時間は流れ、第2回モンド・グロッソから1年後。決勝戦を放棄した織斑千冬が日本代表を辞任し、その後1年ほど滞在していたドイツから日本へ戻ってきた頃。
日本代表辞任について、世間では『モンド・グロッソでの贖罪のため』などと囁かれたが、実際はそうではない。
千冬が日本代表を辞した理由はただ一つ。唯一の肉親である弟の一夏が、大会中何者かによって誘拐されたからであった。
だから、彼女は一夏救出のために決勝戦を放棄した。そして情報を提供したドイツへの礼として、1年間軍の教官役を引き受けた。
そして現在、代表候補生養成所では、千冬の後釜となる次期国家代表を選出する模擬戦が行われていた。
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「ふぅ、懐かしいな」
ドイツから戻ってすぐ、私はかつて在籍していた代表候補生養成所に足を運んでいた。
ここに来た理由は言うまでもなく、次の国家代表を決める試合を見に来たのだ。
「千冬様がわざわざ見ずとも……」
「いいえ、後任の選手が決まるのを見届けるのが、私の最後の責務だと思っていますから」
「そのような崇高なお考えが……さすが千冬様です!」
「……」
案内役の女性は目をキラキラさせているが、私はそんな素晴らしい人間ではない。弟の身の安全と国家代表の身分を天秤に掛けて前者を選んだ、一人の姉でしかない。
だが実際、自分の後任がどんな人間かは興味があった。願わくば、私のような人間でないことを。
そして施設内部にあるアリーナに到着すると、2機のISが空中を飛び交っていた。ちょうど、試合が行われていたようだ。
「今戦っているのは誰ですか?」
「少々お待ちください。えっと……野崎候補生と、更識候補生ですね」
「ほう、片方は野崎さんか」
私と同時期に代表候補生になった人だ。相手の更識というのは、もしかして
「更識というのは……」
「はい、更識
「やはり、あの『如月重工』の」
世界シェア第2位を誇る、日本国内でも倉持技研に並ぶ、いや倉持を超えるIS開発企業だ。
政府との繋がりも関係するため、第2回モンド・グロッソでは倉持の開発した第2世代機が選ばれたが、それが無ければ如月重工の機体に乗っていたかもしれない。
私個人の感想としては、防御性重視の『打鉄』よりも、機動性に重点を置いた『陽炎』の方が性に合っていた気がする。それもたられば、今更の話だが。
「お二人とも、なかなか決着がつきませんね」
「そうみたいですね。二人が乗っているISについて、何か分かりますか?」
「はい、データベースに登録されています。野崎さんの機体は『打鉄
「なるほど、倉持と如月の……」
野崎さんの打鉄弐式は、第2世代機である打鉄の原型があり、見た目ですぐ分かった。そうなると、もう片方がミステリアス・レイディということか。
打鉄弐式が刀とアサルトライフルを持ち、ミステリアス・レイディが馬上槍みたいな武装を持っていた。発砲炎が見えるということは、槍にマシンガンが内蔵されているのか。
「ふむ……ですが、そろそろケリが着きそうです」
「えっ? あっ!」
どうやらあのミステリアス・レイディという機体、陽炎と同じく機動性重視のようだ。高速移動で打鉄弐式を上手くかく乱し、最後は正面から非装甲部に強烈な突きを入れた。
『打鉄弐式、SEエンプティ。勝者、更識楯無』
アナウンスが流れ、両者がゆっくりと地表に降りてくる。
「すごい試合でしたね」
「ええ。彼女のような強者が次の国家代表になるのであれば、私も安心して引退できます」
「そう、ですね……ところで、千冬様は代表を辞められた後は?」
露骨な、そして彼女なりの気遣いとも言える話題転換に、私も苦笑して答える。
「実は、候補生時代の後輩に誘われていまして。教師をする予定です」
「教師……もしかしてIS学園ですか!?」
「ええ」
IS学園。IS運用協定、通称「アラスカ条約」に基づいて設置された、IS操縦者やメカニックを養成する国立高等学校。
後輩の山田真耶に誘われて、来年度からそこの教師として赴任することが決まっている。とはいえ、教員免許は無いから一般科目はノータッチ、IS関連の授業だけなのだが。
「うわぁ! きっと来年度から入学倍率が上がりますね!」
「いや、それは……」
正直、私目的で来られても困るのだが……
「ところで、先ほどの試合ですが」
「あっ、はい。試合結果から、更識さんが次の日本代表に任命されるはずです。実際彼女は候補生になってからも成績、素行ともに問題ありませんので。それと更識さんは来年度、IS学園へ入学する予定です」
「なるほど、私と同じ"新入生"というわけですか。……二人とも、かなり疲弊しているな」
「先ほどの試合、白熱してましたからね。接戦というやつですね」
「……」
「千冬様?」
「ああいえ、何でもありません」
案内役が不思議そうな顔をしていたが、私は首を横に振った。
更識楯無……奴は、本気を出していなかった気がする。
「更識、か……」
――ギリッ
(なん、だ……?)
今、ものすごく胃に痛みが……
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「はぁ……」
野崎さんとの試合後、私はピット内に設置されたベンチに座り込んだ。
さっきの試合、すごく疲れた。それと同時に、やり切った感もあった。
(相手をワンパンしないで勝つのしんどいわぁ……)
次期国家代表を決める試合だから、ある程度目立つのは仕方ない。だけどあまり目立ちすぎるのもアウト。だから『接戦の上、何とか辛勝した』ぐらいを目指してたのだけど……
(倉持技研の打鉄弐式、弱すぎぃぃぃぃぃぃ!!)
なにあの通常の打鉄に毛が生えた程度の機体! あれで代表候補生の専用機!? あれじゃ野崎さんが可哀そうよ!
(大して機動性が上がってない。武装も打鉄と変わらず。
さらに1年後、前世と同じように織斑君がIS学園に入ったら、白式に夢中で弐式の開発が凍結されると。……ご愁傷様です、野崎さん。
「けど、何はともあれ、これで日本代表になれたわね」
国家代表になるのはこれで2回目だけど、正直今回の方が感慨深いわぁ。前回ロシアの代表になった時は、半分お仕事みたいなものだったしね。
あとは4年後の第3回大会に出場して……なぜかしら、優勝『出来ない』シーンが想像できないわ……。
(4年後って言ったら、セシリアちゃん達も成長してるはず。けど、どうしても簪ちゃん以外に負ける気がしない)
そして本人が『代表候補生にならない』って宣言してる以上、大会で簪ちゃんと戦うことは無い。……うん、楽勝!
「って、何馬鹿なこと考えてるのよぉ……これも全部、陸君の所為だわ……」
陸君がミステリアス・レイディを強化し過ぎて、私の慢心も強化されてる? それはまずいわよ。
っと、そういえば陸君が『万が一、今日の試合で負けそうになったら使ってくれ』って言ってた武装があったわね。
「え~っと……あっ、あったあった」
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武装名:
概要:周囲に反物質結晶体を散布、触れたものを光子に変換・消滅させる
効果範囲:機体を中心に最大で半径100m
備考:フォトン・サーチャーによって周囲の光子を吸収、シールドエネルギーに変換が可能
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な、ななななな……っ!
「なんてもの作ってるのよぉぉぉぉぉぉぉ!!」
こんなもん、封印よ封印っ!! 私はモンド・グロッソに出場するのであって、宇宙を舞台にした大戦争に参加するわけじゃないのよ!?
「まったく……陸君には一度、きつ~いお灸を据えないと」
もしかしたら簪ちゃんも共犯かもしれないし、もしそうだったら二人まとめてお仕置きね。
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「っ!?(ブルッ)」
「陸、どうかしたの?」
「いや、何か一瞬悪寒が……」
「? ……っ!?(ブルッ)」
「簪、お前もか」
「(コクコクッ)」
おかしい。如月重工の休憩室で、刀奈からの連絡を待ってるだけなのに。
織斑千冬が会見で日本代表辞任を発表してから数日が経ち、次の代表が今日決まる。正確には代表候補生達が試合って、勝った奴が次の代表ってことだ。
で、刀奈もその試合に参加していて、俺達はその報告待ちってわけだ。
「もしかして、お姉ちゃん負けた?」
「いやいやまさか。最後の切り札だって入れただろ」
「うん。でも、もし切り札を使う前に速攻をかけられてたら」
「う~ん、それでも倉持如きに負けるとは思えんが……」
――PiPiPi!
簪の端末から着信音が鳴った。
「お姉ちゃんだ! ――もしもし?」
『簪ちゃん、やったわよ!』
「あ……それじゃあ!」
『ええ。さっき正式に、日本の国家代表に選ばれたわ』
「よっし!」
なれないなんて全然思ってなかったが、これでまずは、刀奈がブリュンヒルデになるための第1歩だ。
『この後手続きがあるから、それが終わったらそっちに戻るわね』
「うん、待ってる」
『それじゃあ、また後でね♪』
そこで通話が切れる。
「「いえ~~い!!」」
上機嫌の簪とハイタッチまでかましちまった。今日の晩飯は豪華に――!
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「……それで? あの武装について説明、してくれるわよね?」
「……」
「……」
「「あるぇぇぇ?」」
なんで俺と簪、二人揃って刀奈に正座させられてんだ?
2週目ともなると、簪もいい感じでぶっ飛んでます。
さぁちーちゃん、君のポンポンペインは始まってるよ!(満面の笑み