「さて簪、どうしてこうなったか分かるか?」
「全然」
クラス対抗戦の第1試合、凰さんに完勝してピットに戻ったら、陸にIS解除&正座させられた。解せぬ。
「もしかして、凰さんに顔面メメントモリしたのがまずかった?」
「それはいい。春雷とか山嵐とか、もっと他にもあっただろうとは思うが、結局いつかはメメントモリも披露することになるんだ。今うるさく聞かれるか、後から聞かれるかの差でしかない」
どうやら違うらしい。う~ん、他の理由……なんだろう?
「本当に思い当たる節がないって顔だな」
「うん。ぶにゅっ!」
そしてはぁ……とため息をつくと、陸は私の顔を両方から手で押してててて!
「何が『3手譲ります。どうぞ好きなように仕掛けてきてください』だ! プライドだけなら世界一の中国をおちょくってどうすんだよ!?」
「うぶぶぶ……! でも別に、中国から嫌われても問題ない。あの国、如月重工と取引無いし……」
「あのなぁ……例えばだぞ? 今回の試合を見て、中国の偉い奴が『あんな負け方するなんて、なんだあの候補生は!』ってキレる」
うんうん、それは簡単に想像できる。
「で、言われた凰もこう言い返すだろう。『アタシが弱いわけじゃない! 更識がおかしいのよ!』ってな」
「異議あり」
「却下」
即答された。私おかしくないもん。
「そしてこうなるわけだ。『なら、他の候補生達と更識を戦わせてみなさいよ! 絶対アタシの言ってることが正しいって分かるはずよ!』」
「……それって」
「後日、中国から学園に要請が来る。お前と候補生連中の模擬戦要請がな」
「ええ~……」
はっきり言ってやりたくない。凰さんならまだしも、他の候補生って前世通りなら何というか……残念? 正直、模擬戦する意味がない。
「さらにさらに『中国だけズルい、ウチも』と、他の国も自国の候補生との模擬戦要請を……」
「絶対いや! 陸やお姉ちゃんとデートする時間が無くなる!」
ここまで説明されて、私はやっと自分のやらかしに気が付いた。
調子に乗って昨日読んでたマンガのセリフを試したけど、失敗したぁ!
「刀奈や虚さんに頼んで上手く躱してもらうが、最低でも中国の2,3人とは模擬戦しないといけないだろうな」
「あうぅ……」
今更だけど『凰さん、お疲れ様』とか『そして、さようなら』とか、なんで言っちゃったんだろう……
10分前の私の馬鹿ぁぁぁぁぁ!!
ーーーーーーーーー
「これは酷い」
「そうですね」
思わず呟いた私の言葉に、真耶が即答した。
管制室で先ほどの試合を再度見ていたのだが、まさかあれほど差があるとは……。
凰も代表候補生だ。それに先手、しかも3手も譲った上に完勝となれば、今頃中国の上層部は発狂ものだろう。
「凰さん、心が折れていなければいいですが……」
「ああ……それとなく声をかけておくか」
「第2試合は織斑君が勝ちましたから、決勝戦は……」
「奴と当たるか」
元々それを期待していた部分もあったが……伸びた鼻ではなく心を折られたら、それこそ意味が無いな。
「もし織斑君が挫折して立ち直れなくなったら、私が介抱します!」
「……具体的には?」
「一夏君、おっぱいに顔を埋めてあげるとすっごく喜ぶんです❤」
「実姉を前に惚気か!?(# º言º)」
確かにお前の胸は、同姓の私からしても羨ましデカいとは思うが!
「はぁ……まあいい。それで、来賓席には政府関係者の他に、倉持技研も来ているんだったな?」
「はい。えっと確か、第2研究所の方が」
「白式の稼働状況を見に来たんだろうが、無意味に終わらんといいな」
さもなければ、中国の来賓と一緒に発狂することになるか。もし白式の雄姿を自慢しに来たのであれば、さらに発狂ものだな。
というか、あの白式は本当に倉持技研が開発したのか?
確かに私が現役時代に乗っていた『暮桜』は倉持の機体だ。だから零落白夜を再現して搭載したという理屈も通ってはいる。だが、それならどうしてあの武装だけなんだ?
あいつが要望した遠距離武装も『仕様』の一言で全て却下しているし……
「……本当は『追加しない』のではなくて『追加出来ない』?」
「織斑先生?」
「ああいや、何でもない」
口に出してしまっていたか。首を傾げる真耶に手を振り、またガラス越しにアリーナへ視線を向けた。
ーーーーーーーーー
「……」
「あ、あの、更識さん? どうして俺を睨んでんだ?」
クラス対抗戦決勝、私の目の前には真っ白なISに乗った織斑君がいた。
第3世代IS『白式』。あの機体のせいで、前世では色々嫌なこともあった。けど、今は全く何も感じない。
「ま、まあいいや。例え更識さんが相手でも、白式に、千冬姉の力を得た俺は負けない!」
「うん。お互い全力で戦おう」
凰さんとの試合では失敗したから、織斑君には普通に対応した。実際、
織斑君が刀型の武装『雪片弐型』を構える。私も夢現を構え、試合開始のブザーが鳴った瞬間
――ドドドッ!
――ドガァァァンッ!
「どわぁぁ!?」
荷電粒子砲『春雷』の連射を受けて、織斑君が吹っ飛んでいった。
「い、いきなり遠距離攻撃とか卑怯だろ!」
「試合開始のブザーは鳴ったし、これが私の武装なんだから卑怯なんかじゃない。それを言ったら、陽炎に乗ってた時にハンドガン撃ってたのは誰?」
「うぐっ! け、けど……」
「織斑君のISに飛び道具が無いのは、私じゃなくて倉持が悪い。そこは諦めて」
「ちくしょぉぉぉ! そりゃそうだよなぁ!」
織斑君も今のが八つ当たりだって自覚はあったのか、私に逆ギレすることもなく半泣きで突撃してきた。潔い、けど残念。
「山嵐、全弾発射!」
「えっ、ちょっ」
雪片弐型から延びるレーザー刃、零落白夜を振り上げた織斑君が固まったけど気にせず、ミサイルポッド内のマイクロミサイルを全て吐き出した。
――ドドドドドドドォォンッ!
「うんぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
前世でも山嵐の全弾発射はやったけど、倍の96発はやっぱり――
「はぁ~……か・い・か・ん❤」
四方八方からマイクロミサイルの追撃を受けてピンボールのように空中を跳ねる白式を見ながら、私は悦に入っていた。
『白式、SEエンプティ。勝者、更識簪』
やったよ陸ぅ! プライベート・チャネルで喜びを伝えたい!
『簪、後でまた説教な』
「ひゃひっ!?」
アイエエエ!? オ説教!? オ説教ナンデ!?
ーーーーーーーーー
対抗戦の会場で陸君と別れてから、私は学園の沿岸部を見張っていた。もちろん、ミステリアス・レイディを展開した状態で。
正直簪ちゃんの試合は見たかったけど……
「……うん、優勝以外想像出来ないわね」
初期凰ちゃんと初期織斑君じゃ、どう考えても勝ち筋が無いわ。どっちかって言うと、簪ちゃんが久々の試合でハッスルし過ぎないか心配。2人の心を折りそうって意味で。
――pipi!
「んっ、反応がアリね」
前世では奇襲を受けたけど、今回はきちんとステルス対策もしてあるのよ! 陸君が。
ハイパーセンサーを起動させると、太平洋側から高速で接近してくる物体を捉えた。サイズもISクラスだし、間違いなく篠ノ之博士が放った無人機ね。
「さてっと……無人機なら、これを使っても問題ないわよね? ……というか、いい加減使わないと、陸君からのプレッシャーがすごいのよ」
昨日も『無人機相手なら、使いますよね?』って期待の眼差しを向けられたし。私、陸君のああいう無邪気な視線に弱いのよぉ……❤
『Unknown、なおも接近中。お嬢様、そろそろ迎撃しませんと』
「おっとっと。そうだったわね」
『警告の威嚇射撃をされますか?」
「いいえ、その必要は無いわ。ステルス状態で日本の領海に侵入した時点で、撃墜されても文句は言わせないわ」
接敵まで10秒になっても目視出来ないってことは、光学迷彩もされてるみたいね。
こういう手合いは
「今回はもっとすごいわよ! フォトン・トルピード、展開!」
背部のスラスターから、音もなく空色の粒子が放出される。それだけを見れば、アクア・クリスタルから放出した水粒子のようにも見える。けど――
――パシュンッ パシュンッ
前方にばら撒かれた粒子が弾け、途端に『
「あらら、どうやらステルス装置も消滅しちゃったみたいね」
『自我の無いただの機械が相手ですが、何と言いますか……可哀そうになってきますね』
「同感」
全身装甲の無人機はご自慢のビーム兵器を使うことなく、反物質結晶体に触れた箇所から消滅していく。反物質の対消滅によって、文字通り消滅していくのだ。
そして四肢が消え、頭部も根元を残して削り取られた段階で、無人機は機能停止状態となり海に向かって墜ちていった。
「任務完了ね」
『お疲れ様でした』
「正直、勝ったどころか戦った気すらしないわ」
『そうでしょうね。今後は女権団以外に使わないことを進言いたします』
「女権団には使わせたいのね……」
過激な相方に呆れつつも、海中から無人機の残骸(といっても、胴体部だけ)を回収して、アリーナに取って返した。
「簪ちゃんの試合、まだやってるかしら?」
『どうやら決勝戦が始まったようです。映像を回します』
「どれどれ……あっ」
『あっ』
2人揃って間の抜けた声が出た。か、簪ちゃん……春雷から山嵐全弾とか、えげつないわぁ……。
簪、加減を忘れる。
この簪、前世よりもハッスルしてる……! そしてやっと、あらすじのフラグ回収です。やったね。
ちーちゃん、後輩に惚気られる。
この世界のまーやんは強い(確信)
そしてちーちゃん、そこに気付いちゃいけない(戒め)
フォトン・トルピードお披露目。
こりゃ本家(Gレコ)でも1回しか使われないはずだわ。強過ぎて尺が稼げないw
次回、理不尽な現実にのたうち回る中国と倉持技研のお偉いさんの姿をお楽しみにw