お前がブリュンヒルデになるんだよ!   作:シシカバブP

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前回のあとがき通り、銀の福音回です。


第27話 福音襲撃

 簪ちゃん達が臨海学校に行っている頃、私は虚と2人で夏休み前の書類仕事に追われていた。

 でも遊べるのは昨日の1日目だけで、今日の2日目は各種装備試験運用とデータ取りのはず。まあ、書類仕事よりは楽しいでしょうね。

 

「はぁ、ホントIS学園の書類ってどうにかならないのかしら。ペーパーレスの時代はどこに?」

 

「仕方ありません。この学園には機密情報が多いから、ハッキング対策に紙媒体が有効だと、常々言われていますから」

 

「でもそれって、お偉方が電子化に馴染む気が無い言い訳って話じゃない?」

 

「……」

 

「あっ、黙っちゃった」

 

 そんなことを言い合いながらも、私達の手は止まらない。というか、一々止めてたら簪ちゃん達が帰ってくるまでに終わらない。

 はぁ……今頃簪ちゃんと陸君、楽しんでるんだろうな~

 

「ところで、工場長からは何か報告ない?」

 

「ありますよ。お嬢様が雇われたテストパイロット、野崎さんの腕が思っていたよりも良くて、試製・不知火のテスト完了が前倒しになりそうだとのことです」

 

「あらら、それは嬉しい誤算ね」

 

「はい。今は宮下君から送られた春雷と山嵐のデータを元に、武装の開発を行っているところですね。試作が完成次第、試験に回すそうです」

 

「順調でなにより。そういえば武装名について、倉持から何か言ってきてない? 今回の不知火に載せるものはもとより、簪ちゃんの機体にも同名の武装が載ってるけど」

 

 ぶっちゃけ、簪ちゃんのレッド・スコルピオを登録した際(つまり2,3年は前)に、春雷と山嵐はこっちが先に命名して発表してたんだけど、当時も倉持……というよりあのレイモンドが

 

『それは我々が次世代IS(第3世代)に搭載予定だった武装名だぞ! やはり盗用していたな! 全ての情報を提出しろぉぉぉ!』

 

 とか寝言を言っていたのよね。やっぱり試作品はおろか、設計図すらない状態で。そういうのは作ってから言いなさいな。

 

「今のところはありません。さすがの第2研究所も、同じネタで騒ぐと傷口がぐっと広がると気付いたのでは?」

 

「だといいんだけどね」

 

 本当に、如月重工ごとフランスに渡る話が現実味を帯びてきたわね。お父さんなんかこの前『欧州で着物は目立つか?』とか言ってたし。もう渡欧が確定っぽい言い草だったわ……

 

「まあいいわ。今は目の前の書類の山を切り崩すことに集中――」

 

 そう言いかけて、端末からいつもと違う着信音が鳴った。この音は……

 

「緊急指令?」

 

 『更識』の仕事用に登録していた音に、私も虚も険しい顔になる。学園の警備責任者である織斑先生がいないこのタイミングで、一体何があったっていうのよ?

 

「お嬢様」

 

「分かってるわ」

 

 端末を取り出してディスプレイに内容を表示すると、なんと送信元は国際IS委員会。そして肝心の内容は――

 

「……え?」

 

「本当、なのですか?」

 

 私は間抜けな声を上げ、虚はその内容に真偽を疑った。

 

 

『ハワイ沖で試験稼働中であったアメリカ・イスラエル共同開発の第3世代機軍用IS『銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)』が制御下を離れ暴走、IS学園を目指していることが判明した。現在織斑千冬が学園に不在のため、更識楯無に銀の福音の迎撃を要請する』

 

 な、なななっ!

 

「なんですってぇぇぇぇぇぇ!?」

 

 どういうこと? 銀の福音って、暴走後は臨海学校中の宿『花月荘』の近くを通過するから、織斑先生が指揮を執って、織斑君達が倒すって流れだったはずじゃ? なんでこっちに飛んできてるの!?

 お、落ち着くのよ私。まずは素数を数えて……1,2,3,5……1は素数じゃないわよ! って、セルフツッコミしてたら落ち着いたわ。

 

「いくらお嬢様が学園最強だからと言って、軍用ISを一人で迎撃しろだなんて!……出来ますね、宮下君が開発した装備を使えば」

 

「ええ、そこは全く心配してないわ」

 

 虚の言う通り、ミステリアス・レイディに搭載されている武装を使えば、おそらく福音であろうと倒すことは可能なはず。問題なのは……

 

「送られてきた内容が、完全破壊前提だってことよね」

 

「ですが、さすがに中のパイロットを無傷のままというのは……」

 

「可能よ」

 

 たぶん虚は、私がミストルテインの槍で吹っ飛ばすと思ってるんじゃないかしら。けど、そんなことしなくても――

 

 

 

 

 

 学園に残っていた先生方に状況を伝えると、私はミステリアス・レイディを展開して東京湾上空まで飛翔した。今回はIS委員会からの指令だから、学園外での展開許可とか取る必要はない。

 

「虚、福音の飛行経路は?」

 

『先ほど、ウェーク島沖100kmの地点を通過。今の速度を維持した場合、あと30分ほどで学園上空に到達します」

 

「了解、私も移動するわ」

 

『迎撃するのでは無いんですか?』

 

「30分も待つ気はないわ。こっちからも近付いておく」

 

 虚の返事を待たずにスラスターの推力を上げ、東に向かって一気に加速した。この調子なら15分後ぐらいに接敵かしら。

 とか計算していたら、虚の代わりに今度はイヴが話しかけてきた。

 

『お嬢様、もっとどっしり構えることは出来ませんか? あまり淑女として褒められませんよ』

 

「別にいいじゃない。それに戦闘区域が学園から離れるのはいいことでしょ?」

 

『それはまあ、そうですが』

 

 何よ~? な~んか煮え切らない返事なんですけど~?

 

「それに、もし学園で迎撃してたらどうなってたと思う?」

 

『どうなってたんです?』

 

「はいイヴちゃんに問題! 学園上空はどこの国の領空でしょうか?」

 

『それは日本……ああ、そういうことですか』

 

「そういうこと。きっと撃破した福音とかパイロットとか、色々寄こせって言ってくるに決まってるわ。それを見越してアメリカも、完全破壊を条件に加えたんでしょうね、パイロットごと」

 

『ゲスい話ですね』

 

「まったくよ」

 

『おっと、そろそろ接敵しますよお嬢様』

 

「了解!」

 

 世の中の汚い話をしていたら、ハイパーセンサーでも捕捉出来るところまで近付いていたようね。えーっと……うわっ、あっちの速度マッハ超えてるんじゃない?

 

『それでお嬢様、虚様に言っていた手とは、やはり"あれ"ですか』

 

「もちろん! というわけで、いい感じに散布よろしく♪」

 

『その辺も私に丸投げですか。まあいいですけど。フォトン・トルピード、展開します!』

 

 空色の粒子が放出され、イヴの精密操作によって福音の進路上に展開される。さらに予想回避ルートにも散布され、半球状に反包囲する形になった。

 そこに福音が突っ込んで来て――

 

――パシュンッ パシュンッ

 

『キアアアアアアアアア……!』

 

 粒子とともに装甲が弾け、まるで獣の咆哮のような声を発しながら福音が空中で悶え苦しむ。

 何とか粒子を回避しようと飛び回るものの、その予測経路にも粒子は散布済み。福音は自分からキルゾーンに向かって飛び込む形となっていた。

 

――パシュンッ パシュンッ

 

『La……La……』

 

 最初の段階で前面の装甲が消滅し、逃げ回る間に武装と共通のスラスターも捥がれていく。

 

「おっと」

 

 最後にはスーツだけになったパイロットが海に落下しそうになったところを受け止めた。ISコアは……あら、大事そうに抱えてるわね。よっぽどこの福音が大事だったようね。ちょっと悪いことしちゃったかしら。

 

「まあでも、コアとパイロット両方無事だったわけだし許してね? というか、苦情はIS委員会へ」

 

『お嬢様、フォトン・トルピードで消滅し損ねた破片ですが、無事"公海上に"落下したようです』

 

「それは重畳。これなら日本政府も、表立って福音の回収は出来ないでしょ」

 

『はい。あとはコアとパイロットをどうするかですが……ちょうどよい連中がいますね』

 

 ちょうどいい? イヴが表示した情報に目を通すと……あら、ホントちょうどいいところに"米"第七艦隊がいるじゃない♪

 さっそく太平洋上を飛ぶと、視界に多数の艦艇が見えた。そしてその内の1隻に強行着艦を。

 

『えっ、お嬢様ナンデ? 強行着艦ナンデ?』

 

「なな、何者だ!」

 

 突然甲板上に現れた私に、空母の整備兵であろう兵士が慌てて拳銃に手を伸ばそうとしていた。

 

「ああ待って待って、私アメリカの依頼を受けてここまで来たのよ」

 

「は? 依頼?」

 

「ええ。というわけで、はい」

 

「えっ、ちょっと!?」

 

「それじゃ、あとよろしくね」

 

 コアを抱えた福音のパイロットを強制バトンタッチされて混乱する兵士を放って、私はさっさと撤収した。

 きっとあの兵士から情報が伝わったアメリカ上層部、特に国防総省で福音の開発を担当していた部署は大混乱でしょう。まっ、これくらいはこっちに面倒事を振ってきた代償ってことで。

 

 

 

「それで済むとお思いですか?」

 

「あ、あら~……」

 

 私としてはわりとしっかりお仕事したつもりだったのだけど、生徒会室で待機していた虚は満足していなかったみたい。

 ね、ねぇ、どうして私、椅子の上に正座させられてるのかしら?

 

「日本政府の横槍を警戒して、公海上で福音を迎え撃った。それは大変納得できるお話でした」

 

「でしょ?」

 

「そしてパイロットとISコアをアメリカ側に引き渡す。それについても、私は賛成です」

 

「でしょ~?」

 

「ですがっ!」

 

 バンッ! と机が叩かれた拍子に、出撃前まで飲んでいた紅茶がカップから跳ね上がる。もう少し力が入ってたら零れてたわよ?

 

「何の説明も無く第七艦隊に引き渡して、あまつさえ強制着艦するとか正気ですか!? 下手すりゃこっちの方が国際問題ですよ!」

 

「大丈夫よ。今回の一件、表向きは『無かった』ことになるんだから」

 

「……そうですが」

 

 虚ってば不満そうな顔してるけど、そこは仕方ないのよね。

 そもそもアラスカ条約でISの軍事利用の禁止を謳ってるのに、見事に軍用IS作ってるし。しかもそれが暴走とか、アメリカからしたら揉み消したい事実でしょう。なら、私の空母への強制着艦なんか話題に出せるわけがない。仮にそれをネタに国際問題化しようものなら、福音の件も芋づる式に表に出てきちゃうもの。

 

「それとお嬢様、先ほど本音から連絡があったのですが」

 

「あらな~に? あっちでも何かアクシデントがあった?」

 

 福音は私が処理したから、あっちは篠ノ之博士が現れたって話なんでしょうけど

 

「それが……」

 

 

「所属不明の陽炎がIS試験用のビーチに侵入、襲撃を受けたそうです。幸い、その場にいた専用機持ち総出で撃破したそうですが」

 

 

「……なんでぇ?」

 

 自分でも情けないな~と思えるぐらい、私の声は力が抜け切っていた。

 どこから来たのよその陽炎はぁ!




福音襲撃(臨海学校を襲うとは言ってない)
ちなみに暴走の原因は(明記されてないけど)原作通り束の仕業です。
一夏達でなく学園を狙った理由については、後々の話で。


次回は同じ時系列で、臨海学校側をやっていきます。
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