なっとるやろがい!
宮下陸は激怒した。かの日本政府と倉持技研、碌なことしねぇなと。陸には連中の考えがわからぬ。陸は、機械馬鹿である。篠ノ之束と技術話に花を咲かせ、時に殴り合ったりアームロックしたりして暮して来た。けれどもレイモンドに対しては、人一倍関わりたくなかった。
「はぁ……」
「こう来たかぁ……」
陸と2人、玄関前廊下に張り出された紙を見て、ある意味感心混じりのため息が漏れた。
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キャノンボール・ファスト参加者について
今月開催予定のキャノンボール・ファストについて、以下の者の競技への参加を禁止とする。
対象者:1年4組 更識簪
1年4組 宮下陸
禁止理由:現在、第1学年にフランス国籍の専用機持ちが複数人在籍しており、
全体の参加者数に対する同国の比率が適正水準を超えると判断されたため
上記生徒は当日、観戦のみとする
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「ハブられるのは想定内だったけど、まさか陸もとは思わなかった」
「しかも最後の文、エキシビジョンにすら出させねぇってよ。どんだけ俺達を排除したいんだって」
前外史では陸が作った打鉄弐式――今のレッド・スコルピオの原型が強すぎて、参加すると勝負にならないからって大会運営からお断りされた。それが理由なら私が今回もハブられたって理解出来るけど、陸もとなると話が変わってくる。
「最悪……というか高確率でフランスの機体が専用機の部で上位を独占するだろうって、日本政府から圧力が掛ったんだと思う」
「下手すりゃ、それに倉持も乗っかったって感じだろ」
「……」
「……」
「「はぁ……」」
もうため息しか出ない。廊下を通り掛かりながら、私達をちらちらと見る人達の視線が哀愁を誘う。
「おいそこ、朝から何を……お前達か」
あ、織斑先生。と思ったら、私達と貼り出された紙を交互に見て、複雑そうな表情を向けてきた。
「それか……すまんが、今回の参加禁止については大会運営をしている市からの要望でもある、我慢してくれ」
と、前回とほぼ同じようなセリフで謝罪されてしまった。そんな織斑先生に、陸が疑問を投げつける。
「織斑先生、1年同士は百歩譲っても、エキシビジョンすら参加禁止なんですか?」
「エキシビジョン? ……ああ、3年と混ざってということか。当初はそういった案も出ていたのだが、それも運営側から却下された」
「マジか」
「マジだ。しかし国籍が理由なら、一夏と箒はどうなんだ……」
「一夏と篠ノ之が何ですって?」
「んんっ! 何でもない。ほら、そろそろSHRの時間だぞ」
小声で聞こえなかった部分をはぐらかすようにせっつかれ、私達は教室の方に追いやられてしまった。
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今朝織斑先生にはぐらかされた内容だが、それを知る機会はあっさりと巡ってきた。なんてことはない、昼休み、食堂で一夏本人から聞いたんだが。
「は? まだ国籍日本のまま?」
「ああ」
てっきりイタリア人になることがほぼ内定してると思ってただけに、俺も簪も目が点になった。というか篠ノ之達もだ。
「てっきり、イタリア国籍になったもんだと」
「いや、実際千冬姉とイタリアの、え~っと……「内務省?」そうそう! そこの役人と話が済んで、本当なら明後日に国籍が切り替わる"はずだった"んだよ」
デュノアからの合いの手で状況を話し終えた一夏は、最後にクソデカため息をついた。
「はずだった、ということは、何か問題がありましたの?」
「問題というか……」
「というか?」
「日本政府と倉持技研にゴネられた」
「「「「「「「あっ(察し)」」」」」」」
ものの見事にハモった。
「それで、おりむーは日本人のままなんだ~?」
「IS管理局の次長だか言ってたオッサンも酷かったけど、倉持から来た……うっ!」
えっ、ちょっ、一夏のやつ頭抱えだしたんだが!?
「嫁よ、大丈夫か!?」
「なんだよあれなんだよあれなんだよあれ……!」
「お、おい、一夏……?」
ガクガク震え始めた一夏を篠ノ之が揺するが、本人はそれに一切反応せず
「突然肩を掴んできたと思ったら、『お前は私のものだぁ!』とか、『我々の固有財産を、他国に持ち出すなど許されるわけがなぁぁぁぁぁい!』とか、四方八方に唾をまき散らしながら怒鳴り散らして……」
「おいおい、まさか倉持から来たやつって……」
「レイモンド=澤和?」
「ひぃぃっ!?」
簪があの特急呪物の名前を口にした瞬間、一夏から怯えきった悲鳴が。どんだけ酷いトラウマ植え付けられてんだよ……っていうか内容がやべぇ……(戦慄
「最後は千冬姉が右フックで黙らせて事なきを得たんだが……」
「あ、そこは何とかなったんだ」
「さすが教官」
凰もボーデヴィッヒも、そこは感心するところか?
「一緒にいたイタリアの役人が怯え切っちまって……今月のキャノンボール・ファストが終わるまで国籍移動を保留するって、言質を取られちまったんだよ……」
「「う~わ~……」」
簪とのほほんの口からはモロに、俺含むほかの面子も絶句の表情。
「んで、しばらく一夏は日本人のままなのね」
「んぐっ、んぐっ……ふぅ、そうなる」
水を一気飲みして少し落ち着いたのか、凰に頷きつつ昼飯を再開した。
さすがの日本政府と倉持も、最後の男性操縦者、しかも
「ん?」
「陸、どうかしたの?」
「なぁ一夏」
「ん?」
「お前、今月のキャノンボール・ファストに出るんだよな?」
「当たり前だろ。陸だって……」
「あっ」
「シャル?」
思わず声を上げたデュノアに、一夏と篠ノ之だけが首を傾げる。他の面々は……ああ、気付いたか。というか、この2人は玄関前の張り紙を見てなかったな?
「宮下さんと更識さんがシャルロットさんと同じフランス国籍で参加不可になるなら、一夏さんと箒さんも同じ日本国籍ですから」
「その流れで行けば、本来はどちらかは参加出来ないはずだが……」
「うん、あの張り紙には名前、無かったね……」
「はぁ……さすが日本政府、というより倉持技研ね……」
オルコット以下、4人から同情の視線を向けられた。解せる。解せるんだが……悲しい。簪も、どんな顔したらいいか分からんって感じだ。
「笑えばいいと思うよ~」
「……(無言でのほほんの頬を引っ張る)」
「いひゃいいひゃい~!」
「? 張り紙ってなんだ?」
微妙な空気の中、一夏と篠ノ之だけが相変わらず首を傾げていた。お前ら、期末テストの範囲変更とか貼り出されたら、絶対見逃して赤点取るタイプだろ。
ーーーーーーーーー
「というわけで、俺と簪はキャノンボール・ファストに出られなくなりました」
「ほんと、どこまでも祟る連中ね……#」
「お姉ちゃん、ステイステイ」
放課後の整備室。宮下君と更識さん、そして楯無さんの3人の姿がそこにあった。
「あのぉ……」
「ん? どうしたデュノア?」
「どうして僕、ここに連れてこられたのかなぁ……?」
帰りのHRが終わったと思ったら更識さんが1組にやってきて、かと思ったらお米様抱っこでここまで連行されてきたんだよね。うぅ……僕、なんか悪いことした?
「分からんか?」
「分からんよ! 僕はエスパーとかじゃないから!」
って、どうして宮下君はそこで『解せぬ』って顔するかなぁ!? むしろ僕の方が解せないよ!
「分かった、もう一度言うぞ」
「どうして『仕方ないなぁ』って顔するのさ……」
「俺と簪はキャノンボール・ファストに出られなくなった」
僕の抗議は100%スルーされた。しかもそれ、さっき聞いたし。
「つまり、そういうことだ」
「だからどういうことさ!?」
「デュノアさん……」
「シャルロットちゃん……」
「更識さんは『どうして理解出来ないんだろう』って顔しないで! 傷付くから! そして会長の扇子に書かれてる『ゴメンね♪』ってなんですか!」
ゼーゼー息を切らし始めた僕に、やっと宮下君もちゃんとした説明を
「デュノアにはフランスを代表して、専用機の部で圧勝してもらう」
「ああ、そういうことか」
やっと理解できたよ。……あれ?
「えっと、つまり……」
「これより第1回、リィン・カーネイション改造大会を始めまーす!」
「やっぱりぃぃぃぃ!」
周りなんか気にする余裕もなく、僕は絶叫した。
いや、普通は喜ぶべきことなんだよ? あの如月重工のメインエンジニアである宮下君の手を借りられるなんて。けど……
(なんでだろう、すごく悪寒か……!)
「ち、ちなみに、どんな改造をするのかな?」
「それはもちろん」
「「最高のスピードと、最強の火力をお届け」」
「どっちかでいいよ!?」
ちょっとぉ! 宮下君だけじゃなくて、更識さんも目が怖いんだけど!
「元々参加不可になると思ってた私の手に、追加で空いた陸の手、それをそっくり乗せてもう一改造……! 倍プッシュだ……!」
「うぇぇぇぇぇぇ!?」
何かヤバいよ! 笑顔の宮下君も怖いけど、どっちかっていうと更識さんのニッコリした顔の方が何倍も! そして会長は苦笑いしてないで何とかしてぇ!
「というわけで、のほほん!」
「ほいさっさ~」
「うわっ! のほほんさんどこから出てきたの!?」
「準備は?」
「かんぺき~」
ってうわ! 気付けば各種工具が周囲に用意されてる!? ホントに怖いよ如月重工!
「よっし、それじゃあ改造を始めていくぞぉ」
「あのぉ……ちなみに、拒否権とかは……」
「「ない
「ですよねぇ!」
膝から崩れ落ちた僕に、会長が近寄ってくる。
「会長ぉ……」
「シャルロットちゃん」
「改造には私も加わる予定なの。ごめんね?」
「畜生めぇ!」
ブルータスお前もか! それならいっそ謝らないで下さいよぉ!
本日の不憫枠:
・一夏(日本残留、なおレイモンドの唾を顔面に食らった模様)
・シャルロット(世に平穏のあらんことを)