お前がブリュンヒルデになるんだよ!   作:シシカバブP

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第37話 ここまで来ると、いっそ清々しい

 学園祭に向けた準備が各クラスで行われている中、俺達1年4組は比較的平穏な日々を……送れてはいなかった。

 

「宮下くーん、ちょっとは手伝ってよー!」

 

「いやいや、バッテリー部分は俺が作って、装着は皆がやるってことで話がついただろ」

 

「こんなに大変だなんて思わないじゃーん!」

 

 普段は使われない第6アリーナで、女子生徒達がせっせとEOSに新型バッテリー(に偽装した劣化版ISコア)を付けている中、俺はのんびり自分の専用機『陰流』を弄っていた。さっき言った通り、俺のお仕事は終わったわけだし、あとは皆が頑張れって話だ。

 というか、俺も別にサボってるわけじゃないんだぞ? 学園祭で一夏とエキシビジョンという名の模擬戦をするから、その準備をしてるわけで。

 

「そうは言っても、陽炎ベースの陰流に今更手を加える箇所あるの?」

 

「う~ん、それを言われると耳が痛い」

 

「なら手伝ってよー! というか、更識さんは免除されてないじゃん!」

 

「私の分はもう終わってる」

 

「ファッ!?」

 

 俺の横で一緒にのんびりしてた簪に文句を言った女子生徒が右を向けば、そこには装着済みのEOSが鎮座していた。さすが如月重工のエースメカニック、素晴らしい手際の良さだ。

 

「どうしてだろう、陸に褒められた気がするのに、素直に喜べない」

 

「なして?」

 

 よー分らんが、とりあえず頭撫でておくか。

 

「ふみゅ~❤」

 

「宮下君、更識さんとのイチャラブはほどほどにね~。皆も、手を止めてないで作業を進めてね~」

 

「うぃ~っす」

 

「「「は~い……」」」

 

 エドワース先生の号令で、半分死んだ目をした面々が改造途中のEOSへ戻っていく。あと先生、別にイチャラブしてるわけじゃないですから。

 

『1年1組の織斑一夏君、1年4組の宮下陸君。生徒会室まで来てください。繰り返します――』

 

 校内放送で呼び出し、しかも俺と一夏をか。時期的に学園祭のことだろうな。それに……

 

「宮下君、呼び出しみたいだよー」

 

「おう分かってるって。というわけで先生、ちょっと抜けます」

 

「分かったわ」

 

「簪、もしバッテリーの装着方法が分からんって奴がいたら……」

 

「うん、分かってる」

 

 俺が言い終わる前に頷く簪。そうそう、レッド・スコルピオンの右腕を部分展開して……はぁ!?

 

「二度と忘れないよう、しっかり叩き込めばいいんだよね?」

 

「「「ひぃ!?」」」

 

「なんでやねん!」

「?」

 

 そこで首を傾げるな! えっ、ジョークでなく本気で言ってたのか? ナニソレコワ……

 若干不安を感じながらも、陰流を待機状態に戻して生徒会室へ足を向けた。……本当に大丈夫か?

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

「「秘密結社?」」

 

 生徒会室に呼び出された一夏と俺は、勧められたソファに座った状態で、正面に座る刀奈の説明にオウム返しをした。

 ただし、俺は一応の確認で口にしたのに対して、一夏は理解出来ずに首を傾げていた。

 

「そう、亡国機業(ファントム・タスク)という名前で、その規模も目的も不明っていう謎の組織なのよ。ただ最近では、IS関連施設を襲撃、ISを奪っているとの情報もあるわ」

 

 刀奈も刀奈で、前外史とほぼ同じ説明を口にしていた。そしてバッと開かれた扇子には――『所詮雑兵』っておい。幸い一夏からは見えてないが、謎の組織を雑兵扱いすんな。……正直俺も、今の刀奈と簪がアラクネやゴールデン・ドーンに負けるとは思えんが。

 

「ファントム、タスク……」

 

「それで? その謎の組織のことを俺と一夏に話したということは?」

 

「ハッキリ言うわ。宮下君と織斑君、二人ともその亡国機業に狙われる可能性がある」

 

「お、俺達が!?」

 

 そこで驚くところも変わらんなぁ。自分の立ち位置を理解してないのがよく分かる。

 

「いや一夏。お前のネームバリューからしたら、狙われて当然だからな? しかもさっきパイセンも言ってたろ、関連施設を襲ってISを奪ってるって」

 

「そうか、俺の白式を狙ってるってことか」

 

「織斑君? 前半部分を無視したのはワザと?」

 

 一夏の朴念仁イヤーに、刀奈がソファーからズルッと転げ落ちそうになる。つくづく一夏は一夏だな。

 

「それを言ったら陸だって、第2世代機のカスタム機とはいえ専用機を持ってるんだから狙われて当然だろ」

 

「まあな。もしかしたら俺の場合、如月重工の情報って線もあるが」

 

「私としては、そっちの方があると思うわ」

 

 第3世代機の設計図をデュノア社に売った件とか劣化版ISコアを作った件は表に出てないが、その分刀奈の、『国家代表の』専用機を作ったことでマークされてる可能性はあるんだよなぁ。

 

「そういうわけで二人とも、今後一人でいる時は十分気を付けてね」

 

「了解です」

 

「分かりました」

 

 そうして生徒会室を出ようとしたところで

 

「あっ、宮下君はちょっと残ってて」

 

「ん?」

 

 振り向くと、さっきまで座ってた場所を指さす刀奈が。俺にだけ個別で話があるんのか?

 

「そんじゃ陸、お先に」

 

「おう」

 

 一夏が出ていってドアを閉めるのを見送ると、指示された通り再度ソファーに座り直した。

 うーむ、刀奈と個別に話すことなんかあったか? まさか束が脱走したわけでもないだろうし。

 

「……陸君」

 

「お、おう?」

 

 一夏と俺に説明していたさっきまでと違って、今の刀奈は恨めしそうな視線を俺に向けていた。コワッ

 

「一応、確認しておくわね?」

 

「おう」

 

「1年4組の出し物は『EOS試乗会』よね?」

 

「そうだ」

 

 織斑先生に提出して撥ねられてないから無問題、のはずだが?

 

「そのEOSに、新型バッテリーを乗せたのよね?……『如月重工の新技術』ってことにして」

 

「やったやった。後から『そのバッテリーを寄こせぇ!』とか言われても困るし、ウチ(如月)の特許絡みだと言って拒否ろうかと」

 

 絶対言い出す奴が出てくるからな。倉持とか、各国政府とか、倉持とか、ウチ以外のIS企業とか、倉持とか、国際IS委員会とか、倉持とか。

 

「……正直に話してちょうだい。その新型バッテリー、中身は?」

 

「劣化版ISコア」

 

「なにしてくれっちゃってるのよぉぉぉぉぉぉ!」

 

――バッ! ギュッ!

 

「ぐぇ!」

 

 正面からチョークスリーパー!? しょ、正直に話したじゃん! ぎ、ギブギブッ! 首極まってる&刀奈の胸部装甲が当たってマジ息できない!!

 

「……ふぅ、今回はこれくらいで勘弁してあげるわ」

 

 どうやら刀奈もそこまで本気じゃなかったようで、ガチ落ち2,3歩前で解放された。

 

「そりゃどうも……マジで死ぬかと思った」

 

「あら、でも気持ちよかったでしょ? お姉さんのおっぱい♪」

 

「別の意味で天国に行きそうだった」

 

「そ、そう……///」

 

 そこで赤くなるならやるなよ。そこが刀奈らしいって言えばらしいが。

 

「こほんっ! とりあえず織斑先生を含め、学園には陸君が言った通り如月重工の機密ってことでバッテリー内部は開かせないわ。陸君も手は打ってあるんでしょ?」

 

「それは当然。正規の手順を経ずに蓋を開けたら、内部のコアを自壊させるようにしてある」

 

「あ、自爆はしないのね。安心したわ」

 

「さすがに学園内で自爆装置は危ないだろ。……いや、むしろ学園外に持ち出した時点で自爆するようにした方が良かったか?」

 

「陸君、ステイステイ」

 

 割とガチ目に刀奈に止められた。いい案だと思ったんだけどなぁ、絶対倉持の敷地内で爆発するぞ。

 さらに言えば、今回EOSに付けたISコアは従来の劣化版を超えた『超劣化版』だ。仮にEOSから取り外してISに付けたところで、起動すら満足にしないだろう。……その所為で、通常の劣化版より作成に手間が掛かってるんだが。ついでにそれを知った簪にジト目されたんだが。

 

「それで、これが俺を部屋に残した理由か?」

 

 内容的に、一夏にどころか織斑先生達にも話せないだろう。

 

「バッテリーの件が半分、もう一つ話があるのよ」

 

 そう言って刀奈は立ち上がると、会長席の袖机から紙切れを取り出して俺に差し出した。

 

「なになに……う゛っ!」

 

 まず目に入ったのが、最上部の『織斑一夏vs宮下陸エキシビジョンについて』というタイトル。そしてその下に――

 

「レイモンド=澤和、だと……!?」

 

 一瞬で数か月前の光景――如月重工がまだ日本にあった頃送り付けられてきた、『要求書っぽいナニカ』――がフラッシュバックし、身体中に悪寒が走る。

 

「今度は一体何を吐かしてきたんだ……」

 

 恐る恐る読み進めていくと……

 

(以下、陸の要約)

 

『如月の専用機には簡易最適化機能とかいうのがあるらしいが、エキシビジョンでは使用禁止な』

 

『こちらの白式が雪片弐式だけなのだから、当然お前らもブレード1本で勝負しろよ?』

 

『我が倉持技研の機体と正々堂々(俺達の土俵で)勝負したまえよ?』

 

 

 

「……刀奈ぁ」

 

「陸くぅん」

 

 何とか読み終わった俺は、両腕を広げて待っていた刀奈に抱き締めていた。

 もう香ばしいってレベルじゃねぇよ……! なんだこの特急呪物は!? どうしたらいい大人がここまで自己中を通り越して勘違い野郎になれるんだ!?

 と、未知の恐怖に震えながら抱き合うこと数分、もうちょっとアピールをする刀奈を引き剥がしてソファーに座り直す。これ以上は色々マズい程度には、俺も男なもんでな。

 

「一応確認なんだが、拒否は出来ないんだよな?」

 

「無理ね。おそらく日本政府から学園上層部……IS委員会にも根回しされてるでしょうから」

 

 だよな~……そして刀奈、ワンモアハグじゃないから。ソファーに座ったまま両腕広げてポンポン跳ねるな。

 

「む~……だから陸君には『長船』1本だけで戦ってもらうことになりそうよ」

 

「仕方ねぇなぁ。白式相手には、遠距離からチマチマ撃つのが最善なんだが……」

 

「……仕方ないってわりには、顔がニヤけてるわよ」

 

「おっと」

 

 いかんいかん、つい。まあぶっちゃけ? 俺自身は刀を振り回す方が性に合ってるわけで。連中が刀だけで勝負しろっていうなら、乗ってやるのも一興かなと。

 

「陸君、無理はしないでよ?」

 

「大丈夫だって。あっ、どうせ色々制限付けられてるなら――」

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

「ふぅ……」

 

 陸君が生徒会室を出て行った後に会長席に戻って脱力していると、目の前に紅茶入りのティーカップが置かれる。

 

「お疲れ様でした、お嬢様」

 

「ホントよもう……うん、美味しい」

 

「……」

 

「虚、どうかしたの?」

 

 紅茶を飲む私をじっと見る虚に声をかけると、彼女は眉間に皺を寄せて言い辛そうにしていたけど

 

「宮下君の件、本気ですか?」

 

「ん~……陸君自身がやる気なのよね~」

 

「お嬢様が言っても止まりませんか」

 

「でしょうね。それに私としても、合法的に倉持をボコるいい機会だと思うわ」

 

「それはそうですが……」

 

 んも~虚ってば、また眉間の皺を増やしちゃって~。

 確かに、心配する気持ちも分からなくはないわよ? ただでさえ、織斑君の白式は第3世代で陸君の陰流は第2世代機と性能差がある。しかもベースの陽炎の持ち味を殺す要求を飲まされてるわけだしね。けど……

 

「虚だって知ってるでしょ? 陸君は――」

 

 

 

ISに乗ってない方が強いんだから




刀奈お姉ちゃんのおっぱいチョークスリーパー炸裂!
なお、劣化版ISコアが使用されることについては諦めている模様。

恐怖のレイモンド構文
ここまで世界が自分中心で動いていると思っている人間が……現実にもいることが一番の恐怖(実体験)


次回は学園祭開催の前に、亡国機業回や一夏の特訓回を挟むかもしれないです。
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