第30話 如月重工は今日も順調
臨海学校が終わってすぐの期末テストというバッドイベントを通過し、IS学園は今夏休みに突入していた。
海外から日本に来ている生徒が多いIS学園、多数の生徒達が帰国の飛行機に乗るために、早朝のモノレールはごった返していた。それから少し落ち着いた頃に、日本人生徒もぞろぞろと帰省するために寮を後にしていく。
今学生寮に残っているのは帰る気のない少数派、そして期末テストで赤点を取った補習組だけだ。ちなみに、一夏はギリギリ赤点を回避できたらしい。
俺と簪、のほほんは何の問題も無く余裕の合格。……ぶっちゃけ2回目だし、これで落ちたらヤバすぎる。
そんな俺達は現在、如月重工の一角にある試験用アリーナに来ていた。当初の予定通り、不知火を仕上げるためだ。
「輻射障壁の動作も上々だし、これなら予定通り夏休み明けに発表できそうね」
「ん~、いいわねこの輻射障壁! 実体弾はほぼ防御可能だし」
先日提出したレポートを持って満足気に頷く刀奈。横に立つ野崎女史に至っては輻射波動発生機構を仮実装した試製・不知火を見て目ぇキラッキラさせてるし。
「レーザー兵器は減衰させるのが精一杯ってところが課題だな」
「そうなると、次は絶対守護領域?」
「簪ちゃん、それ積んでも誰も扱えないから……」
「うん、知ってた」
どうやら言ってみただけらしい。まずドルイドシステム前提って時点でアウトだし、仮にシステムを組んだとしても適性ある奴いんのか? それこそレッド・スコルピオとかミステリアス・レイディのマルチコアISじゃねぇと、演算が間に合わんな。前外史じゃ、ソフィアーが演算に掛かりっきりで身動き取れなかったし。……ん?
「つまり、ミステリアス・レイディになら積める……?」
「陸君、ステイ」
刀奈最強計画がさらに飛躍するかと思ったら、当の本人から止められた。解せぬ。
「それじゃあ野崎さん、模擬戦お願いします」
「了解。私も宮下君の実力を知りたかったからね」
「本音、行くわよ」
「りょうかい~」
布仏姉妹がデータ収集用機材をセットするため、アリーナの隅の方に移動を始める。
というわけで、試製・不知火の動作確認とデータ集めのため、野崎女史と俺が模擬戦をすることに。これでいいデータが取れたら、晴れて休み明けにお披露目となるわけだ。
の、はずなんだが……
――ブォンッ!
――バシィィィィィッ!
「ひぃ!?」
「いやあの野崎さん? 輻射障壁のテストはもういいんで、反撃してくださいって」
「無茶言わないでよ! 何その攻撃!? そんな大きな刀、その早さで振り回すとかアリ!?」
陰流に乗って親船を振り下ろす俺に、野崎さんは防御一辺倒でとっても困っている。カスタム機とは言え、こっちは第2世代の陽炎ベースなんだから、第3世代機が逃げてばっかりはダメだろ。
しかも、そんなに早く振ってるつもりは無いんだが。少なくとも距離取って春雷を撃つぐらいの余裕はあるでしょ。頑張れよ元・代表候補生、前外史の簪だって、もうちょっと根性あったぞ。
「無理無理無理ぃ! ちょっと更識さぁん! 相手が悪すぎるんですけどぉ!?」
「う~ん……でも野崎さん、この面子で一番弱いのが陸君だから……」
「ファッ!?」
おーい刀奈、微妙に傷つく言い方すんじゃねぇよ。確かにISに乗る前提なら、俺はお前らより弱いけどさぁ……
「大丈夫、陸の強さは夜に「言わせねぇよ?」
「かんちゃ~ん、ここで惚気るの~……?」
ほら見ろ、のほほんすらドン引きしてるじゃねぇか。
「簪、今晩お前簀巻きな」
「堪忍してつかぁさい」
アリーナの地面で躊躇なく土下座かますぐらいなら、最初から言うなよ。あーほら、野崎女史も形容しがたい表情になって……あれ、野崎女史? なんか怒ってます?
「だぁぁもう! そうやってイチャイチャしてぇ! 当てつけなの!? 今までIS一筋で色恋沙汰に無関係だった私に対する当てつけなの!?」
「いや、そういうわけじゃ……」
「リア充爆発しろー!」
――ドゴォォンッ!
――ドドドドドドッ!
「うぉぉぉぉっ!?」
野崎女史がキレたぁぁぁぁ!? えっ、ちょまっ、春雷と山嵐の同時ブッパとか回避も防御も間に合わ――らめぇぇぇぇぇぇぇ!!
――ドドドドドドドォォンッ!
「にぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
春雷の砲撃だけは回避出来たものの、その後間髪入れずに飛んできたマイクロミサイルの爆風で、FF8のサ○ファーよろしくぶっ飛ばされた。
「陸く~ん、無事~?」
「一応、無事っちゃ無事なんだが……」
SEはガッツリ減らされたが、山嵐の直撃を食らったにしては残っていた。というのも
『臨海学校でテストした輻射障壁、外さないで良かったな』
『そ、それに、私も頑張りました!』
『おう、偉いぞー』
今回もソフィアーが頑張って障壁展開してくれたおかげだ。
しかし何というか……やっぱ俺、乗り手としては刀振り回すしか能が無いのかもしれない。動作テストで動かす分には銃火器だろうと輻射障壁だろうと扱えるんだが、いざ実戦になると刀ほど反射的に動かせないんだよなぁ。
「ふぅ……すっきりした」
「あの~野崎さん、陸君ボコってストレス発散されても……」
「リア充○すべし! あっ、そうなると更識さんもか……」
「えっ、あの、野崎さん?」
「更識さ~ん……ちょっと同じ候補生だった
「怖っ!? 助けて虚ぉ!」
「いいデータが取れましたね。これなら予定通り不知火を発表できます」
「虚ぉぉ!?」
すんげぇいい笑顔を向ける虚さんに見捨てられ、憐れ刀奈は野崎女史に連行されていくのだった。刀奈お前、野崎女史の雇い主のはずだよな?……まいっか!
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如月重工が順調に次期主力商品を用意していた頃、倉持技研の一角では罵声が飛び交っていた。
「どういうことよ! アンタが用意したIS、とんだポンコツだったじゃない!」
「そんなはずはない! 貴様らパイロットの質がゴミだっただけだろう!」
「何ですってぇ!」
「ふんっ!」
相手を罵倒し合う1組の男女。女の方は女性権利団体の日本支部長で、臨海学校襲撃犯の元上司である。"元"が付くのは、襲撃犯はとうの昔にトカゲの尻尾切りをされたから。しかも念を入れて、襲撃の1か月前に除名されたことになっていた。
男の方は言うまでも無く、レイモンド=澤和である。
先ほどの会話を聞けば分かる通り、臨海学校襲撃事件はこの2人が画策したものであった。倉持……ではなくレイモンド個人がISを提供し、女権団がパイロットを出して、陸の抹殺を図ったのだ。
女権団は『
しかしこの勢力(片方は個人)、どちらもポンコツであった。
女権団は今回の計画で、代表候補生試験に何度も落ちるレベルの人間をパイロットに起用。レイモンドはレイモンドで、陽炎のOSを打鉄用に差し替えただけではなく、『私がこのISを強化してくれるわぁぁ!』とOSを書き換えてゴミ度合いを強化したという。
「もういいわ! アンタのような男に頼ったのが間違いだったのよ!」
女権団の女はヒステリックな声を上げると、ドシドシと足音を立てながら部屋を出て行った。バンッ!と叩きつけるようにドアを閉めて。
1人部屋に残されたレイモンドは、100%自分は悪くないという顔でため息をついた。
「まったく、これだから女権団などという勘違いした馬鹿共は……私が政権を握ったら、真っ先に消し去ってやる」
絶対にあり得ない未来を既定のものとして語るレイモンド。そんな彼の頭が計算を始めたのは、今回の計画失敗による損失だった。
実家と繋がりのある組織――
「やはり機体がゴミだったのだ。これが陽炎ではなく打鉄だったら、私の素晴らしい手腕と合わさって、あの忌々しい如月の関係者共を葬れたものを……うむ、やはり打鉄のOSに"対応できない"陽炎はゴミだな」
ドカッとソファーに座り、妄想を垂れ流す口をお茶で潤す。そうして一息つくと、フンッと鼻で笑った。
「まあいいでしょう。今回は『我が倉持技研が開発した白式が、如月の陽炎を撃破した』という事実を喜ぶとしましょうか」
『第3世代の白式が第2世代の陽炎に勝つのは当然』という事実が見えるわけも無く、レイモンドはまた一歩覇道を進んでいると思い違いをするのであった。
一方、別のフロアでは
「……ねぇ副所長」
「はい……」
ヒカルノと副所長が、
『我が倉持技研が開発した白式が、如月の陽炎を撃破しました!』
テレビの向こうからは倉持技研の役員が、奇しくもレイモンドが口にした文言をそのまま喋っていた。その内容に、画面端に映る記者も『お、おう……』と困惑している。
「もうこれ、色々オワリだよね?」
「ですね。第3世代機が第2世代機に勝って記者会見って、上層部は頭レイモンドですか」
「かもね~……いくら宣伝材料が欲しかったからって、これは……」
2人とも目のハイライトが消えて、お茶の入った紙コップを持つ手もカタカタと震えている。というより、ヒカルノの手首に零れたお茶が少しかかっていた。
「副所長、"例のもの"持ってきてくれるかい……?」
「はい……」
ヒカルノの指示で副所長が音も無く立ち上がると、キャビネットから封筒を2つ取り出して彼女の前にあるテーブルの上に置いた。
その封筒の表には、こう書かれていた。『退職届』と。
「いよいよ、これを使う時が来たようだね……」
「はい。もうここはダメです、キャリアに傷がつく前に逃げましょう」
2人顔を合わせて頷く。倉持が打鉄弐式の開発を打ち切った辺りで、コツコツと逃げる準備を整えていたのだ。
「あとはどこに逃げるかですが……」
「そうなんだよねぇ……多少待遇が悪くなってもいいから、真っ当な場所に『ポーン♪』ん? メール?」
懐から鳴った音を聞き、ISスーツの上から羽織っている白衣のポケットから携帯端末を取り出すと、画面とにらめっこを始めた。
「ん~……っ!?」
「所長?」
「ふ……」
「ふぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」
「ちょぉっ!?」
突然立ち上げりコロンビアし始めた上司に、副所長も思わず後ずさる。
「やったよ副所長! 天は我々を見放していなかった!」
「あの、一体どういうこと――」
「これだよこれ!」
興奮気味に携帯端末を自分に向けるヒカルノに、怪訝な顔をしつつ画面を見ると……
「ふっ、ふぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」
副所長もコロンビアした。
2人が見た画面には、先ほど着信したメールの文面が踊っていたのだった。
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件名:【御連絡】経験者大歓迎!
差出人:如月重工人事部
篝火ヒカルノ様
はじめまして、如月重工人事部の●●と申します。
突然のメール、失礼いたします。
現在弊社では、IS開発のご経験のある方を積極的に採用しております。
ヒカルノ様の経験を、ぜひ当社で活かしていただけないかと考え、ご連絡を差し上げました。
もし興味を持っていただけましたら、折り返しご連絡いただければ幸いです。
また、御同僚で当社に興味を持っていただいた方を紹介していただけますと、幸甚の至りです。
お連絡お待ちしております。
よろしくお願いいたします。
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不知火完成間近。そしてオリ主ボコられる。
絶対守護領域を張りながら、ミストルテインの槍を乱発するミステリアス・レイディ……アリかも(目グルグル
女権団&レイモンド大爆発。
というわけで、機体の出処は亡国機業でした。
デュノア社の内通者が、亡国機業に研究用の陽炎を譲渡
↓
澤和家(レイモンド)が半ば金で買い取る
↓
如月の機体なのが気に食わないが、打鉄の機体を持ち出すと会社にバレるからOSだけ書き換える(さらにOSにも手を加えて悪化させる)
↓
女権団に渡す
ヒカルノ転職フラグON。
遠くない未来、如月の施設内で、束とヒカルノの化学反応が起こったり……?