗るIS、陰流。前世では私が乗ってた機体と同じ打鉄の系譜だったけど、今は陽炎をベースにした機体に変わっている。おかげで性能が7割増しになったらしい。
どちらかといえば、性能より『如月重工の人間が倉持ベースの機体に乗ってることが問題』って理由からなんだけど。
私も
「
陸の口から、摩利支天経が紡がれる。陸の流派、タイ捨流の掛け声みたいなものらしい。それとともに、大太刀が右肩辺りまで持ち上げられる。
「それじゃあ……始め!」
お姉ちゃんの合図で、さっそく陸が距離を詰めてきた――!
ーーーーーーーーーーーーー
「これは……」
「すごいとしか言い様が無いですね……」
1年4組の宮下と更識妹の専用機が運ばれると聞いて、山田先生と一緒にアリーナに来てみたらこれだ。
何でも、更識妹は元々如月重工のテストパイロットをしており、今回その時の機体を持ち込んできたのだとか。
「宮下君の機体は、陽炎をベースにしたカスタム機みたいですね」
「そのようだ。しかし、更識妹の機体、あれは現行のどの機体とも合致しないな」
どちらも機動性重視の機体ということは分かる。しかし、これが本当に第3世代機なのか……?
――ギィィンッ! カキィィンッ!
「う、動きが追い切れません……!」
山田先生が唸るが、それも仕方ない。現に、私ですら2人が打ち合う瞬間を補足するのがやっとの状態だし、打ち合う瞬間以外はほとんど目に移らない。まさか、瞬間移動などとは言わんよな……?
(カタログスペックは送られてきたが、とんでもない機体を……)
学園へ搬入される際、要求した情報の中にあの機体のスペックデータも存在していた。
倉持技研が未だ試作段階の荷電粒子砲、マルチロックオン・システム搭載のマイクロミサイル……おまけに輻射波動だと?
「提出されたスペック通りなら、更識さんに勝てる機体はありません」
「山田先生でも無理ですか?」
「はい。更識さんが素人なら或いは……とも思っていましたが、今行われている模擬戦……動作確認でしたか、それを見る限り、代表候補生レベル以上です。勝ち目がありません」
真耶がそうはっきり言い切るか……分かってはいたが、更識姉妹、恐ろしいな。
「織斑先生はどうですか?」
「私も同意です。そもそも、更識妹は本気を出していない」
「えっ!?」
私の指摘に、乗り出すように管制室の窓から下を凝視する真耶。
「あれで、本気じゃない……」
「顔を見たら分かります」
「顔……笑ってる?」
ほとんど目で追えないからと、録画映像をスーパースローにして確認した摩耶から呟いた。
そう、更識妹は開始の合図からずっと、笑顔のままなのだ。宮下の方も笑ってはいるが、あれは戦いの高揚感によるもの。更識のものとは違う。今の状況ではある意味、宮下の方が正常とも言えるな。
私とて、打ち合う一瞬、お互い動きを止めた瞬間で見えただけ。本当に、恐ろしい機体だ。
「これは、織斑にはちょうどいい試練だな」
「えっ?」
「今度のクラス対抗戦ですよ。前回オルコットに勝った所為か、最近のあいつは少し調子に乗ってますからね。ここで伸びた鼻を折っておきましょう」
そうは言っても、オルコットとの模擬戦をお膳立てした甲斐はあった。今の一夏には、何よりも経験が足りないからな。次の対抗戦で、もっと多くの経験を積ませてやらねば。
「織斑先生、まだ理事長から怒られ足りませんか?」
「うっ!」
ま、摩耶……痛いところを……
「聞きましたよ。代表決定戦の後、織斑君やオルコットさんと一緒に叱責を受けたって」
「それは、だなぁ……」
「あの時は私も止められなかった責任がありますが、今度はきちんと問題があれば止めてくださいね?」
「あ、ああ……」
一夏とオルコットの模擬戦を組むことに集中していて、あの2人が言い放ったセリフが国際問題に発展しかねないと指摘されるまで気付かなかったのは、確かに落ち度だ。おかげで、オルコットが2年のウェルキンに絞られてる間、私と一夏は理事長にコテンパンにされてしまった。
「そ、それよりもだな! 一夏の指導、続けるつもりか?」
思い切り話を逸らした私に微妙な視線を向けながらも、真耶は大きく頷いた。
「もちろんです。織斑君、一夏君の指導は先生である私の職務ですから!」
「……それ以外の思惑は無いと?」
「そうは言ってません」
「おいっ!」
すました顔で言い切ったぞ!?
「大丈夫です。きちんと"計画"は立ててますから」
「何の計画だ? おい、何の計画だ!?」
「あっ、模擬戦が終わったみたいですよ」
「おいぃぃぃぃぃぃ!!」
真耶の爆弾発言のおかげで、宮下と更識妹の模擬戦内容がほとんど頭から抜け落ちてしまった。
一夏ぁ……頼むから、学生婚と出来婚のダブルだけは止めてくれよ……あっ、お腹痛い……
ーーーーーーーーーーーーー
「いやぁ、やっぱ強ぇな」
『はいぃ。と、特にシャーリーさんが表に出てきた時とか……』
「ありゃ反則だよな。簪の死角狙ったのに、ISコアの判断でバックブースター全開で回避とか」
『ランディさんが簪さんと意思疎通しつつ、シャーリーさんが咄嗟の制御。でゅ、デュアル・コアの強みですよね』
動作確認を兼ねた模擬戦後、ピット内で振り返りをしていた俺とソフィアーのところに、刀奈がスポーツドリンクのペットボトルを渡してきた。
「はい、お疲れ様」
「どうも。んぐんぐ……ぷはぁ!」
「簪ちゃん、どんどん強くなっていくわね」
「ランディとシャーリーの力もあると思いますがね」
さっきソフィアーと言っていたように、デュアル・コアであるレッド・スコルピオは、単純に通常の2倍の性能がある。
問題は、その2つのコア両方に人格が形成……正しくは憑依していて、そのどちらも百戦錬磨の猟兵だってことだ。
「楯無さんの機体も、デュアル・コアにしますか」
「うぇぇ!? いい、一体どこからコアを用意するつもり? 如月重工に回されてるコアは、もうスッカラカンよ」
それは知ってる。ただでさえ、俺達3人分のコアを使ってる"態"になってるからな。その分割り当てを減らされたっていうのも、倉持が如月を逆恨みしてる理由の一つだったりするんだが。うむ……いっそノーマルコア(前の世界で束が作った、時結晶を使わないコア)でも積むか? あれなら今の俺でも作れるし。
ってそうだ、倉持と言えば
「そういえば、一夏の専用機はどうなったんです?」
「ああ、それね。ご丁寧に、模擬戦が終わった直後に届いたそうよ」
「全然間に合ってないじゃん」
そのくせ、一夏が陽炎に乗って試合をしたことに対して、陽炎搭乗にゴーサインを出した山田先生に抗議したそうだ。
『我々倉持技研が専用機を用意したにも関わらず、如月風情の機体に乗るとは何事ですか!?』
う~ん、馬鹿丸出し。しかもなんだよ"風情"って。
んで、さらに矛先が如月重工側、つまり刀奈に向いたらしく、内心嬉々として言い返したそうだ。
『織斑君が搭乗したのがウチの陽炎で良かったですね。これでフランスのラファールにでも乗ってたら、今頃世界中から笑い物でしたよ? 『日本は自国の男性操縦者を乗せる国産機も無いのか』って』
『な、なら! せめて打鉄に乗せればよかっただろう!?』
『残念ながら、学園内の機体は全て予約済みで、当日織斑君が使える機体は陽炎しか無かったんですよ。というか、『白式』でしたっけ? 専用機が完成するまで、倉持さんが打鉄なりを織斑君に貸し出せばよかったんですよ。そうすれば彼、本番までに打鉄で特訓出来たのに』
『う、うるさいうるさいうるさ~い!!』
刀奈の正論パンチに、最後は駄々っ子じみた捨て台詞を残して、倉持の使者とやらは学園を去ったそうな。釘宮ボイスでもない、中年のおっさんが言っていいセリフじゃねぇだろ。
「それと本音ちゃんから聞いた話だけど、織斑君の専用機、評判悪いらしいわよ」
「ああ、やっぱりか」
陽炎に乗り慣れて、しかもラファール使いである山田先生から操縦を教わったあいつが、ブレオン仕様の白式を有難がるわけがない。
あの機体に乗るメリットといえば、
『ハンドガンだけでもいいから、武装追加出来ないか聞いたんだけど『仕様です』って返されたんだよなぁ……』
とは、
さすが倉持。あの紫兎が用意した機体を、自分達が開発したとドヤ顔でお出しするだけのことはあるな。顔のツラが厚い。
「それを聞いて、箒ちゃんは嬉々としてたらしいわよ」
「ああ、篠ノ之としては、自分のフィールドで教えられるからか」
ブレオン仕様なら山田先生より、剣道一筋だった自分の方が一夏に指南出来ると考えたんだろう。なんというか、諦めの悪い奴だな。
「それとセシリアちゃんだけど、やっぱりここでもちょろインだったわ」
「それは俺も知ってます」
代表決定戦の翌日、学食で一夏の右腕にベッタリなオルコットを見ちまったからな。なお、反対側は篠ノ之が占拠していた模様。
のほほん曰く、学園長室で絞られた3人はHR中に揃って謝罪したらしい。でも織斑姉弟のことだし、今後もやらかすんだろうなぁ。(確信)
「陸遅い」
「あ~、たっちゃんも一緒だったんだ~」
その後ピットを出ると、簪とのほほんが俺達を待っていたようだ。少し話し込み過ぎたか。
「動作確認も終わったし、今日も適当に整備室に――」
「ごめんね~。私ちょっと、この後用事があるんだよ~」
ん? 珍しいな、のほほんが用事なんて。
「おりむーがクラス代表になったから、就任パーティーをやろうって話になったんだ~」
「あら、面白そうね」
のほほんの用事とやらに、お祭り好きな刀奈が反応した。
ぶっちゃけ、一夏をダシにして騒ぎたいだけなんだろうな。まあ、当の一夏がいいならいいんじゃね?
ん? なんか向こうから、ドタドタと走る音が。
「会長、やっと見つけました!」
「あら、虚?」
息を切らしながら走ってきたのは、虚さんだったようだ。こっちに近付いてくる間も、胸部装甲がドタプン揺れて……あっ、はい。何でもないからその視線をやめてくれ簪。
「急で申し訳ないのですが、この書類にサインをお願いします」
「そんなに急ぎの書類なの?」
「はい。遅れて入学することになった、中国の代表候補生が先ほど到着したそうで」
「そっか、この時期だったわね」
はい? と聞き返す虚さんをスルーして、渡された万年筆でサラサラとサインをした刀奈は、再度入学者名のところに目を通した。
「凰鈴音ちゃん、ね」
「(やっぱりあの凰か)」
「(たぶん、今回も2組のクラス代表は凰さん)」
「(だろうな。あれ? そうなると……)」
「(陸?)」
な~んか記憶の隅に引っ掛かってたんだが、そうか。
「(一夏と凰の試合中に無人機が乱入してオジャンになるから、簪の出番は無しか)」
「(っ!)」
簪、打ちひしがれる。と思ったら、すぐに復活しやがった。
「お姉ちゃん」
「簪ちゃん、どうかしたの?」
「無人機、お姉ちゃんが墜として」
「はいぃぃ!?」
「「??」」
簪ぃぃぃぃぃ!! 布仏の2人は無人機のこととか知らないから言っちゃダメだろぉぉぉ!!
「お願い。対抗戦で私、織斑君や凰さんに山嵐とGNファングを叩き込みたいの」
「ちょっとぉぉぉ!?」
「か、かんちゃん、本気だったんだ~……」
「簪様……」
しかも欲望がダダ漏れすぎるって。俺はいいけど、2人の前ではもっとオブラートに包んでおけ。
レッド・スコルピオ解禁。
やってしまいましたねぇ……(他人事
最後にはミステリアス・レイディがこれを上回る予定ですが……ダメだ、自分で書いてて想像できない(オイ
ちーちゃん、模擬戦見学。
オリ主の陰流ですら、現行機を凌駕しています。如月サイドはチートしかおらん!
そして取って付けたかのようなポンポンペイン。
ちなみに刀奈、原作でもクラス対抗戦に参加していないので、無人機の迎撃も可能……?