整合性を顧みなくなったともいう。
『放課後、屋上に来て欲しい』
アルベールさんとのやり取りをした翌日、一夏からのメールを見た俺は一人で校舎の屋上にやって来た。
前回は奴に鉄拳制裁をしたんだよなぁ。どうしてそんなことしたかって? 一夏の奴、デュノアが女だって知って、俺に助けを求めてきたんだよ、なぜか。そこで俺が『織斑先生に相談しろ』って言ったら『千冬姉には迷惑かけれねぇ』とか抜かすもんだから……スパイ幇助の疑い掛けられたら、余計に迷惑掛かるだろって。
あの時は無理矢理織斑先生のところに行かせたお礼とかだったが、さて、今回はどんな話なのやら。
「おう、突然呼び出すとかどういう風の吹き回しだ?」
落下防止用の手摺りに寄りかかってる一夏の横に並ぶと、俺も手摺りに寄りかかる。
「陸は、知ってたんだよな?」
「何がだよ。目的語を言え目的語を」
「シャルルがその、女だったってことを……」
何を今更……ん? 今回はゲンコツイベントが発生してないはずなのに、なんでデュノアが女だって知ってんだ?
「まあ知ってたが……一夏はどうして知ったんだ?」
「えっ! い、いや、その……!」
「おい、まさか……」
「な、なんだよ……」
俺にジト目で睨まれた一夏が、めっちゃ分かりやすいぐらい慌て始める。もうこれ、言ってるようなもんだろ。
「デュノアにボディタッチかましたとか、まさかシャワー浴びてるところに乱入とか……!?」
「不可抗力だっ!」
「あ、マジで乱入したのか」
「あっ……」
おまっ、マジかよ。もし仮にデュノアが申告通り男だったとしても、野郎のシャワー中に乱入したとかヤベェ奴確定じゃん。うっわ!
なんて思いつつも、『誘蛾灯の一夏』ならやりかねないと思ってた俺もいる。ホント、ハーレム系主人公補正だよな。
「そ、それで、シャルルのことを聞いて、陸達が助けようとしてるって」
「全部話したのか。警戒心が無いのか、一夏のことを信用してるのか」
「で、どうなんだ!? 何とか、出来そうなのか?」
「そうだな……他言無用だぞ?」
「ああ、分かってる」
「ホントか? 山田先生や織斑先生にもだぞ?」
「ち、千冬姉にも……わ、分かった」
ホントに大丈夫か? とはいえ、ここで教えないと暴走して変な方向に状況が流れそうだし、ある程度は教えてやるか。
(一応、刀奈へ事前に確認取ったし)
それに、もう正座したくないからな。俺、学んだ。
というわけで、一夏にはさらっと現時点での状況を教えてやった。具体的には、更識家が調べた情報を使って、アルベールさんが反体制派を一掃中ってことと、それが終わればデュノアは晴れてスパイをやめて男装も不要になるってことを。
「人質にされないため? もっとやりようがあっただろうが! それに、どうして自分で守ろうとしないんだよ! 娘なんだろ!?」
「それは難しいだろ」
「なんでだよ!?」
「一夏、アルベールさんはデュノア社の社長なんだぞ?」
「だからなんだよ!」
う~ん、ここまで言っても分からんのか。頭に血が上ってるだけか、単に察しが悪いのか……両方だろうな。
「会社の社長が、娘を守るためにいつも一緒にいろと? 会社の経営はどうすんだよ? 最悪、社員や関連会社も巻き添えにして会社が潰れるぞ」
「そんなの……!」
まだ何か言いたそうだったが、理屈は通じたのかダンマリになった。
組織を率いるって大変だよなぁ。部下やその家族の未来と、自分の家族。場合によってはこうやって天秤に掛けないといけないんだから。
しかもデュノア社ほどの大企業になれば、マフィアや暗殺者を雇ったりとかもあり得そうだし、いっそIS学園に置いておく方が安全って考えも分かる気がする。俺? 俺が同じ立場なら、刀奈と簪連れてさっさととんずらするけど? すまんな如月重工、全てにおいて俺の最優先は簪と刀奈なんだわ。
なんてことを考えている間に、一夏も落ち着いてきたようだ。
「ところで一夏。お前こんなところで一人でいて問題ないのか?」
「この後セシリア達と模擬戦する予定だけど、まだ時間があるからな。もうすぐ学年別トーナメントってのがあるらしいし、今度こそ陸と戦って勝つ!」
「さよけ。メカニック志望の俺と戦いたいとか、どうなんだろうな」
「メカニック志望? あれだけ強くてか!?」
確かに今の一夏よりは強いけどなぁ。(オブラート無し) ただ、刀奈や簪の全力を知ってるせいか、正直自分がどれぐらいの位置にいるかイマイチ分からんというか。ぶっちゃけ、オルコット達代表候補生より強いのか弱いのか。
「まあ、そのトーナメントやらに出れば分かるか」
「お~い、勝手に納得して話を終わらせないでくれよ」
「ISの構造や動作は良く知ってるからな。その分の差じゃね?」
「なるほど……つまりもっとISについて知れば、陸みたいに強くなれるってことか!?」
「かもな~」
「よっし! もっと白式に乗って、ISのことを知り尽くすぞ!」
適当に合いの手入れてたら、勝手に一夏が気合入れていたの巻。ISのことを知るって言ってるのに『ISについて勉強しよう』って考えにいかないんだな。だから参考書を捨てちまって織斑先生にシバかれるんだよ。
「聞きたいことはこれだけか?」
「ああ。それとさっきの話、シャルルにも話していいか?」
「……他言無用って言葉知ってるか?」
「えっ、あ……」
「はぁ……まあいいや、当事者だし知る権利はあるだろ」
「いいのか!? サンキュー! シャルルが喜ぶ……あ、いや、父親のことがあるか……」
一夏の中では、アルベールさんは『娘を優先しなかったクソ親父』って認識になっちまってるなこりゃ。一夏ぁ、間違っても本人の前でアルベールさんを貶すなよ? もしアルベールさんの苦悩をデュノアが理解出来たら、お前のお気持ちはただの侮辱になっちまうからよ。
――バンッ!
「一夏っ!」
屋上の扉が思い切り開き、話題の人物であるデュノアが飛び込んできた。
「シャルル、一体どうしたんだ?」
「せ、セシリアと鈴が……!」
あ~、ボーデヴィッヒは予想を裏切らねぇな。
ーーーーーーーーーーーーー
「い、一夏さん……」
「かっこ悪いところ見られちゃったわね……」
「かっこ悪いとかどうでもいい。それより、怪我の具合はどうなんだ?」
「こ、こんなの! 怪我の内に――いたたたっ!」
「も、問題ありませんわ! そもそもこうやって横になるほど――つううっ!」
デュノアに連れて来られた保健室のベッドの上には、包帯を巻かれたオルコットと凰がいた。一夏は当然として、俺も勢いで付いてきちまった。
「それで、一体何があったんだ?」
「それが……」
「その……」
一夏の問いに、オルコットも凰もモゴモゴと口を動かすが話が進まず、デュノアが事情の説明を始めた。
内容は俺が知ってる通りだった。ボーデヴィッヒの挑発に、2人ともまんまと乗っちまった挙句、ボコボコにされたって流れ。そんでISのダメージレベルがCを超えて、学年別トーナメント参加は不許可と山田先生に釘を刺されたと。
相変わらず状況を理解し切れてない一夏は置いておいて……来るぞ!
――ドドドドドドドドッ……!
「な、何だ? 何の音だっ?」
突然の地鳴りのような音に、一夏とデュノアが周囲を見回した。
その音はどんどん大きくなっていき――
――バァンッ!
「織斑君!」
「デュノア君も!」
「あっ! 4組の宮下君もいる!」
保健室のドアが乱暴に開けられる。そして入ってきたのは……いや、なだれ込んできたのは、数十人の女子生徒だった。
そして一瞬の間に、俺達はその女子生徒達に完全包囲されていた。2回目だけどやっぱ怖ぇよ!
「み、みんなどうしたんだ?」
「これ!」
包囲網の最前列にいた女子生徒の1人が一夏に見せたのは、学内の告知文が書かれた申込書だった。
「『今年の学年別トーナメントでは、より実戦的な模擬戦闘を行うため、2人1組での参加を必須とする』――」
「私と組もう、織斑君!」
「私と組んで、デュノア君!」
まるで前の外史の焼き直しと言わんばかりに、あの時と同じく全方位から申込書を持った腕が一夏とデュノアに向かって伸びる。うわぁ……!
「悪い。俺はシャルルと組むから諦めてくれ!」
一夏の一言に、保健室中が途端に静かになる。
昨日の今日で、デュノアはまだ男装継続中だ。さすがに他の女子と組ませるわけにはいかないと、一夏が先手を打った。
「まぁ、そういうことなら……」
「他の女子と組まれるよりは……」
しぶしぶながら納得した様子で、一夏とデュノアに伸びていた手が引っ込む。
「あ、それなら宮下君は?」
「無理。もう組む相手決まってるから」
「「「「ええ~~~~っ!?」」」」
「あ~……」
俺の即答に、包囲網から驚きとブーイングの声が。一部、納得というか諦観の声も。
「だって、ペア出場はさっき決まったんだよ? なのに……」
「いや、無理だって」
なおも食い下がろうとする女子生徒に、さっき納得の声を上げた生徒が待ったをかける。
「宮下君が組むの、更識さんでしょ?」
「ああ」
「うん、無理だね」
「ど、どういうこと?」
「クラス対抗戦で織斑君や凰さんをメッタメタにした4組の代表、覚えてるでしょ?」
「そりゃあ、あれだけすごい戦い方……あっ」
食い下がってた女子生徒が、途中で固まる。ついでに冷や汗もセットで。
「
「堪忍してつかぁさい」
いや、なんで俺に土下座!? つーか簪完全に恐れられてるのかよ! ……あんな戦い方したら当然か。(諦め
保健室を脱出した俺は、さっそく申込書を入手……しようと職員室に行ったんだが
「あら宮下君、申込書ならさっき更識さんが出したわよ?」
すでに簪によって提出済みだった。判断が早いっ! てか俺、自分で名前書いてないんだけど。
「更識さんとペアになれるのは宮下君だけなので、ほぼ形だけね」
「エドワーズ先生ぇ……」
柔軟過ぎる対応のエドワーズ先生に、俺は二の句が継げなかった。おぃぃ……
ーーーーーーーーーーーーー
「というわけで、腹いせにミステリアス・レイディにISコアを追加しま~す」
「「お~」」
「どうしてそうなった!?」
いつもの整備室でのほほんと簪が手を叩く中、刀奈だけがツッコミを入れてきた。ナイスデース
「そもそも、どこからISコアを手に入れてきたのよ!?」
「はいこれ」
「ホントにコアだぁぁぁぁ!!」
拡張領域から2つほど出して手渡したら、見事に刀奈絶叫。今日はノリが良くて大変結構、やった甲斐があるってもんだ。
「でも陸、一体どこから手に入れてきたの?」
「別にどこからも。自作だから」
「じ、自作?」
おっと、今度は事情を知らないのほほんがフリーズしたぞ。そんで、簪は少し考えて答えにたどり着いたようだ。
「あ、代替品」
「正解」
しかも俺が前外史で作った、性能比50%程度の劣化版じゃない。その後束が作った性能比90%オーバーの"完璧な代替品"だ。残念ながらコア人格は形成されないことが分かっているが、それでも正規品の補助演算装置としては使い物になる。劣化版とは違うのだよ。
「正規コアにそれぞれ代替コアを繋げてやれば、さらに緻密な計算が可能になる」
「具体的に、何が出来るの~?」
「例えばミストルテインの槍、あれの効果範囲を意図的に絞ることが可能だ。で、絞った分範囲内への威力が増す」
「おお~!」
「つまり、槍の全威力をピンポイントに叩き込める」
「陸く~ん、ミストルテインの槍って、一撃で小型気化爆弾4個分に相当するのよ? それをピンポイントって……」
刀奈だけドン引きしてるが、まあ安心しろ。自機側に爆風が漏れないよう、自動的に計算するようにしてあるから。
「そんじゃ、さっそくセッティングするぞー」
「お~!」
「お姉ちゃんがさらに最強に近づく」
「もうこれ、完全に前の簪ちゃんポジジョンじゃない……私、モンド・グロッソ出禁にならないわよね……?」
――1時間後
「「「出来た~!」」」
「え~……お姉さんが寝ぼけてたから? 1時間しか経ってないような……」
「1時間が経ったな。コアを増設するだけだから、もう少し早く終わるかと思ったんだが」
「それは仕方ない。デュアルコアで直列はやったことあるけど、並列は今回が初めて」
「そうだよ~。しかも代替品なんだよね? 性能が違うコアを繋いだんだから、調整に時間がかかるんだよ~」
あの、簪ちゃん、本音ちゃん? それでも1時間は早いと思うのよ。陸君、元々常識外れだったけど、一度あの真っ白世界に帰ってからさらに外れてない? そこも含めて愛してるけど。
「さて、と。今日はもうアリーナの使用時間過ぎてるし、動作確認は明日だな」
「そうだね~。こんなこともあろうかと、すでに予約済みだよ~」
「ナイス本音」
ああこれ、絶対明日は悪目立ちするわ~……。なにせミストルテインの槍を学園のアリーナで使うこと自体初めてだし、しかもピンポイントになったらどれぐらいの威力になるか……
よしっ! 諦めよう!
一夏キレる。
原作でもアルベール氏に殴りかかるぐらいですし、話を聞いた程度でもキレるかなと。
セシリアと鈴、ボコられる。
ここは原作及び前作と変わらずですね。そこ、前作の流用とか言わない。
なお、簪のことは1組にも知れ渡っている模様。残当。
刀奈(ミステリアス・レイディ)強化イベント。
2×2コアとか、演算能力だけならレッド・スコルピオとほぼ同等になってます。
(超えてないのは片方のコアが練度不足なのと、ランディとシャーリィの戦闘センスがヤバいから)
そして残念、次回ミストルテインの槍の爆風で吹っ飛ぶ役は一夏じゃございません。