「クソがクソがクソがぁぁぁぁぁ!!」
クラス対抗戦の決勝戦終了から少しして、第2アリーナの来賓席では中年男性が罵声を上げていた。
「自国の代表候補生が試合で負けたとはいえ、ここまでマナーの悪い行動をしますかね」
「中国人ならやるでしょう。代表候補生でもない、しかも日本人学生に完膚なきまでに負けたとなれば」
「ああ、そういうことですか」
「中国や朝鮮は、前世紀から日本を毛嫌いしていますからね」
他国の来賓、特に西欧人達は、悔しさで床の上を転げ回る中国高官を冷ややかな目で見つめていた。
しかしながら、罵声を上げているのは中国人だけでは無かった。
「白式が負けた!? あり得ない! 我が倉持技研が作り出した第3世代ISは最強! しかも搭乗者はイギリスの代表候補生にすら勝ったブリュンヒルデの弟、織斑一夏なんだぞ! それでどうして如月風情のポンコツに負けるというんだ!?」
目は血走り、唾を飛ばしながら喚き散らす日本人に、周囲はある種の恐怖を感じて距離を取り始める。
「ちょっと日本さん。アンタのところのあれ、大丈夫なんですか?」
「いや、あれをウチの関係者だと思いたくないんですが……
「ザワワ……げっ、あれが噂のレイモンドか!?」
「はぁ……アメリカにまで知れ渡っているんですか……」
ものすごく嫌そうな顔をするアメリカ高官に、日本政府の役人も頭を抱えたくなった。
レイモンド=澤和。本名、澤和一郎。平凡な本名を嫌がり、自らレイモンドを名乗っている変人である。
傲慢な性格で、心の中では自分以外の人間を見下している。そのくせ秀でた能力は一つもなく、代々代議士を輩出している名家の出身というアドバンテージだけで政財界入りした人物である。
当然、所属している政党も彼を持て余していたが、澤和家の影響力を排除することも出来ず、半官企業である倉持技研に社外役員として出向……ぶっちゃけ押し付けた。
「そもそも荷電粒子砲もマルチロックオン・システムも、我々が先に考えていた武装だ! そうだ盗用だ! あんなゴミ共が持っていていい技術じゃないんだ! ならばあの武装を、あの機体を取り戻さなければ!あれは我々倉持の、いや! 私のものだぁぁぁ!」
レイモンドはこう言っているが、打鉄弐式に搭載予定だった荷電粒子砲もマルチロックオン・システムも、白式と一夏の解析に躍起になっていて開発は何も進んでいない。これでは盗用どころか、盗むものが何もない。
それでも彼は、自分の今の発言が100%正しいと信じて疑わない。倉持で功績を上げ、それを錦の旗として掲げることで党内で出世し、将来は内閣総理大臣として国の舵取りをするのだと、自分はそれに相応しい男なのだと、本気で考えていた。
ーーーーーーーーー
対抗戦が4組の優勝で終わり、賞品のデザートフリーパスを手に入れた女子生徒達は大喜びで食堂に突撃していった。
そんな中、俺と簪は――
「陸……」
「簪、このセリフも今日2回目だが、どうしてこうなったか分かるか?」
俺の目の前には、第1試合が終わった後と全く同じように正座をする簪の姿があった。違いがあるとすれば、場所がピットか生徒会室かだけだ。
「だ、第2試合では挑発とかしなかったのに……」
「そうだな、そこはちゃんと守られてたな」
けどなぁ……端末を出して簪の目の前に見せる。画面に映し出されているのは、山嵐を撃った後の簪の顔。
『はぁ~……か・い・か・ん❤』
「オウフ……」
「それはこっちのセリフだ! なんつー顔してんだよ! 完全に危ない奴じゃねぇか!」
「だって、織斑君が爆風でピンボールみたいに跳ね回ってるのが……」
「あのなぁ……」
気持ちは分からんでもないが、頼むから顔に出すなよ、顔に。
「ったく……レッド・スコルピオを出した時点で目立つのは確定してたが、下手すっとお前を代表候補生にって声が上がるぞ?」
「それは嫌。というか、仮に私を代表候補生にって話が出ても、どうせ倉持が横やりを入れて有耶無耶になるはず」
「大いにあり得そうだが……嫌な他力本願だな」
むしろ、そこまで考えてあの恍惚の笑みしてたら計算高過ぎるぞ。
「まあいい、俺からのお説教はこれぐらいにしておこう。それで、だ。刀奈」
「何かしら?」
顔を横に向け、会長席に座る刀奈を見る。
「どうして俺まで正座させられてるんだ?」
おかげで俺と簪、2人揃って正座しながら向かい合うっていう変な構図になってんだが。
「陸君、心当たりは無いの?」
「全く」
「胸に手を当てても?」
「(胸に手を当ててみる)……簪、また大きくなったか?」
「誰が簪ちゃんの胸を触れって言ったのよ!」
「陸、そういうのはベッドの上で……///」
「簪ちゃんも乗らないの! あと私も混ぜなさい!」
冗談はさておき、特に思い当たる節が……あり過ぎて特定出来ないんだが。
「へぇ、山嵐の発射数を倍に増やしたの、どこの誰だったかしら~?」
「俺だな」
「そうよねぇ。ところで、学園側には山嵐の発射数はいくつって申告してたかしら?」
「最初は48発だったのを、96発に更新……あれ?」
お、おう? これはマズいやつでは……
「ちなみに、学園側に再申告するって言い出したのは、誰だったかしら?」
「……俺です」
あっ、ダメだ。もう顔上げらんねぇ。
「そうよねぇ! ……で、申告は?」
「……忘れてました」
「虚!」
「はい!」
えっ、なんで虚さ――
――バッ! ギュッ!
「があああああああ!」
こ、この俺がっ! この俺がアームロックを食らうだとぉぉぉぉぉぉ!? いや痛い! マジ痛い! 助けて簪ぃ!
「……(フルフルッ)」
「見捨てられたぁ!」
その後、きっかり3分は激痛アームロックをされた俺は、解放された時には床の上で潰れたカエルみたいになっていた。うごごごご……!
「宮下君の申請漏れで、私とお嬢様は先ほど轡木さん直々にお小言をいただきました」
「ただでさえ倉持から一方的に敵視されてるのに、まーた重箱の隅を突かれるわよ。『規則違反だ! ペナルティとして我々にマルチロックオン・システムの技術を寄こせ!』って」
「何それ怖い。しかもどうして学園の規則に違反したら、倉持に技術を供与しないといけないの?」
「けど、あのマッドなら言いそうだな……」
頭がおかしい倉持の中でも、特にヤバい男が頭を過った。前の外史にいた女権団のトップ、山崎だったっけ? あいつも相当だったが、今回のレイモンドとか名乗ってた男は輪をかけてヤベェ。あれは絶対会話が成立しない類の生命体だ、間違いない。
「だから陸君は罰として、私と虚にご奉仕すること。いいわね?」
「仕方ない……それで、ご奉仕って何させる気だよ?」
「宮下君には、来月の学年別トーナメントに関する書類作成を手伝ってもらいます。偶には機械だけでなく、紙を触っててください」
「うげっ」
虚さんの笑顔(ただし目は笑ってない)に、俺も顔が引き攣る。書類仕事は不得手と言うか嫌いな部類なんだが……図形も数式もない文字列だけの書類とか特に。
「もしくは、虚の彼氏候補を探してくるか――」
「書類仕事、頑張らせてもらいます」
「お嬢様! 私の彼氏候補ってなんですか!? というか宮下君も即答!? 私を彼女にしたい男性なんていないって言いたいんですか!?」
刀奈に詰め寄りながら、俺の肩を掴んでガクンガクンと揺らす虚さん。き、器用な真似するなぁぁあああぁぁぁあああぁぁぁ!(頭シェイクによるドップラー効果)
「うぅぅ……私だって、その内カッコイイ男の人に出会うんですからぁ……;;」
俺の頭をシェイクしていた虚さんだったが、途中から泣き出して部屋の隅で三角座りしてしまった。なんだろう、この光景も見慣れたもんだなぁ……
なんて思ってたら、刀奈がふと思い出したかのように簪に告げた。
「簪ちゃん、来週中国の代表候補生が3人ほどここに来るの」
「はぁ」
「そして学園上層部からの要請で、簪ちゃんとその候補生達との模擬戦をすることに決まったから」
「……陸ぅ」
何とも言えない顔を俺に向けてきた。ピットでお説教した内容、そのまんまになったか。これはもう必然というか。
「まあ、なんだ……頑張れ」
「4時間前の私の馬鹿ぁぁぁぁぁ!!」
ーーーーーーーーー
「ぐぬぬぬぬ……!」
ラボ『吾輩は猫である(名前はまだ無い)』の中、私はディスプレイの前で拳を震わせていた。
倉持とかいう連中経由で、いっくんに渡した『白式』。その調子を確かめるべく、
「なんなのさ、あのISはぁ! ゴー君のステルスが効いてないどころか、変な光を出したと思ったらいきなり腕部がエラーを返すし、あっという間に信号自体返って来なくなるし!」
本当ならゴー君は、いっくんに倒されるべきだったのに。おかげで束さんの計画が台無しだよ! ……台無しと言えば、束さんのデータを壊したISコアの信号も、学園からだったね。
「これは、直接お邪魔しに行かないとかなぁ?」
ゴー君が送ってきた映像に一瞬だけ映っていた、青髪の操縦者のところに――
倉持技研 第2研究所社外賛助官 レイモンド=澤和
彼が今作のヘイト回収キャラになります。
社外賛助官なんて大層な肩書ですが、要はプロパガンダ要員です。
簪&オリ主、ダブルお説教
そして『簪vs中国代表候補生3番勝負』が確定しましたとさ。
そしてウサギの気配が着々と……
次回で一夏と鈴関連を書いたら、原作1巻終了予定です。俺ヒルデよりは短くしたつもりですが、それでも長いなぁ……