第44話 織斑、日本人やめるってよ
IS学園の学園祭が終わり数日が経った頃、そのIS学園で行われた記者会見で戦略核級の爆弾発言が飛び出した。
「私、織斑千冬は、日本国籍を離脱し自由国籍を取得する旨をお伝えいたします」
「日本国籍を離脱って……つまり、日本人をやめるということですか!?」
「質問は会見の最後で……ですが、お答えします。つまりはそういうことです」
織斑千冬の自由国籍取得宣言、それを聞いた各国の反応は凄まじいものだった。
なぜ自由国籍を取ろうと考えたのか、なぜ今なのか、日本からどの国に鞍替えしようというのか。
と、千冬の日本脱出発言だけでもこの騒ぎだったのに、そこにさらに追い打ちが為される。
「ちなみに、弟の一夏も同じように日本国籍を離脱する予定です」
「「「「な、なんだってー!?」」」」
会見の場にいた記者のほとんどが、大声を上げて立ち上がるほどの衝撃であった。
千冬だけならまだしも、貴重な男性操縦者である一夏までもが、日本と縁を切ると言っているのだ。
姉どころか、弟の方まで――疑問は尽きなかったが、まずはなにより、各国は織斑姉弟を自国に来てもらおうと動き出す。
当然、日本政府も黙ってはいない。あの手この手で千冬に留意させようと躍起になり、国際IS委員会の会議の場でも
『織斑千冬さんは我が国の誇りであり、自由国籍取得宣言は何者かに脅されて強要されたものに違いない。徹底的な調査が行われるまで、我が国は今回の国籍離脱を認めない』
そして倉持技研に至っては
『織斑一夏は我が倉持技研の貴重な
と発言。それに対してフランスから
『国籍離脱を認めないとか、資産とか……貴方方の方がヤバいこと言ってるじゃないですか。脅迫どころか人権侵害も甚だしい』
とツッコまれ、他国もフランス側を支持したことで、日本側の戯言は無き物とされた。
ちなみに、織斑姉弟を引き留められなかった件と国際会議での問題発言により、IS委員会日本支部の支部長が更迭され、同じく問題発言をした倉持技研の職員が懲戒解雇となった。……倉持の発言者がレイモンドであり、第2研究所の下っ端職員がスケープゴートにされたのは言うまでもない。
こうして織斑姉弟の日本国籍離脱は確定的となり、2人が在住しているIS学園に波乱が巻き起こることとなる。
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「いいいい一夏! 日本人をやめるとはどういうことだ!?」
「そうですわ! そのような重要なこと、どうしてわたくしに相談もなく!」
学食のテーブル席で、俺は箒とセシリアから波状口撃を受けていた。気圧されて周りを見渡すが、鈴もシャルもラウラも、味方をしてくれる気はないようだ。というか『それで、どういうことなんだ?』と説明を催促する視線が……俺、何も悪いことしてないんだが……
「いや、説明も何も……学園祭が終わった後、千冬姉から『私と一緒に、日本人をやめよう!』と言われただけで……」
「だから、どうしてそうなったんだ!」
「まあ、いつかはこうなると思っていたがな」
「え、ラウラ?」
困り果てて、あの日あったことをそのまま話すと、ラウラだけが納得したように頷いていた。そんなラウラに、シャル達が驚きの表情を向ける。
「いつかはこうなるって……どういうこと?」
「教か、織斑先生は日本政府と倉持技研に疑念を持っていた。だから遅かれ早かれ、連中と袂を分かつと思っていた」
「千冬姉が?」
「嫁だって、倉持技研には思うところがあるのだろう?」
「それは、まあ……」
ラウラが言ってるのは、学園祭で行われたエキシビジョンのことだろう。確かにあの一件で俺は倉持技研を、白式を信用出来なくなった。
「そもそも倉持技研には、悪い噂――事実が山ほどあるからな」
「ですわね。わたくしも、あの企業と日本政府の癒着がこれほど酷いとは、更識さん方に教えていただくまで知りませんでしたし」
「えっ、何それ」
「ああ、鈴さんはあの場にいませんでしたわね。シャルロットさんとラウラさんは」
「僕は知ってるよ。デュノア社内でも有名だったからね」
「私もだ。如月重工とは別の意味で"要監視対象"だったからな」
「一体倉持技研って何やったのよ?」
「それは――」
唯一事情を知らない鈴にセシリアが説明すると、
「納期は守らないわ、政府と癒着して
鈴は額をコツコツと叩きながら天を仰いだ。
あ~、陸から話を聞いた食堂の皆も、あんな感じだったな。というかあの時の俺、よく『専用機、しかも第3世代機を作った企業だし』なんて言えたよな。知識がないって恐ろしい……
「宮下君達が日本から逃げ出しても、『織斑一夏がいるから平気』と高を括っていたんだろうね」
「なるほど……もし私が千冬さんの立場なら、そんな連中の作ったISに、弟である一夏を乗せたくは無いな」
「それもあるだろうが……」
箒達が納得する中、ラウラがはぁ……と頭を掻きながらため息をつく。なんだよ、それ以外にも理由があるのか?
「もう倉持技研と……あのレイモンドと関わり合いたくないのだろう」
「「「「「ああ~……」」」」」
ラウラの言葉に納得して、思わず何とも頷いてた。箒達も同じように頭を上下に振ってるし。
「確かに、あのヤバい奴が作ったISには乗りたくないわ」
「何と言いますか、機体の信頼性が揺らぐレベルの非常識さと言いますか……」
「奴の作ったISに乗ったら代表候補生になれると言われても、私なら辞退するな」
出てくる出てくる辛辣なセリフが。しかも何が酷いって、俺も同じ意見だってことだ。IS学園に入学した当初、ただただ力を求めていたあの頃の俺ならいざ知らず、今の俺には無理だ。乗りたくねぇ。というより……
「あれ? 一夏、その腕」
「おっ、シャルが最初に気付いたか」
そう言って制服の袖を引っ張ると
「アンタ、白式が……」
「ああ、白式は返したよ。倉持技研にな」
今日は実習が無かったからか、いつも左腕に収まっていた腕輪がないことに誰も気付かなかったな。
そして鈴に説明した通り、昨日の時点で白式は倉持、もとい日本政府に返却した。
「もし次があるなら、きちんと遠近両方の武装がある機体に乗りたいな」
「次って、あるに決まってるじゃない。少なくとも、アンタは貴重な男性操縦者として、データ取りが必須なんだし」
「少なくとも、移籍した先の国で専用機を用意するはずですわ」
「となると、千冬姉がどこの国を選ぶか次第ってことか」
「……もしかして一夏、どこの国籍を取るか、織斑先生に丸投げ……?」
ん? シャル、どうしてそんな驚いた顔してんだ?
「俺はその辺あんまり詳しくないからな。千冬姉に一任してるよ」
「そ、そうなんだ……」
あれ? なんか急にセシリア達が円陣組み始めたんだが? しかも『ある意味想定内だが……』とか、『僕達が勧誘する意味って……』とか聞こえてくる。
「? 皆、どうしたんだ?」
「知らん」
円陣に入らなかった箒も箒で、俺から顔を背けた状態で飯を食い始めるし。……どうなってんだ?
「私も、日本を出る覚悟を……!」
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「陸君、それ取って」
「はいよ」
マイクロファイバー製のクロスを刀奈に渡す。
今日は珍しく刀奈も整備室に揃っていて、一体何をしているのかと言えば……
『マスター、も、もう少し奥をお願いします』
「ここか?」
『お、おぉぉぉおぉぉっ、そこです、そこぉ』
「卑猥に聞こえる」
『や、やめてくださいよぉ!?』
学園に入ってからあまり出来ていなかった、専用機の整備をやっていた。んで、陰流の整備をしてるはずなんだが、コア人格であるソフィアーには滅茶苦茶気持ちいいらしい。いくらスピーカーとか繋いでない、プライベート・チャネルでしか聞こえない声とはいえ、色々問題があるだろ。
『お嬢、もっと力入れて拭いてもいいぞ』
「ん、分かった」
『ちょっとランディ兄ぃ!? あだだだだだっ! カンザシ待って! 研磨剤はありえなおごぉぉぉぉぉぉ!!』
簪は簪で、デュアルコアの片方、シャーリィへの折檻もついでにやってるようだ。簪曰く『私に黙って色々やり過ぎ』だそうだ。
刀奈の方は普通にコアをクロスで磨いて――
『あ゛~……お嬢様、いい塩梅です』
「イヴ、貴女唐突に年寄り臭くなるわね」
『仕方ありません。なにせ久々の整備な上、女権団の一人も葬れなくてストレスが……』
「物騒っ!」
あっちもあっちで、なかなかの主従漫才が行われているようだ。仲が良いことは素晴らしきことかな。
とはいえ、傍から見たら俺達、(コアの声は周囲には聞こえないから)ただ黙々とコアを磨いているだけの集まりに見えるわけで、 何か話を振るか。
「ところで刀奈、織斑姉弟の行先は決まったのか?」
「本決まりでは無いけど、現在進行中」
学園内で今ホットな話題を振ると、刀奈がいつものように扇子を広げた。『伊太利』……い、たり……ああっ、イタリアか!
「なんでも、織斑先生が現役だった頃の知り合いがいるらしくて、その伝手で話を進めているそうよ」
「現役時代の知り合い?」
「アリーシャ・ジョセスターフ選手」
「ああっ、アーリィか!」
「簪ちゃん、正解♪」
話に加わってきた簪が挙げた名前で思い出した。
2代目ブリュンヒルデ……なんだが、俺としては『織斑先生を執拗に付け狙うヤバい奴』って印象が強いんだよなぁ。前外史では、そのために
「イタリアにはアーリィさんがいるから、織斑先生を国家代表にって声は出て来づらい。しかも第3世代機開発をしてるし、織斑君に専用機を渡すだけの国力もある。現状ベスト」
「他の国と比べて、政治的利用がされ難いってことか」
「全くされないってことは無いでしょうけど。アメリカや中国よりはマシでしょうね」
アメリカと中国、資本主義と共産主義。正反対の国なれど、国のためのプロパガンダとして使い潰されるのは一緒ってことか。同じ理由で、ロシアに行く理由も無しと。
「それよりも、私達はもっと自分事なイベントに関心を向けるべき」
「というと?」
「やぁねぇ陸君ってば。来月にはキャノンボール・ファストがあるじゃない」
刀奈にツッコまれて、今更ながら思い出した。
『キャノンボール・ファスト』。ISを用いて行われる、妨害アリの高速バトルレースだ。
本来は国際大会として扱われるが、IS学園があるここでは、市の特別イベントとして催されるそれに、生徒達は学校行事の一環として参加することになる。
ちなみに専用機を持ってる方が圧倒的に有利なため、当日は専用機部門と訓練機部門の二つに分けて行われることになっている。
……前外史と変わらなければ、こんな感じだったはずだ。
そんで、この大会が来月に行われると。
「お姉さんは今年も優勝狙いなんだから、2人も頑張ってね」
「私としては、陸がまた『ディ○イン○スター』しないか心配」
「陸君……」
「そんな悲しそうな目で見んな」
「魔砲少女は陸には似合わない」
「うっ! 確かにそうかもな……」
衣装こそISスーツ(男用)だが、さすがに野郎の俺がリリカルでマジカルはライン越えだったかもしれん。なんだ刀奈、『違う、そうじゃない』って顔して。『論点はエジプトの壁画』? なんだそりゃ。
「むしろ俺としては、簪がまた大会参加不可にならないか心配だ」
「うぐっ!」
「簪ちゃん!?」
思いのほかクリティカルヒットだったのか、簪の手に変な力が入る。
――ガリッ!
『ぴぎゃぁぁぁぁぁぁぁ!!!! おどれカンザシぃぃぃぃぃぃぃ!!』
『う、うわー……あれは痛そうです……』
憐れシャーリィのISコアから、聞こえてはならない音と絶叫が。……ISコア、欠けたりしてねぇよな?
織斑姉弟、日本人やめます宣言。~そしてイタリア人へ~
原作ヒロインの所属国を避けつつ、縁のある国をと考えた結果、イタリーとなりました。
やったねちーちゃん、これから毎日アーリィに絡まれるよ!(南無
一夏、白式返却。
でもイタリアのテンペスタって、純格闘型ISでは? 一夏に扱えるのか?
しか~ししかし、あの紫兎が暗躍しないはずもなく……
次回から、本格的にキャノンボールな内容に持って行きます。果たして、簪は今回も大会出禁にされてしまうのか!?