学園祭を翌日に控えた晩、俺は白式に乗って雪片弐型を振るっていた。
「そうです、振るった次の動作への繋ぎもよくなってますね」
「そうですか? 自分としては、3年間の空白はそれなりに埋まってきたとは思うんですが」
「はい! バッチリです!」
ま……山田先生に太鼓判を押されると照れるな。そう悟られないように、俺は改めて周囲を見渡した。
「それにしても、"このアリーナ"っていつも空いてるんですね」
アリーナと言っても、普段授業で使っているアリーナじゃない。校舎の地下に作られた、教員用アリーナだ。聞いたところによると、教師部隊の先生達の訓練用に用意されてものなんだとか。
なんでそんなところで特訓をしているかというと、話は数日前のSHR後、職員室に呼び出されたところまで遡る。
『織斑、エキシビジョンまでの間、白式を使っての訓練は教員用のアリーナを使うようにとのお達しだ』
『えっ、なんで(ビュンッ)です、か?』
出席簿の風圧に口調を変えると、千冬姉は頭をガシガシ掻きながら面倒くさそうな顔をした。
『倉持、つまり白式の開発元が、新武装を取り付けるそうだ』
『新武装……やっとか』
『ああ、やっとだ』
散々要望を出しても『仕様です』の一言で突っ返されてたけど、やっと雪片以外の装備が付くのか。
『そうなると、拡張領域の問題が――』
『残念だが、そちらは解決していない』
『えっ?』
『白式の拡張領域は相変わらず、雪片弐型に食い潰されたままだ。そのためか、新武装は"後付け"でなく"外付け"にするそうだ』
『外付けか……もしかして、さっき言ってた教員用のアリーナを使えっていうのも』
『お前にしては察しがいいな。倉持としては、エキシビジョンを新武装のお披露目会としたいようだ。だが外付け武装だと嫌でも他の連中の目に入る。だから普段生徒が使わないアリーナで、というわけだ』
確かに拡張領域に仕舞えないってことは、ぱっと見で新武装が丸見えになるってことだもんな。
『ちなみに監督および模擬戦の対戦相手は山田先生が引き受けてくれるそうだ』
『山田先生ですか』
『……誰も見ていないからって、変な気を起こすなよ?(ボソッ』
『なっ! 何言ってんだよ千冬ね『織斑先生だ(バシンッ)』えぶっ!!』
ということがあって、放課後はほぼアリーナ通いで特訓していた俺の実力は、前より上がっている……はずだ。
「新武装も慣れてきましたか?」
「はい。こういう武器があるのと無いのとじゃ、取れる作戦が段違いだって改めて思いましたね」
俺と山田先生の視線が、白式の左腕に付けられた新武装に向けられる。
連射型荷電粒子砲『雪羅』。
(更識さんの機体に積まれているのとは、別物なのかな?)
たぶんそうなんだろう。あっちは背部に付けるぐらい大型だったし。
何にせよ、これで前に陽炎に乗ってた時みたいな戦法が使えるようになった。山田先生に教わる戦い方も活用出来るってもんだ。
「先生、続きをお願いします」
「あっ、もう休憩はいいですか? それでは次に、射撃からの
陸、学年別トーナメントの時には白式を使いこなせてなかった所為で劣勢だったが、今回は俺が勝たせてもらうぜ!
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倉持技研第2研究所。篝火ヒカルノが去った所長室で、新しい主が部下からの報告を受けていた。
「では、白式に取り付けた新武装の稼働状態は良好と?」
「はい。元代表候補生の教員との模擬戦を行っているとのことで」
「それは結構」
口頭での報告を受け、新たな所長――レイモンド=澤和が鷹揚に頷く。
この男が新所長になった辺り、今の倉持技研にまともな人材が残っていないのが見て取れるだろう。それだけ澤和家の――あくまで実家であり、レイモンド本人ではない――影響力が凄まじいとも言えた。
「荷電粒子砲がエキシビジョンに間に合って何よりでしたね」
「そうだな……」
部下の言葉に頷くレイモンドだが、先ほどまでと違いやや顔が曇る。どころではなく、苦虫を噛み潰したかのように歪む。
「まったく……如月重工は最後までゴミでしたね。ドブネズミの如く尻尾を巻いてフランスに逃げるのは良かったものの、まさか工場跡に我々への土産の一つも置いていかないとは」
如月重工の日本工場が爆散した翌日、陸達が予想していた通り、倉持技研は工場跡を捜索していたのだ。あわよくば、如月が"不当に奪った"技術や機材を"取り戻す"ために。だが現実は、文字通り粉々になった金属とコンクリート片しか得られなかったという。
さすがの部下も苦笑いで、しかし新しい上司のご機嫌を損なわないように言葉を選んだ。
「あの大爆発でしたから……何も残っていないのは仕方ないのでは?」
「ふんっ。であれば、フランスへ渡る前に用意しておくべきでしょう。如月め、これだから礼儀を知らぬ劣等種は困る」
レイモンドとしては、如月は今まで自分達の邪魔(主観)をしてきたのだから、日本を出る際に謝罪と賠償があって然るべきだと、本気で考えていた。そして残念なことに、今の倉持技研は第1研究所も含め、そのアタオカ思想が広がりつつあった。
「まあいいでしょう。
「はい!第1、第2研究所の力を結集した成果です!」
レイモンドの言葉に部下も同意するが、これも当然裏がある。
なんてことはない。如月重工の量産型第3世代機『不知火』を研究用の名目で手に入れて荷電粒子砲を分解、機関部を取り出して小型化した砲身に乗せたものが『雪羅』の正体であった。
コピーですらない、機関部をブラックボックスのまま丸々流用したのである。しかし丸々流用したことで、陸の自爆トラップを回避していた。これはさすがの如月側も想定外であっただろう。
「如月側にはすでに『正々堂々ブレード1本で戦う』よう
レイモンドがクククッと笑う隣で、部下は若干ドン引きしつつも表面上は相槌を打つのであった。
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ついに明日が学園祭だね~。当日は忙しくなりそうだから皆早めに寝るみたいだけど、私はいつも通りネットゲーム(MMORPG)をしてるよ~。
私も当日は『ご奉仕喫茶』でメイド服を着て接客するんだけど、もし途中で寝ちゃってもおりむー達が頑張ってくれるよね~?
『へ~、学園祭かぁ』
「そうなんだ~。かずっちの学校はどうなの~?」
『僕のところ? あるにはあるけど、のほほんさんのところみたいな大規模じゃないかな』
一狩り終わって、次のクエストを受注する間、相棒のかずっちとボイスチャットで雑談をしていたら、学園祭の話題になってたんだよね~。
『それにしてもIS学園かぁ……』
「な~に? かずっち興味あるの~?」
『興味というか、中学校時代の同級生がIS学園に行っててさ』
「はえ? そうなんだ~」
昔の同級生がIS学園に通っていると聞いて、私はふと携帯端末の画面を、学園祭限定で入園出来る電子チケットを。ん~……うん!
「それなら、いいものをあげるよ~」
『いいもの?』
携帯端末をPCに繋いで、ボイスチャットツールを利用して電子チケットをかずっちに送った。
『あ、何か来た……ええっ!? IS学園の学園祭チケット!?』
「うん。生徒1人に1枚、配布されてるんだよ~」
『そ、そんなのもらっていいの?』
「いいよ~。特に渡したい人もいないから~」
かんちゃんもりったんも、もうIS学園にいるからね~。今更お父さんやお母さんを招待するのも、ね~? なら、かずっちに渡してもいいかな~って。
「同級生の子がいるんでしょ? なら、それを使って会いに行けばいいんじゃないかな~?」
『……ありがとう。有難く使わせてもらうね』
「うん! あっ、もしよかったら、私が中を案内してあげるよ~?」
『案内って、のほほんさんが?』
「そうだよ~。……もしかして、嫌だった~?」
『そんなことないよ! ……んっ、んんっ! そ、それじゃあ、当日はよろしくお願いします』
「は~い。おっ、次のクエストが来たよ~」
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
「は~……」
PCの電源を落とした僕は、そのまま力尽きるようにベッドへ倒れ込んだ。
「IS学園の学園祭、かぁ……」
そうしてPCから携帯端末に移した電子チケットを見て、さっきのやり取りが夢じゃないことを何度も確認してしまうのは仕方ないんだ。
「IS学園って、ものすごい倍率を潜り抜けたすごい女の子達でいっぱいなんだろうなぁ」
思わず弾みたいなことを口にしちゃったけど、僕も年頃の男なわけで、あのIS学園の中に入れると思うとドキドキする。と同時に、そんなすごい子達の中に入って正気を保てるのだろうかと不安も過る。
(飲まれるな
まるでIS学園で彼女を作るみたいな妄想を途中で振り払い、スーハ―と深呼吸繰り返す。そしてチケットをもらった当初の理由を思い出し、羨む言葉が思わず口に出た。
「そんな女の子に囲まれて生活してるなんて、羨ましいにもほどがあるぞ、