俺達が新しい外史で合流してすぐ、大きな出来事があった。
ISの登場である。
当初見向きもされなかったISは、突如ハッキングによって各国の軍事基地から発射されたミサイル群を全て迎撃したことで、一躍脚光を浴びることとなった。俗にいう『白騎士事件』だ。
これはISを全否定されてブチ切れた篠ノ之束が、数少ない友人である織斑千冬と共同で起こしたマッチポンプらしい。ちなみに俺は、前の世界で束本人から聞いてたりする。
そこから先も、俺や刀奈達が知ってる通りだ。
宇宙開発用として作られたISは軍事兵器として見られ、その後『アラスカ条約』によって競技用、スポーツとして扱われることとなった。
さらに『女性にしか反応しない』という欠陥も健在で、女尊男卑主義が蔓延る原因にもなった。
唯一の救いとしては、前の世界で女性権利団体のトップをしていた山崎って女、こいつがこの世界でも過激な活動をしていたんだが、更識家によって"自分探しの旅"を始めたってことだ。たぶん、100年単位で帰ってこないんじゃね?
おかげで、男だからという理由で冤罪を吹っ掛けるような女は今のところ出てきていない。『ポリコレ』って単語で踊ってた時代とさほど変わらないっていうのが俺の感想だ。
ここら辺がIS登場から今まで、つまり俺達が中学生になった辺りまでの話だ。
で、今はどうなってるかというと……
ーーーーーーーーー
「あっ、おはようございます! 若!」
「いやあの、その呼び方はやめてもらえません?」
俺が施設の中に入ると、中にいた従業員に若呼ばわりされた。その呼び方はやめてくれと、もう数えるのも嫌になるぐらい言ってるんだがなぁ……
「それより、お嬢様達がお待ちです!」
「ああ、うん」
もはや色々と諦めて、案内された場所へ向かう。
「おう、来たぞー」
「陸、待ってた」
「おはよう陸君!」
試験室のような部屋には、ノートPCのキーをカタカタと打つ簪と、量産型の第2世代IS『陽炎』に乗る刀奈の姿があった。
先に説明すると、ここは更識家が経営している会社『如月重工』の工場だ。
ISが登場してからというもの、IS関連企業が雨後の筍のごとく現れては消えた。この如月重工も、そんな中誕生した企業だ。しかも経営者は刀奈。そしてテストパイロットも刀奈だ。
そしてこの如月重工で、俺と簪はエンジニアとして働いている。未成年労働? 法改正でIS関連は全力で見逃されてるよ。
今日ここに来たのは、日本のIS企業『倉持技研』に先んじて、第2世代ISを完成させるためだ。今刀奈が乗ってる陽炎のことだな。
そもそもIS登場前からISのことを知り尽くしてる人間が3人もいる時点で、起業はリスクでも何でもなかった。最悪、連中より先に丸パクリした打鉄を出してもよかったんだからな。けどそれはしない。代わりに……
「ところで、ビーム・スプレーガンはどんな感じだ?」
「ああ、これね」
刀奈がISの右手に持った銃器に視線を送る。
言わずもがな、みんな大好き『機○戦士ガ○ダム』に出てくる携行式メガ粒子砲塔、そのIS版だ。
こうして別外史の技術をデチューンした装備や機体を世に送り出すことで、如月重工は世界でもトップクラスのメーカーになったわけだ。
「第2世代で初のビーム兵器ってことで、注目はされそうね。威力も実体弾と比べて勝ってるし、悪いのは射程と装弾数が少ないってところぐらいかしら」
「それは仕方ない。この時代でビームライフルはまだ早い」
「そうよねぇ。イギリスがディアーズ型の開発を始めるまで、ビーム兵器の本格開発はお預けかしら」
「やっぱそうなるか」
あまり一強とかになって目を付けられるのも面白くないからと、俺達は本来しなくていい苦労をしていた。
本当なら、簪のISに乗せてる武装・メメントモリ(コードギ○スの輻射波動機構)から輻射波動砲も撃てたりするんだがな。
「さて、実験は一旦終わりにするわ」
「仕事か?」
「ええ。代表候補生としての、だけど」
現時点で、刀奈だけが"日本の"代表候補生をしている。
前の世界では自由国籍を取ってロシアの国家代表だったのに、どうして今回は違うのか。
――回想シーン
「ねぇ簪ちゃん、陸君、本当にやるの……?」
「もちろん」
「当たり前だよなぁ?」
この外史に来てまず俺達が考えたのが、『この世界で何をするか』だった。
今回ロキからは実地研修と言われてはいるが、『~をしろ』とは言われていない。だからこそ、俺達がその目的というか、ゴールを決める必要があった。
「とりあえず私は、代表候補生にはならない」
簪がいきなり宣言しやがった。
「か、簪ちゃん、代表候補生にならないの?」
「うん。もう私は、お姉ちゃんと張り合う必要ないから」
「そうか、お前は刀奈と比べられるのが嫌で候補生になったんだもんな」
「うん」
それが姉妹の確執を強くしてたんだが、今の二人にはそんなものはない。だから、簪が代表候補生になる理由が無いのか。
「でも、IS学園には入るつもり。陸と同じ、一般生徒として」
「……陸君は一般生徒に含まれるのかしら」
「語弊を生みそうな言い方すんな。ぶっちゃけ俺も思ったけど」
女性しか乗れないはずのISに乗った俺や一夏は、はたして"一般"に含まれるのか。
いやいや、今は置いとけ置いとけ。
「そうなると……」
「うん」
「あ、あの、二人とも?」
簪を見れば、以心伝心とばかりに頷く。お前なら、同じことを考えると思ってたよ。
「刀奈」「お姉ちゃん」
「は、はい?」
「今回は、
「はいぃぃ!?」
前の外史では、第3回
「そうなると、まずは刀奈がどっかの国の代表にならないといけないな」
「それなら、日本がいいと思う。第2回モンド・グロッソの後に
「確かに」
他の分岐世界と同じなら、一夏の姉である織斑千冬がその辺りのタイミングで国家代表を辞めるはずだ。その後釜に刀奈が座ればいいってことだな。
「あ、あの……」
「となると、日本に刀奈の専用機を作る企業が欲しいな。出来れば倉持以外」
「うん、倉持以外」
下手すると、一夏の専用機である『白式』の開発に執着して、今度は刀奈の専用機開発が凍結されかねない。それなら……
「いっそ、俺達で作るか」
「いいねそれ」
「ええっ!?」
俺の案に、簪もノリノリだ。
「それなら、ウチで企業を作っちゃえばいい」
「出来るのか?」
「うん。白騎士事件が起こって、IS関連企業がいっぱい出てくる。その中の1社になって、将来的に国家代表になったお姉ちゃんの専用機を作る。私と陸で」
「ちょっと二人とも!?」
なんだよ刀奈、せっかく俺と簪がいい感じに話進めてたのに。
「わ、私がブリュンヒルデとか、それはちょっとぉ……」
「お姉ちゃん、これはもう決定事項」
「ファッ!?」
「そうだぞ刀奈。だから諦めろ。この外史ではお前が……」
「お前がブリュンヒルデになるんだよ!」
――回想終わり
ーーーーーーーーー
(二人に押されて起業しちゃったけど、本当に大丈夫かしらこれ……?)
試験室を出た後、私は廊下を歩きながら頭を抱えそうになっていた。
「売り上げは創業以来右肩上がりで、ISのシェアも世界2位。これだけ見たらぼろ儲け状態よね……」
なにせ、陸君が別の外史技術をたっぷり流し込んだ企業なのだから、さもありなん。というか、本来性能の1割にも満たないデチューンで世界シェア2位ってどんだけよ……。
でも、これが正常かも。私も『現地作業員』の研修として色んな外史を見たけど、第2世代で長射程のビームライフルはまだ早すぎるわ。
「でもそれを言っちゃうと、白騎士の装備がねぇ……」
まだまだ独り言が漏れていく。
第零世代型にして最初に製造されたIS『白騎士』。篠ノ之束博士お手製の機体には、荷電粒子砲が載ってたらしい。当時はまだ理論上の武装なのに、相変わらずトンデモナイ人よね。
「お嬢様」
「虚?」
突然声をかけられて、思考の中から意識が戻ってきた。それと同時に、この世界でも私の従者である布仏虚が書類の束を持ってこっちに歩いて来た。
「こちら、簪様から依頼されていた書類です」
「簪ちゃんから?」
何かしら? 虚から渡された書類に目を通して……
『
「ちょっとぉぉぉぉぉぉぉ!?」
何これ何これ何これぇぇぇぇ! ミストルテインの槍連発とか、一体何考えてるの!?
「小型気化爆弾4個分に相当するのよあれ! それを専用パッケージ『麗しきクリースナヤ』無しで連発!?」
「簪様と宮下君曰く、技術的な目途は立っていると……」
「ウッソでしょ……」
本気だ。あの二人、本気で私をブリュンヒルデにしようとしてる……!
「お嬢様……」
――ガシッ
「へ?」
突然、虚に肩を掴まれた。あ、あの、虚? 目が死んでるんだけど……
「くれぐれも……くれぐれも! あのお二人の制御を誤られませんように……!」
「それ従者が主に対して言うセリフ!?」
「もう私は、正気を保てるか怪しいのです……」
虚はそこでカクっと首を垂れると、再び顔を上げた時には張り付けたような笑顔になっていた。えっ、怖
「第2世代機を開発していたはずなのに、どうして群体遠隔操作兵器システムなんて出てくるんですか!? 宮下君に聞いたら『ああ、ガンビットですか? 一応操縦者への負荷はほぼ無いように調整してありますよ』とか涼し気に言うし! 簪様も『あれぐらい、お姉ちゃんなら余裕。私も余裕だったから』とか言い出す始末!」
「陸君……簪ちゃん……」
ちょっとぉ、おかしいじゃない……外史技術はデチューンするって話だったわよね? もしかして、私が使う分には無制限ってこと? それじゃ私、前世の簪ちゃんみたいになっちゃうじゃない。
「と言いますか、お嬢様の専用機! あれどう見ても第2世代機じゃありませんよね!? 一体どうなってるんですか!?」
「うわっ、こっちに矛先が来た!」
いやまあ、確かにミステリアス・レイディは第3世代機というか、前世のIS学園卒業後も改良が加えられた、第3.5世代機というか。現代からしたらあり得ないわよね。でもそれを言ったら、簪ちゃんが持っている専用機の打鉄弐式、改め『
「虚……」
虚が相手でも、本当のことを話すわけにはいかない。だから私は、逆に彼女の肩に手を置いた。
「そんなに荒れてると、彼氏が出来ないわよね」
――バッ! ギュッ!
「があああああああ!」
「惚気ですか!? 宮下君って彼氏がいる余裕ってやつですかぁぁぁぁ!?」
「アイエエエ!? アームロック!? アームロックナンデ!?」
は、はぐらかす方法間違えたー! っていうか、どうして虚がこれ使えるのよぉぉぉぉぉ!