「「「「う~み~だ~!!」」」」
バスの中で、クラスの大部分が大合唱して目が覚めた。
「陸、そろそろ着く」
「みたいだな……う~、ねみぃ」
「昨日お姉ちゃんと遅くまで遊んでたのが悪い」
「仕方ねぇだろ、勝つまで逃がしてくれなかったんだから」
刀奈って学園最強なのに、桃鉄やドカポンは滅茶苦茶弱いんだよ。一応あいつ、経営者なんだがな。
「宮下君、ナチュラルに更識さんに膝枕してもらってる……」
「更識さんも満更じゃないし」
今更膝枕ぐらいどうってことないだろ。……いや、1学期の4組でこれはさすがに早すぎたか。
「そろそろ目的地に着くから、みんなちゃんと席に座ってねー」
「「「はーい」」」
エドワース先生の号令で、海を見るために右側に寄っていた左席の面子が席に戻り始めた。
俺も簪の膝から起き上がり、ぐっと伸びをした。
ーーーーーーーーーーーーー
ほどなくして、バスは目的地の旅館『花月荘』前に到着。出迎えてくれた旅館の人に挨拶を済ますと、みんな自分の荷物を持って中に入っていった。
俺も荷物の入ったバッグを持って指定された部屋に行こうとしたら、後ろから誰かに腕を掴まれた。
「なあ陸、お前の部屋ってどこだ?」
「俺のか? 簪やのほほんと同部屋だ」
「えっ! 女子と同じ部屋なのか?」
「女子って言っても、簪ものほほんも昔から知ってる仲だしな。学園側もその辺考慮してこの部屋割りにしたんじゃね?」
「そ、そうなのか……」
「それがどうか……ははぁ、さては」
一夏の様子がおかしくて部屋割りの一覧を確認したら……やっぱり、一夏の名前がねぇや。
「一夏お前、俺も同じように一覧に名前が無いと思ってたろ」
「そ、そうだよ! なんで俺だけ!?」
「織斑、ここにいたか」
「千冬ね(スパァンッ!)お、おりむらせんせい……」
織斑先生の華麗な出席簿アタックが、一夏の頭に決まった。あーこれこれ、やっぱりこの姉弟はこうじゃないと。
「宮下、何か不埒なことを考えてないか?」
「いいえ、何も」
メデューサみたいな睨み(石化効果は無し)を逸らすと、織斑先生は軽くため息をついて一夏の首根っこを掴んだ。
「お前の部屋はこっちだ。付いて来い」
「お゛、お゛り゛む゛ら゛せ゛ん゛せ゛っ、く゛る゛し゛……!」
ズルズルと引き摺られ、一夏は織斑先生共々、生徒部屋から離れて行った。前外史と同じなら、2人が消えた向こう側に教員室があったはず。
俺はともかく、一夏の場合は就寝時間を無視した女子(篠ノ之を筆頭としたハーレム陣)が押し掛けてくるだろうから、織斑先生と同室に……いや、もしかしたら山田先生と?
「もし山田先生だったら、一夏の奴、今日は眠れないだろうな」
「山田先生がどうしたの?」
振り向くと、簪とのほほんが立っていた。小さい鞄しか持ってないってことは、デカ物はもう部屋に置いて来たのか。
「そういえばりったん、おりむーの部屋ってどこか知ってる~?」
「あいつなら、織斑先生に連行されてったぞ。たぶん、先生方の部屋で寝るんじゃね?」
「あ~、なるほど~」
「まあ、そうなるよね。あ、それで山田先生なんだ」
簪が俺の独り言に納得したようだ。のほほんにも『教室でキス』の件を話してやると
「おりむーってばだいた~ん。でも、セッシー達は絶対諦めないと思うな~」
「だよね」
「むしろ各国が一夏の、『世界初の男性操縦者』の遺伝子を欲しがったら、重婚許可とかするだろうな。そうしたらきっと篠ノ之達、嬉々として一夏を襲うぞ。性的に」
実際前外史では、それで一夏は6人ハーレムを達成したからな。そのおこぼれで、俺も簪と刀奈の2人と重婚したけど。媚薬? 何のことかな~?(すっとぼけ
「それより陸、早く海に行こう」
「そうだった! 着替えたら砂浜に集合なのだ~!」
「分かった分かった。着替えたら砂浜な」
おそらく水着が入っているであろう鞄を持った2人を見送った。さて、俺もまずは荷物を部屋に持っていくか。
ーーーーーーーーーーーーー
「あ、宮下君だ!」
「織斑君もだけど、宮下君もガッチリ鍛えてる感じ?」
水着に着替えて海に出ると、女子からの視線が飛んできた。一夏っていう盾が無いから視線が痛い痛い。というか女子達のセリフを聞く限り、一夏はもう先に着替えてたのか。
妙に腹筋に集中する視線から逃亡して、一路簪達の待つ砂浜へ。
「陸、やっと来た」
「待ってたよ~」
簪はレゾナンスで買った水着が似合ってる。んで、のほほんなんだが……
「それは反則だろ!」
今回も、全身がスッポリ収まるキツネの着ぐるみ風水着だと予想はしてたが、まさか胸元だけ開放型だと!? 一応三角ビキニで隠してはいるけど、支え切れてねぇ!
――ズビシッ
「いって!」
「陸、本音の胸に視線が行ってる」
いやおまっ、肋骨に指ががががが!
「仕方ねぇだろ! あの水着は反則過ぎるって! 簪は全くノールックだったと!?」
「……ノーコメントで」
「おいぃぃぃぃぃ!」
簪だって凝視してたんじゃねぇか! いやマジ目に毒だ!
「おっ、陸達はここにいた――」
「あっ、おりむー達だ~」
「その声はのほほんさ――」
「「一夏ぁ! 見るなぁ!」」「一夏! 見ちゃダメ!」「一夏さん! 見てはいけませんわ!」
――ドカッ! バキッ!
「うごっ! げはぁ!」
運悪く現れた一夏がのほほんの方を見ようとした瞬間、ボーデヴィッヒを除くハーレム連中によって妨害(武力制圧)された。
唯一ボーデヴィッヒだけは『ん? きちんと水着を着ているから問題ないのでは?』と首を傾げていた。
「さあ一夏! 宮下への挨拶も済んだことだし、私達に付き合ってもらうぞ!」
「そうですわ! 是非ともわたくしにサンオイルを!」
「遠泳よ遠泳! あのデカい岩場まで競争するわよ!」
「鷹月さん達がビーチバレーするって言ってたし、僕達も参加しよう!」
「嫁に水着姿を見せるミッションは完遂したし、、私もシャルロット達と一緒にビーチバレーに参加するか」
ボコられた一夏はそのまま、ハーレム達に引き摺られていった。一夏、今日で引き摺り2回目だぞ。
「織斑君達、相変わらず」
「だな」
それでも山田先生には(混浴の件があったら)勝てないんだろうなーとか思ったり。
「何か急なイベントだったが、俺達もさっそく遊ぶとしようか」
「りょーかい!」
「うん」
そうして俺達も、海の遊びを満喫することにした。
「で、その成果がこれだと」
「ですね」
「うわ~……」
生徒達に混じってビーチバレーやらビーチフラッグやらを楽しんだ後、夕暮れ前に砂浜に立ち寄った私と山田先生は視線を大きく
「まさか、海で見ることになるとは思いませんでしたよ……砂で出来た姫路城を」
山田先生のセリフが、まさに今の状況の全てを伝えていた。
天守台(石垣)から建物まで、全てが砂で作られた姫路城は、瓦などの細部まで作り込まれていた。しかも私達が見上げるぐらいだから、全長がどれだけあるんだ……?
「大体全長3mぐらいですか」
「本物が46.5mだから、約1/15」
「3人で頑張りました~」
宮下と更識妹と布仏妹、3人はやり切ったという顔をしているが、お前達これを半日で作ったのか……?
「どうしましょう織斑先生」
「どうするも何も、このまま波風で崩れるのに任せるだけでしょう」
「ですよねぇ……勿体ない気もしますが」
山田先生の言いたいことも分かるが、所詮は砂の城だからなぁ。
「えっと、如月重工で作った試作の硬化剤を使ったんですけど」
「「ファーっ!?」
更識おまっ、今なんて言った!? 砂の城に硬化剤!? 馬鹿なのか!?
「えっと、もしかして持ち帰ったりする予定で?」
「いいえ、ちょっと試作品のテストを。帰る時には剥離剤をかけて元の砂に戻すのでご安心を」
「いやお前、ご安心をって……」
更識姉は比較的普通な奴だったのに、妹はとんでもない奴だったか! ……あの如月重工でエンジニアをやってるからか? ということは、宮下も……
「ふむ、いい感じで固まってるな。これで帰りの剥離剤が機能すれば、粘着弾頭も実用化出来そうだ」
「お~! でもりったん、本当に剥離剤については完璧にしてね~。じゃないと……これを剥がす整備班の人が地獄を見るから~……」
「お、おう!」
「分かってる。分かってるから」
……宮下と更識妹は機械バカ、布仏は怖い、と……
ーーーーーーーーーーーーー
目のハイライトが消えたのほほんをあやした俺と簪は夕食(相変わらず贅沢な小鍋仕立て)を食べると、さっさと部屋に戻った。
今頃、一夏はオルコットやデュノアに挟まれてイチャラブ……って言っていいのか? あれ。
さて、どうして俺達はさっさと部屋に引き揚げたか。それというのもソフィアーが
『ま、マスター、今さっき、ドクターの反応が』
『ドクター、束か?』
『は、はい!』
と、紫兎の反応をキャッチしたからだ。こいつ、いつの間にこんな芸当出来るようになったんだ?
『その、シャーリィさんに教えてもらいました。えへへ……』
『私、聞いてないんだけど』
『俺もだ』
『シャーリィ、あとで正座』
『なんでぇ!?』
コア人格に正座ってどうなんだとか思ったりするが、まあ簪だしコア世界に潜って直接説教とかするんだろう。知らんけど。
と、ソフィアーとシャーリィを交えて和気藹々(?)としていた時だった。
――ガタッ ヒュッ
天井から音がしたかと思った瞬間、何かが俺達の目の前に降ってきた。それは音も無く畳の上に着地すると、俺と簪に向かって腕を伸ばして――
――バッ! ギュッ!
――バッ! ギュッ!
「あだだだだだだだ!」
「「フィイィィィッシュ!!」」
俺と簪、2人で不審者の両腕にアームロックをキメた。
その不審者、言うまでも無く件の人物、篠ノ之束であった。
青と白のエプロンドレスに、ウサミミっぽいものを頭に付けた紫髪の女。うん、間違いなく束だな。こんな奇抜な格好した女、他にいるだろうか。(反語)
「は、放せー! 束さんにこんなことして!」
「えい」
――ゴリッ
「ぎにゃあああああああ! か、関節が! 関節が死んじゃうぅぅぅぅぅ!!」
「簪、まだ尋問段階だから、それはダメだ」
「ごめん。あんまりうるさいから、つい」
気持ちは分かる。けど俺より先に束の腕折るのは禁止な?
「それで? ISの生みの親である篠ノ之束が、俺達に何の用だ?」
「ふんっ! こんなことする下等な奴に話すわけ――」
――ゴリィッ!
「ぴぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
「だから簪、ステイステイ」
「陸の悪口は禁止。次は本気で折る」
「うごごご……!」
簪がロックしてる肘が、そろそろヤバい角度に曲がりそうだ。マジで折るなよ? フリじゃねぇからな?
なんかもう簪に任せればいいやと思って、俺の方はロック解除してた。
「とりあえず、もう1回聞くぞ? 俺と簪に何の用だ?」
「う~……! 束さんはいっくん以外の男なんて興味ないよ。だからそこのメガネっ子を置いてさっさと消えろ」
――ボキッ!
「あっ」
「えっ」
「陸の悪口は禁止って言った。成敗」
どうやら簪の堪忍袋の緒が切れたようだ。ついでに、束の肘関節もあり得ない方向に曲がっていた。というか、これ肘関節砕けたよな?
「あ……ああ……」
「い゛た゛ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!! うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!」
プラーンと垂れ下がった自分の腕を見て痛みを感じ始めた途端、超人束のガチ泣き絶叫が部屋中に木霊した。
「うぅ……まさかこの束さんが、肘を砕かれるなんて思わなかったよぉ……」
「正直すみませんでした。でも反省はしない」
「簪ェ……とはいえ、その砕けた肘がもう動くとかどういうことだよ?」
「へへーん! 束さんは超人だから、お前達みたいな下等生物とはわけが違うのサ!」
「……(もう一度アームロックをかける仕草)」
「あっ、ごめんなさい。もう折らないで」
簪が手を挙げた瞬間、綺麗なDOGEZAを決める束。嘘みたいだろ? これが原作世界のラスボス(推定)、篠ノ之束なんだぜ?
「今日はもうお帰り下さい。臨海学校が終わって学園に戻ったら、話を聞きますから」
「簪?」
「どうせなら、お姉ちゃんが一緒の時の方が都合がいい」
「ああ、なるほど」
確かに、今束を捕縛して如月重工に軟禁する用意も無いからな。時間稼ぎにもちょうどいいか。(暗黒微笑
「えっ、何勝手に話を進めてるの? 束さんは今――」
「陸から伝授されたアームロック、108式まである」
「カラスが泣いたらか~えろ!!」
再度簪が手を挙げるのと、束がその場で飛び上がるのはほぼ同時だった。視線を上に向ければ、天井の板がススッと元の位置に戻るところだった。忍者か。
「この世界でも、束は変わらんな。簪にたっぷりトラウマ植え付けられたけど」
「それは仕方ない。たぶんお姉ちゃんがいた場合でも、同じようになってたはず」
「マジか。嫁達の愛が重い」
その内、倉持や女権団の腕、全部へし折るんじゃないかと心配になる。特に女権団は止めてくれよ。連中の首を刎ねるのは俺の仕事なんだから。(使命感
「ただいま~! あれ、2人とも何かあった?」
ある意味ナイスタイミングで、アイスクリーム(銭湯とかにある自販機のあれ)を持ったのほほんが部屋に入ってきた。
のほほんには、束の件は隠しておきたい。情報漏洩については全く心配してないが、出来れば今しばらくは束を拘束出来る人間だけに留めておきたい。
……それだと虚さんにも教えていいのか。あの人のアームロック、簪以上にやべぇし。
束の腕をへし折る簪、ワイルドだぜ~
この時点では、束の評価は
陸:いっくん以外にISに乗れる男? ウゼェ
簪:こいつヤバい、逆らわんとこ
となってます。前作みたいに、技術話になれば……
次回、銀の福音が出ます。(ストレートネタバレ)